rush〜突進



<オープニング>


 窓から入る春の陽射しの中、佇む女性。女神フォーナは、眼前の冒険者達に向かって口を開いた。
「冒険者の皆様、お越し頂き感謝します。実は、お願いがあるのです」
 遠くを見遣る視線は、はっきりと憂いを含んでいる。その理由を、ゆっくりと語る。
「凶暴化した猪の群れが、自然の摂理を乱しています。皆様の力でどうか、森を護って下さい」

 とある森で、不思議な現象が起きていた。次々と樹が、倒れていくのだ。風もなく雨も降らない、良く晴れた日に限って。樹には、何か重たい物が当たった痕。地面には、無数の小さな丸い穴が空いていた。そしてそれが猪の群れの仕業だと、このほど判明したのだ。
 猪の群れは固まりのまま、猛烈な勢いで突進してくる。真面に喰らえば、冒険者とて無事ではいられない。獲物と認識されたが最後、兎に角も逃げるしかないだろう。仲間との連携が、きっと重要になる。猪は20匹の大群で、平均体長は約1メートル。それより大小の誤差はあるものの、小さくても充分に脅威だ。突進の最中には、辺り一面が土埃に覆われて視界が悪くなる。気付いた時には吹っ飛んでいた、なんてことにもなりかねない。

「これを……」
 差し出された女神の手には、光で出来た種が乗っていた。手渡されたその輝きを、冒険者の一人が握り締める。とてもとても、大切な物だから。
「全てを終えた後、森に埋めて下さい。心を込めて『大地が再び力を取り戻しますように』とお祈りして頂ければ、荒れた生態系もすぐに元に戻るでしょう」
 もうその表情から、不安は消えていた。冒険者達なら大丈夫だと、女神フォーナは確信している。
「それでは皆様、くれぐれもお気を付けて」
 微笑みを湛えて、冒険者達を見送る女神。温かい笑顔に、冒険者達は決意するのだった。


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参加者
碧風の翼・レン(a25007)
漆黒の黄金忍者・ケンハ(a29915)
城壁の姫騎士・サクラコ(a32659)
虚静なる形代・ロティオン(a38484)
南国の薔薇・ジョージィ(a44355)
猟狂狼・ズィヴェン(a59254)
樹霊・シフィル(a64372)
蒼き厄札使い黒き黒炎遣い・ファサルト(a64858)
希望の腕・サータリア(a65361)
重鎧・トビー(a72634)


