桜とミノムシ



<オープニング>


 春である。
 暖かい地域で有れば桜もそのピンク色の花を綺麗に咲かせ人々の目を楽しませる、そんな時期。
 だが、その桜の樹には不法占拠したそれが花見の邪魔をしていた。

「突然変異でデカクなったミノムシや」
 翡翠の霊査士・レィズ(a90099)は桜餅をつまんで緑茶を啜りながらそう告げた。
 その町の外れには桜の樹が立ち並び、春ともなれば美しい花を咲かせる。周辺の町や村からも花見客が訪れるくらい、見事なものであると評判だったのだが。
 桜の枝に蕾が膨らみ、そろそろ開花も近いかと思われた頃、ソレは見付かったのだと言う。
 人間の子供くらいに大きなミノムシがぶら〜んと一本の枝にぶら下がっている姿が。
「最初見つけたオッチャンも、子供が首吊っとるんかと勘違いして腰抜かしたらしいわ」
 一般的なミノムシはミノの中で冬を越し、春にサナギとなり、夏に羽化して蛾になるが。
 こんなのが夏までぶら下がっていては気持ち悪い上に、蛾になって鱗粉ばら撒かれても困るので退治して欲しいと言う事である。
「でも、ただぶら下がってるだけなら枝とくっついてる部分から切れば良いんじゃないの?」
 白金蛇の巫・ルディリア(a90219)の問いに、レィズは首を横に振って否定する。
「それが……何かとても硬いらしゅうて」
 普通の力ではどうにもならないくらい丈夫らしいミノ、そして枝との連結部分。だが、冒険者の力なら何とかなるとのレィズの言。
 ミノムシ自体はせいぜいブラブラ揺れてぶつかって来るくらいしか抵抗はしない。あとはネバネバした糸を吐いてくるらしい。当たったらしばらく拘束される事、請け合い。
 なお、町の人の要望で枝を折らない事が何よりの条件。ぶら下がっている枝はその樹の中でも最大の太さらしく。折角の桜の大振りの枝を失うには忍びないとの事。
「ま、さほど強敵でもあらへんし。軽く駆除して少し早めの花見と洒落こむのもエエと思うんやけど」
「よし、ちゃっちゃとミノムシやっつけて花見行くわよー!」
 何か気合いと言うかスイッチ入ったと言うか。ルディの中では害虫駆除より花見がメインになりつつ有る様な気がするが、それでもまぁ良いかも知れない。
「そんな訳で花見……もとい、ミノムシ退治に行ってくれる奴、大募集や」
 何かつられてるレィズが言い間違いつつも冒険者達を見回し募るのだった。


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参加者
黒衣の閃迅・レオニード(a00585)
清浄なる茉莉花の風・エルノアーレ(a39852)
閃光の射手・イオリ(a43829)
深緑の魔術師・メリッサ(a50777)
深藍の魔術師・レベッカ(a51566)
三賞太夫・ツァド(a51649)
剣より解き放たれし者・シュテ(a56385)
ピースメーカー・ナサローク(a58851)
樹霊・シフィル(a64372)
天狐の巫女・レイヤ(a71186)
NPC:白金蛇の巫・ルディリア(a90219)



