≪ユグドラシル≫桜祭りスプラッシュ!



   


<オープニング>


●湖の島の大きな桜
 春の歓びを歌うせせらぎの色を映したような、優しい水の色に澄んだ空。
 明るい萌黄色の春草をそよがせる風が吹き、春の青空を白い雲が渡っていく。
 薄く柔らかなシフォンで作ったような雲を追いかけ丘を越えれば、そこにはまるで露草の花を溶かしたように青く透きとおる湖が広がっていた。
 陽の光を抱いてきらきらと輝く湖の真ん中には島があり、島全体を梢で覆ってしまうほど大きな樹が聳え立っている。ほんのりと薄桃色に染まる花を満開に咲かせた、大きな大きな桜の樹。
 華やかに咲き誇り花霞を成す桜の花は、不思議なことに全てが同じ色ではない。
 大きく広がり先端が湖に触れているような枝に咲く花は白に近い薄桃色だが、上へ行くに従い少しずつ桃色が濃くなっていく。そして――樹の天辺には、鮮やかに咲き誇る牡丹にも似た濃桃色を宿す桜が咲いているのだ。
「樹の下から見上げると、まるで色々な桜で作った迷路に迷い込んだ気分になるのですよ〜♪」
 今ならあそこで桜祭りをしてるはずなのです、とハニーハンター・ボギー(a90182)が尾を振った。
 お祭りと言っても屋台が出るようなものではなく、近隣の住民たちが焼きたてのパンや自慢の自家製ベーコンに春野菜のマリネ、朝採り卵のスクランブルエッグや春林檎のジャムに木苺のジュースなどを持ち寄って花見を楽しんでいるといった感じのものだが、ただのお花見とはわけが違うのでお祭りなのです、とボギーは主張する。
「それはとてもとても――すぷらっしゅなお祭りなのです!」

●桜祭りスプラッシュ!
 春爛漫と咲き乱れる桜の花々の中を風となって滑り抜ける。
 さざめく花吹雪の中を突き抜ければ滑り降りた勢いのままにぽーんと宙へ投げ出され、そのまままっさかさまに湖へと。白く輝く水柱を派手に上げて、桜祭りの参加者が透きとおる湖に沈んだ。
「スゲー! こんなでっかい桜初めて見たっ!!」
 まるで皆の意見を代弁するかの如く、雷神天狐・シーグル(a27031)が興奮気味に声を上げる。
 丘の上から見た時もかなり大きな樹だと思ったが、近くで見るとその大きさは桁外れだった。
 何せ梢は湖の島全体を覆うほどに広がり、樹そのものは宮殿のように巨大。張り出す枝々もその上を人間が滑ることができるほど大きくて、その枝や梢に薄桃から濃桃へ色を変える桜が咲き乱れている様は――まさに壮観だ。
 満開の桜の中を抜け、また誰かが風の如き勢いで滑り降りてくる。枝の先から青空へと投げ出されたその誰かはやはり湖へと落下して、きらきら輝く水飛沫を盛大に跳ね上げた。よくよく注意してみれば巨大な桜のあちこちから悲鳴や水音が聞こえてくる。要は巨大桜の枝を滑って湖に突っ込むのが桜祭りなのかと思ったが――
「あ、違うのですよ」
 瞬きしたボギーが、巨大桜の天辺を指差した。
 樹の傍まで来てしまえば到底見えないが、鮮やかな濃桃色の桜が咲く天辺を指しているらしい。
「いい感じの枝を選んで、いい感じの姿勢になって、いい感じの勢いで滑れば、いい感じに空中でくるっと回って樹の天辺に着地できるんだそうです。で、誰かが樹の天辺に着地すれば綺麗な濃桃色の桜吹雪が降るそうなのですよ〜。それを目指して皆で滑りまくるのがここの桜祭りなのですっ!」
「おおスゲー! 面白そうだなっ! で、いい感じってどんな感じなんだ!?」
「わかりませんっ!!」
 清々しい笑顔で答えられた。
 これはもう――チャレンジあるのみだ。


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参加者
柳緑花紅・セイガ(a01345)
天藍の風・アモウ(a08601)
桜奏・チェリート(a16606)
野良猫・アッシュ(a25816)
天藍の翼・サナ(a25832)
雷神天狐・シーグル(a27031)
幻影魔女は戦士と共に生きる・シルヴィア(a32018)
鈴花雪・ソア(a32648)
闇を斬り裂く守護蒼刃・クロス(a33237)
砂の孤城の・リオン(a59027)
守護拳士・クゥ(a62976)
朗らかなる花陽・ソエル(a69070)
NPC:ハニーハンター・ボギー(a90182)



