<リプレイ>
●六つ目の宝を探して 「いつにも増して、厄介な依頼やんな……」 依頼を受けた冒険者の一人、虚言の導師・ラク(a01088)は溜息混じりにそう漏らした。大量の指輪の中から、目的の一つを見つけ出す……それは、とても途方の無い事に思えて。 「そうだね。……宝を隠すなら宝の中、か。何とも貴族らしいというか……豪快な隠し方もあったものだね」 その言葉に頷きつつ、呟いたのは緑風の剣士・エリオス(a04224)。ある意味豪快といえば豪快……一般人にはあまり真似できない芸当だといえるだろう。 「だんだん隠し場所がエスカレートしてる気がするわ。いろんなところに隠して……隠した人も隠させた人も、何を考えてるんだか……私には、理解できないわ」 冒険屋・ジェシカ(a04116)は、どこかウンザリした様子で盛大に溜息をつく。いっそキーゼルを引き摺って、部屋ごと霊視させるのが一番手っ取り早いような気もしたが……流石に、そこまでは出来なかった。 「確かに今回は、今までとは趣の違う宝探しですけれど……偶には、こういう地道なお仕事も、きっと楽しいと思いますわ」 そんな憂鬱そうにしている皆を振り返りながら、箱入り重騎士・ルフィリアーナ(a01769)は微笑む。彼女は皆とは違い、本当に心から今回の依頼を楽しみにしているようだ。 どんな作業でも、見出そうとすれば必ず、楽しい事や面白い事は見つかる……そう彼女の姿が言っているような気がして、一行は気を取り直すと、改めて歩き出した。宝があるという貴族の別荘に向けて。
「うわー、ボロボロじゃん」 やがて別荘の前に到着した一行の心境は……この、千見の賭博者・ルガート(a03470)の口から思わず出た言葉に集約されているだろう。 貴族の別荘、という言葉から思い浮かべるイメージからは程遠い……薄汚れ、痛み、崩れ落ちそうにすら思える建物。それが、今回の宝の在処だった。 「……とにかく、準備しないとな」 一番最初に気を取り直した白き龍・リュウホウ(a03588)は、持参した燭台とロープを取り出す。これはどちらも、地下室に入る際に利用する為、用意しておいた物だ。 といっても、リュウホウ自身は地下室に入らない。建物が崩れる可能性があると聞いた冒険者達は、全員で向かうのは危険だと判断し、代表して数人が地下室に入り、指輪を全て外へ持ち出した上で、改めて指輪を検分する事にしていた。 「じゃあ、おやっさん。行って来るね〜」 地下に潜るのは、黒の闘士・デュラン(a04878)に向けて手を振っている天紫蝶・リゼン(a01291)や、土塊の下僕を召喚した微笑みの風を歌う者・メルヴィル(a02418)、それに舞い踊る銀月・スズノ(a01261)にジェシカというメンバーだ。 「ほな、いってらっしゃい」 ラクは近くの丈夫そうな木にロープを何本か結ぶと、その反対側を地下に向かう者達へ渡す。これは彼らが地下にいる間に、もしもの事が起きた場合に備えてだ。 四人はロープを腰元に結ぶと、内部の危険を探る為に土塊の下僕を先行させながら、別荘の中へ向かう。 「皆様、お気をつけ下さいませ」 ルフィリアーナは彼らを見送ると、予め用意しておいた大きな白い布を、日当たりの良い草の上に広げる。……四人が戻って来た後、すぐに指輪の検分を始められるように。 「リゼン達が戻る前に、こっちで出来る事はしておかないとな」 デュランも鑑定の為に持参した、拡大鏡や布、革といった各種の道具を広げ……外に残った六人は、四人が無事に戻るのを待った。
