<リプレイ>
● 結婚式村は際立って賑やかというのではない。しかし上質なフルーツのような、濃密な甘さの感じられる空気があった。幸せの空気だ。 来訪者は年頃の若いカップルで溢れていたが、中には最適なタイミングで挙式できず、願いを果たすためにやってきたと思しき熟年老年の男女も見受けられた。そして子供たちも。ここではおままごと感覚でも式を挙げることができるのだ。 今回参加した冒険者4組のうち、3組は本番ではない。予行演習と、互いの距離をより深めるために訪れた。 蒼穹の閃光・ブルックリン(a62327)と麗しき剣士・シャルナ(a34468)のカップルもそのうちの1組である。 ふたりは手始めに、ウェディングドレスの試着館に赴いた。ここはいつも多くの女性で人気を博しているらしい。女性にとって生涯でもっとも美しく着飾りたい衣装であるし、それも当然なのだろう。 「これなんて……どうですか?」 清楚な白、爽やかなスカイブルー、情熱的な薔薇色、中にはやたら肌を剥き出しにするセクシーなのも。シャルナは試着室を出たり入ったり、祝福の相手に自分の綺麗な姿を何度でも見てもらう。 「ふふ、どれも似合っているよ」 ブルックリンは心から賞賛し、自分でも何着か選んで試着してもらった。仲睦まじく選びあう様子は実に微笑ましい。これもまた婚約者たちの共同作業といったところか。シャルナは胸元が強調されているものがお気に入りのようで、本番で着るべきドレスもほぼ決まった。 そうして、本番へのイメージを築きながら擬似結婚式へ。 ふたりが選んだレンガ造りの建物は、それほど大きくはないが、静かで暖かい雰囲気に満ちていた。当事者だけで挙式したいカップルのための式場である。 村人の手で扉が開かれ、晴れ姿の両人が厳かに入場する。中で待っているのは、進行役の老人(大事な役は年配者が行うらしい)のみだ。 祭壇の前まで足並みを揃えて歩む。案外ペースが難しかった。 辿り着き、向かい合う。まっすぐに目を見る。 進行役が「夫婦とは何か」から始まる短い講釈をしてから、さあ誓いの言葉をと促した。 「汝を、妻にすることを誓います」 「汝を、夫にすることを誓います」 互いに手を取る。 そして、ダイヤの指輪を交換する。イミテーションではあるが、本物と見分けがつかない輝きである。慎ましい光がカップルを彩った。 ――。これで終了だ。 終わってみれば、あっという間だった。力が抜けたふたりは、緊張しっぱなしの顔の筋肉を緩めた。 「次は擬似体験ではなく……本当に……ですね……」 頬を赤くするシャルナ。 「もちろんその時は、旅団の人たちを招いて……ですけれど」 「あぁ、次は本番だぞ。楽しみだな」 ブルックリンはシャルナにキスをして、微笑みながら柔らかい体を抱き寄せた。
● 「たとえ真似事でも……貴女と式を挙げられるのは……その、嬉しく思う……」 永久なる翠流の守り人・キールディア(a40691)の言葉に、一握の良識・シェルディン(a49340)は私もですと微笑した。ついでに、これが本当でもいいですがと呟いて。 まず、小物や式場を一通り見学した。小物は可愛いのや豪華なの、本当にたくさんある。式場については、水上結婚式ができるというやたらカラフルな舟にビックリした。回っているうち、キールディアは本当に結婚するみたいで少し気恥ずかしくなった。 次に、新婦のためのウェディングドレスを試しに試着館へ。 ここに来ると男は例外なく興奮すると村人たちは言う。恋人に普段絶対に着てもらえない衣装を身にまとってもらえるのだから、無理からぬことだった。 そんなわけでキールディアも、フリルやレースたっぷりのドレスを試してもらおうと張り切っていた。イチゴのショートケーキのようにフワフワしているのを着てもらった時は、可愛すぎると声に出して叫びそうになった。 シェルディンは彼の選んでくれた衣装はなんでも受け入れた。もうこの時点で良き妻の資質があると言えそうである。 