<リプレイ>
星喰らう蒼き闇・ラス(a52420)、大地に立つ。 「私は帰ってきたー。もう一年になるのか」 しみじみとしつつ、立つ。 バイオリン奏でる葡萄酒ボトル、ヨーデル歌う謎チーズ、顔だけ牡蠣の不謹慎紳士、シンバルばんばんフォアグラ人形――これが、一年前に出現した『ワンランク上のグルメども』のすべてだ。ラスはそのうち、チーズおよびフォアグラ戦に参加し勝利した。そしていままたその記録に、新たな、ありがたくないかもしれない一ページが加えられようとしている! それが (「あれなんだもんなー」) あの敵、トリトリとヘンチクな声で鳴きながら、一行にせまりくる巨大すぎなトリュフであった。半月型の目は怒ったような表情だが、大きくて丸みを帯びており、まったくもって恐くない。 「こういうモンスターに縁がある気がする……。問題だなぁ」 ラスは苦笑いだ。なんというか、どんな冒険者だったのか聞いてみたい気がする。 深淵の流れに願う・カラシャ(a41931)は思わず吹きだしてしまった。 (「か、かわいいかもしれません」) しかしここは戦場、横を向いて笑いをこらえる。 (「モンスターの被害を出さぬため、そして白トリュフのため!」) なんとか笑いを封じ込み、カラシャは戦闘姿勢をととのえた。 しかししばらく待つことになる。トリュフ怪物の移動速度はずいぶんとトロいのである。 「トリートリー」 威嚇の声ばかり勇ましいが、ぽちぽちした歩みは歩きはじめた乳飲み子さながらだ。しかも、雑木林に棲息するわりに木々を避けるのが苦手らしく、しきりと木にぶつかったりつまづいたりしている。 そんな敵になかばあきれつつ、閃火燎原の・スゥベル(a64211)はいう。 「へぇ、トリュフってあんな風に鳴くのですか……、ンなバカな……」 なるだけ敵に見つからないよう苦心してここまできたが、運悪く見つかってしまってもこの様子だ。いささかのんきな心情である。 ここで、饗宴の思索者・アレクサンドラ(a08403)が咳払いして仲間たちに講釈する。 「世界三大珍味のひとつと称されるトリュフ……芳醇なその香りは、用いられた料理を魅惑のヴェールで包み込む。トリュフを使用したメニューは様々あるようだが、過去に文献で触れたなかで衝撃的だったのは」 と長口上になってくるのにまだ敵はたどりつかない。 「……いかん、語っている場合ではない。とにかくいまは、なにやら生まれをまちがってしまった相手を止めることが先決のようだね」 ようやく敵が射程距離にきたのでアレクサンドラは構えた。たまにはこういう敵もいいだろう。 スロースタートとなったがここで戦闘開始である。 「変なモンスター〜♪ 頑張って、美味しいキノコをゲットだよ〜♪」 春風に舞う鈴の音・アンジェリカ(a48991)は楽しげに、ダンスできたえた足腰も軽く、 「いっくぞ〜〜♪」 とトリュフの塊に巨大剣で挑みかかる。だがしかし、アンジェリカの攻撃は当たらなかった。 「あ、当たらないのですよ〜」 「なんだと!? あの怪物、どうやってかわした!」 これを目にして、折れた牙・エル(a72117)の表情は一変、眉間に陰影をつけつつアンジェリカにつづいた。その得物は雌雄一対の手斧だ。横ざまに殴り抜ける。鈍い音をあげ斬撃が命中するも、 「あのよー、なんかコレ、全然効いてねー気がするんだけど?」 エルは戸惑った。いうならば上滑りした様相、攻撃に手応えがないのだ。 婀娜華・マルガレーテ(a70142)も同様らしい。 「私のナギナタが、効かない」 跳躍し一閃したものの、マルガレーテはトリュフに有効な一撃を与えられなかった。 ちらとマルガレーテはエルを見る。かれはこれを受けて、 (「なにが『私のナギナタが』だが」) と笑い飛ばしたくなるのを懸命にこらえていた。