ミッドナーの誕生日〜肝試しの夜に〜



<オープニング>


「肝試しがブームだそうですよ」
「……何処で?」
「私の中で」
「……それはマイブームっていうと思うんだよ……なんで伝聞系?」
 そんな会話を交わしている3人組は夜闇の霊査士・ミッドナー(a90283)、放浪剣士・デスト(a90337)、トレジャーハンター・アルカナ(a90042)の3人組だ。
「何処でブームかなど些細な事です。そうでしょう?」
「結構重要だと思うんだよ……」
「そうですか?」
「そうだよ絶対……それに肝試しって夏の風物詩じゃ……」
「伝統にこだわりが? さすがはトレジャーハンターですね」
「いや、伝統っていうか……」
 ぬかに釘、という言葉をアルカナは思い出し、頭を抱える。
 こういう時のミッドナーは大抵、暇を持て余しているのだ。
 そして、そういう時には大抵こちらの話を聞いてくれはしない。
「まあ、しかしだな。意外と良いかもしれんな、肝試しも……」
 此処で珍しく口を開いたのがデストだった。
 大抵我関せずを決め込む彼にしては、非常に珍しい。
 アルカナの珍獣を見るような視線を遮ると、デストは席を立つ。
「……良い場所は俺とアルカナで探しておこう。楽しみに待っていてくれ」
 そう言うとデストはアルカナに手招きをし、まだ珍獣を見る顔のアルカナの頬をつねる。
「……明日はドラグナーでも降りますかね?」
 縁起でも無い事を呟くミッドナーだったが。
 つまりは、それだけ珍しい行動だったのである。
「ね、ね、どしたのデスト。何か良い事でもあったの、自主的に動くなんて」
「お前は俺を誤解している」
 眉間を抑えるデストの後ろをついていくアルカナの顔は、如何にも疑問です、といった顔である。
「……誕生日だろ」
「あー……そっか」
 なるほど、というアルカナ。
 実のところ彼女にとっては、デストがそんな気を回せる事のほうが驚きではあったのだが。
「そっかー、さすがデストなんだよ」
 あえて言わない。それが友情というものであった。
 そして数日後。とある館の前に彼等は居た。
「おー……ここなら雰囲気バッチリなんだよ。何か因縁の類は?」
「無い。単に引っ越していっただけだ。問題ない」
「うん、それならOKなんだよ」
 所謂下調べであるが、どうにも因縁が無い事を確かめていたらしい。
 因縁のある館で遊ぶべきではない、という信念によるものらしいが。
 ある種正義を重んじる冒険者らしい精神かもしれない。
「で、何か作る? ストーリー」
「別にいらないんじゃないか」
「えー、つまんないんだよ」
 結局のところ、ストーリーは無しになったのだが。
 2階建ての館は如何にも雰囲気たっぷりである。
 錆びた蝶番、きしむ扉、重いカーテン。夜になれば雰囲気バッチリに違いない。
「でも、肝試しって言ってもねえ……」
 一般人であればともかく、モンスターや盗賊が出るかも、などとビビるような冒険者ではない。
「……まあ、冒険者には冒険者なりの肝試しがある」
 つまりは、ビックリハウスである。
 アビリティや武器の類は使用禁止、己の力と知恵のみをもってして相手をビビらせる脅かし役。
 やはりアビリティや武器の類は使用禁止、己の平常心のみをもってして目的地へ行く脅かされ役。
 こういう肝試しになったのであった。
「……あと、問題があるよね」
「ああ」
 その問題というのは。
「ここ、遠いよね……」
「……ああ」
 ミッドナーが、長距離移動が恐ろしく苦手なインドア派である、ということであった。
「デスト、運ぶ?」
「……」
 こうして、前途多難な肝試し兼誕生パーティは幕を開けるのであった。


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参加者
NPC:夜闇の霊査士・ミッドナー(a90283)



