燎原に火を掲ぐ



<オープニング>


「皆さんが、今回の依頼に応じてくれた方々ですね?」
 血の気を感じさせぬ肌の色同様、温度を持たぬ声音が冒険者達の耳朶を打つ。
 白蓮清流・イクリミア。ノスフェラトゥ十将軍の第十席を占める、女傑の姿がそこにあった。
「この度皆さんにお願いするのは、この地の溶岩より現れ出ずる巨人の討伐です」
 生まれ出でた瞬間から、その巨人の目的とするところは視界に映る燃やせそうなもの、その全てを焼き尽くす事。それだけだ。
 体躯は凡そ六メートルにも達するその化け物は、生まれてから自らの炎が尽き果て、ただの石塊へと変じる約七日間というものその目的だけに全てを費やすのだと言う。
 つまり放置すれば勝手に危機は過ぎ去るのだが、その間に幾つのミュントスの村や町が焼き払われるか知れたものではない。だから、ノスフェラトゥ達は経験則に基き巨人の出現の瞬間にはその個体の侵攻ルートと適切な迎撃ポイント、到達時刻を予測してその討伐に当たるのだという。
「目の前の敵を力任せに殴りつける程度の行動しか出来ない怪物ですが、その分一撃は重く、強力な魔炎の力を伴います。油断は大怪我の元にしかなりません」
 しかも、状態異常は効きづらい事も注意事項だと、イクミリアは言う。
 裏を返せば、そうした注意点を踏まえて挑めばノスフェラトゥ冒険者にとっても決して重大な脅威ではないと言う事の表れでもあった。
 万が一、一旦敗退を余儀なくされても時間を追うごとに巨人は弱くなる。恐れる事はない、と言う事なのだろう。
 最も、一般の被害を出さぬ為に、冒険者達には三日以内に倒す事が求められると言う事だった。
 巨人に挑み、打ち倒すのが早ければ早いほど、ノスフェラトゥが同盟冒険者を見る目にも影響を与える事だろう。
「これは、我々ノスフェラトゥの冒険者が日常的にこなす任務でもあります」
 最後にそう言い置いて、イクミリアは初めて、どこまでも薄い笑みを口元に浮かべた。
「……貴方方の力量を、とくと拝見させていただきます」
 ――どうやらこれは、否が応でも無様な姿は見せられないらしい。


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参加者
蒼然たる使徒・リスト(a01692)
隠れ家ヘよーこその看板盗んだ・フォッグ(a33901)
黎旦の背徳者・ディオ(a35238)
光纏う白金の刃・プラチナ(a41265)
紅の蹂躙姫・アフィニティ(a42784)
空游・ユーティス(a46504)
深縹の・ヴィレン(a66062)
銀鱗の拳闘士・ガイロ(a70703)


<リプレイ>


 そこは、先に通り抜けてきた妖しくも華やかなミュントスの市街とはあまりにも異なる、どこまでも何もない荒涼たる野だった。
 一日目に怪物が襲来するような場所の近くには、そもそも民家の類もない。その代わり、窪地や岩場のような身を隠すような場所も一切なかった。
 本当に、何もないのだ。生どころか、死の気配すらない。どこまでも平らかなこの地に満ちるのは、あえて言うならば、ただただの虚ろ。
 その世界を遠眼鏡越しに見詰めて、紅の蹂躙姫・アフィニティ(a42784)は地に満ちる熱気も冷ます様な声音で感慨を述べた。
「己も他者も焼き尽くすだけの巨人なんてはた迷惑ね」
「……本当に、好きになれん土地だ」
 淫靡な町並み然り、この無の原野然り、全てが生まれた大地と逆しまの気配を漂わせていて。
 今もくすんだ臭気漂う原野のただ中、魔霧・フォッグ(a33901)は面倒そうに言い捨てて紫色の空を見上げる。
 もちろんそこに待ち人――溶岩の巨人がいようはずもない。求めたのは、別の存在の姿だ。
「見張りは、いない様だな」
 フォッグの仕草に気付いた青濫の・ヴィレン(a66062)が、手にした水筒を袋にしまいつつ呟いた。この見晴らしの良い天地に、冒険者の他に動くものの姿はない。
 倒すまでに掛かる日数だけでも、十分力量を測れるという事なのかもしれない。
「ま……どっちにしても、それなりの戦果を挙げなきゃならん、か」
「評価点の付く戦いとは、なかなか難儀ですね。点数稼ぎのために冒険者をしている訳ではありませんから」
 それは決して、愉快なものではない。だが、ノスフェラトゥの同盟に対するスタンスに働きかける好機でもある。
 その事を意識して、だが蒼然たる使徒・リスト(a01692)の言葉に力みはない。
「さてさて、イクミリア殿のお眼鏡に叶うかは兎も角、妾は妾に出来る全力を尽くすだけじゃの」
 全力と言って、微々たる物じゃが。そう言って光纏う白金の刃・プラチナ(a41265)プラチナが苦笑するように、結局なすべき事に普段と変わる所はさしてないのだ。
 即ち、それは冒険者としてのベストを尽くす事。
「んー、まあ一般の人に被害出す訳にはいかないしねー」
 それに政治的思惑を措いても、民の暮らしを護る冒険者の仕事には変わりない。虚殻・ユーティス(a46504)が、気負う様子もなくゆるりと頷く。
 その護る相手が例えミュントスの――ノスフェラトゥの領民であるにしても、だ。


