闇夜に狂う貴婦人



<オープニング>


「ある森の中で、モンスターの姿が確認されたわ。討伐の為に動ける人は話しを聞いて」
 冒険者の酒場、そう口を開いた霊査士リィーンに幾つかの視線が向く。
 そして冒険者の興味を惹いた後、リィーンは事の次第を説明し始めた。
「依頼は森の近くにある村からでね、実際にモンスターを目撃した人はいなかったそうなんだけど、最近良く、その森の中で動物の死骸が見つかったそうなの」
 別に動物の亡骸が見つかること自体は、珍しい事でもなんでもない。
 だがその数、頻度、そして死因がおかしかった。
 いずれの亡骸も損傷は少ない。ただ全身から血が流れており、その顔はどこか恐怖に歪んでいるようだったという。
「霊視の結果、犯人は白い、女性型のモンスターだと判明したわ。そして、同時に一つ問題も判明したの……」
 実のところ、村人達は犯人を見ていたのだ。
 昼間の森の中、さ迷い歩く白い女性の姿を。
 挨拶を交わしたものすらいる。それほどにそのモンスターは人間のようだったのだ。
 言葉を発する事はなかったが、いつも優しげなその女性を不思議に思うことはあれ、悪意を持つ村人は居なかった。
 村の子供は懐いてすらいたという。
「このモンスターはね、昼と夜でそのあり方が全く変わるの。昼のうちは全くの無害、でも一度日が沈めば、あらゆる生を殺めんとする悪鬼になるのよ」
 夜に森に入らなければいいという問題でもない。モンスターがいつまでも森の中に居ると保証は無いのだ。
 加えて、リィーンは近々起こりうる嫌な未来を霊視で得ていた。
 完全に気を許した村の子供達は、時が過ぎるのも忘れて女性と遊ぶ。
 そして日が暮れた時、悲劇は起こる。
 急がねば、それは現実の事となる。
「昼間でも、危害を加えれば相手は本性を表すわ。敵の攻撃手段は音。叫び声でこちらの精神を掻き見出し、歌声で安らぎに誘う。口から放たれる衝撃波はこちらの防御を貫くわ。目的は一般人の被害を押さえ、モンスターを討伐する事。出来る限り、急いで向かって」


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参加者
闇夜の鴉・タカテル(a03876)
冥府の古竜・スライ(a22846)
祈りの言霊紡ぐ・コト(a26394)
鈴花雪・ソア(a32648)
書庫の月暈・アーズ(a42310)
漆黒の暴渦・キョウ(a52614)
揺蕩うモノ・シュン(a53541)
混沌と調和の不死鳥・エイフィス(a58646)


<リプレイ>

●時は金也
 突然の来訪者達を、村人達は驚きを持って迎えた。
 十一人、様々な容姿の青年と少女達。皆が見たことも無い色とりどりの、四頭の四足獣に跨りやってきたのだ。
 村に到達し、獣からは一人を残して降りる。
 彼等はいくらか言葉を交わすと、二手に分かれた。
 一方は村に程近い森へと向かい、もう一方が村人達の方へ歩み寄ってくる。
「少しお話、宜しいでしょうか?」
 村人の前で緑のグランスティードから降りた鈴花雪・ソア(a32648)が、微笑みを浮べて話しかけた。

「森の中には比較的、良く人が出入りするようですね……」
 森の中、人の足跡を辿っていた祈りの言霊紡ぐ・コト(a26394)は首をかしげて呟いた。
 足跡が多すぎる。子供の物と絞り込めばいくらか数は減るが結構な労力となるだろう。
「まあ、情報収集班が合流するまでは地道に行くしかないかないですね。……早く子供達を見つけて安全を図らないとね」
 そう笑顔を作ってみせる闇夜の鴉・タカテル(a03876)にコトは頷き返し、目印にと手近な木の枝を折った。

「子供達は普段どのあたりで遊んでいるの?」
「そうですね……森の中ほどに大きな石の転がった広場がありまして、その辺で良く遊んでいるそうですが……」
 書庫の月暈・アーズ(a42310)の問い掛けに村人は協力的だ。だが、なぜそんな質問をするのか分からないのだろう、言葉は歯切れが悪い。
「もうじき日が暮れますし、最近は物騒ですから迎えにと思いまして」
 嘘は言わないが、真実は語らない。余計な心配など不要なのだから。

