ドラグナー、愚者の行進



<オープニング>


「おらおらおら! 死にたくなかったら大人しくしな!」
 野太い男の怒声が響き渡り、ぞろぞろと何人もが村の中を進んでいく。
「よせ、やめろ……」
「うるさい! 死にたくなかったらこうするしかないんだよ!」
 抵抗しようと立ち向かった男性を、行進の先頭にいた男が殴りつける。倒れる男性、拳を握る男、行列の一行を批難混じりの視線で見つめる村人たち……そんな中に場違いな笑い声が聞こえてきた。
「はっはっは……そうだね、下手なことをすれば死ぬことになる。それが嫌ならこっち側に来るしかないもんね」
 笑い声の主はそのままの口調で右手を振り上げ、振り下ろす。その手はよく見ればハンマーのような形状をしており、殴り倒された男性を容赦なく叩き潰した。
 ぴちゃ……。
 血の滴が落ち、辺りの空気が凍りつく。そんな中で一人――ドラグナーだけは変わらぬ口調で言葉を続けていた。
「私に従い誇りを捨てて生きるか……逆らい死ぬか……どちらが愚者なんだろうね」
 ドラグナーは対照的な村人たちの様子を眺めながら、ぺろりとハンマーに付いた血を舐めるのだった。

「ドラグナーが辺境の村を制圧してしまったようです」
 真実求む霊査士・ゼロ(a90250)の言葉に冒険者たちも席に着き、話を聞き始めた。
「その戦闘力に屈した何人かの村人はドラグナーの手下となり、村から食料や衣服、家屋などを奪ってドラグナーに提供するようになってしまいました。逆らえば殺されるという状況なので仕方が無いといえば仕方ないのですが……」
 ゼロは一瞬言葉を切って、小さく拳を握り締めた。
「手下たちは時折村人を襲っては略奪行為を繰り返しています。ドラグナーは様子を見に来る時もあれば放置している時もあるようですね。ドラグナーが来ていない時は村人同士で争いになり、双方に怪我人が出たこともあったようです」
 ドラグナーが来れば一方的に村人側が不利なのだが、ドラグナーもこの状況を楽しんでいるのか、一気に村人を虐殺したりするそぶりは見せないらしい。
「略奪に出向く手下たちは行列を組み、さながら行進のようだといいます。このタイミングを狙って屋敷でくつろぐドラグナーを狙うか……様子を見に出てきた時に襲撃を仕掛けるか……どちらにしろ、手下が何人か周囲に居る可能性が高いです」
 屋内か、屋外か、手下が居るか、抵抗側の村人が居るか……様々な可能性を考え、あるいは目的の状況を導き出す為に、作戦を立てる必要があるだろう。
「ドラグナーはハンマー状の腕を持っており、敵を叩き潰す攻撃を得意としているようです。その容姿通りかなり力が強いようですので注意してください」
 手下となった者たちをどうするか……それは冒険者たちの裁量に任せるとゼロは言う。
「何にしろ、ドラグナーの魔手から村を救うこと……それが目的になります。どういう結果が生まれるかは、皆さんの働き次第ですからね」
 ゼロはそう言って、冒険者たちに一礼を送るのだった。


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参加者
無我の奉仕人形・リーシュ(a05009)
個人部隊・アモン(a16004)
緋眼の翼・セレ(a31104)
青・ケロ(a45847)
忍び・ユーセ(a46288)
慈愛の聖母騎士・ニーナ(a48946)
蒼紅の焔・ラキ(a61436)
樹霊・シフィル(a64372)
黄金の雷竜・ゼル(a71447)



<リプレイ>

●潜入作戦
 ひっそりと静まり返ったその村に、幾つかの人影が侵入していた。
 ドラグナーの出現により、村人同士でさえ互いにいがみ合い気の許せなくなってしまった村……そのせいか往来にはほとんど人通りも無く、侵入者に気付く者も無かった。
「どらぐなーちゃんをやっちゅければ、みんなまたなかよくなれまちゅ……よね」
 そんな村の様子に心を痛める無我の奉仕人形・リーシュ(a05009)だが、今は迷っている時では無い。自分達が動かなければ、この状況も決して変わることはないのだ。
「……何であれ、ドラグナーを排除は必要事項。皆様、参りましょう」
 冒険者たちは誰にも悟られぬように、ドラグナーが居座っているとおぼしき屋敷の前へと集まってゆく。
「全員か?」
 それぞれがマントや布を用いて姿と武器を隠している。オーバーフラッグス・アモン(a16004)はその場に集まった者達へ視線を巡らせて小さく言った。
「まずはここで張り込んで、様子を伺いましょう」
 冒険者たちがこのような策を練ったのには理由があった。鋼鉄の刺客・ニーナ(a48946)が言うように、状況を見極めねば無駄な犠牲を出しかねないのである。
「あれか……上手くやらねぇとな」
 神ノ手ヲ振リ払イシ・ラキ(a61436)が手で小さく合図をする。その示す方向を見れば、何人かの人影が屋敷から出てくるところだった。
 ドラグナーの恐怖に屈し、その手下となってしまった村人たち……それをどうするかが、今回の作戦で重要な問題だったのである。

