【おやびん】木陰



<オープニング>


 おい、こびんっ。
 へい、なんすか、おやびん!
 いっちょ、使いっぱしられやがれっ。
 がってんだ!

 旦那。
 霊査士の旦那!
 やや、居眠りでやんすか? 珍しいでやんすね。でもま、いい陽気っすからね!
 ……またそんな、あっしのこと忘れたような顔しねぇでくだせぇよう。
 今日はそんな陽気にぴったり! な、仕事の話ですぜ!
 ……って、おやびんが言ってたんすけどね。へい。

 というのもですね。
 今回仕事は、木陰でのんびりするのに最適な香り、ってな内容でしてね。
 ちょいと高い日差しを避けて、涼しい陰の下で休憩なんて最高じゃねっすか。そんな昼寝に最適なこの季節にもってこいの香りと。
 嗅いだら即行夢心地、寝覚めもすっきりってな寸法でさぁ。

 でですね。
 これ作る材料が……陽気たぁ対照的な所にありやがるんでやんす。
 普段はね、行商が巡って来るの待つんですがね。今回は在庫がとこ持ってきて、お客さんがちょいと急ぎだときたもんだ。
 そらぁ、どうしようもなけりゃぁ、待って貰うしかねぇんでやんすが、おやびんとしてもできるだけお客さんの希望に沿ってやりてぇわけです。毎度のことっちゃぁそうでやんすけど、おやびんだって玄人っすからね、出来るだけやりてぇってのは道理ってもんだ。
 あっしはもうそのおやびんの心意気だけで……ってあっしの事はいっすね。へい。
 で!
 ここで力強い味方の出番!
 ってな訳で、兄さん姐さん、冒険者様方の力をお借りするべく、あっしがすっ飛んで来た訳でやんす。

 ……どしたっすか?
 へ、あっしが脱線せずに仕事の話するなんて珍しい?
 いやいやいやいや。
 そらぁたまにはあっしだって真面目にやりんすよ。いや、別に今までが不真面目だった訳じゃねぇですよ。単に前置きが長ぇだけっす!
 あ、威張る事じゃねぇっすか。へい。すいやせん。

 えー……そう、材料!
 現物は……申し訳ねぇんですが、在庫がからっきしで。見せられるような物がなくてですね、またまたあっしの拙い絵しか説明できるもんがねぇんで。すいやせん。
 とにかくですね、こう、こんな……まぁるい、虫なんすよ。虫。
 この絵じゃ虫に見えない?
 いやいやいや、これ、決してあっしの絵が下手糞だからじゃないっすよ。
 ……なんすか旦那。そんな目ぇしねぇくだせぇよう、嘘じゃねぇっすよう!
 いやほんとね、ぱっと見ると虫に見えねぇっしょ? 本当にこんな形してんですよ。
 こいつぁね、冬篭りする虫でしてね、冬の間こうやってまぁるくなって過ごしてんですよ。大きさは拳大だったかなぁ……材料になる頃には多少乾燥してますから、埋まってる現物はもう一回りぐらい大きいかも知んねっす。
 冬篭りの前の秋の頃に、あま〜い果物をたらふく食ってこんなに真ん丸くなっちまうそうで、そらぁもう甘くていい匂いがするんすよ。事情を知らねぇ旅人が、間違ってかぶりついちまった、ってな話もあるぐらいで。へい。
 で、こいつがね。
 暖かくなっちまうと、羽化して飛んでっちまうんで。
 でも、あっしらが必要なのは、この丸い状態の――これ、蛹なんすよ。
 羽化しちまうとただのでかい羽虫になっちまうんで、この土に埋まってる奴を掘り返して採ってくるしかねぇって次第でさぁ。

 そう!
 流石旦那、話が早ぇ!
 要は、まだ雪被ってるような寒い場所へ、こっちから出向かなきゃなきゃなんねぇんです。
 かといって、雪がありゃいいわけでもねぇ。
 この季節で、しかも、こいつらが好きな果物のある場所……なんてーと、やっぱ限られちまうんす。
 あっしらの足じゃぁとても……って訳でさぁ。

