春の夜に、きみを愛す



<オープニング>


 春の夜は寒すぎず、また、温かすぎないのがいい。
 凍えるほどではなく、身を寄せあいたくなるくらいに冷えているのがいい。
 これはちょうど、そんな夜のはなし。

 独り身のプルミエールには、いささか人恋しくなる宵である。けれど彼女は、けっして寂しくはないのだ。
「……また、ここに来ることができました」
 夢見るような表情で、プルミエールはその建物を見あげた。
 やわらかな月の光を浴びて、ぼうと浮きあがる洋館だ。貴族の邸宅を改修し、宿屋としたものだという。年月の重みと格式を感じさせる造りだが、不思議と、古くさい印象はない。
 プルミエールはふりかえる。
「うん、満開です」
 館の周囲は広い花園だった。春の花、星のように咲きみだれ、白や黄、薄い緋色、青、それぞれの彩で美を競う。彼女はその香を胸一杯、夜の大気とともに吸いこんだ。自分も花の一輪になった木がした。
 プルミエールはこの場所が好きだ。だから今年も、たくさんの恋人たちにこの場所に訪れてほしいと思う。

 昨年同様、今年もこの場所で、建物と花園を一晩、貸しきりにする催しがひらかれる。それは月が昇るころにはじまり、陽が昇るころに終わるだろう。
 参加にはただ一つだけ条件がある。それは、カップル限定ということ。夫婦、恋人同士、ないしその直前にある者たち、いずれでも構わないが、かならずペアで来場してほしい。
 花の夜、月の夜、おだやかな香につつまれながら、花園を逍遙するといい。景観に溶け込むベンチや木陰で口づけをかわすのもいいだろう。よりぬくもりを求めるのならば、月光とどく部屋、その広いベッドの上にて、同じ夢を見ることも叶う。
 愛する者とすごす一夜は、きっと忘れ得ぬ記憶を与えてくれる。

 プルミエールは門に戻る。彼女は招待側――燕尾服、白い手袋、胸ポケットからのぞくハンカチ、この装いで、今夜最初の客を迎えるのだ。
「ようこそ、お待ちしておりました。どうぞお入り下さい」
 彼女はそういうだろう。
「それでは、佳い夜を」
 と。


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参加者
NPC:はじまりは・プルミエール(a90091)



<リプレイ>

 暖かい春の夜だった。
「今晩は」
 プルミエールが門を開いてくれる。
 恋する者たちよ、春の園へようこそ。
 今宵は夢、春の一夜。

 月夜の一室、二人は向き合っている。
 ウルカは身に纏うすべてを脱ぎ捨てていた。シーツで胸を隠し、月光をその背に浴びる。
「初めて故、不都合あるかもしれぬが、よ、宜しく……」
 キヨミツも鼓動を抑えられない。彼とて、愛する女性と契るのはこれが初めてだ。
「こういう時、上手い言葉が思いつきませんが……」
 ウルカの手を優しく握り、互いの気持ちをほぐそうとする。
「愛しています。いつまでも、貴女を……」
 口づけ。二人のシルエットがひとつになる。
「んっ ……優しく、して」
 甘い吐息。
 シーツが滑り落ちた。

 星空の下、アルジェントはベンチに座る。
「誘ってくれてありがとう。今夜のディミはいつにも増して美しく思える」
 ディミヤーナは照れ笑いして、持参した紅茶を二人分淹れる。
 アルジェントは語った。自分の夢を、彼女への気持ちを。
「俺は不器用だが、ディミへの愛は本物だという自信がある。付き合って欲しい」
「そこまで言われたらねぇ。降参、私の負け……なーんてね。私も、好きよ」
「俺、セイヤはディミと共に……」
 アルジェントは自身の真の名を呟き、彼女に永遠の愛とキスを捧げた。

 一年ぶりの春宵を、ラムナとライは心から満喫している。
「あの時と同じようにライと来れた事、本当に幸せに思う」
「うん、ラムナん。この一年、色々あったよね」
 花園の片隅、静かなベンチにならんで座る。
 思い出話は尽きない。共に沢山のことを乗りこえてきた。絆を深めてきた。
「これからも俺はライを守り続ける。一緒に、いてくれるね?」
 というラムナに対し、ライは返事として、瞳を閉じキスを求めた。

 黒の浴衣に赤の帯、仮面は外して目を瞑る。門でプルミーに挨拶を済ませ、サシャクはソフィアのもとに急いだ。
「遅れてごめんっす」
「わたしも来たところですよ」
 なだからな丘の草むらに、二人、寝ころんで空を見上げた。
「あなたに出会えて、わたしは本当に幸せです」
「自分もソフィアさんと会えて幸せっす。いつまでも、この幸せが続くといいっすね」

