織りなすは宝珠の椿



<オープニング>


●椿の庭園
 そよぐ風は暖かな陽射しを齎す光に暖められ、心地良さすら感じさせる。ある街の一角に邸宅を構えたランバイン卿は、街とその周辺の住民からはある事で名が知れていた。それは彼とその奥方が椿の花を心底愛し、その愛情ゆえに己が持つ領地の一部を庭園とし、自分達が手ずから育てた椿の数々を植え育てているのだと。
 彼らの興味は建材として一流の素材と成りうる点や、木炭や椿油として余す所なく生活の一部を担える部分にもあったが、何よりも鮮やかな花をつける部分にあった。
 椿は冬の終わりから春の始まりくらいまでに赤や白、桃色や時には赤白の斑をした花々をつける。八重咲きや宝珠咲きと言った、花の形にも特徴があり、それでいて交配による品種改良をしやすい点もまた、二人が気に入った要因と言える。
 時に珍しい椿があると知り合いの貴族から聞けば、その地まで赴いて手に入れる交渉をし、またある時には自分達が育てた椿同士を掛け合わせて、どうにか思い通りの花や葉をつける椿が出来ないかと試行錯誤する。既に壮年を迎えつつあったランバイン卿のたった一つの道楽であり、ある意味生き甲斐でもあると言えよう。
 そんなランバイン卿が奥方と共々に心血を注いで育て、拵えた椿の庭園を多くの人々に楽しんで貰えるようにと開放を決意したのが、希望のグリモアによって列強種族同士の戦争と言う軛から縁遠くなったつい最近の事であった。
 開放された庭園は四方に分かれ、其々の区画に赤や白と色合いを合わせた椿が植えられていた。深い赤を花弁に湛え、まるで舞踏会へ赴く淑女の唇の様な花や、十重二十重と小さな花弁が折り重なり、一瞬別の花なのでは無いのかと思わせる様な花など数多の椿を楽しむ事が出来た。
 また、萼の部分から落ちた椿が所々の道を染め上げ、花の絨毯を作り出しており、その光景は御伽噺に出てくる花畑か何かにでも迷い込んでしまったかのような印象すら受けるのだと、ランバイン卿の庭園に訪れた者は口を揃えて言うのだった。


●誘いのひと時
 春も訪れ、春眠暁を覚えずなどと眠たげな様子を見せる者も時折姿を見せる冒険者の酒場の片隅。かつて赴いていた楓華列島から持ち寄った白磁の急須を手に緑茶を湯呑みへと注ぐ秘色の霊査士・コノヱ(a90236)の姿があった。その真向かいには深緋の忍び姫・ツバキ(a90233)が座していた。
「ようやく暖かくなってきましたね、ツバキさん」
「はい、こちらの春も暖かで故郷と変わらない感じです」
 二つの湯呑みに茶を淹れ終えたコノヱが言うと、ツバキはにこやかな笑みを浮かべて答えた。霊査士から自分の分の湯呑みを渡されると、彼女は少しばかり冷まして口をつける。湯呑みの傍らにはコノヱが拵えた手製の羊羹が飾り気のない小皿に乗せられており、茶請けとして用意された茶菓子だった。
「ツバキさんはそろそろ誕生日ですよね。確か……19でしたか」
「はい、皆さんとお会いした頃から考えると4年近く経ちますね。月日が流れるのが早い気がします」
 かつて同盟の冒険者に助けられた事も辛い過去の思い出として胸の内に収めて久しく感じられる。あの頃からそれだけの時が経ち、今や生まれ故郷から離れた遠き土地に居る事を懐かしく思うのか、体つきの割りに幼さの残る表情を僅かに遠くを見るものへと変えさせた。
「それでは私から一つ、お祝い代わりに楽しめそうな所をお教えしますね。ツバキさんは花がお好きですか?」
「ええ、お花は好きですよ。マウサツに居た頃はクラノスケに嗜みの一つにと言う事で華道を少々やっておりました事もありますし」
 それならばと、コノヱは椿の花を愛玩するランバイン卿の話をし始めた。卿の椿の花に対する溺愛振りと共に、彼の解放した椿の庭園の話をつぶさに語る。霊査士の話に耳を傾けていたツバキは、自らと同じ名の花がそこまで手塩にかけられている事に何となく、むず痒い様な気持ちに襲われた。
「何か、自分の事じゃないのにちょっと恥ずかしい気持ちになってきました……」
「……そうかも知れませんね、すみません。ともあれ、ランバイン卿の庭園は私も一度伺って見ましたが、素晴らしいものでしたよ。お店も出ていますから、いろいろ楽しめるでしょうし、何よりこちらに来て初めての春です。ゆっくり散策してみてはどうでしょう?」
 数多くの椿が植えられた庭園は今も露店が並び、花もまだ遅咲きの椿が残っているから充分楽しめる筈だとコノヱは言う。確かに花の旬は過ぎつつあるが、椿の花を長く楽しめる様にランバイン卿が腐心したのだとも。
「お祭りみたいですね、まるで」
「ええ、今もその最中だと思いますよ。ランバイン卿から伺った話では、卿の椿は今月の終わり頃まで咲いているそうですから」
 きっと楽しいですよとコノヱが微笑みながら告げる。ツバキはその言葉に快く頷き、ならば一人で行くよりも皆と行った方が楽しめるだろうと酒場に居合わせた他の冒険者らに声をかけはじめるのであった。


