過疎の村



<オープニング>


 窓を通し、フォーナ神殿に外の陽光が射している。
 その光の中、フォーナ女神は憂いに曇るまなざしを、やってきた冒険者へと向けた。
「世にはままならぬことが多いもの……。今日、来て頂いたのも、そんなままならぬ悪循環に陥ってしまった集落の人々の為。どうか、皆さんの力を貸して下さい」
 

「このままではいかんのじゃろうが……」
「どうすればいいんかのう……」
 ため息混じりの会話が何度かわされたことだろう。だけど、その答えがでることはなく。
「また……やるしかないんかのう」
 間違っているのは分かる。事態が良くない方向に回り続けているのも分かる。
 だけど。
 悪循環という輪であっても、それが回っている限りは続けられる。止まってしまえばあるのは死か破滅か。
「……行くか、ばあさんや」
「……なんでこんなことになってしまったんかのぅ……」
 そこから抜け出る方法も分からず、ただただ繰り返す。そして輪は回り続ける。本当の破滅に向かって。

 山間にへばりつくようにしてある小さな集落。
 かつて、どこかの村を逐われてきた人々が作ったとも言われているが、あまりに昔のことなので、詳しいことは伝わっていない。
 石ころだらけの斜面を開墾して細々と畑を作り、必死の作業と少ない収穫が集落の暮らしを支えていた。
 余裕はないけれど、生きてゆくのに必要なぎりぎりは手に入ったし、厳しい生活の中での楽しみもあった。けれど。
 集落の若い者達は、そんな集落で暮らしていくことを良しとはしなかった。若者達は豊かな土地目指してどんどん山を下りていってしまい、そして集落には……先祖伝来の土地を後にできない老人達と、それをどうしても見捨てられなかった、心優しいけれどあまり物を考えるのには向いていない力自慢の青年1人だけが残った。
 青年は集落の皆の為にその有り余る力を使って畑を耕したけれど……老いも若きも揃って耕さなければ暮らしていけない集落の生活は、青年1人の力では支えることは出来なかった。
 そして遂に、生活が立ちゆかなくなった彼らは……山道をゆく行商人に、集落で一泊していきなされと誘い、その荷を奪ってしまったのだった。
 確かに、奪った荷は集落の生活を助けてくれた……が。
「荷はええが、この商人さんはどうすればいいんかのう?」
「逃がしたら、冒険者をつれてわしらを捕まえに来るかもしれん……」
「ひぇぇ、それは困るけぇ」
「けんど、悪いこともしてないのに殺すのは可哀想じゃ」
 集落の老人達は顔をつきあわせて相談し、そして……。商人を納屋に閉じこめておくことにした。
 奪った荷も、いずれは消費される。そうするとまた、老人達は旅人を襲った。狙うのは役に立つ物をたくさん持っていそうな商人だけ。親切そうに集落に誘い、酔い潰して荷を奪い、商人は納屋に閉じこめる。
 そんなことを繰り返すうちに、閉じこめられた商人の数は2桁に達しようかという処まで来てしまった。
 閉じこめている商人の食い扶持も莫迦にならなくなり、それが負担となってますます荷を奪わなくてはやっていけなくなり、という悪循環。閉じこめておく場所にも困り、納屋だけでなく、住んでいる家をも提供しなくてはならない羽目になり。
「……なんでこんなことになってしまったんかのう」
 奪わねばやっていけない。
 だけど、奪うたび苦しくなる。
 どうしたらこの悪循環を止められるか分からないまま、老人達は商人を襲い続ける。いつか最終的な破滅が訪れることを予感しながらも、それを考えないように頭から押しやって。
 

「閉じこめられた商人達も、集落のお年寄り達も、不幸になってゆくばかり。罪には負担がつきもの。とはいえ、このような悪循環は何も生み出しません。この集落のお年寄り達を、もう二度と商人から奪うことのないよう、改心させて欲しいのです」
 フォーナはそう言って、冒険者達に手を差し出した。その上には光でできた手のひらほどの大きさの種が載せられている。
「集落の人々を改心させられたら、一緒にこれを集落の農地に埋めて、大地が再び力を取り戻すように、お祈りをして下さい。そうすればやがて、この集落の畑は豊かな実りをもたらすようになるでしょう」
 もし本当に心を改めていれば、みるみるうちにとはいかないが、数週間もすればその季節に相応しい所まで畑の作物も生長するだろうと、フォーナは説明した。
 女神の光の種などと言っても、老人達には夢物話のようにしか思われないだろうけれど、彼らが真に改心していれば、畑は老人達の手だけでも必要なものを実らせてくれるようになるだろう。
「どうか……彼らを救い、大地を再生させて下さい。よろしくお願いします」
 そう頼むフォーナの手から冒険者の手へと、光の種が渡された。


