<リプレイ>
「さぁて……」 ゆっくり、しかし熱く血が体を巡る。鉄芯・リジュ(a04411)に続き、狂月兎・ナディア(a26028)と闇を裂く氷狼・ルキシュ(a67448)も血の覚醒を発動させていた。 モンスター退治にその地を訪れた冒険者たちはその姿を確認し、身を潜めながら準備を進めていた。 廃村の前に立つ番人の如き二体のモンスター。奴らは冒険者たちに気付いていないのか、気付いているがその場を動かないだけなのか……未だに動く様子は見えない。 仲間たちに鎧聖降臨を発動させてゆく草原を駆ける戦士・アトレーユ(a66132)とピヨピヨ。リシャロットも護りの天使達を発動させていった。 そうして廃村の入り口の左右に立つモンスターを前に、それぞれが思い思いの位置へと陣取ってゆく。準備が整った頃合を見計らって銀刻ノ灰狼・ズィヴェン(a59254)は静かに息を吸い込んだ。 「骨のアル魔物ラシイが……さてドンだけ楽しめンダろ」 呟き、タスクリーダーの心の声で行動開始を仲間たちに告げる。冒険者たちはそれに答え、一斉に地を蹴った。
剣風陣を纏い、いち早く敵に迫るのは黒舞・ハクヤ(a50554)だ。鎧砕きの力を込め、背後から黒の長剣を持つ魔物に襲い掛かる! がきん! 振り返らずに黒の長剣を背負うようにして魔物はハクヤの一撃を受け止め、真っ向から迫るリジュにもう一本の長剣を構えた。黒の長剣は二刀流、双剣を持って冒険者たちを迎え撃つ。 「はっ!」 気合と共に巨大剣を振り下ろすリジュだが、黒の双剣は剣でその軌道を逸らして捌き、そのまま切り上げるように剣を振り上げた。 黒い衝撃波が音もなくリジュの体を貫く、一瞬遅れて痛みが襲い掛かってきた。 衝撃波は鎧強度無視の攻撃で、鎧聖降臨で強化された鎧も効果を成さずに身を切り裂く。リジュはぐっと歯を食い縛って耐えた。 ごっ! 次の瞬間、巨大剣を持つ魔物が闘気を放つ! 振り抜かれた巨大剣から巻き起こる光の嵐が冒険者たちを呑み込み、身を引き千切るような衝撃が襲い掛かってくる! 「くっ……」 息を切り、ルキシュはパワーブレードを振り下ろす。だが黒の双剣は軽くバックステップして身をかわした。 「貴様の相手は、我だぜナァン!」 巨大剣の魔物にはナディアが迫り、電刃衝を繰り出す。だが相手の巨大剣がガキンと受け止め、刃の進入をギリギリと拒む。 「貴方の相手はもう少し後、ですよ」 だがそこに仄蒼き夜の風戯び・ヨキ(a28161)から無数の木の葉が放たれる。緑の縛撃は巨大剣の魔物を包み、その動きを縛っていった。 アトレーユがガッツソングで仲間たちの傷を癒し、馨風・カオル(a26278)もヒーリングウェーブの光を放つ。 「僕に出来ることは多くはありませんが……精一杯、頑張らせていただきますね」 回復も戦いの中では重要な役目、カオルは魔道書を開いて構えた。 「さて、始めるとしよう」 雪山女神に嫌われた・サース(a70972)が踏み込み、指天殺を突き出す。一撃は黒の長剣を避けて肩口に突き刺さり、僅かだが魔物の体を揺さぶった。
だが黒の双剣は突かれた肩を下げ、逆の肩を前にするように身を捻って一歩踏み出した。その動きでハクヤが背後から繰り出す鎧砕きを避け、前にした長剣を横に払う。 がきんっ! 硬い金属音と共にリジュの巨大剣が弾かれて防御される。血の覚醒で可能となったパワーブレードを振り下ろしたものの、力任せに弾かれてしまったようだ。 そのまま黒の双剣がルキシュの体を縦に裂き、ぱっくりと二筋の切れ目が走る。同時に不幸とアンチヒールがルキシュの体に刻み込まれた。 「駆けろ……疾風牙!」 だがルキシュはダメージに怯まず、至近距離からブラストタックルでぶちかます! 勢いに押されて魔物はざざっと後退った。 その直後、巨大剣の魔物が緑の縛撃を払って動き出す。