【にくきうだっしゅ!】攫われたプニョ



<オープニング>


 世の中には全力で肉球を愛する人達がいる。
 とある村に小さな織物の工房を構える若い夫婦も、肉球を愛してやまなかった。
 そんな彼らの製品を買い付けた商人が、盗賊の襲撃を受けたのが一月ほど前のこと。
 奪われた荷は冒険者達によって無事に取り返され、半数程度を捕らえることも出来たのだが……。

「今度は織物の工房が盗賊の襲撃に遭ったらしい」
「……前の、逃げた盗賊さん達ですか?」
 プーカの牙狩人・リシュティナ(a90382)の声に、金木鼠の陽だまり霊査士・フェイバー(a90229)は肯いた。
 どうやら、買い付けた商人から奪うよりも、工房から直接奪ったほうが手っ取り早いと踏んだらしく、盗賊達は工房の看板猫である『プニョ』を攫って品物との交換を要求してきたのだ。
 夫婦からすれば、プニョは我が子も同然――二人は、言われるままにスカーフを織った。
 そうして出来上がったものは、盗賊の待つ根城まで届けることになっているのだという。
「盗賊の首領は、まだ残党の中にいるみたいだ。一人だけ色の違うバンダナをつけているようだから見分けはつきやすいと思うが、問題は盗賊達が、工房の奥さん――リゼッタさんだけで品物を持って来るように要求していることだ」
 盗賊達は、丘陵に入り口がある洞窟で彼女を待っているという。
 とはいえ残党の全てが、そして囚われているプニョが、そこにいるとは限らない。
 彼らの残る二つの根城、岩場と崖下のほうも警戒するべきかもしれない。
「もちろん、リゼッタさんを行かせずに直接お前さん達が乗り込む手もある。ただ、その場合は人質にされている猫が傷付けられるかもしれない。まぁ、要求通り彼女が行っても、それで素直に猫を返してくれるかは疑わしいが……」
 どちらにしても、どうにかうまく救出する手段を考えなくてはならないだろう。

 もう一つ、やっかいなのは、崖の近くに変異したらしい蛇がうろつくようになっていたことだった。
「たぶん盗賊達は、まだ気付いていないと思う。奴らは岩場と丘陵のほうだけから出入りしているようだからな」
 しかし、今はまだ崖の上にいるとしても、いつ蛇が崖下まで移動するかわからない。
 そうなれば、根城である三つの洞窟が内部で繋がっている以上、囚われている猫も、品物を届けに行く彼女にも危険が及ぶかもしれないのだ。
「蛇は普通のものよりいくらか大きいようだが、一匹だけだ。お前さん達なら、そう苦戦することはないだろうが……崖の下へは、絶対に逃がさないでくれ」
 冒険者にはともかく、一般人や猫が変異した蛇に襲われてしまえば命に関わる。
「最悪の事態にだけはならないように――頼むな」
 なんとか頑張ってくれ、と言い結んで、霊査士は冒険者達を送り出す。
(「ふかふかにゃんこ、助けるです……」)
 仲間と共に酒場を後にしながら、リシュティナは、ぎゅっと弓を抱えた。


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参加者
凪・タケル(a06416)
光纏う白金の刃・プラチナ(a41265)
書庫の月暈・アーズ(a42310)
刻の白露・セッカ(a45448)
青雪の狂花・ローザマリア(a60096)
暁天の修羅・ユウヤ(a65340)
疾風の幻舞龍・レイト(a67181)
正義の銃神・シャドウ(a67510)
NPC:月穹風花・リシュティナ(a90382)



<リプレイ>

●救出
 盗賊らの根城へ向かう前に村へ寄った冒険者達は、織物工房の若い夫婦を訪ねた。
「猫殿が普段愛用している小さめの道具をお借り出来ぬじゃろうか? 保護した際にそれらがあれば落ち着けるかと思うのじゃ」
「そうだな、二人の匂いが付いたものか、いつも遊んでいた玩具か、好物の餌でもいいんだが」
 捕縛用にと掻き集めてきたロープを抱えて訊く、光纏う白金の刃・プラチナ(a41265)の隣で、新世紀覇者裸王・ユウヤ(a65340)も口を添える。それなら、とリゼッタが持って来たのは、プニョが気に入っているらしい、柔らかな毛織のスカーフ。
 受け取ったプラチナは、それを邪魔にならないよう折り畳んで、プニョを救出する手はずの正義のガンマン・シャドウ(a67510)へ預けた。
「これでスムーズに確保出来ればいいんだが……」
「出来るさ、必ずな」
 盗賊達のやり方に腹を立てながら葉巻を銜えていたシャドウは、そうユウヤに肯いてみせた。
 一方で、前に盗賊達の根城へ踏み込んだことのある面々は、内部の様子を思い起こして簡素な地図を作っていた。それを元にして全員で確認を済ませると、工房を後にして、冒険者達は三手に分かれた。
 ――予定通りにリゼッタが取引場所へ着くよりも前に、必ず全てを終わらせるのだと気を引き締めて。

