【グルメなミュリン☆】『伝説のコーヒー豆』を守れ!



<オープニング>


●琥珀色の時間
 昼下がりの冒険者の酒場。ゆったりと過ぎ行く時間の中で。
「アズヴァルちゃん! おなかすいたー!」
 突然がおー! と叫ぶ金狐の霊査士・ミュリン(a90025)に、苦笑を向ける白銀の霊査士・アズヴァル(a90071)。
「……先程お昼を食べたばかりじゃないですか」
「だってー。食べ盛りなんだもん。まだまだ育つんだもーん!」
 彼の言葉にミュリンがジタバタと暴れて抗議する。
 ミュリンの場合、食べ盛りと言うよりは胃がインフィニティゲートか何処かに繋がってるとか言うことは……。
 その光景を見ながら、そんな事を考えた冒険者達の耳に届く白銀の男の呟き。
「……横に育ちそうですけどね。貴女の場合……」
「んー? なーにー?」
「いえ、別に。……昨日焼いたクッキーでいいですか?」
 やれやれ、と諦めたように溜息をつくアズヴァルとは対照的に、万歳三唱で大喜びのミュリン。
 霊査士アズヴァル。こう見えてもお菓子作りが得意だったりする。
 ミュリンが彼に懐いているのは、その辺の事情があるのかもしれない(え)。
 広げられた袋から出て来る様々なクッキー。
 立ち上る甘い匂いに、居合わせた冒険者達も釣られてやって来る。
 ――酒場内がお茶会になるのには、そう時間がかからなかった。

「うーん。美味いなぁ。このクッキー」
「そうですねぇ。……アズヴァルさん、ミュリンちゃん。コーヒーは如何?」
 冒険者達からコーヒー入りのポットを手渡されて、何故か急にピキッと凍りつく霊査士2人。
 アズヴァルの額には脂汗。ミュリンに至っては。
「コーヒー、いやぁあぁーーーー」
 ……とか明らかな拒絶反応。
「何だ? どうしたんだ?」
「いえ……その。彼女も私もコーヒーはちょっと、苦手なんですよ」
 2人の様子に驚く冒険者達に、笑顔を向けて答えるアズヴァル。
 彼の顔こそ笑っているが、顔面蒼白。ポツポツと浮かび上がる汗。
 ミュリンは今にも泣きそうで。
 ……『ちょっと苦手』どころじゃないだろ。それ。
「……一体何があったんだ?」
「まあ、話せば長いんですが……」
 恐る恐る訊ねる彼等に、アズヴァルが遠い目をする。
 要するに、2人揃ってこの世のものとは思えない程恐ろしく不味いコーヒーを飲んでトラウマになった、と。そう言うことのようだ。
「世の中、不味いコーヒーばかりじゃないのは、分かっているんですけど、ね。……その証拠に……」
 溜息1つ、言葉を切って。アズヴァルは同情の眼差しを向ける冒険者達を見渡しつつ、続けた。
「皆さんは、『伝説のコーヒー豆』と『至福のコーヒーミル』をご存知ですか?」
「なんですの? それは……」
「わたし知ってるー! 『至福のコーヒーミル』で『伝説のコーヒー豆』を挽いて入れたコーヒーは、天国に昇るほど美味しいんだってー」
 一様に首を傾げる冒険者達の中で、1人元気良く挙手するミュリン。
 さすが、食い気に関することは誰にも負けないらしい(え)。
「……待てよ。それを飲んだら、2人のコーヒー嫌いも治ったりしないか?」
 冒険者の言葉に、今度はアズヴァルが首を傾げる。
「さて、どうでしょうね。私も話に聞いただけで実際目にしたことはありませんし。それに……」
「2つとも、困った事件に巻き込まれててね。どちらも手に入らなくなっちゃうかも……」
 彼の言葉を引き継ぐミュリン。霊査士2人、何やら目が泳いでいるのが面白い(え)。
「そうか。それは是非、解決しないとならないよなあ? アズヴァル? ミュリン?」
 にこやかに微笑む冒険者達。
「……そうだよね……」
「……では、改めてお願いします……」
 そう言ったミュリンとアズヴァルは、何だかとても疲れているようだった。