そう、アンジェリカをはじめ、前衛陣がことごとく攻撃に失敗しているのには理由があるのだ。 かれらの目的は、トリュフにこちらを侮らせること。そのため各人、あえて苦手な攻撃方法に挑むという擬装行動をとっていたのである。ピースメーカー・ナサローク(a58851)も熱演、 「くっ、この硬さ……これがトリュフモンスターの本領というのか」 と声を漏らしていた。ただでさえ切れ味の悪い剣の、さらに柄元で脱力して攻撃しているのだから当たり前なのだが。 このように冒険者が加減している一方、トリュフの攻撃は本当に強烈である。 ぶん、と大振りでぶつけられた腕は丸太のようだ。黒き咆哮・ルージ(a46739)はこれを受け、奥歯をかみしめて痛みに耐えた。勢いはもちろん重さもあり、骨が砕けそうに思う。 「見た目とちがって……いや、見た目どおり本当にすごいなぁ〜ん」 両腕と胸がビリビリとしびれる。あらかじめ鎧進化をかけておかなければ、大きな被害をうけていただろう。 「さすが、すごい食べ物なぁ〜んね」 やっぱり高級食と、ルージは妙に納得していた。 そんなルージを人形遣い・トラス(a58973)が治療する。 「なんと激しい攻撃……! 本当に大ダメージを負うわけにはいきませんよね」 つぎは護りの天使達を発動するとしよう。トラスはそう考えた。しばし不利をみせかけるとはいえ、あまり気を抜けば危険なことになりそうだ。本気で戦うより、本気をよそおって戦うことの難しさよ。 駆ける駆けるよスゥベルは、あえて前衛となりスティードにまたがっている。 「いくよ突撃、全力前進! ちゃー!」 グランスティードは疾走し、みるみるトリュフに迫るのだ。紋章術士ゆえ普段は後衛の彼女だが、この機会はまさしく好機、とあえてスティード突撃を試す! 風が頬をうつ。スゥベルの灰色の髪は生き物のように躍り、なびく。 「ちょっと快感……」 そうか突撃ってこんな気分ですか、くせになるかも――とスゥベルは思ったがそれもここまで。 白く長い腕からカウンターパンチが飛ぶ。回避もままならず、彼女はトリュフにぶん殴られ空を飛んだ。 「きゃっ!」 なかなかキュートな叫び声だが本当に痛いぞ! これを見てラスも、 「おのれ、百戦錬磨のスティード乗りスゥベル(※もちろん嘘)をたやすく撃破するとは! 俺の怒りのリングスラッシャーを……なにっ! 効かないだと!」 なにげに演技に熱がこもってしまう。 「我らヘタレーズ、これほどの敵に会ったのははじめてだな」 エルもそんなこといいながら微妙な攻撃をつづけていた。 (「なんだそのチーム名は?」) マルガレーテは内心ツッコみつつも、なんとなくそのネーミングは気に入っていた。 「狙うなら私を狙え、キノコ! ヘタレーズのマルガレーテが相手だ!」 ナギナタふりまわしマルガレーテは挑発気味にいう。 アンジェリカはガッツソングでみなを励ます。 「キノコ食べる前に倒れたらだめだよ〜♪ レッツゴーゴー! ヘタレーズ!」 敵有利の状況をたもちつつ、重症を受けないようこまめに回復しなければならない。むずかしいバランスではあるが、アンジェリカはこの戦闘を楽しんでいた。 この攻防はうまくいっているようだ。ヘタレーズの攻撃のユルさに、トリュフも機嫌をよくしたらしい。怒っていた目がいくらか垂れ下がる。 「トリートリー」 いいながら怪物は後方の腕二本で、地面をガリガリと掘り始めていた。 このとき前衛に参加中のカラシャは、怪物の腕がトリュフを掘り当てたのを目にした。 「その白トリュフ、私たちがいただきましょう……ええ、貴重品ですから!」 派手に鳴るなりファンファーレ、カラシャが偉大なる一撃で麻痺を狙ったのだ。残念ながら麻痺まではいかなかったが、モンスターはポロリとトリュフを取り落とした。 