ゴガツビョー



<オープニング>


「うー……あー……」
 酒場のテーブルに突っ伏して唸るエルフの霊査士・セルフィ(a90389)を、冒険者達は遠巻きに眺めているという、ある意味で平和なこの光景。
 ふらふらと立ち上がったセルフィが、依頼の説明を始めるために人を集めようとするが、非常に危なっかしい。大丈夫だろうかという視線を手で制し、「最近ちょっと睡眠時間少なかっただけだから」と苦笑する。気を取り直すかのように伸びをしつつ、説明を始めていく。
「最近人口が増加して別所に村ごと移った人達……まあ要するに移民した人達がいるんだが、新しく村を興すために移動した先に問題があってな。どーも運の悪いことにモンスターっていう先住者がいたわけだ」
 つまり、今度の依頼はそのモンスターを倒せば良いのか? といった冒険者達の視線に、セルフィは満足そうな笑みを浮かべ首肯する。どうでもいいが目の端が若干血走ってて怖かったりする。
「こいつはちょっと変わったモンスターでな、直接の攻撃を自分からは仕掛けてこないし、無抵抗になった相手にも攻撃を加えない。……まあ、もちろん攻撃してくる相手には攻撃して来るんだが。ただこいつの性質の悪いのはそこじゃあない」
 こう、説明しづらいと言えばしづらいんだが、と前置きをする。
「そいつの周囲に変なガスみたいなものが常に漂っててな。おそらく一種のアビリティのようなものなんだろうが……それに触れると気分が一気に消沈して、何もしたくなくなってしまうらしい。本来生きることに必要な食事等といった行動もしたくなくなるほどに」
 困ったことに、移民した人達がそのガスに触れてしまってるんだよ。とセルフィは腕を組みつつ冒険者達に言う。何人かの冒険者たちも、予想していたのか顔に手をやり「あちゃー」とでも言いたげな声を漏らす。
「そいつはそのまま何もしたくなくなった人達が死んでいくのを見るのを好んでるらしい。……今から行けば十分間に合うから、移民の人達の救助とモンスターの退治を任せるよ」
 そして説明をし終えたセルフィは、ゆっくりと自分の席に戻り目覚ましもかねて水を呷る。
「……なんだかこの季節だと強制的に五月病するような効果だよな、そのガス」
 と、1人苦笑するのであった。


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参加者
翠竜・ヤヨイ(a21844)
闇の檻で蒼月を仰ぐは艶紫蝶・アーウィン(a50036)
傍らに咲く・スミレ(a67571)
なぁ〜んですなぁ〜ん・キリア(a71164)
星夜の旅人・カムヤ(a71683)
ジェジェダジェ重騎士・シュン(a72968)
ちいさなけんし・オリジン(a73337)
ストライダーの武人・カラート(a73596)