●指輪の沈む地下室 「ここね」 別荘内を慎重に進んだ四人は、地下へと繋がる階段を降り……そして、施錠された扉の前に立った。 地下室の鍵を預かっていたジェシカは、それを取り出すとゆっくりと回し……閉ざされてから何十年になるか分からない扉を、そっと開ける。 「わ……いっぱいあるわね。もう、あり過ぎて困るくらいだわ」 その向こうに広がっていた光景は、予想に違わず大量の指輪だった。もはや数える気にもならず……ジェシカはウンザリとした表情で、室内に入る。 「えと、とにかく、指輪を運び出してしまいましょう、です」 メルヴィルは燭台を室内にあった戸棚に置くと、持参した袋を広げ、早速指輪を詰め始める。 「ん、そだね。そうそう、力仕事ならアタシに任せておいてね」 体はちっちゃいけど、体力だけには自信があるんだと胸を張るリゼン……彼女が用意した袋は、他の者達の二倍……いや、三倍の大きさはあるだろう。その中に手早く指輪を詰めると、リゼンは「よいしょ」という掛け声と共に、大きく膨らんだ袋を担ぐ。 「指輪の他には木の棚が二つね。……一応、動かしてみましょうか」 一方でスズノは、念の為にと戸棚に手をかける。もしかしたら、戸棚の下や後ろなどの隙間にも、指輪があるかもしれないと考えたからだ。 「ああ、なら手伝うわよ」 何も置かれていない戸棚は、そう重たい物ではない。ジェシカと二人で持ち上げると、すぐ簡単に動く。 「……指輪は、無いみたいね」 何も無い床に戸棚を移動させ、今まで棚が置かれていた場所を確認するスズノ。けれど、そこにあるのはカビと埃だけで、指輪は一つもない。 「じゃあ……うーん、どうしようかしら」 スズノは指輪以外にも、何か地下室にあれば一緒に持ち出そうと考えていたが……物が物のため、少し考え込む。 身の丈ほどある戸棚が二つ……この人数を考えると、一度に運ぶのは無理だ。そうなるともう一度往復する事になるだろうが、それでは人数を絞って地下に来た意味が薄れてしまう。それに……この地下室に繋がる通路は狭い。戸棚を抱えて移動するのは大変だし……天井や壁にぶつけて、建物の崩落を招いては元も子もないだろう。 そう考えたスズノは戸棚の運び出しは断念すると、ひとまず元の場所に戸棚を戻す。 「じゃあ、お願いします、です」 メルヴィルは再び土塊の下僕を召喚すると、復路の先行を命じ、指輪の詰まった袋を背負う。そして四人は、下僕の後ろを先程と同じ順番で歩き出すが……。 「……ねえ。何か聞こえない?」 かすかな物音に眉をひそめるスズノ。どこからか響く鈍い音……それはどこか不吉に感じられ、思わず周囲を見回す。 「天井が……!」 頭上からパラパラと落ちる塵に視線を上げたリゼンは、ハッと声を上げる。そこはいつしか軋み始め、今にも崩れそうだ。 「急ぎましょ」 こうなっては慎重にゆっくりと……などと言っていられない。四人は階段を駆け上り……そして。
――激しい物音が響き、天井が崩れ落ちる。
「あ……危なかった、です」 その音に後ろを振り返りながら、へなへなと座り込むメルヴィル。階段の下……さっきまで自分達がいた地下室の入口は、今やすっかりと塞がれていた。 もう少し遅かったら……そう思うと、冷たい物が背中を走る。 「四人とも無事……かぁ!?」 一方、物音を聞いて外にいた者達が駆けつけるが……誰か怪我をしていたらヒーリングウェーブで治療せねばと走ったラクなどは、逆に床を踏み抜いて転倒してしまう。 「ありゃりゃ……えっと、アタシ達の方は大丈夫。それより……」 崩れるのが地下室だけで終わるという保証は無い。これ以上の事が起きないうちに……と、冒険者達は別荘を出た。