「月の夜の花園に……ふふ、乾杯」
 カルフェアとアルトはグラスを合わせた。ワインは甘い。月が綺麗だ。
 二人だけの時間が流れる。アルトの作ってきたオードブルも美味で、飲み過ぎてしまう。
「カル……ん……なんだか酔っちゃいました……」
 アルトは真っ赤な顔をして、彼の肩に頭を預けていた。
 そんな彼女が愛しくて、カルフェアは微笑し、部屋へ誘う。
「……今夜は寝かせないぞ〜?」

 花園の中央、見ているのはお月様だけ。
 ヴィータを膝枕して、アンナはたくさん話をする。服のことや、お菓子の店のこと。
 ヴィータも楽しくこれを聞く。
「ねぇ、ヴィータちゃん」
 と呼んで上を向いた唇に、アンナは柔らかい唇でふれた。
 ヴィータはみるみる頬を赤らめ、
「あたしはバカだから気の利いたこと言えないけど、大好きデス、隣にいさせて下さい」
 身を起こしアンナを抱きしめた。

 とろけるようなキス、アイは力が抜けて、うっとりした目でアストを見つめた。
「どんどんキスが上手くなってる……」
「好き、って気持ちが、強くなってるからさ」
 照れくさいが嬉しい。今夜の口づけは、アストからの不意打ちだった。
「アイ、まずこれだけは言いたい」
「うん?」
「来てくれてありがとな」
 一緒に歩こう。花園を見渡そう。空を見上げ、風を感じよう……今宵二人には、したいことがたくさんある。

 レイオールとユリーシャの会話が途切れた。
 しかしこれも悪くない。心地よい静けさが訪れる。
 そっと席を立ち、レイオールは百合の花弁に触れた。
「月明かりに照らされた花……その花よりも綺麗だよ、ユリーシャ」
「それは貴方があの月よりも優しく照らして下さっているからですわ」
 ユリーシャは目を閉じた。
 レイオールは彼女を抱き寄せ、愛を込めた口づけを与う。

 エクサとリンディーユは手を繋ぎ、夜の散策を楽しむ。
 いつもより彼が身近に感じられ、リンディーユは饒舌だ。それで注意が逸れていたか、つまずいて転びそうになる。
「おっと、転ばないように気をつけないとな」
 だけど案ずることはない。エクサが身をもって助けてくれたから。
 このとき、彼女の指が彼の頬を僅か掠っていた。これを見て、
「消毒です」
 と、その部分にリンディーユはキスをあげた。 

 庭のテーブルでは、ソウェルがシーナに茶を淹れている。
「この火をよく見て下さいね。おまじないです」
 ソウェルはこう言った。
「シーナ様が私の事を好きになーる、好きになーる……なんちゃって」
 シーナは苦笑する。シーリスの戦死がなければ、この日々はなかっただろう。
(「今はまだ、ソウェルにシーリスの面影を重ねていると、思う……」)
 ソウェルの好意は痛いほどわかる。だから哀しい。
「まだ夜は冷えますね。お部屋へ行きませんか」
 ソウェルの声が微かに震えていた。
 シーナは、ソウェルをエスコートすべく席を立った。

 正式な話がしたい、と言ってヴェインはノッテを誘った。
 ノッテも心の準備はできている。心臓を高鳴らせドアを閉め、彼と向き合う。
 ヴェインは勇気を振り絞り告げた。
「どんなに時が流れようと……約束します。あなたの事が好きです、ノッテさん」
 想いを言葉にすることが、これほど緊張するものであることを彼は知る。
 だが報われた。彼女の返事は、彼の心を幸福で満たしたのだ。
「思った以上に……積極的な人、ですのね……」
 ヴェインのキスに、ノッテは恍惚とった。

 リシャロットはズィヴェンの膝に座り、花園を眺める。
「月明かりに照らされた庭園ってこんな風に見えるのね」
「確かに、花の海ミテェ……綺麗、ダナ?」
 暫し目を閉じ彼女を抱いたズィヴェンだが、ややあって言った。
「ゴメンな、イツも依頼ばっかりで構ってヤレナクテ」
「待つのは嫌いじゃないけど……少し、寂しかったわ……なんて……」
 二人の視線が合う。
「ククク……デモ不安にさせたのは悪かった」
 お詫びとでもいうように、彼が送ったのは熱いキス。

