【キーゼルの誕生日】雪の降る湖畔で



<オープニング>


 ドアを開けた瞬間、ストライダーの霊査士・キーゼル(a90046)は、盛大な紙吹雪で出迎えられた。
「……何、これ?」
「何? って」
「お誕生日のお祝いなのです〜♪」
 わっしゃわっしゃ紙吹雪に埋もれながらのキーゼルの言葉に、大きなカゴを抱えたリボンの紋章術士・エルル(a90019)とエルフの重騎士・ノエル(a90260)は、顔を見合わせながらそう言った。

 ああ、そういえば。
 今日は2月9日。
 キーゼルの32回目の誕生日である。

「……ああ、そうだっけ」
 頭の上にできた紙吹雪の山を払いながら、キーゼルは呟いた。
 もう今更わざわざ祝うような年じゃないとか、そう思わないでも無かったが、今のこの状況に、それをわざわざ言うような気は失せたらしい。
 そんなキーゼルを余所に、仲良く並んでお祝いの拍手を盛大に贈る2人。その様子に、キーゼルはやれやれと苦笑しながら、紙吹雪の山の中を出る。
「誕生日、ねぇ……」
「キーゼルさん、今年の誕生日はどうするの?」
 頭をかくキーゼルに、そう問いかけるエルル。
 誕生日だなんて、すっかり忘れていたから、何も考えていなかったけれど……なら、久々にどこか出かけてみようかな、と呟く。
「行きたい場所があるのですか?」
「これ、ってある訳じゃないけどね。たまには、冬らしい場所に出かけてみるのも、悪くないと思ってさ」
 そんなキーゼルが挙げたのは、山奥の湖畔にある小屋だった。
 冬になれば雪が降り積もり、湖面は氷に覆われる。そんな木々に囲まれた山奥の湖畔に、小さな小屋があるのだという。
「知り合いが昔使ってた所なんだけど、今でもまだ暖炉くらい使えるはずだよ。静かだし、動物も多いから、結構楽しめるところでね」
 湖でスケートや釣りをしてもいいし、雪で遊んでもいい。寒くなったら小屋の暖炉で、あるいは表で火を焚いて暖まればいい。
「そうなんだ……なんだか、楽しそうね。かまくらとか、作れるかしら?」
「根性があれば、出来ると思うよ」
「すごいのです〜。楽しそうなのですよ〜♪」
 寒そうだけど、でもそれ以上に魅力的な話だと、エルルとノエルは早速盛り上がっている。そんな2人を見ながら「やれやれ」と苦笑すると、キーゼルは防寒具とスケート靴を取りに向かう。
「あ! きっと、みんなも誘うと、もっと楽しいのですよ〜♪」
「そうね。大勢の方が賑やかだし……ちょっと行って来ましょうか」
 一方、ノエルとエルルは頷き合うと、準備を整えつつ、他の冒険者達に声をかけて回るのだった。


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参加者
NPC:ストライダーの霊査士・キーゼル(a90046)



