白百合の領域



<オープニング>


「ある村が白い百合で埋め尽くされてしまったといいます」
 真実求む霊査士・ゼロ(a90250)の言葉に冒険者たちは視線を向ける。
「どうやら突然変異の白百合のようで、村を覆い尽くすまでに大量発生してしまったようですね。更に振り撒く花粉には何だかムラムラとした気持ちにさせる効果があるようで、村人達は魅了のような状態になってしまっているようです」
 このままではイロイロな意味で危険である。ゼロはぽりぽり頬を掻きながら話を続けた。
「更に白百合は花から小さな種のつぶてを放つことが可能なようで、何とか正気を取り戻した村人も村の外に逃げることが出来ないようです」
 なんとも迷惑な花だと言いつつも、村を救うために駆除して欲しいとゼロは言う。
「村の家屋は30ほどで、村人は約50名ほどだといいます。ムラムラしている人が沢山いるでしょうから、何らかの対応が必要です」
 冒険者たちも魅了に落ちてムラムラしてしまうかもしれないし、村人から攻撃を受けるかもしれない。イロイロな意味で注意が必要だろう。
「村人達を助けると共に、白百合の伐採をお願いします」
 ゼロはそう言って、冒険者たちに一礼を送るのだった。


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参加者
想いの歌い手・ラジスラヴァ(a00451)
此岸に咲く緋の華・クスリ(a16757)
武装修道尼・ナスターシャ(a58089)
愛しき歌声・ルピア(a60692)
森の小さな護り人・ミルフォート(a60764)
屠龍の刃・ミカ(a60792)
樹霊・シフィル(a64372)
猫の忘れ物・ティセ(a68887)
光と影・スイ(a72011)



<リプレイ>

●白の庭園
「白百合……百合……世の中にはそういった需要も多いと……」
 何やらぶつぶつ呟いている樹霊・シフィル(a64372)を始めとした冒険者たちはとある村へと辿り着いていた。そこは見渡す限りの白い百合に覆われて、美しいながらも異様な雰囲気をかもし出している。
「あ……ありのまま今起こった事を話すよ……」
 その光景に唖然とした様子で屠龍の刃・ミカ(a60792)が口を開く。
「黒薔薇に覆われた村を救いに行こうと思ったら、到着したのは白百合に覆われた村だった。何やら恐ろしいモノの片鱗を味わったよ……」
 ただの勘違いなのか何かの意志の為せる業か、そこは突然変異の白百合に覆われた村だったのだ。冒険者たちは変異植物の伐採と村人の救出にその地を訪れたのである。
 ……何だか参加した冒険者たちは女性が多いようだが……それは単なる偶然だろう。

●伐採!
 じゃっ!
 儀礼用長剣『戦乙女の剣』を抜き放ち、想いの歌い手・ラジスラヴァ(a00451)が一閃させる! 村の中央の道を進むべく切り開くラジスラヴァだが、その奥に一人の村人の姿が見えた。
「っ……はぁっ、はぁ、はぁ……」
 四つばいになった女性、年齢は20台半ばといったところだろうか。頬を赤らめ荒い息を吐きながら、虚ろな瞳でふらふらと冒険者たちの方へ近づいてくる。
「うう、目が怖いですから……」
 女性の様子にうろたえる猫のリグレット・ティセ(a68887)。何でも白百合の花粉には魅了の効果があり、迂闊に吸い込むとムラムラした気分になってしまうのだという。きっとこの女性も今、その効果にやられているに違いない
「それにしてもムラムラするって何でそんな効果が……な、なぁ〜ん……」
 顔を赤らめイヤイヤとしながら森の小さな護り人・ミルフォート(a60764)は毒消しの風を発動させる。
「ムラムラ、ですか……ミイラ取りがミイラにならないよう気をつけます」
 何とか村人が正気を取り戻す様子を確かめつつ、此岸に咲く緋の華・クスリ(a16757)はヘブンズフィールドを発動させ、周囲に光の大地を展開した。
「ムラムラした村人……ムラムラムラビト?」
 自分で言って小さく笑いながらも、武装修道尼・ナスターシャ(a58089)は両手斧を構える。
「今は笑い事かもしれませんけど、花のつぶてで村人に怪我人が出ては大変ですね」
 そのナスターシャの言葉通り、白百合から無数のつぶてが飛来する。冒険者たちはその場を飛び退き一撃を回避した。
「このままだと村がとんでもない事になりそうですね。早めに始末してしまいましょう」
 種のつぶてをかわして着地、直後に光と影・スイ(a72011)は顔を上げて紋章を描く! そこから放たれた緑の縛撃の木の葉が白百合を覆い尽くして動きを封じ込めていった。その隙に蒼穹の讃美歌・ルピア(a60692)はリングスラッシャーを召喚する。

