<リプレイ>
そわそわそわそわ……。 占いの館があると言うドリアッドの森の村に、心ここにあらずの冒険者達が、ある者は頬を染め、ある者は心配そうな顔つきで集まっていた。
いつもとはちょっと違うおめかしで、ミリアム(a03132)はダグラス(a02103)の前に楚々と歩み出る。フワリと風になびくレースの裾から、ミリアムの白い素足が覗いた。 「……どうかな?」 「ん? 馬子にも衣装で、いいんじゃねぇの?」 女の子の微妙な気持ちを欠片も理解していないらしい返事に、ミリアムは『ぱんち』で応酬した。 「なんだよ、いいって言ってるだろ? ……なぁ、それより、さっきあっちにヒースがいなかったか? 見たような気がするぜ?」 「もうっ!」 お洒落をして来たミリアムより、ヒース(a00692)の行方を気にして火に油を注いだダグラス。きつい脛蹴りを食らって飛び跳ねた。 「痛ぇっ!」 「もう、ダグラスなんか知らないっ」 ぷいっと踵を返して行ってしまうミリアムを、ダグラスは苦笑しながら見送った。 護ってやりたいと素直に思える相手だ。可愛いと思っているのはもちろんで。でも、まだ恋する相手にするには幼すぎる。――ダグラスとて複雑な気持ちなのだ。
「ふぅ……」 小さく嘆息したミスティア(a04143)に連れはいない。アイギスの霊査士・アリス(a90066)を誘うつもりだったのだが……、さすがに、時期が悪かった。 「ごめんなさい。アイギス風邪の事もあるけれど……お出かけは自粛しているの」 そう言って苦笑したアリスの気持ちは、森で行方不明になった彼女を、必死に探し回ったミスティアにも分かる。 「ミスティアさんは何を占いに行くの?」 聞かれて、彼は微笑みで誤魔化して出て来たのだった。 集まった者達をふと見回して、バルモルト(a00290)の姿を見つける。 「……」 ミスティアとの関係は、とても微妙な相手だが……。目が合って、わたわたと赤面して場を離れていく様子に、彼は小さく笑みを零した。あの反応で気付かないのは、アリスぐらいのものだ。 彼らとは対照的に、ルヴィン(a03635)とミィミー(a00562)、カリン(a00669)とゲンヤ(a02757)など、既にフォーナの女神の祝福を受けたカップルもいる。 女神の祝福があって、それで何が不安なのだろう? ――他人はそう思う事だろう。 (「だって、すぐどこかへ行っちゃいそうなんだもの……」) ミィミーは内心で呟くと、こっそりルヴィンを見上げた。 「ん……?」 「……っ!」 気付かれて慌てて視線を逸らすと、ミィミーは手作りサンドイッチを詰めたバスケットをぎゅっと握り締めた。 「ミィミー」 密かに微笑して、ルヴィンは彼女の肩を抱く。不安がらせているのは、きっと自分の所為なのだと思うから……しっかりと。 やけに元気な声は、その隣り。 「自分とゲンヤさんの相性はきっとバッチリっすよね♪ 今日は将来のことを占ってもらうッス〜ッ!」 はしゃいだカリンが頬を染めて言う。 「女の子は占いが好きですね……」 気の無い素振りで言うゲンヤを、ぽかすかと『ぐー』で叩いてみるのも、イチャついていると言えばそれまでな感じ。ゲンヤのようなタイプに限って、占いの場に来ると真剣になったりするのも……ありがちらしい。 何だかんだ言いつつも、戸惑いなく占いの館の天幕を潜る2組。 順番待ちをしていたエイミー(a01378)は、彼らを見送って「はぁ……」と息をついた。 「どうしたんだね? エイミー。……そうだ。待ち時間の間に小物を見に行こうか? いくつか店があるようだよ」 落ち着いた声が彼女を包むように響く。アローシュ(a07546)だ。急なお願いにも、嫌な顔ひとつせず付いて来てくれたのだ。 「え……、はい」 この優しさが不安……。『女性に優しくすることは紳士の嗜みだよ』なんて言われそうで、自分の想いばかりが空回りするのが怖かった。 初心な歳でもないのに……彼だけはエイミーを不安にさせる。それだけ、彼女にとっては特別な人。 そして、エイミー達が小物屋へ向かうのを見て、ショコラ(a08750)と来ていたクリストファー(a03770)も、 「あ、ボクも見て来よう」 と、離れて行ってしまう。 「あ……っ」 ルヴィンと違い、気落ちした彼女に気付いてやれないのは、やはり13歳という年齢のせいだろうか。でも……。 (「あ、この蒼いやつ、ショコラに似合いそうだね……」) こんな風に、クリストファーはいつもショコラを想ってしまう。まだ誰にも秘密のその気持ちは……『好きだから、傍に居て欲しい』。 (「ショコラは何を占ってもらうんだろう? も、もし恋占いだったりしたら……」) 幸運の蒼い石の指輪をじぃーっと見つめながら、クリストファーはしばし固まる。 「ボクの気持ち……バレちゃう?」 ボソリと呟くと、カーッと真っ赤になった。
