翡翠城の窮地



<オープニング>


「かつて、翡翠城と呼ばれていた美しい城がありました。今となっては、城郭とわずかに一つの尖塔が残るのみで、どうして翡翠と表されていたのか、かすかな面影を留めるのみですが……」
 薄明の霊査士・ベベウの隣には、真っ赤な髪の毛を小さなトウモロコシのように編み込み、瞳に焦燥と緊張を湛えた少年の姿がある。
「こちらが依頼人である、ミハエル・ツィーゲくんです。
 彼のご家族が、アンデッドの群れに襲われています。今はなんとか、城の塔にある強固な部屋に立て篭もり、死者からの攻撃を凌いでいるはずなのですが……すぐに救援へと向かっていただかねばなりません」
「……よろしくお願いします」
 赤毛がテーブルに置かれたお茶につきそうになり、慌ててベベウがソーサーを引く。少年は食べ物にも、飲み物にすら手をつけていない。ベベウは、依頼人の気持ちを察してか、状況を伝えるべく何かを紙に描きながら話し始めた。
「ミハエルくんは、弟のトビアスくん、それからオリバーさんとおっしゃる老人と翡翠城で暮らしています。すでに荒廃し、人の住める状態ではなかったはずですが、オリバーさんには建築の心得があり、かつては六つあった尖塔のうち、程度のよかった北東の塔を修築して、我が家としていたそうです」
 依頼人、ミハエル少年が、大きく首肯いた。
 ベベウが急いで描いた図面を指差しながら説明している。
「北東の塔はここです。
 その四階で、トビアスくんとオリバーさんが救援を待っています。
 オリバーさんは、塔を修築するにあたって、各階の入り口に備え付けられていた石製の扉を、そのまま使用しました。ミハエルくんが言うには、重たい扉で不便だったそうですが、幸運にもアンデッドの襲撃に対しては、扉の重厚さが住人の命を救うこととなったのです。
 各階の扉を破るとなれば、知恵のないアンデッドのことですから、それなりに時間が稼げるものと推測できますが、急がなくてはならないでしょう。
 翡翠城はほぼ正四角形の外郭を持ち、頂点に四基の塔が配され、西と東の壁面の中央にもそれぞれ一基の塔がありました。南北の壁面には、門の跡が残されています。往時は高さ一〇メートル以上であった石壁も、今では、最も高い地点で五メートルほどになっています。
 もう一点、ミハエルくんが翡翠城を脱出した経路について、彼自身から説明していただきましょう」
 ミハエル少年は大きく息を吐いた。そこへ、ベベウがお茶を勧める。ぬるくなったカップの中味をいっきに飲み干した少年は、自らの脱出劇について語りはじめた。
「アンデッドたちに気付いたのは、弟のトビアスでした。塔の中にも井戸はあったんだけど、枯れてしまってるから、城の中庭まで行かないと水が組めないんです。トビアスが桶を持って井戸へ行ったら、門の向こうに人影がちらついてて……骸骨だったんです。
 叫び声がして、僕は外に出ました。そうしたら、トビアスが走ってきて。塔に逃げ込んだ僕たちは、石の扉を順々に締めていきました。それから、四階の窓から外を見たんです。中庭には、大量のアンデッドが入り込んでて……まるで蟻みたいに……」
 少年らしい蟻という素直な表現に、一人の冒険者が苦笑を漏らした。いけないことを言ってしまったのかと不安な表情を浮かべたミハエルだったが、平然としたベベウの顔色を窺うと安心したのか、話を続けた。
「オリバーじいさんにアンデッドの群れを見せたら、酷く怒ってました。多分、怖かったからなんだと思います。僕たちはまた一階にまで降りて、扉の裏側に木材を置いたりして、補強しました。一階にいたときは、外で何かが引っ掻かれてるような音がして怖かったけど、扉を丈夫にしました。
 すぐに出ていくだろうってオリバーじいさんは言ったんだけど、でも、アンデッドたちは城から出ていこうとしなかったし、僕たちには食べ物の蓄えがあまりなかったんです。だから、僕が城から出て、冒険者の酒場にまで行くことになりました。
 僕たちが住んでいる塔の一階には、秘密の抜け道があって、地下道を通って、城からずっと離れた川沿いのお堂に出られるんです。もう古くて、天井が崩れたりしてるから、通れるのは子どもだけで……僕だってギリギリだったから、オリバーじいさんはやって来れなかったんです。トビアスは怖がっていたし……」
 家族を想い、気丈だったミハエル少年の表情がくしゃくしゃに歪んでしまった。
 ベベウが優しく声をかけた。
「大丈夫ですよ、誰もあなたが一人で逃げてきたなんて思っていませんから。地下通路を通ってここに来るなんて冒険を一人で成し遂げたんですから、あなたはとても勇気がありますよ
 あとはもう心配いりません。冒険者の皆さんが、きっと無事に弟さんたちを救いだしてくれますからね」
 そう言うとベベウは、冒険者たちのほうへ向き直った。
「アンデッドたちの総数は、ミハエルくんが確認した時点では五〇以上、もしかすると今では数が増えている可能性もあります。戦いの舞台となるのは、大小様々な石材が散乱する城の中庭、そして北東の塔となるでしょう。彼の家族のことをお願いいたします」