「今度こそ全員捕まえてやるんだから! 悪い奴らに屈せず戦うよ!」
 真っ直ぐに、盗賊達の根城の一つ――岩場にある洞窟の入り口を見つめる、木漏れ日の風竜・レイト(a67181)。
「この盗賊団を赦す訳にはいかんな。猫質をとった、その報いを刻んでやろう」
 肯いたユウヤは、いくらか個人的な想いも混じらせつつ、パシンと手のひらに拳を打ち合わせた。
 ひとまず、外には見張りらしき人影はない。入り口に身を滑り込ませた二人は少しずつ広くなっていく洞窟内を静かに進み、目に付いた岩陰に隠れて足を止めた。
 盗賊らしき男が三人、その奥にも五人。粘り蜘蛛糸を使えば一度に拘束することは出来そうだが……もし騒がれて早々に襲撃が気付かれるのは好ましくない。視線を交わし、ユウヤとレイトは当初の予定通り、盗賊達が動き出すまで、じっとその場に待機する。

 丘陵にある根城の出入り口が確認出来る位置までゆっくりと近付き、青雪の狂花・ローザマリア(a60096)と刻の白露・セッカ(a45448)は草陰に身を潜めた。
(「ちゃんと帰らせてあげないと……リゼッタ達きっと、良いのが織れなくなる」)
 攫われてしまった看板猫を無事に助け出す機を、セッカは、じっと窺った。身軽さを重視した衣服は、きちんと消音も兼ねてある。取引の指定場所である以上、おそらく盗賊達の目は、ここに一番向いているはずだ。下手をしてプニョの身を危険に晒すわけにはいかない。
 中にいるはずの盗賊達に見つからないよう充分気をつけながら、ローザマリアは、万一に備えてハイドインシャドウも掛けておく。
 あとはひたすら、盗賊達が外へ出て来る時を待つばかり――。

 そして崖の下にある根城へ向かう冒険者達の前には、変異した蛇が待ち構えていた。崖に現れた五人へと鎌首をもたげ、ずるりと蛇が巻いていたとぐろを崩した。
「……どうやら、誘き寄せる必要はなさそうじゃの」
 崖端から引き離すべく肉で釣れないものかと考えていたプラチナだったが、蛇からすれば彼女達自身が捕食対象のようなものなのだろう。一気に距離を詰めて来た蛇は、毒々しい牙を剥いて一番近くにいた凪・タケル(a06416)に噛み付いた。
 ぐ、と呻いて、鋭い痛みに一瞬眉をひそめたものの、すぐに粘った蜘蛛糸で絡め取り、タケルは蛇の自由を奪う。じくりとさらに痛みを重ねる毒も、書庫の月暈・アーズ(a42310)の吹かせた毒消しの風が無事に取り去った。
 蜘蛛糸を抜け出そうとうねる蛇へ、シャドウ、そしてプーカの牙狩人・リシュティナ(a90382)の放った矢が突き刺さる。
 戦闘の騒ぎを崖下に居るだろう盗賊達に気付かれることのないよう、狙うのは短期決戦だ。
 タケルは神経を指先へ集中し、鋭く蛇の急所を突き刺す。蛇はもがきながらどうにか蜘蛛糸から抜け出し、今度はプラチナへと襲い掛かった。彼女の受けた毒を消すべく、アーズは再び風を吹かせる。
 お返しとばかりにプラチナは鎖で繋がれた巨大な鉄球を振り上げると、蛇めがけて強力な一撃を打ち下ろした。ドン、と感じるのは、会心の手応え。そうして、ふらりとよろめいた蛇へ、シャドウの射った稲妻の矢が雷光を描いて追い撃ちを掛ける。
 蛇は口を大きく開けたまま躯をうねり――どさりと地面に倒れ込むと、それきり動かなくなった。

