ゴタックの誕生日〜Let‘s Enjoy Fishing!〜



<オープニング>


 お馴染み、冒険者の酒場。
 いつもの席に座った霊査士・ヴェインは、テーブルの上に細々としたものを広げて、先程から書き物に忙しかった。ふと顔を上げて窓を見ると、雨粒が街を濡らしている。
「よく降る雨ですね……」
「ヴェインは雨が嫌いなんだべか?」
 憂鬱そうに呟かれた言葉を聞き取ったゴタックが、銛を磨く手を休めて問い掛けた。
「ええ、こう湿っぽいと尻尾が大変な事になりますし…… じゃなくて、釣りはやっぱり晴れていたほうが楽しいでしょう?」
「釣り?!」
 きゅぴーん☆
 その言葉にゴタックは見事に反応した。目を輝かせ、嬉しそうなその表情を眺めてヴェインは優しく微笑む。
「ルアリールという街の傍にはルアンと呼ばれる大きな湖があります。そこでは毎年この時期に『ルアン・フィッシング大会』が開かれているんですが…… 今年はその大会に冒険者をお招きしたいと、町長から手紙を頂いたんですよ」
「おら、行く! 行きてぇだ!!」
「はいはい、どうぞ楽しんできて下さい」
 手を挙げて尻尾を振るゴタックに笑いながら返事をすると、ヴェインは書き上げたものを酒場の壁に貼り付けた。そこには。

 【求む! 熱き釣りバカ! ルアンの湖に棲むヌシを釣り上げるのは君だ!】

 と太字で書かれており、可愛いお魚の絵まで描かれていた。
「……何だべ、コレ?」
「ポスターですよ。冒険者が集まってくれるようにね。……次はてるてる坊主も作りますか」
 腕まくりをしたヴェインが席に戻るのを見送って、ゴタックはきょとんと、首を傾げる。
「………ヌシ?」
 大きなその文字に気を取られていたゴタックは、最後に小さく
 『この日はゴタックさんのお誕生日です』
 と、書かれていた事には気付かなかった。

!<注意>!
 釣り大会に参加される皆さまにお願い。

 お好きな数字を3つ、合計が10になるようにして、プレイングに書き添えて下さい。
 例)3・6・1(合計10)

 釣れた数と大きさを判断する材料にいたしますので。
 優勝者は数・大きさの両方からで決定します。ビギナーズラックも大いにあり得ますよ〜(笑)

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参加者
NPC:深緑蒼海の武人・ゴタック(a90107)



<リプレイ>

 参加者達の祈りが通じたのか、はたまたテルテル坊主のご利益か。ルアンフィッシング大会当日は快晴に恵まれた。
 早朝から大会本部受付は続々と集まる出場者で賑わっている。町長に掛けあって広く参加を募ったトゥバンの働きもあってか、例年にない盛況ぶりだった。
「出場者はこちらに署名をお願いします。あ、宜しければチラシをどうぞ」
「託児所兼子供釣り教室があるのでな、良かったら来てくれ」
「お弁当はこっちよ〜! たくさんあるから慌てないでね!」
 受付ではリツとカチェアそれにリンディが大忙しだ。二日掛かりの紋章筆記によるチラシ作りや、深夜の搬送作業で寝不足気味だが気合は漲っている。深緑蒼海の武人・ゴタック(a90107)の誕生日でもあるこの日を、少しでも楽しい一日に出来るようにと。
「きゃっ!」
「!」
 危機一髪。両手に大量の荷物を抱え転びそうになったリンディを支えたのはデュレスだった。
「……足元を見て歩け」
「ご、ごめん」
 照れたように笑う彼女を見る赤い瞳は優しい。軽く頭を撫でて「頑張れよ」と一言。釣竿を片手に背中を向けた夫を奥様は笑顔で見送った。
「ふふふ。今日はとても良い日になると思いますよ♪」
 そんな二人を見ながら、リツが目を細めて微笑んだ。

