≪火炎の王ライリュース≫未来への贈り物



<オープニング>


 空は青々と晴れ渡り、流れ行く雲が白い斑点を描いている。
 そして空の手前……雲を背負うように在る滑らかな曲線を描く真っ白な球体は、転がってくれば人などプチっと潰れてしまいそうなほどに大きい。
「おー、つるつるだ」
 表面に一切のおうとつが無く、溶かした蝋で作ったかのようなその卵を撫でて、紫猫の霊査士・アムネリア(a90272)は感嘆の声を上げる。
 卵の正体は火炎の王ライリュース……獅子を模した炎の化身。護衛士との激闘の末、彼は卵の姿になったのだ。要約してしまえばほんの少しの言葉で紡げるその結末も、筆舌しがたい程の困難の末に得た勝利である事をアムネリアはよく知っている。
「……さて」
 本当に色々な事があったな……と、感慨深げに卵を撫でていたアムネリアは近づいてくる人影に気付いて、撫でていた手を止める。
「山を下ったところに丁度よさそうな場所が在ったわよ。ちょっとした湖なんだけど、その真ん中に小さな島があって、しかもその島には歩いていけるのよ」
 卵になったライリュースを水と緑に囲まれた静かな場所へ安置しようと言う護衛士たちの意見に沿う場所を探していた、悠久の誘い・メルフィナ(a90240)が山の麓に広がる森の奥を示した。
「お誂え向きな場所を見つけたようだな」
 湖の真ん中の島に安置されるでっかい卵は少し幻想的に違いない。問題はどうやってそこまで運ぶかなのだが……。
「ころがすなぁ〜ん♪」
「ゴロゴロなぁ〜ん♪」
 と、力いっぱい転がす満々な、赤い実の・ペルシャナ(a90148)と、ヒトノソリンの牙狩人・カナン(a90366)が主張する。
「ふむ……それしかないか」
 そんな二人の様子に、ほんのちょっとだけ不安を隠しきれないアムネリアだったが他に良い方法がなさそうだったので取りあえず頷いておく。
「それじゃ、最後の仕事を始めようか」
 そして、アムネリアは振り返ると後ろに居た護衛士たちに噛み締めるようにそう言った。


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参加者
NPC:紫猫の霊査士・アムネリア(a90272)



<リプレイ>

 空は高く晴れ渡り、見つめていれば吸い込まれてしまいそうなほど青く、その青さの中を穏やかな風に押されてふわふわと白い雲が流れてゆく。
「ありふれた風景、平和で眠くなりそうな日常。皆が笑える今」
 只そこにあるこの平穏は掴み取った日常だ。相変わらずのメロスのモノローグを背に……穏やかな風に揺れる銀の絹糸をそのままに、シュリは物憂げに空を眺める。
 激しい戦いの末に勝ち取った平穏、炎の獅子を模した七大怪獣との熾烈な戦いの果てに取り戻した日常……その火炎の王も今や巨大な卵となり長い、長い眠りへとついた。
「終わったんですね……」
 その卵……今自分が座るそれを軽く撫でてシュリは赤い瞳を物憂げに伏せ……横顔は美しく……でもそんなシュリは絶賛無視で、なんだか下のほうでルナシアが卵を押そうとしていたりパークが体を捻っていたりするが気のせいだろう。ついでにシュリの何倍も大きな卵に登るのにかなり必死に卵にしがみ付き、淑女らしからぬ姿を周りに居た多くの人に見せつけていたのは別に言わなくても良い事である。あえて言うけど。
「今はこれで良い……でもいずれまた第二第三のライ――」
 それはそれとして、お約束に近い決め台詞を言おうとしたとき、ルナシアが押していた卵にパークがクルクル回りながら突撃し、卵がグラリと揺れた。大きく後ろに傾いた卵の上から落ちそうになったシュリであるが、そこは卵にしがみ付いて何とか持ちこたえ――
「がっちり受け止め……あ、あうー!?」
 傾いた卵は反動で前に傾くとそのままゴロンと転がった。当然卵の上に居たシュリは落ち、下に居たルナシアとパークが巻き込まれる。そこへ偶々近くに居たウサギが落ちるシュリを受け止めようとしたりもしたが、受け止め損なって下敷きとなり、更にその上に転がった卵が被さって……、
「げヴぁー!?」
「ギャース!」
 ぷちっ♪ と軽快な音を四つほど立て、先ほどまでパークやルナシアが居た辺りに卵は落ち着いた。卵が転がった時に断絶間のヒキガエルのような声が聞こえた気もするが多分気のせいだ。
「……上に乗れそうな勢いじゃな、ほれ、球乗りな感じで、いや、やらんが」
 その様子を一部始終見ていたスルクが卵の下からプルプルと差し出された手を見なかった事にすると視線を卵の上へと向け、のんびりとそんな事を呟いたものだ。先人の過ちを繰り返すのも何だし、二度ネタ的な意味で。
「ずっと戦ってたなぁ〜んし、こうしてゆっくり出来るようになるとは思わなかったなぁ〜ん」
 スルクの横で卵を撫でるとジオは、この上に乗るのも楽しそうと一瞬考えるが乗るのも悪いから止めて置こうと思いなおした……賢明な判断である。先人の過ちを繰り返すのも如何かと思うし、勿論二度ネタ的な意味で。
「「ごろごろなぁ〜ん♪」」
「ごろごろなぁ〜ん」
 ジオとスルクが見つめるのを他所にペルシャナとカナンが意気揚々と卵に手をかける。気無さそうになぁ〜んといってるかヅチとは違い二人は転がして転がして転がしまくる! とかそんな気合に満ちた様子だし、
「力一杯転がすなぁ〜ん!」
 と鼻息の荒いエミルリィルもまた気合十分だ。そして三人はなぁ〜んなぁ〜んと卵に手をつけると思いっきり力をこめ……卵がゆっくりと動き始めた。
「ペルシャナちゃんもカナンちゃんも、あんまり勢いよく転がしちゃうと……」
 ゆっくりと動き出した卵を見つめ、あんまり勢いがつくと色んな人が潰されたりして危ないとナナは警告しようかと思うが、動き出した卵の下から出てきた白目をむいた狐の尻尾を持つストライダーらの姿を見て口を紡ぐと、
「あ、まってなぁ〜ん♪」
 何も見なかった事にして、エミルリィルたちの後を追ったのだった。