●『伝説のコーヒー豆』を守れ!
「あー……今日の君たちの使命は……」
「……………」
 あからさまに様子のおかしいミュリンに、お互いの顔を見合わせる冒険者達。
「そんなに嫌いか? コーヒー……」
 彼等の問いに、ミュリンは涙目で頷く。
「大丈夫。美味しいコーヒーのお菓子を食べたら、ミュリンちゃんもきっとコーヒーが好きになりますわ」
「……ホント?」
 小首を傾げる彼女に、冒険者達が優しく頷いて。
 信頼する彼等の言葉に、ミュリンは少し微笑んだ。
「うん……。分かった。じゃあ依頼のお話、するね」
 天にも昇る美味しさを持つコーヒーを作り出す2つの材料。そのうちの1つである『伝説のコーヒー豆』と言うコーヒー豆が採れる村がある。
 それが、グドンに狙われているのだと言う。
「『伝説のコーヒー豆』ってのは、文字通り伝説級に美味いコーヒーってことか?」
 冒険者達の問いに、こくりと頷くミュリン。
 例の如く彼女の手に握られているのは『ランドアース大陸東方・食い倒れMAP』だったりする。
 彼女の話によれば、『伝説のコーヒー豆』はその村周辺に自生するコーヒーの木から取れる豆で、その独特の香りや風味が大変良いことから『伝説のコーヒー豆』と呼ばれているらしい。
 また、その村のコーヒー豆の加工技術も素晴らしく、『伝説』と言う名はそこからも来ているのだそうだ。
「でもね、わたし、見えちゃったんだよ!」
 8体のグドンが村を襲い、コーヒー豆を片っ端から持ち去る光景が……。
 グドンが現れるとなっては放っておける事態ではないし、村の名物である『伝説のコーヒー豆』がなくなってしまっては、村の人々はとても困ることだろう。
 しかし……。
「……グドンがコーヒー豆なんて持って行ってどうするんだ?」
 ふと冒険者達の口から出る疑問。
 とてもじゃないが、グドンにコーヒーを飲むなんて言う高尚な趣味があるとは思えない。
 ミュリンもそれに首を傾げて。
「わたしもそれは分からないけど……。でも、グドン達が来るのは間違いないから。だからお願い、みんな。『伝説のコーヒー豆』を守って!」
 そう言う彼女の顔には、美味しいと言われるコーヒーへの期待と、苦手なコーヒーへの不安が入り混じっている。
「大丈夫。お土産、期待して待ってろな」
 そうミュリンを元気付けた冒険者達は、まだ見ぬコーヒー豆へ思いを馳せながら、出立の準備を始めるのだった。

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参加者
金狐の保護者・ナナカ(a00009)
胡桃の森の双子・タクト(a00050)
水月・ルシール(a00620)
東風士・ミカヅキ(a00678)
ミュリンの騎士・アルシェンド(a01411)
鋼鉄の護り手・バルト(a01466)
黒き月の邪竜導士・メルセドア(a02069)
星影・ルシエラ(a03407)


