魅惑のバカンス〜Under the Lake



<オープニング>


●魅惑のバカンス
「ご機嫌いかがかね、冒険者諸君」
 紺碧の子爵・ロラン(a90363)は冒険者達を見回すと、「そういえばランララ聖花祭は盛況だったそうだね」と切り出した。
「この南方セイレーン王国でも、近年ランララ聖花祭を祝う動きが広まっている。我がイケメン領も同様だ。このような文化交流が行われる事は、非常に望ましい状況とは思うのだが……」
 ロランは僅かに眉を寄せ、悩ましげにひとつ溜息を吐いた。
「少女達は私にも菓子を贈ってくれてね。……そう、我が屋敷の部屋を5つほど、埋め尽くしているだろうか」
 要するに、多くの者から好意を得たイケメン子爵は『いかに彼女達の気持ちに応えるか』に頭を悩ませているらしい。
 まさか貰った気持ちに返礼もせず、そこで終わりにする訳にもいかない。
 紳士としては当然だが、どうすればその好意に応えられるだろうか。そう考えたロランは1つの結論を導き出したらしい。
「少女達に、素晴らしいバカンスを手配しようと思うのだよ。本当は我が別荘に招こうと考えていたのだが、反対に、このようなバカンスを過ごしたいと申し出てきた者達がいてね」
 ロラン曰く、それは領内に暮らすセイレーンの冒険者達であるという。
 彼らの言い分は、こうだ。
「常夏の大陸ワイルドファイアの噂を聞き、ぜひそこでバカンスを楽しみたい……とね。私としても、その願いは叶えてあげたい。そこで、だ」
 ロランは、ここからが本題だとばかりに笑みを深めた。
「生まれて初めてワイルドファイアに行く、彼女達のガイドを頼みたい」
 彼女達が素晴らしいバカンスを過ごせるように取り計らって欲しい。それがロランからの依頼だった。

「君達に案内して貰いたいのは、ナタリーという少女だ。明朗な愛らしい性格で、美しいもの、特に美しい景色には目が無い」
 年の頃は15歳。歌好きが高じて吟遊詩人を選んだという、根っからの音楽好きだ。『美しいもの』に出会うと、それを即興で歌にしてみせたりするというから、才能もそれなりといった所だろう。
「彼女は情報通でね。どこかから、ワイルドファイアにそれは素晴らしく美しい湖があると聞きつけたそうだ」
 輝く鱗の淡水魚が泳ぎ、湖底に揺れる色とりどりの水草が、湖というキャンパスに天然の絵画を描きだす。湖の中から空を見上げれば、輝く太陽に煌く水面。まるでこの世の楽園かと思わせる素晴らしい場所だ。
 ナタリー嬢はそれを是非とも見てみたいとご所望とのこと。
「ただ、水を求める怪獣がやってくるという話を聞いて、心配なのだ。彼女に怪我などさせぬよう、十分に注意してくれたまえ」
 彼女が求めるのは美しい湖であって、怪獣はその景色を乱すものでしかない。
「ということで、だ。よろしく頼むよ、冒険者の諸君。そうそう、あまり気を張ると彼女も肩が凝るだろうからね。一緒に楽しむぐらいの気構えで丁度いいだろう」
 紺碧の子爵・ロランは、冒険者達へ優雅に一礼してみせた。


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参加者
お昼寝大好き・シャンテ(a14001)
嵐のドラマー・ウェスタ(a27486)
吟遊詩人・アカネ(a43373)
断章・グリフォス(a60537)
プーカの忍び・キャシー(a65623)
恋蒼の焔・トール(a68949)
朔望月・ノッテ(a69822)



