にくきうクロース 〜新緑の綾



<オープニング>


 ひょこり、と酒場へ顔を出したプーカの少女は、見知ったストライダーの青年を見つけて近付いた。
 上着の裾を引っ張ると、金木鼠の陽だまり霊査士・フェイバー(a90229)は、整理していた紙の束をめくる手を止めて彼女のほうを見た。
「どうした?」
「見に行くです」
 たまに主語を抜かすのは癖なのか何なのか。
「……何をだ?」
「にくきう、見に行くです」
 言いながら広げたのは、柔らかく織り込まれた一枚のスカーフ。
 以前、とある村の織物工房に降り懸かった事件を解決した御礼にもらったものだ。
 世の中には全力で肉球を愛する人達がいる――その工房の主である若い夫婦もそんな人達で、彼らの織る手触りの良い生地の端には、必ず可愛らしい猫や犬の肉球マークが入っている。
 つまりはその工房へ、今度は遊びに行こうとしているらしい。
「そういや、御礼の手紙も届いてたな」
 つられて思い出し、フェイバーは紙の束に雑じっていた手紙を引っ張り出す。
 書かれていた近況によれば、これからの季節に向けて、薄手の生地を多く織っているのだとか。
 普段は近隣の町から商人が買い付けに来るそうだが、もともと布製品で生計を立てている村のようだから、個人が買い求めに行っても歓迎してくれるだろう。
「……で、誰か一緒に来て欲しいのか?」
「うい」
 一人で行くのは心許ないらしい。
「ん、別に俺が連れて行ってもいいが……」
 言いながら、視線を横へ向ける。
「……いっしょに行ってくれるですか?」
 小さく首を傾げて、プーカの牙狩人・リシュティナ(a90382)は、寄って来ていた数人の冒険者達へ問いかけた。


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参加者
NPC:月穹風花・リシュティナ(a90382)



<リプレイ>

●にくきうじるしの織物工房
 工房の棚には、丁寧に織られた生地がいくつも納まっている。見やすい台の上に出されたものも含めて、工房を訪れた一行は、思い思いに自分の求める織物を探し始める。
 初めてのお出かけに、犬尻尾を楽しそうに揺らしながら、アイテル(a74017)は周りに倣って生地を見て行った。欲しいのは、わんこの肉球マークが入ったスカーフだ。特にこれといったこだわりを考えていなかった分、どれにするか決めかねて、視線を迷わせている。
 肉球がトレードマークなら、行かないわけにいかないと意気込んで訪れたエル(a69304)が選んだのは、淡い黄色の柔らかなタオル生地。少し目を離せば勝手に走って行ってしまうほど元気な飼い犬のクレオと一緒に包まって寝られそうなサイズに、大きな肉球と小さな肉球が二つ仲良く並んだそれは、きっと素敵な記念になるはずだ。
 工房の前では、二人がそれぞれ連れて来た犬達が好き好きにじゃれている。さすがに中で走り回られては困るということで、とりあえず連れて入ろうとしたところを外に出されたのだった。
(「……にくきう……にくきう……にくきう……! なんてらぶりー! なんてぷりてぃきゅーてぃー!」)
 犬尻尾をうずうずとさせつつ、クール(a09477)は大きめの生地を手に取って広げてみる。ふかふかした素材のそれは、お昼寝に使うブランケットにちょうど良さそうで。入っている肉球マークは、もちろんわんこ様のもの。
(「うん、犬にだってにくきうはあるんだから……!」)
 圧倒的に猫派が多い気がして、犬派の自分としてはどうにも肩身が狭いのだ。それでも、ここにはちゃんと揃っているのが嬉しい。ストライダーの自分に肉球はないけれど、代わりに肉球マークの付いたブランケットに触れて包まってお昼寝すれば、きっと幸せだ。