<リプレイ>

●戦闘区域
 森に着いた冒険者達は早速、標的の足取りを追う。疵跡から居場所を探り、撃退場所を求めた。止まぬ土埃に咽せたりもしながら……冒険者達は、猪の群れを誘き出す獣道を定めた。両側面が樹や草で覆われており、充分に隠れられる。そして全体的に見通しの利く、戦いにも有利な場所だ。
「良い樹が……無残ダナ。綺麗な花咲かせたンダロウガ気のキかネェ獲物共のセイで、カワイソウニ。マァ、女神サマの依頼だしナ? ここは気合イレテ猪狩りシマスカ。それが樹の弔いダロウシサ」
 煙草を銜えたまま、魔銃狼・ズィヴェン(a59254)は樹に登る。待機組から離れず、最も見晴らしの良い葉桜の樹へと。遠眼鏡を用いて発見した兆候を、タスクリーダーで囮組に報せた。
「突進してくる猪。何か、人事とは思えないのなぁ〜ん……性格的に」
 グランスティードに跨り、南国の薔薇・ジョージィ(a44355)が追跡を開始する。同じくグランスティードで、鋼鉄の重戦騎・トビー(a72634)も猪達の許へ。ズィヴェンからの指示を頼りに進むうち、段々と土埃は酷くなる……だが2人が着用しているハーネラゴーグルは、効果絶大。
 暫く駆けた後、2人は群れの遠く前方に立ち塞がった。トビーはまず自分に、そしてジョージィに、鎧聖降臨を掛ける。万が一に備えて、少しでも傷付くことのないように。
「牡丹鍋といきたい所だが……いささか季節外れか。あいつ等が悪い訳ではないかもしれん。しかし迷惑を被る者が、実際に居る訳だからな。悪いがこちらもそれ相応の手を打たせてもらう」
 敵の姿を認め、トビーはスーパースポットライトを発動。それ自体は外れて効果なしだったが、トビーの行動に大群は注目する。2体のグランスティードが、勢い良く踵を返した。
「あはは。目が合ったっ? なぁ〜んっっ!!」
 一定の距離を保つために、僅かジョージィは振り返る。猪に睨まれても全く動じないのは、強さかそれとも……何はともあれ、ジョージィにとって囮役はそこそこ面白いらしい。
「猪武者とは良く言ったものだ……まあ俺も大して変わらんか」
 言葉の意が、今一つ謎だが。トビーは手鏡を翳して、猪との距離を見定めた。
『近附いてきたゼ、そろそろ準備シトキナヨ』
 待機組の心に、ズィヴェンの声が響く。道の左右に分かれて待ち伏せる冒険者達は、一斉に戦闘準備を開始した。一気に騒がしくなり、戦場の様を表する。
(「できれば被害が出ない場所へおびき寄せたかったけど……危機に繋がるから、我慢我慢」)
 眼を瞑り、碧風の紡ぎ手・レン(a25007)は黒い炎を纏った。森を護ることは勿論重要だけど、それ以上に仲間の生命が大切だから。少し無念さは残るが、最適な方法は分かっている。
「森の木々がばったばったと倒れちゃうのは、ドリアッド的には由々しき事態。女神様直々の依頼でもありますし、気合を入れて頑張りますよっ!」
 ぐっと拳を握り、城壁の姫騎士・サクラコ(a32659)は自らの鎧を進化させた。
「綺麗な森が荒れるのも、生き物のお家がなくなってしまうのも悲しいのです。フォーナ様の笑顔にお応えするためにも、種を植えねば」
 虚静なる形代・ロティオン(a38484)も、黒炎で力を底上げする。邪竜身改の効果に加わり、万全の迎撃体勢だ。隠しておいた召喚獣も、何時でも出現させられるように。
『さぁ準備はイイカ? 来るゼ』
 再度の報告とほぼ同時に、2体のグランスティードが冒険者達の間を突っ切った。その後から、猛烈な勢いで大群が押し寄せる。
「トラップフィールドを発動するでござる!」
 物陰から立ち上がり、蒼き衣を纏いし忍者・ファサルト(a64858)は叫んだ。敵味方問わず効果が及ぶため、仲間へ注意を喚起する。ファサルトの技は、大部分の猪を行動不能にした。
「親愛なる樹を護るのは、わたくし達ドリアッドの務めにございますわ! 猛り狂った猪に、果たして歌は届きましょうか?」
 微かに嘲笑を浮かべ、樹霊・シフィル(a64372)は眠りの歌を唄う。トラップフィールドの効果が及ばなかった敵を、今度こそ完全に停止させるために。シフィルは道の中心から、10メートルの位置から技を使用した。すると群れの横幅との関係で、僅かに全体へは行き渡らない。
「自分の住む場所まで、壊すほどになってしまうなんて……」
 だがシフィルの向かい側には、希望の腕・サータリア(a65361)がいる。粘り蜘蛛糸で、最後の1匹まで完璧に動きを止めた。
「凶暴化した猪の群れか……原因は判らないが、流石にこれは駆除するしかないだろうな」
 眼前で藻掻く猪に、漆黒の黄金忍者・ケンハ(a29915)は告げる。吐いた息が、周囲の空気と合わさり歪んだ。黒マントをはためかせ、巻き起こる強風は敵を襲う。ハイドインシャドウ奥義の上に黒マントを羽織っていたため、猪は全くケンハに気付いていなかったようだ。気付いていた処で、避けること叶わないだろうが。それでも猪とは言え、心構えくらいは出来たかも知れない。
「どかーん! おおーーっ!」
 タイラントピラーの出現音に合わせ、鬨(とき)の声を上げるサクラコ。一層気合いも入ったようで、すっかり身動きの取れない猪達を見遣る。
「ちょっと可愛そうですが、猪さん達には猪鍋の材料になって頂きましょう!」
 きらきらした笑顔を浮かべて、さらっと残酷なことを……サクラコはその内から、暗黒の鎖を解き放った。範囲内の幾匹かに命中させ、大きな損害を与えた。
「拙者達は餌ではないでござるよ!!」
 素早い身のこなしで、ファサルトは敵の背後を取る。鋭い一撃が、猪の急所を貫いた。飛び散る紅に、高い跳躍で後退する。鮮やかな展開で、ファサルトは敵を1匹撃破した。
「これ以上、桜の樹は傷つけさせないのなぁ〜んっ!」
 グランスティードで大群に突っ込み、ジョージィは流水撃を発動する。足許の数体を、黒閃斧で薙ぎ斬った。ケンハとサクラコが与えていた傷にジョージィの攻撃が上乗せされ、2匹の敵を葬る。
「おとなしく、していて下さい」
 ジョージィの背後から、サータリアが恐るべき空気の渦を生んだ。くぐもった呻きが、少し耳に障る。此処でも、3匹がその息の根を止めた。順調に、各個撃破がなされていく。
「これ以上おいたはいけません。そろそろ良い子になさいませ!」
「ニガシャしネェよ、一匹タリトモナ!」
 葉桜の樹の根本で、ロティオンがバスカニアを掌に乗せる。その樹上でズィヴェンも、強弓を構えた。撃ち出す異形の炎と自由自在に動く矢が、最近接の1匹を仕留めた。
「それにしても……猪は猪突猛進のイメージからか、直進しか出来ない上に何かにぶつかるまで止まれないと思われがちだが、実は全速力からでも急な方向転換や急停止が出来るんだ。数メートル先に突然現れた障害物を、急反転してかわすことも可能だな」
 そんな知識を披露しながら、ケンハは再び強風の渦を呼び起こす。空中に浮かぶ猪が数匹、地面に墜ちる。その衝撃から、拘束が解けて。
「っつ!」
 ケンハを思い切り吹き飛ばし、5匹の猪は力尽きた。ケンハの頭から流れる血が、下敷きの草を染める。一気に数撃を喰らった所為で、体力があまり残っていなかった。
「いけませんわ、早く治療を!」
 駆け寄りシフィルは、高らかな凱歌を唱する。取り敢えずの処置を済ませると、ケンハは立ち上がれるくらいまでに快復された。ほっと安心するシフィルに、御礼を述べるケンハ。だがまだ、万全ではない。ふらつく足許に、揺れる視界。
「自分も加勢しますよ!」
 そう宣言してレンが、ヒーリングウェーブを発する。ケンハだけでなく、他の仲間にも届く光の波。
「恨みは無いが、こちらも引く訳にはいかんのでな。悪く思うな!」
 グランスティードの上から、トビーは大型連接棍『魔獣の尾』を投げ付けた。真面に喰らった猪は、拘束されている身を捩る。一時の後、その猪も生命活動を終えた。
「ぼたん鍋の材料になるかな……これ?」
 更に猪を滅し、猪退治は無事完了。誰しも考えてるだろう事柄を、代弁するかの如くレンが漏らす。しかしながら、此奴等は総てが変異動物。食して無事にいられる保証は無い……だから今回は、残念に思いながらも諦めることにしたのだった。

