怪獣アシカグレード上陸



<オープニング>


 南方セイレーン王国領の何の変哲もないとある漁村。
 砂浜に寄せては返す波。
 そして。
 海面から顔を出す、人懐っこそうな動物の頭。
「あれ、アシカだよな?」
「そうだな。ちょっと大きいけど」
 村民2人が浜辺でアシカの話をしていると、それに気づいたのかアシカはちゃぽんと海に潜る。
 そして数秒後。
「クオォォクオォォ」
「クォックォックォッ」
 数頭のアシカが顔を出し、勢いよく浜辺めがけて泳いでくるではないか。
 そして波打ち際で浜辺めがけてジャンプ。
「クゥェ♪」
「で、デカイ!!」
 見事に着地したアシカ。その座高は村民の2倍はある。
 アシカ達は村民2人を囲み、かわいらしくヒレを口元にあてて愛嬌をふりまいた。
「クゥェ♪」

●怪獣アシカグレード上陸
 ヒトの霊査士・リゼル(a90007)は冒険者を集め、ある漁村で起きた事件を説明した。
「大怪獣マリンキングボスにくっついて、怪獣アシカグレードが10頭近く、ランドアースに上陸してきちゃったのよ」
「アシカグレードって、マリンキングボスやグレートツイスターにいたあの怪獣か」
 南国の太陽・オープスト(a90175)はドラゴンズゲートの体験が脳裏に蘇る。
(「嬉しそうに恐ろしい勢いで体当たりをかまされ、キャッチボールの玉として怪獣間でポンポン飛ばされまくったっけ」)
 ちょっぴり苦い思い出だった。
 冒険者だからまだ平気だが、普通の人がそれをされたらたまったものではない。
「アシカグレード達なんだけど、いつの間にか『あかんべー』とか覚えたみたいで、新芸を見せびらかしたり、浜辺で大の字になってごろ寝しちゃってるの。
 今のところケガ人はいないんだけど、危なくて近寄れず船も出せない状態になっていてね。
 方法は任せるから、村人が安全に漁ができるようにしてちょうだい。
 ま、そんなに手ごわい相手とは思えないから休息のつもりで行ってらっしゃいな。
 それじゃ、よろしく頼むわね」


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参加者
求道者・ギー(a00041)
陽射の中で眠る猫・エリス(a00091)
饗宴の思索者・アレクサンドラ(a08403)
真紅障壁・シズキ(a41815)
破弾碧空・ロペディ(a44275)
空游・ユーティス(a46504)
ふわふわ綿毛のヒヨコ・ネック(a48213)
怪獣狩人・ハオ(a63392)
NPC:南国の太陽・オープスト(a90175)



<リプレイ>

●浜辺に来りて
「蒼くおだやかな凪、耳をくすぐる潮騒の響き、そよぐ海風……、きょ、巨大なアシカ!! 見事であるっ!」
 饗宴の思索者・アレクサンドラ(a08403)は海風を顔から背中に流しながら、カッと目を見開いた。声が少し震えているが、自然と生の神秘に向かい驚嘆する。
 冒険者9人の前に広がる浜辺には、10頭の怪獣アシカグレードが思い思いにお昼寝中。
「アシカ……やはり芸達者なのであろうかねぇ」
 求道者・ギー(a00041)はちらりと南国の太陽・オープスト(a90175)を見て呟く。
(「初めて見るのだがそこまで人懐っこい物なのであろうかねぇ?」)
 アシカグレードは初見だが、酒場での霊査士やオープストの話を単純鵜呑みにはできなかった。
「怪獣狩人の名にかけて……いきたいけど、悪い事してないアシカさんたちをやっつけるのは気が引けるなぁ〜ん……。でも、困る人もいるから何とかするなぁ〜ん」
「ワイルドファイアの流儀でやるなら、怪獣さんは倒してご飯にするんでしょうけど……。ここは穏便に進めますかねぇ。エリスだって、無駄な殺生は嫌いですから、異論はないですよ」
 怪獣狩人・ハオ(a63392)とハーシュミストレス・エリス(a00091)は、ワイルドファイア大陸の常識である『怪獣=食料』によって当初は討伐を考えていた(というよりそれ以外の方法を忘れていた)が、他の冒険者の考えと共に説得で済めばそれでいいことに気づき、その方針に賛同している。
「人懐っこく、見た目も可愛らしいのですがその大きさが災いしたようですね。折角新しい芸も身に付けた様でしたのに」
 しょうがないですね、と心でため息をつきつつ、真紅障壁・シズキ(a41815)はどう説得するか思案していたが、彼女自身にはうまい説得手立ては見つからなかった。
 得意な人に任せるのが吉。そう結論を出したシズキは鎧聖降臨に集中、エリスとアレクサンドラも共に鎧聖降臨を仲間たちに施した。
「よし、行こう」
 冒険者たちの体を張った説得劇の始まりである。