 工房の一角に置かれた薄手の座布団に乗っているのは、ふくふくと丸い、工房の看板猫である茶毛の猫。
「この子のお名前は……? 撫でても大丈夫でしょうか……?」
「プニョというの。人懐こい子だから平気よ」
 夫婦への挨拶ついでに訊ねた答えに安心して、サフィール(a70409)は猫のプニョへと手を伸ばした。ふかふかした毛を撫でると、機嫌良さそうに小さく鳴いた。もしかしたら、自分の飼い猫とも友達になってくれるかもしれない。
 きっと楽しく遊んでくれるだろうと思いながら、もう一度プニョを撫でて、サフィールは可愛い手袋に仕立てられそうな黒い生地を選びに向かった。
「リゼッタさんも旦那様もプニョさんも、お元気でしたかしら」
 またお会いできて嬉しいわ、とアーズ(a42310)も織り手の夫婦に挨拶する。彼女は、かつて起きた事件の解決に尽力した一人だった。変わらず元気そうな夫婦と看板猫の様子に安心して、本物の肉球の感触をぷにぷにと楽しむ。
 そういえば聞きそびれていた主人の名前をついでに訊ねてみると、どうやらヴィゴルというらしい。ゆっくりしていってください、と返された素朴な笑顔に肯いて、アーズは雨上がりの澄んだ夏空を思わすような色合いの生地を探しに行く。たくさんの愛が詰まった肉球マーク達を眺めて、やがて手に取った一枚は雨の多い時期でも使いやすい布製のブックカバーにしてもらった。
「猫〜♪ 肉球〜♪」
 楽しげにやって来たコハク(a39685)は何を探そうかと迷いつつ、テーブルクロスに良さそうな、大きめのクリーム色をした生地を選ぶことにした。もちろん肉球マークは猫のものでと考えながら、まずは工房の看板猫にご挨拶。
(「……大丈夫かのぅ?」)
 不安と期待混じりに手を伸ばす。猫が好きなのに、どうにも、やたらと避けられてしまうことが多いのだ。ダメだったら遠くから眺めるしかないかと思ったものの、近付けた手は無事に触れることができた。嫌がられないように気を付けながら、撫でたり耳を掻いてみると、もっさりと座ったまま、ぐるぐると喉が鳴る。
 犬ももちろん好きなのだけれど、小さい頃から猫もにくきうも好きだった。シェルト(a11554)は自分の飼っている白猫のそれに近い肉球マークを探して、エプロンに仕立てられそうな青い生地を手に取った。仕立ててもらったそれを満足そうに仕舞ってから、あとはゆっくりと猫を眺めて過ごすことにする。どうやら機嫌も悪くはないようで、ゆったりとくつろいでいる姿は、何だか見ていて癒された。
 にくきうの言葉に心を惹かれて、看板猫の本物肉球にも癒されたりしながら、ルルナ(a51112)はスウ(a22471)と一緒に同じ色合いのタオル生地を探した。お揃いに仕立ててもらったそれをお披露目しようと、二人はフェイバーの姿を見つけて声を掛ける。
「本当は、にくきう模様がたくさん入った生地があると良かったですけど……」
 工房で作られている生地は、どれも端に肉球マークの入ったものばかりだから、全面に肉球の入ったデザインのものは見当たらなかったのだ。少しだけ残念そうに呟いてから二人で広げて見せたのは、陽だまり色のふかふか生地に、猫ぱんちな合わせ絵柄のハンドタオル。
 可愛い絵柄だな、と笑ったフェイバーのリス尻尾ともお揃いの色と感触の生地で、どっちがもふもふなのか気になってきたスウとルルナは、そのまま、ぼふっと尻尾に突撃してみた。やっぱり本物もいいなぁと幸せ気分になりながら、しばらくもふもふする二人。