マスター:香月深里 紹介ページ
 お年寄り達を説得して、このなんだか分からない悪循環から助け出してあげて下さい〜、という依頼です。はたからみたら莫迦莫迦しくても、当事者にとっては切実だったりします。
 お年寄り達は人の話は良く聞かないし、都合が悪くなると耳が遠くなったふりをしたり、頑固だったりもしますけれど……それにもめげずにやってやろうじゃないかっ、という方がいましたら、ぜひぜひなんとかしてあげて下さいませ。
 あ、もちろん、お年寄りは大切に☆ です〜。

参加者
想いの歌い手・ラジスラヴァ(a00451)
温・ファオ(a05259)
青碧の百合姫・ユリカ(a47596)
灰色の守護騎士・ヴィクス(a58552)
樹霊・シフィル(a64372)
希望の腕・サータリア(a65361)
硝子の棘・シャルロ(a69057)
風来の翼・リリア(a72539)


<リプレイ>


 うねうねと続く山道は、凸凹が激しい上に道幅も一定していない。多くの旅人が通っている様子はないけれど、こうして道として残っているのは、それでも利用する人がいるからなのだろう。
 その道を、商人に身をやつした、想いの歌い手・ラジスラヴァ(a00451)、温・ファオ(a05259)、誓いの守護剣士・ヴィクス(a58552)、希望の腕・サータリア(a65361)の4人が歩いていた。背負った荷はいっぱいの商品……と見せかけているが、中には盾等の装備が紛れ込ませてある。
「おんやまぁ、珍しい。旅のお人かえ?」
 ふと、脇道から出て来た老婆が声を挙げた。続いて姿を現した老爺が、人の良さそうな顔でにこにこと近づいてくる。
「これはこれは旅の商人さん方、山を下りるまでにはまだずいぶんある。このままだと山ん中で日が暮れちまうじゃろうて」
「目ぇ覚ましたての動物はたいそう腹をすかせとるでの。山で夜を明かすのはやめといた方がええ」
 自分達の村で夜を過ごすと良いと誘う口調はいかにも親切で。だが、その裏にあるものを知ってしまっているサータリアには、こんなことをさせてしまっているのが自分達冒険者の不徳のようにも感じられ、心が重くなる。
 それでも冒険者は何喰わぬ顔で老夫婦の誘いを受けた。
「ありがとうございます。丁度、長い旅で疲れていましたし、山の中での夜明かしは避けたいところなので助かります」
「いやいや、旅の方が来てくれれば、村のみんなも喜ぶじゃろう。良かったら旅の話でも聞かせておくれ」
 丁寧に頭を下げるヴィクスに、気さくな笑顔を見せ、老夫婦は村への案内に立った。