<リプレイ>

●コーヒー豆の村
 その村は暖かいのを通り越して暑く、村を囲むように生えている木々は、艶やかな緑の葉の間に覗く赤い実がとても綺麗で。
 グドン達は目先のもの……樹を先に荒らすだろうと考えて。
 冒険者達は、額に流れる汗を拭いながらコーヒー畑を巡回していた。
「グドン達は南東から来るらしいな」
 畑を見渡して言うミュリンの騎士・アルシェンド(a01411)の言葉に頷く鋼鉄の護り手・バルト(a01466)。
「こぉひぃは赤く熟した実を食べると美味しいそうでございますね」
「……コーヒーの実って食えるのか?」
 耳に届いた東風士・ミカヅキ(a00678)の言葉に、飛びつかんばかりの勢いで。
 そんな彼に、金狐の保護者・ナナカ(a00009)がにっこり微笑んで答える。
「ええ。殆ど種ばかりで果肉はあまりないのですけれど……」
「それにしても……アカトラさん達。なぜコーヒーなんでしょう? 夏に向けて、コーヒーダイエットでしょうか?」
 そう聞いた途端、早速実を口にするバルトの横で、首を傾げる雫菫の結晶・ルシール(a00620)。
「伝説のおいしいコーヒー、ルシエラの喫茶店でみんなと飲むんだもーん。その為にもっ! 頑張るんだよー」
 出発前に、コーヒーをおいしくいれる練習を頑張ってきたらしい星影・ルシエラ(a03407)。
 尻尾パタパタ〜☆ と何だか得意気な彼女がその疑問に答えるはずもなく。
「そうですね、コーヒー……。では、お菓子も必要ですよね? 後は……」
 その横で黒き月の邪竜導士・メルセドア(a02069)は何だか遠い目。来るべきコーヒータイムに間に思いを馳せている最中らしい。
 ちょっと、誰かツッコんで下さいよー。
 ――てん てん てれつくてん。
 ……おーい。もしもしー?
 ――てん てん てれつくてん。
「ルシエラさんのあいこんー」
 ――てん てん てれつくてん。
「ボクもおーぷにんぐにでたーい」
 ――てん てん てれつくてん……。
 胡桃の森の双子・タクト(a00050)と言えば、何やら謎の言葉を呟きながら太鼓を叩いている。
 アカトラ達を誘き出す為にラテン調のリズムを奏でているつもりのようだが……。
 ハー○ルンの笛吹きならぬ、コーヒー畑の太鼓持ち?(あ、よいしょ)
 ――てん てん てれつくてん。
「なぁ、ルー。……ちょっと俺、油断してないか?」
 何だか哀愁を誘う太鼓の響きとほんのり甘いコーヒーの実の組み合わせが不安を呼んだのか、横に居るルシールを確認するように覗き込むバルト。
 彼女はにっこりと微笑んで、バルトの手に握られている破壊兵器……もとい、カガリのコーヒー入りの水筒を見つめた。
「……そう? 大丈夫でしょう」
 ――てん てん てれつくてん。
 タクトの太鼓もそれに同意するように鳴り響いて。
 何がどう大丈夫なのか謎だが、とにかく大丈夫らしい。
 ほら。そんな事言ってる間に猫グドン達が来たようですよ。行ってみましょう!(ぇ)