●Let‘s Enjoy Fishing!
 湖面が朝日を反射してキラキラと輝く。
 大会責任者であるルアリール町長の挨拶後、人々はポイントを求めそれぞれ湖岸に散った。
「さあ、ゴタックちゃん! この秘密兵器で、あちしと一緒にぬし釣りにちゃれんぢなりよ♪」
 笑顔全開のサツキが持参した竹竿をゴタックに手渡し。
「はい、これね。釣りの時には欠かせないと思うし使ってな」
 釣りの必須アイテム、折畳式携行椅子をさり気なく置いて行くシュウ。
「頑張って下さいませ」
 アイシャは丈夫な釣り糸を微笑んで差し出した。
「あ、ありがとうな! ……何だかみんな、優しいべ」
 照れながらも素直に喜んで受け取ったゴタックは、不思議そうに首を傾げる。どうやら自分の誕生日をすっかり忘れているらしい彼を見て、冒険者達は目で合図を送り合った。
 楽しみは、閉会後に待っている。
「ゴタック様、ご教授をお願い致しますわ」
 チェリムが魚籠を片手に申し出ると、ゴタックの意識はそちらに向かった。快諾した彼の手をくいくい、と引くリトル。
「お腹がすいたのね」
 涙目で見上げられて、ゴタックは慌てた。さらに。
「ボク、ザリガニが欲しいんです。餌も用意したの……釣ってくれる?」
 反対側からシルキスも潤んだ瞳で見上げている。うんうんと何度も頷いたゴタックに安心したのか、二人はリンディに貰ったお弁当をはしゃぎながら広げ出した。
「頑張れよ、ゴタック!」
 リトルに「あーん」されているゴタックをちょっと離れた場所から見守るダグラスは漢笑でエールを送る。そんな彼を燃え盛る炎を瞳に宿したヒースが見ていた。
「ダグラスさん、勝負です!」
 どうやら二人は恋愛絡みの熱いバトルを釣り大会に持ち込んだらしい。ダグラスに言わせれば「俺は巻き込まれただけだ」との事。その一方。
「げ、カリュ…… ヤツだけには負けるわけにはいかん!」
 ゴゴゴゴ。
 腐れ縁のカリュウトを見掛け、背後に炎の虎を背負うセイガ。こちらでも熱い勝負が? と思われたが、カリュウトはそんなセイガを視界の端に捕らえて涼しい顔だ。
「ラッキーアイテム(セイガ)よし。さて、大物釣るぞぉっ」
 意気揚々と放った釣り針は青空に弧を描いて飛んだ。

 悲喜交々の人間模様はさて置き、こちらビギナーズ。
「ぎょろろろ〜、誰か、たちゅけてー!!」
 釣り糸に絡まり身動きが取れなくなったパステルさんに。
「だ、誰か取って、リリースして下さい〜」
 うっかりヒットした魚にきゃーきゃー悲鳴を上げるニューラさん。
 ハンゾーが糸を切ってパステルのレスキュー成功。偶々傍を通りかかったティキが「どうして俺が」と、ボヤキながらもニューラの釣り上げた魚から針を外す。
 だが混乱はこんなものでは終わらなかった。
 釣れそうな場所に陣取った人々を見て、ニヤリと笑ったルディがアビスフィールドで強制立ち退きを敢行。その瞬間。
「とりゃっ!」
「むん!」
「あだだだだ!」
 漢怒声と共に振ったダグラスの釣り針と、ぎこちない動作ながらも豪快に振ったザンザの釣り針が同時にゴタックを釣り上げた。
「大きさではいい線いってるよな」
「うむ、確かに…… いや、すまん」
 涙目のゴタックから二人はそれぞれ釣り針を回収。その隙にちゃっかり場所をキープしたルディは。
「入れ食いテルテル君4号〜」
 ぱんぱかぱ〜ん。
 ゴタックに似せて作った自慢のルアーを取り出した。
「この弄りたくなる感じがポイントで、必ずや気の強い魚を魅了する事でしょう!」
「うに〜! 可愛いのです!」
 トゥバンが開いた釣り教室に紛れ、子供達と戯れていたセイナが偶然そのルアーを見てはしゃぐ。周囲に集った子供達も興味津々だ。
「でも私にも凄いルアーがあるですね! って事で、クウェルタさん、生餌でGO!!」
「うな? はいはい〜」
 指名されたクウェルタはロープを体に結ぶと躊躇なく池にドボン。
「……感服仕るニャ」
 猫鎧姿のライノゥシルバはその勇気に敬意を表した。そんな彼も今日は「猫さんがお魚釣ってる〜」と、子供達に人気のようです。
「って、何やっとるか!」
「あ、にゃんこせんせい〜」
 トラ猫着ぐるみ姿のトゥバンが、たちまち駆け付けセイナとクウェルタにお説教開始。
「むむ、拙者も負けていられないで御座る!」
 その様子を見ていたハンゾーも『水遁の術』と称して水に飛び込んだ。
「こっちに来て下さるな〜♪」
 彼が近付いてくるのを見たサンタナが笑顔に怒りマークを浮かべて石を投げる。それでも去らないハンゾーに思わずアビリティを発動しそうになったのだが。
「サンタナ様、頑張って下さいませ」
「アイシャ殿……」
 ほにゃ〜ん。白い夏ドレス姿の恋人に微笑まれ、たちまち相好を崩すサンタナ。彼女の癒し効果は絶大である。
 因みにハンゾーはチェリムの影縫いの矢で強制退去させられたそうな。