 林道には漆黒の暴渦・キョウ(a52614)と、彼と共に参じたキースリンドの姿があった。
 村人が良く女性の姿を見ているという話から、道から大きく外れた場所には居まいと読んだのだ。
 子供が好みそうな獣道や茂みの隙間、そういった所を探していく。と、
「どうだい、収穫は?」
 茂みから天地を護る光と闇の不死鳥・エイフィス(a58646)が姿を見せた。
「そう上手くは行きませんね。なんせ相手はこの森を庭とする子供ですから」
「もっともだ。お互いより頑張るとしよう」
 両者は互いに檄を送ると、再び分かれて子供を捜し始めた。

「一刻を争うんです。子供の遊びに行く場所、白い女性を見かけた場所を聞かせてくれませんか?」
「とは言っても俺に子供は居なくてね……、あの美人なら森の中ほどあたりで良く見かけるよ。なにやってんのかねぇ、最近は物騒だってのに」
 やれやれと首を振る男性の肩を、揺蕩うモノ・シュン(a53541)は優しく叩いた。
「大丈夫ですよ、その物騒なモノを取り除く為に、僕達が来たんですから」
 その言葉に、少し笑みを取り戻す男性。そこに冥府の古竜・スライ(a22846)が歩み寄ってきた。
「そろそろ頃合だろう」
「ですね。あ、ほんとに大丈夫ですよ。……誰も、死なせる様なことにはなりませんから」
 最後にそう言い残して、二人は連れ立って森へと向かい走り出した。
 刻一刻と迫る夜。サポートまで呼びかき集めたグランスティード、その早駆けにより稼いだ貴重な時間、そこで得られた貴重な情報、存分に生かさねばなるまい。
「正に、時は金也、だな……」
 森の手前で待っていたタカテルやソアとも合流し、一行はに森の中へ突入した。

●豹変
「こんなところで、どうしたのかな?」
 林道脇。木々の合間より差し込む夕暮れの明かりに照らされて二人の子供が座り込んでいた。
 驚いたように顔を上げた二人はキョウの浮べた笑みにすぐ警戒心を緩めた。
「お友達を待ってるの」
 言って茂みの中を指差す子供。
「そう……じゃあお兄さんが呼んで来ようか?」
 沈みゆく太陽を気に掛けるキョウはそう提案するが、子供達は、どうしようと、顔を見合わせる。
「あのお兄さんが一緒に行ってくれますよ。そうだ鬼ごっこでもしながらね。キース」
 呼ばれ、キースリンドは仕方ないという表情で頷いた。
「よし、あのお兄さんに捕まらないようお家に帰れたらご褒美だよ!」
 わっ、と走り出す子供を手加減して追い駆ける。それを見送り、キョウは茂みの中に踏み込んだ。

(「子供達の遊び場、女性の目撃現場は森の中ほど、大岩が転がる広場という情報が多いようです。また子供達の名前ですが……」)
 村で集めた情報を纏めたソアが、改めてタスクリーダーを利用し仲間へと伝える。
 情報収集班と、森の入り口付近の捜索を行っていたタカテル、コトは真っ直ぐに森の中央部へ向かう。
 途中、子供の名前を呼びかけながらの行軍。反応はなく、足跡も見つからない。
 が、時間は圧倒的に足りなくなってきていた。こうなっては、今向かう場所が当たりであることを願うか、他の仲間が先んじて見つけてくれるのを祈るしかない。
 そしてその願いは、叶った。
 コトが頭上にホールーライトを灯す。それが取り決めた子供発見の合図だった。