 ソウゲツは夜空を見上げた。
「そういえばここは、アロルドちゃんと初めてでぇとした思い出の場所さねぇ」
 今思い出したような口調だが、勿論、これはわざとだ。
 アロルドは問うた。
「は、初めてキスしたのはこの辺だったって、覚えてるか?」
「もちろんですとも、春の夜の女神様」
 と告げてソウゲツは、あのときと同じ情熱的な接吻をした。やや強引にアロルドの手を掴み、館の方へ歩き出す。
 アロルドは抗わない。寧ろそれは彼女の望み。

 今夜はレシーナとの初デート。
 クフェロは緊張気味だ。
 誰もいない花園、ベンチのひとつに腰を下ろし、
「……もう、一人じゃないからな」
 と上着をかけてやる。
「フェロさん、愛しています、よ」
 レシーナは心からの笑顔を見せた。
 そして彼女は告げたのである。
「お部屋を用意していただいてそこでお話の続きを致しましょう」
 と。
 二人の夜はまだ、始まったばかり。

「ま、一杯」
 桜の下に茣蓙を敷き、ツクモは吸筒に入れた甘茶を渡す。
「ありがとう」
 イクは完爾としてこれを受け取る。フォーナ爾来の二人の時間だ。じっくりと過ごしたい。
 桜を見上げ、ツクモはいう。
「紅と緑が一緒に咲いて……なんだか僕達みたいですね」
 少し気障だったかな、とツクモは思ったが、イクは心から嬉しかったようだ、耳まで真っ赤になりながら強がってみせた。
「赤くなんてなってないやーい」

 キースから告白され、恋人を前提とした友達付合いを始めて二ヶ月。アゼルは想う。
(「手は繋いだ。抱き締められた。……不意打ちとはいえキスもされた。ただ……」)
 好きだが、愛してると言われても、愛してると返せない。
 然しキースは優しい。アゼルの髪に簪を挿す。
「プレゼントです……ど、どうでしょうか?」
 キスをして、彼は遠慮がちに提案した。
「一緒に寝ましょうか?」
 アゼルはキスを返す。
 好きという気持ちを大切に、急がず焦らず、恋人を目指してみよう。

 広い花園をいくらか巡って小休止、アロイとクリスはベンチに座る。
「今思えば、本当にすごい結ばれ方でしたね」
 アロイは笑った。クリスは照れたように言う。
「あの時、積極的になって良かったです」
 ほぼ初対面にも拘わらず、クリスが一方的にアタックをかけたのが二人の馴れ初めなのだ。
 アロイも今はこの関係に満足している。
「これからも、よろしくお願いしますね」
 と二人は笑いあった。

 同じマントにくるまって、ヨハンとセラは星空の下。
「寒くない?」
 セラは微笑して首を振る。背中から抱かれ、指を絡め合っているのだ。体温を感じられて嬉しい。
 そんな彼女が愛しくて、ヨハンはセラを振り返らせ、頬を両手で包み額にキスする。
「大好きよ、ヨハン」
 そしてセラはおずおずと、だけど大胆に切り出した。
「私はその……構わないの」
 朝まで部屋で過ごさない? という問いかけだ。

「去年は一晩中、庭で夜明かししたんだったか」
 キースリンドは笑った。
 マシェルにとっても忘れ得ぬ夜だ。あの晩から二人は交際を始めた。
(「あれから遠くに来てしまった」)
 キースリンドは回想する。辛い事がある度、あの夜のマシェルを思い出した。そして今、二人は月明かりの部屋にいて、互いの総てを知ろうとしている。
 こんなに近くにいるのに、マシェルの心は募るばかり。
(「ずっと傍にいて」)
 夢中になり月明かりの下、彼に身を任す。
「……貴方が何処に行っても私の元に帰って来られる様に、私に消えない痕をつけて」

「綺麗な場所に来ちゃみたが、ま、やる事ァ変わんねーよな」
 などとエルが鈍感なことを言うもので、せっかく花園にいるのに、マルガレーテは依頼の話をしてしまう。
「次はメイド村か。愉しんで来られたら良いな」
「何だ唐突に? 妬いてんのか?」
「別に妬いてなどないっ……そ、そんな風に揶揄うなら、押し倒してしまうぞっ!」
 どっと草むらに倒れ込む。勢いで本当に押し倒してしまった。そして勢いのまま告白してしまう。
「その。私が貴方を慕っていると言ったら。貴方は……い、いや……すまない……」
 押し倒されたまま、エルは優しく見つめ返した。

 部屋に届く月明かりを、ヤトとハルキは味わう。
「子供が生まれ、二人でゆっくりと、という機会は減ったよな。だが」
 ヤトが言いかけるが、ハルキは首を振り、そんな彼の手に触れる。その先は言わずとも判っている。
「貴方だから……」
 彼女は告げた。他でもない貴方だから愛しています、と。
 ヤトは微笑し、ハルキの手の甲に口づけた。
 夜は長い。朝まで濃密な時間を過ごそう。