●体当たりビーチボーイズ
「思いっきり遊んだげるから、マリンキングボスに行ってくれないかなー。あなた達が住んでいた所に帰れるし、僕達もあなた達を傷つけないで済むから、一番お互いの為だと思うんだー」
 魅了の歌をアシカグレードの一体にかけた空殻・ユーティス(a46504)は、遊ぶ代わりにマリンキングボスのところへ行くように話しかけた。
『クォ? よくわからないけど思いっきり遊ぶクゥェ♪』
 嬉しそうにユーティスにじゃれつこうとするアシカグレード。
「……なんか嫌な予感がする」
「どうしたのさオープストさん、大丈夫だよ」
 第六感の働きを感じたオープストにユーティスはヘラヘラとちからを抜いて笑う。
「クゥェ♪」
 アシカグレードが胸を張って浜辺をスライディング。アシカグレード的にはじゃれているだけだが、座高が冒険者たちの身長の3倍ある怪獣にまともにじゃれつかれたらもちろん痛い。
「体当たりでくることはお見通しってねー」
 ゆらりと体当たりをかわすユーティス。だが。
「クゥェ♪」
「クゥェ♪ クゥェ♪」
「……さすがに複数同時はキツいかなぁー」
 ぺちっ。そんな擬音が聞こえたが、他のアシカグレード数体が仲間の様子に気づきじゃれつきに参戦したため余力がなくなるユーティスは避けるのに手一杯。擬音の元は考えないことにする。
「みんな、贈り物だよぉ〜。人の代わりにこれで遊んでねぇ〜」
 ゴロゴロと転がるのは丸い岩。ふわふわ綿毛のヒヨコ・ネック(a48213)が岩礁を砕いて丸くカットしたボールだ。岩の大きさは平均してネックの首の高さくらいある。
「クォッ、クォッ、クォッ、クォッ♪」
 魅了を受けたアシカグレードを筆頭に、怪獣たちはそれぞれ岩ボールを手に入れると器用に鼻の上に乗せてバランス取りをする。じゃれつきから解放されたユーティスは這う這うの体(ほうほうのてい)で脱出した。
「大変だったねぇ〜」
 ネックがユーティスを労ったところでズシンと重い音がした。何だろうと振り返ると、アシカグレードの一体が貰った岩ボールを落とした様子。アシカのボールバランス取りは鼻回りのヒゲで支えるものだが、その個体は中身がぎっしり詰まったボールをヒゲで支えきれなかったようだ。
 とりあえず落ちていた代わりを鼻に乗せるが、岩より軽くてもペタンコなのでイマイチなのでそれを破棄。代わりのものを探す目線の動きは、ふわふわ綿毛のヒヨコに留まった。
「クゥェ♪」
 毬は蹴りたし毬はなし。和尚アシカはふわふわ綿毛をロックオン。
「わぁ〜い、空を飛んでるよぉ〜♪」
 鼻と足でポンポンポンとリフティングされるネック。口調は喜んでいるがフィルターを通して見るとネックのこめかみに青筋が立っているのがわかる。
「やっぱこれが正統派だろ」
 窮地(?)を見かね、破弾碧空・ロペディ(a44275)が投げ入れたのは普通のビーチボール。高くほ織り上げられたビーチボールをポンポンポンと頭・鼻・足ひれで受け取り、代わりにネックを解放する。ボールは足ひれで再び高く放り上げられ、他のアシカグレードを巻き込んでの蹴鞠大会となった。
「うぅ……。改めて近くで見るとデカイな。ネックといいユーティスといい、よくコイツらとじゃれ合えるよ……」
 少し蒼い顔をしてふらふら離れるロペディは、アレクサンドラが座っている岩場まで戻る。
「投げられると、痛いだろうなー」
 ところどころ包帯が巻かれたアレクサンドラも、遊び遊ばれている仲間を遠い眼で見た。
「流石にボール代わりにされるのはさすがにね……」
 アレクサンドラの万一に備えて待機しているシズキもまた、時々ガッツソングで支援しながら見守っている。
 そんな彼らを余所に、巻き込めるメンバーを巻き込みつつボール遊びの輪は広がっていく。