大きく振り上げたその刀身に光が宿り、闘気が凝縮されてゆく。ナディアは迎撃に巨大剣を構えるが、相手の方が早い! どぉん! 轟音と共にナディアの肩口に刃がめり込む。ぐしゃり、と体の中から何かが潰れるような音が鈍く響いた。 辛うじて自分が立てて構えていた刃が一瞬相手の攻撃に触れており、更に鎧聖降臨の効果もあって腕が落ちるようなことは無かったが……少なくないダメージと痛みを叩き込まれていた。一撃で額には汗がびっしりと浮かび、呼吸が荒くなっている。 ナディアは相手の攻撃を迎撃しようと考えていたようだが、相手の方が速い。自分の腕では間に合わないのだ。そもそも仮に間に合ったとしても、デストロイブレードには相手の攻撃を軽減したり無効化したりする効果など備わっていないのだが……。 その様子に感付き、ズィヴェンがキルドレッドブルーの力を込めて矢を放った。ざくりと胸に一矢を受け、巨大剣の魔物はバキバキと音を立てて魔氷と魔炎に包まれていった。その間にヨキはナディアの傷を癒すべくヒーリングウェーブを発動させる。ダメージは大きいが、何とか気力で腕を動かし、ナディアは武器を構え直した。 アトレーユはグランスティードの力と共に鎧砕きを振り下ろす! 勢い良く放たれた一撃は双剣の魔物の胸を叩き、びしびしとアーマーブレイクの効果を伝えてゆく。 「万全の体勢を整えられるよう……」 アンチヒールの効果があっては仲間の傷を癒すことが出来ない。カオルは静謐の祈りを捧げ始め、その清らかなる波動でルキシュのアンチヒールを解除した。 「まだまだ……倒れるわけにはいかんよ」 気を抜けば回復が追いつかなくなる。敵の攻撃力を目の当たりにしながらもサースはガッツソングを奏でて仲間たちの傷を癒していった。 ハクヤが電刃衝で稲妻の闘気を武器に纏わせる。だが攻撃する直前に双剣の魔物は振り返り、その斬撃を受け止める。 二刀流の長剣同士、それぞれが噛み合ってギリギリと音を立てていた。だがそれも一瞬のこと、ちぃぃん、とハクヤの剣を弾いて両手を開かせ、出来た隙に黒の双剣が振り下ろされる! ざくりと肉が裂ける音、広がる黒の闇――攻撃を受けたハクヤはざざっと退けられる。 「ずいぶんと余裕を見せてくれるねぇ?」 しかしハクヤの方に振り返ったということは、リジュを始めとした他の冒険者たちには背を向けたことになる。無防備なその背に向けてリジュは思い切りパワーブレードを叩き付けた! 続いてルキシュもグランスティードの突撃の勢いに乗せてパワーブレードを叩き込む。ずしんと脇腹に刃がめり込み、双剣の魔物が押されてよろめいた。 「力比べだぜなぁん!」 ナディアは電刃衝で魔氷に閉ざされた巨大剣の魔物を攻撃し、ヨキは傷の残るその体にヒーリングウェーブを浴びせかける。冒険者たちの作戦では双剣の魔物を一気に先に倒し、巨大剣の魔物は足止めして後回しにするつもりらしい。今はまだ戦線を維持するだけでいい、ヨキは戦況を見逃さないように気を張り巡らせていた。 不敵な笑みを口元に浮かべ、ズィヴェンはライトニングアローの狙いを絞る。黒の双剣の背に雷光の矢が突き刺さり、びくんと大きくその身を揺るがした。 続いてアトレーユも長剣を突き出すが、黒の双剣も流石にまずいと感じたか振り返ってその攻撃を受け止めていた。もう一方の長剣で迫り来るサースを牽制するが、紙一重でサースの腕はそれを避けた。 「……貫くっ!」 そしてその腕の付け根あたりに『気』を集中させた指がヒットする。そのままサースは素早く一歩分の間合いを詰めつつ、一発、二発と素手の追撃を浴びせかけた。 カオルの静謐の祈りは続行されており、ここでようやくハクヤの不幸とアンチヒールが解除された。傷は残っているが……まだ動ける。痛みに耐えながらハクヤは何とか立ち上がった。 