 汚いとこだけど、と案内された村は、いかにもな寂れっぷりだった。修理も満足に出来ていない屋根が崩れている家や、壊れた所に木の板をおざなりに打ち付けてある小屋……村の維持さえ、住人の手に余ってしまっているのだろう。
 それでも、通された家はまともなもので、老夫婦は冒険者達の旅に汚れた足を洗い、火の近くに座るように勧め、粗末ではあるけれど湯気のあがるごった煮をふるまってくれた。そのうちに他の村人も集まってきて、よく来てくれた、ゆっくりしておゆきと、温かい言葉をかけてくれる。
「こんな素敵な歓待をして頂けて、心身癒される様です。ありがとうございます」
 村で作っているという酒を注がれながら、ファオは礼を述べる。
「何となくここは郷里を思い出します……離れて大分経ちますが、育ててくれた方が元気かなと時々思うんです。少々頑固な方でしたが……戻ったとき、前と変わらず元気で前向きで居て欲しいなと思っています。どんな困難にも屈せず、変わらず……」
 ファオの言葉に、巣立っていった者達の事を思い出したのか、村人達の顔は曇った。
 今は離れていても、そこにずっと変わらずにある事が心の助けになってくれる場所……それが郷里。この村を離れた若者達にとっても、それはきっと同じのはず。村がこんな状態になっていると知ったら悲しむだろう。
「皆さんは村の将来に希望を持てていますか?」
 盗賊行為に走ってしまったのはその所為もあるのではないかと、ラジスラヴァが尋ねてみると、老爺は歯の抜けた口を開けて笑った。
「将来といっても、わしらはもうお迎えを待つだけじゃからのぅ。ただロンの事だけが心配じゃ」
 若者1人残っているだけの村。その将来に明るい予想図は描けない。
「わしらの事より、外の事を聞かせておくれ」
 将来の話から目を逸らすように、老爺は積極的に酒を注ぎながら外の話をねだった。
「そうですね……ここから何日も離れた村の話なんですが」
 ヴィクスは商人を襲って荷物を奪っていた村が滅んでしまったという話をした。やはり悪いことは出来ないものですねと話を締めて見渡すと、村人は一様に暗い顔つきで黙り込んでいた。
「やはりもう……終わりなんじゃろうな」
 ぽつりと呟いた声が重い。
「避けられなかった罪に対しては、情状酌量というものもあります。自首によって罪が軽くなることもありますし」
 自分達から罪を告白してくれたら……とサータリアは話を振ってみたが、
「小難しい事は解らんのぅ。ま、嬢ちゃんも一杯……というわけにはいかんから、こっちの茶でも飲んでおくれ。旅の疲れが癒える茶じゃ」
 老婆は話には乗ってこず、気分をリラックスさせる香茶をたっぷり注いで差し出してくれたのみだった。
「暗い話をしてしまったようですみません。今度はおとぎ話でもしましょうか」
 場の雰囲気をもり立てるように、ヴィクスは今度は不思議な光の種の話をした。荒れた地を回復させるフォーナ女神の力のこもった魔法の種。
「へえ、あの女神様にはそんな話もあったんだなぁ。この村にも不思議な木の実の話があってな」
 フォーナ女神の奇跡も、村人には村に伝わる昔話と同じ。老婆はどんな病でもたちどころに治る不思議な木の実の話を聞かせてくれた。


