<リプレイ>
●常夏の地を駈け 遥か常夏の大地に、黎明の風は夜の冷たさのまま。西端に夜色を残す明けの空に、羽根雲が棚引く。
ワイルドファイア、か。 一陣の風に乱れた黒髪を指で上げ見渡す限りの草原を望み、風任せの術士・ローシュン(a58607)は心で呟く。 「私も初めて訪れる土地だが、この老いぼれで良ければ手伝わせて頂こう」 少しでも遠くを望むべく、爪先立ちで跳ねるラーチェに述べれば、小父様が老いぼれなら私のお父様は『乾物』だと彼女は笑う。もっと高い所から見てみるかい? 問いに頷いた少女を、自然と昼寝愛好家・ファンバス(a01913)が自らの肩に乗せた。あの岩場の向こうまで見えそうですと、ラーチェは指を差してはしゃぐ。齢8歳の少女とは何と可愛らしい盛りなのかと、バ・カロア(a27766)の胸にほんわりと至福が充ちる。 「初めての土地って、どきどきとわくわくで一杯になるよねぇ」 肩から降ろされた少女はファンバスに礼を告げて頷き、未だほわ状態のカロアに駆け寄る。 「あっ! ひっさつわざの『ジャンピング土下座』はこうでしたか?!」 「はっ! 惜しいです、こうなのです!」 捻る様に抉る様に、暫し伝授式が行われた。 「一緒に楽しく行こーなぁ〜んね!」 リリカル武闘少女・ミオ(a36452)が、世渡りを一つ覚えたラーチェに並ぶ。双に結った飴色の髪から覗いてふるりと揺れるノソ耳に、少女の瞳が輝いた。本当にノソ好きなのだろう。この子とは仲良くなれそうだと、ミオは擽ったい喜びを感じた。ノソリンと温泉は私も大好きだと、月のラメント・レム(a35189)が笑顔を見せれば、『ユニットを組みましょう』と、少女は本気か冗談か解らぬ握手を迫る。 「お話したり歌ったりしながら楽しく行きましょう♪」 「はい! 最初はあの岩場まで競争です!」 言うが早いか、少女は走り出した。
●初めての手触りを覚え 一頻の疾走を終えた身体に、微風が心地良い。昏き理・ルニア(a18122)は一息を吐き、眼鏡の蔓を正し灰髪を整える。岩場に背を預けて探索案を論じれば、人やマンモーの足跡を探す・遠眼鏡で光や煮炊きの煙を探す・魅了の歌で動物に訊く・妙な鳴き声を追う・美味そうな香を追う・棒倒し――等々が提案された。 「行き当たりばったり、出たとこ勝負の先に何があるのか……! 気分は某探検隊ですね」 時空を彷徨う・ルシファ(a59028)の声音が朗らになる。大人しい佇まいだが、誰より多くの探索案を用意していた辺りは期待度の現れか。 「ラーチェにも楽しんで貰いたいが、皆で楽しめるのが一番だろう」 静かに案じていた、森羅万象・ゼスト(a49272)も口を開く。打切棒な口調から、配慮が滲んだ。ならば思い付くまま試してみるかと、一同は腰を上げ裾を叩く。当面は、眼前の岩場登りだ。ルニアは安全靴の紐を結い直し、二つの天幕を抱える翠の少女の細腕を案じた。 「スライディング土下座・ローリング土下座等、持ち技も豊富ですよ!」 「はい! こうですか?!」 が、荷物持ちの必要はなさそうだった。
陽も愈々と天辺に近付くが、荒い岩道は続く。ラーチェの足元を慮るローシュンは、フワリンを喚んだ。 「これはフワリンと言ってな、ノソリンと同じ様に、大人しくてむにぐに、もそもそする動物だ」 「こ、これが噂の……!」 知識はあれど冒険暦の乏しい少女は、実物とは初対面らしい。彼の噛み砕いた説明に真顔で聞き入り、召還存在の感触をむにぐにと楽しんでいる。カロア・ルニア・レムもフワリンを喚べば、少女は次々とそれを撫で比べた。ファンバスは浮雲を眺める。大気は熱を増し麗か、昼餉も近い頃合か。地も空も柔らかな眺めで、午睡への誘惑が頭を擡げた。 「……昼寝万歳&立ち寄り昼寝大歓迎、なんて集落ないかなぁ……」