試着は1時間の長きに及んだが、最終的にはプリンセススタイルと呼ばれる、ボリュームたっぷりのスカートのドレスに決定した。レースや緑の宝飾が、可憐なお姫様の印象を与える。キールディアはもう顔が溶けそうだった。 それはそうと。 「俺は……今の格好のままでもいいか?」 「ダメですっ。私だってコーディネートしてあげたいんですから」 選定にはやはり1時間かかり、その後、正統派タキシードとプリンセスドレスのカップルは式場へ向かった。 静かに座す参列者(盛り上げ役の村人)の中、ふたりはバージンロードを進んだ。天窓からの淡い光が、祭壇を荘厳に、美しく照らしている。 進行役が、生涯でもっとも大切な問いを投げかける。 ――汝キールディアは、シェルディンを妻とし、健やかなる時も病める時も、共にあることを誓いますか。 「はい、誓います」 ――汝シェルディンは、キールディアを夫とし、健やかなる時も病める時も、共にあることを誓いますか。 「はい、誓います」 本来ならここで指輪の交換になるが、正式ではないので、キールディアは代わりに翡翠の尻尾飾りを彼女につける。 そして、誓いの口付けを。 万雷の拍手の中、頬を染める彼女。一方のキールディアは――。 二度目のキスを頬へ捧げた。 「ここ、飾り付けるの、忘れてたから」 あっと固まるシェルディン。可愛いシールのような淡いキスマーク。 そして青年が取り出したのは――綺麗な宝石の指輪。 無論、婚約指輪である。 「近い将来……身も心も全部……俺に委ねて?」 突然のサプライズに、シェルディンは顔を真っ赤にして座り込んでしまった。もちろん嬉しすぎて。 「……私でよろしいのですか?」 立ち上がり左手を差し出す。キールディアはそっと薬指に嵌めてあげた。 この瞬間ふたりは、村で何百と生まれた、恋人同士から婚約者同士にステップアップしたうちの一組になったのだ。
● 婚約してもうすぐ10ヶ月――暁煌く焔の騎士・カイ(a54191)と星晶響く空の碧・ミリア(a49609)は、揃って紫色の空を見上げて深呼吸する。 今回、この村に誘ったのはミリアのほうだった。 予行演習したい&そもそも結婚式に興味津々ということだったわけだが、カイは最初に聞いた時、次の段階へ行くのかと驚いた。もちろん、ゆくゆくは誓いを立てて一緒になるつもりだが、今はまだ婚約者という括りが心地いいと思っている。いや、案外そういう男って多いのである。 ふたりはのんびりと村を練り歩き、今までどんな式が挙げられてきたのかなどを聞いて回った。今までで一番変な式として、「SM女王と下僕スタイル」とかいうのを聞いた時は、たまらず笑ってしまった。普段からそういうカップルだったのだろう。永遠に離れないという宣誓が、ちょっと怖い意味になる。 「私はふたりで静かに挙げたいなぁなんて思うのだけど、カイはどう?」 「ああ、俺も同じ意見」 そうして、ふたりだけのウェディングについてまた詳細を聞いたりする。 村人たちは、さっそく試してみるかいと尋ねてきた。 「いえ、あの、擬似結婚式まではいかなくていいので。ね、カイ?」 「軽く段取り確認的な体験ができればそれで……」 照れくささもあるようだった。初々しいなあと村人たちは顔をほころばせた。 ふたりはウェディングドレスの試着館へ赴いた。 (「結婚前に白いウェディングドレスを着ると、婚期が遅れるとか聞いたことがあった気がするけど」) まあ自分たちの場合はすでに婚約者同士だから大丈夫かと、カイは強引に思うことにした。それはともかくとして、彼はこのイベントを今日のメインと位置づけている。試着させまくろうと笑みが止まらない。 試着館にはスタイリストも常時待機していて、女性たちの髪を見事に結い上げる技術を持っている。ミリアも自慢の金髪を、美しい塔の型に仕立ててもらった。 「か、可愛い……」 人前だというのに、カイは思わず声に出してしまう。