 そうして4人が村人からの歓待を受けている頃。
 囮の4人を尾けて村に入った青碧の百合姫・ユリカ(a47596)、樹霊・シフィル(a64372)、硝子の棘・シャルロ(a69057)、エンジェルの医術士・リリア(a72539)は、囚われている商人を捜し、村の中を動き回っていた。
 もともと人数が少ない上に、村人達は歓待する為に1軒に集まっている。村の中は非常に手薄だ。それでも念のため、ハイドインシャドウをかけたシフィルとシャルロが確認した上で移動、を繰り返して商人達を探した。
「頑丈に戸締まりがされているわ。商人達が閉じこめられているのはここじゃないかしら」
 外からかんぬきがしっかりとかけられ、窓にも格子状に木が打ち付けられている家を見つけ、シャルロはそっと中の様子を窺った。他の家は人がいてもいなくても開けっ放しだったから、戸締まり、それも外からされているとなれば、いかにも怪しい。
「誰かいますわ……」
 一緒にのぞき込んだユリカが呟いた。家の中には暇そうに茶を啜っている人達がいた。
 呼びかけて話を聞いてみると、やはり村に拉致されてきた商人達だった。
「この鍵を壊せば助け出せそうね」
 かんぬきには鍵が掛けられているが、冒険者なら素手でも壊せる類のものだ。シャルロは大きな音を立てないように留意しながら、その鍵を壊した。
「向こうの納屋の前に見張りらしき人がいますわ。たぶんあそこにも閉じこめられているのではございませんでしょうか」
 シフィルが戻ってきて報告する。村の食料小屋か何かなのだろうか。古ぼけた大きめの納屋が2つ並んで建っており、その前に青年が腰を下ろしていた。見張りをしているだけでは暇なのか、納屋を背にした青年は黙々と縄をなっている。
 冒険者達は青年の目を警戒しながら納屋へと近づいていった。ハイドインシャドウで近づく仲間の邪魔にならぬよう、リリアも足音を忍ばせてその後についてゆく。青年は手元ばかりに注意がいっていて、周囲を見渡すこともなく、冒険者にまったく気づかない。
 シフィルは十分に青年に近づくと、眠りの歌を歌った。急に聞こえた歌声に、青年はあれっと言って顔を上げたが、すぐに眠りの中に誘われた。そのままにしておいたら風邪を引いてしまいそうだからと、シフィルは持参した毛布で青年をくるみ、上からロープでぐるぐると縛った。
「少々、心苦しゅうございますが……ご勘弁下さいませね」
 起きても大丈夫なようにと、毛布巻きにした青年を人目に付かない場所へと隠し、2つの納屋のかんぬきを開ける。
「旅の商人さん達……ですね? 無事で良かったです」
 おなかはすいていませんかと、リリアは想いをこめて幸せの運び手をのせた踊りを商人達に踊って見せた。もう1つの納屋の方ではシフィルが、まだ外に出ないようにと商人に呼びかけ、こちらも幸せの運び手をのせた舞を披露する。
 食事はきちんと差し入れられていたらしいが、貧しい村のこと、やはり十分とはいえず。冒険者達の踊りに満ち足りた商人達は、助けに来てくれたこと共々礼を述べた。
「私達は村の人を改心させに来たんです。騙されて閉じこめられた商人さん達には納得の出来ないことかもしれませんけれど……村の人達も決して本意でやったのではないんです。だからきっと改心してくれると思いますし、そうすれば村も立ち直り、商人さん達に償いもします」
 だから集落の人を許して下さいと、リリアは商人に請うた。
「この村は若い方が皆外に出て行ってしまって、生活をするのにも難渋するほど困窮しているのでございます」
 シフィルが村の窮状を訴え、そしてフォーナ女神の意向を伝えると、
「フォーナ女神というと、あの雪のフォーナ感謝祭の……? それはまた夢のある物語ですな」
 そのような存在が本当にあると知らない商人からすれば正気を疑う話だが、相手が冒険者でははっきりと言えず、商人は困惑した微妙な笑みを浮かべた。
「ええ。この地がフォーナ様の光の種で蘇れば、きっと作物も採れるようになることでございましょう。そうなりましたら、その作物を皆様に格安でお譲り致しますので、それを此度の補償としていただくわけには参りませんでしょうか。無理なお願いとは存じますが、フォーナ様もお心を痛めておいでですの」
 そう続けたシフィルに、商人達は顔を見合わせしばし相談した。そして。
「補償はいりません。こんな村に商品を弁償してもらえるだなんて期待していないですし。もしそんなおとぎ話が本当にあったって、年寄りばかりが耕して食べた残りなんて、こんな山の奥までわざわざ仕入れにくる手数をかけるだけの価値はありませんからね」
「ですが……」
 そこをなんとか、と言いかけたユリカを商人は手で遮った。
「いや、だからといって、この村をどうこうしようっていうんじゃありません。あんな年寄りを虐めたって仕方ないし、どうせしばらくすれば誰もいなくなって滅びてしまう村です。さっさと私達を解放してくれて、こんな事をもうしないってんなら、それでいいですよ」
「荷の代価はいらないの? それは助かるわ」
 そう言うシャルロに鷹揚に頷くと、商人は冒険者達をせっついた。
「ええ、だから一刻も早く解放して下さいよ。ここで時間と荷を無駄にした分も稼がないといけないんですからね」