 大岩に腰掛ける白い女性。返事が無いのも構わずに話しかける三人の子供達。
 子供達は突然現れた冒険者に驚き、名前を呼ばれてさらに驚いた。
「最近の夜の森は物騒だからな、早く帰った方が良い」
「お父様やお母様が帰りが遅いと心配していらっしゃいますわ」
 スライ、コトが早速説得を試みる。が、子供はどうしたものかと思案顔だ。
「悠長に説得してる場合じゃナイでしょ、これ」
 小さく呟くシュンは真っ赤な陽を見つめている。もう時間が無い。最悪は、彼が歌う予定の眠りの歌で黙らせるしかない。
 そこで、ソアが口を開いた。
「また、明日がありますから……」
「う〜ん、うん。そうだね、帰ろうっか!」
 子供達が頷きあった。
 胸が痛む。明日など、きっと無い。与えるわけにいかない。あの、女性には。
「じゃああっちのお姉さん達が送ってくれるからね」
 タカテルが後ろで待っていたエイダとリアを指出す。
 頷き子供が駆け出し、二人のグランスティードに乗るのと、日が沈むのは、同時だった。
 空気が変わる。先ほどまでのどこか暖かい空気が霧散していた。
 女性が変わる。柔らかな笑みが剥ぎ取れ、凄惨な笑みを浮かべて。
「行きなさい!」
 そう叫ぶや否や、アーズが魔道書を開きアビリティを発動する。
 気高き銀狼。子供達の安全を確保する時間稼ぎ。しかし敵は銀狼を振り払い前に出た。
 そこに飛び出してきたのは紅い翔剣士。敵の意表をつき、またその芸術的なまでの優雅な一撃で敵の動きを止める。
「行かせも、逃がしもしない。これ以上、誰かを傷つけさせもしない」
 エイフィスを称えるかのように、高々になるファンファーレ。
 何事かと振り返った子供達は、シュンが紡いだ眠りの歌に昏倒した。
「陽が、落ちなければよかったのだけど……」
 無理な話と知りながらそれでもソアは口にする。
「確かに、昼の無害なだけの貴女なら良かったのですがね……だけど容赦はしません!!」
 決意を示したタカテルが飛ぶ。手にしたのは布包み、それが解ければ露になるのは彼の得物『黒月魔槍』。
 子供達を警戒させない意味で武器を秘匿していた冒険者達も、次々と己の得物を露にする。
 仲間が戦闘態勢を整えた頃、タカテルの矛先がスパイラルジェイドによる高速回転を伴って敵を捉えた。
 確かな手応え。敵は口を大きく開き、盛大な悲鳴を張り上げる。
 その大音声が、開戦の合図となった。

●次の生へ
 静寂に包まれるべき夜の森に、数多の音が木霊した。
 破壊衝動を爆発させたシュンとエイフィスが敵を足止める。
 エイフィスの鋼糸が舞い、放たれた一撃が盛大なファンファーレと共に炸裂する。その衝撃が冷めやらぬ内にシュンが敵の胴を捉えた。
「此れでも喰らって下さい!」
 膨れ上がった闘気が腕を介して流れ込み、敵の腹部で爆発する。
 耐えかねて後方へ吹き飛ぶ敵へ、ソアが追いすがった。
 疾風斬鉄脚が敵の衣を切り裂く、が浅い。敵は体勢を立て直すこともなく絶叫を張り上げた。
 鼓膜と心を刺激する響きが、ソア達の目を虚ろに変えた。混乱した思考が、彼等に偽りの敵を見せる。
 と、戦場に一陣の風が流れた。コトが吹き流す毒消しの風が仲間を癒していく。
 正気を取り戻した前衛の間をすり抜け飛ぶのは紅蓮の火球と、禍々しき虚無の手。
 アーズと、邪竜の力を内に宿したスライの双撃は、しかし敵に見切られた。
 敵も『心』の力を振るうもの。その流れを察するに優れているのか着衣を犠牲にしながらも、その身には掠りもしない。まるで踊るように、紅蓮と虚無を避けて見せた。
 木々の隙間より差し込む月光に照らし出される女の姿は幻想的といっても良い。が、その口元に浮かぶ狂気の笑みがその本質を語っていた。