青みがかったホワイトドレスが、彼女の眩しさを内側から引き立てる。結い上げられた髪には華麗な宝石がちりばめられ、どこかのお姫様のようだった。 「ど、どうかしら?」 「俺は幸せ者だ、ホント」 ミリアはカイのリクエストに幾度となく応え、ドレスの試着を重ねた。カイは可愛い、綺麗、美しい、幸せだを連発するより他になかった。 普段着に戻り、式の体験をさせてもらうことにした。 お菓子の家のような可愛い外観の建物に、サポーターの村人たちと一緒に入る。ふたりきりの式の場合、具体的な進行はこうだとか、誓いの言葉はアレンジを加えるといいとか、あれこれ教授してもらった。 教えに沿うようにして実演もする。必然的に見つめ合う回数が多くなり、誓いの言葉を口にすると、もうお互いに真っ赤っかであった。 だが、恥ずかしいというその思いこそ、ふたりの距離がさらに近づいたことの証なのである。
● そして最後の一組。 擬似ではない、本物の結婚式を挙げる一組。 風来胤裔・マルチェート(a14834)と眠黒椿姫・メテオライト(a14942)が、新郎新婦のための待合館で、互いの盛装を目の当たりにした。 新郎はグレーの燕尾服で、髪はオールバックに整えた。とても凛々しい男ぶりだ。 新婦はマーメイドラインの純白ウェディングドレス。長く伸びたトレーンの裾にはレースの刺繍。手袋は脇あたりまであるロングタイプで、大人の女性をエレガントに演出している。 「……。あ、すまん。見惚れてた」 マルチェートは思わずボウッとしていた。惚れ直していた。メテオライトもその反応に頬を染めた。 「後は……任せたわ、ルチェット」 マルチェートは頷き、その手をしっかり握った。 誰も客のいない、ふたりだけの結婚式を挙げる。進行役にもご遠慮願い、本当に自分たちだけの世界を希望した。 その希望を、住民たちは快くサポートしてくれた。豪勢なものではないので、準備にはそう時間はかからなかった。それでも一日、綿密な打ち合わせに付き合ってくれた。 村人に見送られ、ひっそりと静まり返る式場に入った。 屋根と壁がガラス張りで、床は大理石。参列者用の机や椅子などはまったくない建物だ。祭壇の他には、新郎新婦の体と心だけがあることを許される。 心身に喜びの緊張が走る。ふたりは近く向かい合う。 襟足を正したマルチェートの宣誓が始まる。 「我、剣となりて、汝の闇を払わん。我、灯となりて、汝の心を晴らさん」 愛する者の左手を取り、永遠を象徴するプラチナのマリッジリングを嵌める。蔦が絡まったデザインで、シェリー酒色のトパーズが付いている。無論、ドリアッドたる両者をよく表したもの。 彼は告げる。 「この指輪をもって、汝を妻に……請わん」 彼女は応える。彼の手を取り、己とペアになるリングを嵌める。 「この指輪をもって、汝を夫に……請わん……」 メテオライトのヴェールが上げられる。 誓いのキスが、彼女の唇に降りた。 ――結ばれた。 ふたりの胸は、暖かく、激しい、幸せな感情に包まれる。心の鐘が鳴り、全身に反響していく。 (「誰もいないからこそできるな」) 照れくさくなるマルチェートだったが、最後に自分の髪に付いている紅い椿を取って差し出した。 「吾が運命は君の掌中にあり――紅い椿の花言葉だ。これからもヨロシクな」 メテオライトはそっと受け取った。滅多に見せない微笑みを見せて。 「……ん、よろしく……ルチェット、……その……」 愛してるわ、と。 伸びあがり、小さく耳元に囁いた。
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参加者:8人
作成日:2008/05/24
得票数:恋愛8
ほのぼの15
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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