針槐の下でお菓子を



<オープニング>


●お菓子を作ろう
 冒険者達がそこかしこで依頼の吟味をする冒険者の酒場。酒場の掲示板には伝言を始めとして、時には冒険者への詳細を含めたメモなども張り出される。だが、時折まれに、微妙に依頼とはちょっとズレた物も貼り出される事もある。

『お菓子教室を開催します。お暇な方はどうぞ』

「……なんだこりゃ」
「え、ああ……ご近所の方から作り方を教えてくれ、と言う事になりまして。1人だけに教えるのもなんですし、こういうのは皆さんもお嫌いではないでしょうから」
 そんなズレた物を出したのは白銀の霊査士・アズヴァル(a90071)である。その姿を目に留めた冒険者が尋ねると、彼はにこにこと笑みを浮かべてそう答えた。
 詳しく聞くと、最近街の外れにお菓子の工房が出来たのだと言う。そこを借りてのお菓子教室を開くという事らしい。
「作った後にお茶してもいいのかね。作った後にくつろぐのも悪かないと思うが」
「作るのにかこつけてお茶するのもまあ……かまいませんが。でもお菓子教室ですから、あまり広い場所は……外になってしまいますよ?」
 出来立ての物を食べながら、と言うのも乙な物だと思っての提案だったが、アズヴァルはちょっと困った素振りを見せた。ただ、椅子やテーブルは一応あるらしいので、それ程問題ではないようだ。
「外は針槐が花をつけているので、景観としては悪くないと思いますよ。作ったお菓子はプレゼントの品にするも、お茶請けにするも皆さんの自由にしてください」
 そう告げるとアズヴァルは果実が詰められた篭を持って冒険者の酒場を後にするのだった。

マスター:石動幸 紹介ページ
 こんにちは、石動です。
 お菓子教室、と言う事で今回準備してみました。どんなお菓子を作るかは皆さんにお任せいたします。
 作り方をアズヴァルに習うかどうかはどうぞお好きに。友達と一緒に作りたいとかでも構いませんです。寧ろ、推奨します(苦笑)

 今回、作ったお菓子を持ち帰る事が出来ます。持ち帰りたい方は、プレイングに必ずお書き下さい。でないとお渡し出来ませんのでご注意下さい。
 
 針槐(ハリエンジュ)は一般でニセアカシアと呼ばれています。どんな花かはちょっと調べてみると良いかも知れませんね。

 また、私の処理の問題でリプレイ上でPCさん30名前後が登場する予定です。人数が30名以上の場合は、登場できないPCさんが出るかも知れません。申し訳ありませんが、ご理解いただけたらと思います。
 ……頑張って善処は致します……

 それでは皆様の参加をお待ちしております。

参加者
NPC:白銀の霊査士・アズヴァル(a90071)



<リプレイ>

 針槐の木が立ち並ぶ、新築の菓子工房に集まった冒険者達はどんなお菓子を作るのやら。そしてそのお菓子の一つ一つにどんな役目があるのかは……皆さんの中に、と言う事で。

「こんな感じ、でしょうか」
 むぅ、と目の前の木の実と栗のタルトとにらめっこをするヒヅキ。
「……お礼ですから、頑張りませんと」
 プレゼントをくれたリウルへのお返し。慣れた手つきで中央に渋皮栗、周囲にはアーモンドを乗せて。後は焼き上げて彼女に渡すだけだ。
「頑張ってますのね、ヒヅキ様」
 隣に着いたシファレーンが、柔らかく微笑む。先程からシファが作るのはカップケーキ。その中にはジャムやカスタード、チョコチップなどを取り混ぜた、色々な種類がある。
「ええ、お返しをしたい人が居るんです」
「私も少々心配な方がいらっしゃって。あの方にお届けできると良いのですが」
 柔らかい日の光の中で微笑む2人。日の光と月の光、どちらが彼女達を優しく照らすのだろうか――

「ねぇねぇ、袋運んできたけど、何処に置いたら良いかなあ?」
 カラベルクはのんびりとした口調で手に抱えた袋をどすんと調理台の上に置くと、アズヴァルの指示を仰ぐ。だが、アズヴァルはお菓子の作り方に関する質問攻めにあっており、すぐにこちらには対応出来ないようだ。
「……まぁいっか。一応、後で味見してくれるって言ってたしな」
 袋を運ぶ前に教えられたパウンドケーキのレシピを広げる。それ程難しくないか、とカラベルクは小麦粉を篩いにかけ始めた。
「捏ねるんじゃなくて、切る様にして混ぜる、と……」
 狐の尻尾をゆらゆら揺らしながら、クリスはアズヴァルが教えた点を真面目にメモに取る。その隣では同じくキョウマとマリアも予め渡されたレシピに目を通しつつ、要点を抑えていく。小さな勉強会の様子にも見えなくも無い。
「団子や饅頭とはまた違うのですね……手法の違いがお菓子の個性に繋がる、と」
 そう言いつつ、スフレチーズケーキに必要な材料を調理台の上に並べてチェックする。後はレシピに書かれた通りに進めれば問題は無い、筈だ。
「さて、美味く焼きあがると良いのですが……」
 覚悟を決め、初めてのケーキ作りに挑戦するキョウマだった。