<リプレイ>

●Welcome WildFire
「ふわぁ、大きいのです……!」
 常夏の大陸ワイルドファイアに降り立ったナタリーの第一声は、感動に満ちていた。キラキラと目を輝かせながら、大人の身の丈ほどもあろうかという植物と背比べをしてみたり、と、誰の目から見ても大はしゃぎ。禁呪領域・トール(a68949)はその様子を微笑ましく眺めつつ、さっぱりと晴れたこの日に感謝する。きっとこの天気なら、湖も、そこから見上げる世界も美しいだろう。
 さざなみの音や独特の空気を感じて、お昼寝大好き・シャンテ(a14001)は故郷に帰ってきた事を実感していた。ふと視界の隅に全開全力なナタリーを捉えて、あれで最後まで持つだろうかと一抹の不安。
「ナタリーさん、荷物持とうかなぁ〜ん?」
「あ、はい、きっと大丈夫なのです」
 ありがとうございます、と笑顔で答えるナタリー。が、少し間を開けて
「……えと、疲れて来た時は、お願いしちゃって構いませんか?」
 少し気恥ずかしげにそう言った。
「さ、もう行こうか? 湖を堪能する時間が短くなる」
 嵐のドラマー・ウェスタ(a27486)が全体に声をかける。はいっ! というナタリーの元気な声がそれに答えた。
 湖へ向かう道中も、ナタリーははしゃぎ通しだった。見るもの触れるもの全てが新鮮で、一々立ち止まってはじっと見入る。その隣で、プーカの忍び・キャシー(a65623)も一緒に初めてのワイルドファイアを楽しんでいた。気楽な仕事だと同僚が見つけて来たこの依頼。未知というものは恐ろしくも惹かれるもの――ひとつの発見が大きな感動に変わる。
「ナタリーさん、湖はまだ遠いのですか?」
「そっ、そうでした!」
 断章・グリフォス(a60537)の突っ込みに、ナタリーはぴょんと跳ねるようなオーバーリアクションを取った。面白いものも美しいものも多くて、つい夢中になりますね、と照れながら、名残惜しげに凝視していた赤い花から離れる。そんなことを繰り返しながら森を進み、やがて感嘆の息と共に彼女は足を止めた。
 小さな背中越しに見える湖は、陽光に煌き、宝石のような輝きを放っていた。

●Beautiful Place
 しかし、絵画にも似たその景色に不似合いな黒が同時に目に映る。普通のそれより3倍程の体躯を持つ羊怪獣の体は黒く、暑そうなことこの上ない体毛も黒に限りなく近い紫色をしていた。のんびりとこの湖を楽しむには、もう一仕事必要なのだ。
 シャンテに少し下がっているように言われ、ナタリーは緊張した面持ちで頷く。ウェスタが傍らに待機し、他の6名は慎重に羊怪獣へと近付いていった。

 遠回しな朔望月・ノッテ(a69822)の唇から魅了の歌が紡がれる。大きな体ごと向き直った二匹の怪獣は、不思議そうに首を傾げて冒険者達を注視した。
『何、かー、ご用ー?』『うー?』
 キャシーとトールが、別の飲み場に移動してくれないか、と頼んでみる。しかし、帰って来たのは不満げな声。ぶるる、と体を震わせて目を伏せる。
『だっ、てー、遠いー』『いー』
『二時、間で、終わるー』『るー!』
 同じ湖である以上、都合良く死角になるような場所も無く。しかし怪獣達の掲示した時間は、待つには長過ぎた。ここは幸せの運び手の出番、と、吟遊詩人・アカネ(a43373)がこう提案する。
「綺麗なぁ、音色をぉ、お届けしたいのですぅ」
 ついでに、ナタリーに聞いて貰おう、と。見れば、ナタリーはどうなるのかとハラハラし通しのよう。気分を和ませてもらう為にも有効かもしれない。アカネが楽譜を広げ、音を紡ぎ始めれば、ノッテがそれに合わせて舞った。アルト・フルートの低音が効いた牧歌に、ゆったりとした、けれど一つ一つの形が美しく決まる踊り。
 音楽が止まり舞いの最後のステップを踏んだ時、後ろから小さく拍手の音が聞こえて来た。
「どうでしょうかぁ?」
『うー、んー、とー』『とー』
 急に治まった渇きと空腹に困惑気味の怪獣達。暫く沈黙が続いた後、のっそりと湖に背を向けた。退いてくれるらしい。戦いは回避出来たと、少し張り詰めていた空気が和らぐ。太陽は丁度良く真上にかかっていた。