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参加者
傭兵上がり・ラスニード(a00008)
荒野の黒鷹・グリット(a00160)
漢・アナボリック(a00210)
聖砂の銀獅子・オーエン(a00660)
蜂蜜騎士・エグザス(a01545)
魔弾の射手・ファル(a01548)
翔竜の戦人・アレスディア(a01677)
観察者・ヒリヨ(a02084)
罪と罰を狩り取る黒き鳳凰・ゲンヤ(a02757)
永久の翠樹・セレスト(a04226)
緋炎鋼騎・ゴウラン(a05773)
寝惚け眼のナイフ使い・パラノイア(a07036)


<リプレイ>

 夜の帳が降りた町、冒険者の酒場には、まだ明りが灯っている。
「大丈夫です……俺達が必ず二人を助け出しますから、安心してて下さいね……」
 穏やかに語りかけた、罪と罰を狩り取る黒き鳳凰・ゲンヤ(a02757)の言葉によって、少年の緊張が少しずつ解けていく。
「ミハエル君、知らせに酒場まで大変だったのによく頑張ったよ」
 緑の大きな瞳から、少年の純真さを共感したのか、天を擁く翠樹・セレスト(a04226)の優しい言葉に、ミハエルくんは首肯いている。
「さあ、坊や。もう心配は要らないよ。おねーさん達に任せときな。何てったって、ここに集まっているのは、アンデッドの一〇や二〇、オヤツ代わりに食っちゃうような連中なんだからね♪」
 そう言い、ミハエルの頭をぽんぽんと叩いたのは、緋色の酔虎・ゴウラン(a05773)だ。見上げる少年の顔に、赤みがさす。
 長すぎる袖を何度もたくしあげながら、寝惚け眼の埋葬者・パラノイア(a07036)がミハエルに尋ねている。上目遣いで見つめる彼女は、少年が城から逃げ出す際に利用した地下通路に入る。そのために、詳しく場所や長さを知っておきたかった。
 ミハエルから城までの道順、北門までの詳細を聞きだした、戦士・ラスニード(a00008)は、酒場で簡単な食料を用意してもらうと、準備が整った仲間たちに声をかけた。
「さて、現地に急がなければなりませんね」
 扉が開き、明りが外へ漏れだす。
 少年の見送りを受け、冒険者たちは翡翠城へと出発していった。
 
 
 月明かりが生い茂る木々の隙間から降り注ぎ、冒険者の横顔を照らしだす。
 視線の先が明るい。森の切れ目だ。
 目深に被っていた帽子を指先で上げ、轟雷閃舞・グリット(a00160)が仲間に加速を促した。
「あそこか……状況は一刻を争う、全速で行こう」
 グリットの指差した先には、闇の中で月光を浴びた城が白く浮かびあがっている。
「ふむ、準備に時間をかける余裕はないか」
 眼光するどい重騎士が走りだした。蜂蜜騎士・エグザス(a01545)である。
「……かつてここで戦いがあり、その時の死者達……なのか? と、勘ぐってみても今は何も始まらないな……ともかく、一刻も城の中の二人を助けねば」
 月光に照らされる銀の鎧をまとった、翔竜の戦人・アレスディア(a01677)が疑問を呈すると、全身を黒で包んだ少年が続いた。
「何か理由があるんでしょうか。生前、城に攻め込もうとした軍隊がアンデッドになったとか」
 こう語ったヒトの忍び・ヒリヨ(a02084)は、今にも泣き出しそうな表情を浮かべているが、その真偽は誰にもわからない。
 列の先頭を駆けていた、聖砂の銀獅子・オーエン(a00660)が望遠鏡を城に向けた。
「昼になったら……相手は弱くなるからそれから……と言うような悠長な事は言っていられる状況ではないな……」
 わずかに蠢く者たちの影が確認される。
 急がなくては……。
 黒のマントを翻し、オーエンが森を駆けぬける。
 城まではもう近い。
 
