【我楽多草紙】屋根迄飛んだ、と申したか



<オープニング>


 何処より来たのか何処へ往くのか、奇妙奇天烈摩訶不思議、鬼面人を威すの類のものが、あるいは鉄、あるいは石、血肉もたぬ身に邪気宿し、暴威ふるうも儘なる当節、これを許さぬ慷慨の士を、求める声は地に満つる。
 何処より来たのか何処へ往くのか、これぞ我楽多の乱痴気噺、四度出陣の冒険者達、此度の戦は斯く成れりや!?

●今日も、セイレーンの重騎士・ユウキ
 セイレーンの重騎士・ユウキ(a90384)も鬱然とすることはある。瑠璃色の目を半ば閉じて頬杖、僅かに背が丸まっている。前髪が一房、しおれた花のように垂れていた。
「……もしかして」
 テーブルの染みを特に見るでもなく視野に入れつつユウキはつぶやく。
「僕って、女の子っぽいでしょうか?」
 はじめ、葵桂の霊査士・アイ(a90289)は話しかけられたのだと気づかず、数秒の沈黙があってはじめて顔をあげた。アイの手元には書きかけのペン画、顔には「まさか思うが私に言ったのか?」と言いたげなものがあった。ユウキのほうから話しかけてきたのは、アイの記憶をさかのぼっても例がない! 女性恐怖症は軽減したのだろうか。最近なにかあったとか?
 というアイの正直な(そして少々失礼な)驚愕に気づくこともなくユウキは訥々と語る。最近、お嬢さんと呼びかけらることが何度かあったのだという。無論ユウキとしては、これ以上もなく男性のつもりなのだが、幸か不幸か、世間はそうとばかり見てくれないようなのだ。
「なんだ、それくらい冒険者としてはさほど珍しいことでもないぞ」
 アイはさらりとこたえた。
「私だって男と思われたことが何度あることか……まあ、自分の場合は自主的にこんな格好をしているのだから別にそれはそれで結構なのだがな。そんな気になるんだったら髪型を七三分けにでもしたらどうだ?」
「しちさ……! それって、男らしいですか! 僕、似合うでしょうか!?」
 ユウキは意気込んで問うた。ここでもし、アイが「男らしくなるし似合うぞ」とでも返事したら、いますぐにでも髪を切りに行きそうな勢いで! うかつなことは……言えない。
「さ……、さぁ、冒険仲間にでも訊いたほうがいいのではないかな。ははは」
 アイは作り笑いして視線をそらし、
「ほ、ほら、皆集まってきたぞ。例の我楽多怪物の依頼だぞ。さあー、説明をはじめようか。今度の怪物は『ぱぅぱぅ』だぞ。『ぱぅぱぅ』ってなんなのだろうなあ。はっはっは、さあさあ」
 パンパンと手を叩いて説明をはじめるのだった。

●屋根迄飛んだ、と申したか
「ここは店内だからやらないでおくが、シャボン玉というのは皆、知っているだろう?」 
 いうまでもないかもしれないものの簡単に説明すると、シャボン玉とは石鹸水から生み出される球体である。今回現れた怪物の外見は、これを繰り出す『輪』だという。
「シャボン玉の一番ポピュラーな作り方が、石鹸水をストロー等の先端につけて吹くというやつだろうな。しかしこの敵はもう少し手がこんでいて、取っ手のついた輪のような姿をしている。この輪の部分に石鹸水が溜まるたび、上下左右にサッと振り、目にも鮮やかなシャボン玉を生み出す」
 もちろんこのシャボン玉が普通のシャボン玉であるはずはない。まず強力な酸をもち、じかに触れるものに火傷を与えかねず、また、破裂すれば周囲に飛び散って広範囲の被害を与える。モンスターである『輪』は手練で、小刻みに動けば速度が早く小さなシャボン玉を生み、大きく動けばゆったり動く大きなシャボン玉を作り出す。いずれも浮かびながら冒険者たちのほうに移動してくるという。
「このシャボン玉、うかつに攻撃すれば破裂してしまうが、その一方で盾や鎧で防ぐことができる。吹き飛ばすこともできるようだが破裂はさせないようにな。どうしのぐかが諸君の腕の見せ所だ」
 怪物は『ぱぅぱぅ』と鳴く。例によってその意味するところは不明だ。どことなく愛らしい声だそうだが攻めは苛烈、油断してはならない。
「舞台は平地、行動を阻害するものは無いだろう。ただ、当日はほとんど無風になることも予想されている。風で吹き飛んでくれることは期待できないな」
 なお、ユウキは、とアイは一言いい添えた。
「戦闘中は髪型のことは忘れるように。気にするのは終わってからだぞ、終わってから……」
 
 かくて始まる「我楽多草紙」第四回、ふわり浮かぶはシャボン玉、屋根まで飛ぶか? いやこの戦場には屋根がないぞ! これを成敗し、安全なシャボン玉を楽しまん!