●猫グドン来襲(7度目)
 ――てん てん てれつくてん。
「……にゃ? 野郎どもー! ヘンな音がするから見にいくにゃー!」
「にゃーー!」
「失礼なー!」
 アカトラの物言いに、思わず吼えるタクト。
「出ましたわね……。物忘れは激しいけど、微妙に憎む事の出来ない猫グドンのレッドタイガー!! ……と言うと、何となく格好良いような感じがするから今の無しですわね……」
 そしていつもの如く騒々しく現れたグドン達に、1人ボケツッコミをした挙句に溜息をつくメルセドア。更にナナカが微笑みかけ……たと思ったら。
「鬼は外ー! 福は砂礫陣ー!!」
 突然グドン達に豆をぶつけたり、近くの地面に砂礫陣をぶつけると言う情け容赦ない先制攻撃をするアルシェンド。
「ふぎゃー! なにする……にゃ?」
 飛んで来た砂が目に入ったか。ゴシゴシしつつ冒険者達に向き直るアカトラ。
 そして彼等ををまじまじと見て……彼は突然叫んだ。
「にゃ! おまえたちは……!」
「……ん? 俺達の事覚えたのか?」
 バルトの呟きに、続けようとした言葉も忘れ驚いた顔をするアルシェンド。
「おまえ、確か……。タ……」
 タクトを指差し、考え込むアカトラ。
 それに心底驚くタクトに、ワクワクするルシエラ。
 喉まで出かかっていると言う様子の彼を、ミカヅキとルシール、そして子分達が応援する。
 ……もしかして、もしかすると奇跡が起きたのか!?
 たっぷり10秒の間を開けて、アカトラはえっへん! と胸を張った。
「……忘れたにゃ!!」
 予想通りの展開に、その場にがっくり膝をつく冒険者達。
 ええ、期待は裏切りません。何てったってあとらんてぃっく低知能なナマモノですから。
「まあ……少しでも覚えていて、偉いですわ」
「ええ、大きな前進ですわね……」
 アカトラの頭をヨシヨシと撫でるメルセドアに、感激あまり溢れた涙をそっと拭うナナカ(ぇ)。
「もうこの際、『タ』でもいいかな……」
 ……とかタクトも言い出してるあたり、感銘の深さを表している(ぇぇ)。
「ですが……それとこぉひぃ豆を奪うのとは話が別にございます」
 そう言い終わらないうちに舞い飛ぶミカヅキのリングスラッシャー。
 それはグドン達の鼻先を掠めて、地面へと突き刺さる。
 恐怖のあまり凍りついた彼等にナナカが優しく微笑みかけ、地面を3回叩く。
 既に条件反射なのか、グドン達はスゴスゴとその場に正座する。
「で? コーヒー豆を持ち帰って、どうなさるおつもりでしたの?」
「ミケコさんと一緒に食べるんだにゃ! だから全部よこすにゃー!」
「独り占めはダメなのよ〜♪」
 グドン達のいつもと変わらない様子に、人差し指を立てて諌めるルシエラ。
 はっきり言って全然恐くない。
「ねえ。ふと気になったんだけど。どうしてアカトラが親分なのさ? 見たところ毛色以外は他の7体と大差ないみたいなんだけど……」
 感動から立ち直ったタクトが口にした問い。
 それに猫グドン達は胸を張って答えた。
「オヤブンはケンカが強いのにゃー! 猫グドンいちなのにゃー!」
 そう聞いて遠い目をするタクト。
 ……コイツが一番ですか。
 そう考えると猫グドンって大した事ないのかも(ぇ)。
「このお豆はそのまま食べても美味しくありませんのよ?」
「きっと口で言っても判りませんわよね……」
 優しく言うナナカに、溜息をついたメルセドアが頷き、煎ったコーヒー豆をグドン達の口に1つづつ入れてゆく。
 それを噛み締めて、苦いにゃー! と悶絶する彼等に動じる事なく、微笑みを向けるルシエラ。
「あのね。伝説のコーヒーってね。本当は鯉なんだよ? 身がとろけるみたいにおいしいっていう。コイがなまってコーヒーになったのー!」
「にゃ!? その鯉はどこにいるにゃ!?」
 そんな彼女の大嘘を信じて、飛び出して行こうとする猫グドン達。
 メルセドアとミカヅキが、その足を引っ掛けて行く手を阻む。
 ……前から思ってましたけど、何気に鬼ですよね。この人達(ぇ)。
「……この豆に更に手を加え粉にしたりして、飲み物やお菓子に利用したりしますのよ。さて、コーヒーとはアカネ科の常緑樹で……」
 あーっと! 今回も始まりました、ナナカ先生の薀蓄!
「……先程は驚きで挫かれたが、今度はそうはいかんぞ。そう、今回の私は今迄とは違う!」
 そして、アルシェンドもそれに加わるのかと思いきや……様子がおかしいですね?
「私とお前達とは、歴然とした差が生じたのだ! それは何か? 教えてやろう」
 そこで言葉を切り、強く手を握り締める。
「愛と言う字は心を受けると書く! 彼女の為、敢えて嫌いな物を持って帰る私と、惚れた相手のご機嫌を伺うだけの貴様らとでは覚悟が違う!!」
 アルシェンド、コーヒー畑の中心で愛を叫ぶ(何)。
「それ、そんなに違わない気がするんだけど……」
「……余分な体脂肪の燃焼を助け、新陳代謝が活発になる成分が含まれ……」
 そんなタクトのツッコミは、ナナカの薀蓄でかき消される。
「ダイエットにはコーヒーの他にヨガも効くそうです。ヨガは足を組んで……」
 その横で、土塊の下僕と言う名のダイエットダンサーズを呼び出し、猫グドン達にダイエット体操の指導を始めるルシール。
 今回はどうやら、ナナカ先生とルシール先生のタッグのようです!(ぇ)
「……老化の原因である活性酸素を抑える働きもあり……」
「はい。体を柔らかく〜。前に倒して〜」
 ナナカの薀蓄が流れる中、ルシールの言葉に素直に従う猫グドン達。
 ルシエラも一緒になってやっているのが何だか微笑ましい。
「おや。あまり身体が前に行っておりませんね」
 ミカヅキの冷静な指摘。ルシールの微笑みを合図に、土塊の下僕達が彼等の背中を押して……。
 ――バキッ。
「……と言う訳で、コーヒーは身体に良いのです。判りましたか?」
「に゛ゃーーーっ!!」
 グドン達から上がった悲鳴を、肯定と受け取って。ナナカが満足そうに頷く。
「何と言うか……俺たちも懲りないよな……」
 その様子を不測の事態に備えながら傍観していたバルトの呟き。
 結局この後、腰のイッてしまった猫グドン達にいつもの如くお土産を渡して開放する事になるのだが……。
 その中に『アレ』……この世のものとは思えない程不味いコーヒー入りの水筒をしっかり入れておいたバルトが、今回一番の鬼であったと言っておこう(ぇ)。