<リプレイ>

●桜祭りスプラッシュ!
 湖の島に聳える桁外れに大きな桜の巨木を仰いでみれば、空のすべてが桜で覆い尽くされたような心地になった。広がる梢は幾重にも重なって、ほんのりと薄桃色を帯びた桜花は奥へ行くほど鮮やかに桃の色を濃くしていく。眺めているだけで桜の世界へ吸い込まれそうな気がして、朗らかなる花陽・ソエル(a69070)はふるりと猫尻尾を震わせた。
「凄い……視界が桜に埋め尽くされたみたいです!」
 声を弾ませるソエルの視界の中、空いっぱいに咲き誇る桜の中を誰かがよじよじ登っていく。
 つやつやした真直ぐな枝に狙いを定めた誰かはいそいそと腹這いになり、思い切り幹を蹴った。
「っしゃー! 1番シーグルっ、行くぜーっ!!」
 勢いよく飛び出した雷神天狐・シーグル(a27031)はまるで吹き抜ける風の如く枝を滑り出した。
 咲き乱れる桜達が時折顔を打つけれど、そのたびに広がる花の香が心地好くては破顔する。面白れぇっと叫ぶうちにもどんどん滑降スピードは加速して、薄桃色の奔流となった景色の先に煌く水面が見えてくる。滑り降りた枝先に弾かれるようにして放り出されたのは、澄み渡る青空と透きとおる湖の狭間。
 くるりと宙返りをした瞬間、桜の樹の天辺に咲く濃桃色が見えて――
「さぁ! みんな! スプラッシュだヨ!」
 砂の孤城の・リオン(a59027)の予言と同時に、シーグルはどばしゃーんと湖の中に突っ込んだ。
 春の湖は冷たいけれど、湖面から射し込んでくる光は水の中で柔らかに揺れる。衝撃で生まれた気泡達が煌きながら水面へ向かい、つられて振り仰げば透きとおる水の向こうに桜が見えた。
「最高!!」
「ふむ、良いスプラッシュっぷりだったぞ」
 満面の笑みで水から顔を出したシーグルに手を貸しつつ、闇を斬り裂く守護蒼刃・クロス(a33237)が陽だまりの匂いがするふかふかのタオルを差し出した。
「桜の木の枝を滑るなんて! とっても面白そうだわ」
「今回はずぶ濡れ承知で皆さんと楽しむのです♪」
 誰かが濡れ狐よろしく身を震わせれば、きらきら輝く水飛沫と桜の花弁が辺りに散った。きゃあと声を上げながらも幻影魔女は戦士と共に生きる・シルヴィア(a32018)は楽しげに敷物を広げ、水飛沫から弁当を庇った守護拳士・クゥ(a62976)も嬉しげに尾を振り桜の梢を仰ぎ見る。すんなりと伸びた大きな枝の上には、既に柳緑花紅・セイガ(a01345)がスタンバイしていた。
「おし、当然天辺目指すぜ!」
「いくですよぷちまろさん!」
