五段陣形攻略戦



<オープニング>


 辺境に位置する小さな村。
 その村は、葡萄と葡萄から作る葡萄酒と葡萄ジュースで生計を立てていた。
 小高い丘を何代もかけて削り、石垣を組み、作り上げた段々畑。そこで育つ白葡萄はまさに村の生命線といっても良い。
 だから、その段々畑をピルグリムグドン率いる豚グドンの群れに占拠されたというのは、文字通り村の命運がかかった一大事なのであった。

「というわけで、依頼だ。葡萄の段々畑をピルグリムグドン達から取り返してやって欲しい」
 昼下がりの酒場で生真面目霊査士・ルーイ(a90228)はそう言うと、酒場の冒険者たちをぐるりと見渡した。
「グドンは豚グドンで、数はおよそ四十匹ぐらい。内ピルグリムグドンは二匹だ。
 一匹は右腕が筒のようになっており、そこから衝撃波を飛ばしてくる。単体攻撃で特殊な効果は何もないが、威力が高く射程も弓矢並にある。注意してくれ」
 ピルグリムグドンは二匹で段々畑の最上段に陣を取っているという。上から打ち下ろす長距離射程攻撃はそれだけで脅威だ。
「もう一匹は、両掌に眼が生えている。その掌を向け、複数の相手に同時に魔炎魔氷攻撃を仕掛けてくる。攻撃力は低いが、精度は高い。
 射程も弓矢ほどはないがそれなりにある。
 状態異常対策は必須だろう」
 続いてルーイは、戦場となる段々畑の説明をする。
「段々畑は五段になっている。一番上の段に二匹のピルグリムグドンが陣取り、以下四段はそれぞれ豚グドンたちが十匹前後ずつ陣取っている。
 一応、段々畑に向かって右端には階段もあるが、段々畑の段差は大体俺の肩ぐらいまでだ。冒険者ならば、飛び上がるのも難しくはないだろう」
 ただし、上の段のグドンに邪魔をされなければの話だが、とルーイは付け加えた。ちなみに階段は狭く、人一人上り下りするのがやっとの幅だという。
「後、段々畑には葡萄の木がなっている。まったく無傷での戦闘は不可能だろうが、可能な限り木に損害を与えないよう、注意してくれ。
 最悪でも、段々畑の石垣だけは絶対に破壊しないで欲しいそうだ」
 石垣を破壊されたら、段々畑の土は崩れ、畑は意味をなさなくなってしまう。石垣に向いた大石を見つけてきて、石垣を組むのは、村人たちにとっては大変なことなのだ。下手をすれば今年一年を棒に振ることにもなりかねない。
「ちなみに、狙撃タイプの攻撃は下から二段目までが射程範囲で、魔炎魔氷タイプの攻撃は四段目までが射程範囲となる。
 俺の霊視ではこれが限界だ……すまないが、よろしく頼む」
 そういってルーイはいつもどおり、丁寧に頭を下げるのだった。


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参加者
六風の・ソルトムーン(a00180)
奈落の薔薇・ナナ(a03991)
緑星の戦士・アリュナス(a05791)
月飲み・グランスルグ(a26865)
水琴の波紋・アルーン(a66163)
紅色の舞巫女・クレハ(a66226)
黒風・ナトリアス(a73770)
白天狼・アドニス(a73869)


<リプレイ>


 下から見上げるその葡萄の段々畑は、まるで立てこもるために作られた防御陣形のようだった。
 立派な石垣でできた段々畑と、その端に築かれた土盛りの階段。
 離れたところからでは豚グドンの姿も葡萄に木が邪魔をして見えないし、畑の段は冒険者といえども、簡単には越えられない位に高い。
 葡萄に木の陰でうごめくグドン達を見上げ、 水琴の波紋・アルーン(a66163)は呟く。
「さて、悪しき種は取り除かねばならぬのぅ……」
 牙狩人であるアルーンの眼は、葡萄の木の隙間からのぞく、豚グドンの姿をとらえている。豚グドン達はまだ、冒険者の接近に気づいていない様子である。
 段々畑から吹き下ろす風が、葡萄の木の清々しい匂いとともに、グドン特有の鼻の曲がりそうな体臭を運んでくる。
「葡萄畑を占拠するとは無粋な連中だな」
  白天狼・アドニス(a73869)は、小さく目元をゆがめながら、口の中で呟いた。
「なるべく、葡萄は傷つけずに行きたいわね……ココまで育てた村のヒトのためにも……」
 その言葉を受け、紅色の舞巫女・クレハ(a66226)がうなずき返す。
 段々畑の下は、丈の低い草が生えているだけの見晴らしの良い、更地だ。
 必然的に、接近する冒険者達の姿は、豚グドン達の目に留まる。
「ギャッ!?」
「ギャッギャッ!」
「ギギィ!」
 接近する冒険者達を発見した豚グドン達は、一斉に騒ぎ出した。
 だらけて座り込んでいたグドン達が立ち上がり、手に手に槍を持ち迎撃体制を取る。だが、好戦的に吠えてはいても、段々畑から降りてくる様子は見受けられない。
 グドンの頭でもそこが、防衛に適した地形であることは理解できるだろうか。あくまであがってくる冒険者達を迎え撃つ構えだ。
「地の利敵にあろうとも人の和は我らにあり、一気呵成に押すぞ!」
 漆黒のグランスティードに跨った、六風の・ソルトムーン(a00180)が利き手に持つハルバードで、段々畑の最上段を指し示す。
「はいっ」
 黒風・ナトリアス(a73770)は、その声に答えるように、邪竜の力を解放し、その身に漆黒の炎をまとった。