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参加者
剣刀士・ガイゼ(a19379)
蒼銀の癒手・ジョゼフィーナ(a35028)
浮世に遊ぶ麗しの・ミギワ(a36350)
濡れ羽色の閃光・ビューネ(a38207)
煌めきを追う者・ネーヴェ(a40386)
閃花一竟・サガ(a41503)
金色の閃光・フェイト(a50291)
危険な恋のカリスマ・ソニア(a60222)
合金紳士・アロイ(a68853)
魔星猟医・ティルフィア(a69190)
NPC:セイレーンの重騎士・ユウキ(a90384)



<リプレイ>

●ぱぅぱぅ、シャボン玉伝説
 セイレーンの重騎士・ユウキ(a90384)はその瞬間心臓が止まった――かもしれない。
「ユウキくん、こっち向いて」
 と風の旅人・ソニア(a60222)が声をかけたかと思いきや、
「『勇気と蛮勇と無謀は違う、前に出るからこそ臆病になれ』って団長が言ってたよ。えーと、つまり無茶するなってこと! わかった?」
 といって、ぽん、とユウキの両肩に手を置き正面から瞳を覗き込んだのである!
 ……普通の人であればどうということのない話であるが、これはユウキの話だ。
(「お、女の人の顔がこんな近くにーーっ!」)
 このごろいくらか女性には慣れてきたといえ、これは不意打ち! 危険! ユウキの意識は、冗談抜きでちょっと飛んだ。
「よし、今回のからかいノルマ完了!」
 ころころと笑いながらソニアは離れていく。ユウキは破裂しそうになった心臓を押さえている。顔も真っ青だ。
 やれやれ、と剣刀士・ガイゼ(a19379)は肩をすくめた。
「これで少しは落ちつくか?」
 ぽす、とアーマーの兜をユウキにかぶせる。すーはーと荒く呼吸する音が聞こえるが、たしかにだんだん収まってきた様子。
 行く手に何か見えた。
「シャボン玉を、無邪気に飛ばしたのはいつでしたか……」
 蒼銀の癒手・ジョゼフィーナ(a35028)は空を見上げる。漂うはシャボン玉、大きくはないがはっきりと見える。
 ふわりと遊ぶシャボン玉は、人になにかを思わせるようだ。閃花一竟・サガ(a41503)も
(「はじけたシャボン玉は何処に行くんでしょう……酸性の危ない雨が降るんでしょうか」)
 と目を細めた。
 しかし物思いに耽っている場合ではなさそうだ。敵は近い。ジョゼフィーナとサガ、それに仲間たちは戦闘準備に入る。
「ぱぅぱぅ」
 なんだかとても幸せな声が聞こえる。正確には「ぱぅ・ぱぅ」といった感じ、少女の歌声に似ていた。声にあわせるように丘を昇りながら、ふわ、ふわ、とシャボン玉が漂ってくる。なるほど奇妙な怪物のようだ。
 本日の冒険者チームはベストコンディションとはいえない。チームに重傷者が二人いるのだ。
 うち一人は豪金紳士・アロイ(a68853)だ。鎧の下のアロイの肉体は大きく傷ついており、通常時のような活躍は期待できないだろう。
「ささいな油断で重傷を負ってしまい、申し訳ありません」
 冒険者にはよくあることゆえ責める者はないが、アロイは自身を深く恥じ、強く歯を食いしばっている。
(「仲間の足を引っ張ることは最大の不名誉! だからこそ精一杯頑張るのです! たとえ脚が折れようと、腕がもげようと、喰らいつき最良の結果を残す!」)
 誰ぞ知らん、兜の下のアロイの表情を。その鬼気迫る闘志を。
 煌めきを追う者・ネーヴェ(a40386)も、自らの身に鞭打ってこの場に来ていた。 
「迷惑をかける」
 派手にやられたものだ。ネーヴェの装備は、部分的にパーツをはずした騎士服、ほんのり包帯を巻いているのが痛々しい。事実、焼けつくような痺れが骨と身に残っている。だがそれならばそれで戦い方を工夫するのがネーヴェだ。
(「こういった状況での戦いには慣れている……余り褒められたことではないのだがな」)
 これまでの経験を活かせば後衛として戦う事ができよう。しかしそのため、本日はユウキ一人に重騎士らしい役割を期待しなければならない。申し訳なく思うとともに、いささかの不安もあった。
「ネーヴェ、気をつけて。無理は禁物。大丈夫、ユウキだって成長しています」
 金の閃光・フェイト(a50291)が声をかけた。黒炎覚醒の高まりを受け、フェイトの蜂蜜色の髪は踊る。
 見えた、あれが敵、巨大な輪っかと持ち手の怪物。細い体だが見た目に反し、強力な攻撃力を持つという。ぱぅぱぅ、ぱぅぱぅと怪物は鳴いた。
 一に抜かれし蛇腹剣、それは浮世に遊ぶ麗しの・ミギワ(a36350)の剣。柔らかな体躯 鞭のようにしならせてミギワ、リングスラッシャーを従える。
「シャボン玉……何故でありんしょう、この敵に見覚えが。いやさ、いずれ出会う予感がしていたでありんすよ」
 それは予兆か怜悧な読みか、いずれにせよ的中したに違いはない。スラッシャーは忠実な僕の如くミギワに伺候す。
 最後方に位置するは魔星猟医・ティルフィア(a69190)だ。
「今回の我楽多モンスターは……シャボン玉!? 毎回驚かせてくれますね」
 いいながらティルフィア、護りの天使達を戦場に降ろす。
「見た目は綺麗そうですけど割れた時が物騒なので今回も退治しましょう!」
 天使達の降臨の度に聖なる力を感じるティルフィアである。
 着目すべきは濡れ羽色の閃光・ビューネ(a38207)の位置だろう。本日、熟練の射手は弓矢を置きて颯爽、一人の剣士として前衛に立つ。
「ぱぅぱぅ……本当にわけがわからないですが、なんだかカワイイですよね」
 ビューネが弓を持たず戦に臨むは初めてではない。とはいえやはり新鮮な剣士ぶりだ。剣風陣にて守りを高める。
 針金の輪が小刻みに震動する。「ぱぅぱぅ」のシャボン玉が飛んできた! しかも多数で速度も速い。散るさま鮮やかなり四方八方、前衛陣、かろうじてかわしたミギワ以外は全員被害を受けた。
「これは対処が難しい。シャボン玉というよりは炸裂弾ですね」
 サガは肩口を押さえた。直撃こそ避けたが被害は浅くない。
 ガイゼも傷を受けている。
「鎧聖降臨を感謝する。あのシャボン玉、いくらか誘導力があるようだ。回避するのは難しいようだな」
 本日後衛にまわった重騎士二名に礼をいう。さあ、反撃はここからだ!