<リプレイ>

●真冬の湖畔にて
 辿り着いた湖畔は晴天に恵まれていた。皆とりあえず適当な場所に荷物を置くと、早速この場所での時間を満喫しようとする。
「さて、と」
 キーゼルも荷物からスケート靴を取り出す。そんな彼に、誕生日のお祝いを告げたのは紅い魔女・ババロア(a09938)だった。
「そういえば、去年の肩たたき券は使う機会がなかったかな? 今でもOKですけど」
 おめでとうの言葉の後に、「霊視の腕輪は胸の大きな女の子みたいに、肩こりの原因になりそうですね」となむなむ合掌するババロア。そんな彼女に「じゃあスケートの後にでも頼んでみようかな」とキーゼルは苦笑する。
「そういえば、スケート靴って……」
「ああ、適当に作ればいいよ」
 借りようと考えていた風切羽・シリル(a06463)の言葉に、キーゼルは布袋の口を開けた。なんだか刃っぽい物とかが入っている。曰く、適当な木やこういった道具で、スケート靴は工作できるらしい。
「僕のもそうだけど、案外丈夫だから」
 靴を貸してくれればやるよ、というキーゼルに任せたり、あるいは自分で取り付けたり。スケート組はそれぞれ準備を整えると、準備運動の後で湖上へ繰り出す。
「それっ♪」
 真っ先に滑り出したのは、幸せを求めし白き鷹使い・シャンナ(a00062)。幼い頃から滑り慣れているという彼女の動きは、確かに手馴れたもの。体を慣らすように大きな円を描いて1周すると、滑り出したキーゼルの方へ近付いて。
「リベルダさん達とも次の機会には一緒に遊びたいですね」
「そうだね。あの子達も、きっと喜ぶよ」
 少しだけ寂しそうに笑うシャンナ。本当は、顔見知りの子供達も一緒に連れて来たかったのだけれど、真冬の山奥まで住んでいる町から何日も旅をさせるのは、ちょっと難しかったのだ。
 でも、またいつか。そうシャンナは頷いて、他の面々を振り返る。
「あの、こんな感じでしょうか?」
「そうそう♪」
 シリルは初めてながらも、翔剣士としての持ち前の器用さを生かし、ゆっくりと氷上を歩く。あっ、と氷の上を滑ってしまっても、何とかバランスを取って。危ない場面ではシャンナの手を借りて、氷上を移動する。 
「傍に人がいれば、そうそう派手に転ぶことは無いから、あんまり緊張しなくても大丈夫だよ」
 なんてキーゼルの言葉に頷いて、徐々にぎこちなさも抜けていく。
「わ、わわ……!」
 一方ふらふらしてしまうのは、烏天魂・ストラディ(a16968)。彼もまた初めてのスケートだが、バランスを崩した理由は、シリルとはちょっと違っていた。
(「な、なんだか、まぶしくて……」)
 スケートを教わろうとシャンナ達の方へ行こうとしたものの、何だか彼女達を眩しく感じてしまって。
 更に、まるで寝込んだ時みたいに顔が熱くなって、くらくらして……。
「あっ……!」
 キーゼルの手助けを借りるにも少し遠く、ストラディは咄嗟に湖のほとりへ逆戻り。そのまま、新雪にぼふっと飛び込む。
「大丈夫かい? 怪我は?」
「は、はい……平気、です」
「ストラディ、ほら」
 キーゼルの声に頷いたストラディに、月下の雫・グリュエル(a63551)が手を差し伸べる。雪を落としつつ立ち上がった彼に、グリュエルは誘いかけた。
「良かったら一緒に滑らないか? これでも、結構上手いぞ?」
 友人と一緒に練習するのも楽しそうだし、と本当に楽しげな様子で笑うグリュエルに、ストラディは少し迷いつつも、なら……と頷き返す。
「スピンやジャンプは私にだって出来ないが、ただ滑る位なら、少し練習すればすぐできるようになる」
 そんなグリュエルと並んで、ストラディはまた湖上を歩き始めた。