●植種区域
 大して広くはない森を、冒険者達は歩き廻る。レンの趣味である植物知識を活用して、種を植えるのに適している土地を割り出した。
(「相変わらず不思議な種……というか植物じゃない、この『種』一体何だろう?」)
 服の内ポケットから、レンは光の種を取り出す。フォーナ女神から依頼を受けるのはもう3度目だが、未だにこの種が何なのかは解らない。ただ一つ、破壊された自然を元の状態に戻すために用いること以外は。と言うことで、早速レンは土を抉る。
「キラキラして綺麗な種ですねぇ……命の美しさそのままのような輝きなのです」
 思わず、ロティオンは身を乗り出した。女神から手渡された、小さな煌めきを見詰める。
「オモシれぇ種。何が生えるかシラネェが、モトの森に戻るンナラ埋め作業手伝いマスか……アァ、祈るンダッケ? 俺ノ祈りデイイナラ」
 ズィヴェンは言いながら、帽子を脱いだ。種に土が被さるのを確認して、その帽子を胸に軽く押し当て眼を閉じた。他の冒険者達も皆、一斉に瞼を伏せて祈る。
(「大地が再び力を取り戻しますように」)
(「この地に再び、新緑の息吹が帰ってきますように」)
(「どうか森の傷が早く癒えますように」)
 フォーナ女神から伝えられた文言の後、レンとサクラコは更に独自に想った。森を甦らせたい気持ちが強いからこそ、強く。ただレンはまだ少し、種に不安感を持っているけれども。
「フォーナ殿の依頼に関わるのは初めてでござった。にしても……猪の団体でござるか。冬眠明けで、腹が減っていたのでござろうかな?」
 転がる屍に、ファサルトは眼を遣った。最後に此方を、処理せねばならない。
「その身をもって、森の滋養となさいませ」
 土塊を喚び出して、シフィルは穴掘りを指示する。食べられないと分かっている死体を、これ以上野晒しにしておくのも如何な物かと判断したわけだ。冒険者達も協力して、総ての猪を埋葬した。シフィルの言葉を聴き、トビーも願った……猪の生命も、再生されることを。
「穴だらけ? なのなぁ〜んっ?」
 倒れた樹のへこみを、ジョージィは優しくさする。それから満開の桜を見上げて、静かに笑った。
「毎日自分の桜の花は見ていますが、やはり春の日に咲き群れる桜は良い物ですね」
 桜の樹にもたれるジョージィに、サクラコが声を掛ける。咲き乱れる花に、幸せを感じて。舞い落ちる花片が、2人の手に滑り込む。冒険者達は暫く、桜花を楽しんだ。
「次クル時も、綺麗な花見せテくれよ?」
 森を振り返り、ズィヴェンが述べる。何時かまた訪れた日には、きっと元通りなはずだから。


マスター:穿音春都 紹介ページ
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希望の腕・サータリア(a65361)  2009年09月12日 19時  通報
光の種のお世話になりました。
……これって結局なんなのでしょうね?