●Under the Lake
 ナタリーはすこぶる上機嫌だった。羊怪獣が去った事を告げると、これで泳げますね、と嬉しそうに笑う。
「タオルの準備はしてありますから、ご入用の方は」
 そして早速、次々と湖に入る冒険者達に、グリフォスが声をかけた。汚れないようにタオルを置いて重石を置くと、自らも着替えて湖の中へ。
 ゆっくり目を開けてみれば、七色の鱗の小魚が群れを成してお出迎え。くるくると踊るように近付いたかと思えば離れ、またくるくる。人を怖れないのはワイルドファイア故のおおらかさか。水面を見上げれば、太陽が反射して、水晶の中に沈んだような気分になってくる。永遠に見ていたいような美しさ。
(「そ、そろそろ息が!」)
 うっかり溺れそうになり、慌てて急浮上した。じっと湖面を見つめていたシャンテも。湖中へと体を躍らせる。ざぷんと景気の良い音を立て、沈む体は心地よく冷えた。ゆらゆらと揺れる水面は万華鏡のように姿を変え続け、上から見るのとはまた違った美しさを発見する。
(「上にも下にも太陽があったなぁ〜ん」)
 よく見ると不思議。そんな光景。宝石箱の中に飛び込んだような景色は、かのセイレーンのお眼鏡に適う訳だと納得した。ノッテが泳ぐと、それに小魚も付いてくる。どうしてだろう? と考えて数秒。背中の羽に集まっているのだと気付いた。急に止まってみたり方向を変えてみたりすると、それに合わせて魚達も右往左往。きらきらと輝く鱗は、生きた宝石にも見えて、
(「本当、綺麗……」)
 感嘆の息がこぽりと水面へ上がって行く。向こう側ではナタリーが、潜っては浮上し、潜っては浮上しを繰り返して楽しげだった。
 そうしてはしゃぐこと暫し。水中をすっかり堪能して着替えたナタリーに、トールがお茶会にしませんかと声をかけた。良いんですか、と喜ぶナタリー。
「あまくておいしーの♪ いっしょにたべようよー♪」
「えぇ! 凄ーい、沢山ありますね」
 疲れた時には甘い物とお茶で休憩だ。湖面を吹き渡る風も気持ち良く――シャンテは木陰でお昼寝中だ。桜のバウムクーヘン、多種多様なワイルドファイアのドライフルーツ、チョコケーキもどうだろう? 集まってわいわい食べればそれもまた楽しい、旅の醍醐味だ。
「自然の恩恵を受けたこの大地は、とてもすばらしいものだとトールは思います」
「本当ですね。私、ここに来る事が出来て幸せです」
 顔を綻ばせて、ナタリーは供されるお菓子とお茶を食べる。ドライフルーツは特に、この大きさが珍しいのか、種類をよくキャシーに尋ねた。答えを得る度にほうと息を吐いて、ぽつりと感想を零す。さり気なく宣伝をするウェスタには、じゃあ是非ワイルドファイアに支店を出して下さいね、と無邪気に笑った。
 ナタリーの傍らに置いてあるメモ帳に、ふと気づいたグリフォスが尋ねると、照れながら詩を書き留める為のものだと答える。
「歌ってみてもいい、ですか……?」
 聞き返すナタリーに肯定を返すと、彼女はすっと立ち上がり優雅に一礼、一呼吸。朗々と紡がれるのは、ワイルドファイアで得た感動、それと、ここまで連れて来てくれた冒険者への感謝だった。
 アカネのフルートが音を添える。そこに、ごく自然にトールが合わせる。グリフォスが声を乗せれば、ノッテも合わせてステップを踏み始めた。
「みんなやるわねぇ」
「ナタリーおねーちゃん、じょうずー♪」
 呟きながら、ウェスタも手拍子を加える。名残惜しげに歌が終わると、誰からと言わず盛大な拍手が巻き起こった。
「人生ぃ、のんびりする時もぉ、よいのですぅ」
 アカネの言葉が、皆の表情が、この旅の成功を何より物語っていた。

●Singing Memory
 歌いはしゃいだ一日。日が落ちる頃、ナタリーはすっかり疲れ果てていた。本当は眠いのだろうが、お星様を見るまで帰れないです、と気合で起きていたのだ。
「よかったらまた来て欲しいなぁ〜ん」
 シャンテの問いかけに、勿論です、と、半分閉じかけた眼で、でも確かに頷くナタリー。お友達も出来ました、と、残り一欠片のドライフルーツを口に放り込む。楽しかったです――そう言う声は最後まで行き着かずに、ぱたりと眠り込んだ。
 輝く星々の下、少女は夢を見る。もっと素敵で美しい、ワイルドファイアという新天地で、優しい冒険者のみんなと一緒に、はしゃいで歌う夢を。それは正夢になるのかも、知れず。


マスター:河流ロッカー 紹介ページ
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作成日:2008/03/27
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