●ぱぅぱぅ、シャボン玉七変化
「わっ!」
 ソニアは仰け反る。中距離から蛇毒刃でシャボン玉を破壊して、改めてその勢いに驚かされた。狙ったのが巨大シャボン玉だったためか、飛び散る飛沫の量が半端ではない。蛇毒刃を当てた距離でも飛散した酸のダメージを受けた。ソニアは即座に問う。
「ユウキくん、大丈夫!?」
 ユウキは彼女より近い位置にいたため、かなりの酸を受けてしまったのだ。
「平気です」
 されどユウキは気丈に応じ、本日唯一の前衛重騎士として前進する。フェイトもすぐに、
「守って、下僕たち!」
 召喚しておいた土塊の下僕たちに命じている。フェイトは盾としての役割を期待しているが、下僕は背丈が足りず、また、前方に出したものは酸のダメージで早くも半壊していた。
 サガの試みも成功しない。サガは武器に楓型の形状をつけ、団扇のように使ってシャボン玉を吹き飛ばそうとしたのだが、このシャボン玉、アビリティに似た性質なのか風の影響を受けないのだ。
(「第一印象に騙されるな、それが我楽多モンスターと戦うときのルールですね」)
 サガは前進する。マントで口元を隠し、弾けた後の酸の蒸気を直接吸わないよう留意する。
 ガイゼは戦況を目で追い音もなく停止し、
「シャボン玉を射抜くのは破裂して危険、か。輪についている状態でもやめたほうがよさそうだな」
 かく判断、輪に液が溜まるまでの間に攻撃するスタイルを守ることにする。
 後方からジョゼフィーナが回復を行う。
「ご無事ですか。今回のシャボン玉は………どうにも厄介そうですわ……」
 ぱぅぱぅ、そんな鳴き声つづけながらコンスタントに被害を与えてくる怪物に対し、ジョゼフィーナもティルフィアも自身の役割に専念するほかない現状だ。
 小規模、大規模、あるいは変形――シャボン玉の形質はそれこそ変幻自在、フェイント的な動きをすることもありタイミングが掴みづらい。有効な対策を講じられないままチームは戦闘継続を強いられていた。土塊の下僕たちに組ませた即席の壁も、さして保たず崩れ去る。
 冒険者たちは苦しめられていた。
 酸を帯びた痛みに、ミギワも思わず声を上げる。ソニックウェーブは決まったが、敵の攻撃は止められない。
「あっ……いっててて……!」
 ミギワの口調に、伏せていた男らしさが顔をのぞかせている。今回はこれまでとは勝手が違う。
「私が出ます!」
 ビューネが吶喊する。遺憾ながら剣風陣は期待する効果を上げないが、ならばシャボン玉が生まれないようにすればいい!
「輪に膜が張られる前に攻撃し、シャボン玉が作られることを妨げましょう!」
 ビューネの剣、宿るは鮫牙の力。一刀、浅けれど手応えはあった。生まれかけた石鹸の輪が流れ落ちる。これに乗じて前衛陣一斉に攻撃し、さらにフェイトが
「集え光……撃ち抜け閃光!」
 エンブレムノヴァを叩き落とす! 火球の威力に怪物は揺れた、だが次の瞬間、
「――っ!」
 声にならない叫びは途切れた。怪物が輪を振りあげる一撃をまともに受け、ユウキが弾きとばされ、肩口から地面に落ちたのだ。
「ユキっ!」
 ネーヴェはガッツソングを口の端にのぼらせる。
(「我々はシャボン玉を警戒するあまり、これを製造する本体の動きを失念していたかもしれん……!」)