●本物はどれ? 一行は指輪を広げると、すぐ作業に入った。 周囲には、リュウホウやラクが参考にする為に持参した翡翠・翡翠を用いた装飾品が並べられ、他には「雰囲気などから指輪を見分ける参考になるのでは」とルフィリアーナが借りて来た、過去に発見した宝も置かれている。 「地図の方も、お借りして来ました、です」 更にメルヴィルが宝の地図を中央に置き……一行はそれを囲むようにしながら、順番に指輪を手に取る。 「これは金だから除外」 「これはルビーみたいやなぁ」 「こっちのは……ガラスの指輪? 全然別物ね」 指輪のうち、その半分以上は見るからに『翡翠が使われた銀製の指輪』という条件に当てはまっておらず……次々と、条件から除外された指輪の山が出来ていく。 「物を隠すのは得意なんだけど……鑑定は解らないな」 リュウホウは溜息混じりに呟きながら、布で指輪の土台を磨く。銀は、時を経ると黒ずんでいくもの……色が鈍く、一見銀には見えない指輪も、磨けば正体が掴めるはずだ。 鑑定自体にはあまり詳しくは無いリュウホウだが、その知識を頼りに指輪を見定める。 「はぁ……いっぱいあり過ぎて、ほんと困るわ」 一方、女の勘で探し出そうと息巻いていたジェシカは、あまりに大量の指輪の前に、勘どころではなく溜息をつくしかなかった。その反対側では、耐えかねたような叫びが上がる。 「あぁ〜、イライラするーっ! ……こういうチマチマした事は苦手なんだ……」 叫びの主はルガートだ。今にも暴れだしそうな彼を、一応エリオスが窘めてはいるが……皆、彼の叫びは良く理解できた。 「むー……」 仕方ないといった様子で、やがて作業に戻るルガート。けれど、やがてまた同じように音を上げて……そんな行動を、ルガートは何度か繰り返す。 「うぅ……それよりエリオス。お前、シノーディアの事どう思ってるんだよ。……俺は本気で好きだぞ。お前は、どうなんだよ」 何度目かの叫びを上げ、やがて大人しくなったルガートは……それだけでは留まらず、エリオスの方へじっと眼差しを向ける。 「……よく分からないよ。ただ……他とは違う、特別な人だとは思ってる」 こんな時に何を、と言いかけたエリオスだが……彼が真剣なのを察すると、しばしの沈黙を挟んで、その言葉に応える。 「それより……今はまだ、依頼の途中だよ」 エリオスはそれだけ口にすると、すぐに視線を指輪の方へ戻し、宝を探す作業に戻る。ルガートに悪いと思わないでもないが……自分でも、どこかもやもやとした物を抱えていたから、それ以上、この話題を続けたくなくて。 「……そうだな」 それを見たルガートも頷くと、今度こそ作業に戻った。
「ひとまず、候補はこの位だな」 一通り『翡翠の指輪』を分別する作業が一段落すると、デュランは除外した指輪を片付け、改めて宝に該当しそうな指輪の山を中央に置く。 (「そういえば……」) それらを一つ一つ丁寧に見定め始める中……デュランは、ここを訪れる前に聞いた、別荘を今所有している貴族の末裔の話を思い返す。 『私も、詳しい事は知らないのです。大切な友人から預かった品だという事くらいで……』 男はそう口にしつつも、指輪はきっと女性の物だろうと口にした。……宝を預かったのは彼の祖母。その友人なら、おそらく同様に女性だろうから、と。 それが手がかりになるかといえば難しい所だが……指輪が女性の物であるという可能性は、決め手に欠けた時には参考になるかもしれない。 「うーん……」 一方リゼンは、その指輪たちと持参した小さな水晶を見比べながら唸る。以前、宝探しの折に見つけた水晶……これが何かの手がかりになればと考えての事だったが、水晶と翡翠の指輪では物が違う為、あまり参考にはならないようだ。 「……これは、イミテーションみたいだね」 その間にエリオスは、翡翠に爪を立てながら指輪を見分ける。翡翠は比較的硬い宝石だ、本物ならば爪を立てた程度で傷付く事は無い。……それに耐えられないようなら、その石は本物の翡翠ではない。 また、翡翠はいわゆる緑系色に限らず、様々な色をしている宝石だ。