チョコレートカップ・パーティ



<オープニング>


 酒場の片隅。
 なにやら青い硝子瓶を抱えて、一人の少女がうろうろしている。
「どうかしたか?」
 声をかけた金木鼠の陽だまり霊査士・フェイバー(a90229)に、プーカの牙狩人・リシュティナ(a90382)は、持っていた硝子瓶を差し出した。
 瓶の中に詰まっているのは、ふかふかした白いもの。
「……マシュマロ?」
「うい。ココアに入れるです。でも割れたのです」
「ん?」
 いまいち話が繋がっていない気がして、フェイバーは首を傾げる。
 当の本人は別段気にせず、じっと瓶の中のマシュマロを見つめている。
「何が割れたんだ?」
 問われてリシュティナが指したのは、近くのテーブルに置かれているティーカップ。
 たぶん、普段、自分の使っていたカップが割れた、と言いたいんだろう。
「代わりのカップはないのか?」
「うさぎさんの絵がいいのですー……」
 とりあえず探してはみたけれど、気に入るものが見つからなかったらしい。
「んー……そういえばチョコレートカップ・パーティをやるって知らせが来てたな」
「うゆ?」
 首を傾げるリシュティナ。
「昔の知り合いにチョコレート菓子の職人が居てな。喫茶店を一つ借り切って、ホット・チョコレートを飲む、お茶会みたいなのをやるそうだ。いろんなデザインの陶磁器のカップが用意してあって、気に入ったものがあれば、持ち帰ってもいいらしい」
「うさぎさんあるですか?」
「きっとあるんじゃないか?」
「うい」
 こくりと頷くリシュティナ。行く気になったらしい。
 その後ろに数人の冒険者が寄って来ていたのに気付いて、フェイバーはそっちにも声をかける。
「お前さん達も一緒に行くか? 揚げ菓子とかも用意してあるそうだから」
 寒い日に甘くて温かいものを味わうのも、悪くはなさそうだった。

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参加者
NPC:月穹風花・リシュティナ(a90382)



<リプレイ>

●お気に入りを探して
 甘い香りに誘われるように喫茶店の中へ入ったルルナ(a51112)は、入り口に近い窓際でのんびりしているフェイバーを見つけて小さく挨拶。ついついリス尻尾にもふっと触れてしまうのはご愛嬌。
 次いで静かにドアが開き、一つ息を吐くのはチキチキータ(a64276)。そう待たせることなく合流できたルルナと共に、様々な陶磁器のカップが置かれているテーブルのほうへ移動した。
 タケル(a06416)も短く挨拶を交わし、誕生日を迎えた少女には祝いの言葉を贈る。
「おじさんは甘い物大好きなのですけど、リシュティナ殿は、お好きなのはどんなお味のものでしょうかね」
「リシュも甘いものは好きですよ」
「これなんか、あまり甘くないホット・チョコと一緒にいただくと美味しかったりしますよ」
 言って、タケルが差し出したのは乾燥イチゴ。
「うい。あとで食べてみるのですー」
 こくりと肯き、まずは目的のカップを探しに向かうリシュティナ。と、そこへ、すでに自分の好みのカップを見つけたらしいルルナとチキチキータの二人も寄って来る。
「うさぎさんのカップ、探すの手伝うにゃね」
「きっと一人でより、早く見つかりますよ」
「うゆ。ありがとうです」
 そうしてカップの絵柄を一つずつ確認しながら歩いていくリシュティナ達の後ろを、少し距離を開けて、真っ黒なローブにフード姿の人物が、そーっとついて行く。
(「予想通りなのです。このまま漁夫の利を狙うのです!」)
 実際のところ、彼――クーカ(a42976)が探しているのは桃色のノソリンが描かれているカップなのだけれど、さらに淑女の好みそうなデザインをリサーチするべく、アドバイスを受けているらしいリシュティナを尾行しているのだった。
 と、不意にその彼女が振り返った。そのまま、後ろをついて来ていた怪しげな姿に首を傾げる。
「僕の完璧な尾行を見破ったと申すか!?」
 短く動揺しつつ、思わず誤魔化してみるクーカ。どう見ても目立ちすぎているのだが、それを突っ込む前に彼はテーブルの反対側へと隠れてしまった。