 何か燃えてきたと不敵に笑うセイガの膝には頭に子亀を乗せた桜奏・チェリート(a16606)が収まっている。それっと勢いを付けて滑り出せば、二人と一匹はたちまち桜の雲の中に呑みこまれた。
 咲き誇る桜の花は薄桃色の渦となって彼らを取り巻いていく。勢いよく吹きつけてくる風と桜吹雪の中を突き抜けていくのは爽快な気分だった。淡い花の香の中には水の匂い。矢のような速度ですり抜けていく花の海の先には青く透きとおる水の煌きが見えている。
 せーので呼吸を合わせ、宙に放り出されると同時に――
「「クマスプラーッシュ!」」
「もぎゃー!?」
 何ですかその掛け声はーというハニーハンター・ボギー(a90182)の抗議を聞きながら、宙を舞ったセイガとチェリートは薄桃色の花弁達と共に透きとおる水の中に落っこちた。澄んだ青の世界に沈んでみれば、身体を取り巻く水の流れに細かな気泡や桜の花弁が煌き踊る。
「クマスプラーッシュ……?」
「よっしゃ、クマスプラッシューー!」
 冬山修行から帰ったばかりの野良猫・アッシュ(a25816)は、聞き慣れない言葉に瞳を瞬かせながら水飛沫が上がったばかりの湖を覗きこむ。いつからこんな言葉が流行ってるんだろうと思ったが、まあきっと物凄く最近のことだろう。溺れかけたチェリートがしっかとセイガの首に掴まりぐいぐい締め上げる様を微笑ましく見遣り、天藍の風・アモウ(a08601)は「楽しそうだな!」と爽やかに笑った。
 が。
「滑り終わった後には栄養満点のばななみるくね」
 にっこり微笑んだ若奥様こと天藍の翼・サナ(a25832)の言葉にその笑顔が凍りつく。飲んでも飲んでも無くならない恐怖の飲み物を受け入れるべきか逡巡したが、幸いなことにアッシュが冬生まれの小さなお姫様の話を持ち出してくれたのでサナの気が逸れた。おめでとう、と祝ってもらえれば暖かな幸せが胸の裡をくすぐっていく。
 和やかな光景を見下ろしながら、桜の梢に腰掛けた鈴花雪・ソア(a32648)は浅葱色のバンダナで髪を纏めた。つるりとした少しU字型の窪みがある枝を見定めて、まずはお花見滑りとお尻から滑り出し、そのまま仰向けになってみた。
 咲き誇る桜は幾重にも重なり晴れ渡る青空を彩って、風に花が揺れるたびに青空と陽射しのかけらが降りそそぐようだった。うねりのついた枝の谷を越えれば更に滑降は加速して、花の色の奔流に呑まれるような心地になる。降りそそぐ陽射しのかけらは更に眩く輝いて、視界すべてできらきらと踊った。澄んだ水の香が鼻先を掠めたと思った途端、ソアは宙へと放り投げられる。
「ざぶんとスプラッシュどんとこいですー!」
 青空と湖の世界が反転し、次の瞬間には煌く水飛沫が盛大に上がっていた。

