<リプレイ>
●水中世界 夏の輝きそのもののような青空に君臨するのは、王者の風格を備えた常夏の太陽だ。 空と湖の狭間を光で満たす陽射しは鮮烈で、けれど透きとおる水の中から見上げれば優しく柔らかにその印象を変える。明るい浅葱色に澄んだ湖中に揺蕩い水面に揺れる光を眺めていたアルーンは、彼方からふわりと漂ってきた月色の光に瞳を細め、水の上へと顔を出した。 月光を思わす歌を紡げば、淡い黄を帯びた真珠色のクラゲが緩やかに傘を開く。親しみをこめた挨拶をし、興味津々に瞳を輝かせているロイナを促して、ほんのりと月の色に光る傘へとお邪魔した。 朧月よりも淡やかに霞む体に冒険者達を抱いて、柔らかな湖の月が水の世界へと旅に出る。 明るく透きとおる青の世界へは柔らかな光が射し込めて、薄紗をなした光が緩やかにその裾を翻す。水と光が戯れる光景はとても綺麗で、その中に自分がいるのがとても不思議で、ロイナは如何かえとからかうようなアルーンの言葉も聞こえぬ様子で、湖中の風景に見入っていた。 若草色に透きとおる薄い葉を揺らす大きな水草の合間を、真珠色に煌く魚達が泳いでいく。 白の姫と呼ばれる彼女らに捧ぐという歌を口遊めば、アインツェルを乗せた月色クラゲが水草の中を踊るようにしてすり抜けた。水草を透かした光も、水と一緒に流れる気泡も綺麗で、思わずわぁと声が洩れる。澄んだ水と煌きに満ちたこの光景を、きっとずっと忘れない。 初夏の木漏れ日にも似た光を零す水草の先で、蜻蛉の羽みたいに透きとおった海老が水に踊る。 彼が巧みに煌く気泡の流れへ乗る様を見遣り、面白がるように瞳を細めたリューは奏でていた月の音色に即興で光の音を織り交ぜた。滑らかなヴァイオリンの音がきらきらした気泡が水面へ上る様を紡ぎ出し、湖畔のマダム・アデイラ(a90274)が「光と水と草の色した音やね」と笑みを零す。 湖底に隆起する岩は水の底で瑠璃の色を帯び、岩肌の上には不思議な色合いの宝石が散らばっていた。星空のようだなと小さく笑んで、レティリウスは幼子をあやす心地で月の歌を紡ぐ。 優しく揺らぐ光が水の中に溶けゆく様は夢のよう。あのひとが今隣にいてくれたならと詮無き思いが心をかすめ、さざめくような何かが胸の内へと広がっていった。 淡く霞んでいた傘は、内から見れば綺麗に透きとおっている。 触れればそれはゼリーみたいにふるりと震え、ふふ、とシファは口元を綻ばせた。見上げてみれば傘を透かした遥か彼方に水面が見えて、明るい空色の水面と光が揺れる様にケイカがえへへと笑み崩れている。だがラティメリアはひとりで身を縮め「あああー、見得と勢いで乗るんじゃなかった」と頭を抱えていた。何と言ってもこのクラゲは怪獣だ。しかも自分達は今その怪獣の―― 「腹の中だよ!?」 月色クラゲが怖くて仕方ないらしい悪友が苦悶する様をにやにやと眺めるケイカとシファ。 「ふふふ、ラティさまの弱点発見なのです」 「……まったく、意地張っちゃってね」 二人は悪戯っぽく笑って目配せを交わし、同時にそれっとラティメリアの手を握ってやった。 掌の温もりも緩やかな水の揺らぎも馴染みのもの。 大丈夫だよなぁと呟いて、ラティメリアは浅葱と薄藍が明るく揺らめく世界を見渡した。 紫水晶みたいに煌びやかな魚の群れが、深い紺碧の水の中へ花咲くように散っていく。 別世界のようだと感嘆の吐息を洩らし、ラザナスは此処にはこんな世界もあったんだなと呟いた。 素敵なナマモノとランデブーした思い出を回顧しているらしい彼の肩にぽむりと手を置いて、カレンはそっと夫に寄り添ってみる。穏やかに笑みを交わして歌を紡げば、柔らかな月色の光が気泡と一緒に上っていった。 振り仰げば、明るい空色の水面に金とも銀ともつかぬ陽光が揺れている。 