●甘やかな果実と午睡と ほげぇ〜ぐげぇ〜ごぎゃー。 進行方向から逸れた急な下り坂の向こうから、形容し難い鳴き声(?)が聞こえた。正体を求め、覚束ない足元を踏み外す難をフワリンで避けて急勾配を下れば、 「ぐげぇ〜〜……ごぎゃ〜……なぁん」 地はいつしか平原に戻り、その真ん中に巨大な毬みたいなヒトノソリンの親父が転がって大鼾をかいていた。恐る恐る起こして周辺の地理を伺うが、『ご飯の後は昼寝なぁん』と答えてまた眠る。ルシファの蒼瞳は苦悩を浮かべて周囲を見渡した。 「……ああ」 よく見れば何かが転がった跡が延々と続いている。彼はここまで寝返りで来たのだろう。親父の転げ跡を追い、歩を進めた。 「Zzz……なぁ〜ん」 「頂きます……なぁ〜ん……」 辿り付いた先の集落では更にごろごろと、うねうねと。大勢のヒトノソリン達がそこら中で昼寝をしていた。勿論ノソリン姿の者も多数いる。ラーチェは早速眠りの調べを紡ぐ。当然ヒト姿に戻され、あられもない状態で眠り続けるヒトノソ達が量産される。 「(す、すいません……)」 起こさぬ様に小声で侘び、取り合えずそこらの葉っぱやら敷布やらをそっと掛けて回る冒険者達。 一人起きて昼餉の片付けをしている働き者風の少女を見付け、旅の者と名乗る。レムはこの辺の名産品を食べたい事、マンモー料理用の香辛料が欲しい事を告げ、向日葵型のアップルパイと交換を所望する。 「了解なぁん。美味しそうなぁ〜ん」 応じた少女が天幕から持ち来た物は、林檎の中にミルククリームと肉桂をどっぷり満たし、皮ごと丸焼きにした、『どっぷりんご』なる大雑把で巨大な焼き林檎だった。両手に抱え頬張れば、香ばしく濃厚なクリームが林檎の酸味を際立てる。食の細い者なら一つで満腹になるボリュームだ。いつもの様に何処かへ転がって行った集落の長は、大らかで旅人にも優しい。だから、勝手に昼寝もして行って大丈夫だと少女は述べた。さっき転がってた『あれ』が長らしい。 「長は『どっぷりんご』のクリームばっか食べたがる困った人なぁ〜ん」 林檎もちゃんと食べなきゃ駄目だと、少女は溜息を吐く。何処の地にも偏った食癖の持主はいる模様だ。
常夏の昼下がり。 木陰に別天地の快眠を味わった後、肉桂を始めとした香辛料を袋一杯譲り受けた冒険者達は、第一の集落を後にする。
●瞬く光を求め 深い草を分け行き、湿地をフワリンで渡る。ルニアとルシファの案に順じ、遠眼鏡に映った僅かな煌めきを頼りに鬱蒼とした森を越えれば、その向こうに第二の集落を見出せた。 石の館で冒険者達を出迎えた集落長は、晒し綿で胸を覆った気丈そうな若い女性だった。黒曜石の大きな斧を傍らに、此処は狩猟用具の製造に特化した集落だと彼女は説く。ルニアは自らの身上を丁寧に述べた。どうやってこの集落を知ったのかという問いには、此方に眩い光が見えたからだと素直に答える。 「磨きに磨き上げれば、石とて輝く刃となるなぁ〜ん。よくぞその輝きを見出したなぁん」 長は嬉しそうだ。温泉地を教えて貰う交渉に用意したパッションフルーツのシロップ漬には、長よりは集落の重鎮と思しき老人達の方が興味を示している。そう言えば西だか南だかの遠くに、そんな場所があった気がしなくもない。という程度の曖昧な情報を寄越し、重鎮の一人たる翁はノソ尾をぱたつかせ始めた。 「……で。教えて上げたから、それ、くれるのかのう……なぁん」 老人の様子に目尻を下げたルニアが受難の紅玉を渡すと、武具職人の弟子達がなぁ〜んと列を成し、ノソリン姿で黒曜石を運び来た。 「はう! 可愛いのです!」 彼らが石を置いた所で、ラーチェはすかさず魅了の調べを歌おうと息を吸う。 「なぁ〜ん!」 事態を予測して変身を終えていたミオが、長の前に並ぶ弟子ノソ達を庇ってどーんと立ちはだかる。 