「必死で戦う毎日もまた一旦終わりかな」
 卵を転がす作業に加わったユイリが卵を転がしながら感慨深げに呟く……気を張り続けていた日々、続けている時は辛いと思う事もあるけれど終わってしまうと何となく寂しいと思うのだ。
「いよいよ最後の仕事か……ん、いっちょ頑張るぜ!」
 う〜んと考え込んでいるユイリの横でハーゼもまた卵を転がす。ハーゼはユイリと違い非常に楽しそうに鼻歌交じりに卵を力いっぱい押し、フィードもまたそんなハーゼと共に卵を転がす転がす。そして更にティズも力はあんまり無いけど最後まで頑張ろうと卵を転がす転がす転がす。
 転がす人数が増えた事によってゴロゴロと軽快な音を立てて卵が結構な速度で転がってゆき……、
「こう……ごろごろ転がしていると護衛士として活動している間にあったことが……」
 転がる卵に今までのことを思い浮かべるネオンの目の前を、移動するのが面倒だと卵に張り付いて移動することを決めたウィズが下から上へと通り過ぎていたりもしたが……気にしなければどうと言う事は無い。
 だが、転がる卵の勢いはどんどん激しさを増し、段々と制御が難しくなってくる。そしてついに、卵が大きく跳ねて――
「こういうこともあろうかと予め溝を掘って誘導できるように――」
「あ、あぶなーい! 万が一下敷きになっても大丈夫、俺にはシャドウロックがアッー!」
 跳ねた卵が落ちる先で溝を作ったから大丈夫だと得意満面なカヅチと防御力を強化して大丈夫だと言い張るマイシャが待ち構えるが……案の定ぷちっ♪ と潰される。
「だ、大丈夫なぁ〜ん! 肉体を凌駕する魂を用意したから、大丈夫なぁ〜ん!」
 マイシャとカヅチの犠牲のおかげで卵の移動経路は元に戻った。そんなマイシャらに向かいエミルリィルは気合が肉体の限界を凌駕するあれを用意したからと主張するが、それは本人が用意していないと意味が無い……勿論解ってやってるのだが、それは言わない約束である。
「長い様で短かったけど、これで今度のお役目は終了か……折角ベストな住居も手に入れたのに、もうお別れかと思うと寂しいよ」
 混沌とした様相を呈してきた卵転がしを少し離れたところに居た犬怪獣の鼻の頭を撫でてリンが少し寂しそうに呟く。
「でも南――」
 そして何かを言いかけたとき、かぷ♪ と思いっきり頭から犬怪獣に食われた。何故か知らないけれど、兎に角食われた。きっと、リンは口の中に入れるものだと認識しているのだろう。色々台無しな感じだがそんなものである。