マスターからのコメントを見る

参加者
NPC:深緋の忍び姫・ツバキ(a90233)



<リプレイ>

●椿の園
 春の陽射しに恵まれ、椿の庭園は近隣の人々が足を運び、穏やかな賑わいを見せていた。椿の枝はそうと感じさせぬ様、細心の注意で刈り込まれており、赤や白と様々な色の椿がこれ見よがしに咲き誇っている。
 人々の中を混じって、ツバキやコノヱを始めとした冒険者達の姿もちらほらとあった。中でもトリンは庭園に着いて一番に露店へと駆け、串焼肉や色とりどりの金平糖や飴玉などがこれ見よがしに並べられた中を興味深げに見ていた。
「これなんか美味しそうなんだなぁ〜ん」
 一瞬見れば硝子細工に見間違えそうな、孔雀を真似た黄金色の飴細工を見つけると、辺りに強く漂う甘い香りにふらふらと誘われていく。

 紅花で満たされた場所でリツの姿を認めたユーティスは立ち止まった。凛とした雰囲気を湛える彼女に花開く椿が良く似合い、素敵だと思う。どうやらツバキを祝うのだと察すると、彼は会釈を一つしてそのまま他所へ移る事に決めた。一方、リツは庭園の主であるランバイン卿とその奥方の腐心の結果に感嘆の息を零していた。素晴らしい椿の数々は花だけでなく、緑の葉の鮮やかに彼らの愛情すら感じられる気がする。
「……って、そう、せかさなくても、良いじゃない……花は、逃げないよ?」
「だって、一度に沢山を見れる機会ってそないから、貴重だと思って」
 引き篭もってないで偶には外に出ようとシアンに誘われたフューシャは、ぐいぐいと手を彼女に手を引かれていた。漆黒の髪を揺らしながら、ちょっと落ち着いてと繰り返す事で二人は漸く立ち止まる。
「一度に椿と言っても色々あるものだねぇ」
「さっきは桃色もあったけど、白もあるんだね」
 露店の並ぶ中央を抜け、北東の区画へと移った彼らの前には白い椿の花が咲き誇っていた。数多の花を前にし、結構、興味深いかな……などとフューシャは思う。
「あのさ、一通り見終わったら露店にいきません?」
 通りすがりに鼈甲飴があったのを見たんだ、とシアンが言う。確かにアサは欲しがりそうだと彼は思い、頷く。
「休憩所に行く前に、ですよね」
 彼の問いにシアンは勿論、と深く頷いた。

「椿の花か……赤に桃色……何だか私には似合わない気もするが」
 鮮やかに咲く花を見やりながらアーリスが零す。確かに綺麗な物を見るのは嫌いじゃないし、と考え直す。
「む、どしたアーリス。また何かくだらねぇ事考えているな?」
「……そ、そんなことは無いぞ」
 隣にいたレグルスに指摘されて焦る。彼はやれやれと呟きながら、
「お前は真面目すぎる、たまには小難しいこと考えねぇで椿を眺めて肩の力を抜けよ」
 言って肩を竦めた後にぶっきらぼうに手を出した。僅かな躊躇の後、決心したのか彼女は手を伸ばし、握り返す。
 そうして、ゆっくりとまた花の拝観を再開した。南西にある桃色の花が多くつけられている場所へと向かう最中、レグルスが不意に口火を切る。
「ああ、後で顔を出したい所があるんだが」
「どこへ行くんだ?」
 偶にはこういうのも良いかと浸っていたアーリスが尋ねると、ツバキの誕生日だと答えた。此処に来る切っ掛けを作った人の祝いなら、彼の希望も最もだ。
「いいよ。一回りしたら挨拶に行こう」
 了解の旨を伝えるアーリスに、レグルスはまた無造作に手を出した。彼女の温かな手が触れ、確かに彼女がそこに存在するのだと認識する。
「ま、迷子になったら大変だからな」
 僅かにどもる彼に、アーリスは今更迷子と言う歳でもないだろうと考えたが、そんな子供らしい面を見せたレグルスを可愛らしいなどと思うのだった。