が。引き起こされた戦闘状態は否応なく、『女長の前で四這いになる全裸のノソ弟子達の図』を完成させてしまう。羞恥心の概念が違う所為か民の反応は薄いが、お子様には申し訳ない眺めだ。 「これは僕達の国では『大好き』という表現で」 「つまり生き別れのヒトノソ・ノソリーヌちゃんを探」 「あ! あんな所にノソリン型の雲が!」 脳内翻訳&スライディング土下座with侘びの煎餅に連なり、ファンバスは窓辺を指す。 「ど、何処なのですか?!」 言葉に釣られ、ラーチェは窓辺に釘付けになる。 「ミオ様ったら何処に行ってしまったのかしら」 棒読みで首を傾げるレムの腕の中に、大きな外套に包み隠されてもごもごと動く物体があった。足元では黒いノソ尾と小さな裸足がぴちぴちしているが、『気のせいです』と彼女は言い張る。 (「……えっちっちなぁ〜ん もご」) 外套の中から、そう聞こえた様な気がした。
●道なき道の果て 食糧の為とは言え、余り苦しませたくはない。その思いは果たせただろう。 真白な前髪の下で、色素の薄い少年の瞳が細められる。傍らには仕留めたばかりのマンモーが横たわっている。魅了の歌と餌を用いて野生動物から獲物の情報を得、足跡を見出して追い、迅速に仕留める。それは、冒険者達には難しくない『狩り』であったのだから。穿、と名付く弓がゼストの背に納められた。 ローシュンは肉切り包丁で獲物の解体を勤める。食肉の加工は初見らしく、ラーチェは興味津々と彼の手捌きに見入っている。刃身の脂を拭い、手持ちの香辛料を貰い物と合わせた。大まかに切り分けた肉に擦り込んで防腐と香味付けを施し、皮袋に包めば宿泊先への手土産も上々だ。 さて。一呼吸し、夕の茜に色付き始めた大地を南・西と見比べても、広がるは荒野のみ。野生動物達に歌で問えば西がやや優勢だが、決定打は欠く。択一し難い状況下で、レムの『棒倒し案』が活きた。一同が武器や装備品を倒し、より多くが示す方角へ進んでみる運びとなる。
西4・南3・無効の方角2。結果に動物達の声も加味し、暮れ行く方角へ向かう。いつか洞窟を越え渓流を上り、やがて緑豊かな山岳地帯に出でる。少女が転びかければゼストが素早く抱き止め、暗い足元はルニアが照らした。歌を支えに山巓に至れば―― 「あ……」 「なぁ〜ん……」 薄暮の朱に染まる梢の向こう。湯に煙る眼下の彼方に、黄金に照り返す大きな湖面が見えた。 遂に到達した。一同は泥水と朽葉に汚れた顔を明るくし、湧水に冷えた手と手で握手を交わす。下り坂の途中からは、久々に人道もある。足の逸るまま転げ落ちぬ様、一同は最後の道を急ぎ進んだ。
●湯郷に至る 年老いた集落長の天幕に通され、まずはあの山を踏破して来たと名乗ると、それだけで大層驚かれた。山を迂回せずに来た旅客は初めてらしい。宝石の様な果実、あまあまの蜜、味わい深いウィスキー、そしてマンモー肉の香草漬け。どさりと土産を積んで宿泊の交渉に臨む頃には、山越えの猛者の噂を聞き付けた民達が天幕に集っていた。物欲に負けてくれれば幸い、とゼストは思っていたが、食いしん坊を探す手間も省けそうだ。民達の声にも助けられ、一夜の集落民となる許しも程なく得られた。