<リプレイ>

●怠惰なる香り
「この土地ならいい作物が育ちそうですね……」
 小さな荷車を引いている翠竜・ヤヨイ(a21844)が、まるで後発の移民団であるかのように開拓村になる筈であった土地を見て顔を綻ばせる。そして少し悪戯っぽく笑いながら、隣で同じく荷車を引いているストライダーの武人・カラート(a73596)へと問う。
「ねえ、アナタ? 子供は何人ぐらいがいいかしら? 家は広く作りましょうか?」
 これから先の明るい未来を空想する妻……という設定なのだろう、カラートを夫に見立てての夫婦劇であるが、相手であるカラートは急な設定の捏造に大いに慌てる。
「い、いや、何を言ってるんだヤヨイ。お、俺はそんな……あ、ああそうか、そういうことか。子供は多いほうがいいな」
 何とかその設定に基づいた行動を、と努めるのだがどこかぎこちなく後半の台詞も棒読みであったりする。もっとも声をかけられる直前まで「地図が入手できなかったのは辛いな……」等などと考えていたため、その急に思考を変えることが出来なかったというのもあるのだが。ちなみに、まだ開拓中の村であったため、周辺の地図等といったものはまだ作成されておらず、入手することは出来なかったのだ。
「……あまり動くなよ……上手く結べない……」
 荒縄を手に星夜の旅人・カムヤ(a71683)がもどかしそうに残飯処理レイヴン・キリア(a71164)の体へと巻きつけようと悪戦苦闘している。胴の部分に巻き付けようとしているのだが、キリアがぐにゃぐにゃと奇妙な動きをするためなかなか結ぶことが出来ないのだった。
「ダルイけど……頑張るなぁ〜ん」
 へにゃへにゃと体を揺らしながら、気の抜けた声でキリアが宣言する。……あまりにも気の抜けた声だったせいか、周りの仲間達もどこかやる気を抜かれるかのように少し弛緩した動きになる。今回戦う敵のガスを浴びたわけでもなく、既に五月病かかってますなぁ〜ん、という様子のキリアであった。
 作られたばかりであると感じさせる家々の間に敷かれた道を進む4人の前方に、微かに緑色をしたガスの充満する空間と倒れ伏した村人達が見えたとき、遂に今回の敵の姿を確認することが出来た。
「あれは……イタチ、ですの?」
 一目見た時点でヤヨイの脳裏に浮かんだのは、ほっそりとした体に柔らかな獣毛を纏った小動物の姿。……もっとも目の前にいる敵は、全体的な見た目こそイタチに酷似しているものの、大きな尻尾を2本も生やし、後ろ足が発達しているのか二足歩行で村人達の間を駆け回る人間大の大きさをした代物であったが。
「さー、俺の出番なぁ〜ん!」
 軽く頬を叩き気合を入れたキリアがガスの付近へと突撃してゆく。ノソリン尻尾もフリフリと動かし元気いっぱいであることを必死にアピールし、そしてガスに掛かるのも厭わずに接敵していく。
 急に突撃してくるキリアに驚いたのか、ビクリと体を振るわせた敵であったが、未だに元気な者が居たのかというように興味津々にキリアへと近寄っていく。
「かかった!」
「……今だ……このまま人気のない場所まで行くぞ……」
 キリアに敵が興味を持ったことを確認した瞬間、カラートとカムヤが手にした荒縄――キリアの腹に巻かれたものである――を力の限り引っ張り、そのまま自分達が来た道を逆走していく。
「げふぅあっ!? 腹に巻かれた縄が鎧に食い込んで圧迫、圧迫されるなぁ〜ん。ぐ、ぐるぢ………………俺は……全くもってダメダメなぁ〜ん……」
 腹にキリアを動かすための力が全てかかっているため、予想外の圧迫感にキリアはもがき苦しむ……のだが、途中からガスの影響が出たのか苦しむことすらやめネガティブ思考一直線となる。
 その後ろをイタチのモンスターが確かについて来ていることを確認したヤヨイも、カラートとカムヤの持つ荒縄を自らも手に取るのだった。
 ……ところでこれって一種の拷問なんじゃなかろうか、と突っ込むことが出来る人間はこの場には居なかった。

●ゴガツビョーからの回復は困難
(「これでせめて逃げるための気力が回復しますように……」)
 自らの希望を載せながら手にしたハープを爪弾きながら、傍らに咲く・スミレ(a67571)が優しくもどこか勇猛さを感じさせる歌声を披露する。
 囮班の4人が十分に離れたことを確認したスミレ達救助班は、鉢合わせしないように迂回しつつ村人達の元でアビリティを使っていく。
 その横ではジェジェダジェ重騎士・シュン(a72968)が身に纏っていた鎧を脱ぎ捨て、生まれたままの姿になって楽しげに踊る。
「ダンスなぁ〜ん僕はいつも元気にダンスするなぁ〜ん♪ みんな元気だすなぁ〜ん。ゴガツビョーなんかふっとばせるなぁ〜ん!」
 やがてその姿は自身のノソリン耳や尻尾と同じ白いノソリンへと変化する。「なぁ〜ん」と愛嬌を感じさせる鳴き声をあげる。
「どくけしのかぜ、つかって、げんきにするの〜!」
 小さな腕を振り上げるかのようなポーズのちいさなけんし・オリジン(a73337)の体から心地よい風が発生し、ぐったりと横たわる村人達の体を包む。だが、スミレの高らかな凱歌やオリジンの毒消しの風を使っても、我に返ったかのように動き出す村人は数人で、大半の村人達は倒れ伏したままである。
 これが若さか……というようにシュンの裸踊り、もといノソリン踊りを眺めていた闇の檻で蒼月を仰ぐは艶紫蝶・アーウィン(a50036)がガスの効果から復帰した村人達への説明と誘導を行う。そしてそれと共に未だに倒れている村人2人をシュンの背へと乗せる。……ついでにシュンの脱いだ鎧も括りつけて。
「……五月病、か。俺はいつでも、何もしたくないが……な」
 色々とダメな大人っぷりを披露しているのは気にしてはいけない。
 元々凱歌での復帰にはあまり期待していなかったのか、早々に歌うのをやめたスミレは胸の前で両の手を合わせ祈りを捧げる。その真摯な祈りが届いたか、倒れている村人達が一人一人と起き上がり、何故自分はこんなところで寝転がっていたのだろうか……というように、お互いの顔を見合わせる。
 なぁ〜ん、と鳴きながら背に乗せた村人をつれて避難していくシュン。「グランスティードも使えたら便利なのになぁ〜ん」と内心では思っているが、自身が搭乗しなければならないグランスティードをノソリン化している状態で使えるはずもなく、自らに出来うる限りのスピードで避難していくのだった。具体的には時速約8kmで。
 そんなシュン達を爽快感溢れる風で送り出すかのように、オリジンの体から続けざまに風が発生する。一度ではなかなか回復しなかった村人達も、徐々にではあるが回復しヨロヨロと起き上がっていく。
 疲労しているのか、復帰したもののふらふらしている村の青年にアーウィンが肩を貸しながら、先にシュンが進んでいった方向へと村人達を誘導していく。
 そしてスミレが「ふぅ……」と息をついた頃には、村人達は全員我に返り避難をほぼ完了させたのだった。