 で、これがその虫が居るはずの山の地図っす。
 ……なんか、姐さん兄さんには、山とか谷ばっかお願いしてる気がしやすね。っとに、いつもいつも有り難ぇこってす。
 えーと、山自体はそんなに遠くはねぇっすよ。
 ただ、山の上の方、凄ぇ雪っすから……足はとられる、視界は真っ白、おまけに道は斜めだの坂だの……って感じっすかね。あっしらみてーな一般人だと、行くはともかく、まず無事に帰って来れねぇでしょうなぁ……
 それでですね、当の虫が篭ってんのは、木の多い場所らしいっす。
 南斜面にある枯れ木林の、出来るだけ木が密集してる所を探して貰えりゃぁいいんじゃねぇっすかね。たんと雪は積もってるでしょうが、一応南っ側っすし、完全に埋まってる程じゃねぇって、近くに住んでる連中が言ってたでやんすよ。
 いや、それでも、あっしらみてぇな平地の人間からすりゃぁ、凄ぇ雪なんすけどね。噂によると、背丈の三倍とか……実感湧かねぇなぁ。
 麓の連中の目算だと、枯れ木林までは三日だとか四日だとか言ってやんしたが、冒険者さんの足ならもっと早く行けるんじゃないっすかね?

 ってな具合なんでやんすが。
 どっすかね、冒険者の姐さん、兄さん。
 引き受けちゃぁ、くれませんかね?


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参加者
風舞彩月・シリック(a09118)
眠らぬ車輪・ラードルフ(a10362)
食医の紋章術士・アルト(a11023)
緩やかな爽風・パルミス(a16452)
麗滝の薬師・カレン(a17645)
リヴァイア・サン(a48059)
小さな薔薇の笑顔・ニンフ(a50266)
時空を彷徨う・ルシファ(a59028)
槍を持って進む者・ベディヴィア(a63439)
樹霊・シフィル(a64372)


<リプレイ>

●山
「山とか谷とかは、歓迎ですが……雪が無ければ」
 眠らぬ車輪・ラードルフ(a10362)がぼやく。食医の紋章術士・アルト(a11023)も、冷えてきたよねと辺りを見回す。
 なぁ〜んなぁ〜んと組まれたフワリン集団が進行続けて半日、気温は下がり、景色には雪が混じ初めていた。
「最近、とみに暑うなって参りましたし、雪山に涼を求める……というのも良いかもしれませんわ」
 山に入る前は、そんな事を考えていたものだが。
 中腹に来て、雪被る山を見上げ、樹霊・シフィル(a64372)は。
「前言撤回でございます。季節には季節に有った過ごし方がございますわね……」
 一寸帰りたくなっ……
 最後は聞き取れなかったが……今の時期でこれって、真冬はどのくらいなんだ。ラードルフもそう思わずに居られない。
 しかし。
 そんな時こそ!
「ワイルドファイア産なか尾マフラーの出番!」
 時空を彷徨う・ルシファ(a59028)の襟元には、怪獣の毛皮で作られたというマフラーが巻かれていた。もとい、ねじられていた。
「はわわ、息が白くなってきたです」
 そろそろ必要かと、槍を持って進む者・ベディヴィア(a63439)も防寒迷彩服を取り出して羽織る。
 淡いカモミールの香りと共に進みながら、麗滝の薬師・カレン(a17645)は、前日に手記に記した内容をふと思い出す。
 要約すると、雪土産を所望され、そこまで夏が苦手か! と思わず突っ込みを入れている内容だ。
 ……雪は無理でも涼しくなる方法を考えておこう、そう思わずに居られない。
 軽く悩みを抱える者もあれば、わくわくと楽しみな、小さな薔薇の笑顔・ニンフ(a50266)のような者もあり。
「夏に雪のあるところに行くなぁ〜ん、面白いなぁ〜ん」
 土道が消え、段々と白一色に染まっていく足元。フワリンに乗っていると、流れるように移り変わっていくその景色も、なんだか面白い。
 そして、この先に居る筈の虫は、最低一つあればいいらしい。多くあっても困らないので、取れたら取れたでよし。出る前にこびんの言っていたことを思い出す、緩やかな爽風・パルミス(a16452)。
 そんな中。
「ランドアースの友人皆様、如何お過ごしでしょうか。季節は夏ですが此処は極寒の世界です。寒いとです」
 回想よろしく、リヴァイア・サン(a48059)。が、この段階で極寒などと称すのは、防寒装備を何も用意してないからではないだろうか……
 一方で、風舞彩月・シリック(a09118)もちょっと面白い。興味深いという意味で。
 ぴしりと伸びた背筋。
 ゆったりとなびく着衣。
 時折吹く風に帽子の鍔を揺らすその姿は、一体何処の王侯貴族なのかと思う程。
 ゴージャスオーラもあるが、立ち居振る舞いを華麗にと心掛けているせいで、雪山に居るのに煌びやかな暖炉のある光景が周囲に浮かんで見える。
 周囲の雪景色も、段々銀細工の床に見えて来た……
 ……何故かはっと我に返って、アルトはこびんに貰った地図に目を落す。
 その直後、不意に体を襲う浮遊感。
「うわ、っと」
 と柔らかい雪が、落ちてきた両足を受け止める。
 いつでもフワリンの効果が途切れたらしい。見回すと、皆も同じように雪の上に着地して……やっぱりシリックの周囲だけ何か違う。気のせいだが。
 しっかり役に立って貰うですよと、ベディヴィアは新しく召喚したフワリンに荷物を積み替え、小さな置物になっている召喚獣をちょこんと……
「……ん?」
 不意に視線を感じ振り返ると、軽装で早々と乗り換えていたサンと目が会う。
「やー、グランスティードならもっと早く移動できるのかなーと」
「お馬さん? 今回は雪の中なので無茶させないですよ」
「フワリンに乗っていけば〜、足場の悪さも気にしないで大丈夫です〜」
 雪だけならまだしも、斜面ともなると、やはり浮く方が移動効率は良い。
 十分毎の再召喚が難点ですけど〜と零しつつ、パルミスもスパイクモードにした靴で雪を踏み、荷物を積み替えていた。
 再び移動を始めるフワリン連隊。ラードルフはそれを前後に見回し。
「これだけ連なると壮観ですね」
 雪道に足跡が付かないのが残念だと、さっき皆が着地して残した痕跡を、遠巻きに振り返った。