 冒険者達は、四つの班に分かれ、並列陣形で突撃する。奈落の薔薇・ナナ(a03991)、アドニス、黒百合と歩む意志・ティア(a34311)の三名のみが三人で一斑、ほかはすべて二人で一斑だ。
 対するグドン達は、まず一番下の段に巣くう十匹の豚グドンが長槍を構え、段々畑の端に立っている。
「グドンのファランクス(重槍兵密集方陣)ですか……」
 こちらに向けて突き立てられた槍襖を見上げ、初級店長・アリュナス(a05791)はそう呟く。
 まあ、そこまで上等なものではないが、考えなしのグドンと比べれば多少はやっかいだろう。
 まず最初に、攻撃を加えたのは、月飲み・グランスルグ(a26865)だった。
「そこだ」
 走りながら振るわれた手の先から、放射状に放たれた粘糸が、複数のグドンをまとめてからめ取る。
「ギャワッ!?」
 進路上のグドンが行動不能になったのを見たアルーンは、水晶作りの弓を引き絞る。
 ねらいは一段上、四段目に立つグドン。
「下段はまかせるぞ」
 槍は構えているものの、まだ他人事のような顔をしている四段目のグドンに、ライトニングアローを打ち放つ。
「ギッ!?」
 頭部を雷光の矢で打ち抜かれたグドンは、短い悲鳴を上げ、絶命した。
 遠距離で落とされるのは想定外だったのか、あからさまに上の段にいるグドン達があわてふためく。
 その間にも、ほかの冒険者達は、段々畑の下からグドンの群に攻撃を繰り出していた。
「ハッ!」
 流麗に振るわれるナナの斧が、豚グドン達をなで切りにし、
「お前達に動いてもらうわけにはいかない」
 ナトリアスが振り下ろす儀礼大剣から放たれた無数の黒針が、残ったグドンをまとめて屠り去る。
 豚グドンの十匹やそこらでは、今の冒険者達の相手はつとまらない。
 一段目のグドンを掃討した冒険者達はすぐに、二段目へと向かう。こちらは、少しやっかいだ。高所をとったグドンが長槍で突き刺してくる。だが、
「あまいわっ!」
 ソルトムーンは突き出された槍を、首をわずかにずらすだけで回避し、無造作につきだしたハルバードの刺撃でグドンの喉笛を貫いた。
 多少の地の利など、圧倒的技量差の前には意味をなさない。
「グウ……」
「ギィ……」
 さすがに力の差を感じ取ったのか、グドン達は槍を構えたまま、後ろに下がっていった。
 こうなると下の段から攻撃を加えるのは難しい。
「ハッ!」
 逃げ遅れた一匹に、クレハが紅蓮の雄叫びを浴びせ、動きを止める。
「逃さぬ」
 そこに、アルーンのはなったライトニングアローが突き刺さる。
 グドン達が完全にひるんだ隙をねらい、冒険者達は、二段目に飛び上がった。