 そんな喧騒を余所に、静かに釣りを楽しむ人もちらほらと。
「みんな、楽しそうで良かったね」
 笑い声の絶えない仲間達を遠方に見て、ファミリアは嬉しそうに笑った。隣ではオリエに淹れて貰った香草茶片手の霊査士がのんびりと寛いでいる。
「ええ、そうですね。あ、引いてますよ」
「え?! ど、どうしよう!」
 慌てて立ち上がったファミリアの頭から帽子が落ちる。ヴェインも手を貸して、何とか釣り上げた魚は中々の大きさだった。
「晴れた日に釣りって言うのもたまには良いねぇ」
「本当に〜。美味しく調理できれば尚よしです」
 木陰の下、読書も兼ねてのんびり太公望を決め込むのはシュウとアコナイト。二人の周囲では小鳥が囀り、時間の流れさえ穏やかだった。ちょっと離れた場所ではティキが水辺に咲いた花を愛でている。何処でも、彼の目を惹くのは植物らしい。
「う〜ん、こっち? いや、あっちも捨てがたいです」
 てくてくてく。
 未だポイントを探すログナーがその傍らを通り過ぎていった。

●Happy Birthday!
 楽しい時間が過ぎるのは早い。残念ながらヌシを釣り上げる事は誰も出来なかったのだが、様々な出来事があった。
 昼食ではクウェルタが冬眠前の熊並の食欲を見せ、周囲の度肝を抜いた。釣糸に懲りたパステルが尻尾を湖に入れてみたら、本当に魚に齧られて大騒ぎにもなった。
 またハンゾーが懲りずに水中に潜った所、それを釣り針に引っ掛けたログナーが大物だと勘違い。思わず紅蓮の咆哮をかましてしまい、沈んだハンゾーをザンザが赤フン一丁で助けに飛び込んだりもした。
 そして、夕日に湖面が紅く彩る頃。大会は盛況のまま幕を閉じたのだった。