「……と言う訳なんです」
 と、今までアズヴァルに質問攻めをしていたステラがようやく言葉を締めくくる。
 要約するとキシュディムでスフレを名産品にする為、糸口を得るべくやってきたとの事だった。
「飽きない様にするなら、卵白だけにするのも良いかも知れません。バターの風味を卵黄が邪魔しませんし」
 張り切っている彼女に、幾つかの具体案を出すアズヴァル。硬さも程よい感じになるとの事なので、一応試してみる価値はあるだろう。
「そうですね、やってみます!」
 腕まくりをして、卵白を泡立て始めるステラ。この試行錯誤が実るかどうかはまたそれは別のお話。

「プレゼントにしたいんですけど……何か良いものってありますか?」
 ボールを胸の前で抱えたマリアがようやっと解放されたアズヴァルに声をかける。とある気になる人にあげたいと思っているのだが、具体的にどうすれば伝わるか。色々と問題点は多い。
「じゃ、これなんてどうでしょうか。可愛らしいですよ」
「え……」
 そっと調理台の引き出しから取り出したのは、ハート型の抜き型。しかも結構大きい。それを見たマリアは大きなリボンを揺らして、ちょっと頬を赤らめた。

「この辺でよろしいですか。クリスさん」
 熱心にメモを取っていたクリスに、アズヴァルが声をかける。クリスは今までずっと、アズヴァルが説明して周ってる所についていき、様々なポイントや注意点をメモしつづけていたのである。
「充分だったぜ。これで分からなくて心配になる事はかなり減りそうだ!」
 びっと親指を立てて、満足気な顔をするクリス。後は選んだケーキを作るだけなのだが……アズヴァルは少し困った顔をして、
「ところで、何のお菓子を作るんです?」
「……あ」

 一方こちらでは男性2人が丁寧な手つきでケーキを作っていた。愛用のサラダボールを使っているアズフェルと、彼を手伝うセイガだ。
「あ、アズ、あそこで作ってるのすごくないか?」
「……どれだ?」
 アズフェルがセイガの指差した方向を見た瞬間、素早い手つきでクレーム・ダンジュを一切れ拝借し、口の中へと放り込んだ。
「セイ、食べたろう」
「何の事かな。俺は知らないぜ」
 向き直ったアズフェルがセイガに人差し指を立て、彼の顔を指差した。セイガは明後日の方向に向いて、そんな事言われてもといった風な顔をするが、
「口元に見える生チーズは俺の気のせい、とでも言うのか?」
「いや、センもこれくらい作れたらいいのになって思ったらつい、な」
「これ以上はやめてくれ。皆に持ち帰る分があるんだからな?」
 口元を拭いながらセイガが苦笑いすると、アズフェルはやれやれと溜息をついた。

「搾り出すクッキーなんですって。模様ってこうつけるんですのね……」
 せっかくの教室なので、珍しいお菓子を作りたいと言ったバニラにアズヴァルが手渡したレシピは絞りクッキーだった。
「これなら私たちでも簡単に作れるね!」
 と、ショコラも楽しげにバニラとレシピを確認する。ショコラは料理に心得があるが、バニラは無い。もしかしたらそういった部分をアズヴァルが配慮したのかも知れない。
「生地を作ったら袋にいれてぎゅーって絞れば出来上がり、わたくしにも簡単にできそうですわ」
「それじゃ、色々な形の作ろうよー! わっかのとか、いっぱい」
「8の字とかも作れますから。楽しんで作ってくださいね」
 盛り上がる2人の傍で声をかけるアズヴァル。どうやらあちこち回ってみているらしい。そんな彼にショコラとバニラは元気良く頷くのだった。

