<リプレイ>
「私達がブランの為に薬草を採って来る。……子供の足では、些か時間がかかってしまうからな。君達にはその間、しっかりブランの看病をしていて欲しい」 出発前に孤児院へ立ち寄った、狼を伴いし宿屋の店員・トトノモ(a08672)は、リベルダに挨拶すると、そう子供達に語りかけた。もしかしたら薬草を自ら摘みに行きたがる者もいるかもしれないが、薬草の方は任せて欲しい……そして、戻るまでの間ブランの事は頼む、と。 「私の花にかけて誓おうではないか。私達で……ブランを救うと」 トトノモは髪に生えたノースポールに触れつつ、子供達に真摯な視線を向ける。 「うん、ブランの事は任せて。……でも、出来るだけ早く、薬草を持って帰って来てね?」 そう頷く子供の言葉に、トトノモは勿論と答えると、そのまますぐフェライル川に向かう。 「皆さん、頑張って下さいね」 孤児院の様子が心配だからと、一人残る事にした想いの歌い手・ラジスラヴァ(a00451)に見送られながら……冒険者達は先を急いだ。
●二種類の薬草 「あれがフェライル川ですね」 リベルダから預かった地図を見ながら、道を進むこと約一日……やがて冒険者達の目の前に現れたのは、静かな音色と共に流れる水――目的地であるフェライル川だった。 「えと、小鳥さん。この近くで、怖い魚を見かけませんでしたか?」 微笑みの風を歌う者・メルヴィル(a02418)は、近くの木に止まっていた小鳥に向かって、獣達の歌を使いながら語りかける。この近くで、アンデッドを見なかったかどうか――。 その言葉に、小鳥達は哀しげな声で答え始めた。『少し前、あの辺りで仲間が襲われたんだ』と……。 「……そう。じゃあ、アンデッドはあの辺りにいるのね」 その間に周囲を見回し、辺りの様子を確認していた天魔の魔女・リュフティ(a00421)は、メルヴィルから小鳥の言葉を聞くと、アンデッドの居場所に目星をつける。 そこは、リベルダから採取を頼まれた、ケルム草が生えている一角に近い。コルメリ草の生えている場所は、ここからでは見えないが……リベルダの地図を見る限り、そこもアンデッドの居場所と、そう離れてはいないようだ。 「やっぱり薬草を採取するのは、アンデッドさんに対処してからの方が良さそうですね?」 幸せを求めし白き鷹使い・シャンナ(a00062)は、他の冒険者達の顔を見回しつつ言うと、土塊の下僕を召喚する。 「そうだね。じゃあ早速始めよう」 シャンナの言葉に頷きながら、青灰の紋章術士・ユエルダ(a04920)も土塊の下僕を召喚している。そのすぐ側では、リュフティも下僕を喚ぶ。 三人が下僕を召喚しているのは、下僕達を川に向かわせ、アンデッドに対する囮として利用する為だ。 下僕達に気付いたアンデッドが襲いかかって来た所を……一気に倒す。それが、冒険者達が今回考えた作戦だった。 「しっかり頼むよ」 召喚した下僕達に指示を伝え、川の淵に向かわせる三人。冒険者達が様子を見守る中、下僕達はてくてくと川面に近付いていく。 「………」 薬草から少し離れた川岸を、無言でうろうろとする下僕達。しばらくは下僕の動き回る足音と、川の流れる音だけが辺りに響くが……やがてザバッと水飛沫を上げながら、水中から何かが飛び出す。 「アンデッド……!」 飛び上がり、下僕の中の一体に襲い掛かったのは、体長1m程の白骨の物体……それがアンデッドである事は、冒険者達には一目瞭然だった。 「気高き銀狼!」 真っ先に動いたトトノモは、アンデッドに向けて気高き銀狼を放つ。銀狼はアンデッドに喰らいつき……それを見た、大自然より奇跡を呼ぶ医術士・バルム(a06234)は、即座に予め用意しておいた網を投げ、その捕縛を試みる。 銀狼を振り払い、網に包まれて足掻き……アンデッドが思うように動けずにいるその間に、双剣に手をかけながら、闇瞳獣・カグラ(a07256)が詰め寄っていく。 「――居合い斬り!」 一瞬身構えてから放った抜き打ちは、見事にアンデッドの体を捕らえ、大ダメージを与える。 「コルメリ草を守りなさい!」 その間にリュフティは命令を下すと、召喚した下僕達にコルメリ草の生えている一角を包囲させる。これはアンデッドとの戦闘による影響で、薬草に被害が出るのを防ぐためだ。 (「もしかしたら溶けちゃうかもしれないって思ったけど……どうやら、大丈夫そうね」) リュフティはその事を懸念していたが……下僕達が水に溶けて消失するような事は無く、地上と同様に行動しているため、ホッと胸を撫で下ろした。 だが、どちらにせよ土塊の下僕は、僅かな時間のみ有効な仮初の命。……彼らが土に還る前に、アンデッドを処理しなければならない。 「そのまま押し倒すんだ!」 一方、別の方向からもアンデッドが現れると、攻撃の為に川へ入っていたカグラに肉薄する。