 戦闘を終えた五人は、自らの武具に施していた消音の具合と、見張りの人影がないことを確認し、それぞれに蜘蛛糸やロープを使って崖の下まで降りた。
「一応、これを……万一の時は捕獲、よろしくお願いしますよ」
「うい」
 持って来た投網を、プラチナと共に入り口で待機するリシュティナに預け、タケルはアーズ、シャドウと三人で洞窟の中へ入った。
 かけたハイドインシャドウが解けないよう、タケルとシャドウはゆっくりと慎重に。自然と、岩陰に隠れながら進むアーズが先行する形になって進んでいく。最優先は、囚われているプニョの救出。しっかりと保護するまでは、盗賊達に気付かれるわけにはいかないのだ。
 猫も、そして夫婦も――きっと、離れ離れになった不安に満たされているに違いない。また一緒に過ごせるように早く助けたいと急き立つ心を抑え、アーズは折れ曲がった道の角に身を潜めると耳を澄ませた。聞こえてくるのは、何人かの話し声と足音。そして弱々しい、小さな猫らしき鳴き声……。
 仕掛けるタイミングを計るべく、アーズが一度振り返る。じっと視線だけで窺えば、タケルもシャドウへと視線を向けた。肯いて、前へ出るシャドウ。念のためハイドインシャドウを掛け直し、そっと角を曲がった。
 目に付いた盗賊の数は六。その足元に、押し込まれた籠の内側を鳴きながら引っ掻く茶毛の猫が居た。
 シャドウは慎重に、ゆっくりと籠へ近付いていく。だが、この場所は盗賊達にしてみれば、いわば『冒険者』の侵入をわかりやすくするための場所でもあった。そしてハイドインシャドウの効果は、注意深く観察するような相手には、気付かれてしまうこともあるものだ。
「……おい」
 すでに一度こちら側からの襲撃を受けた彼らは、今回もそれを予測していたのだろう。こちらに視線を向けていた一人が、顔を強張らせてシャドウを指差す。それまで気付いていなかった盗賊達も、はっとして振り返った。
(「気付かれたか……!」)
 少し、力を過信しすぎていたかもしれない――猫を助け出すまで身を隠しきれなかったことに舌打ちしつつ、シャドウは地面に置かれた籠までの距離を一気に詰めた。
 慌てた様子で拾い上げようとした盗賊達の手よりも先に、シャドウがしっかりと籠を抱え取る。
「俺の名はシャドウ・ストライカー、悪党ども、俺が相手だ!」
 そのまま弓を構えて名乗りを上げたシャドウに「冗談じゃねえ!」と返して、盗賊達は走り出した。仲間が待機している方向ではなく、丘陵の根城に抜けることの出来る、洞窟の奥へと。
「……っ!?」
 だが、その背に、粘つく糸が覆い被さった。それは、隠れていた曲がり角から飛び出したアーズが投げたもの。同じく姿を見せたタケルは素早く辺りへ視線を走らせていたが、この場に居た中には、首領を示す色違いのバンダナをした輩はいない。となると、丘陵か岩場、どちらかの洞窟に首領が居るのだろう。
 拘束された盗賊達は、死に物狂いで蜘蛛糸を振り解こうとするも、なかなか抜け出すことが出来ずにいる。入り口で待機しているプラチナ達も呼び、捕らえた全員を持ち寄ったロープで縛り上げた。
 囚われていたプニョを籠から助け出し、護衛にシャドウとプラチナをそのままここへ残して、タケル、アーズ、リシュティナの三人は、残る二箇所の盗賊達を追い立てるべく洞窟の奥へ向かった。

●決着
 ただひたすらに変化を待つだけの時間は、長く感じる。
(「大丈夫……みんな立派な冒険者だもん……」)
 岩場の洞窟内で盗賊達の様子を見張りながら、レイトは揺らぎかける心に言い聞かせる。きっと猫の安全は、仲間達が確保してくれているはずだ。
 その思いを裏付けてくれるように、まもなく、洞窟内が騒がしさに包まれた。
「――逃げろ!」
 響く声は洞窟の奥から。ばたばたと慌しい足音が近付き、レイトとユウヤは岩陰から飛び出して立ちはだかった。逃げて来たのは、さっきこの洞窟内に居た盗賊達――そのうちの一人が、他とは違う色のバンダナを腕につけている。ここに居た八人の中に、首領が居たのだ……!
「逃げるなんて卑怯なんだからね!」
 踵を返す暇も与えず、レイトが粘り蜘蛛糸を投げつける。抵抗することも出来ずに、首領を含む五人が絡め取られてもがいた。あとの三人は、崖下から丘陵、そして岩場の洞窟へと移動して来たアーズが粘り蜘蛛糸で絡め取っている。
「さてと……覚悟は出来てるよな?」
 本当なら半殺しくらいにしてもいいんだがと、握り込んだ拳を構えるユウヤ。猫派としては、猫を酷い目に遭わせた奴らを赦すつもりはなかったが、彼らもさすがに死にそうなほど痛い思いはしたくなかったらしい。ひぃ、と情けない声を洩らして、盗賊達は大人しく彼らに縛り上げられた。