その時だった。占いの館から、今までになく派手なやり取りが聞こえてきた。 「弟子にして下さいっ!」 「ええいっ 変態めっ」 「ペタンは趣味だっ 生きがいだっ それぐらい『好み』の1つとして許されるはずだっ!! いいじゃねぇかっ」 どうやら、占い師と言い合いになっているらしいのは、タムタム(a07756)とゴウテン(a03491)だ。 「かーっ! いい歳をして何を言うかっ お前も邪魔じゃっ 弟子なぞとらん」 2人を相手に、何か話がこじれたのか、喧嘩をしたのか。どうやらタムタムは押しかけ弟子志望のようだが……。一方のゴウテンは。 「……俺だって、俺だってな〜! マインちゃんとは歳の差を気にしてるんだっ でもなぁ! 濃厚なキスじゃなくていい、唇が触れ合う程度の軽いキスでいいんだ! 腕なんて組めなくていい……っ 服の袖をちょこんとつまんで斜め後ろをついてきてくれればそれでいいんだー!!」 途中で興奮してきたらしいゴウテンの声に、外で様子を窺っていたマイン(a05488)は茹タコさながらに真っ赤になっていた。 「ゴウテンさん……とても嬉しいけど、とてもとても恥ずかしいです……」 天幕の外でさめざめと流す涙は、嬉し涙か恥辱に耐える涙か……。 「ふんっ おぬしなんぞ、占うまでもないわ。カエレ! タデ食う虫も好き好きじゃっ マインちゃんとやらが迎えてくれるじゃろうて」 「……なっ? ババアッ 今のは本当か?!」 声がしたかと思うと、ゴッっと鈍い音が聞こえ……。水晶珠を投げつけられて追い出されたゴウテンが転がり出てきた。 「あ……っ」 「……マ、マインちゃんっ!!」 しばしフリーズ。 「た……確かに『迎えてくれた』よ……クソババァ……」 ゴウテンは、小さく小さく毒づくのだった。
そんな静止画のような2人を横目に、ちょっとばかり冷や汗しながら、順番の回って来たルーンティア(a00141)とキノ(a01016)が天幕へ入って行く。 「おおっ 今度はまともそうな2人じゃな」 心なしか占い師の声は楽しそうだ。 「2人揃ってで良いのじゃな?」 言われて、ルーンティアは、内心のドキドキを押し隠しつつキノを見つめる。ポッと頬に紅が挿すキノの様子で、彼らの占い結果は聞かずとも分かりそうなものだ。強いて言うなら……。 「ふーむ。十分、好きじゃろう?」 占い師――とってもアヤシイ感じのドリアッド婆さまにそう言われて、キノは椅子から跳ね上がる勢いで驚いた。 「え、え……? そ……そのぅ……」 婆さまは2人にニンマリと笑って見せる。 「ばばが手伝うまでもない。2人で散策にでも行っておいでな」 散策は結果が良かったカップル用と言われる『らぶらぶ』コースである。言われた事を察して、ルーンティアは満面の笑みをキノへ向けた。 「……っ」 見るからに、幸せなカップルとなって天幕を出てくるルーンティア達。ハッと気付いて、次に占ってもらうはずのラジスラヴァ(a00451)は、「はぁ……」と少し温度が高くなったように思う溜息をつく。 (「ライホウさんは、本当に私を好きでお付き合いしてくれているの? もしかしたら単に義理で……」) 考えると不安になる。確かめるのは勇気が要って。でも、聞きたい。 揺れる瞳で想い人……ライホウ(a01741)を見上げると、優しい笑みが返る。 「俺は外で待っているよ」 そう言って送り出されて、ラジスラヴァはコクリと頷いた。
そうして、カップルとしては最後の2人、ターニャ(a05163)とリュウセイ(a05171)の番。 年下の……可愛いターニャと並んで歩くのは、リュウセイには、嬉しいと同時に気恥ずかしい事だ。30歳を迎えた年齢がそう思わせるのかもしれない。そして、ターニャはまだ実感が持てなくて。放っておけない人が出来たと思うけれど……。 2人の戸惑いは、そのまま占い師の言葉になる。 「面白いのぅ。2人ともハッキリした性格じゃのにのぅ。お互いの前だと硬くなっておるのぅ……ひょっひょっひょっ」 わしは知っているぞ、とでも言うような口調だ。 「お互いの前でだけじゃ」 もう1度言うと、「ひょっひょっ」と笑う。そして、占い結果を紙片にしたためると、2人に手渡して送り出すのだった。