<リプレイ>

「肝試しか……。やった事は無いが、アンデッドなら見慣れている……うん、冒険者って色んな意味で鍛えられるね」
「そうですね」
 業の刻印・ヴァイス(a06493)から地酒を受け取った夜闇の霊査士・ミッドナー(a90283)は、早速瓶の吟味を始めながら答える。
「ここか……中々雰囲気があるわね」
「そうですね、お姉さま」
 楽しそうに談笑するストライダーの武人・シュテラルム(a73215)と不眠症の詩人・リトル(a72590)の姿を見て、刃光絢爛・タケ(a73128)は楽しそうに笑った。
 久々に姉妹で会ったのだ。今は声をかけないのが楓華男児の心意気というものだろう。
「折角参加するのですから、ミッドナー様や他の参加者様が楽しめるように精一杯脅かし役を頑張らせていただきます!」
「ええ、でもレンフェールさんも楽しんでくださいね」
 凍魂誓護・レンフェール(a71055)に声をかけてミッドナーが振り向くと、そこでは白銀の騎士・ユウヤ(a65340)が足を震わせていた。
「そうか、彼女の中では肝試しがブームなのか……なんて呪わしい」
「男でしょう、しっかりしてください」
 そんなユウヤの胸をトンと叩くと、ミッドナーも館を見上げる。
 なるほど、確かに雰囲気は充分だ。
「肝試しだね。ミッドナーの言う肝試しは肝機能を試す方じゃないよね?」
「別にそっちでも構いませんが……痛飲はあまりお勧めできません。あれは翌日が大変です」
「やったことあるんだ……」
「ノーコメントです」
 彩雲追月・ユーセシル(a38825)と会話をしていると、楽風の・ニューラ(a00126)が近づいてくる。
「それでは、準備を始めていますね」
「行ってくる」
「ええ、お願いします」
 いつから居たのか、漢・アナボリック(a00210)もニューラの後について歩いていく。
「……楽しみですね」
「そうですわね」
 ミッドナーと紅色の剣術士・アムール(a47706)は頷き合い、スタート地点に戻っていく。
 肝試しは、仕掛けられてからが面白い。ここは、覗かないのが礼儀というものである。
 そして、何よりも。順番を決めなければいけないのだ。そして、ペアも。
「えー、ではペアは……リトルさんとタケさんのペア。アムールさんとアルカナさん、あとは……ヴァイスさん、ユーセシルさん、ユウヤさんが私とですね」
 ミッドナーはペンをクルクル回すと、懐に仕舞い込む。
「じゃあ、そろそろ準備もできたでしょうし。順番でも決めましょうか?」
 一方の脅かしチームは、準備万端で待ち構えていた。
 最初に来るのは誰か。朝昼夜寝・リラ(a73255)は居眠りから目を覚ますと、窓の外を見る。
「ミッドナーと……ユーセシル、か。皆、来るよ!」
 リラの声に、館の中があわただしくなり始める。
 あくまで静かに、しかし確実に配置につく為に。
「覚悟なきモノ、ここより先立ち入るベカラズ……か。帰る?」
「何しに来たんですか」
 ミッドナーが先導してドアを開けようとするが、振り返ってユーセシルを見る。
「扉重いです」
 いきなり前途多難であった。
「いっさ〜い、にさ〜い……あ……三十路まで後7年しか有りませんわ」
「ソウデスネ」
「こわっ!」
 楓華風の装いをした樹霊・シフィル(a64372)がそう言ってミッドナーを搦め手で脅かすが、思わぬ反応でユーセシルを脅かす結果となった。
「ヒャーッ、冷たい!?」
 リラのこんにゃく、レンフェールのチャドル……隣で慌てる人間がいると落ち着くというが、まさにミッドナーはそんな状態である。
「あ、帰ってきましたね……どうでしたの?」
「面白かったですよ。ユーセシルさんが」
 よく分からない、といった表情のリトルの肩を叩き、ミッドナーは促す。
 さ、貴方達の番ですよ……と。
「楽しみでござるなあ」
「ですの」
 タケとリトルは手をつなぎ、館に入っていく。
 聞こえてくる木魚の音が如何にも不気味であるが……。
 まずは2階に上ろうと階段に近づくと、何やらゴトゴト音が聞こえ始める。
「な、なぁ〜ん! 止まらないですなぁ〜ん!」
「うわあっ!?」
「きゃああああああああ!?」
 予想外といえば、あまりに予想外。
 肝試しに来て階段から樽が転がってくるなど、誰が予想できるだろうか。
 樽はそのまま転がり落ち、石の壁にバウンドして止まる。
「な、なんでござるかな……」
 タケが中身を引っ張り出すと、ガラクタを集める者・トリン(a55783)が入っている。
「な、なぁ〜ん」
「肝試しって、命がけですのね……」
 しみじみと言うリトルであったが……普通、そんな事はない。
「誕生日なのに一緒にケーキを食べてくれないの」
「きゃっ!?」
 続けて、暗闇から出てきたのは夢語りの蛍・ユウノ(a10047)であった。
 シフィルのように楓華の着物を着ていたが、こちらは全身が赤い液体に覆われている。
 手に持っているケーキに1本だけ刺されたろうそくが、暗闇では如何にも不気味だ。
「で、では……」
 タケが手を差し出すと、ケーキの手前に何か箱のようなものがあるのが見える。
 何かと思って顔を近づけると、箱から何かが思い切り飛び出す。そう、ビックリ箱である。
「び、ビックリしたでござる……」
「ふふふ……はい、ケーキプレゼントです♪」
 ケーキを渡され、タケは呆然とした顔で見送る。
