ロイヤルグレーな喫茶店



<オープニング>


●ロイヤルグレーな喫茶店
 姦淫の都ミュントス。その周辺を流れる溶岩の熱はミュントスに多くの恵みを与えていた。様々な娯楽が存在するこの街に老紳士村というものがあった。
「俗に言う、ロイヤルグレーというやつさ」
 幻奏猟兵・ギャロは口元で笑みをつくった。
「老紳士の年齢幅にある者達が、給仕を行う喫茶店があるんだ。給仕というよりは指名制と言った方が分かりやすいかな」
 8人の、それぞれタイプが違う老紳士が客に給仕をする喫茶店は、貴族の屋敷真柄の作りをしている。深いチョコレートの色をした床に、猫足のテーブル。紅茶と珈琲、木の実があればジュースも、老紳士によっては眉を寄せながら出してくれる。
『お嬢様、これは内緒ですよ。私が他の者に怒られてしまいますから』
 と。
「老紳士たちは皆で8人。相手を1人、それぞれ指名することができる。1日彼らにもてなされるというものだよ」
 店を一つの館に例え「お帰りなさい」と彼らは出迎える。「どうだい?」とギャロが提案をのせた。話を聞いていたストライダーの霊査士・レピア(a90040)は足を組み直し、しゃらり、となる霊査の鎖をひいて冒険者達を見る。霊査の結果、何の問題も告げた彼女は「楽しんでいらっしゃい」と忙しい日々を送る冒険者たちの背を押した。


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参加者
旋律調和・クール(a09477)
月無き夜の白光・スルク(a11408)
天皎・ルーシェン(a16220)
魔法銃使いの商人・モニカ(a51607)
小さな小さな仔猫な子ども・ブルーベリィ(a58758)
森林の彷徨者・デルヴィーン(a68935)
青き水を持つ者・レセルヴァータ(a71215)
さざめく波音・グラディス(a71751)


<リプレイ>

●ロイヤルグレー
 さざめく波音・グラディス(a71751)は口元に微笑を浮かべ自らの手を差し出した。
「ただいま、オスヴァルト」
 顔を上げたのは寡黙な執事だった。一行の訪れに迎えるように開かれた扉の向こう、並んでいた8人の執事のうち、1人がゆっくりと顔を上げる。名はオスヴァルト。寡黙な執事が、差し出した手をそっと取ってくる。
「お戻り、お待ちしておりました」
 手袋越しにグラディスに触れた指はほんのりと温かかった。
(「お部屋に案内してくれるのかしら……うふふ、お茶会なんて久しぶり」)
 オスヴァルトに案内されるままに辿り着いた部屋は黒塗りのテーブルと、美しい花が飾られた部屋だった。
「飲物は、温かい紅茶を。銘柄は貴方にお任せするわ。優美な薔薇柄のティーセットで淹れて下さる? ……あるかしら?」
 応じる声は無く、かわりに茶器にかけられていた布が外された。オスヴァルトの指先が茶葉を選び、湯を注ぐ。カップには蒼白の地に薔薇が描かれていた。
「……」
 茶葉を蒸らす為にしめられたポットから紅茶の香りが踊る。向けられた視線にグラディスは笑みを浮かべた。お茶請けに関する話はまだ、していなかった。
「それと、一緒にほかほかのスコーンが食べたいわ。甘いクリームとジャムを乗せて」
 指先がポットから離され、絨毯の上をオスヴァルトは静かに歩いていく。扉を薄く開き、何か言付ける彼の背を見ながらグラディスはゆっくりと椅子に背を預けた。ほう、と一つ息をつく頃には戻ってきた彼がこぽこぽとカップに紅茶を注いでくれていた。カップと揃いの絵柄が入った小皿には、花を象った砂糖がちょこん、と置かれている。スコーンは程なくして届き「どうぞ」と響いた声が、グラディスの聞いた数少ないオスヴァルトの言葉だった。