その点にも注意し、白や斑模様の物を始めとした翡翠にも注意するエリオスだが……緑系色以外の石の指輪は、全て偽物だと判断された為、以降は石の色を気に留める必要は無いようだ。 「残りは、これだけですわね」 やがて目利きを得意とするデュランとリゼンによる選別も終わり……最終的な候補に残ったのは、三つの指輪。形状は地図に描かれた物と同じで、どの指輪の石や銀の質も、申し分が無い。 「うーん……」 だが、そこから先はこれという決め手が無く、冒険者達は指輪を囲んで黙り込む。そんな中……指輪の中の一つに、手が伸びる。その主はメルヴィルだ。 「えと、あの……私は、これのような気がします、です」 それは、いわば直感。けれど、メルヴィルはその判断に、確信を持っていた。 この指輪を遺した者の想い。その想い受け継ぎたいと願う、冒険者達の想い。……そんな想いがきっと、互いに呼び合っているはずだ、と。 「そうねぇ……私も、これっぽい気がするわ」 そんなメルヴィルの様子に、女の勘だけど、と笑みを漏らすジェシカ。他の者達も、このままでは埒が明かないし……と、その直感を信じてみる事にする。 「残りの指輪は……ひとまず、酒場に運ぶ事にいたしましょう。もう、地下室に戻すのは難しいですもの」 ルフィリアーナは地下室の入口が崩れた事を踏まえ、そう判断する。 指輪は『翡翠の指輪』とそうでない物に分けたまま袋に詰め、最終的な候補となった指輪の残り二つは、柔らかい布に包んでデュランが別に持つ。 「じゃ、帰るか」 長時間の作業で凝った体を解すかのように、体を大きく一度伸ばすと……リュウホウは酒場へ戻る道を歩き出した。
●依頼を終えて 一行が酒場に戻ったのは、翌日の事だった。全員を代表し、メルヴィルが借りた地図に選んだ指輪を添えながら、キーゼルへ渡す。 「ん……大丈夫、合ってるよ。お疲れさま」 念の為にと霊視を行うキーゼル……やがて口を開いた彼がにっこりと微笑んだのを見て、冒険者達は安堵に胸を撫で下ろす。 「ふぅ……どっと疲れが出るな」 「あらそぉ? じゃあ特別にマッサージしてあげるわ。たっぷりサービスしてあげるわよ」 安堵からか疲労に呟きを漏らすデュラン……そんな彼にジェシカはどこか意味深に笑いかけると、肩と腕に手を伸ばし、マッサージを始める。 「残りの指輪は、別荘の所有者の方に連絡して、僕の方から渡しておくよ」 その一方で、残る大量の指輪の処遇についても引き受けるキーゼル……と、そんな彼の背にぺたりと抱きつく姿があった。リゼンである。 「はぅぅ、つかれたー」 あうー、と声を上げながら寄りかかるリゼン……どうやら、キーゼルに甘えているようだ。 「地味な仕事っていうのも、意外と体力を使うからね……お疲れお疲れ」 そんな彼女の様子に苦笑しつつ、ぽむぽむと頭を撫でるキーゼル。その仕草を見ながら、リゼンは小さく呟きを漏らす。 「あーあ……キーゼルが、おにーちゃんだったらいいのにねー」 「ん? そうだねぇ……リゼンみたいな妹がいたら、楽しいだろうになぁ」 「……ホントに?」 楽しそうに笑うキーゼルの姿に、思わず問い返すリゼン。そんな彼女に、キーゼルは「嘘なんてついてどうするの」と更に笑い……その反応がリゼンは嬉しくて、思わず「おにーちゃん」と声を上げながら、ぎゅうっと抱きつくのだった。

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参加者:10人
作成日:2004/06/05
得票数:冒険活劇2
ほのぼの11
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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