「結婚して一年がたったわね。……これからも、ずっと私の傍にいてね?」
 花園で立ち止まり、クロスは妻に応えた。
「もちろんだ。共にあると誓ったからな……」
 惚れ惚れと思う、シルヴィアは本当に美しい。
「来年はどうなっているかしら? 私の願い、叶っているかな?」
 願いは、子を授かること。シルヴィアは彼の胸に顔をうずめた。
「ねえ、今日はいっぱい甘えてもいい……?」
「ああ」
 クロスは不器用ながらその身を抱きとめた。

 花園を抜け館へ向かいながら、シャルナとブルックリンは会話を交わす。
 内容は主に将来……結婚のこと。
 星降る花園から月明かりのベッドへ、場所こそ変われど二人の情熱は変わらない。
「シャルナと一緒に来れてよかったよ。これからもずっと一緒だ」
「こんな素敵な場所で……貴方と一緒に過ごせて……嬉しいです」
 熱っぽいキス、抱きあったまま倒れ込む。
 二人は愛を確かめあう。

 ベッドに腰かけ、ローランとジョゼフィーナは言葉を交わす。
「式を挙げてから暫く経つ……頃合かも知れないな」
「お式を終えてそろそろ三か月でしょうか。頃合い、って……!?」
 新妻は声をあげてしまう。夫に押し倒されていたから。
「恋人気分で過ごすのと子供を意識するの、どちらがいい? 両立させる事も不可能ではないとは思うが」
「え? わ、私はどちらでも……けど……」
 自然に任せたいと思います、と言いながら、服を脱がされる恥じらいと悦びに彼女は身をよじった。

 窓から淡い光がさしていた。
 二人の接吻はまだぎこちない。
 ルドアはおずおずと、庭で摘んだ真紅の薔薇をニキヤの髪に挿す。花の蘊蓄を語りたくなるが堪える。
 ニキヤも緊張で心臓が飛びだしそう。『彼に任せておけば大丈夫』、そう友人達に言われたが、どうすればいいのか。
「今宵、私だけの花嫁になる貴方に」
 とルドアはニキヤを抱きしめた。
(「ああ、こういう風に任せるのですね」)
 窓の外の光景に一瞬視界を向け、ニキヤは目を閉じた。
 あとは唯、月のみが知る。

 花の香を身に残したまま、ハルはベッドの上、ラウレスに身を任せている。
 彼は問う。
「……ハル、私の目を見て……好きだと言って」
「愛しています」
 はじめは優しく、二度目はすべてを奪い去るように激しく、ラウレスは彼女に口づけた。
「貴女が私……いや、俺なしではいられなくなるように、今夜は色々と教えて差し上げますよ」
 彼の言葉は荒々しくも甘い。ハルは応えた。
「よろしくお願いします」
 降らせるキスの雨、愛撫しながら服を剥いでゆく。ハルの唇から切ない吐息が洩れた。

 金の光さすベッドの上、さっきまでもつれあっていた二人は今、枕を共にして語り合っている。クルシェは頬ずりしてきて、アオイは微笑みとキスを返した。
「甘えん坊さんだね、クルシェは……♪」
「ふふっ……あったかいですもの」
 クルシェはぺろっと舌で、アオイ頬を舐める。
 愛の交歓がつづく。少しずつ微睡みがやってくる。

 月明かりの下、グリューヴルムの連れは猫のみ。
 人がないのを確認し、そっとギターを奏でだす。
 幸せとは失ってみて初めて気付くもの。彼女と過ごした日々の記憶を、彼は弦に乗せた。

「見てください、流れ星」
 プルミーが窓の外の一角を指さす。
 館の管理室には、彼女のほかにフェイトとジースリーがいる。手伝いに来てくれたのだ。
「ええ、綺麗ですね」
 箒の手を止めてフェイトが言う。
 ジースリーは頷き、マグカップを渡してくれた。暖かいミルクティーが注がれていた。

「リュシータ、大好きだ」
 というディートリッヒの寝言を耳にして、リュシータは微笑した。
 昨年も訪れたこの場所。花園を散歩し、大きなベッドでいつまでも会話していたが、彼は先に睡魔に負けてしまったのだ。
「……おやすみね」
 愛を口ずさむような声で彼の名前を囁く。だが眠るディートは勿論、既に無意識のリュシータもこれを知るよしも無い。
 来年も再来年も、ずっと先も一緒にここに来たい。そんな夢を見た。
 
 今宵は夢、春の一夜……。


マスター:桂木京介 紹介ページ
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作成日:2008/04/24
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