●小魚とアシカにのった少年
「そろそろ頃合いだろう」
 ボール遊びがしばらく続いたあと、腹が減るであろうタイミングを見計らってギーがアシカグレードの近くまで足を進め、低い声で魅了の歌を一頭に施す。アビリティを受けた一頭はボールをギーに向かって高くトス。ふわりと体の真ん前に落ちてくるボールをギーはキャッチした。それを機に他のアシカグレードたちにも冒険者たちが手分けをして魅了の歌を歌いまわる。
「あー……」
 難しい言葉を避けようと意識し若干の間が開く。ここに来てからの食事がもっぱら小魚であることを確認した後はすらすらと、この近隣は食事である魚類がワイルドファイア大陸のそれと比べ小さいものしかおらず、いずれ食べ尽くして無くなってしまうこと、マリンキングボスがいずれワイルドファイア大陸に戻るため側にいないと帰れなくなることを説明する。
「マリンキングボス様は、またワイルドファイアに戻るそうです。一緒に帰った方が、きっといいですよー」
「早く戻らねば、仲間とも離ればなれになってしまうぞ」
 とエリスとアレクサンドラにも後押しされ、説明を受けたアシカグレードたちはキューキュー言いながらここにいるとそのうち困ることだけとりあえず理解、海に帰って行った。
「無事に行ったなぁ〜んね」
 お守りと巨大剣を握りしめつつ、ハオはその場でアシカグレードたちを見送った。
「ご苦労様。ゆっくり休憩しようか」
 ギーの宣言の後、アシカグレードとのビーチバレーで疲弊した体力を取り戻すべく、付近の思い思いの場所で冒険者たちは休憩に入った。

 休憩後。

「クゥォ♪ クゥォ♪」
「……戻ってきましたね」
 シズキがどうしましょ、という顔をしながらアシカグレードたちを見た。ギーの眼鏡が曇り、エリスとアレクサンドラも難しい顔をする。どうも魅了の歌が切れたとたんに色々話を忘れ、遊んで面白かったことだけで戻ってきたらしい。
「ここは威嚇で!」
 ハオが巨大剣「怪獣ころし」を振り上げデストロイブレードを適当な場所に打ち出そうとしたが、いやいやちょっと待ってと一先ず止められる。力づく一歩手前は他の手の後に。
「ちゃんとマリンキングボスのところまで送っていかないとダメそうだな」
「そうだね。ちゃんとおくっていかないとね」
「この舟がいいかな」
 ロペディとユーティス、ネックが浜に泊めてある舟を二隻拝借。冒険者たちは舟に乗り、マリンキングボスのところまでアシカグレードを誘導し始める。途中幾度も魅了が切れ違うところに行こうとしたり舟にじゃれつかれたりしたが、すべての魅了の力が切れる前にかろうじてマリンキングボスの元にたどり着けた。
「アシカさん、もう二度と来ないでほしいなぁ〜ん」
 すべてのアシカグレードがマリンキングボスの口の中に戻っていくのを確認し、ハオは怪獣たちに向かって手を振った。

●サプライズ慰労会
 冒険者たちが浜辺に戻った頃には、オープストもすっかりふくらんでいた。
「厳しい戦いであったがその後に一服ぐらいは罰も当たるまい」
 ギーはエリスと共に釣り竿を持って海辺へ釣り糸を垂らしにいった。ハオも素潜りで海の幸を捕まえて篭に入れていく。ネックは日傘とデッキチェアを数席借り、オープスト、ユーティスと共にくつろいでいた。
 アレクサンドラとロペディがいないとオープストが見渡した時、2人が大きなテーブルを運んでいるのが見えた。
「何をしているんだ?」
「ああ、準備だよ、準備」
 ロペディの答えに対して何の準備かと考えるオープスト。依頼を解決した後、現地で遊ぶことはよくあるが、テーブルなどをわざわざ準備することはあまりない。
 そうこうしている間にも海へ行ったメンバーが戻り、シズキが調理を始める。アレクサンドラは川から飲み物の瓶を引き上げテーブルに置き、ユーティスが皿を並べ始めた。
 すべての準備が整った後、示し合わせた一同は謳った。
「「「ブックドミネーター撃退成功おめでとう!」」」
 先の戦いの第一作戦で支援に回ったオープストや、懸命に戦ったみんなへのサプライズ慰労会。
「秘蔵の一品ではあるが汝に呑んで貰いたい」
「激務、お疲れ様なのだ〜! 宴の共にと、行きがけに川を探して麦酒を冷やしておいたぞ。さあ、乾杯と行こう!」
「さーてと、おっさんも仕事のことは忘れて遊ぼうぜ!」
「楽しいパーティに致しましょうね」
「あなたのバイタリティと笑顔に凄く励まされてたよー。色々大変だったけど、これからも頑張ってこうねー」
「オープストさんは生ビール大ジョッキ? それともトロピカルカクテルが良いかなぁ〜? 未成年用にはフルーツジュースだよ!」
「いろいろあったけど、みんなが頑張ったから、こうして元気でいられるなぁ〜ん」
 全員が一斉にしゃべりだす。ドラゴンなんてなんのその。宴は夜が更けても漁火に照らされ全員が寝潰れるまで続くのだった。


マスター:falcon 紹介ページ
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参加者:8人
作成日:2008/06/20
得票数:ほのぼの19  コメディ1 
冒険結果:成功!
重傷者:なし
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