 
 北の城門跡では、鎧進化を使用したグリットが、徘徊するアンデッドに飛びかかっていた。
「アンデッドのお出ましか。さて、派手に行くとしよう……かっ!」
 鮮やかな動き出しから、敵を打ち払うグリットに続き、背後にセレストを背負う格好で、ラスニードが城内に踏み込む。
 鎧進化によって防御力を高めたところで、ゴウランは自前の酒を勢いよく吹きつけた。酒を浴びた『鬼惨殺モーニングスター』が、月夜に露をまとって煌めく。
「さあて、みんな、疾走るよ! 遅れるんじゃないよ!」
 そう叫んだゴウランに続いて、残りの冒険者たちも次々に城内へ駆け込んだ。先頭に立った彼女は、モーニングスターで敵を薙ぎ倒している。
 
 冒険者たちが城内への突入を敢行していた頃、地下道ではパラノイアの冒険が佳境を迎えようとしていた。
(「アンデッドに囲まれて逃げ場も場も無い、精神的に滅入ってそうですねぇ……急ぎますかぁ〜」)
 前方に白い光が差している。
 アンデッドが入り口を突破した可能性を考慮し、慎重に秘密の通路から抜け出したパラノイアは、愕然とした。
 塔への入り口が、無残に破壊されている。
 既にアンデッドは、塔の内部にまで進入していたのである。
 手にする武器『死呪糸・シビトノナミダ』を強く握りしめたパラノイアは、上の階へと通じる真っ暗な階段へ駆け込んでいった。
 四階では、一〇以上ものアンデッドが、扉に武器を打ちつけていた。
 一人で相手するには数が多い、複数を攻撃できるアビリティも持っていない、だがパラノイアに考える余地はなかった。
 ラクアフェザーで動きを高め、蠢く中へと身を投じる。
 避けきれないダメージを蓄積させながらも、パラノイアは扉の正面に入り込むことに成功した。そして、背負う扉の亀裂から人の存在を感じとって言った。
「ミハエル君に依頼を受けてきました〜。彼は無事ですよ〜。外では仲間がアンデッドを掃討してます、もうしばらくの辛抱ですから〜」
 
 
 城内の北方では、グリットが華麗な戦いを繰り広げていた。
 刀を振り上げるアンデッドに対して、音もない地面すれすれを移動する跳躍からいっきに間合いを詰めると、左の拳が腹部を、右の鋭い打撃が顎を、旋回した踵が頭部を打ち砕いた。
 月明かりを背後に、ほっそりとして長いシルエットが浮かび上がる。城壁の最も高い場所に位置した、魔弾の射手・ファル(a01548)である。
(「アンデッドかあ……どんなに派手に倒しても怒られる事はないんだし狙撃の良い練習になりそうだなあ……」)
 岩の影に蠢くアンデッドを認めたファルは、弓を放った。頭部に直撃した矢は、赤い焔をあげて爆発する。頭部を失った敵は地表で崩れた。
「ククク、同盟の十三とは僕の事さ……」
 と謎めいた微笑を浮かべるファルの足元で、セレストが戦いを繰り広げている。
「アンデッドを塔に向かわせないためにもこっちに引き付けよう」
 腰に帯びたカンテラで前方を照らしながら、前衛の動きを援助するように術を繰り出すセレストが次に放ったのは、ブラックフレイムだった。黒炎が揺らめき、ふらふらと塔へ向かっていた敵を捉えた。
 ヒリヨは、戦闘で邪魔にならないことを意識しながら、後方に位置することにしていた。周囲の索敵、あるいは警戒も兼ねるためである。
 戦闘の経験は乏しい彼だったが、それは戦い始めたどの冒険者にもいえること、これから一流へと近づいていくだけだ。
 彼は、指先に透き通った刃を作り出すと、斧を振り上げている敵へ向かって投擲した。
「止め、お願いします」
 ポイっという何かを横に置いておくような動作で、敵の位置を知らせたヒリヨに、グリットが応える。
 手負いの敵へ直線的な近接すると、大きく引いた拳を真っ直ぐに敵の胸部に向かって突き出した。
 空虚な身体に穴が穿たれ、グリットは拳を引き抜きながら言った。
「手荒で済まないが……眠ってくれ」
 しかし、まだ敵のすべてが永遠の眠りに戻ったわけではない。ヒリヨたちに、複数のアンデッドが近づいてくる。
 大きく振り上げられた剣を、柄に手をあてることで防ぐグリットだったが、ヒリヨは槍による攻撃を避けきれなかった。
 そこへ、矢が飛来する。敵の古ぼけた胸当の中央に、薄闇色の矢が突き刺さる。
「アウトレンジからの一方的な攻撃……狩人の醍醐味ダヨねえ……」
 仲間と戦闘中の敵を横から仕留めてしまう……そんな悦に浸っているファルの攻撃だった。
「パラノイアさん、無事地下道を抜けられただろうか?」
 敵集団へ無数の針を降り注ぎながら、セレストが仲間の身を案じている。
「きっと大丈夫ですよ」
 ヒリヨの飛燕刃が、図らずも、ニードルスピアでは倒しきれなかったアンデッドの止めを刺した。
 グリットが磨き抜かれた技と軽やかな装備を活かし、力の込められた手の平によって敵を制すると、高い打点の蹴り、身体を落とした肘による打撃を繰り出し、さらには起き上がりに身体を宙に舞わせた。
「沈めっ……!」
 この掛け声と共に、グリットはそのまま右足を敵の頭部へと叩き込み、ストンと着地した。
  