いつか三人で見られると良いなとラザナスが囁けば、耳まで真っ赤にしたカレンは彼の胸に顔を埋め、きっとそう遠くない未来だよと囁き返す。 生きて未来を勝ち取るためなら――剣を手にすることも厭わない。 薄く削いだ青玉と翠玉が緩やかに波打って、ゆるゆると回りながら重なれば、こんな光景になるだろうか。 透きとおる色を深く重ねてゆく水の世界に見惚れつつ、セインは身の内に揺蕩う魔力を手繰った。瑠璃色をした水の世界に淡やかな光を纏った魔力の蝶が生まれ、水面から降る光の紗へ溶け込む様に消えていく。 胡蝶が透きとおるように姿を消す様に瞳を緩めれば、水の揺らぎと共に光が踊った。 白の姫に捧げる歌を弾いて聴かせて欲しいなとカルシェラにねだり、オリエは再び水の世界へ瞳を向けつつ耳を澄ます。琥珀色に艶めく彼のヴァイオリンからは、揺蕩う水を包み込むように柔らかな音色が流れ出る。優しい揺らぎに抱かれる心地でオリエも歌えば、月色クラゲが穏やかに光を明滅させた。 時々はあの子の事を思い出す人がいてもいいんじゃないかと思ってと紡ぐ彼女に、微かな笑みでカルシェラが応える。 「……貴女が貴女の生を歩まれる限り、あれが悲しむ事などありえないと……自分は思います」 深い瑠璃を湛えた水の底へは、光は青く透きとおりながら降って来る。 流線の優美な体を心地好さげに撓らせて、月の色のクラゲを導いていく真珠色の魚達。 その様はいつ見ても綺麗だと思えたから、カガリは想いをこめて月の旋律を紡ぎ出した。 蒼く深く透きとおる水の世界に揺らぐ月。 湖に揺蕩うひとときも、共に過ごせる皆も大好きで。 月の鳥にも逢えるとええなと思えば、水の彼方にすらりと伸びた巨大な蓮の茎が見えてきた。
●蒼穹蓮花 深い瑠璃と青の光揺らめく湖底から、透きとおる薄藍と眩い光揺らめく水面へ伸びる、蓮の茎。 明るい翡翠色をした蓮の茎はソウェルの想像以上に大きくて、巨大な茎が幾本も水中に伸びる様を見遣ればまるで自分が小さくなったような心地になった。けれど柔らかな光が踊る水の中、カエサルが笑って手を差し伸べてくれるから、ぎゅっと拳を握って月色クラゲから泳ぎ出る。 優しい水に抱きとめられたソウェルの手を取って、カエサルはふっくらと丸みを帯びた青空の蕾へと潜り込んだ。花弁を透かした水の光が揺らめく空間には、甘く清しい花の香りが満ちている。 柔らかな真珠色の花糸をふんわり掻き分け、淡い金を透かしたような萌黄色の花托を見出して。 二人は顔を見合わせ頷きあって、いち、にの、さんでぽこんと花托を叩いてみた。 花托がふるりと震えれた次の瞬間、湖底を向いていた蕾が緩やかに上を向き始める。 頭を垂れるように撓っていた茎が真直ぐ伸びて、鮮やかな光溢れる水上世界へと蕾を差し伸べる。 花弁を透かして眩い陽射しを感じれば――ぽんと内から弾けるように青い蓮が花開いた。 澄んだ青の花弁は幾重にも重なりふわりと辺りに広がって、霞のように細かな真珠色の花粉が空へと舞い上がる。真珠色の薄紗に包まれた気分だなと楽しげに笑いつつ、エルヴィンは緩やかに降り始めた真珠色の霞を掌で受け止めた。 朝靄めいた花粉の霞が陽射しに溶けるように晴れ行けば―― 瞳も心も冴えるように澄みきった朝空の青が、湖上一面に咲き誇る様が見えてくる。 澄んだ青は夜明けの風を思わす清涼さを秘めていて、吹き渡る常夏の風さえもひときわ涼やかに感じさせた。気分転換になったかしらと振り返れば生真面目な妹は熱心に花粉を集めている最中で、デルヴィーンはあらあらと笑みを零す。不意に問いを向ければリネットはびくりと肩を震わせて、あまり進展がない旨を頬を染めつつ打ち明けた。 掌から零れた真珠色の花粉が、粉雪のように水面へと舞い降りる。 