●ぐーたらは場所を選んで
「皆さん、しっかりしてくださいな!」
 ヤヨイの歌が辺りに響き、仲間達の体を包み込む癒しの力へと変化する。しかし、前でへばっている3人の内起き上がることが出来たのはカラートだけで、後の2人は生気を失ったような濁った目でいじいじと地面を弄くったり、何かに謝るかのように土下座のポーズでぶつぶつと呟くばかりである。不味いですわね、とガスの射程ギリギリの場所で焦りを露にするヤヨイ。
 くそっと悪態をつきながらカラートが手にした短剣を荒々しく叩きつけるように攻撃するが、敵はかすりながらもかわし逆に何かしらの力が込められているかのように光を纏う頭をカラートの腹へと叩き込む。強烈な一撃にうめき声をあげながら倒れるカラートだが、その目が先ほどと同じように濁り、怠惰な雰囲気を全身に纏ってしまう。
 何とか自力で立ち直ったのか、カムヤが手にした槍を勢いよく振り回し敵をなぎ払う。だが致命傷には程遠く、ぴょんぴょんと跳ねるかのように動き回るモンスター。多少の傷は与えたものの、明らかに冒険者達は不利な戦いを強いられることとなっていた。ヤヨイの持つ回復アビリティの残存量も残り1〜2回程度しかないだろう。
「攻撃にまわる余裕がありませんわ……!」
 悔しそうに唇を噛むヤヨイ。もう一度凱歌を使うべく前に出ようとした瞬間……その目の前を横切る金の髪。その直後に響く猛々しくも仲間達を鼓舞する歌声。
「すいません、遅れましたっ」
 ごめんなさい、とヤヨイへと決まりの悪いのかどこか困ったかのような表情をしているのは、救助班であったスミレである。その歌声を聴いてカムヤとキリアが起き上がり、カラートの受けた傷も癒えていく。
「おりじん、がんばる〜♪ みんな、げんき、げんき〜……♪」
 そう言ったオリジンの放つ毒消しの風を受けて、倒れていたカラートも体を起こし戦線に復帰する。その様子を見て無邪気に喜ぶオリジン。
「あまり前に出ると危ないぞ」
 オリジンの前に立ち、下がっていた方がいいというアーウィンに「は〜い、うぃんさん。おりじん、はなれる〜♪」と楽しげに後方へと駆けていくのだった。
「さてと……これ以上囮班に負担をかけるわけにもいかないだろう」
 そう呟いた瞬間にアーウィンの頭頂部から発せられる強烈な光。なお、頭頂部に光る要素があったのではなくただのアビリティなので悪しからず。
 その光を受け、光から目を覆うかのようなポーズで動けなくなるモンスター。強烈な光はその全身を痺れさせ動きを止める効果すらあった。
 さあ反撃ですわねとヤヨイが呟いた直後、モンスターの足元に手の形をした影が出現し、その身を切り裂いていく。絶叫するモンスターに向けてカラートが全体重を短剣に乗せ、その刃を突き立てる。致命傷こそ与えられなかったものの、敵は我を忘れて怒りを露にする。そしてカムヤに槍を突き立てられた後、モンスターの視界に写ったのはシュンの肩に乗せられたキリアの姿。
「キリ兄貴、飛んでくるんだじぇなぁぁぁぁん!」
「特攻……イッキマース、なぁ〜ん!」
 そうしてシュンの放り投げたキリアはモンスターへと一直線に跳び……なんてことはなく、シュンの少し前に不時着したキリアは、どこか恥ずかしそうに頭をかきながら手にした剣を突き立てるのだった。まあ、人1人そんなに投げれるわけなかったんだじぇなぁ〜ん、と同じく恥ずかしそうなシュンであった。
 そして身動きの取れず、ただ攻撃されるままであった敵に向かって放たれたアーウィンのソニックウェーブの一撃を最後に、辺りに充満していたガスは霧散する。
 こうして、開拓村を襲ったゴガツビョーの脅威は終結したのだった。
 ……余談だが、最後の最後でガスを吸った冒険者達が少しの間その場所でだらけていたとかいないとか。


マスター:原人 紹介ページ
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シュヴァルツェ・キリア(a71164)  2010年05月23日 02時  通報
もし、投げられる事ができたらどうしていただろうかなぁ〜ん…。 ゴガツビョーは気から来るものと信じたいなぁ〜ん。