 城内の南方では、エグザスが一人、奮闘していた。
 人の生命に反応するのなら何か特別なことをしなくても、敵の方から寄ってくる。この彼の読みは正しく、それは、身をもって確認されていた。鎧進化によって防御力を高めていたものの、複数の敵に囲まれてしまったために、無傷ではいられなかったのだ。
 大きく振り上げられ他『戦琥珀強打アクス』が、地面を穿つ。舞い上がった無数の砂塵が、アンデッドの群れに向かっていく。
 当初の目的はアンデッドを南方に留めることだったが、多勢に無勢、相当のアンデッドを打ち砕いたことでよしとするしかないだろう。この一撃でなんとか包囲を解いたエグザスは、城内を北方へ向かって進んだ。迫り来るアンデッドたちをなんとかいなしながらの後退戦である。
 そこへ、彼の横手から敵が飛びだしてくる。
 奇襲を警戒していたエグザスは、斧で受け止めると力任せに薙ぎ倒した。
 すると、彼のすぐ横を矢が通過し、敵の胸部を貫いた。
 仲間たちは近い。
 深い傷を負いながらも、力を振り絞ったエグザスは、大地斬を放った
 
 
 塔の前では、橋頭保を築くべく、漢・アナボリック(a00210)が両手斧を振り回していた。額に巻かれた鉢巻きには、『人命優先』の文字が記されている。
 彼は、日々の鍛練の賜物である黒光りした筋肉をさらに隆起させると、敵を横殴りに吹き飛ばした。
 塔の扉が打ち破られていることを確認したアレスディアの表情が、兜の中で曇る。内部への進入を阻害するような形で立ち塞がる敵に、彼女の兜割りが炸裂した。
(「私はこれ以上アンデッドが侵入してこないように扉の前で盾となる」)
 『征龍』を構え、アレスディアは塔の前に立ちはだかった。
「さて……気を引き締めていかないといけないな」
 レイピアで風を切りながら、オーエンが敵との間合いを詰める。攻撃力を高めた一撃が、敵の喉元を切り裂いた。
 アレスディアの隣で、もう一人の冒険者が仁王立ちとなり、近づくアンデッドを豪快な兜割りで蹴散らした。
「さあ、叩き潰されたい奴ぁ前に出な! ……って、死人だからわかんねェか」
 と苦笑を浮かべるゴウランに、アレスディアの頬が密かに緩んだ。
 さらに、二人の前方にアナボリックが身を躍らせるように飛び込んだ。胸元から頭の上、背中から足元と、大きく円を描いて繰り出された斧による打撃を、敵にお見舞いする。
 再度、アレスディアが両断した敵の、その間を縫うようにしてオーエンが現れた。
 三階の窓から、アンデッドが吊り下げられている。塔の内部に突入した仲間が討ち漏らした敵だろうか。
 レイピアにアビリティによって編まれた鎖を生じさせると、オーエンは真っ直ぐに射出した。ヒュンと風を切って敵に到達したレイピアが彼の手元に戻ると、ほぼ同時にアンデッドも落下して動かなくなった。
「このゴウランさんの命、屍人にくれてやるほど安かねぇ!」
 多少の傷くらい気合で耐えてみせると言わんばかりのゴウランが、敵を真一文字に両断すると、周囲は少し静かになった。
 残るは、塔の内部……少年と老人は無事だろうか。
 