 木々を盾として立ち回るモンスター。
 腕より放たった衝撃波はタカテルの方を打つ。
 痛みに顔を歪めながらもタカテルは地を蹴った。
 体を捻り、回転させ、自身を破壊の力に変える。だがこの戦闘で数度放ったその攻撃を、敵は察知した。
 攻撃の軌道から逃れるべく身を動かす敵は、
「ちょっと、遅れちゃったみたいだね
 背後からの叩き込まれたキョウのデストロイブレード。その衝撃に地面へ叩きつけられた。
 さらにその身を襲うタカテルのスパイラルジェイド。防御もままならぬまま直撃を受けた敵は激しく悶え、しかし悲鳴は上げない。
 暴れる敵から距離を取ったタカテルは、敵が何かを口ずさんでいる事に気がついた。
「子守唄……? いけないッ」
 敵の意図に気付いたアーズがエンブレムノヴァを撃つ。火球に照らされた森の中、敵の魔歌により眠りへと落ちていく仲間達。
 火球は敵の左腕に着弾し根こそぎ奪った。だがそんな敵の口元に浮かんでいるのは笑みだ。
 眠りに落ちた仲間を覚醒させるため凱歌を紡ぐスライ、清涼な風を流すコト。だが深き眠りを覚ますには至らず、その出来に敵の笑みは深みを増す。
 前衛の中、ただ一人目覚めたシュンが姿勢低く突っ込み敵の体を切り上げた。
 確かな手応え。そして敵は絶叫を上げる。痛みによる物ではない。冒険者を殺す為の絶叫を!
 次に来るであろう衝撃に備える冒険者達、その目の前に……綿毛の天使が現れて、弾けて消えた。
 体に響いた衝撃は予想以上に小さなものだった。
「リアさん……お三方とも、良いタイミングですね」
 シュンが、増援を笑顔で迎えた。
 護りの天使達を使用したキースリンド、さらにエイダが戦線に加わる。
 リアはその場に留まり静謐の祈りを捧げ、眠りについていた者達を次々に覚醒させた。
 包囲が強まり、勢いも増した冒険者の攻撃に敵は逃げ場を失い追い詰められていく。
 再度紡がれそうになった子守唄は、スライの放った虚無の手が、敵の顔面を捉え止める。
 背からはエイフィスが、高速をもって鋼糸を繰り、切り裂いた。
「もう、休め。二面性で苦しめることも、疲れたろう?」
 音をたて引き抜かれる鋼糸。
 表情を無くした敵は不確かな足取りで数歩前に出る。
「お休み、なさいませ」
 苦しみへ開放の一撃を。慈悲の聖槍がコトの得物より放たれ敵を撃つ。
 衝撃に空を見上げた敵は、最後の最後に、昼間の柔らかな笑みを取り戻し、冒険者達にお辞儀をするようにして、倒れた。
「次に生まれてくる時は、その両極性に幸あらんことを……」
 来世への幸を願い、黙祷を捧げるエイフィスに皆も倣う。
 森は、あるべき静寂を取り戻した。

●優しい嘘
「ね? 凄いでしょ?」
 キョウの楽しげな声と、子供達の騒ぐ声が響く。
 キースリンドのグランスティードの上、子供達が興奮した様子で騒ぎ、その周りでは順番待ちの別の子供。……大人も混じっているようだが、まあ良いか。
 そんな和やかな様子に微笑み、しかしふっと表情を曇らせると、今日は村長の家のほうへと視線を向けた。

 村長への報告を終え、冒険者達が家から出てきた。
 報告はただ一点を除き、正確に伝えられたはずだ。
「世の中、知らない方が良い事もあるわ。子供達にとっては、婦人が綺麗な思い出として残るように……」
 だから婦人は旅に出たと、アーズは村長に伝えた。他の仲間も異論は無く、何も言わなかった。
 年長者である村長は何か思ったようだが、何も言わなかった。
 ふと、子供達の声が聞こえてきた。
「ねぇ、お昼ご飯食べたらお姉さんのとこ行こ!」
「うん、いいよ〜」
 そんな何気ない会話に、シュンは足の向きを変えた。
「キミ達、残念だけど……白いお姉さんは、帰るべき場所に帰っちゃったんだよ」
「そうなの?」
「あぁ、お兄さん達が見たんだ、間違いないよ」
 子供達の表情が曇る。それを見かねたのかソアもやって来て付け加えた。
「でも、きっとこれで終りじゃありません。いつかまた、遊べたらいいですね」
「うん……」
 子供達は寂しそうに頷き、親元へと走っていた。
「ソアさん……」
 シュンが複雑な表情を浮べる。あの女性は届かないほど遠くに行ってしまったのだ。下手な期待を持たせるのは酷とも取れる。
「でも、それでも俺は信じたいんだ。何時の日かあの子達が、今度は本当に人間のあの人と、遊べるようにって」
 数刻後、平穏を取り戻した村を背に、村人の声を受け止めながら、晴れ渡る早急の空の下、冒険者達は帰途についた。


マスター:皇弾 紹介ページ
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参加者:8人
作成日:2008/04/24
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