 指名が済んだ後に、執事達が通す部屋はそれぞれ違う。月無き夜の白光・スルク(a11408)が辿り着いたのは柔らかなソファーと背の低いテーブルが置かれた部屋だった。ほう、とソファーに背を預ければ、扉を閉めた老紳士が唇で笑みを作る。
「アフタヌーンティーをご用意いたしましょう。本日のお茶菓子はダークベリーのタルトをご用意しております」
 スルクの指名した執事はアーヴィンと言う。唇に笑みを常に浮かべている執事であった。
 手際よく茶とお茶請けを用意する執事を見ながらスルクはソファーに預けていた背を起こした。
「何じゃか申し訳ないのお、可愛げも綺麗でもない者の相手で。しかもこんな口調で。クジ運が悪かったと思って相手してくだされ」
「そのクジ私にとっては良きものであったということでしょう。私にとって、坊ちゃまとこうしてお話できる機会に恵まれたのですから」
 にっこりと、浮かべられた笑みは形一つ崩れない。アーヴィンは紅茶をいれたカップを置く。深くなる笑みに紅茶を一口飲むと、スルクは軽く体を起こす。
「ボードゲームがあれば、一勝負といかんか? 折角なら、勝った方が言うことを聞くとか……」
「言うことを聞く、ですか」
 くつり、とアーヴィンが笑う。
「実に興味深い……あぁ、面白い話ですね、坊ちゃん」
 アーヴィンは楽しげな声を零す。棚からボードゲームを取り出した彼は「失礼します」とスルクの正面に席を取った。
「ゲームでしたら私も少々覚えがあります。坊ちゃまを楽しませることくらいはできるとと自負しております」
 楽しみです。と僅かに笑むアーヴィンに何をどうじゃろうな、とスルクはぼそり、と零す。始めましょうか、と響く言葉にスルクは白い駒へと手を伸ばした。

 青き水を持つ者・レセルヴァータ(a71215)は、厳しいと話にあった執事、ゲオルグの様子を窺うようにどう呼んだらいいか聞いていた。
「お望みのままに」
「えっと……んじゃ、爺とゲオルグさん、どっちがいいですか?」
 親戚の話だと、執事はさん付けか爺って呼ぶかどっちかだという。そこで初めて、ゲオルグの表情に変化が出た。眉はより、何か考えるようにした後に顔を上げる。
「さん付け」で、と彼から聞こえてきた声は予想以上に小さかった。

 空が見える部屋が行きたい、と言ったレセルヴァータは頷きを見せたゲオルグに安心した。
「お茶は紅茶……できれば、ミルクティーがいいです。……あと、ワッフルが食べたです。イチゴとホイップクリームののせた……」
「用意いたしましょう」
「あとね、」
 メモすら取らずに覚えていくゲオルグをそうっと見上げる。レセルヴァータよりも背の高い執事は、深い緑の瞳をしていた。
「移動の時、手を繋いでもらって、いいですか」
 迷子になったりしたら、やだから。そう心の中でつけたして、レセルヴァータはゲオルグの手へと視線を落とす。執事は瞳を細めた。
 駄目、だろうか。厳しいという執事だから、とレセルヴァータが考えた所で、下ろしていた手がさっと、取られる。
「あ」
「部屋は3階となります」
 言葉は先にあってもゲオルグはレセルヴァータが歩き出すまで先に足を進めるようなことはなかった。

 辿り着いた部屋、大きな窓から紫の空が見えた。地上だと、空には昼に太陽があり、夜には月と星がある。明るさも、違うから、とレセルヴァータはカップを置いた。ゲオルグの頷きは小さい。だが、時折瞳が時折変化する。
「……ゲオルグさんは、地上に行ってみたいって、思う?」
「興味はある。……だが私はこの館の執事だ。此処でお嬢様の帰りを待っている」
 青い空の下から来たお嬢様も、とゲオルグは静かに紡ぎ、焼き上がったワッフルを皿に盛った。苺をかざり、ホイップクリームがちょこんとのる。いれなおされたアッサムのミルクティーがレセルヴァータの前で踊った。


 どうぞ。とひかれた椅子に座れば予想以上に柔らかなクッションに身を預けそうになる。一礼をした執事に「ウィリアム殿」と天皎・ルーシェン(a16220)は呼びかけて口を閉じた。どうにも、言いにくい。
「ウィル殿で宜しいか?」
「ルーシェンお嬢様が選んだものでしたら」
 老紳士は穏やかな笑みと共に目を伏せ、頷いた。呼び捨てには出来ないまま、我が儘だと思ってくれれば良いが。と椅子に背を預けたルーシェンに「時折」と彼は茶器にかけられていた布をどける。
「名前が長いもので、言いにくいのか噛まれる方がいらっしゃるんですよ。若い頃はウィーと短くして呼ばれたものです」
 茶葉の良い香りがしてくる。ウィリアムは穏やかな笑みを浮かべた。
「お飲み物はいかがいたしましょうか」
「えーと……あ、この季節に一番美味しい紅茶とお菓子が欲しい……のじゃ」
「承りました」
 流れるような動作で茶器にかけられていたレースは外され、近くの棚から茶葉の入った缶が取り出される。
「セカンドフラッシュのダージリンが手に入りましたのでこちらをホットで。お茶請けはオレンジとチョコレートのタルトを」
 小さなテーブルに置かれたカップにはリボンが描かれている。とぽとぽ、と淹れられた紅茶にルーシェンは落ち着くように息を「ほぅ……」と息をついた。