●捕縛と尋問
 その行列にはどうやらドラグナーの姿は無いようである。手下たちの捕縛を担当する何人かの冒険者たちは、そっと気付かれぬよう静かにその後をつけていった。
「……」
「何だ? どうした?」
 言葉も無く、何人かがその場に倒れていった。驚き騒ぎ出す人々の耳に届くのは、緋眼の翼・セレ(a31104)の奏でる眠りの歌だった。
「長い物には巻かれろ……とは申しますが、此度の相手では巻かれる方が気の毒でございますね」
 そこに樹霊・シフィル(a64372)も眠りの歌を奏で、手下たちを次々に眠らせてゆく。雲童・ユーセ(a46288)も粘り蜘蛛糸を使用し、手下達を完全に捕縛した。
「捕まえて、屋敷の情報を聞き出しましょ〜」
 ロープで結わえた手下達を、騒ぎにならないように移動させる青・ケロ(a45847)。これで抵抗を封じ、屋敷内のドラグナーについて情報を聞き出せればいいのだが……。
「ドラグナーに恐怖して言う事を聞いているのなら、協力してくれるはずだが……」
 リザードマンの狂戦士・ゼル(a71447)は武器を見せての威嚇も行い、何とか話を聞きだすことに成功していた。しかし『恐怖』を突きつけて相手を動かすその行為に、どうも気乗りしないものだと言葉を濁す。
「あの外道を、何が何でも打ち倒す……。その為に今は、多少の毒も喰らうさ」
 ゼルはぐっと拳を握り締める。手下から聞き出せた情報によって屋敷内のドラグナーが居る部屋のこと、まだ手下達は屋敷内に残っていることが判明した。冒険者たちは視線を交わして頷き、行動を開始する。

●血塗られた槌
 ばぁん! と扉を蹴破り、冒険者たちが部屋の中へ踏み込んでゆく。その中には聞き出した情報どおりにドラグナーと数名の手下達の姿があった。
「へぇ……来たのか。まぁ、そろそろ潮時かと思ってたんだけどね」
 部屋の中央に居座るドラグナーはやれやれと言った様子で冒険者たちを迎え入れるが、周囲の手下達はどうしたらいいのかとうろたえているようだった。
「邪魔だ! どいていろ!」
 手下達へと一喝し、アモンはイリュージョンステップの構えを取る。
「命惜しさにアイツの手下に成り下がったんだろ? ここでウロチョロしてっとせっかくの命無駄にすることになるぜ?」
 ラキも言葉の威圧だけを送り、黒炎覚醒で邪竜の炎をその身に立ち昇らせた。
「動くな、動けば殺す。今逃げ切ったとしても、後で殺す」
 冒険者たちの言葉の威圧を、ドラグナーが言葉で上書きする。動けばいいのか、動いてはいけないのか。二つの恐怖に挟まれて、正常な判断ができる一般人はその場にどれだけ居ただろうか。
「もう、止めさせていただきます」
 この行いか、動きそのものか。シフィルは緑の縛撃を解き放つ。しかしドラグナーは降り掛かる木の葉を避けつつ、ハンマーの形状をした腕を振り上げた!
「逃げるのか? あっちの味方なのか? なら敵だね!」
 がっ、ごがっ、ぐしゃっ!
 骨が砕けて肉が潰れ、血が飛び散る。ハンマーが打ち砕いたのは、逃げようと動き出した手下達の何人かだった。
 ざわ……と生き残っている手下達が青ざめてざわめく。その様子をさも愉快そうに眺めながら、ドラグナーは血に濡れたハンマーを構える。
「これ以上犠牲者が出ないように、大急ぎで倒しちゃいましょ〜」
 細身剣を抜き放ち、ケロはミラージュアタックで斬りつける! ドラグナーはがきんとハンマーで受け、ざっと小さく跳んだ。
「おっと……恐い恐い。これは皆に守ってもらわないとね」
 ドラグナーは動けぬ手下達の後ろに回るように移動して、軽く言い放つ。
「怪我したくなかったら雑魚が邪魔すんじゃねぇ!」
 紅蓮の雄叫びでゼルが動けぬ手下達を麻痺させる。そこにユーセも粘り蜘蛛糸を投げ放ち、ドラグナーの動きを拘束しようと試みる。
 ドラグナーは降り掛かる糸を腕で払う。その動きからゼルの紅蓮の雄叫びも成功しなかったようだが、その間にユーセとケロは動けない手下達を運び出そうと動き、セレも土塊の下僕を召喚して移動させようとする。小さな土塊の下僕に、人を運ばせる……。とても大変そうでずりずり引き摺られていた。相手は動けないが、とても辛そうだし、遅い。
「ここはたっぷり思い知らせてやるとしましょう」
 その攻防の最中にニーナは血の覚醒を発動させ、破壊の力をその手に握り締めた。