<リプレイ>

●ミノムシ退治
「おっはなっみおっはなっみ♪」
 見上げると青空、そして桜の淡いピンク色。剣より解き放たれし者・シュテ(a56385)はニコニコと微笑みながら弾んだ声で言う。ピースメーカー・ナサローク(a58851)も桜を見上げ、共に訪れた女性陣を見回して大きく頷いた。
「今年は花見が出来ずに終わってしまうかと思っていたが、丁度良い機会に恵まれた。桜は満開、気候も穏やか、そして花に負けず劣らずの麗しき女性達!」
「お日様ぽっかぽかだし、楽しい一日になるよね!」
「ああ、待望の春の宴だ。沢山食べて沢山飲んで、盛大に楽しもうじゃないか!」
「さっそくシート敷いて……」
『待て』
 すっかり花見モードのシュテとナサロークにとうとうツッコミ一つ。白金蛇の巫・ルディリア(a90219)が彼等に示すべく指差した先には、花の間にぶらーんとぶら下がった枯れ葉や枯れ枝の集合体、もとい巨大なミノムシの姿。
「全く、花見を邪魔する無粋な生物であるな……」
 黒か茶色の塊は見事に春色の景観ぶち壊し。閃光の射手・イオリ(a43829)はそれを見て肩すくめて呟いた。
「恨みは無いが始末させて頂くとしよう……」
 まずはミノムシ退治。これが終わらないと花見は始まらないのだ。シュテやナサロークは面倒そうな顔しつつ、害虫退治の準備開始。
「とは言え、このメンバーでしたら瞬殺の気が致しますわね」
 清浄なる茉莉花の風・エルノアーレ(a39852)が小さく笑むと、静謐の祈りを使う事を告げる。
「一応拘束技も使ってくる様ですから。まぁ、皆様自力回復しそうな予感はしておりますけど」
 じゃあ何で祈ってるかと言うと。暇だからの一言に尽きる。ルディもこくりと頷いて。
「そうよね、医術士は皆が怪我しなきゃ出番無いし」
「それに回復役が前に出て倒れては、チーム全体の危機を招きますもの、ほほほ♪」
 危機的状況になるとは到底思えねぇ。
「到底思えないですが、まぁ念には念をと言う事で」
 三賞太夫・ツァド(a51649)は皆に鎧聖降臨を施した。何かもう、ノーダメージを約束されたも同然である。
 さて、ミノムシ退治の段取りだが。
「まずは」
「枝からミノムシを落とす所からかしら」
 深緑の魔術師・メリッサ(a50777)と深藍の魔術師・レベッカ(a51566)が口を揃えて言う。二人とも地面に落ちたミノムシを攻撃する気満々。前座と言っているが、真の前座は枝から落とす所だと思われる。
「ミノムシとしては、ただぶら下がっているだけ、なのでしょうに……少々、心苦しゅうございますね」
 樹霊・シフィル(a64372)が口元に手を当ててそう呟きながらミノムシと枝を結ぶ部分をじっと見据えた。部分狙いはただ攻撃を当てるより難しいのは周知の事実。だが、桜の枝からこの枯れ枝の塊を引き吊り降ろさないと花見どころでは無いのだ。
「ふむ、それでは始めるか」
 ロープを片手に黒衣の閃迅・レオニード(a00585)の手が宙を薙いだ。黒いカード――バッドラックシュートがミノムシに突き刺さると茶色いミノが黒く変色する。
 そこにシュテの緑の縛撃。不運な上にペインヴァイパーの力による超束縛まで受けてしまっては、もうミノムシは手も足も出ない。いや、最初から出してないけど。
「じぁいきますよ」
 天狐の巫女・レイヤ(a71186)がヴォイドスクラッチを放つ。固いミノも何のその。虚無の手はミノの中の虫に着実にダメージを与える。
 その間にレオニードは木の幹を蹴り登ってミノムシに接近し、ロープを素早く引っ掛けて地面に着地。斜め方向に引っ張る。真っ直ぐ落ちたら周囲の枝を折りかねないと見た彼は、ロープで丁度良い角度に引っ張る事で落ちる軌道を調整しようと言うのだ。
 シュテとシフィルはそれぞれ緑の縛撃とヴォイドスクラッチで繋ぎ目を狙い続ける。上手く狙い通り当たらないのは覚悟の上。外した攻撃が桜の枝を傷つけない様にと慎重に狙い続ける。
「ほれほれほれほれほれ〜! 当たれ当たれ当たれ〜!! でも枝には当たるなーっ!」
 叫びつつシュテは攻撃加える。枝に当てないのが最優先、と考えるとそれが一番難しいかも。
 同時にイオリは離れた所からライトニングアローを放ち、ナサロークはホーリースマッシュを、ツァドは大岩斬を叩き込む。
 やがて。
 ――ぶちっ。
 ミノムシ、落下。レオニードは未だ束縛されてるミノムシを上手くロープ使って枝に影響与えぬ軌道で落とすと、そのまま桜の樹から離れた場所に引っ張り移動。周りに何も無ければもう袋叩き万歳。
「木から落ちたミノムシ……わたくし、大変申し訳ない事をした気が致します」
 身動きすらしないミノムシを見つめ、シフィルが複雑な表情を浮かべた。相変わらず文字通り手も足も出ない巨大ミノムシ。
「……少々お待ちになって」
 れっつ袋叩き、と皆が武器を手にした時、エルノアーレが制止した。落ちたミノのテッペンからミノの内部を覗いてみる。追随する仲間達。
「……うわっ」
「うげっ」
 クソ固いミノは丈夫過ぎて破壊されなかったが、中にいた虫本体に鎧強度無視攻撃は相当のモノだったらしく。しかもほら、ミノムシって幼虫だし。要はイモムシみたいなモンだし。
 そんな訳で、既にミノムシは絶命済み。どんなになってたかは、これ以上――言えない。
 深く想像しない方が良いとオモウヨ?