●琥珀色の至福
「コーヒーってなんか『大人の飲み物ー』って感じだよねぇ。ボクは紅茶派なんだけど」
 そんな事を言いつつも、しっかりとテーブルについているタクト。
 コーヒー豆をグドンの手から守ったお礼に、とお土産を戴いて来た冒険者達。
 強張った笑みを浮かべるアズヴァルの手にはコーヒーミル。
 コーヒー豆とミルが揃えばお茶会になるのは自然な流れで。
 そして、ナナカとミカヅキから次々と出されるお菓子。アイスクリーム、ゼリー、サブレ、クッキー……。
 村人に教えて貰ったレシピを元に2人が再現した物だが、コーヒー入りである事は秘密にしてある。
 いきなり飲むのは抵抗があるだろうし、甘いケーキからなら嫌な思い出も消えやすいのではないかと考えて。
 2人にすっかり餌付けされているミュリンは、何の疑問も持たずに出されたお菓子を口にした。
「うん♪ 美味しいよ!」
「……そのお菓子、全部こぉひぃ入りでございます」
 嬉しそうに微笑むミカヅキの言葉に、がーん! と衝撃を受けるミュリン。
「ええっ!? これ、違うよ! もっと凄い味だったもんっ」
「あらあら。……やはり淹れ方の問題ですかしら」
 首を傾げるナナカに、バルトがさもありなんと頷いて。
「……カガリは間違っても淹れるなよ」
「分かってるー。伝説級の不味いコーヒーが出来たらあかんし……」
 バルトのあまりの物言いに、思わずいじけるカガリ(a01401)だが、ミュリンのコーヒー嫌いを治すまでは倒れる訳にいかない(何)。
 『伝説のコーヒー豆』は、ミルで挽いた時から溜息が出る程香りが高くて。
「おいしくなぁれ〜♪ ルンバ♪ ルンバ♪」
 ナナカが丁寧にコーヒーを淹れる横で、歌って踊るルシエラ。
 何かと思えば、どうやらおいしくなるお呪いらしい。
 その効果があったのか、淹れ終わる頃には良い香りが酒場の外にまで流れて。
「……不味くないって分かっただろう? ほら、飲んでごらん」
 優しく言うアルシェンドを、困り顔で見上げるミュリン。
「いや……これ、ホントに美味いぞ。ミュリン」
「うん。ボク、ちょっとコーヒー見直しちゃったよ」
 安心させようとしているのか、率先してコーヒーを飲んでいるバルトとタクトを見て、自分の手元のコップを見つめる。
「苦そうで怖いですか? そのような時にはですね……ジャーン! 至高の生クリームのコーヒー用! 先ずはこれを使ってはいかが?」
 微笑みと共に必殺アイテムを出して来るメルセドア。どうやら冒険に行く前に準備しておいたらしい。
「ルシエラはねー。アイスコーヒーにバニラアイス、コロンってしたのが好きなんだ。美味しいんだよー」
 無邪気に笑って、コーヒーフロートを差し出すルシエラ。アイスに、チョコでミュリンの顔が描いてある辺り芸が細かい。
「こぉひぃを飲むのは私、初めてでございます。飲み易くするには、同量のミルクとお砂糖を少し入れればいいと伺いました」
「ええ、最初はコーヒーをちょっぴりにしたカフェオレにしてみましょうね」
 包み込むようなミカヅキとナナカの優しい微笑み。それにルシールも頷いて。
「甘いシナモン風味にすれば、飲み易い。私も一緒に飲むから……な」
「世の中美味しいコーヒーぎょーさんやし、大丈夫やよ」
 そして、言い聞かせるようなアルシェンドとカガリの言葉に、ミュリンはもう一度コップに目を落とす。
「ほら、飲めたらご褒美にショートケーキ差し上げますよ」
「ルシエラの焼いたクッキーもあげるーv 耳とがってて、お顔細めなのが狐だよ。丸めのほうが猫ー!」
「ウチが作ったガトーモカもつけるえ!」
 メルセドアとルシエラ、カガリから出されたお菓子にピクリと反応する彼女。
 応援する仲間達に後押しされて、勇気を出してコップに口をつける。
「……あ。美味しい……」
 次の瞬間、幸せそうに微笑んだミュリンに、仲間達は嬉しそうに顔を見合わせた。