そこにユエルダの命令が飛び……カグラに噛み付いたアンデッドに数体の下僕達が体当たりし、押し倒して動きを阻害しようとする。 「気高き銀狼!」 そこにメルヴィルの放った銀狼が襲い掛かり、本格的な拘束を試みる。更に、その上からはシャンナの投げた網が落ち……アンデッドの体を包み込む。 「骨だけの鯉なんて食べられないけど……最後は美味しそうに焼いてあげる!」 そこに身構えたリュフティが紋章を描き、エンブレムシャワーを放つ。幾筋もの光線がアンデッド達を貫き……居合い斬りによる一撃で消耗していたアンデッドは、それに耐えられず崩れ落ちる。 「そっちもフラフラしとるなぁ……これで終わりや、エンブレムシュート!」 残るもう一体のアンデッドにも、バルムの手元から光の球が飛び……それはアンデッドの顎に炸裂し、見事に止めを刺したのだった。
「コルメリ草は、無事だったみたいですね」 アンデッドを倒し終えると、シャンナはすぐに川の中に足を入れた。その冷たさに思わず声を上げながらも、ダガーを握り、コルメリ草の採取を始める。 出来るだけ根元の部分からダガーで薬草を刈り、それを川面に浮かべた盾の内側に入れ……その繰り返しで、シャンナは手早く薬草を摘んでいく。 「これがケルム草に間違いないんだよね?」 ユエルダは植物に関する知識に長けているバルムに確認を取りながら、川岸に生えるケルム草を採取する。 「そうや。ええと……ホラ、ここに載っとる絵と同じやろ?」 バルムは自己の愛読書である『植物生態・育成・効用大全』の栞を挟んだページを開きながら、確かにこれがリベルダから頼まれた薬草に間違いないと頷く。これはバルムが今日に備え、昨夜のうちに調べておいた物だ。勿論、書かれている内容は全て、既に頭の中に入っている。 「リベルダさんに頼まれた量より、少し多めに摘んでおきましょう」 カグラはリベルダの書いたメモを見ると、それよりも余裕を持った量を持ち帰れるように薬草を摘む。少し多めに持ち帰っておけば、もし突然薬草が必要になっても困らないだろう。 「コルメリ草は、少し水分が必要だったな」 トトノモは薬草を持ち帰る為の皮袋を取り出すと、その片方に川の水を汲む。コルメリ草は水中に生える薬草……乾く事が無いように持ち帰って欲しいとリベルダから頼まれていたし、バルムの本にも、湿らせて保管するよう書かれていたからだ。 「ふう……。これで、薬草採取は終わりですね?」 その皮袋の中にコルメリ草を入れ……シャンナは「無事に終わりましたね」と、にっこり笑うのだった。
●孤児院に残るもの そうして薬草の採取が行われている間……ラジスラヴァはといえば。まずは孤児院の院長である、ミネリーの元を訪れていた。 「どんな人でも、いつかはその命が終わるのは確かです。ですけど……ミネリーさんは、ここの子供達のお母さんではないんですか? ご自分の病という運命を受け入れる事は大切ですが、私にはミネリーさんが自分の人生を諦めてしまっている様に思えます」 もっと子供達の母親として、精一杯に生きて……少しでも誰かの為に生きる事、その大切さを教えながら、子供達に素敵な思い出を残してあげるべきだと……そうラジスラヴァは院長に訴える。 「諦めている訳ではないのだけど……貴女の目には、そう見えているのね」 面識の無い貴女がそう判断したのなら。それはきっと客観的な分析で、正しいのでしょうと院長は微笑み、そしてラジスラヴァに応える。 「あの子達は過去に、大切なものを失っているから……また失う日が来る事を、恐れているのでしょう。そう想って貰える事は、とても嬉しいけれど……あの子達は、それを乗り越えて、先へ進まなければならないものね」 死と、そして生は背中合わせ。死を間際に時を刻む間に……生について、大切なものについて、子供達に伝えられるよう、より努めていきましょうと院長は頷く。 「少しでも伝えられるように……私の姿を見て、わかって貰えるように……ね」
院長の私室を退出したラジスラヴァは、そのまま子供達の集まっている食堂に向かうと、今度は彼らへと語りかけた。 「みんなは、院長先生の事が心配ですか?」 私はとても心配です、と話すラジスラヴァの言葉に、真剣な様子で、勿論だと次々頷く子供達。 「そう……でもね、院長先生はみんな以上に悲しんでいると思います。だって、病気だけでもつらいのに、みんなが自分のために悲しんでしまっているから……」 返事を聞いたラジスラヴァは、院長にとって一番の薬は、みんなの元気な姿だと告げる。 今の院長に足りないのは、きっと、みんなと一緒に生きたいという気持ち。そう考えたラジスラヴァは、子供達が元気を出し、院長がみんなと一緒に生きたいと想う事こそが、何よりも一番の薬になると……そう語りかける。 「僕達が……?」 「ええ」 何よりも院長の支えになるのは子供達。子供達が暗ければ、院長はより元気を失うだろう……そう語るラジスラヴァの言葉に、子供達は主立っては何も言わなかったが……互いに顔を見合わせるその姿は、確かに何かを感じ取ったようだった。