 そして歓待されている冒険者はといえば。
 旅の疲れと酒の酔い、あるいは鎮静効果のあるお茶の為に、うつらうつらと夢の中。様子を窺っていた村人が行動に移ろうとするのを見て取り、サータリアはふらりと立ち上がり、幸せの運び手を踊った。
「おお、良い踊りじゃのぅ。それにこれはまるで冒険者が使う力のような……ひぇぇっ!」
 アビリティを使われた為に自分達が相手しているのが冒険者だと気付き、村人は大混乱に陥った。
「捕まえにきたわけじゃない。ただ、この悪循環を止めにきた。信じて欲しい」
 落ち着かせようとするヴィクスの声も耳には届かず。
「捕まるんじゃ、殺されるんじゃぁぁぁ」
「待っとくれ。わしゃ腰が抜けてもうて……」
「ばあさん、逃げるんじゃ! うぐっ……」
「お爺さん、しっかり! 死んではいかんっ」
 このままではまずいと、ヴィクスとラジスラヴァは眠りの歌で眠らせた。起きるとまた騒ぎ、それを眠らせ、と繰り返し。疲れた村人がようやく静かになった所で説得にうつる。
「事情を知った上でこの村に来ました。……このまま続けて……いずれは、共に育った地に血を流すのですか?」
「それは……」
 まっすぐ見つめるファオの瞳を見られず、村人は目を逸らす。
「もしこの誤った行いを改めるなら、村を出た息子さん達が戻ってきてくれるように協力します。ですからやり直してみませんか?」
 ラジスラヴァが力づけるように言うと、村人は首を振る。
「何処かで幸せに暮らしていてくれるんなら、こんな隠れ里にゃ戻って来ん方がええ」
 村を逐われて住み着いた山奥。そこから巣立ってくれるのは嬉しい事なのだと。
「ですが……故郷に錦を飾ろうと思って離れた方も居たと思うんです。その方々が今の行いを見たらどう思うでしょうか?」
 ファオの言葉に、老人達は深いため息をつき、皺深い手に視線を落とした。
「このままじゃ、結局は破滅する。それはわかっているんだろう?」
「解っとる……じゃがどうすれば良い? 捕まえた商人さん方はきっと怒ってなさる。わしらはともかく、ロンまでもが殺されると思うと……。それに、やめろと言われたら、わしら干上がっちまう」
「さっき話した光の種……本当にあるとしたら?」
 ヴィクスが取り出した種に村人の目が集まった。信じられない。けれど……もし本当にあるものならば。揺れ動く心へとファオはなおも説く。
「皆さんのお気持ちが前へ向けば、遣り直せる術があります。女神様の種……これを信じて、また大地を育んで下さい」
「遣り直す……?」
 半信半疑の村人をラジスラヴァも励ます。
「そうです。皆さんが悔い改めて頑張るのなら、必ず奇跡は起こります」

 説得を他の皆に任せ、ヴィクスは外に出るとタスクリーダーで商人の説得にあたっていた冒険者と連絡を取った。これならきっと大丈夫。そう判断して両者を引き合わせ、村人に謝罪させた。
「他人に迷惑をかけるのはやめて下さいよ。こっちはあんた達と違って忙しいんですから、こんな事に付き合ってられません」
「すまんかったのぅ。もう二度とこんな事はせんから、許してつかぁさい」
「冒険者さん達も口添えして下さってる事ですし、今回の事はもういいです。短い老い先なんですから、これからは悪事に手を染めたりせずにまっとうするんですよ」
 リリアははらはらしながら、それでも笑顔を崩さずに両者を見守った。商人側に今まで閉じこめられていた苛立ちをぶつけられても、村人達はひたすら謝り。言いたいことを言って気が済んだのか、商人達はこの事を不問にすると約束し、村を発って行った。

 商人を見送ると、冒険者は村人達と共に光の種を埋め、大地が蘇るようにと祈った。
「こんなこと、もうしないでね」
 はい、と神妙にシャルロに答えると、村人は冒険者に向き直り、ありがとうございましたと手を合わせた。
「これでわしらは罪人としてでなく逝けるんじゃのう」
「死んだ爺さんが迎えに来た時、あわせる顔が無いと思っとったに、ほんに有り難いのぅ」
 穏やかな微笑みで村人は語り合い、深々と頭を下げて冒険者を送り出した。
「この村はきっと……上手く行くさ」
 そうあって欲しいとヴィクスは祈った。

 フォーナの光の種は芽吹き、村に恵みをもたらし、悪事に手を染めなくて良くなった村人達は静かな幸せのうちに暮らすだろう。
 そして……村人すべてが土に還った後も緑は豊かに茂り、村のあった場所を美しく彩るだろう。
 罪人の住処としてでなく、この地を巣立った人々の心の故郷として、この村の思い出は美しく残り続けることだろう――恵み豊かな緑と共に。


マスター:香月深里 紹介ページ
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参加者:8人
作成日:2008/03/13
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希望の腕・サータリア(a65361)  2009年09月12日 19時  通報
大きな戦争が続いたせいではありますが、
こんな方々はもう出さないようにしないといけないですね。