「なるほど、君たちのやりたいことは分かった。逃がしたいんだね。でも、それを許すと思うかい?」
 ががががががっ!
 立ち竦み糸に絡まれ動けぬ手下達を、ドラグナーのハンマーが叩き砕いてゆく。その圧倒的な威力を前に一般人の肉体は、熟れ過ぎた果実のように潰されていった。
「なっ……」
 振り抜かれるハンマーをバックステップでかわすアモン、ばさりとダークネスクロークがなびいた。ニーナはダメージに歯を食い縛りながらも鎧進化を発動させる。
「ちぃっ……」
 巨大剣で捌こうとしたゼルだったが、一気に振り抜くような一撃を捌き切れずに腹部に一撃が叩き込まれていた。痛みに息を吐き、赤い血が流れる。だがその血はゼルのものではなく、打ち砕かれた手下達の血だ。
 ユーセやケロが運び出した者、逃げ出した者は辛うじて難を逃れた。しかし逃げなかった者、マヒや拘束に陥ってドラグナーの近くに居た者は、ここで命を砕かれてしまった。
「なんて……ことを……」
 言葉が続かない。幾つも転がった血まみれの肉塊、かつて命ある人だったものを目の当たりにし……それでもシフィルは手を突き出していた。
 ばさっ、とその手に嵌められた術手袋『緑樹手套』から無数の木の葉が放たれる。緑の縛撃はドラグナーの体に纏わりつき、その動きを拘束した。
「仕留めさせてもらうぞ」
 素早くサーベルを繰り出すアモン、スピードラッシュがドラグナーの脇腹を裂き、ラキのスキュラフレイムが牙を剥く。
「テメェの相手はコッチだろ? よそ見してっとあぶねぇぜ!」
 獅子、山羊、蛇の炎が喰らい付き、爆発炎上した。
「村人いたぶるより、あやとりの方が楽しいと思うよ!」
 ユーセは粘り蜘蛛糸を投げ放ちつつ、生き残りの手下達の運び出しを急ぐ。ケロも惨劇を前に今はその作業を優先しており、セレも土塊の下僕の協力と、自分も運び出しに参加していた。
「治療術式展開、目標固定……起動」
 リーシュはディバインヒールでゼルの傷を癒し、ゼルは血の覚醒で攻撃を強化してゆく。
「親玉さんよぉ! テメェは徹底的に叩きのめしてやんよッ!」
 じゃき、と巨大剣を構えてゼルは言い放つのだった。