「わ、私なんか襲っても楽しくないよ〜? ほら、チビっ子だし……」
 白百合を刈り進むごとに出てくる村人達から逃げるミカ。シフィルはそこに高らかな凱歌を奏でたて、急ぎ正気を取り戻させる。
「とりあえず、何処か家の中に避難していてもらいましょう」
 村人にはなかなか魅了から逃れられない者も居るようで、ラジスラヴァも毒消しの風を発動させていた。柔らかな風が辺りを走り、また魅了されないうちに逃げるよう声を上げてゆく。
「邪魔なのです〜」
 元を断つべしとばかりにティセは地を蹴り、烈地蹴で白百合を蹴り砕く!
「ちょっともったいないですなぁ〜んけど……」
 ミルフォートも蛮刀『グレーターブレイド』を抜き放ち、流れるような動きで次々に白百合の花を斬り払ってゆく。
「切っちゃう事が村の人を守る事に繋がるなら……頑張りますなぁ〜ん」
 快調に流水撃を走らせるミルフォートであったが、百合の中に居た村人を前にその刃を止める。だがその直後にはクスリの静謐の祈りが功を奏し、村人も正気に戻って崩れ落ちていた。
 安心したら力が抜けたのだろう。ルピアはリングスラッシャーが切り裂いている間にその村人を支え、避難させるべく運んでゆく。太刀で邪魔な白百合は一刀両断した。
「し、しっかりして下さい……!」
 ムラムラしっ放しでロクに休養も取れていなかったのか、村人はぐったりとしていた。ルピアは気をしっかり持つように声を掛けながら運んでいった。
「少しでも、動きを止められれば……」
 スイの緑の縛撃が白百合を打ち砕き、出来た空間にナスターシャが飛び込む。軽々と両手斧を引いて構え、一気に振り抜いた!
「はやく伐採しないといけませんわね」
 ざざざざっ!
 流れる斬撃が一気に白百合たちの花を落としてゆく。その時にもナスターシャはしっかりと周囲を見据え、建物や村人を巻き込まないようにと神経を研ぎ澄ませる。

 道中で冒険者たちも魅了に落ちてしまうことがあったりしたものの、移動する度にシフィルとクスリがヘブンズフィールドを発動させ、更にクスリが静謐の祈りを捧げることによって冒険者達はほぼ即座にムラムラした気分からは開放されることができていた。村人の中には多少手こずる者が居たりするが、それも長くは続かずにいずれ正気を取り戻して避難してゆく。
 そうして白百合の伐採、村人の救出を進めつつ……冒険者たちは村の中央を横断し、ここから二手に分かれて残りのエリアを片付けようという事になった。