「お誘いどもなのです。チョコだいすき♪」
 とても嬉しそうな笑顔を見せるクララ(a34109)に、喜んでもらえたようでなによりだとキョウカ(a42913)も笑みを返した。うさうさのカップで飲みたいのです! とクララが手に取ったのは、可愛らしいピンク色のうさぎが描かれたカップ。さらにもう片方で、その近くにあった同じ絵柄の色違いも手に取ると、クララはキョウカにそれを勧めた。
「うん、可愛いうさぎさん、だね?」
 普段の自分では選ばないだろう絵柄だけれど、選んでもらえたことが嬉しくて、キョウカは微笑んでそれを受け取った。仲良く、二人でお揃いのカップだ。
「リシュティナさんもお揃いとかいかがですかー?」
 うさうさ好きなとこがお揃いなのです、とクララがカップとにらめっこ中のリシュティナに声をかけてくる。
「うゆ。白いうさぎさんあるですか?」
「あるですよー!」
 そうして並べてみた三つのカップには、白とピンクと茶色のうさぎ。
 近くで猫柄のものを探していたタケルも持ち手が猫の尻尾になっているカップを見つけて、良いですなぁ、と顔を綻ばせていた。
「いやぁ、良いのが見つかってよかったですよねぇ」
「うい。よかったのですー」
 一緒に探してくれたルルナ達にもお礼を言って、リシュティナは満足そうに手元のカップを見つめる。

(「どうやって話しかけよう……」)
 トミィ(a64965)は店の隅で、じっと周りの様子を眺めていた。仲良くなりたい気持ちはあっても、きっかけをつかむことは諦めてしまった。せめて誰かが誘ってくれないかと待ってみても、時間が過ぎていくばかり。せめて訪れた場所に合った行動をしようとすれば、そこで話しかけてもらうことは出来たかもしれない。考えていたことも、たとえばこれが野原でのお茶会だったら、きっと喜んでもらえただろう。
 そうして小さく一つ息を吐いたトミィは、結局、お土産のカップだけを選んで喫茶店を後にした。

●ゆるやかにあたたかな時間を
 フェイバーへ軽く挨拶してから、アソート(a45042)はリシュティナに先日出かけた際の礼を告げ、ミズ(a34606)と二人で誕生日を祝う言葉も贈る。そのまま二人で移動すると、用意されているカップの中から、お揃いになっている色違いの猫柄のカップを手に取った。アソートは青い猫、そしてミズは赤紫色の猫。互いの指にはめている、シルバーリングに飾られた石と同じ色。
「……温かいな」
 アソートは少しだけ苦めのホット・チョコレートを入れたカップをやんわりと両手で包み、微笑する。ミズのほうは少し甘めにしたものをカップへ注ぐ。テーブルに置いたクッキーをそれぞれにつまみながら、のんびりと……しばらく、言葉もなく。
 やがて、ミズはアソートへの感謝を口にした。自分は、彼の力になれているのか、彼は今、幸せなのか――自分が今、幸せをあげることが出来ているのかと、ゆっくり、想いを確かめながら。
「……アス……大好きですよ……♪」
 そっと、ミズが微笑みかける。かつてのアソートは、テントで泥と雨に塗れるか、あるいは岩と砂ばかりか、ひたすらにどこも血だらけで――こんなにも穏やかに過ごす時間は、まるで夢のようだとぼんやり思った。

 キョウカがカップに注ぐホット・チョコレートはビター。持って来たマシュマロにもはしゃぐクララのカップに、一つ、二つと入れていく。
「ほんのり溶けかけがうまうまなのですよ!」
 それはよかった、と手元の揚げ菓子も勧めてみれば、クララは喜んでそれにもぱくつく。
 幸せいっぱい、笑顔も全開。
(「……可愛いな」)
 キョウカは、そんな楽しげにはしゃぐクララの様子を微笑ましげに見守っていた。
 濃い目のホット・チョコレートを入れてもらったレイア(a64047)が選んだカップには、雪うさぎが描かれている。地は白から薄墨色へと変わる、綺麗なグラデーション。そんなモノクロームの中で、雪うさぎの眼と、添えて描かれている小さな木の実だけが鮮やかに赤い。
 迷いながらも結局ルルナが手に取ったのは、やっぱり猫の絵柄のカップだった。チキチキータは、青いイルカの絵柄のカップ。それぞれに温かなチョコレートを注いで、胃に優しいようにミルクを足したり、そっとマシュマロを溶かしてみたり。
 それから、大事なことを言い忘れていたと、リシュティナに声をかけて誕生日を祝う言葉を贈った。大切な人生の節目、しっかりお祝いさせてもらうにゃね、とチキチキータが笑顔を見せて。
「リシュのここまでの歩みと、これからに……乾杯っ!」
 かちん、とカップの端を合わせる。カップの中には、溶けてふわふわになったマシュマロとホット・チョコレート。ルルナは、甘くて幸せです、と笑った。
 続けて、レイアもリシュティナの誕生日を祝って穏やかに微笑む。
「この先の一年、幸多からん日々でありますように……」
 生まれた日への感謝と、そして、この先の未来への祝福を祈った。