「うぉお! お化けトリュフめ、攻撃しつつトリュフ掘りもするとは見あげた美食家!」 多少オーバーながらアレクサンドラの叫びは本心からのものだ。ただし、感心しつつも魅了されず、ちゃんと攻撃を回避しているあたりがアレクサンドラらしくもある。アレクサンドラもいまは前衛、パンチパンチと連打する。 戦いはつづき、掘り出されたトリュフはやがて一山ほどになる。貴重品の白トリュフが山盛りというのはなかなか壮観だ。 (「とりゅふのために……ガマン、なぁ〜ん」) と、作戦にしたがってルージは本気で攻撃できなかったのだが、そろそろいいのではないかとナサロークを見た。 「そうだな」ナサロークはルージに返事する。「ヘタレなヘタレーズはここまでにするとするか」 機が熟したのをトラスも察している。いざ、とばかりトラスは悲痛な声を漏らした。 「皆さん、諦めないで下さい! なんとか体勢を整えましょう!」 演技過剰気味につげ後退を指示する。これはもちろん、白い宝石のごときトリュフの山から怪物をひきはなすためだ。 「や〜〜い、このキノコお化け〜♪ お前なんか、怖くないぞ〜♪」 焼いて食べちゃうぞ〜♪ アンジェリカはダンスの動きで大挑発。つづけてワッと逃げ出した。 「トリー!」 狙い成功、トリュフ野郎は、またものろっちい足どりで追ってきた。
「トリー?」 トリュフはつんのめって止まった。とまどっているようでもある。樹木少なくひらけた地帯、逃散したかに見えた冒険者たちがここに、逆にまちかまえるようにして円陣を組んでいたからだ。あれよというまに怪物は包囲されてしまう。 そこに轟く哄笑! 木々にこだましエコーした。 「ふははは、貴方はもう用済みなのですよ!」 トラスだ! 同時に強く逆風が吹き、トラスの髪をはたはたとはためかす。してやったりというその表情、悪の貴公子然としたポーズも惚れ惚れするではないか。 いや、トラスだけではない。ヘタレーズの様子が激変していることは一目瞭然だ。マルガレーテは武器の握り方を変え、スゥベルとカラシャ、アレクサンドラは後衛に後退している。いずれの顔にも力が満ちていた。 「なぁおい。悪ぃーな、そろそろこの遊びに飽きてきたんだってよ……こいつらがさ」 エルはニヤリと笑う。もう手加減は必要ない。 「いささか可哀相だが、そういうことだ」 ナサロークも剣をもちかえ、本来の構えをとっている。 そして、仲間たちの意を代表するようにアレクサンドラが宣言する。 「いくぞ、美食でありながら美食ならざるものよ!」 かくて真なる闘いの幕は切って落とされた! すでにナサロークは地を蹴っている。 「私たちの本気、知ってもらおう!」 つづけてラスも 「ごちそうさま、と先にいっておくよ」 と宣言し黒炎覚醒を発動する。 攻撃陣にはもちろんルージも加わっている。 「いままでの痛みをお返しなぁ〜ん! ですとろいなぁ〜ん!!」 ルージはことば通り力強く、正真正銘本気のデストロイブレードを叩きつける! これはたまらない、たしかな歯ごたえとともにトリュフ怪物の体がごそりと削れた。 ヘタレーズの正体知るがいい! スゥベルもきりり、戦闘モードの顔となる。口調だってラフなものに一変しているのだ。 「つーコトで、こっからは全力でいくよ!」 彼女の頭上に大火球出現、これぞ必殺エンブレムノヴァ! 「さあ、芯までこんがりと焼いてやるよ」 焔は激突、キノコを灼いた。 さらにアンジェリカ、巨大剣に体重を乗せ叩きつける! 「喰らえ〜♪」 「トリー!」 さきまでの苦闘が嘘のよう、ぼごり、キノコは腕のひとつを切り落とされている。 されどトリュフだってただやられるつもりはない、半月お目々をつりあげて、 「トリー!」 