 ――やがて。
 ノスフェラトゥが予測した時、予測した場所に違わずソイツは来た。
「ずいぶんデカイな……厄介な相手だ」
 まだ遠く離れた彼方から、はっきり認識できる天を衝くような赤熱の巨躯。
 ずるり、ずるりと身を引きずるように、地表を焼きながらやって来るのは正しく溶岩の巨人としか形容できない化け物、そのもの。
 遠眼鏡を手にした面々が指し示す方を向いて、銀鱗の拳闘士・ガイロ(a70703) は軽く目を見開いた。
「灼熱と共に生まれ、七日目には灰と共に眠る。不思議、ある意味神秘的だな」
 その巨躯に似合わず儚げな宿命を持つ存在に、愛しげな目線を送るのは黎旦の背徳者・ディオ(a35238)。
 背後に漂う黒髪の少女の拘束具がディオへと絡みつくと見るや、うっすらと笑みを湛えた彼女の顔が、その体が、たちまち黒い炎の中に包まれる。
「……だからと言って、見逃したり手加減する気には、ならんが」
 続けて、彼女を中心に周囲へと広がっていくのは暖かさを感じさせる燐光の陣。
 重々しく、漫然と、巨人が着実に燃やせそうな『モノ』……即ち冒険者達が固まるこちらへ近づく間に、彼らは手早く戦支度を整える。