恋人と恋人未満の2人の列が消えると、ティキ(a02763)は「やれやれ」と呟く。 「やっぱり皆、恋愛占いなのかね……」 ティキの気がかりは少し違う。やたらと孤独や別離を恐れる『彼女』を、もう少し落ち着かせるにはどうしたものかと……。占いでも、力になるなら聞いてみたかった。 チラとミスティアやバルモルトを窺って……天幕を潜る。 「おや……?」 入って来たティキを見た途端、婆さまは、 「ちょっと毛色の違う相談だねぇ?」 そう言って片眉を上げた。 「お前さんは懐深くに入ってやる気持ちはあるのかい?」 婆さまの問いかけが、占いの答えでもあるようだった。
愛猫・フェイのお婿さん候補より、幸運の石のお守りに興味が行ってしまっていたメイリィ(a90026)。買い物が終わると、ヒースに声をかけられた。 「僕と午後の紅茶を飲まない? 猫さんも抱かせてほしいな」 微笑よりも何よりも、猫さん談義をもちかけたのが効いた。 「はいですの♪」 周りはらぶらぶ全開な状況。恋人の居ないヒースはちょっと寂しかったが、猫はもっと可愛かった! 肉球に頬擦りして幸せ気分。 「あっ エリカさんですのっ!」 占い結果の紙片を手にした、旅団仲間のエリカ(a02326)を見つけ、メイリィは「わーい」と声を上げる。 「エリカさんが来るって聞いたから、ライナスさんも呼んできたですのー」 「えっ!! うそ、でしょぉっ?!」 思いがけない言葉に、一瞬、ビビリが入るエリカ。こっそり、ホントにこっそり、ライナスの気持ちを占いに来たのに。 あっち、と指し示されて、おずおずと視線を向けると、樹に寄りかかって昼寝モードのライナス(a90050)がいた。 おっかなビックリ近付いて、もらったばかりの紙片をギュッと握り締める。書いてある占い結果が当たっているなら……。 「ライナスちゃん……?」 エリカの呼びかけには、微笑が返ってきたのだった。
森には……。 2人で手作りのお弁当を食べ、木陰で幸せそうに眠るミィミーは、ルヴィンの腕の中。 ギクシャクしながら、ターニャの手を握って木漏れ陽の下を歩くリュウセイ。 カリンがの腕は、しっかりとゲンヤに絡められて。 クリストファーからもらった指輪を、大切に、大切に、右手の薬指にはめてみたショコラは、小鳥達の歌声の中。 「今はまだ首飾りだけれど……、いつかちゃんとしたものを渡す。俺は……」 君をいつまでも護っていくよと、ライホウに囁かれ、首飾りのプレゼントをもらったラジスラヴァは嬉しさに涙を零した。 それぞれの恋人たちが、緑につつまれた幸せの中、ひとときの安らぎに身を任せている。 クローバーの広がる野原に出ていたキノは、ルーンティアを振り返る。 「……」 どんな風に、どんなに好きか。言葉にするのは難しくて……。言いあぐねる。 「キノ?」 問いかける微笑みに、贈る、キス。 「言葉にするのは、難しいのだよ」 キスは、気持ち。言葉の代わり。 同じ時、エイミーに騎士の誓いを立てたアローシュにとっては……その儀式こそが――。 「貴女の騎士として戦う事を、この薔薇と剣に誓うよ」 静かな誓いの言葉が、この森を約束の地に変える。 幾人もの願いを受け止めて、その森は萌えているように思えた……。
忘れられていそうだが……。 婆さまに迷惑がられていたタムタムは、ドリアッド温泉巡りでの身体の『清め』を課題に出されたらしい。 ドリアッド領に温泉がいくつあるのかは誰もしらないし、婆さまは『勘』で占いをしているともっぱらの評判だったから……きっと体よく追い払われたのだろう……。

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参加者:24人
作成日:2004/06/14
得票数:恋愛6
ほのぼの14
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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