【伝説の……】安らぎの緑の大地



<オープニング>


●安らぎの緑の大地
 ――肩より少しだけ長い碧色の美しい髪。落ち着いた雰囲気を醸し、いつも優しく柔らかな笑みを湛えた女性。
 その微笑みの前では、傷ついた者も痛みを忘れ、誰もが彼女に微笑み返すとさえ言われ、彼女の周りには、いつも彼女を慕う誰かが寄り添っていた。
 しかし時が経てば日も沈み、やがては夜が訪れるように、誰しもいずれ、抗うことの出来ない運命の時が来る。
 そうなって……周りから次第に人が離れゆく時、彼女は生まれて初めて涙を流した。
 その涙に空気は震え、大地は戦慄く。しかし、それもいつしか大地に浸透し、木々を育み……小さくも豊かな森を作り出したと言う。

 その森が……深い闇の中から生まれた事は伝わらぬまま。
 
●森に棲む闇
「また、魔物退治の依頼よ。色々と騒がしい時期ではあるけど、やってくれる?」
 運命を信じてる霊査士・フォルトゥナ(a90326)は、少し遠慮がちに冒険者たちに尋ねた。
 霊査士は地図上の1点、小さな森が描かれた場所を指し示し、ゆっくりと告げる。
「この森の南には、比較的大きな村があるの。でも……その村の住民が、昼間のうちに森に入ったきり帰ってこないという事件が続いてるわ」
「その原因がモンスターの仕業、って訳?」
 レア物ハンター・ユイノ(a90198)は、改めて霊査で見たであろう真実を確かめるように聞いた。
「ええ。森には四つ足の凶悪な獣が棲んでいるの。行方不明になった人たちは皆、その魔獣に喰べられたようね……」
 フォルトゥナが、言葉を濁すでもなく、衝撃を語った。
「じゃあ、その魔獣とやらを倒せば良い訳?」
「そう。でも、そう簡単じゃないわ。魔獣はいつでも現れる訳じゃないみたい。だとすると出現するための条件がある筈。それともう1つ。魔獣の傍らには美しい髪の女性がいるの。女性と言っても、そんな姿をしているってだけで、モンスターであることに変わりはないのだけど」
 ユイノの問いかけに、おまけ付きで応えるフォルトゥナ。そのまま一拍ほどの間を開けると、さらに説明を続ける。
「魔獣は、かなり機敏で強力な顎と鋸状の無数の牙を持ってる。離れて攻撃できる訳じゃないけど、対象を咬み千切り、喰らう。一撃の破壊力はこの間の炎以上に、侮れないものがあるわ。その一方で女性の方には攻撃的な様子はない。視える限りでは何かをしている様子はないのだけど、大概は治癒とか、何らかの支援・防御系の力を持ってるんじゃないかと思うけど……」
 霊査士は自信なさ気に言葉を紡いだ。すべてを見通せないことが、少々もどかしいかのように。
「分かったわ。その森に行って2体の魔物退治ね。OK! ところで……」
 相変わらず、懲りるとか、遠慮するとかっていう言葉を知らぬユイノ。
「また、特産品? たしか……変わったお茶があると聞いてるわ。季節の花の香りを茶葉につけたもので、淹れるとお茶の香りを邪魔しない程度の微かな香りながら、飲んだ時にはそれが深く感じられるとか。今の時期だと、そうね……梅の香りかしら。あとは少し待てるなら桜とか? 何でも作れる訳じゃないでしょうけど、希望があるなら伝えてみるのも有じゃないかしらね」
 と、飲み物と言えば専ら酒派の霊査士としては、さして興味深くはなさそうに、告げたのだった。


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参加者
白陽の剣士・セラフィード(a00935)
紅桜の不老少女・エメロード(a12883)
ちょ〜トロい術士・アユム(a14870)
守護者・ガルスタ(a32308)
御茶菓子・カンノン(a32366)
人生はシュガーレス・グレゴリー(a35741)
月の揺籃・アニエス(a35948)
戦士・アヅナ(a37202)
不浄の巫女姫・マイ(a39067)
天魔伏滅・ガイアス(a53625)
NPC:レア物ハンター・ユイノ(a90198)