「スプーンはカップの奥に置く。茶器を持ち上げる際にぶつかってしまうこともある」
 高い天井を持つ部屋に、ローラントの声が響いた。彼の持つ知識と共に話される言葉に最果ての君・クール(a09477)は耳を傾け、頷く。そんな彼女の様子に執事は感心するように息をついた。
「君は……本当ぬ素直に話を聞くんだな」
 ローラントの言葉にクールはカップを置く。執事に憧れていたのだ、と。
「私は紳士になるんだーって言って女の子は無理ってよく笑われたわ」
「……紳士というものは、本来気品や教養をそなえ、礼儀正しく道義を重んじるものを示す。それが男子であるか否かだけで……その、君が、そうではないというわけでは、ないだろう」
 女性であるから、と言って。と彼は視線を上げる。瞳があえばクールより随分と年上の老紳士が視線を泳がせた。その様子に小さく笑って、クールは紅茶のカップを手に取った。
「私、とっても、とーっても、紅茶と甘い物が好きなの。チョコレートが大好き、それから薔薇や桜が好き。こういう館を探索するのも大好きなの! 我が儘言っても構わなくって?」
 急に明るくなったクールにまた違う意味で驚いたように目を開いたローラントは笑みを零した。
「お父様」
「いや……そうだな、あぁ、君が年相応の事を言ってくれて安心した、ということにしておこう」
 1日限りのクールの『お父様』はそう言って笑みを見せる。そう呼んでいいかと聞いた時にはローラントは慌てたものだが、慣れたということなのだろう。同じように、執事としてではなく「おじいちゃん」として部屋で話をしているのはアランと小さな小さな仔猫な子ども・ブルーベリィ(a58758)だった。
「おじいちゃんはどのケーキ食べたいー?」
 祖父と呼べる人がいなかったブルーベリィにとって、一緒にお菓子を食べたり、話をしたりというのは憧れてさえいたものだ。ぱたぱたと揺れる尻尾を抑えることなどできないまま、ぽってりと丸めのカップをテーブルにおいた。
「ボクはミルフィーユ食べたいですぅ。美味しいですよぉ☆」
 ボクの叔父さん、ミルフィーユって名前なんだよ。とブルーベリィが言えば、皿にケーキをとってくれていたアランが珍しい、と息をつく。
「美味しそうなお名前なんですね」
「うん。みんなはミルフィーちゃんって言ってるですけど、すっごいカワイイ叔父さんなんですよぉ。お菓子をあげると「キュウ☆ キュウ☆」ってしっぽをパタパタさせるんですぅ」
「きゅうきゅう……です、か?」
 ミルフィーユを乗せた皿に、苺が飾られる。驚きを隠しきれないアランは、なんとか手元だけは正確にケーキを盛りつけた。ブルーベリィはにっこりと笑うと、アランを見上げた。
「おじいちゃんも今度会ってみるぅ? カワイイですよぉ?」
「そうですね、次の機会に」
 まずはケーキをどうぞ。と皿を渡される。フォークは手に丁度良いサイズで、ミルフィーユ用に新しく紅茶がいれられる。自分の皿にはタルトをのせたアランが「一口どうですか?」とブルーベリィと視線をあわせるのは、それから少ししてからのことだった。