豪速の拳で突く――狙いはエルだ! 「!」 だが拳は大きく軌道をそらされていた。鋭い刃物の一撃がこれを防いだのだ。 「油断大敵だぞ」 「グレタか……無茶するんじゃねーぜ」 エルはかすかにうつむいた。ほとんど反射的に飛びだしたマルガレーテが守ってくれたのである。ヘタをするとかれの代わりにマルガレーテがやられていてもおかしくないタイミングだった。 (「まぁ、エルさえ無事ならば……私が、少々どうにかなっても構うまい」) という本心を隠し、マルガレーテは、 「エルの酒場には世話になっているからな」 とだけいいのこし、粘り蜘蛛糸を撃つべく距離を取る。 戦闘には波というものがあり、波に乗った側の士気は凄まじい。いま、冒険者たちは圧倒的にその波に乗っていた。敵をほとんど呑み込んでいる。 これぞフルボッコ! 絵に描いたようなフルボッコ! ほとんど敵の反撃を許さぬ過激な攻勢だ。 マルガレーテの蜘蛛糸にくるまれ動けぬトリュフを、ルージが割りアンジェリカが斬りスゥベルが焼いてナサロークが貫き、トラスの銀狼がガジガジ噛んだ。 「一意専心! おじさんブレェェェドッ!……なんてな」 口調は飄々としているがエルのサンダークラッシュは無慈悲な強さで、 「これでも重症中なんだけどな……ま、怪我人は怪我人で戦い方がある!」 ラスもブラッフクフレイムで援護する。 「お覚悟ください!」 間隙をぬってカラシャも前進、偉大なる一撃を見舞った。 そして弱り切ったトリュフ目がけ、駆け込むはアレクサンドラだ。 「さらばだ、いと大いなるトリュフよ!」 へっぴりパンチとみせかけて、ワン! ツー! エンブレムブロウ! トリュフ怪物はとうとう砕け、トリーの声虚しく崩壊したのである!
いい汗をぬぐいつつ、ルージはにっこりする。 「はぁ〜……スッキリしたなぁ〜ん」 我慢して我慢して爆発させるというのも、なかなか心地よいものだった。ヘタレーズなんて名乗ったけれど、こんな素敵で力強い『自称ヘタレ』たちは他のどこにもおるまい。その一員となれたことがルージは嬉しい。 それに、ルージが嬉しいことがもうひとつある。 「とりゅふのお持ち帰りなぁ〜ん♪」 怪物が掘りだした沢山のトリュフがかれらのものとなったのだ! 「へー。これが白いトリュフか。帰って皆に自慢してやろ」 ラスはそのひとつを取ってしげしげと眺めた。 「あ、今回ユウキという人が腹痛で来れなかったらしいけど、このトリュフを持ってお見舞いでもする?」 「そうだな。我々でパーティをしてもなお余る量がある」 ナサロークはうなずいた。 「可哀想なユウキに本当の丸焼きトリュフを食わせてやろう。シャンパンを振りかけ、丸ごとアルミホイルで包み暖炉の灰に入れて焼くのだ。美味なるものだぞ」 「そうか、それがトリュフの料理法か、後学のため詳しく教えてほしい」 マルガレーテはいう。エルの酒場の新しいメニューにしてみたい。いや、それよりもこのトリュフ、売って店の修理費に使ったほうがいいか……? 悩みはつきないのだ。 「荒技ですね」 そんなナサロークたちの話を聞いてカラシャはほほえんだ。しかしそれもまたよしだ。 「美味しく調理して食べましょうね♪」 今夜かれらは、普通の人なら一生かかっても口にしないほどの量のトリュフを食べることになるだろう!
――幕――

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参加者:10人
作成日:2008/03/21
得票数:ほのぼの16
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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