<リプレイ>

●魔の森
 ――霊査にあった夕刻。
 しかし、その少し前に森に足を踏み入れた冒険者たちは、魔物が現れた辺りを中心に捜索を開始していたものの、痕跡の1つも見つけられずにいた。
「たしか……現れたのは夕方、ということでしたねー」
 円を成した陣形を保ちつつ、その後方よりに位置する、紅桜の不老少女・エメロード(a12883)が呟く。
 そろそろ……という警戒心の著れだろう。
 だが、それから暫く、完全に日の落ちようとする頃合いを迎えても、魔の気配すらも感じられやしない。そこで、守護者・ガルスタ(a32308)が、ゆっくりと口を開いた。
「敵の現れる条件は時だけではない、か……。だとすると、離れる、という行為も条件やも知れぬ。一度、森から出ようとしてみねばな」
 その言葉に異を唱える者はない。即座に踵を返し、森を離れようとして見るものの……森には何の変化も見られなかった。
「どうやら、まだ足りねぇようだな。仕方ねぇ、被害に遭った村人同様、昼間っから入ってみるか」
 と、天魔伏滅・ガイアス(a53625)。疼く腕と逸る気持ちを抑え、翌日を待つのだった。

 ――そして翌日。
 先の言葉通り、早いうちから森へと入った一行は、被害者の足跡を辿るように狩りを試みつつ、魔物の潜みそうな場所や戦いに適した場所を隈無くチェック。瞬く間に昨日同様、夕刻を迎えるのだった。
「さっ、そろそろ帰りましょうか」
 必要以上に大きな声で呼びかける永久凍土・グレゴリー(a35741)。
 できることは粗方試したとの自負もある。故にこれで駄目なら……打つ手はない。
 が……あと少しで森の外が見えようかという頃、不意に周辺の空気が冷えた気がした。まるで温もりが夜露に変わるかのように。
「来ます、か!?」
 戦士・アヅナ(a37202)が身を少し奮わせながら呟く。恐怖ではなく勇気、怯えではなく……覚悟!
 そのとき、不意に後方から獣の低い唸り声が響く。さっきまで何も居なかった所……だがそれは、ようやくの敵との邂逅を意味していた。
 求めていた者に出会う瞬間――冒険者たちは何を思うより先に、そちらを振り返る。
 四足の黒き魔獣。そしてその遥か後ろに控えし影。はっきりとは見えないが、薄い翠の髪……人!? が、その影から伝わってくるのは、明確な害意。後ろからでも行く手を阻むという――。
「やはり、相容れられない存在と割り切るしかないわね」
 自然、先頭となった白陽の剣士・セラフィード(a00935)がブーメランを構える。
「そう……置いて行かれるのは辛いよね。でも、倒さなければ別の意味で遺される人達を増やす事になる。だから、せめて寂しくないように一緒にお往き」
「どんなに素晴らしい力でも……永遠だけはもたらす事ができないのね。あなたは今、永久に続く時の中で何を思う? 時の牢獄に捕らわれた貴女を、解放するわ。愛する者たちの待つ世界に――」
 優しい声音で語りかける禍音・アニエス(a35948)と不浄の巫女姫・マイ(a39067)。
 それは、伝説を『今』に投影した彼らの言霊。
(「……送って……あげる」)
 その、声なき声が始まりを告げる合図。類を見ないほど長き死闘の始まりを――。