 微かに笑うような声が聞こえてきた。魔法銃使いの商人・モニカ(a51607)は顔を上げる。飲みきった紅茶をテーブルにおけば、紅茶の種類の話も随分と詳しいものとなってきた。
「そうね、今ぐらいならば早摘みのアールグレイもいいですわ。味に癖があって好みはでるかもしれませんが、ゆっくりとした時間を過ごすのにはいいですわ。……レイモンドさん?」
 唇からほんの少しだけ零れたような笑みが、丸い天井の部屋に響く。ゆったりとした椅子に、少し大きめのテーブルが置かれた部屋へと通されたモニカは鳶色の髪をした老紳士、レイモンドへと視線を向けた。いえ、と緩く首を振ったレイモンドは、執事服の裾を一度はらう。
「レイモンド、とお呼び下さい。俺はただ、お嬢サンが博識で勉強になると思っていたんですよ」
「そうですか?」
「えぇ。少なくとも、俺より知っておいでで、どうやって執事としての体面を保とうかと思ったくらいではありますよ。……イブニングティーはお嬢サンが選んでくださったものといたしましょう。お茶請けはどうか俺に選ばせていただけますか? お嬢サンの心に残る味を」
 ね。とレイモンドは笑みを見せた。
 
「この絵画はご主人様が自ら絵師に描かせたものです。どうぞこちらへお嬢様」
 館の見学をしていた森林の彷徨者・デルヴィーン(a68935)にレイは穏やかな笑みを浮かべて椅子を勧めた。丁度10部屋目となるこの部屋には、見上げる程に大きな絵画が描かれている。ひかれた椅子に腰掛け、レイの話に耳を傾ける。随分と歩き回ったがそんなに疲れてはいなかった。皆が何をしているのか気になって、訪れた部屋で出迎えたのは美味しそうな紅茶とケーキ、それと笑い声だった。
「喉がお渇きでしょう。今お飲み物を用意します」
 折角ですから、この絵と同じ季節のものを。とレイは備え付けの棚に手を伸ばす。
「しかし……お嬢様はお疲れではないのですか? おみ足を疲れさせてしまうことは、僕にはあまりに心苦しいのですが」
 カップはシンプルな蒼白のもの。注がれる紅茶と、柔らかな視線にデルヴィーンは唇で笑みを作る。
「あちらこちら歩けば、運動にもなりますし。お食事も、美味しく残さずいただけるというものですわね」
「料理長に伝えておきましょう。お嬢様のその言葉に腕を振るいますよ」


 そして執事達と過ごす時間はゆっくりと終わりを告げ、感謝を込めて弾かれたレセルヴァータのハープにゲオルグは綺麗な礼を一つ取った。
「青き空の下から、再びのお帰りをお待ちしております」

 読みきられた詩集がオスヴァルトの手からグラディスに返される。あぁもう時間なのかと名残惜しくも席を立てば、無口なオスヴァルトがエスコートするように手をだす。
「いってきます」
「いってらっしゃいませ、グラディス様」
 笑ってそう言えば、オスヴァルトは少しばかりの笑みでそれに応える。

 玄関までクールを連れてきたローラントは「さっきの話だが」と足を止める。
「君を知る機会を、その集団にも与えてみたらどうだ。私は、君が君であり続けることを否定する必要はないとは思う」
 のばされた手がエスコートではなく握手でもするかのように握られる。にっこりと笑顔を浮かべ、クールは「ありがとう」と言った。
「私、とても幸せに過ごせたわ。お手紙書くわね。きっとまた来るわ、お父様♪」
「あぁ。……クール」
 慣れぬ様子で言い切られた名前に、物珍しそうにスルクの前、アーヴィンは息をついた。
「お嬢様も坊ちゃまもどうやら珍しい方が多いようですね」
「そうかもしれんなあ。……のんびり出来たかどうかはともかく、結構面白かった、ありがとう」
「坊ちゃまの楽しみとなれたのでしたら、それこそ幸いです。また……勝負などしてみたいものです」
 スルクの勝ちに終わったボードゲームの事だろう。笑みを深くするアーヴィンに、スルクは肩をすくめる。
「やはり、行ってきますか?」
「いってらっしゃいませ、スルク様」
 お帰りをお待ちしております。とモニカの前、レイモンドが頭を下げる。レイはそっとデルヴィーンの手をとり、道中の無事を祈る。アランはブルーベリィの頭をなで、いってらっしゃいませと笑みを見せた。
「行って来ます」
「はい。いってらっしゃいませ、ルーシェン様」
 執事達の手で、扉が開けられていく。ウィリアムはルーシェンに一礼をした後に、客人達皆に向けて礼をした。
「我ら一同、お嬢様坊ちゃまの帰りをお待ちしております。いってらっしゃいませ」
 いってらっしゃいませ。と執事達の言葉が重なり、一行を見送る為に開かれていた扉は館の外の門を出た時に閉じられた。


マスター:秋月諒 紹介ページ
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作成日:2008/05/05
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