●穏やかな雪景色に囲まれて
「マルガレッテ様、お手をどうぞ」
「ありがとう、お兄ちゃん♪」
 その頃、少し遅れて到着した一団がいた。中央にいるのは、青き雷鷹・ヴェック(a19321)の手を借りながら、グランスティードから降りるセイレーンの第一王女・マルガレッテ(a90358)。
(「マルガレッテ様が楽しんで下さればいいんですけど……」)
 王女を誘おうと提案したのは、八尺瓊の武士・ハヤタケ(a14378)だ。誕生祝いの事を知らないままでは、彼女が後で悲しむかもしれないし、あまり冬の娯楽と縁が無さそうだから、少しでも楽しんで貰えたらと、旅団の仲間達と彼女を誘いに行ったのだ。
 皆から代わる代わる誘われたマルガレッテは、「なら、一緒に行ってみようかなぁ」と頷き、こうして湖畔までやって来たのだった。
「(大成功にゃ〜)」
 ひっそり喜び合うのは、都牟刈の姫巫女・ティルミー(a05625)と真経津の姫巫女・トゥシェ(a05627)。そんな姉妹の方へ、ふとマルガレッテは小首を傾げた。
「……ねぇお姉ちゃん。それで、これからは?」
 誕生日のお祝いと聞いていたが、見たところパーティは行われていない。湖畔で遊ぶ皆を見て、どう過ごす予定なのかと訊ねているのだ。
「あ、えっと」
 彼らはハッと顔を見合わせる。そういえば、誘う事だけで頭がいっぱいで、その後の事はすっかり抜け落ちていた気がする。
 慌てて、王女様に何か失礼にならない提案をしなければと、大慌てでアイディアを捻り出そうとした時。
「あーっ、王女様!」
 彼らに気付いて赤光爆砕・ミツハ(a05593)がスケート靴を片手に駆けて来る。もし王女が来るようならご一緒したい! と考えていたミツハは、そう率直に申し出た。
「王女様、一緒にスケートしましょ。……ダメ?」
「スケートって、氷の上をびゅんびゅん走る……?」
 彼女には、スケートはかなり怖い物らしい。何だか顔がちょっと青ざめている。
「……ず、ずっと手を握っててくれる? お姉ちゃん」
「勿論!」
 ミツハが力強く頷くと、マルガレッテは不安そうな顔を少しだけ和らげた。

 彼らが湖上に向かう一方、湖のほとりでは、ババロアとノエルが一緒に雪道を歩いていた。
 雪の中で頑張っている植物を見てみようと散策を始めた二人は、意外にも多くの植物を見かけていた。
 ふと、ババロアは一面の雪景色のせいなのか、ちょっぴりセンチメンタルになるけれど、ノエルに「大丈夫ですか?」と心配げに覗き込まれると、すぐ普段の調子を取り戻す。
「こんな風に転がすのですわね?」
「うん、そうそう。あとは綺麗な丸い形になるように……」
 小屋の近くでは、琥珀色の令嬢・リーザ(a52806)が雪だるま作りに挑戦している。初挑戦だというリーザは、興味を持って加わったエルルと、雪玉を作っていく。
「マルガレッテ様も、いかがですか?」
 釣竿を握るのは楽風の・ニューラ(a00126)。氷に穴を開けて釣り糸を垂らすと、ワカサギが次々と釣れる。
「ありがとう、お姉ちゃん。でも、マルガレッテもうちょっとスケートしてみたいから……後で、また誘ってくれる?」
「ええ、喜んで。ではまた後程」
 少し慣れたのか、スケートが楽しくなったらしい。王女の返事に微笑み返すと、ニューラは再び糸を垂らして……。
「あら?」
 釣れたのは魚ではなかった。誰かが昔投げ捨てた物なのだろう、箱らしき物体が針にかかっていた。それを取り外すと、案外乾かしたらキーゼルが気に入るかもしれないと、ニューラは脇に置いた。

●冷えた体を温めて
「ああ、丁度いい」
 皆がひとしきり遊び終えた頃、緑閃撃崩・クロゥンド(a02542)は旅団の仲間達を手招いた。彼が黙々と作っていた、かまくらが完成したらしい。
「マルガレッテ様、どうぞ」
 雪でおうちができるなんて、かまくらって本当に面白いんだようときょろきょろしながら、マルガレッテは勧められた席に座った。
「あ、雪だるま」
 ストラディと引き上げてきたグリュエルは、そうリーザの方へ近付いた。そろそろ佳境に差し掛かった作業に混ざると、手頃な木の棒に手袋をはめて、腕の代わりに雪だるまの体にさす。
「皆さん、冷えたでしょ?」
 かまくらの方には、白霊烈震・アンナ(a05624)が鍋を抱えて歩いてくる。中身は熱々のシチューだ。彼女がそれを配る一方、碧澪瀑布・オカミ(a05622)は切り分けたパイを渡していく。
 王女様に、ささやかだけれど、おもてなしを。
 そう彼女らは準備に専念していたらしい。
「わぁ……あったかいんだよう……」
 お皿に触れて笑うマルガレッテ。体を温める合間に、ふとオカミが女神フォーナのことは聞いたかと問えば、「神様だなんてびっくりだよう」とマルガレッテは頷く。女神が来た経緯なども、ある程度耳にしているらしい。
「マルガレッテも女神様みたいに、もっとみんなの為に頑張りたいんだけど……」
 そう小さく呟いた王女は、皆が何かを口にする前に「そういえば」と顔を上げ、反対に別の話を切り出した。