●魔獣の牙と癒しの業
 だが最も早かったのは、霊査士の言葉にもあったように想像以上に早い魔獣。4本の足で大地を蹴り、先頭に位置するセラフィードを組み伏せるや、強靭な顎で彼女の首筋を……。
 血の飛沫が辺り一帯に派手に飛ぶ。もちろんその一撃で意識を奪われるまでには至らないが、相当にキツい一撃。
「くっ……」
 その魔獣の顎を力ずくで引き剥がすと、膂力を駆使して撥ね退け、首筋を押さえながら後ろに下がる。
「おい! 良いのか!」
 そう声を掛けたのはガルスタ。自らの鎧を強化しつつ、未だその能力が不明な女性の方へと寄ってみせる。魔獣の行動パターンを見極めるため。
「治すのはちょっと待ってて。みんなを守ったって〜なぁ〜ん」
 ちょ〜トロい術士・アユム(a14870)がセラフィードの傷の様子を窺った上で、天使を呼ぶ方を選ぶ。より多くの仲間を救うという判断だった。
 一方、アニエス、マイ、御茶菓子・カンノン(a32366)の3人は相次いで黒い炎を身に纏う。そしてガイアスは、魔獣の速さに瞬発力で対抗すべく足捌きを強化。更にはグレゴリーが先行したガルスタに並ぶや、女性に向け雷光を迸らせる。
 その瞬間、魔獣の眼光がグレゴリーを鋭く射抜いた。その変化を余さず見て取ったのは、その身体に流れる狂戦士の血を覚醒させるように熱く見据えるエメロードと、今回は無茶な接近を控え、ブーメランをその手に掴むアヅナ。
「やっぱり、彼女への攻撃が鍵でしょうかー」
「でしょうね……まず間違いないと思います」
 そんな2人の慧眼は、極めて正確だった。緑の髪の女性を傷つけたグレゴリーに対し、魔獣が一足飛びに前に飛び込み、鋭い顎を突き立てる。
 再び、鮮血が派手に舞う。
 それと前後して当の女性の方は、瞳を閉じ手を合わせたかと思うと、雷光によって傷ついた肌が瞬く間に綺麗な艶を取り戻したのだった。
「やっぱり……集中させないと厳しいかしら」
 それを目にしたセラフィードが、軽く首を捻ってからブーメランを放つ。血は……まだ止まってはいない。
 ガルスタは更なる魔獣の牙に備え、グレゴリーの鎧にも聖なる力を分け与える。そして傷ついたままのセラフィードとグレゴリーを癒すのは、アユムとカンノン。聖女の力と勇壮なる歌が、2人の傷の殆どを癒し、更に止まらずにいた出血をも何とか塞いで見せた。
 ふぅ、と安堵の息を漏らしつつ、マイがアヅナの負傷を引き受ける為の誓いを胸に抱き、アニエスが悪魔を象った炎を魔獣に向けて放つ。
 しかし炎は魔獣に当たる寸前、あり得ない反応で綺麗に躱され、火傷1つ負わせることも適わない。代わりに炎を避けた先に居合わせたエメロードが、その場で魔獣の身体を掴み頭から投げ落とした。
 そして更にユイノの放った一矢が、一瞬だけ動きを止めた魔獣の躯を寸分違わず貫いた。
「やった!」
 それは忌まわしき牙。瞬く間に魔獣に身体深く食い込み、ヤツの躯を蝕んでゆく。
 同じ頃、ガイアスもまた手にした十字の槍で女性を貫き、忌まわしき矢と同様に彼女の躯を蝕もうと……。
 しかしそれも束の間。続く雷光やブーメランによるダメージ諸共、彼女の癒しの業の前に無に帰すのだった。