ごっ! だが下がるより先に、闘気の嵐が巻き起こった! 巨大剣の魔物が魔氷を破って動き出し、光を撒き散らしたのである。 呑み込まれ、地面に崩れ落ちるハクヤ。傷は深く、これ以上の戦闘は不可能なように見えた。 そして仲間の攻撃に合わせるように黒の双剣も動く。目前のサースに素早く斬撃を叩き込み、自分はバックステップで間合いを取り直した。着地の瞬間を狙ってリジュがパワーブレードを繰り出すが、交差させた長剣ががっちりとそれを受け止め防御する。 「大した力だ」 サースの身に広がるアンチヒールと不幸の闇。傷口は灼けた鉄の棒をねじ込まれたように熱く、痛みが絶えず暴れ回る。 「……疾風牙!」 だがそこにルキシュが突撃する! ブラストタックルで突っ込み、どがんと魔物の腹に一撃を与えたのだ。反動でアンチヒールの効果を受けてしまうが、このままでは埒が開かない。防御困難の効果を持つ攻撃で少しでもダメージを与えようというのである。 一方では動き出した巨大剣の魔物にナディアが斬り掛かる。巨大剣『不死者の大剣』に稲妻の闘気を這わせて振り下ろすが、がきんと相手の刃がそれを受け止める。 ふっ、と呼気と同時にナディアは小さく横に跳んでいた。直後にヨキが緑の縛撃を放っており、巨大剣の魔物は無数の木の葉に包まれて動きを止めた。 「まだ……ですよ」 緑の縛撃は当たる。そして動きも拘束できる。しかし相手が動く方が速く、効果を解除された時は一撃を許してしまうようだ。仲間たちが双剣を倒すまで保ってくれよとヨキは小さく唇を噛んだ。
ズィヴェンのライトニングアローが突き刺さり、その間にカオルの静謐の祈りが効果を発揮する。アンチヒールはサースとルキシュ、それが解除されるのを待って……アトレーユはガッツソングを奏で立てる。勇ましき旋律が冒険者たちの傷を癒していった。 「この程度で臆してはいられん」 そしてサースが指天殺を突き出して踏み込む。だが双剣はそれをかわし、突き出した腕が魔物の脇で空を貫く。 ざっ……! 至近距離から放たれた衝撃波がサースの胸を貫き、抜けた。まさに身を貫く一撃を受けてサースはその場に崩れ落ちた。 「避けれねぇぜナァン」 動きの拘束された巨大剣の魔物にナディアが電刃衝を叩き込み、ヨキは素早く紋章を描き出す。 ごっ! 空気を焼いて放たれるエンブレムノヴァが着弾し、巨大剣の魔物が炎で燃える。その戦いをちらりと確認し、ズィヴェンはライトニングアローを放った。 雷光の矢を受け、双剣の魔物はズィヴェンの方を見るが……その位置には届かないことが分かるのか、それ以上は動かない。そこにアトレーユが攻撃を繰り出すも、黒の双剣は無造作に片方の刃で受け止めて防御した。
ぱらぱらと束縛の木の葉を振り払いながら、魔物は巨大剣に闘気を込めて担ぐように構える。 冒険者たちが動くより先に、凶悪な光はナディアに叩きつけられる。 「が……」 左肩口から入った刃が圧倒的な力でナディアの体をいびつなくの字に曲げる。ヨキのヒーリングウェーブを受けて何とか踏み止まったが、こいつに勝手を許しては体が保たない。 ばしっ! 気付いたズィヴェンがキルドレッドブルーの矢を放つが、魔物は剣を立てて矢を刀身で弾いて防御した。 「チィ!」 魔氷も魔炎も効果を発揮しない。魔物はそのままナディアとヨキを威圧するように構え、踏み出す。
一方では双剣の魔物がリジュに斬り付けていた。斬撃を受けながらもリジュはぐっと大地を踏み締め、ブラストタックルで反撃した! どぉんと腹部を強打されてよろめき、後退る双剣の魔物。リジュは反動でアンチヒールの効果を受けるが、それは今の攻撃で既に受けていた。 「続け!」 ルキシュが更にブラストタックルで突っ込み、胸を打つ。そのまま駆け抜けるように脇へと避け、道を開いた。そこには更に続けてアトレーユが駆け込んでいた。 「たぁぁっ!」 グランスティードと共に全霊の突撃を慣行する。防御困難のブラストタックルを避け切れず、双剣の魔物はがらん、と剣を落とした。 ばぎゃん! 鎧が砕け、仰向けに倒れる。それきり双剣の魔物が動き出すことは無かった。