「プランセス・ツバキ、このたびは御誕生日……おめでとうございます」
 黒いシルクハットを被ったハイネスは、ツバキの姿を認めると恭しく祝辞を告げた。不意の扱いに多少面食らったものの、ツバキは経験からか然程時間を置かずに立ち直る。
「どうもありがとうございます、ええと」
「ハイネスと申します。そうそう、もし陽射しが強いと思われたらこちらをお使い下さい」
 お恐れながら、と彼は持参した日傘を取り出した。これも彼なりの厚意なのだろうとツバキは笑みで答えてありがたく受け取った。
「ツバキさん、御誕生日おめでとうや〜♪ 確か、ランドアースに来てから初めての誕生日やろ?」
 まだ日傘はいいかと手に持ったツバキの元にソレイユが元気に姿を見せた。出来れば印象に残るような物にしたいな〜と思う彼女は、辺りを見渡して人々の賑わいが多い事を見越すと、声をやや抑えて歌を歌い始める。庭園の雰囲気に合わせてゆったりと感じられる旋律をソレイユは紡ぐ。
 行き交う人々が静かに耳を傾け、またツバキ達も同じく聞き入った。そうして歌が終わるとささやかな拍手が鳴り、ソレイユを包む。
「ウチから心からの気持ちをこめてのプレゼント、どうやった?」
「素晴らしい歌でしたよ、ソレイユさん」
 ツバキの喜ぶ姿に彼女は満足げに頷いた。正直、ツバキとはこちらに来てから数度依頼を共にしただけであったが、心からの気持ちをこめた積もりだった。ソレイユはやはり気持ちが伝わるのはいつでも嬉しい事だと思った。
「後で一緒に店を回って見いへん? 髪飾りとか、ウチにも似合うのが無いか見て貰おうかなぁとか思って」
「いいですよ、少ししたら露店に行きますからその時にでも」

「ツバキさん、おめでとうございます。これは私からです」
 先に露店を巡っていたニューラは椿の葉を使った椿茶と果実酒、そして彼女への贈り物を手に入れていたらしい。ツバキは礼を述べて受け取ると、細長い紙の包みを開いた。
 中から姿を現したのは椿の実を乾かし、漆で塗った飾り物であった。女性らしい選定にツバキは素直に喜び、笑顔を浮かべる。
「たくさんいらっしゃいますね。ツバキさん、お誕生日おめでとう御座います」
 赤い花で多くを包まれた道を歩みながらリツが祝いの言葉を述べる。彼女の傍に近寄ると、紅白のリボンが結ばれた包みを手渡した。
「桃味のキャンディを作ってみたのです。お菓子がお好きであると聞きましたから」
 気に入って頂けたら良いのですけど、と白い顔に微笑を浮かべるリツにツバキは満面の笑みで応えた。そんな無邪気にも見える彼女の笑みに、ふと彼女の素性を思い、さぞ心を砕く事が堪えないのではないかと考える。楓華列島との今の関係は芳しいとは言えないものだ。
「少しでも楽しんでいってくださいね」
 ランドアースに来て初めての春を。そんな願いを込めて彼女は言った。
 穏やかな歓談を続ける彼女らの元に、手に数輪の花を手にしたユーティスが歩み寄ってきた。祝いの言葉を述べた後、ツバキに向けて椿を手渡す。
「ね、子供の頃、やらなかったー? 椿の花って、こんな風にして蜜が吸えるんだよねー」
 もし良かったら一緒にどう、と藪椿の花を枝から摘み取って半分に割り、中の蜜を確かめるとユーティスは徐に吸い始める。子供の様な彼の仕草にツバキは可笑しく感じられて笑う。
「はい。した事がありますよ。後でクラノスケに見つかって、姫様は姫様らしくって叱られちゃいました」