 残党が一番集まっていたのは、丘陵の洞窟内だった。崖下の根城と繋がっている抜け道から現れた冒険者からの不意打ちを喰らい、奥に固まっていた数人の足が止められる。それでも入り口に近い位置に居た盗賊達は、その隙に洞窟の外へと走り――。
「ごきげんよう。どちらへ、お出掛けかしら?」
 洞窟から飛び出した盗賊達の前に、ローザマリアが立ち塞がって笑みを浮かべた。彼女には、グランスティードの足もある。
「あたしからは逃げられないわよ」
「懲りない人、何もしてない子を傷つける人、僕嫌いなんだ……」
 不機嫌そうに呟いて、たじろぐ盗賊達の横から粘り蜘蛛糸を放つセッカ。絡め取ったのは六人。かろうじて免れた三人にも、ローザマリアが紅蓮の雄叫びを上げて足止めする。
「あの織物は、いくら狙っても無駄……防ぐから」
 ぎゅっとロープで縛り上げた盗賊達へと、セッカは冷えた声で言い放った。逃げ難いように、セッカとローザマリアは、捕らえた全員を洞窟の中へ連れ戻す。
 中には、同じように捕縛された盗賊が五人と、崖下から移動して来たタケル達が居た。岩場の根城へ行っていたレイトとユウヤも、捕まえた盗賊達を連れて合流している。
 崖下の洞窟に残った二人へも知らせてから、しっかりと全ての残党を捕らえたことを確認すると、冒険者達はようやく張っていた気を緩めた。
「良かった……」
 シャドウに抱えられながら、お気に入りの毛織のスカーフに包まれている茶毛の猫へと視線を移し、セッカは小さく安堵の息を吐く。ずっと、心配だったのだ。

 それから間もなくして、洞窟の外から女性の呼び掛ける声がした。
 出てみれば、不安げな表情のリゼッタが両手に包みを抱えて立っている。――もし盗賊を一人でも逃がしていたら、彼女を人質に取られていたかもしれない。そんな結果にならなかったことが、幸いだった。
 冒険者達が助け出したプニョを彼女へ差し出すと、リゼッタは飛びつくようにしてそれを抱き締めた。さすがに力を入れすぎたのか、少しばかり苦しそうな鳴き声を返した看板猫は、彼女の腕から抜け出して、地面に落ちた毛織のスカーフの上に乗る。その様子に思わず苦笑を交わしてから、リゼッタは改めて冒険者達へ御礼を言った。
 奪われずに済んだ包みの中のスカーフの一部は、代わりに冒険者達へ感謝として手渡された。
 猫の肉球マークが入ったスカーフをさっそく頭に巻いて、タケルは機嫌が落ち着いた様子のプニョに近付いた。そっと抱き上げてみると、そのまま尻尾を揺らしている。どうやら強くしすぎなければ、逃げずにいてくれるようだ。
 シャドウとレイトも、同じく猫の肉球スカーフを受け取った。
「覚えているかな、前にも会っているんだよ? ふわふわして可愛いね……」
 抱き締めても良いか訊いてから、安堵と嬉しさが混じった表情を見せながら優しく抱き締める。
 アーズとセッカは、犬の肉球マークが入ったものにした。前にもらった猫の肉球マークのものと少しだけ違うそれを見つめて、満足そうに仕舞い込む。安心と笑顔が戻って、本当に良かったとアーズは微笑む。
 プラチナは黒い飼い猫の肉球によく似たマークの入ったスカーフを選んで、ユウヤと一緒に、ふかふかなボールのように丸まっている猫を眺める。隣でユウヤが語るのは、いつか冒険者を引退してからの夢。――そう、所帯を持ったら、猫でも飼って。
「で、俺も連れ合いと一緒に猫を膝の上に抱いて毎日を過ごすんだ」
 こういうのもいいだろう、とユウヤは傍らの恋人へ笑いかけた。


マスター:長維梛 紹介ページ
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作成日:2008/03/14
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