「僕らは、あっちで暖炉に当たろうか」
 どう見ても、かまくらに全員入るのは無理だしね、とキーゼルは小屋を指した。シリル達が暖炉に火をつけようと小屋に入れば、ノエルが早速それに当たろうと駆けて行く。雪だるまも無事に完成し、冷えた指先を暖めようと、リーザ達も中に入る。
「……」
 そんな中、微笑みの風を歌う者・メルヴィル(a02418)は少し逡巡した後、雪の中に倒れこんだ。微かに雪の軋む音がして、体が雪の中に沈む。
「あ、えと、その……つい」
 それに気付いて振り返ったキーゼルに、少し恥ずかしそうに笑うメルヴィル。
 彼女の言葉に「確かに、これだけ雪があれば試してみたくなるね」と笑みが返る。おそらくは、いつかキーゼルも実際にやった事があるのだろう。
「……こうすると、雪の白と空の青だけが見えて……」
 仰向きになって倒れれば、視界には周囲の雪と、青い空と、それから。
 そんな世界の真ん中に立つ、キーゼルの姿が、ある。
 ……その景色にそっと微笑んで、立ち上がろうとするメルヴィル。けれど、思っていた以上に雪が深かったのか、思うように立ち上がれない。
「大丈夫かい?」
「あ、はい……」
 様子がおかしいと気付いて、すぐ傍まで寄るキーゼルに、メルヴィルはそっと、指先を伸ばす。
 おずおずと、彼の方へ。
「……やれやれ」
 そう笑いながら、キーゼルは彼女の伸ばした手を取った。

●ささやかな祝いの時を
 小屋の中では、シャンナのスープとババロアのシチューが配られた。パチパチと暖炉で揺れる火と共に、彼らの体を少しずつ温めていく。
「マルガレッテ、暖炉って初めてだよう」
 そのうち、かまくら組も中にやって来る。外に居続けるには流石に寒かったらしい。「お姉ちゃん達が風邪をひいたら大変だよう」というマルガレッテの提案で、みんな小屋に入ると暖炉で体を温める。
 その間に、真ん中にはメルヴィルが用意したケーキが置かれ、彼らはささやかなパーティを始める。
「マルガレッテ様。皆さんも、宜しければ」
 表で、釣ったばかりのワカサギを焼いてきたニューラがそれを皆に振る舞う。使われた塩はユトゥルナ産で、一口噛めば、ほどよい塩味と共にワカサギの味が広がった。
 飲み物は、冒険者が適当に持ち合わせていたお茶と、それから……
「キーゼルさん、一杯いかがですか?」
 シリルが持ち込んだ果実酒だった。一緒に、彼女達が作ってきた桃と苺のケーキも手渡される。
 2種類のケーキを味わいながら、ふとキーゼルが笑みを浮かべたのは、決して彼が甘味好きだからという理由だけでは無いだろう。

 ――誕生日なんて仰々しいものじゃないんだから、これくらいで、ちょうどいい。
 その言葉は、誰かに向けて発せられる事は無く。
 ただ穏やかに、雪の降り積もった湖畔で、時は過ぎ去っていくのだった。


マスター:七海真砂 紹介ページ
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参加者:16人
作成日:2008/02/18
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