あけっぴらな湖畔には、脱ぎ置かれた衣服達。ただっ広い湖には、何処も彼処もなぁ〜ん満載だ。常夏の夜を吹く、東からの軟風は清涼。篝火の元、湖岸ではためく白布は何だろう。 「褌ですが、何か?」 ルニア(褌)だった。笑顔が眩しい。ぽろりやもろりを推奨している訳ではないが、やけに開放的な気分だと彼は説く。 「むに湯ー♪」 大自然は、湯煙と名付く視覚的配慮を恵み賜うた。水着姿で湯船に浮かぶファンバスの褐色の瞳にも、むにむにとした尻尾や耳があちこちで心地良さそうに揺れてるや、大勢入ってるんだろうなぁきっと――的な朧げな光景しか映っていない安心仕様だ。 優しくしてなぁ〜ん? こうですか? むにぐにむに…… なぁ〜ん……なふぁ、擽……あふぁはははは! ……なぁん。 湯煙の向こうにラーチェとミオの声が聞こえ、タオル完備で温まるレムの口元が綻んだ。 「温泉、実は入るの初めてなんだ」 傍らのルシファに述べ、ゼストは四肢の末端から骨身に染み入る熱に表情を和らげる。独特な湯の香と、随分と熱く思える温度、煙る視界。五感で満喫すれば、カロアとラーチェの歌声が耳に届く。 ♪ のそのそリンリンのそりんリン くるっと周ってハイ変身付近で戦闘 オー全裸 ♪ オー全裸(なぁんなぁん)♪ ……という合の手はどうですかっ?! 「これだけ爽快なら、鼻歌も出ますよね」 「……だな」
湯浴みを終えれば、此方が集落一番の絶景だと小高い丘に案内された。星空も朝焼けも美しいから、宵越しの宴にも良いと長は述べる。 天幕の設営に勤しむカロア。白く長い髪を首の後ろで纏め直し、レムは火元の維持を努めるラーチェに薪を運び渡す。料理は不得手だが力仕事なら、とは女性としては如何かとも思えたが、一般論は頭の隅に遣って作業を続行した。ゼストは野外用の調理器具を収納鍋から展開する。マンモー肉は肋骨を持ち柄とした骨付き肉に切り分ける。火元の少女に味の好みを問えば、岩塩ごりごりがグッドです、と存外ワイルドな答が返る。日頃母の趣向で淡白な味付けの食生活を送る反動だそうだ。ミオは静月のランタンで手元を照らし、デザート用のマンゴーを大口に切って皿に盛る。道中採取した水気の多い果実も、湯上りの水分補給に提供した。蛍火柄の浴衣姿で、ルシファは泡立つノンアルコール飲料を呷り、炙り肉を食む。岩塩と香草のアクセントが脂の旨味を増し、後を引く美味さだった。獣肉や川魚を手に民達も続々と集い、丘上の賑やかさを増す。
旅路の終わりに万感を込め、少女は暖かな歌を編んだ。出来栄えに感心を示せば、お母様の『うけうり』だ、まじめなのははずかしい、等と小さな頬が染まる。 胸を張れる歌声でなくとも、今宵は楽しんだ者勝ちだ。レムが少女の唄に声を重ね、ルシファも続く。ミオのコーラスに、ファンバスの掌が拍を添えた。 満天の星空の下、仲間達と開くセッションは旅の締め括りに相応しい。ローシュンとゼストはリュートを爪弾く。皆の音と己の音とが重なり、新たな響きを生む。夜のざわめきと幾重の旋律が融け合い、森へ届き山へ響き、空を渡る谺となる。斯様な体験も、この地ならではだろう。唯音の波に、心身を委ねた。
(「笑い声は、良いな。何だか安心する……」) 故郷の森にいた時とは違う、穏やかな気持ちが胸裡に湧く。いつまでも、こんな日が続けば良い。願いを抱きゼストが天を見上げれば、いつか空は紫紺を経て、刻々と朝の色を増し行く。澄んだ大気を胸に満たし、ローシュンは船を漕ぐラーチェの肩にそっと外套を掛けた。少女は寝ぼけ眼の笑顔で彼の懐に埋まる。この手は、小さな依頼主の手引きになれた様だ。温和な男の黒瞳が、静かな慈愛の笑みを浮かべた。
常夏の地を駈け 初めての手触りを覚え 甘やかな果実と午睡と 瞬く光を求め 道なき道の果て 湯郷に至る――
歌声と旋律を焼き付け、冒険者達は再びの暁を望んだ。

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参加者:8人
作成日:2008/03/22
得票数:ほのぼの14
コメディ6
えっち2
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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