●さくらさくら
 さて、むしろ此方がメインと言えなくも無い者が多数。花見の開催である。
「こちらを楽しみに来たなんてことは、断じてありませんことよ。ふふふ♪」
「えー、私はもうお花見しか考えてなかったくらいよ?」
 エルノアーレの微笑みにルディはクスクスと笑いながら、地面に敷物を敷く。
「騒ぐのも良いですが、まずはひとしきり、桜を眺めませんか。美しい自然の芸術に溺れるのもまた、一興かと存じますれば」
 シフィルがそう告げると、ひとまず皆で爛漫に咲き乱れる桜の空を見上げる。一面の桜色。花弁がひらひらと風に舞い踊る。目に眩しく、優しく美しい花の色。それは春の色。
「この春の日差しがわたくしにとっては何よりの御馳走でございますわね」
 植物の光合成と言う訳でもないが。シフィルはそう言って微笑んだ。だが、心は満ちても腹は減る訳であって。
「さて、おやつもたっくさん持って来たし、楽しいお花見にするぞ〜!」
 シュテが持参したリュックをひっくり返すと、中からどさどさと色んなお菓子が飛び出した。レイヤも幾らかのお菓子を持参してきたらしい。
「そうそう、わたくし、最近料理の練習を始めましたの」
 お嬢様育ちのエルノアーレは最近修行中の料理を頑張ってきたらしい。そんな彼女が持ってきたのは手作りのお花見弁当。綺麗な漆塗りの三段お重に収まったその料理は見た目もそれなりに綺麗で美味しそう。
「ほぉ……なかなか上手く作ってきたじゃないか」
「ええ、わたくしなりに頑張って参りましたわ。味見してこなかったですけども」
「……をい」
 感心したのは早かった。レオニードはジト目で彼女を見つめ、再び料理に目を戻す。
 味見がまだなら、今すれば良い。ルディが数人に箸を手渡し、作者のエルノアーレと一緒に幾つか摘む。
「ん、なかなか行けますね、これ」
「う、ちょっとこれ甘過ぎ……」
 ナサロークが美味しいと述べる横でルディが水を求める。当たり外れ激しそうだ。
「あら、なんでこれ、苦いのかしら?」
 エルノアーレ自身も食べて、首傾げた。苦いのは焦げてるからです。
「冒険者様ー、ミノムシ退治ありがとうございますっっ!」
「ご注文の品、持って来ました! どうぞ我が町自慢の桜を肴に楽しんで下さいな」
 そこに現れた町の人。持ってきたお重にはお花見にぴったりの料理やお菓子。
「ふふ、事前に町のお店に寄って頼んで置いたのですよ。団子に桜餅、おつまみにチーズやアスパラの肉巻きなど、味の濃い料理をお願いしておきました」
 ツァドが持ってきて貰った料理を確認しながら皆に告げる。気の利く男である。
 その間、レオニードは用意した七輪に火を起こし、その上に小さな鉄板を置いて何やら準備を進めていた。
「何を用意されてるのですか?」
「羊肉料理をこの場でやろうと思ってな」
 メリッサとレベッカの質問に答えるレオニード。何でもロポサ村の焼肉名人に教わった羊焼肉らしく。摺り下ろした数種の香味野菜と果物、そして香辛料を混ぜて作った秘伝のタレに肉を漬け込み、臭みを取ると同時に味を染みこませたモノを焼き上げるのだと言う。
「味付き肉だけでは無く、生肉を焼いた上でタレを付ける方法もあるがな」
「つまりは味を先に付けるか後に付けるかで違ってくる、と」
 野菜を鉄板の上に乗せながらイオリが頷く。大量に乗せたモヤシとキャベツに見る間に火が通るとしんなりとしてきた。味付き肉のタレと絡むとなかなか絶妙らしい。
「それでは焼くのは私に任せて頂こう。まずは皆の腹を満たす所からだな」
 ナサロークが焼肉奉行を引継ぎ、シュテが皆に皿と箸を配る。
「我が故郷楓華の蒸留酒……焼酎を持参した。昨日より割水して仕込んである故、如何かな」
 イオリが土瓶に入れたそれを見せるとルディは興味深げに見、レオニードは嬉しそうに応じた。
「では、お酌はわたくしが致しましょう。年長者の方に手酌をさせる訳には行きません」
 シフィルが土瓶を受け取り、順々にぐい飲みに酒を注いでいく。――永遠の17歳のシフィル、どっちが年長かは考えない様に。