「では……行きましょう!」
 ――アビリティで自身、そして仲間達を強化し、布陣を整え、尚且つ先手を取る余裕が、冒険者達にはあった。
 リストの鋭い掛け声が響くや、ディオと共に放った多くの影の手が溶岩の体表を引き裂いた。さらにリストとディオの一撃とほぼ同時、プラチナの放った黒い炎上半身を包む。
「ふふ、いいね。小揺るぎもしないか」
 だがその先制射をもろに身に受けながら、巨人に怯む様子はまるで見られない。
 さらに一歩、悠然とした歩調で自身の頭上に影を落とすまでに接近した巨人を見据え、ディオの両の瞳に楽しげな色が浮かぶ。
「ふむ、状態異常は効きにくいとは聞いておったが」
 巨人は決して脆弱ではない。だが、取り立てて頑強と言う訳でもない様だった。術系の射撃による冒険者達の第一撃は、巨人に一定の打撃を与えているのは明らかだ。
 だが冒険者達の刻みつけた傷に、鎧破壊の恩恵は見られない。事前にわかりきった事ではあった。だから単なる事実としてそれを認識し、プラチナは振り下ろされる鉄拳の軌道を避ける。直後、虚しく土煙と抉った大地をさらに焼き焦がす黒煙を上げて地面に巨腕がめり込んだ。
「状態異常は聞かなくとも、こいつの効力は免れないはずだ」
 その腕をすり抜けるようにして、身を焦がすような熱気を浴びつつ、フォッグが手にした矢を突き刺す。何の抵抗もなく、溶岩の足を深々と貫き通す矢。
 蹄が大地を叩く硬質な音と共に、アフィニティがホーリースマッシュを放つ。返ってきたのは、確かすぎる手応え。打ち込まれた赤の刃は冷えて固まった岩塊の部分に阻まれ、弾かれたのだ。
「でも、防がれてこれなら……思ったほど硬いって訳じゃないわね」
 真紅の刃を引き戻し、文字通り見上げる程の炎の巨漢を冷ややかに見据える。
 それならば例えガードの上からでも、繰り返し斬撃を叩き込むのみ……そう、アフィニティが次の一撃の動作へと移ろうとした瞬間、目の前の脚が不意に迫った。壁が目の前に広がる様な感覚……そして、激しい衝撃と身を焦がす灼熱が、彼女の身を大きく泳がせた。
 頭上に漂っていた護りの天使が無数の羽毛に変じて宙に散るが、ダメージを吸収しきるには及ばない。
「ずいぶんやる気満々じゃないか。でもこっちだって負けてないぜ!」
「っと、これはっと。ちょっと待ってねぇ〜」
 大きくよろめく彼女の姿を援護すべく、ガイロの疾風斬鉄脚が巨人の脛を穿ち、ユーティスの凱歌が雄叫びと干戈の中に響き渡った。
 その間に召喚獣の鞍上、揺らいだ上体を立て直したアフィニティの目線はきっと敵を見据えて、その闘志はわずかばかりも揺らがない。
 その打撃を受けて、一つわかった事があった。巨人の打撃力は確かに高い。決してタフとは言えない彼女ならば、二撃も直撃を受ければ戦闘離脱は免れまい。
 だが……逆に言えば、それだけだ。打撃とそれに伴う魔炎の他に攻撃手段がある訳でもないのだ。きちんと回復の援けを受けつつ戦えば恐れることは、何もない。
 今しもユーティスの歌声に炎もろとも傷も半ば掻き消え、アフィニティは優雅で、しかしどこか猛々しさを秘めた笑顔を巨人へと向けた。
「……必ず、壊してあげるわ」