 露店を一通り眺めて歩き、エンやソレイユ、ユウノ達風巡る旅団の仲間と共にあれやこれやと飴や菓子などの食べ物を買い集めると、一向はそのまま休息所の一角に腰を落ち着けた。
「楓華になくてランドアースにあるお菓子って言うと、やっぱりケーキみたいな物になるのかな」
「たこ焼きや焼きそば、りんご飴も美味しそうですよね」
 出来れば特有の物をツバキ姫に渡したかったのだけどと零すエンに、こうやって皆で食べるのも美味しいですよね、と楽しげに言うユウノの頭には途中で買ったお面が横につけられていた。
「ヒィオはさっき、椿の苗をいただきましたの。ぜひ自分でも育ててみたいって言ったらお爺様がくださったんですのよ」
「それは良かったですね、ヒィオさん。あの、ユウノさん……そちらのたこ焼きをいただけますか」
 ほら、と緑の葉をつけた椿の苗を見せるヒィオに笑顔で答えながら、ツバキはユウノの傍に置いてあったたこ焼きに手を伸ばす。
「はい、どうぞ。あの、ツバキさんはお姫様だと言う事ですが、お祭りとか間近で経験したコトあるのでしょうか?」
 包みをそっとツバキの方へと押しやりながらユウノが尋ねると、ツバキははい、とにこやかに答えた。
「普段は城にいましたが、たまに外が気になるとクラノスケにお願いした事もあるんですよ」
 その後に「姫様はもっと真面目で居られなさい」とか言われてしまうのですけれどと、ユウノに笑って答えた。彼女の面倒を見てきた家老であったクラノスケの話になると、故郷を懐かしく思うのか、普段よりも多弁になる。
「華やかに色づく椿花の中でのお祝いも素敵ですわね♪」
 ミリーシャのしとやかな仕草が育ちの良さを感じさせる。彼女は祝いにと椿の花を模ったアップルケーキをこの場に持ち寄っていた。丁寧に切り分けると取り皿に分けて、ツバキやヒィオ達へと手渡した。
「ツバキさん、今年もお誕生日おめでとうございます。これからの一年が、この花々の様に明るく花開き愛されるものである事を祈念させていただきますね」
 そんな中、包みを手にしたファオが声をかけた。ツバキは会釈で答えると、辺りの花を見渡して綺麗ですねと続ける。
「楓華ではお庭の造形等もランドアースとはまた違うのでしょうか?」
「はい。花を愛でる事はしますし、植えて育てる事もしますけれど。こちらでは自然の中に人が手を入れる形が多い感じがします」
 故郷では、自然の在るがままを極力生かした上での庭造りなどをすると彼女は言った。ある国では砂を水に見立てて池の様な庭を作っていた方も居たらしいとも。
「我が故郷であるホワイトガーデンも花々に満ちた場所が存在します。プランセス・ツバキとはお互いの故郷の花景色についてお話を交えさせていただけたら幸いに存じます」
「そうですね、そちらへは伺った事がありませんし、もしよろしければお聞かせ願えますか」
 ハイネスの姿から、まるで三月ウサギの様にも見えなくも無い。無論、彼が勧めた茶を飲ませないなどはしないのだが。。
「楓華の話が出来る人は中々少ないから、俺も聞きたいかな」
「そうですね、エンさんもお久しぶりにお話に加わってくださいね。昔の事を知ってらっしゃる方はあまり多くないですし」
 ツバキの誕生日を祝いにやってきたエンは自然と庭園の散策に加わっていた。

「椿花の花言葉は諸説ありますが……『理想の恋』、『気取らぬ優美さ』がお似合いかと存じます」
「……そんなに褒められると恥ずかしいです」
 少し頬を赤らめながらツバキは続けた。故郷ではハイネスの様な語り方をする相手はいなかった。それ故に接し方が分からないのかも知れない。。
 語らう最中に、クーヤが地に落ちた赤い椿を一つ取り上げた。そうしてツバキの元へと歩み寄り。会話の途切れた所を見計らって声をかけ、彼女の髪、丁度耳の上辺りにそっと飾った。
「やっぱり椿が似合いますね〜♪」
「そ、そうでしょうか」
 同じ名前を持つ、時に凛々しく、時には可憐さを見せる花が似合うと告げられ、僅かに頬を赤らめてツバキが答える。
「そういえば、ツバキさんはお菓子作りをされた事ってあります?」
 続いて尋ねられると、彼女は幾度かありますと頷く事で答えた。なら、今度一緒に作りましょうとクーヤは目を細めて続けた。そう、ツバキを育てたと噂されるかるかんとか……
 そうして一行の話題は花の美しさから椿がどれだけ生活に根ざしているかに移り始めた。清酒の醸造に必要な木灰は椿を使うのが最高だとか言う話で、とニューラが話を続ける。椿は生活の多くを担える植物なのだと庭園の主が慈しみ、育てている事に彼女は同意の念を抱く。