●玉砕!
「村人さんたち、ムラムラされてるんですなぁ〜んよね、大丈夫ですなぁ〜んよね……ミル子供ですなぁ〜んから襲われたりしないはずですなぁ〜ん……」
 二手に分かれ、何だか人手が減ると心細い。自分に言い聞かせながらミルフォートは蛮刀を振るい、流水撃で白百合を伐採してゆく。
「気をつけていきましょう」
 再度ヘブンズフィールドを展開するクスリ。その後にナスターシャが眠りの歌を奏で始めた。
「……っは、かわいい……わね」
 ゆっくりとした足取りで何人かの村人達が歩み寄ってくる。おずおずと潤んだ瞳で両手を伸ばすその様は、言うまでも無く正気とは思えなかった。ナスターシャの歌によって何人かが眠りに落ちてゆくものの……。
「住民さんたちの状態が一番怖いところかも……」
 ちょっと対処が難しいと距離を取るルピア。まだ魅了状態で動いている村人が何人か残っていたのである。丁度その時、白百合から種のつぶてが発射される!
「くっ!」
 痛みに耐えて緑の縛撃を放つスイ。だが緑の縛撃で止められるのは1つだけだ。ぼんやりと歩いていた青年に種が飛来する!
「あぶないですなぁ〜ん」
 咄嗟に小型盾を構えてガードするミルフォート。種はガキンと防御できたものの……無防備なその背にムラムラした青年が襲い掛かる。
「ははぁ……柔らかそぅぅ……触っちゃうよ〜」
「え、ちょ、お、落ち着いて下さいなぁ〜ん……!」
 飛びこんでガードしたので体勢は崩れており、更に後ろから迫られてミルフォートは避けることが出来なかった。相手が敵なら思い切り払いのけることもできただろうが、村人相手ではそうもいかない。
 ふににっ!
「な、なぁんっ!」
 そしてムラムラと劣情に駆られた青年は、無防備なミルフォートの柔らかそうな……ピンクのノソリン耳を掴んで揉んでゆく。
「はぁはぁ……うぅ、すげえ柔らかくって暖かくって……気持ちイイ……はぁはぁ」
 ふにふにふにふにふにっ!
「ひゃ、やややややめ……なぁぁ〜んっ!」
 青年の熱い吐息が耳にかかり、思わず背筋にゾクゾクと悪寒が走る。それにしても何故ノソリン耳が狙われたのか……その理由は不明である。
「うぅ……」
 村人から逃げるうち、ルピアも花粉にやられてしまったようだ。ふらりと近くに居たナスターシャに歩み寄るが……。
「だめですよ、正気に戻ってください」
 がし、とナスターシャは片手でルピアのこめかみ辺りと軽々掴んだ。しかしそれでもまだ正気に戻った様子は無い。
「……正気に戻れというのが分からんのかっ!」
 そこから強引に腕でホールドする! あうあうと苦しむルピアに、ノソリン耳ふにふにな青年に、クスリから静謐の祈りが届けられる。
「ご無事ですか?」
 清らかな祈りによって皆なんとか正気を取り戻した様子であった。小さく頷いてスイは紋章を描き出す。
「手早くいかないと、大変なことになりそうですね」
 はじき出される光の雨はエンブレムシャワー。次々に白百合の花を貫いて打ち砕いてゆくのであった。