●雪
 風が出てきた。
 羽織ったマントの胸元を合わせて隙間を減らしつつカレンが見上げると、少し前までは青かった天が灰色に染まっている。
「いつの間に……」
「吹雪くかも知れませんね」
 降り始めた雪と強くなる風に、シリックは頭上にホーリーライトを灯し、荷物から長いロープを取り出し、すぐ後ろのアルトに渡す。
『ロープを回しますので、順番に握って放さないようにして下さい』
 他にもホーリーライトを持ってる方は点灯をとタスクリーダーで届く声に、応答するかのようにカレンとニンフの頭上にも光が灯る。ベディヴィアも持参のランタンに火を入れた。
 妙な野生動物やグドンが居ないのは幸いだ……白く濁っていく景色と、吹き付ける冷気にルシファはねじねじマフラーを更にねじって襟元を塞ぐ。
 ……やっぱり帰っておけばよかっ……
 過ぎった思いは口に出さず、シフィルは顔に手翳し、吹き付ける雪を防ぐ。
「少々宜しくありませんわね……」
 先頭のシリックが方位磁尺や風光計を持っているとはいえ、何も見えなくなってしまうのは流石に危ない。
「一旦収まるのを待った方が宜しいかと存知上げます。無闇に動いては、遭難の恐れがございますわ」
『――と、シフィルさんが提案しておられるのですが』
 代わりにタスクリーダーで声を届けるルシファ。サンも死ぬほど寒そうだ。
 暫し立ち止まって遣り取りした後、皆と繋がる縄と三つの光を頼りに、岩陰の窪みへ徐々に移動していく。
 完全に穴になっている訳ではないため、これ以上風を防ぐなら、テントを建てねばならないのだが……
「吹き飛んじゃうなぁ〜ん!」
 しかし!
 そんな時に役立つのが!!
「このように〜、手持ちの傘が大きく拡がって〜、テントに変形します〜」
 事も無げに、パルミスが持参の傘を広げ……更に一手加えると、あっという間にテントに早変わり!
「いつも思うんだけど……凄いアイディアだよね」
 兎も角、それを風除けにして更にテントを建てていく。
「……この炎に温熱効果があればな」
 自分やルシファのキルドレッドブルーをふと思い、世の中は上手く出来ていないものだと、焚き火を起しつつ思うラードルフ。ベディヴィアがランタンを灯していたお陰で、火種の心配はなくて済んだが。
 ……ふと、一段落した皆に、甘く爽やかな香りと共に、暖かな癒しの光が届く。
 手袋を胸の前に、ヒーリングウェーブで皆を包むカレン。急な寒さに霜焼けになりかけていた手足が、段々と元の艶やかさを取り戻していく。
「もうちょっとお天気ならなぁ〜ん」
 ニンフが隙間から外を見遣る。雪が降る前は、趣味の採取や植物知識を生かして食べられる果実や植物を収穫、美味しいお昼を堪能したものだが。流石にこの状況での散策は危険だ。
「お食事は如何致しましょう」
 テントの中となると、踊るには狭い。シフィルとアルトが顔を見合わせていると……こんなこともあろうかと!?
「お弁当を用意しました〜」
 パルミス恐るべし。だが、真に恐ろしいのは……
「三十人分以上ありますから〜、三食分は賄えます〜」
 それを何処に仕舞っているかだッ!