●桜滑りスプラッシュ!
 聳え立つ桜の巨木に登ってみれば、甘い桜の香がひときわ濃くなった。
 梢の下を覗いてみれば思ったよりも皆の姿が小さくて、木の上って高いのねとサナは夫の首に腕を回してしがみつく。アモウが抱き締めててくれるなら安心ねと囁く妻をお姫様よろしく抱きかかえ、さり気なく彼女のウエストを探ったアモウは輝くような笑顔を見せた。
「微妙〜に嫁さんの体重が増えてるような気がしなくも無いがっ! 俺っ、ガ・ン・バ・ル☆」
「…………」
 アモウの首がきゅっと絞まった。
 急勾配のついた枝を、ちょっぴり顔色の変わったアモウが妻を抱きかかえたまま滑り降りていく。
 その様を眺めていたクロスは重々しく頷いて、傍らのシルヴィアをふわりと抱き上げた。
「……ふむ、ペアで滑るときにはこうするわけか」
「え。別にお姫様抱っこって決まってるわけじゃ」
「行くぞシルヴィア! しっかりつかまっているのだぞ!!」
「ってクロスさん話聞いてえええええっ!!??」
 愛する妻を確り抱きかかえたクロスは、湖に向かって真直ぐ伸びた枝を猛スピードで滑り始めた。
 頬に当たるのは春の風と桜の花弁に光のかけら。うねりを越えるたびに滑る速度は加速して、咲き誇る桜達が身体を取り巻き渦を成す。花の合間から零れる木漏れ日と湖面の煌きが重なって、ひときわ眩く輝いた。素敵、と声を上げ、サナは確り夫にしがみつく。
 瞬間、二人の身体は大きく宙に舞い、そのまま透きとおる水の中へと落ちていった。
 派手な水音と視界の端に煌いた水飛沫に瞳を瞬かせ、シルヴィアも確りと夫に身を寄せる。勢いを増していく風が心地好くて、視界を奔流のように流れていく桜が綺麗で、何だか恍惚の中に呑まれていきそうだ。だが彼女を抱くクロスの腕に力が篭もり、近づく『その時』をシルヴィアに教えた。
 細くなった枝先は大きく撓り、二人の身体を宙へと跳ね上げる。
「クマ! スプラァァァァッシュ!!」
「ラ、ラブパワーでク・マ・スプラーッシュ!」
 あたかも必殺技を繰り出すかの如き勢いで宙に舞ったクロスとシルヴィアは、誰よりも大きな水柱を上げて人々の喝采を浴びた。
「クマスプラッーシュなのです〜♪」
「これはいいスプラッシュだネ! 次はオレっちと滑る番だヨ!」
 続いてクゥが控えめな水飛沫を上げて湖に落っこちる。泳ぎはお兄ちゃんと特訓したのですよ〜とよたよた泳ぐ彼を引っ張り上げて、リオンはわしわしとタオルで水を拭いてから彼をつれて桜の巨木を登っていった。リオンがクゥを抱っこして滑る約束なのだ。
「はう、僕の方が大きいですけど、まあ大丈夫ですよね」
「大丈夫! 途中でクゥさんくすぐったりなんてしないのだー!」
「え」
 ひゃあぁああぁと悲鳴を上げるクゥを抱きかかえたまま、リオンは勢いよく枝の上に身を滑らせた。
 確りとした強度を持った太い枝は湖へ向かって真直ぐ伸びている。思い切り勢いをつけたリオンの身体は一瞬たりとも止まることなく桜の螺旋を潜り抜け、そのまま透きとおる湖へとまっしぐら。
 どかーんと湖に突っ込んだ二人は、華やかな噴水を思わす水飛沫を盛大に上げた。
「うん、皆でいい感じ、だな」
 仲間達の素敵なスプラッシュぶりをじっくり鑑賞し、桜の梢でアッシュが腰を上げた。
 綺麗な湖に飛び込んでいくのも楽しいが、誰かが樹の天辺に着地した時に降るという花吹雪をやはり一度は見てみたい。皆で花吹雪を喜び合えたなら、きっと最高に楽しい思い出になるはずた。
「……と言う訳で、そこにいたオッサンのアドバイスどおり『クマスプラーッシュ!』をやってみる……」
「何で見知らぬオッサンにまでクマスプラッシュが広まってるんですかー!」
 加速度的に広まっていく合言葉に戦慄するボギーに意味深に瞳を細めて見せ、アッシュは真直ぐ伸びた枝を滑り降りていく。たちまち桜の中に見えなくなっていく彼の背を見送ってから、長めの枝に跨ったシーグルがボギーを呼んだ。
「よし、行くぜボギー! 俺について来いっ!」
「はいですよー!」
「後ろからオレも行きますね〜!」
 大きく手を振るソアに手を振り返し、前後に並んだシーグルとボギーが桜を滑り出した。
 吹きつけて来る風と花弁を真正面から浴びながら、桜の渦へと思い切りよく突っ込んでいく。濃淡鮮やかな花色の紗を潜り抜ければ眼前には澄んだ水面が広がって――
「おっとこまえ道で突撃ですっ!」
「どわあっ!?」
 後ろからは一条の矢と化したソアが突っ込んできた。
 玉突きの要領ですこーんと宙に投げ出された三人は天高く舞い上がる。
 勢いのままくるりと回れば、逆さになった視界に鮮やかな桃色のグラデーションを成す桜の樹の全景が飛び込んできた。――が。
 そこから急速落下した三人は思い切りよく湖に突っ込んで、大きな大きな水柱を上げる。
 降りそそぐ水と花弁を浴び、一足先に着水していたアッシュは瞳を細めて空を仰いだ。
「……すごい綺麗、だな」
 澄み渡る青空に舞う、水と光と花のかけら。