 ネーヴェは唇を噛んでいた。本体がそのまま主題であったこれまでの我楽多モンスターと違い、今回の本体は主題の「シャボン玉」ではなく「シャボン玉を生むもの」なのだ。
 怪物の攻撃はそれにとどまらない。ユウキを薙ぎ飛ばしたその動きで、細かなシャボン玉が無数に生まれていた。
「速い……しかし!」
 サガは盾でこれを防いだ。ユウキを目の端で追う。
 ソニアはたたらを踏んだ。回避が間に合わない。
「あっ、マズい……かも」
 盾を突き出すが眼前は無数の泡玉、どれだけ防げるか――
 しかしソニアのダメージは最小で済んだ。
 ユウキだった。無言でソニアを庇って地に押しつけ、代わりに自身の背に酸を浴びた!
「ユウキくん……!?」
 人生初めて女性を押し倒すことになったユウキだが、そんなことを意識する暇はないようだ。力なくその場に崩れ落ちた。
 ぱぅぱぅ、とさらに怪物が鳴いた。
 アロイは砂塵衝で泡を防ごうとするが無効、逆に被害を受けることになった。ただし後衛まで飛んできた攻撃はわずかであり、自分以外のメンバーは無事だ。アロイは自分がもどかしい。この状況でユウキの傍にいてやれぬ自分が。
「しかし仲間を庇ったその意志は立派……団長として誇りに思います」
 この攻撃で生じた隙に、ガイゼが電刃衝を叩き込む!
 さらにミギワだ。
「ユウキの痛み、倍にして返してみんしょう!」
 肉迫しミラージュアタック、残像含む三人のミギワが斬る、斬る、斬り下げる!
 ティルフィアはこのタイミングで、ユウキを抱えて後方に回収する。
「シャボン玉相手に死人が出た。なんて話は聞きたくありません!」
 命に別状はなさそうで、ティルフィアはそれに安堵した。
 このときジョゼフィーナは閃いた。彼女は見破ったのである。
「敵の動きの特徴、それはシャボン玉を生み出す動作ではなく、石鹸を溜める動作にあります!」
 攻撃時こそ多彩であるが、石鹸を溜めるときには唯一明らかな癖がある。輪についた柄の部分が外側に曲がるのだ。
「そうであったか……ならば」
 ネーヴェはジョゼフィーナの指示に従い、石鹸が溜まる瞬間に気弾ワイルドキャノンを放つ。
「駆けよ斬影!」
 これを受け石鹸が流れ落ちた。
「石鹸なければただの輪っか、ですね!」
 鮮烈! 鮫牙の矢を乗せた一刀はビューネ!
 ビューネの意図は当たる。輪の一部から石鹸が滴りだしたのだ。
 ソニアがシャドウロッドを突き出す。
「えれがんとにどかーん!」
 弾ける音の渦! なんというエレガント! 偉大なる一撃で怪物を麻痺させた。
「行けそうですね」
 アロイがガッツソングに乗せて告げる、躊躇は無用、と!
「全員一丸となって攻めます」
 ブラックフレイム、ジョゼフィーナが口火を切って、ネーヴェも
「あのシャボン玉、酸がなければ街角にでも置いておくのにな」
 とワイルドキャノンをぶつけ、フェイトも紋章の火焔を見舞う。
 ビューネの剣が唸る、ソニアのエレガントが吼える!
 さらにサガ!
「狙うは膜でなく輪、砕いてみせます!」
 迸るサンダークラッシュ、サガの灰の前髪がはためいた。
 雷光猛襲ガイゼの電刃衝!
「おまえ自身を屋根の高さまで吹き飛ばしてやろうか!」
 雷撃込めて空へ打ちあげる。空中、怪物は微塵! 壊れて消えた!