●掘!
 結局、風が収まったのは夜明け頃のこと。
 雪はまだ降っているし視界がいいとはいえないが、何も見えない訳でもない。
 朝食は、今度こそシフィルの舞を堪能、充実した気分でフワリンに跨って目的地を目指した。
『枯れ木っぽいものが見えてきました〜』
 遠方を覗いていたパルミスの声が、皆に届く。思ったより近かった……と思うのは、やはりフワリンのお陰だろうか。
 それから程なく。パルミスの言ったとおり、枯れ木……の、天辺が突出て、沢山生えている場所へと到着した。
 周囲を見回し、間違いないといった表情でアルトが頷く。
「ここだね」
「雪、いっぱいなのなぁ〜ん、まずは雪を除去しないとなぁ〜ん」
 雪靴を履いた足で、ひょいとフワリンから飛び降りるニンフ。サンも早速降り立って、雪を鷲掴み!
「雪を丸めて誰かにドカーン。雪合戦……じゃなくてー」
 土塊の下僕ならぬ雪塊の下僕が出来れば、と力を込めてみるが、雪はそのまま変化がない。
「やはり土が必要ですわね……」
 その為には、何処かから土を……とシフィルが見回すと、ルシファが事も無げにフワリンから荷物を下ろし。
「どうぞ。皆さんも」
 用意周到、ちゃんと召喚用の土が、かんじきと一緒に袋の中に詰まっていた。
 ニンフは一先ず回りの雪を丸め。
「雪玉転がしたほうがはやいかなぁ〜ん?」
 早速ごろごろ……
 その時!
 雪の中を華麗に舞う影!
 まるで剣舞のように軽やかに、シリックは雪を斜めに掘り進む。手に持っているのはスコップだが、そんなのは些細なことだ。
 ざっくりと掘られた足元はプディングのように滑らかに。打ち捨てるべく舞い上げれば、粉砂糖のように辺りに散る。静かに降り続く雪がシルエットを翳ませて、その様はまるで別世界の出来事のようだ……
 ……感心している場合では。
 見回せば、皆は既に木々の合間を縫うようにして、雪玉を拵えていた。
「まるで雪達磨大会ですな」
 かんじきを装備、ラードルフも土塊の下僕と一緒に雪玉作成に掛かる。
 先ずは核になる玉を作って、あとは下僕達に転がして大きくするようにと命じればよし。今だ降り続いているせいもあるが、表層の雪はとても柔らかい為、下僕の力でもそれなりのものができる。
 退けられた雪は一所に集め、かまくらの材料に。天候悪化時の非難休憩所にする為だ。
 カレンが内装に長椅子を拵え……その他、まだまだやってくる雪玉は雪達磨にして、ベディヴィア達が風除け柵のように並べていく。
「虫さん見つけ出すまでにいくつ作れるか楽しみですよ」
 段々と、高低差の出てくる雪景色。
「さーて、この調子で身の丈の三倍以上の雪を無くすぞー」
 ……うん。まぁ、堅実に木の近くを掘ってった方が早いよね。
 判ってはいるがやってみたくなったのさと、サンも木を中心に雪玉ごろごろ。
 しかし、背丈を越えた辺りから、押し潰された雪の密度が上がり、玉を転がしても余りくっ付いてこなくなった。
「ここからはスコップで雪かきするです」
 皆もやるですよと、玉転がしをしていた下僕達に呼びかけ、一緒に雪堀りを始めるベディヴィア。ルシファも三体の下僕達と位置を変え、手にした槍へとウェポン・オーバードライブを仕掛け、バケツ状の外装を取り付ける。
 ラードルフは雪玉による排雪から、スコップで掘って脇へ避ける作業へと切り替え……その間、シリックは華麗に、美しく、見事な階段状の穴を掘っていた。
 一方、シフィルは階段でなく斜路を拵え、掘る班、搬出班を分け、組織的かつ効率よく下僕達を使役する。
 そのうち、掘った穴からサンの歌声が聞こえ始める。苦手な体力勝負の辛さを忘れる為に、でも、雪崩が起きないよう、ちょっと控えめに!
「聴いてください。がっつそんぐ」
 ついでに霜焼けを癒しつつ、雪堀作業はひたすら続く。
 そうこうしているうちに、段々と雪に混じる茶色いもの。
 いよいよここからは慎重に……
 雪運びは下僕に任せ、ニンフは木の根の周囲を重点的に掘り堀り。
「木の根が傷付いちゃだめだなぁ〜ん、気をつけないとなぁ〜ん」
 下僕に余り繊細な行動は向かない。ここからはシフィルも自らスコップを持ち、土を少しずつ削り取っていく。
「あら? どこからとも無く良い香りが……」
「本当ですね」
 カレンが更にスコップを差しこむと……
 突如、丸いものが!
「わ、びっくりした」
 土の固さに梃子の原理でえいっ、とやった途端、一緒に飛び出た丸い蛹。慌てて空中でキャッチして、アルトがほっと溜息一つ。
「本当に〜、真ん丸ですね〜」
「……サイズと言い匂いと言い虫に見えないですね」
 手元を覗き込むパルミスとカレン。ラードルフはそっと顔を近づけ香りを嗅ぐと……ふわっと広がる甘い香り。
「かぶりついた方の気持ちも判りますね」
 羽化した姿も、ちょっと見てみたい。そんな呟きに、また新しい一匹を見つけたベディヴィアが思わず頷く。
「虫さんの睡眠の邪魔するのは一寸申し訳ないですよ」
「では、これくらいにしておきましょうか」
 都合、六匹分。
 温まって羽化してしまわないよう蛹を周囲の土と一緒にこびん、もとい、小瓶や籠に詰め、その周囲に雪をまぶし、一緒に袋へ詰め込んでおいた。
「なぁ〜ん……あつあつなものを飲みたいなぁ〜ん……」
 ぼやきつつ、背負い籠に入れて穴を出るニンフの視線の先には、大きなかまくらと、入口脇で門番する雪達磨の姿があった。