●心を暖めるもの 「これが採取した薬草です」 それからしばらくして……フェライル川に向かっていた冒険者達が孤児院に戻ると、一行を代表し、カグラが薬草の入った皮袋を渡した。 「そうか……助かるよ。早速ブランの為に使わせてもらうな。……ありがとう、お疲れさん」 確かに、と薬草を受け取り、冒険者達へと礼を言うリベルダ。シャンナはそんな彼女に、ブランは今どんな様子かと尋ねる。 「ああ……相変わらず、だな。かなり辛いらしくて……」 ブランの姿を思い浮かべたのか、どこはかとなく暗くなるリベルダ。そんな彼女にメルヴィルは微笑みかけると、早く薬草をと勧める。 「……そうだな」 リベルダは頷くと、薬草を抱えてブランがいる部屋に向かう。そこには布団が敷かれ……一人の少年が横たわっている。 冒険者達がリベルダと共に部屋に入ると、ブランは少しだけ視線を動かすが……体が辛いのか、声を上げたり体を動かす事は無く、薬草が届いたぞとリベルダが笑いかけても、反応は乏しい。 「ブラン君……こら、顔を上げなさい」 その様子を見たメルヴィルは、真剣な表情でブランを見据えた。その声にはいつになく、怒りの色が滲んでいる。 「辛いのは分かります。けど……自分が俯いたままだと、みんなみんな、悲しい気持ちになってしまいます」 少し前の自分がそうだったから分かる、とメルヴィルはブランを見る。リベルダや他の子供達は勿論、何よりも院長が……貴方が落ち込んでいると、より沈んで暗い気持ちになってしまいます、と。 「お姉さん……」 その言葉を聞いて、ゆっくりとリベルダの方へ視線を動かすブラン……その先では、リベルダが心配そうに彼の顔を見ている。 「……そう、だな。そうだよな。いっぱい、いっぱい心配させちゃったのに……これ以上、心配かけるようなこと、しちゃ……いけないよ、な」 うん、と小さく頷くと、僅かながらも笑みを浮かべるブラン。 と、そんな中、シャンナは部屋の表に、何人かの子供の姿がある事に気付く。……おそらくブランを心配して、様子を見に来たのだろう。 シャンナはリベルダ達に確認してから彼らを室内に入れ……子供達の顔を見やりながら笑う。 「お姉ちゃんはね。何とか出来る方法は、必ずあると信じます。でも、一人で考えても進まないから、まずは何でもお母さんに相談するんですよ? ……諦めちゃ、だめなんだからね」 シャンナの言葉が暗に何を指しているのか、子供達は分かっただろう。それと同時に、信じてもどうにもならない事が存在する事も、彼らは知っているはずだ。 けれど……にっこりと笑ったシャンナに、子供達は「うん」と頷き返す。 「あんな小さな子供達に気を遣わせて……あなたが、しっかりしないとね。あなたが頼りなんだから……気休めだけど、頑張って」 一方でリュフティは子供達を見つつ、そうリベルダに言葉をかける。同じように子供達の様子を見ながら、リベルダは真剣な表情で「……そうだな」とだけ呟き返す。 「……リベルダさん。鶏が先か、卵が先か、どっちだと思う?」 そんな彼女の前に立ち、笑いかけたのはユエルダだ。一体何の話だろうかと首を傾げる彼女に、ユエルダは続ける。 「……まあ、無理のし過ぎもいけないけどさ。一緒に笑ったり、頭をなでたり、抱きしめたり……そういう愛情表現だけでも、救われる時ってあると思うから。あんまり考え過ぎずにね」 リベルだが悩んでいたら、不安が子供達に伝染するよと笑いかけながら語るユエルダ。あまり気負い過ぎないようにと励ます、そんな彼の様子に……リベルダは表情を和らげながら頷く。 「私も、出来る限りの事はしよう。とは言っても、子供達の看病を手伝う程度しか出来ないが……」 子供達の怪我が心配だし、それに少しでも手助けできるなら……と、そうトトノモは申し出る。 その言葉は期せずして、リベルダの背負う重荷を軽くしたらしく……ありがとう、と、リベルダは静かに呟きながら、申し訳なさと感謝の入り混じった笑みを浮かべるのだった。

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参加者:8人
作成日:2004/05/31
得票数:冒険活劇4
ほのぼの8
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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