「さて、がんばるのですよー!」
 教えられたレシピを見て、手を動かすルゥ。先にシュー生地を作って冷まして置いたので、後は今作っているカスタードクリームを失敗しなければ完成なのだが……
「うう、結構重労働なのですよー……」
 ダマを作らないようにしたり、焦がさないようにしたり、冷やすときにもやっぱり練らずに混ぜる様にしなければならないので、ルゥは気を先程からずっと使いっ放しだ。
 その悪戦苦闘の傍で、リューシャはシフォンケーキを作っていた。
「針槐ってニセアカシアって呼ばれているのですね。ご存知ですか?」
「え、そうなんですか? 偽者みたいでちょっと可哀相です」
 クリームをくるくると混ぜ続けるルゥにリューシャは綺麗なのにね、と苦笑いする。そんな2人の隣ではイングリドが、二度焼きを終えたタルトに一つ一つ丁寧にチェリーを並べている。
「生地、ちょっと心配でしたけどうまくいきましたわね」
 焼き物があまり得意ではない彼女にしては上出来といえる焼き加減で仕上がった。他の者から見れば一部焼きすぎた様な感があるが、それもまた手作りの味の一つと言う事で。
「他にもお菓子、安く都合出来るのかしらね……」
 もしそうなら少しお茶菓子に買ってみようかと思うイングリドであった。

 リューシャの方も色々と注意する事があった。蜂蜜はそのまま使うとケーキが膨らまない為、牛乳に一度溶かして温めなければならないのだ。
「そろそろ溶けたかな……」
 溶けた頃を見計らって、小麦粉を加えて生地を作る。そして予め作っておいたメレンゲを少しずつ生地と一緒にかき混ぜて型へと流し込んだ。
「随分丁寧に作るもんだな。誰かに食わすのかね?」
 リューシャを見て、ティキが問う。彼の手元には型抜きしたクッキーの生地が山ほど積まれている。チョコチップが入っていたり、レーズンが入っていたりと、そこそこの種類が取り揃えられている。
「そういう訳じゃありませんけど……興味のある事って思い入れが違うじゃありませんか」
 リューシャは腕で額の汗を拭いながら返事をする。
「違いないな。かく言う俺もまあ……」
 実はここで作ったもので一食浮かそう等と言う腹積もりのティキだったのだが、流石にこれは言わぬが花かなと思い、
「……後で茶でも用意しとくかね」
 鼻歌を歌いながら、それとなく反らしてみたり。

「ルー、卵はこっちでいいのか」
「それは泡立ててください。終わったら一休みしても大丈夫ですよ」
 ポニーテールにしたルシールがてきぱきと指示を出す。2人でお揃いのエプロンをつけて、バルトには普段よりも彼女が張り切っているように見える。
「そういえば、その……エプロン、似合うな」
 その髪型もと思ったが、言わずに飲み込んでおくバルト。するとルシールは頬を少し赤らめる。
「ありがと、バルト」
「しかし……随分と張り切ってるように見えるんだが」
 先程からの気合の入りようといい、普段余り見られないルシールの姿を見て呟く。
「美味しいお菓子を、一番食べて欲しい人と一緒に作れるんですもの」
 嬉しいじゃないですか、やっぱり。そう答えられたバルトは鼻の頭を掻いて誤魔化すのだった。

「こちらに型がたくさんありますからお願いしますね」
「ああ、どんどん生地を抜いていけばいいんだな?」
 こんこんこん、と小気味良い音を立てながら、ローラが作ったクッキー生地をガイアスが抜いていく。夫婦である2人の呼吸は崩れる事無く、規則正しく音を立てる。
「これくらいでいいわね。竈で焼いてきてくださいな、あなた」
「おうっ、任せとけ。力仕事は俺の役目だからなっ」
 型で抜かれた生地がローラの手で油を薄く塗った鉄板の上に置かれ、ガイアスが竈の中と運び、焼いていく。鼻歌交じりで楽しく、スムーズに、新婚さん達の共同作業は進むのだった。

「ディア、ティラミスってどうやって作るの?」
「あ、ちょっとまってね。下ごしらえしたのを一緒に使いましょう」
 穏やかそうなアクアが、スポンジをシロップに浸していたディアーナに質問すると、彼女は予め余分に作っていた材料をアクアの傍に分けた。
「2つ作るんだけど、ディアはどうするの〜♪」
 アクアは義兄と恋人の顔を思い浮かべながら、分けられた材料を手に取る。
「私は、どうしましょう……」
 別段渡したい相手は居ないし、と思いながら隣を見ると、アクアが思っていたよりも楽しそうにティラミスを作っている。
「……アズヴァルさんに渡してみましょうか」
「あ、それいいかも〜♪ 今日、ディアと一緒に作れて楽しいもんっ」