 揺れる水面に跳ね返された陽光が複雑な光を放ち……煌く水面の中、影のように島が見える。
 溢れる水と、緑と……アルマディたちが今まで戦っていた溶岩地帯とは間逆のようなその光景はワイルドファイアでは有触れたもの……そして火炎の王が求め続けたもの。
 メルフィナの話通り島までは歩いていけるようだ……光満たされた湖の中を何となく口数の少なくなった彼女らが卵を転がしてゆく……そして島について暫くすると、何かを刻むには手頃な岩が多くある場所へとたどり着いた。
「さてと、後世のためにライリュース攻略法を」
 パークはその場所へつくと早速行動を開始し、それに続くように彼等は各々が思い描く物……形を残すものを作る作業へと入る。
 イリシアは何時か孵化すると解っている卵を残す事に不安を感じるのだが、未来の事は未来の人に任せれば良いのだ。そのために残せるものを残せば良いと思いなおすと、長い年月の間に転がってしまわないように台座を作り始める。
 同じように台座を作ろうとしていたエミルリィルとハーゼもイリシアに手を貸し草木で作った巣のような台座を作り始める……何故草木で作るのかと問われれば卵だからとはエミルリィル談である。
「ロマンチッ〜ク☆ ラァブロマンセ遺跡〜♪」
 イリシアたちが台座を作っている間に、シュリが些かアレな歌をご機嫌な様子で唄いながら若干ファンシーな猫っぽい顔を縦に幾つも並べた感じの柱を幾つも作り、
「よーしパパ未確認飛行物体呼んじゃうぞー」
 その横でルナシアが石を変な形に積み上げている。似たような事を考える辺りこの義姉弟は変な方向に息ぴったりである……どっちも未知の空間から電波受信してる様子だけれども。
 そんな彼等の様子を微笑ましく見つめ、フィードは『食べられません』と書かれた立て札を立てる。立ててもすぐに風化してしまいそうだが気持ちの問題だろう。立て札を立て終わり、周囲を見回せばラシェットとウサギが花の種を撒いていた。
「いつか芽がでて、花が咲いて。そして枯れてまた種ができて」
 そうやって紡がれてゆく命に見守られ眠る事が出来ればきっと素敵だろうとラシェットは思い、お花と一緒に過ごせば目を覚ました時に穏やかな気持ちで目覚められるのではないかとウサギは考えるのだ。そんな二人に暖かい視線を向け、フィードもまたラシェットと共に花の種を撒き始める……いずれ芽吹いた時にこの卵を揺り籠のように包み込んでくれるようにと。
「願わくば、次に目覚めた時は穏やかな日々が待っていますように」
 その思いはまた、何か自分たちが居た事を残せないかと仲間たちの名前を手時かな岩に刻んで居たネオンも同じもの。
「刻むといえば、その花が育ったらライリュース、メル――」
 ネオンの動きを見て誰かが何かを言ったような気がしたラシェットが後ろを振り返るとそこには何時の間にか白い犬怪獣が座っていた……その口の端からルナシアっぽい足が見えていたのは気のせいだろう。なんだミルクかとラシェットは少しもふもふすると自分の作業に戻った。
「うう、酷い目にあった……」
 新たな生贄を口に咥えたことによって開放されたらしいリンがグスンと鼻を啜りながら適当な岩に絵を刻んでゆき、それを見たアルマディも何年でも残るようにとナイフで深く刻む。手足に四つの水晶を持つ獅子と、その足元に挑む戦士の姿を……炎の獅子の中に在る核、武器を手にそれを囲む戦士達の姿を。
「未来の人たちが上手くやれるように記録を残しておいた方がいいですよねー」
 アルマディたちが刻む絵を眺め、ユリアスはその大元となった大大怪獣復活の様子を刻む。始まりを知っておく事は大切な事だろう。
「やっぱり遺跡っぽいものといえば絵画ですよね!」
 彼等の様子を見たフォーネは皆考える事は同じですねと嬉しそうに手を合わせると大雑把に犬怪獣との出来事など中間と過ごした日々の事を刻んでゆき、行動を共にしていたカミュが細かい装飾を行ってゆく。
「案内板?」
 ユリアはカミュたちの横で火炎の王ライリュースの卵とか良かったら磨いてあげてねとか刻んでいたレジィに声をかける。周りを見れば謎の柱が乱立し、謎の花の種が植えられ、謎の石版や、良い表情をしたカヅチの自画像などが置かれている。案内板は要るだろう、多分。ユリアはレジィの行動に納得すると自分も卵を謎の遺跡にする作業へ戻った。