 手下達を運び出す冒険者たちの働きによって、何とか生き残りの者達は部屋の外へと出されたようだ。もっとも、その数は本当に僅かになってしまったが……。
「どれほど力に差があろうとも……」
 残像を生み出し、アモンはミラージュアタックで斬り付ける。ざっ、と鋭い斬撃がドラグナーの体を斬り裂いた。
 シフィルは再び緑の縛撃を放ってダメージを与え、ラキは術手袋『ガニルティズィ』を振り抜く!
 ごっ! 『猛けき者』を表すような炎となってスキュラフレイムがドラグナーの体を燃え上がらせる。魔炎と毒と出血と、三つの苦しみがその体に刻まれているはずだ。
「お……のれ……」
 だがその影が炎の中で動き出す。取り巻きが居なくなったことを確認するように、或いは身を蝕む炎に苦しむようにドラグナーは小さく首を振ってから、一足でニーナへと詰め寄る!
「くっ!」
 ぎぃん!
 スーツアーマーの胸の部分を思い切り、ドラグナーのハンマーが叩く! びりびりと衝撃が痛みとなって伝わり、僅かにニーナが後退る。しかしそれは体勢を乱すまでは至らない。重騎士の極意、そして鎧進化の効果もあってかその場に踏み止まることに成功したのだ。
「絞りカスの分際で人間に楯突くとはどこまでも愚かな」
 そこからニーナは攻撃に転じ、パワーブレードを叩き付ける! ずがんと肩口に刃がめり込んだ。そして一撃を受けたダメージは、即座にリーシュが発動させた癒しの聖女がみるみるうちに回復させてゆく。
「こいつがオレの全力だアアァァ!」
 闘気を刃に凝縮させ、ゼルがデストロイブレードを振り下ろす! だがドラグナーはハンマーの面をゼルに向け、正面からその刃をがきんと受け止めた!
「その程度か? ならば恐れるほどでもない!」
 にぃ、と口角を釣り上げてドラグナーはそのままハンマーを振り抜いた。勢いを殺さず、周囲も巻き込む一撃で冒険者たちを攻撃する。
「くっ」
 僅かに腕を掠められ、アモンは一歩後退ってイリュージョンステップを構え直す。
「これ以上、傷付けさせはしません。回復を……!」
 シフィルがヒーリングウェーブを発動させ、振り撒かれる癒しの光が冒険者たちの体力を回復させてゆく。ラキもスキュラフレイムを放つが、今度は受けてなるものかとドラグナーも慌ててそれを回避する。
「攻撃に集中しましょ〜」
 どっ! とそこに突撃するはケロ! ラキのスキュラフレイムをかわした所に脇腹をミラージュアタックで抉られ、たまらずドラグナーの体勢が乱れて片膝が床に着いた。
「そこだ!」
 ユーセも運び出しから戻ってきている。鋼糸『秋霜』を両手に伸ばし、ブラッディエッジを繰り出した。
「お……のれ……ぞろぞろと……」
 ぎりぎりとハンマーの面と鋼糸が擦れて耳障りな音を撒き散らす。辛うじてこれは防御に成功したドラグナーだったが、一つ失念していた。運び出しの行動から戻ってきたのはもう一人居たのだ。
「幾つもの命を奪って……許さない!」
 セレから飛ばされた無数の木の葉が、空中で炎を纏って業火と変わる。緑の業火はドラグナーの体を包み込んで燃え上がった。
「おのれ……おのれ……」
 めらめらと魔炎に包まれながら、よろめくドラグナー。その前にはゼルが立っていた。
「確かにオレの力はまだまだなのかもしれねぇ」
 じゃき、と巨大な剣を振り上げ、力強く構える。
「だがオレには仲間が居る。『恐怖』なんかじゃ無く、『信頼』で繋がった本当の仲間が!」
「強化術式展開……起動」
 言い放ち、地を蹴るゼルに向けてリーシュがディバインヒールを発動させた。その力を受けながら、ゼルはデストロイブレードの闘気を凝縮させる。
「弾き返してくれる……」
 だがドラグナーも最後の力を振り絞るように腰を落とし、ぐっとハンマーを構えて迎撃体勢を取った。このままでは打ち返されてしまうかもしれない。
「死ぬ前に何か言いたいことはあるか?」
 びしっ、とハンマーの腕にニーナの両手剣『レブナント・ブリンガー』がめり込み、砕く。そしてがら空きになった脳天へ、闘気の刃がぶち込まれた。
 ず、ずん……。
 主を無くしたハンマーが床を叩き、一瞬遅れてドラグナーの体が崩れ落ちる。村人達の心を砕き、命を砕いた愚者……ドラグナーは冒険者たちの手によって打ち倒されたのである。

●愚かなるは
「目標の排除を確認……作戦終了です」
 ドラグナーの最期を確認し、リーシュが呟く。確かにドラグナーを倒すことには成功した。しかしその手下となっていた者達の多くはその罪を償うことさえ出来ず、命を砕かれてしまった。
「誰も悪いんじゃなくて、しかたない事だったんだと思います〜」
 皆が言葉を失う中、ケロが口を開く。
「僕らがもっと早くに来ていれば、犠牲になる人も居なかったと思います〜」
 僅かに生き残った手下だった者達を村人へと引き渡し、シフィルも後は村人達に任せようと瞳を閉じた。
「俺達に出来るのはここまでだ……」
 確かに、この地で冒険者が出来ることはもう無いのかもしれない。後は村人達で、現実を生きてもらうしかないのだ。
「ドラグナー……早くこの世から消えてほしいものですわ」
 全ての悪夢を生み出した存在に言い捨ててニーナはその地を後にする。冒険者たちも小さく頷いて、それぞれが帰路に着くのだった。

 (おわり)


マスター:零風堂 紹介ページ
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参加者:9人
作成日:2008/03/21
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