 ニューラ(a00126)の選んだカップは、左右の高い位置に持ち手の付いたアンティーク物。こってり気味のホット・チョコレートにミルクのジャムを添えて、零さないようにそっと口元へ運ぶ。さらに胡桃のリキュールも垂らしてみながら、さくさくのクッキーやマカロンにも手を伸ばした。
 もう一つ、テーブルの上に置いた小さなハート型のギモーヴはリシュティナへ勧める。
「カップに浮かべて、とろかしながらいただくのもまた格別ですよね」
 ギモーヴは普通のマシュマロよりも、さらにふわふわだ。惹かれた様子で寄って来た彼女に、ニューラは小さな鈴の付いたスプーンも差し出した。誕生日プレゼントのそれは、カップの中をかき混ぜるたびにチリチリと音がする。
「うゆ。可愛いのですー」
 気に入ったらしく、リシュティナは何度もスプーンの鈴を小さく鳴らしていた。
 せっかくだからと、コトリ(a70928)も初めましてと誕生日おめでとうの言葉を口にしてから、プレゼントの包みを手渡した。解いた包みの中には、狩猟に使うための小刀が一つ。
「私の村ではお守りとしても扱われてたんだ。きっとリシュティナちゃんのことも守ってくれるよ」
「うい、大切にするです」
 にこりと笑ったコトリに肯いて、リシュティナは丁寧にそれを包み直した。
「寒い日にホット・チョコレート……至福の一時だね〜♪」
 真っ赤なカップの中身は、少し濃い目の甘いホット・チョコレート。コトリはそれにちぎったパンを浸すと、口へ運んだ。こうするのが自分の定番の味わい方。知ったのはこちらの大陸へ来てからだけれど、寒い日にはこれが最高なのだ。
「最近、無駄に寒いからのぅ……」
 カップに注がれていた分を飲み干し、おかわりを頼むプラチナ(a41265)。手にしている白地に金刺繍を思わせる模様の入ったカップは、華やかすぎることもなく、シックにまとまっている。これならば、同じデザインのものを贈り物用に持ち帰るのも良さそうだ。
 と、すでに何杯も飲んでいる彼女を興味深そうに見ているリシュティナに気付いて、プラチナは自分の持って来た七種類のチョコレートをお裾分けにと差し出した。この辺りのチョコがちょうど程好く甘い、と説明し終わるより先に、口に入れてしまったリシュティナが思い切り眉根を寄せた。
「……そちらのはちと苦味が強い故、気をつけての?」
「……うい……」
 肯き、今度こそ甘いほうのチョコレートをつまんで、むぐむぐと口を直す。
「良ければ、こちらもどうだろうか?」
 ジャムとハチミツをたっぷりと載せた手作りのスコーンを見せたのはアウグスト(a69088)。もう片方の手には、用意されていた中で一番大きなカップが握られている。おいしそうですー、とリシュティナは受け取ったスコーンにかじりついた。
(「寒い日にはやはりこれに限るな……うむ、奇異な目で見られても気にならん。気にならんぞ」)
 なんとなく自分に言い聞かせつつ、スコーンと、数滴のラム酒を垂らしたホット・チョコレートとを味わう傍ら、アウグストは祝いの言葉を添えた。歳はとらねど、誕生日は生まれてきたことに感謝する日なのだそうだ、と続ければ、ありがとうございますです、とお辞儀が返る。こんなに祝ってくれる人がいてびっくりしたのだと、リシュティナは少しだけ落ち着かない様子で呟いた。
 そうして最後に、とても嬉しいのです、と少しだけ笑ったのだった。


マスター:長維梛 紹介ページ
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作成日:2008/02/19
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