「ん〜、なかなか骨の折れる作業じゃのう」
 ゆっくりと小さめの石に今までの経緯を一コマづつ刻んでいたスルクが大きく伸びをすれば、空は茜色に染まり始めていた。
 そして周囲へ眼を向ければ草木で出来た台座に安置される卵、その周りに置かれた様々な岩に刻まれた絵が見える……遺跡らしくなったといえば大分遺跡らしくなっただろう。勿論、謎の遺跡だが。
「これで本当に終わりなのですね……」
 それらの絵のライリュースの水晶にあたる部分に翠緑玉をあしらったり、花の形に刻んだ青金石で飾り立てたりしたイスズがその手を止めると感慨深げに呟いた。一日の終わりを告げる茜色に染まる空と、一つの戦いの終わりを重ね合わせ、嬉しいような悲しいようなそんな気持ちになる。
「終わり……ですね」
 イスズの言葉を噛み締めるようにマイシャは繰り返すと卵の脇にこっそりと甘い果実を実らせる木の種を植える。こうして時がたてば実が実り、鳥達が遊びに来るだろう……そうすれば彼も寂しくは無いだろうとマイシャは思う。
「強すぎて孤独で」
 緑に近づけない姿、純粋な力を求め続け、その先に何があるのか……色々考えさせられたと、マイシャの横でスゥベルが卵に花束を捧げ、
「七大怪獣はただ存在が強力すぎて迷惑なだけで悪ではないと思うのです」
 スゥベルとマイシャの姿を見守るように、その後ろでカヅチは一人納得するように頷いた。圧倒的な力を持つが故に存在そのものが危険になってしまう、だがそういった存在が悪なのかと問われれば違うと言えるだろう……彼等はそこにあるだけ……只、弱肉強食の宿命に従うもの。
「そうですね……えぇ!?」
 こっそりやっていたつもりだったマイシャは何時の間にか後ろに居たスゥベルやカヅチに驚くと、その場を誤魔化そうと手をクイッと曲げてにゃ――そのまま犬怪獣の口の中へごぅとぅへる。
 その様子を苦笑いで見送ったジィルは卵の隅に『ありがとう』と書く……貴重な経験をさせてくれたことに対する感謝だろう……そしてふと木陰を見やれば、少し疲れたのかフォーネが休み、その頭をカミュが優しく撫でて……もうすぐ終わる時間、終焉を迎える祭りの余韻を味わうように穏やかな時を過ごしているのだろう。
「願わくば、二度と孵化する事の無いよう平和なワイルドファイアを築いていかないとなぁ〜んね」
 眠る姿は誰しも安らかだ、だから願わくば復活するような事が無いようにとナナは願うのだった。

「時々またここに遊びに来るなぁ〜んよ。それじゃ、お休みなぁ〜ん」
 出来上がった遺跡の中央に座する卵を撫でるとジオはそう言い残してその場を後にする。そしてそれに続くように、口々に別れの言葉を、その思いを自分たちが作った遺跡へと託して去ってゆく。
「そうそう、私、ユリアとメルフィナにお礼を言いたいんですよ」
 そんな中でレジィはメルフィナとユリアの前に立つと、そんな事を言い始めた。ちょっと気恥ずかしそうに、素直に言えないような言葉……でも言わなければとレジィは大きく息を吸い込んで
「あの時はありがとうね。……か、勘違いしな――」
「嗚呼、恥ずかしい台詞を言うから……」
 中途半端なところで犬怪獣に頭から咥えられたレジィにユリアとメルフィナは悲しい視線を向けていたけれど、言わなくても気持ちは解る。レジィの足がプラーンとしている犬怪獣の首元にリィとティズが飛びついて一頻りもふもふした後、リィはアムネリアに向き直ると、
「アムネリア殿は此度も大役御疲れ様ですの」
 そう言ってアムネリアの手をとる。また一緒に戦えて嬉しかったと、そんな思いを込めて。
「このライリュースの卵が未来へ、良き贈り物とならん事を祈りますの。願わくばこの地で、皆様またお会いしましょうの!」
 未来へ向けた少しだけ意地悪な贈り物、受け取るのは子孫だろうか……でも、彼等はきっと試練を乗り越え、何かを得る事が出来るだろう、自分たちがそうだったように。
「新しい、世代、か……」
 新しい世代が生まれ、それに出会える事を楽しみに待つとしよう……この遺跡と共に。彼と共に。

 【END】


マスター:八幡 紹介ページ
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作成日:2008/03/30
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