●大喝采!
 一方の班ではシフィルがヘブンズフィールドを展開し、白百合の花粉に備えていた。
「何だか嫌な予感が……」
 人手も減り、油断していると大変なことになるだろうといいながら注意を巡らすラジスラヴァ。ミカも胸を高鳴らせながら、周囲を警戒している。
 ……胸を高鳴らせながら?
「あ……れ? なんか……変な感じ……」
 どくんどくんと自分の鼓動が大きく聞こえ、熱でもあるではないかと思えるほどに顔が熱い。ちょうどその時、魅了されたらしい村人が一人、白百合の中から歩み出してきた。
 まだ幼さの残る少女、金髪を頭の後ろで一つに束ね、だらしなく開いた口からつぅ、と涎が一筋落ちている。上着のボタンが二つほど外れており、白い肌が覗いていた。
 ごくり、と自分の喉が鳴るのが分かる。その自分の唾が熱い鉛のように胸に広がり、体が一層熱くなっていくように感じられた。
「は……早く解除をっ!」
 僅かに残った理性を振り絞り叫ぶミカ。同時に後ろで何かが動いた。
「にゃはは、好きなのです〜」
 ぎゅっと後ろから勢い良くティセが抱きついてきたのだ。ティセもどうやら魅了に落ちているらしく、ぎゅうぎゅうスリスリと体を寄せてくる。
「あんっ……そんな、駄目だったらぁ……」
 ティセの腕がむにむにと体をまさぐり、ぴくぴくミカが体を震わせる。そうしているうちに、村娘の少女が目前にまで近づいて来ていた。
「んっ……」
 頬にそっと手を伸ばす。いつの間にか少女の口には、一輪の白百合が咥えられていた。
「ふぁ……お花のにおい……好きぃ……」
 白百合から落ちる香りがミカの頭の中を蕩けさせる。前に少女間にミカ後ろにティセと絡まりながら3人は、ぼふっと白百合の花畑の中に倒れ込んだ。
「っ……いけない、ムラムラから開放してもらわないと……」
 一方ではラジスラヴァが、舞う花粉に意識が落ちてゆくのを感じていた。自由に動けそうな仲間は……ラジスラヴァの視線がシフィルを捉えた。
「それはいけませんわね」
 顔を伏せていたシフィルが顔を上げる。その目にキラリと妖しい光が宿った。
「ムラムラから開放されるには、スッキリするのが一番ですわ。わたくしがスッキリさせて差し上げましょう」
 まるで獲物を狙う獣のようなしなやかな動きで飛び出すシフィル。ここに冒険者4名、見事にムラムラしてしまったのであった。
 がさがさがさ……。
 白百合が揺れ、花粉が舞い、ときどき蜜が零れ落ちる。
「あぁん……わたくし、いけない道に走ってしまいそうですわ」
「ら……らめっ! そこらめぇぇっ! おかしく、なっちゃうからぁぁぁっ!」
「ひゃぅっ!? 尻尾はやぁっ」
「く……くる、何かきちゃうぅぅぅっ!」
 ふにふにむにゅむにゅぬちゃっ、くちゅぷりゅぷりゅもにゅもにゅ……。
 白百合の花に隠れて何が起きているのかは良く分からないが、きっと冒険者たちが魅了から抜け出すための激しいバトルが繰り広げられているのだろう。うん、きっとそうだ。そういうことにしておこう。
「っ……こんな展開は、いち早く打開しないと……」
 正気を取り戻したラジスラヴァが力を振り絞り、高らかな凱歌を奏でてゆく。それを受けてティセもぱちくりと二、三度まばたきした。
「はっ……。あ、あたし何かしてましたか?」
 急ぎ毒消しの風を発動させ、周囲の人たちの魅了を解除してゆく。いつの間にか村娘が3人ぐらい増えているような気がするが、きっと気のせいだろう。
「もう、お父様、お母様に顔向けできませんわ……。でも、ちょっとだけ癖になりそうな……」
 はぁはぁと肩で荒い息を吐きながら頬をぽ、と赤らめるシフィル。そのまま周囲を見回せば、村人達はこの場に集まっていることが確認できた。
「あぅ……なんか色々と凄かったよぉ……」
 赤面といえばミカもがっくりとしながら呟いていた。ぶるぶると身を震わせながら、ぐっと大鎌を握り締める。
「ばかーっ!」
 ごっ!
 イロイロな想いを込めて放たれたレイジングサイクロンが、一気に白百合を薙ぎ払って駆け抜けるのであった。

●きっとあれは白百合が見せた悪い夢だったんだよ
「ちゃんと燃やさないと、また芽が出たら困るのです……」
「また来年も生えてきたら困るでしょうし、燃やして処分してしまいましょう」
 冒険者たちは刈り取った白百合を村の外まで運び出し、焼却処分していた。ゆっくりと昇る煙を眺めながら、土に還って欲しいとナスターシャは祈りを捧げる。
「村人の皆様に大きな怪我も無く済んで良かったです」
 クスリは村人と冒険者たちに怪我が残っていないかの確認をしつつ、治療を行っていた。冒険者たちの活躍もあってか村人に怪我人は無く、皆無事で済んだということだった。
「な、何か凄い疲れましたなぁ〜ん……イロイロな意味で……」
 まぁ白百合が伐採できて良かったと呟くミルフォート。ルピアも仲間に迷惑を掛けずに依頼を終えることができて良かったと頷いている。
「ふぅ……植物も意外と侮れないものですね」
 疲れた様子の仲間達を見ながら、スイは中々大変な依頼だったと息を吐く。敵と戦うことだけが冒険者の仕事では無い。人々の平和を守ることは大変なのだと胸に刻み、経験を少しでもこれからの依頼に活かせればと思うのであった。

 ごそごそごそ
「でも面白いので、こっそりお土産用に……」
「べ、別に変な事に使うわけじゃないんだからねっ!」
 焼却する少し前、何やら白百合の辺りで何かしている冒険者が居たようだが……まぁ、大したことでは無いだろう。

 こうして冒険者たちは白百合を伐採し、村人たちと……数名の頬を赤らめた少女達に見送られ、その村を後にするのであった。
 (おわり)


マスター:零風堂 紹介ページ
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参加者:9人
作成日:2008/05/18
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冒険結果:成功!
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