 風車の様に中心から弧を描き、折り重なる様に広がる細やかな桃色の花弁を持つ椿を眺め、ファオは拝見するだけで楽しいと感じていた。彼方此方で見られる椿の中には滅多に見られない種もあり、貴重な機会を得られた事に卿や夫人に感謝の言葉を伝えたいなどと思う。
 擦れ違う人々も静かに花を楽しみ、庭園が持つ優しげな雰囲気を大事にしようとしているのが良く分かる。
「花も、葉の艶やかな深い緑も本当に美しいよねー」
 白と紅の絞りの花をつけた椿の前に立ち止まると、ユーティスは感想を素直に口にした。白地に鮮やかな赤を宿した花達を目にすると、この庭園に咲く椿の全てに手を入れている老夫婦の愛情と情熱が伝わって来る様だ。
 どんな人だろうかと考えていると、壮年の夫婦とミリーシャが何やら言葉を交わしているのが聞こえてきた。ここまで育てる上での苦労話やどのような事に留意しているのかと、花の手入れをする者として話を伺っているらしい。

「それにしても、分かっている方みたい」
 花を愛でながら酒を楽しむのもありだと、正気を失わない程度の酒類が庭園では許されていた。ニューラは露店で手に入れた果実酒をのんびりと楽しんでいる。
「無駄に年を重ねた方ではないと言う事ですね。むしろ、許されているからこそ自身を律しなければなりません」
 ニューラに付き合って少量の酒を楽しんでいるコノヱが言う。酒に身を委ねて正気を失うのは良くないとも。
「……ところで、コノヱさんのお誕生日祝い、今年はしてなかったような気がするの」
「ええ、色々と所要がありまして」
 ほんのりと頬染める霊査士にニューラは序と言っては失礼ですがと言い置いて、彼女に一つの袋を手渡した。開いた口から中身が小洒落た模様の入った茶筒が見える。
「お茶でしょうか」
「お祝いと言うか、お土産と言うか」
 差し上げますと彼女が言うと、コノヱはありがとうございますと目を細めて笑顔で答えた。
「おう、ツバキにコノヱ。相変わらず二人は仲良いな」
「レグルスに聞いたんだが、今日はツバキの誕生日なんだってな。おめでとう」
 のんびりと寛ぐ彼女達の姿を認めたレグルス達が声をかけた。傍らにいたアーリスは祝いの言葉を伝えつつも、歳の近いツバキを密かに観察する。
 ……私に近くて、背の低い子は初めて見るな。それに、綺麗なロングヘアーにそのスタイル……
 何気ない素振りで自分と見比べて急に溜息を一つついて、呟いた。
「やっぱり、守ってあげたくなるような女性って、こういうのを言うんだろうな……」
 女性らしい落ち込みを察したレグルスは、昔話はそのうちにと告げて二人で露店へと向かった。
「お二人とも楽しそうですね……あら?」
「つ、ツバキさん……こ、これが……いちばん……おいしかったですなぁ〜ん♪」
 包みをそう言って手渡しながら前のめりに倒れたトリンの顔には遣り遂げた者だけが浮かべられる会心の笑みが浮かんでいた。そんな彼女に渡された包みの中には豆と苺大福。倒れたトリンにしかたがないですねと言いつつ、ツバキは今日の出来事を忘れずに居ようと思うのだった。


マスター:石動幸 紹介ページ
この作品に投票する(ログインが必要です)
冒険活劇 戦闘 ミステリー 恋愛
ダーク ほのぼの コメディ えっち
わからない
参加者:16人
作成日:2008/05/02
得票数:ほのぼの28 
冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
   あなたが購入した「2、3、4人ピンナップ」あるいは「2、3、4バトルピンナップ」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 マスターより許可を得たピンナップ作品は、このページのトップに展示されます。
   シナリオの参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。