●桜吹雪スプラッシュ!
 目指すのはあまりひとに滑られていない感じの枝だ。
 強度は大切だけど、太すぎてもダメ。ひとの重みで少したわみそうな程度の太さで、手触りと角度が滑らかなもの。そしてくいっと先端が持ち上がるようなカーブがついている枝――
「……これならきっと!」
 理想的な枝を見出したソエルは早速その上で仰向けになった。
 随分と高くまで登ってきたから周りの桜は桃の花のように華やかな色に色づいている。ボギー様のクマ様とも握手してきたから大丈夫と自分を励まして、ソエルは足先から勢いよく滑り出した。
 流れ始めた桜の風景はすぐさま花色の奔流となって飛ぶように翔けていく。風は足元から吹き上げるように全身を撫でそのまま頭上の彼方へと翔け去った。身体すべてを枝に委ねれば、桜の花々は桃色から撫子、薄桜へと色を変え、螺旋を生んでソエルを包み込んでいく。桜の果てに水の煌きを見出した、その瞬間。
「参りますっ、クマスプラーッシュ!」
 枝先から弾かれると同時に爪先を青空へ。
 天へ登りきったと思えば体を小さく丸め、始まった落下に身を任せれば――
 ぽふりと音を立て、ソエルは牡丹の如く鮮やかな濃桃色の花咲く桜の巨木の天辺に着地した。
「や……やりましたあ!!」
 感激に身を震わせたソエルは天辺から身を乗り出して、下にいる皆に手を振ってから枝を揺する。すると小さな振動が梢全体に広がって、天鵞絨みたいに艶やかな濃桃色の花吹雪が降りそそいだ。
 濃桃色の花弁達は眩い光を孕み、まるで空から宝石が振りまかれたように舞い降りる。
 鮮やかな春の祝福に皆は声を上げ、今日顔を合わせたばかりの近隣の村人達とも手を取り合って桜祭りの喜びを分かち合った。
「――と言う訳で! 仲良くなったご近所住人さんと早速トレードしてきたのです!!」
 村人のおねーさんと意気投合したチェリートの行動は素早かった。速攻でぷりんと村人のジャムを交換して貰い、鮮やかな木苺ジャムを乗せた滑らかふるふるみるくぷりんを皆に披露する。
「皆で楽しく美味しいものを食べましょうね〜♪」
 うきうきとシルヴィアが広げたのはサナと一緒に作ったお弁当。
 春の山菜をたっぷり炊き込んだ山菜ごはんに、茹でたワラビを醤油と削り節で和えたもの、そして香ばしく焼き上げたパンに鶏の照り焼きと瑞々しいレタスを挟んだサンドイッチに、真っ赤な苺と滑らかなカスタードを挟んだデニッシュ。次々と並べられていく豪勢なお弁当達に、わぁと声を上げたクゥが嬉しげに尾を振った。
「こんな素敵な料理をいつも食べているアモウさんとクロスさんは幸せですね♪」
「そうだろそうだろ、よーし俺からはサナお手製の桜のソーダブレッドお裾分けしちゃうぞー」
「ばななみるくもたっぷりありますからね〜!」
「え」
 一部で悲鳴が上がったり上がらなかったりしたような気がするが、満開に咲く桜の下で皆とお弁当を摘み戯れるひとときはとても楽しく幸せなものだった。
「じゃあここでオレっちが幸せの運び手を披露するヨー!」
 何て言い出したリオンは間一髪で取り押さえられ、大人しく普通の曲をシタールで奏でている。
 危うく幸せの運び手でお腹が膨れるところだった面々も無事素敵なお弁当とデザートを満喫し、暖かな陽射しと柔らかな花弁の降る中で横になった。陽だまりと桜の匂いを胸いっぱいに吸い込んで、桜の梢を仰ぎ見れば――
「もっかい頑張ってくるからなー!」
「みんな見ててねーっ」
 ひときわ華やかな桜の咲き誇る枝にセイガとチェリートがスタンバイしていた。
 ばななみるくを回避している内に弟子に捕まったセイガは「チェリ、首は駄目ったら駄目だぞ?」と念を押す。だが「はいですお師匠!」と輝く笑顔で良いお返事をする様は非常に怪しい気がした。いつも通りってことかと溜息をつき、セイガは思い切りよく滑り出す。
 押し寄せる花の奔流の中を潜り抜け、くるりと枝を回ってきらきら輝く水面へ一直線。
「シリアスー!」
「いっぱぁあつ!」
 青空へと飛び立った師弟は小さな点となってきらりと輝き、素敵な水柱を上げて湖へと突っ込んだ。
 盛大な水飛沫を被ったアッシュはぶるりと頭を振って、煌く水滴に混じって散った桜の花弁を手に取って見る。薄桃色から濃桃色まで、様々な色をした花弁達。
「これ……栞にして、皆の分、配ろうかな……」
 楽しげに笑って湖から上がってくる二人に、やっぱり楽しげに笑って大量のタオルを被せる仲間達。
 幸せな春の証を握り込み、アッシュも皆のもとへと向かった。


マスター:藍鳶カナン 紹介ページ
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参加者:12人
作成日:2008/04/22
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