どぉぉん! ほとんど同時に轟音が響き渡る。光り輝く巨大剣がナディアの体を叩き潰し、地に倒したのだ。 巨大剣の魔物は強敵に敬意を払うかのように構えを崩さず、残心を見せる。直後にげほっとナディアは口から血を噴き出し、動かなくなった。 息を吐き、急ぎ緑の縛撃を放つヨキ。放たれた木の葉はびしびしと魔物の体を覆ってゆき、動きを止めた。その隙にカオルは静謐の祈りを捧げ始め、アンチヒールに陥った仲間たちの状態を回復させてゆく。 ルキシュはガッツソングを奏で立て、仲間たちの傷を癒してゆく。後は一体だけとはいえ、この破壊力は侮れない。 「へぇ、いい武器じゃないか」 拘束状態でも防御はできる。魔物はリジュのデストロイブレードを辛うじて刃で受け止めた。 「お待たせしました。貴方の番ですよ」 だがそこでヨキが両手杖『深蒼珠ノ黒杖』を大きく振り抜いて紋章を描き出す。そこに現れる火球はエンブレムノヴァ。紋章の力とミレナリィドールの力を受け、空気を灼きながら突き進む! ごっ! 炸裂し、燃え上がる炎。ぎしぎしと何か軋むような音を響かせながら……それでも魔物は動き出し、リジュの肩を一撃した。 ズィヴェンは強弓を引き絞り、貫き通す矢を射出する。腹部を闇色の矢に貫かれ、魔物は僅かに身を震わせる。 そこにアトレーユも鎧砕きを叩き込むが、魔物は刃を立ててこれを阻む。そのままガキンと弾く反動を利用してバックステップし、間合いを取り直した。 「もう少し……もう少しです!」 カオルがヒーリングウェーブの癒しの光を放ち、その言葉と癒しの効果で冒険者たちは力を取り戻したように武器を握り締める。 「へし折ってみたくなるねぇ、こう……バキンとね」 どっ! 闘気を込めたリジュの巨大剣『無銘の鈍刀』が魔物の脳天をぶっ叩く。ずしんと響く一撃に魔物は堪らず下がるが、逃さないとばかりにルキシュが突撃した。 刃を立ててグランスティードの突撃に乗せ、ブラストタックルを打ち付ける。だが巨大剣の魔物は地面を踏み締めて耐え、ルキシュの腹を突き刺した。ぞんっと刃がめり込んで肉を裂く。 「ケッ!」 吐き捨てるようにズィヴェンが貫き通す矢を放つものの、魔物は素早く横に跳んで身をかわす。 だがその着地した地点にアトレーユが詰め寄っていた。ブラストタックルで突っ込み、魔物の体勢を僅かに崩す。 「お別れです」 静かに、だが力強く炎が生まれた。ヨキの紋章から生み出されたエンブレムノヴァが魔物の胸に着弾し、紅蓮の舌でその身を包む。 ぎし……。 炎の中で金属が悲鳴を上げるような音を漏らしながら魔物は一歩踏み出す。だが二歩目でがくりと膝を着いた。その勢いのまま、巨大剣を地面に深々と突き刺して。
「グリモアの元で安らかに眠れ」 倒れた二体の魔物を埋葬し、その墓標の如く突き立てられた武器を後に、冒険者たちは帰路に着くのだった。

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参加者:9人
作成日:2008/06/01
得票数:冒険活劇1
戦闘24
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冒険結果:成功!
重傷者:狂月兎・ナディア(a26028)
黒舞・ハクヤ(a50554)
古本市と書いて戦場と読む・サース(a70972)
死亡者:なし
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