真珠の花粉が落ちれば澄んだ水面が微かに揺れて、湖中へ光の揺らぎを生み出した。 花弁から透ける光が穏やかに揺らめく様に夢心地を誘われて、ムーンリーズは淡く軽やかな笑みを零す。何処かそわそわとした風情のエルスが躊躇いがちに花托へ手を伸ばす様には瞳を細め、真白な翼を揺らす背を包み込むように抱き寄せてみる。驚いた様子で声を上げる少女の耳元に囁きを落とせば、小さな耳が真っ赤に染まった。 重ねた手を花糸の奥へと伸ばし、ぽんと優しく花托を叩く。 青空の蕾全体が動き出せば、柔らかな浮遊感に身体が包まれた。 花弁を透かして揺らめく水の光の波紋が流れるようにその紋様を変えていき、円やかな水音が響けば青の花弁を透きとおらせるように眩い光が降ってきた。明るく眩い青にマーガレットが瞳を細めた瞬間、彼女達を抱いていた蕾がぽんっと花開く。 花弁から散った輝く水滴の向こうに広がる、真っ青な夏の空。 真珠色の花粉がふわりと舞い上がれば、涼やかな水の気配を含んだ花の香りも立ち上る。 うわぁと感嘆の声を洩らせばゆるゆると真珠の霞が降りてきて、晴れた霞の向こうに見えた人影にクリスは破顔して手を振った。湖上一面に広がる朝空の花園を見渡して、リラは胸いっぱいに水と花の香りを吸い込んでみる。 湖の息吹で胸を満たして歌えば、身体の奥底から真珠色の光が溢れてくるような心地になった。 光に彩られた水の波紋は緩やかに踊り、水の髪の波紋と重なり揺れる。 不思議な光の揺らぎに瞳を細めれば、何故だか可笑しげにアデイラがくすくすと笑った。軽く肩を竦めたラゼルは真珠色の花糸の奥へと手を伸ばし、柔らかな萌黄に仄光るような花托に触れる。 青空の花園は水上へと花開き、空と湖の狭間を澄んだ朝の青で染めた。 澄んだ青の蓮が咲き染めれば明るい陽射しが降りそそぎ、真珠色の花糸の中へ身体を潜り込ませていたセラフィンは、光の眩さと空の鮮やかさに瞬きをする。 真珠色の霞が緩やかに溶ければ、辺りには澄みきった青の花園。 生まれ変わったみたいだねーと尻尾を揺らして振り返ったキョウは、粉砂糖を振りかけられたような少女の姿にあははと明るい笑い声を上げた。花糸に潜った時に花粉まみれになったらしい。 「アデイラ、セラフィンごと持ってく?」 「うん、貰ってくなぁ〜」 嘘ですごめんなさいと手を振るキョウの慌てぶりに笑みを零し、セラフィンは辺りを見渡してみる。 空も水も、咲き誇る花さえもが不思議な青。 幸せが溢れ出てしまいそうだったから、水の髪を持つひとに微笑みかけてみた。
●ランガルンカ・エッセンス 優しい丸みを帯びた蕾の中は、まるで柔らかな絹を敷き詰められた揺りかごのよう。 穏やかな水の光を透かす花弁に包まれて、真珠の花糸を探り花托に触れれば、水の中から浮かびあがった蕾が眩い光に満ちた水上世界へと花開く。 澄んだ青の花が咲けば鮮やかな陽の光が降りそそぎ、祝福めいた真珠の花粉が舞い上がった。 光と水と風の気配を全身で感じながら、自分がこの世に産まれた時もこんな感じだったんだろうかと不思議な心地で花の香りを胸に満たす。だったら嬉しいなとほのかに声を弾ませれば、レーダちゃんのそういうところが大好き、と紡ぐアデイラの唇がこめかみに触れた。 世界が眩くて愛おしいから、きっと。 瞳に映る澄みきった青も、頬に感じる夏の陽射しも涼やかな風も心地好くて、ファリアスはごく自然に口元を綻ばせた。苺の湖を覗いた時にはこんなに幸せに笑える日が来るなんて思えなかったから、穏やかな幸せを齎してくれた親友のおねだりも甘受する。 肩膝を立てたままさぁ膝枕をどうぞと手を広げる彼に軽く唇を尖らせて見せ、けれどイーグルはいそいそと提供された膝に頭を乗せて横になる。