●一服
 男女別にこさえたかまくらの中に、香ばしい匂いが漂う。
 ことことと湧く湯の音。
 淹れたての珈琲は、心も身体も暖めてくれる筈。
「……何よりこの一杯は、心に安らぎを与えてくれますからね」
 だばだー、と優雅に香りを楽しむシリックの周囲には、やっぱりあるはずのない高級な家具や暖炉が見える気がする。
「チョコもどうかな?」
 珈琲にチョコって結構あうんだよねと、アルトも笑ってあつあつを一口。
 ルシファは火鉢を持ち込んで、持参の餅や煎餅を焼くと、おすそ分けにとお茶も一緒に女性用かまくらへ顔を出す。
「宜しかったらどうぞ」
「有難う御座います」
 しかし、もうすぐで緑が青々と茂り花が飛び交う結婚シーズンなのに、まるで時が巻き戻ったような錯覚がすると、カレンは思う。
「雪が嫌いではないのですが、暖かな陽射し降り注ぐ森の木陰で昼寝の誘惑には勝てません」
「でも、折角だし。雪山をたっぷり堪能してから帰りませう」
「なぁんなぁ〜ん、雪合戦しないかなぁ〜ん?」
「いいですねぇ〜」
 そんなこんなで、楽しげに雪の中へ繰り出すサン、ニンフ、パルミス。
 ルシファもカンテラで居並ぶ雪達磨をライトアップしたり、手近な木でスノーボートを作って楽しんでみたり。
 その姿を、ラードルフはかまくらの入口から覗き……
「……もし見る方がいたら、何事かと思うでしょうね?」
 一連の雪だるま群や、一部掘られた斜面に、そんな呟きを零す。
 なお、その間。
「虫の食している果物が収穫できれば、一儲けできるのでは……と思いますが」
 と、きょろきょろ辺りを散策するシフィルの姿があったという。

 翌日。
 朝食はアルトのタンバリン片手の踊りと、まだまだ在るお弁当で賄い、昨晩遊びに使ったスノーボードや、ベディヴィアの土木作業道具一式の詰まった箱をそり代わりに、皆はすいすいと雪山を下って行った。
 カレンは少し雪を持ち帰ったそうだが……所望を希望した本人の所に着く前に、殆ど溶けてしまったらしい。
 また、余りの寒暖差にサンが風邪を引いたという噂があるが、真相は定かではない。


マスター:BOSS 紹介ページ
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ダーク ほのぼの コメディ えっち
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参加者:10人
作成日:2008/06/01
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