「こうゆうデカブツには一箇所弱点があるもんなんだが……っ!?」
 闇色の闘気を込めて振るわれたヴィレンの刃は、刃音も高く巨人の足に新たな傷を穿った。
 力に任せた直線的な動きの多いこの敵に、技巧で攻める彼の攻撃は容易に決まる。だが、それでいながら面白くない表情をしているのは、彼の本来の目的が一向に果たされないからだった。
 ――ハイドインシャドウ。術者が能動的な行動を行わず、他者が注意して観察するのでなければ、と言う限定的な状況において、術者の姿を景色に紛らす忍びの技。
 その制約を考えれば、前衛として敵に近接する位置を取りながら姿を消しつつ戦いを観察し、弱点を探ろうと言うのは少々無理がありすぎた。
「ぐぅっ……!」
「ぬっ……」
 その無理を押して、通らない。却って悪目立ちしたヴィレンを捉らえた豪腕の打撃は、守護の誓いを通してプラチナへと等分に共有された。
 外傷を伴わぬ、苦痛のみを共有する慣れない感覚がプラチナの身を電流のように走る。
「……そう言えば、コレを遣ったのは初めてじゃな」
 だが彼女にはそう苦笑を浮かべる余裕すらあった。
 ヴィレン同様、彼女も探っていた巨人の行動パターンや動作の隙は、これと定まったものを見られない。目の前の相手の誰かを不規則に殴りつける、それだけだ。
 だが、今はそれを探る事が重要だとは思わなかった。ここまでの戦いで、二人の、そして仲間達の得た結論は、一足先に拳の洗礼を受けたアフィニティと同じもの。
(「……こいつは、そんなに強くない」)
 そしてアフィニティの時と同じように、二人の傷口はユーティスが歌い上げる勇ましい歌の中に掻き消えて行く。
「勝っているのは数。それに……」
 邪竜の力を練りながら、リストが質素な杖を敵に差し向ける。
 これが一騎打ちであれば、さすがに話は別だろう。だが今、彼らは数で勝り、幾つかの場合では火力で匹敵していた。そしてその二つは組み合わさる事で、幾重にも大きな効果を生み得る。
「ああ、リスト。仕掛けるかい?」
「ええ、行きましょう!」
 リストとディオが時を同じくして生み出した影の手に、またも巨人は体の各所を引き裂かれた。
 さらにアフィニティとヴィレン、それにフォッグが巨人の両脇から同時の斬撃を見舞い、
「痛っ……クソッ、くたばりやがれっ!」
 正面になったガイロは巨人に蹴飛ばされつつも返礼の蹴りを一閃、迫る上腕へと叩き込む。
「おっと、消火消火っと。それと皆、ヘブンスフィールドからは出ないでねぇー」
「ああ、わかってるさ!」
 足元に輝く光の陣。その中に身を置くガイロを包んだ炎は、彼にそれ以上の火傷を与えることなくたちどころに消え去った。
 その陣の中心を維持するユーティスがすかさずガイロに高らかな凱歌を送る傍ら、戦いの中で少しずつ乱れていく戦列を保つべく意を払う。
 その回復でなお不安の残る深手を負う様な事があれば、プラチナが黒色の炎を放つ手を休めてヒーリングウェーブを生み出してその分を補った。
「……さすがに、タフだな。でも、お出かけは此処で終わりな?」
 間断なく続く、冒険者達の連携の取れた攻撃の波。
 幾本目かの鏃を巨人の表皮に打ち付けて、フォッグは徐々に巨人の炎が弱まってきている事に気付いていた。
 鈍い衝撃を受け、冷めて固まった部分からぱらぱらと石くれが零れ落ちる。熱く煮えたぎる溶岩、フレアのように噴出す炎。
 単調な攻撃ともども一見変わらぬ様に見える姿であっても、触れ合うほどに近しくあればその衰えに気付くものだ。
「キミは……もう、終わりなのかい?」
「ちょっと、呆気ないわね」
 溶岩の巨人は七日間燃え盛り、その炎が尽きた時に死に至るのだと言う。ならば、この炎は巨人の息吹そのものなのか。
 ディオは寂しげに、アフィニティは物足りなさげに感慨を漏らし、だが繰り出す一撃には己の全てを乗せて、残り火の巨人へと叩き付ける。
 巨人はその瞬間、反撃を加えようと大きく腕を振りかざしたままで、一度大きな身震いをして。
「……火が、消える。崩れるぞ!」
 フォッグが叫んだその瞬間、巨人を包む炎が大気に溶け込むように消え果てた。
 続いてただの脆弱な岩石の像と化した巨人が、その強度の弱い部分から砕けて大地へと音高く降り注ぐ。
 やがて、安全な距離を測って飛び退いた冒険者達の視界が晴れた時、リストはそこに広がる光景に、大きく深く息を吐いた。
「後は採点待ちですね……」
 その吐息は、他でもない安堵のため息。
 リスト達の目の前には周囲の荒野に散らばるのと似たような色と形の、数多の土塊が転がっているに過ぎなかったのだ。
 

「この土地が、それほど珍しいのですか?」
「いや、荒れ果てた所と豊かな所でずいぶん違うもんだと思ってな」
 それは、巨人討伐完了の報告に訪れたイクミリアの下での事。
 何気なく視線を彷徨わせていた所に予期せぬ問いを受け、鼻白んだ様子を見せるヴィレンにイクミリアは飽くまで淡々とした態度を崩さず頷いた。
「溶岩の巨人を放置すれば、どこも同じような景色になってしまいます。その為に討伐が必要なのですよ」
 これはミュントスでは日常的な依頼。最初に言ったのと同じ内容を、イクミリアはまた繰り返す。
 もっとも、ユーティスにしてみればそちらの方こそ喜ばしい事ではあって。
「少なくとも、一般の人の為にはなったのかなー?」
「そう思っていただいて構いません」
 ユーティスの言葉にもやはり事実を確認するだけの頷きを返し――それから始めて、彼女は訝しげな様子の冒険者達へと視線を移した。
 一同の注視を受けて、発する声音にはなお揺れというものが存在しない。
「……溶岩の巨人を、一日で倒した。一人も欠けるところなく。その事実だけ知れば十分です」
 その事実だけで十分。それがどれ程の意味を持つのか、冒険者達にはわからなかったが。
「いずれにしても……見事な手腕でした」
 最後に向けられた労いの言葉に、幾分かの驚きが含まれていた、ように感じられた。
 ひとまずそれで充足感を得るぐらいの余裕は、与えられても良いように思うのだった。


マスター:朝比奈ゆたか 紹介ページ
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