「ささ、まずは一献……ツァド様やナサローク様も。普段からお世話になっております感謝の意を込めて」
「ふむ、それでは遠慮なく。私も純米酒を持参したので振る舞わせて貰う」
「と、その前に。未成年のお嬢さん方にもお茶やジュースを用意してありますので、それで皆さんの杯を満たそうではありませんか」
 未成年者にも気を配るツァド。エルノアーレやシュテ、レイヤ達のコップにルディがジュースを注ぎ。全員の杯に液体が満たされた。
「それでは、無事ミノムシが退治された祝勝を兼ねて」
「再び巡り巡って来た、命芽吹くこの春を歓迎して」
「満開の美しい桜の花に、乾杯!」
 傾けられる杯。酒を飲み干した者の頬が桜色に火照る。
 無粋に騒ぐ真似はしない。ひらひら舞う花弁を眺めつつ、のんびりとした野外食事会とでも言った所だろうか。
「もぐもぐもぐ……お花見っておいし〜♪」
 シュテが色んな料理を摘んでは口一杯に頬張ったまま笑顔で言う。視覚だけではなく、味覚も満足の様だ。
「結構いけるよ。んじゃ、おかわりっ」
「もぅ〜 そんなに欲張っちゃだめですよ? でも本当においしいですわ」
 羊の焼肉につい夢中になっているレベッカはおかわりを所望。そんな様子に呆れつつも肉や野菜を口に運び、微笑むメリッサ。姉妹の如く、実に仲睦まじい。
 食事も進み、時はゆったりと流れる。ひらひらと花弁が手にした杯に舞い落ち、ゆらゆらと揺れる。ただそれだけの事ですら、心和み落ち着くのは桜の花の持つ魅力、いや、魔力とでも言うか。
「綺麗な桜ですね」
 レイヤはじっと食事の手を止めたまま、見上げ続ける。
「あら……レイヤ様、じっとなさって」
 エルノアーレがレイヤの肩に手を伸ばすと何かを摘み上げた。丁度桜の花そのものが落ちてきたらしく。小さな桜の花がレイヤの掌に手渡され。
「可愛い……そうだ、お義兄ちゃんに見せてあげるのに、押し花にして持って帰ろう」
「良いですわね。きっとお喜びになられますわよ」
 彼女の持つ詩集の栞となり、文字通り思い出の一頁を飾る事となるのだろう。
「さて、ちょっとした余興でも。舞を披露致しましょう」
「あ、じゃあ演奏なんてどう? ボク上手いよ?」
 シフィルの申し出に、シュテが手を挙げて伴奏を持ちかける。ナサロークもハープを奏でると言い、即興の舞楽団となる。
「一番、シフィル。踊りますわ」
 曲が流れると楓華風の着物に身を包んだシフィルが扇子を手に艶やかに舞う。楓華風の舞は何と桜と相性の良い事か。
「イオリの故郷でも桜は同じなのかしら?」
「うむ……」
 ルディの問いにイオリは静かに頷いた。国や文化が違っても、美しく咲く花に違いは無い。そしてそれを観賞し、楽しむ心も違いは無いのだろう。
 薄暗くなってきた頃、ツァドは燭台を立てて灯すと昼間とはまた違った幻想的な世界がそこに広がった。暗い闇の中に照らし出される桜の花は、まるで夜の中に浮かび上がるが如く輝いて見える。
 ナサロークが残った肉にスライスしたトリュフを乗せて軽いツマミを作り振る舞う。それを肴にちびちびとやっていたレオニードはほろ酔い気分のまま、嗚呼と一つ呟いた。
「やはり、桜は良いな」
 春の訪れ。冬も終わり、夏に駆け抜けるまでの僅かな期間。あっという間に咲いて、そして散りゆく儚さの中にある美しさ。
「このような平和な時間が誰にでも取れるようになれば良いのであるがなぁ……」
 イオリはそう呟きながら杯を傾けた。戦いを忘れさせてくれる穏やかなこの一時。

 霞の空に、桜咲く。
 香澄みの宙を、桜舞う。
 花済みのそらに、桜散る。

 時の流れはただただ穏やかに。彼等はその緩やかな流れに身を委ね、楽しんでいたのだった。


マスター:天宮朱那 紹介ページ
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作成日:2008/04/17
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