 今、そのアズヴァルはと言うと。
「珍しいプリンと言うのは無いですか?」
 限りなく酒と最中とプリンが好きだ、と言うヴァリアにそう聞かれて悩んでいた。珍しいかどうかはともかくとして、ぱっと思いついたものを口にしてみる。
「かぼちゃのプリンと言うのはどうでしょう。あれもなかなか味があって美味しいですよ」
「そうだな、裏ごしの手間もあるから、あれはなかなか作る機会が無い……」
 少し考え込んでから、ヴァリアは野菜籠の中からかぼちゃを取り出すのだった。

「料理、少しでもうまくなれるでしょうか……」
 調理台を前にして考え込んでいるのはシェリーチェ。料理下手を克服するためにと参加したは良いのだが、どうにも拭えない不安が、普段のほんわかした彼女に陰を抱かせる。
「大丈夫です、書いてある通りにすれば失敗しませんから」
 シェリーにそう告げてアズヴァルが置いていったバタークッキーのレシピがあるものの、あちこちに引っ張られる彼を捕まえるのには難儀そうだ。
「が、頑張るわ……」
 ふぐ毒並み、そう呼称される彼女の腕前を知らなかったアズヴァルは後で後悔したとかなんだとか。

 アティフもまた悩んでいた。彼女の悩みの原因は、目の前の大きな長方形をしたスポンジだった。それは彼女を幾度と無く悩ませてきたライバルと言っても過言ではないだろう。
「……どうして型崩れしちゃうのかしら」
 少ししょんぼり。先程アズヴァルからかためにホイップしてみてはと告げられた物の、出来るかどうかはやってみないとわからない訳で。そんな時、アズヴァルと一緒にケーキを作っていたシュゼットがアティフに声をかける。
「ねぇ、知ってる? 針槐の花言葉」
「何かしら……」
 不意に聞かれ、ぱっと出てこない。
「精神的な愛っていうんだってさ。ちょっと意味深だよね?」
 まるで悪戯をする少年の様にシュゼットは微笑んだ。そんな彼女達のやりとりには目もくれず、黙々とエイルは一所懸命に手を動かす。
「桃は手早く剥いて使わないと……」
 剥いた桃を綺麗にスライスして、均等にタルトの上に乗せていく。
「後は焼き上げるだけ、ですね……」
 一通り、切りの良い所まで作業を終えられてほぅっと一息つくエイルであった。


「お口に合うかどうか分かりませんけども、どうぞ召し上がれ」
「はい、シュークリームも持ってきましたー♪」
 針槐の木々の下、自分の作っていた半分を皿に載せて、ルゥがテーブルの上に置く。ほんのりと香るバニラの香りが食欲を誘う。また、シファが用意したカップケーキ、クッキーもあり、お茶会としては随分と充実している。
「金木犀の入ったフレーバーだ。これでいいだろ」
 お茶を淹れようとしていたアズフェルにティキがお茶会向けにと用意した茶葉を手渡す。アズフェルは受け取ると包みを開けて、ポットの中に適量を入れて湯を注いだ。

 自前の苺ロールに満足気な顔をするアティフとイングリドの前にそっとカップを置く。
「すみません、いただきますね」
 そっと傍に置かれたカップに丁寧に口をつける女性達。そんな優雅な卓とは裏腹に、バルトとガイアスのかけた卓はお菓子の取り合いをして、それぞれの相方が見守るという、非常に微妙な状況であった。

「ふと思ったんですけど、あの方はこんな場所は苦手なんでしょうね」
 そう言ったヒヅキの脳裏には仏頂面をする黒い重騎士の姿が浮かぶ。
「今はああですが、昔は幾分違かったんですよ。人生色々と言う事で」
 誰の話か理解したアズヴァルは笑いながらヒヅキに答える。
「……いつもその剣を身に付けてらっしゃるんですか?」
「これは……難しいお話ですね」
 針槐をイメージした、茶色のスポンジケーキを口に運びながら会話に加わったファオの問いに少し困った仕草を見せる。ファオとしては興味本位の問いだったのだが、些か意外な反応だった。
「私が武人だった頃、私達が判断を誤り、仲間である、1人の女性を失ったのです」
「では、その方の形見なのですね……」
「いいえ。これは当時、私が帯びていた物です。もはや振るう事は叶いませんが」
 苦笑してアズヴァルは茶を口に運ぶ。そこまで、という意思表示なのだろう。そんな彼の態度から、剣は彼にとって戒めなのかもとファオは感じ取る。
「その後、紆余曲折ありまして。私が霊査士、トール君はそのままと言う訳です」

 空いた彼のカップにアズフェルがまた注ぐ。
 昔の事、今の事。人それぞれに楽しんだ、初夏に近い頃のお話。


マスター:石動幸 紹介ページ
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参加者:28人
作成日:2004/06/05
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