 このケーキを持ったまま、ラストまで行くのだろうか。
 それはそれで、中々の試練であるといえよう。
「……遅かったな。どうした?」
「コンニャクが……」
 リラのこんにゃくペッタンの事であろう。驚き疲れた様子の2人に突っ込むまい、と考えると、ユウヤはミッドナーに行こうと促す。
「う、うわぁぁっ!?」
「きゃーっ!?」
 ユウヤのあまりの驚きっぷりに、シフィルは逆に驚き。
「どああああああっ!」
「え、うわあっ!?」
 チャドルを首に押し付けたレンフェールが逆に脅かされる。
「……肝試され、ですね」
 すでに2回目ではあるが、驚く暇もありはしない。
 ミッドナーは楽しげに笑うと、先へ進んでいく。
 このまま最後で待ち構えるニューラの元に行ったらどうなる事か。
 それを考えると、ミッドナーは愉快でたまらなかった。
「も……戻ったぞ」
 息も絶え絶えのユウヤとバトンタッチすると、アムールはアルカナと共に館へと歩き始める。
「慎重に行きたいですわね……」
「んー? 必要ないと思うんだよ」
「どういうことですの?」
 アムールの言葉にアルカナは考え込むような顔をすると、指を1本立てて語り始める。
「つまり、さ。生き死にの問題じゃないし、気楽にいこー……ってことかな?」
 なるほど、言われてみればそうかもしれない。
 この場は命がけの冒険ではなく、肝試しなのだ。
「ま、また止まりませんなぁ〜ん!」
 そこに転がってきたのは、また樽に入って転がってきたトリン。
「生き死にの問題……」
「大丈夫、死んでないんだよ」
 すっかりノビているトリンをつつくアルカナ。
 どうやら、状況を面白がったほうが楽しそうだ。
 ふっと気を抜いたアムールの耳に、何かを数える声が聞こえてくる。
「いちま〜い、にま〜い……いちまい足りな〜い」
 無論、シフィルであるが。この暗さではいまいち判別がしにくい。
「皿を隠したんは、お前はんですか?」
「わーっ、出たんだよっ!」
「え、ちょっと。待ってくださいっ!」
 真っ先に逃げ出すアルカナと、追うアムール。
 先程の名言は何処へやら、であった。
「……お帰りなさい。それは?」
「えーと……お皿?」
「なんでそんなものが……」
「えとね、ここの紋様に何か秘密があるっぽいんだよ」
 どうやら、本当にお皿を隠し持っていたらしい。
 深く、本当に深くため息をつくと、ミッドナーはヴァイスを見る。
「私達が最後ですね」
「……だな。ところで、この前聞いた話なんだが」
 最後のペアは、ミッドナーとヴァイス。
 どうやらヴァイスの作戦は怖い話を聞かせてミッドナーを怖がらせる作戦のようだが。
 ミッドナーの表情に、あまり変化は伺えない。
「……おや、あんな所に明かりが……さっき来たときは無かったような気がしたんですが」
 ミッドナーが指差すのは、何やら中で明かりのゆらめくテント。
 中で待ち構えているのはレンフェールであり、無論「先程は無かった」わけがない。
 どうやらヴァイスの作戦を逆手にとった怖がらせを始めたようだ。
「敵か……粘り蜘蛛糸か……いや、ミストフィールドか……?」
 しかし、当のヴァイスは聞くなりそう呟き、我にかえる。
 敵なはずがない。いるはずはない。これはまさしく。
「職業病……ですね」
「ぐうっ」
 痛い所を突付かれヘコむヴァイス。なんだか肝試しとは別の方向である。
「……やっと到着か……」
 ユウノに貰ったケーキを抱え、ヴァイスはため息をつく。
 ここまで来たら、あとはお守りをとって帰るだけである。
「ヴァイスさんはケーキ持ってますからね、私がお守りとってきましょう」
 ミッドナーはすでに、ここは3回目である。仕掛けが分かっていれば、驚く事などない。
 それは、計算違いである。
「さて、と……う、きゃあっ!?」
 気持ちに余裕がある時に、冷たい手で掴まれる驚き。
 それは、実際に味わわないと分からない驚きである。
 そして、今日。ミッドナーは実際に掴まれるのは初めてであった。
「ふふふ、やっと引っかかりましたね」
 黒マントを羽織っていたニューラが顔を出し、ミッドナーは胸を押さえて息を整えている。
「では、帰るまでが肝試しです。頑張ってくださいね」
 木魚の音に見送られ、二人はスタスタと館を出て行く。
 かくして、肝試しは終了し。脅かし役、脅かされ役が混ざっての懇談会、ついでに成年組の飲み会が幕を開ける。
「ともあれミッドナーは誕生日おめでとう」
「誕生日おめでとう、ミッドナー・イートゥ。君の生きる道にどうか最良の結末がありますように……「俺達」は心からそう願うよ」
「誕生日、おめでとう御座います」
「誕生日、おめでとうございますの!」
「誕生日おめでとうだ。良き一年であるように」
「忘れ難き日となれば幸いに存じます」
 それぞれが、それぞれの祝辞を述べて。
 ミッドナーはそれに、微かな笑顔で返事を返す。
「……忘れません。きっと……ずっと。ありがとうございますね、皆さん」
 肝試しの夜は、ふけていく。たくさんの思い出を……皆の胸に、残しながら。


マスター:じぇい 紹介ページ
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作成日:2008/04/20
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