「優勝はカリュウト・デューゼル氏!」
 町長の発表に拍手が沸き起こる。表彰台に上る寸前、彼に鼻先で笑われたセイガはもの凄く悔しがった。
「ゼッタイ一匹、俺の釣った方がでかかったよな? な!」
「ええと、……次がありますよ」
 傍に居たヴェインが肩を叩いて励ます。
「カリュウトおめでとうだべ!」
 優勝カップを手に戻った少年に、ゴタックも惜しみない拍手を送った。
「ん、ありがとな♪ でも、ホントのおめでとうは、そっちだろ?」
「え?」
「「ハッピー・バースデー!!」」
 カリュウトのいたずらっ子のような笑顔を合図に、そこに居た全員が声を揃えて誕生日を祝う声を上げた。
 突然の展開に目を白黒させるゴタックにリツが花束を渡し、パステルが花飾りを首に掛け、リトルとシルキスが花冠を頭に被せて頬にキスをした。先程よりもずっと大きな拍手が沸き起こる。リツとリンディの配ったチラシによって、ゴタックの誕生日は町中に広まっていたのだ。
「料理も出来てるわよ! こっちに来て!」
 花に埋もれたような状態のゴタックを引っ張って、リンディが連れて行った先には。
 立食形式に大きなテーブルが幾つも並べられ、冒険者達の手による心尽くしの様々な手料理がその上にたくさん置かれていた。周囲を彩る華やかな飾りは、ティキが採取してきた水辺独特の美しい花々である。
 そして中央には大きなケーキ。書かれた文字は勿論。
『ゴタックさん、お誕生日おめでとう!』
「み、みんな……おら、何て言っていいのか……その、本当にありがとうだべ!」
 嬉しい驚きの波に包まれて、ゴタックは思わず涙を零す。そんな彼の周囲に集った人々はそれぞれ用意した心からのプレゼントを祝福の言葉と共に手渡した。
「お誕生日おめでとうなのです♪ また、尻尾フリフリ元気よく見せてね♪」
 セイナがハンカチを渡しながら優しく言う。
「ゴタックさん、お酒飲めますか? でしたらお料理と一緒に御一献」
 ニューラはニンフフライの金ブローチを手渡して優美に微笑んだ。
 その他にも『手編みの腹巻』や『鋼糸を元に作った丈夫な釣糸』や『狩猟用の銛』などなどなど。ゴタックはプレゼントの山に埋もれて嬉しそうだ。
「ゴタックちゃん、誕生日おめでとなり〜よ♪」
 サツキが無邪気に抱きついて祝うと、照れたゴタックに周囲から笑い声と口笛が降り注ぐ。そんな輪から外れたカチェアはひとり、浮かない顔だった。気付いたトゥバンがさり気なく傍に立つ。
「泣いて笑って……これが理想さ。しかめっ面はそろそろ卒業したらどうだ?」
 からかうような口調だが、声は優しい。
「……そうだな。あいつに罪がある訳ではないな」
 彼の言葉で彼女の中にあったゴタックへの蟠りは、少しだけ解れたようだった。素直な気持ちで「おめでとう」と微笑む事が出来たのだから。
 子供達が歌う誕生日の歌に合わせ、ニューラとクウェルタが美しい調べを奏でる。やがて歌は大人達も巻き込んでの大合唱になった。
 夜になれば灯が焚かれ、人々の笑顔を炎が照らす。笑い声の絶えないお祭り騒ぎを少し離れた場所から見ていたアコナイトはあの戦から何度も湧き上がっていた葛藤を心の底に沈めた。
 目の前にある幸せを信じてみようと。そう思った彼女の顔にも自然と微笑が浮かんでいた。

 その後もパーティーは大いに盛り上がった。
「デザートは皆別腹で御座るよな?」
 ライノゥシルバが手品のように次々出す西瓜に子供も大人も驚きながら歓声を上げる。
 会場の片隅では小さな恋の物語もちらほら。ダグラスとの勝負に勝ったヒースにはシルキスから。サンタナにはアイシャから。頬へのキスに二人が天にも昇る気持ちになれた事は間違い無いだろう。因みにヒースはその後。
「ああ、そうそう、ヒース、お茶はわたしが持ってきたから、一緒にきたお嬢さんにもあげてね」
「はい!」
「お菓子と魚とお持ち帰り用忘れないで」
「はい!」
 幸せそうな顔のまま、オリエさんに何時もの如く(?)こき使われていましたが。忙しく指示する合間にも彼女が淹れてくれた香草茶は絶品で、ゴタックもヴェインもとても満足したようだ。
「今日生まれここに在る あなたの命を祝いましょ♪」
 カリュウトの陽気な歌声から始まった祝福の歌は人から人へと渡り、途切れる事無く星空に響く。

 ゴタックにとって、いちばんの思い出になった誕生日は、夜更けまで続いた。


マスター:有馬悠 紹介ページ
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