「あら? リシュもあの猫が気になるの?」
 看板猫へと近付いていくリシュティナの後ろから、ローザマリア(a60096)が声を掛けた。奇遇ね、アタシもよ、と笑って、一緒にプニョの前に屈む。以前、請け負った救出依頼を解決してから、気になっていたのだ。どうやら元気で居てくれたようで、安心する。
 そのまま、猫を撫でる少女というほのぼのした光景を楽しみながら、ローザマリアは工房の中を見て回った。いくつか見比べて、一番大きな肉球マークの入った生地を選ぶ。そろそろ夏も近いことだし、パレオとして使うのにちょうど良さそうだ。
「リシュ発見、可愛い猫さんですね」
「うい。可愛いですー」
 猫の前にしゃがんでいたリシュティナの横にトミィ(a64965)もしゃがんで、機嫌を見つつ肉球をぷにぷにと触ってみる。そうして、持って来た『にくきうすとらっぷ』も自慢げに見せながら、しばらくぷにぷにした感触を楽む二人。
 と、やがて本来の目的を思い出した様子でトミィが立ち上がった。
「あまりのふわもこに本来の目的を忘れてました。今日は、にくきうぐろうぶ創ってもらおうと思って来たんだ」
 またね、と蹠球手袋を振って生地を選びに向かうトミィに手を振り返して、リシュティナは引き続きもふもふと猫の背中を撫でる。
「リシュ殿久し振りですねぇ、元気にしてましたか」
「……う?」
 入れ代わるように、ぽふ、と頭に手を置かれて視線を上げれば、その手の主はタケル(a06416)だった。今日は連れと一緒に来たのだと笑う彼の横で、初めましてです、とメリーナ(a10320)も微笑む。探しに来たのは、ストールやブランケットに良さそうな、猫の肉球マークが入った生地。何かが造られている場所は、それだけでとても良い匂いがする気がして、素敵に思う。そんな工房の主へ丁寧に挨拶を済ませて、二人は猫の前に身を屈めた。
「ね、可愛らしいでしょう」
「プニョさんとおっしゃるのですね、おうわさはかねがねなのです」
 鼻先に顔を寄せて挨拶したタケルに続いて、メリーナもそっと手を伸ばし、握手するように前足を軽く持った。機嫌を窺いつつ抱き上げられた茶色の毛を、どきどきしながら触ってみれば、とてもふかふかして気持ちいい。

 夏向きのブラウスとして仕立てるのに良さそうな、猫の肉球マークが入ったピンク色の生地を手に取りつつ、エリス(a00091)は、入れ代わり立ち代わり人に囲まれている看板猫を見ていた。
(「エリスは大人なので、我慢するところはするですよ」)
 そう思ってしまうこと自体がちょっぴり大人げなかったりもするのだけれど、あまり構いすぎても、きっと疲れさせてしまうだろうからと、手を出さないようにしているのだ。
(「う……羨ましくなんかないですよぅ。こんなとこで『浮気』したら、うちの猫さん達が拗ねちゃうです」)
 それでもやっぱり、時々気になる視線を向けては、猫と遊ぶリシュティナ達の様子を眺めてしまうのは仕方ない。
「ほれ刹那、リシュティナ殿にご挨拶じゃ」
「うゆ……可愛いのです」
 興味深げにじっと見つめるリシュティナに、プラチナ(a41265)の頭に乗った黒猫が鳴く。救出依頼振りの夫婦と看板猫にも挨拶してから、仲良くなってくれたらと黒猫をその場に置いて、プラチナはブランケットに良さそうな空色の生地を探しに向かった。工房内には他にも連れて来られたらしい黒の飼い猫がいて、一緒にじゃれている。気に入った生地を手に入れて戻って来たら、あとは持参したジュースでも飲んで、ぼんやりと猫達の動向を見守りながら過ごすことにしよう。
 猫の肉球マークが入ったハンカチを買ってから、人の流れが途切れたのを見計らって、ティセ(a68887)は看板猫に近付いた。夫婦の愛情を受けて大変ふくよかに育った看板猫は、抱き上げてみると、さすがにずっしり重い。それでも嫌がっている様子はないようなので、本物の肉球の感触も楽しませてもらうことにする。
「はわー、ふわふわ〜、ぷにぷに〜、ぷにょぷにょ〜、幸せです〜」
 また絶対に来たいと思いながら、ティセは嬉しそうにしばらくプニョを抱えていた。

 そうして一日にくきう尽くしを堪能した面々は、喜ばしげに織り手の夫婦が見送る工房を後にしたのだった。


マスター:長維梛 紹介ページ
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作成日:2008/06/14
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