●インターミッション
「アロイさん、務めを果たしきれなくてすみません」
「いや、私こそ謝りたい、ユウキ君」
 ユウキの怪我を見てアロイは無念に思った。深刻でなかったのは幸いだが、自分の怪我さえなければこの展開はなかったかもしれない。
「ただ、君の騎士道精神を見る事ができたのは嬉しい。さあ、帰ろうか」
 アロイに褒められ、ユウキははにかむような笑顔を見せた。
 空に雲がかかりはじめた、早めに移動しなければ雨に見舞われるかもしれない。 
「平気……だよな?」
 とガイゼが肩を貸してユウキを立ち上がらせる。ガイゼの肩は太くはないもののがっちりと逞しく、改めてユウキは羨ましく思った。
「はい、ありがとうございます」
 ユウキは申し訳なさそうに告げた。それをフォローするようにサガは微笑する。
「戦場に怪我はつきもの。ユウキさんはよくやりましたよ」
 ジョゼフィーナも話しかけた。
「アイさんからお聞きしたのですが……ユウキさん、髪型は今のままで十分いいと思いますよ。私の目には十分男性に見えますし……それに冒険者さんは、外見ではなく心意気ですから」
 ジョゼフィーナの温かく諭す言葉は、ユウキを得心させるものであった。
 ソニアが言い添えた。
「うんうん、『らしさ』っていうのは外見じゃなくて内面からにじみ出る物じゃないかな?」
 それに、とソニアは思う。今日のユウキは充分に男らしかったよ、と。ただ、それを告げるとまた真っ赤になるだろうから、やめておいてあげようか。
 ミギワの忠告もありがたい。
「そう、大切なのは気持ち。まずは背筋をのばすことでありんす、それだけで気持ちもしゃんとすると思いんすよ」
 自分で気づいてくれたようですね、とフェイトは、出しかけていた付け髪をしまった。最近フェイトは、ユウキの事が気になるのだ。
 ビューネもユウキの背を見て思う。
(「だんだん精悍になっていると思います。それに七三は……似合いそうにないですよね………」)
 無意識のうちにビューネは、自分の髪をいじって七三にしてみたりする。それを見て、
「ビューネ殿、なんだか凛々しいぞ」
 ふむ、と真面目に感想を述べるネーヴェなのである。 
 ティルフィアが顔を上げると、破裂し損ねていたものか、あるいは零れた石鹸水によるものか、小さなシャボン玉がひとつ、ぱぅ、と飛んでいくのが見えた。
「綺麗なものでありんすなあ」
 ミギワも気づいて目を細めた。

 何処より来たのか何処へ往くのか、我楽多の乱痴気噺、四度目は斯く終わりけり。
 次に現るは何者か。

(続く)


マスター:桂木京介 紹介ページ
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