●気持ち……
「振り出し……かしら」
 少なからず落胆を隠せぬマイ。
「そんなこと……ない筈やなぁ〜ん。あっちの獣ちゃんのほーは、傷が残ってるんやなぁ〜ん」
 激しい応酬の中、辛うじて正確に状況を把握していたアユムが告げる。
(「それならそれで……」)
 戦いようもある、とガルスタはガイアスの防具にも力を付与。その間にも傷を厭わぬ魔獣の顎によって鎧ごと貫かれ、一段と激しく赤い飛沫が飛び散る。
 それだけに、深い裂傷と激しい出血とを癒すのはアユムとカンノンの2人がかりでも完全とは言い難いほど。
 その間にもセラフィードとアヅナ、2人のブーメランが空中でクロスし、女性を襲う。さらにガイアスの十字槍が忌まわしき牙を以て女性を貫く……かと思った瞬間、神速を以て姿を現した魔獣がその間に割り入った。魔獣の躯を貫いた穂先は、それ故に女性には届かない。
「今なら、もしかしたら……」
 まだ残る痛みを堪えながら、グレゴリーがさらに雷を放つ。たしかに動けぬ魔獣にそれを防ぐ術はないものの、まだ決め手に欠けており女性を斃すには至らない。
 同様に動きを止めた魔獣にアニエスの炎が再び炸裂。更に追い討つようにマイもまた炎で魔獣を貫く。そして一気呵成とばかりにエメロードが竜巻を起こし、今度は女性ごと巻き込む一撃を放つ。
 魔獣の凄まじい咆哮。だが、それは断末魔には至っておらず、激しい苦痛の叫びに過ぎなかった。
 ――あと一歩。アユムかカンノンが攻撃に加わっていたか、あるいはユイノの攻撃が間に合っていれば倒せたのかも知れない。が、それより早く女性が再び瞳を閉じたように見えた。
 その途端、魔獣の傷は見る見る塞がってゆき、躯を貫いたはずのガイアスの槍すらも、再生する肉体に押し出されるようにして弾かれてしまう。
「まったく……キリがありませんね。これではこちらの回復が底を尽きそうですよ」
 そんな攻防を更に幾度も繰り返すうち、ついには辟易したような声でカンノンが呟く。まだマイが時折治癒に回れることや、前衛の面々に『歌』がある限りはやや互角以上に戦えるが、回復が尽きればそうはいかないのだから。そして……その時はもう、すぐそこに迫っていた。
「その前に……倒してみせるわ」
 セラフィードが純粋な決意を以て女性の方を見据えた。ここまでの戦いで見えた魔獣の行動パターンは極めて単純。先に女性に大きな攻撃を加えた者、あるいは最も脅威を感じさせたものを狙うように見受けられる。
 そして次なる標的は……再びレイジングの副作用で動けなくなったエメロード。動けぬ彼女を魔獣の牙が襲う。それを先に読み、魔獣の動線を封じたセラフィードは、敢えて自らその凶刃に掛かってみせた。
 大量の血飛沫と共に激痛が走るも、全身の力でそれに堪え、仲間たちに笑顔を向けた。その笑みが示す意味は、すぐに皆にも伝わる。
 すべての回復行為を後回しにした一斉攻撃。総掛りで、これまで以上の苛烈な攻撃を繰り出す。
 ガルスタの岩をも断つ一撃、ガイアスの忌まわしき牙を持つ槍撃。カンノンの黒き炎にアヅナの武人としての魂を乗せ旋回する刃。そしてグレゴリーの雷。
 しかしそれらを以てしても女性はまだ倒れない。か弱く見えども、間違いなく屈強なモンスターの1つであった。
 が、攻撃が足りないと思わせる事それ自体が作戦の中。その間に残る面々は魔獣に向けて攻撃を放っていたし、それでも女性の治癒は遠い魔獣ではなく自らの身にのみ向けられる筈だから。
 そして、遅れて彼女の傍に戻った魔獣の牙を、今度はガルスタが引き受ける。
「私の身体など、好きなだけ持って行くがいい。私は盾であり鎧である重騎士なのだから。ましてや守護者を名乗り、護る事を誓う以上、そう簡単に倒れはしない!!」
 その間に改めて魔獣へと攻撃を集中させる面々。いくつもの炎が弾け飛び、雷光が迸る。そして……魔獣の最期となったのは、アニエスの放つ悪魔の炎。
 漆黒の炎が魔獣を喰らい尽くすかのように蹂躙し、跡形無く灼き尽くす。これまでにない程に大きな絶叫が響く。そして後に残ったのは――魔獣の形を残した黒き影。
「さぁ……お逝き」
 静かな声音ながらも、影となった魔獣が抗うことはない。ゆっくりと、しかし生前同様の力を以て女性へと襲い掛かる。

●安らぎの緑の大地
 回復したばかりの筈の女性。だが、その身を守ってくれる魔獣はもういない。それどころか今や……。
 だが、冒険者たちとて、ここで気を抜く訳には行かない。再び一斉に攻撃を加えようとした、その刹那。
 !!
 女性の瞳の辺りで何かが光ったように見えた。
「涙……!?」
 それはあり得ない。モンスターは感情も知性も持ち合わせてはいないのだから。
 ほんの僅かに出足の鈍った瞬間――いきなり大地が大きく揺れた。
 その振動は大地を割り、周囲の木々を呑み込んだ。そして、中心の女性とそれを襲う魔獣……そして、冒険者たちすらも。
「危ない! こっちへ掴まってください!」
 中心から広がる地割れだけに、辛うじて陥ちるのだけは免れる一同。だが、怪我を残していた者だけは無傷という訳にはいかない。――辛うじて一命だけは取り留めたけれど。

 そうして、再び安らぎの戻った緑の森を後にする冒険者たち。村に戻り、それぞれに好みのフレーバーのお茶をオーダーする。
「少し時期が早いみたいですけど、桜の花の物をお願いできるですかー? ちょっとでも、いっぱいでも待ちますですよー、はい。エメロード宛に後日、ノソリン便で……」
「私も待ちますから、是非、薔薇のお茶を。出来れば……紫の物があればお願い致します」
 そんなオーダーの中、さすがに難しかったのはハイビスカス。これは村の者たちがどんな花か分からなかったらしい。ガイアスは代わりに桜を頼むと、改めて深く礼を残して村を後に。

 そして、霊査士の待つ酒場への帰路。
 村を出てから、そっと森の方を振り返るグレゴリー。
「寂し……かったんでしょうか!?」
 その答えは今や、誰にも見つけることはできなかった……。

 【終わり】


マスター:斉藤七海 紹介ページ
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参加者:10人
作成日:2008/03/31
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冒険結果:成功!
重傷者:白陽の剣士・セラフィード(a00935) 
死亡者:なし
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