 
 燭台で足元を照らしだしながら、ゲンヤが塔の中を急いでいた。途中、一体のアンデッドが破壊されていることを確認したが、別の個体との遭遇はない。
 彼が最上階に達すると、そこには傷付いた仲間の姿と、蠢く死者の群れがあった。
「平穏を脅かすモノ……消え去るが良い……」
 漆黒に紅が渦巻く紋様の片刃刀『鳳凰』が、床と水平に振り抜かれる。衝撃の波が、群れの一角を、まるで砂をさらうように薙ぎ倒した。
 巨躯を駆って、パラノイアの前方に身体をねじ込んだのはラスニードだ。複数からの攻撃を受けざるを得なかったが、それほどのダメージは受けていない。
 彼が囁いた。
「パラノイアさん、大丈夫ですか?」
 身体のそこかしこから血を滲ませていた彼女だったが、力強く返答した。
「ちょっと眠たいけど……大丈夫なんじゃないかな」
 パラノイアの投げやりな言いように、ラスニードとゲンヤに笑みが浮かぶ。
 流水撃を繰り出しながら、ゲンヤが尋ねた。
「トビアスくんとオリバーさんは無事ですか?」
 首肯いたパラノイアの代わりにラスニードが答える。
「大丈夫、無事です」
 虚ろな眼窩に闇を宿らせたアンデッドたちが、ラスニードに襲いかかろうとするが、彼は動じずに冷静な所作から斧を振り抜いた。暴風にも似た音から繰り出された波動が、敵集団を打ち倒した。
 塔の四階に在るのは、これで生者のみ。
 扉の隙間に向かって大丈夫と告げると、パラノイアは床にへたり込んでしまった。
 開かれた扉の向こうから、少年に手を引かれて老人が姿を現すと、急いで歩み寄ったゲンヤが言った。
「良かった……無事で居ましたか……ミハエルも心配してます……一緒に帰りましょうね……」
 彼の頭を撫でられたトビアスの顔に、明るさが少しだけ戻った。
 
 
「どうやら、向こうも片付いたようだな」
 エグザスが顎を塔の方へと突き出す。ゲンヤ、そして、ラスニードに抱き抱えられたパラノイアの姿がある。
 ラスニードが尋ねた。
「もう、掃討は済んだようですね」
 パラノイアをアレスディアたちに託すと、ラスニードは塔に戻った。セレスト、グリット、ゴウランも続く。
 瓦礫に登って、ファルが散乱する遺体を眺めながら内省していた。
(「……うーん、名狙撃手への道はまだまだ遠いな」)
 ヒリヨは、古井戸や崩れ落ちた他の塔を巡って、安全を確認している。彼の笑顔からすると、もう敵の姿はどこにも見当たらないらしい。
 アレスディアに支えられ、パラノイアは身体の痛みに息を荒げながらも、愛用の小さな楽器を取り出すと演奏を始めた。優しい旋律が、夜の城内に広がっていく。このような安らぎが、往時にはもたらされていたのだろう。
 塔の四階では、グリットが老人に声をかけていた。
「凄くいい城だからね、俺も修理手伝うよ」
 トビアスは、ラスニードとセレストが持っていた食料に手を伸ばしている。一生懸命に頬張っている彼の顔は、ずいぶんと赤い。
 ゴウランは、オリバー老人の答えを確認するべく、塔の屋上に出ていた。
 どうして、この城が翡翠城と呼ばれていたのか? 東の空が明るくなるころ、仲間たちと酒を酌み交わしていたゴウランが目を見張った。
 彼女の目前には、光を受けて滑らかに輝く湖があった。
 翡翠の湖、その辺に佇むから、翡翠城と呼ばれていたのである。
 目の前に広がる眺望絶佳、そして、仲間たちの笑顔を眺めて、あぐらに肘を突いたゴウランは、幸せを感じている自分に恥ずかしくなって口を尖らせると、輪の中に戻っていった。


マスター:水原曜 紹介ページ
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