見上げたところにある瞳を覗き込み、伸ばした指先で水の髪を掬う。髪を撫で返される感触に瞳を細め、青が綺麗だねと微笑んだ。 幸せはまるで蕾ようにゆるゆると膨らみ綻んで、眩い光の中に花開く。 蓮の花が開いた途端に夏の陽射しに包まれて、真珠色をした花粉のヴェールに包まれた。 真珠の霞が溶ければ辺りは澄みきった青に満ちていて、何て綺麗なのでしょうとトールは微かに声を上擦らせる。生まれる瞬間みたいだと声を弾ませたキオは、果てまでを見渡すように伸びをした。 「僕らは今、世界に生まれたんだね」 こんな綺麗な世界に生まれてきて、これからも生きて行くんだ。 瞳を輝かせたキオが心底嬉しそうに笑うから、トールも頷き微笑みを向ける。湖中の蕾に潜り水上に花を咲かせる様は、まるで生きることそのものを体現しているような気がしていた。 穏やかに揺れる水の青。 鮮やかに澄み渡る空の青。 そして優しく透きとおるような、蓮の青。 すべての青が光に満ちていたから、ラジシャンは無意識に瞳を細め口元を綻ばせた。 蕾に潜り込めば青に溶け込みそうな気がして、光に満ちた水上に花咲けば鮮やかな蒼穹に吸い込まれそうな気がして。引き込まれるような感覚は強く、けれど優しくて、決して不快なものではない。 何処か眩しげな様子で彼が笑んでいるのが嬉しくて、破顔したフィードは大きく両手を広げ世界に広がるすべての蒼を受け止めた。花の蒼も湖の蒼も、彼の瞳の蒼もみんな、空の色。 遥かに仰ぐ頭上には、すべてを抱きしめる鮮やかな蒼穹が広がっている。 澄みきった青が爽やかな風となって、身体を透かし心を吹き抜けていくような心地がした。 眩い光と蒼はきっと、すべてを包む生命の色。
湖上に導かれた蕾が鮮やかに花開く。 広がりゆく花弁に合わせぽふりと仰向けに倒れてみれば、鮮やかな青空に舞い上がった真珠色の花粉がユーリアの上にふんわりと降りそそいだ。それはとても綺麗な光景だったから、この先にはどんな風景があるのだろうと心を弾ませ花の上へと身を起こす。 柔らかな光揺らめく水中から鮮烈な陽射しに満ちた水上に花開く様は、大いなる湖の呼吸に導かれ花咲くオレンジの木陰へ至った日の心地をルニアに思い起こさせた。 鮮やかな生命に満ち溢れた、優しい世界へ産まれて来たような――そんな心地。 綻ぶ花へ射し込む光に希望を見出して、開いた花の上から世界を見渡せば、蓮の花園の彼方に翡翠を削り出したような荊に包まれた島が見えた。絡み合う荊の中に、淡く輝く真珠の色。
嗚呼、貴女はそこに……いたんですね。
澄んだ青の蕾に潜り真珠色の花糸の奥に萌黄の花托を見出して、花托へ語りかけるように月の歌を歌ってみる。優しい月光紡ぐ旋律が響けば、蕾そのものが淡い真珠の光を帯び始めた。 何かの予感に鼓動が高鳴るのを感じながら花托に触れれば、メルルゥを抱いた蓮の蕾は弾かれたかの如き勢いで水上へ顔を出し、まるで爆ぜるようにして鮮やかな蒼穹の下に花開いた。 真珠色の花粉と共にメルルゥも空に舞い上げられて、眩く煌く陽射しの中でくるりと回る。 眼下には一面に青い蓮の花が咲き誇り、彼方には荊に囲まれた島があった。 荊の島の中には、丸まった姿で眠る大きな鳥。 「み……見つけたなぁ〜ん!」
翡翠の荊の島で、月の鳥ルンカが眠っていた。

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参加者:37人
作成日:2008/06/07
得票数:ほのぼの24
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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