「く……美味い。この味は自分の力で出したと思うな。コーヒーとミルの性能だという事を……」
「なあに? バルト」
 バルトの呟きに、濃い目のコーヒーを注ぎ足しながら首を傾げるルシール。
「いや、何でもない。美味いな、このケーキ」
 バルトが口にするのは、彼女が作った生クリームがたっぷり添えられたコーヒー味のシフォンケーキ。
 そこにはコーヒーでバルトの胃が痛くならないように……と言う配慮があったりするが、彼の胃の事はあまり気にしなくていいのかもしれない。
 何しろ相手は食い倒れ番長。胃も丈夫であろうから(ぇ)。
 おかわり、と皿を差し出すバルトは、何だかとても幸せそうで。ルシールも自然と笑みが零れる。
 ……彼にの為に料理をし、美味しいと言って貰えるのが彼女にとっては何よりの幸せで。
 バルトの為に、美味しくできて……と毎回お祈りしながら作っていたりするのだが。
 それを、分かっているのかしら……?
 そんな事を考えつつ、彼を見つめる。するとバルトと目が合って……。
「ん? 何だ? ルーも食うか?」
 ……やっぱり分かってない気がする。
 いつもと変わらない彼に、笑みを向けて。ルシールはまたコーヒーを注ぎ足した……。

 こうして、無事に『伝説のコーヒー豆』は守られ、ミュリンのコーヒー嫌いも改善された。
 ミュリンを安心させる為と甘いコーヒーを飲み続けたアルシェンド。その後胸やけに苦しんだとか。

 タクトのドキドキ次回予告〜♪(何)
 次回は『アカトラ達ともきゅもきゅ・あげいん☆』でお送りします〜! お楽しみに〜☆(ぇ)


マスター:猫又ものと 紹介ページ
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作成日:2004/06/05
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