「ムッ」
「やはり、来るか」
 二段目にあがった冒険者を待っていたのは、槍を持つ八匹のグドンと、最上段からの遠距離攻撃だった。
 上方からうち下ろされる大威力の遠距離攻撃。それが加わっただけで戦況は一変する。
「グッ……」
 ねらい打ちされたアドニスは、片膝をつく。
「クッ」
 ナナがかばうように前に立っている間に、アドニスは自らに鎧聖降臨の守りを施しながら立ち上がる。
 と、同時に後ろに控えているティアが、癒しの聖女でその負傷を完全に癒した。
「ブィ!」
「ギギィ!」
 ボスからの援護を受けたグドン達は、現金なまでに勢いを取り戻し、冒険者達に襲いかかる。
「ギャワアア!」
 だが、所詮その力はグドンにすぎず、
「ハッ」
 アリュナスの蛮刀で切り裂かれたグドンは、魔炎魔氷に包まれ絶命した。
 どれほど士気が高くても、グドンは所詮グドンにすぎない。
「葡萄の木は村の大切な生活を支えるもの、危害を加えないように!」
 その言葉通り、クレハは綺麗に葡萄の木を避けながら、両手斧を流麗に振るい、迫り来るグドン達をなで切りにする。
 やはり、通常のグドンは敵ではない。問題なのは最上段にいるピルグリムグドンの狙撃だけだ。
「ッ!」
 狙われたグランスルグが際どいところでその一撃をかわした。と、同時にアルーンが報復とばかりに、水晶作りの弓を最上段に向ける。狙いは、狙撃を行ったピルグリムグドンではない。その隣に控える、魔炎魔氷攻撃を行うという、もう一匹のピルグリムグドンだ。
「わずかな間でも、拘束されてくれれば儲けものじゃ」
 グランスルグの放った影縫いの矢は、違うことなくピルグリムグドンを撃ち貫いた。
 その隙にグランスルグは、後ろに下がり、ハイドインシャドウを使いその身を隠す。
「……」
 姿を消し去ったグランスルグが、意識を集中させながら、ゆっくりと階段へ向かっている間に、他の八人は二段目のグドンを掃討し、三段目へと取りかかる。
「むんっ!」
 ハルバードで突き刺し、ソルトムーンが三段目の槍襖に穴をうがつ。
「グビィ!」
 怯んだグドン達が後ろに下がるのにあわせ、冒険者達は三段目へとあがっていく。
 掃討戦は、中盤へと差し掛かっていた。


 冒険者達が三段目にあがると、そこでは予想外の反応が待っていた。
「ギャッ!」
「ギャッギャ!」
 三段目のグドン達が、ばたばたと四段目によじ登り、後退しようとしている。
「これは……」
 見ると最上段でピルグリムグドンがグルグルと手を回している。
 どうやらこの撤退は、ボスの指示のようだ。
 すべての戦力をもっとも自分たちに有利な四段目の攻防に集中させる。グドンにしては頭を使った方だろう。しかし、小さなグドンが、段々畑の石垣をよじ登るのは、そう簡単なことではない。
「クピィ!」
 一生懸命石垣を上ろうとしているグドンの背後に、アリュナスは張り付き、その首に気を込めた指を突き立てた。
「ギャッ……」
 水に濡れた粘土を突き刺したような感触を残し、グドンは絶命し、下に落ちる。
「そこっ」
 さらに、ナトリアスのニードルスピアが、逃げ遅れたグドン三匹をまとめて屠る。
 結局、無事上の段にあがることができたグドンは、六匹のみであった。
 だが、合流を果たした十六匹のグドンは、できるだけこちらから距離をとり、構えている。
「ギャワッギャワッ!」
「ギーギー!」
 真後ろに二人のボスが控え、グドン達の志気は最高潮だ。
 魔炎魔氷グドンも、すでにアルーンの影縫いの矢の影響から抜け出し、こちらに目の生えた掌を向けている。
 四段目に上がるということは、その魔炎魔氷の射程にはいるということだ。
 さすがに、ここを無造作に飛び上がるのはリスクが大きい。
「グビィ」
 だが、そうしている間にももう一匹のピルグリムグドンからの狙撃が飛んでくる。
 この位置からピルグリムグドンに攻撃できるのは、弓矢を持つアルーンしかない。
 アルーンの狙撃に活路を見いだすか、多少の犠牲は覚悟の上でつっこむか。
 そんな思考が皆の頭によぎったその時だった。
「ギャッ!?」
 突如、最上段からピルグリムグドンの悲鳴が上がる。
 そこには、首から血を流し、狂乱に身を任せるピルグリムグドンと、鮮血に染まった鋼糸を手に佇む、グランスルグの姿があった。


「ギャア!」
 ハイドインシャドウからのシャドウスラッシュ。全くの不意打ちに、恐慌状態となった魔炎魔氷グドンは、隣の狙撃グドンに殴りかかる。
「ギャッ!?」
 最上段はあっという間に収拾のつかない状態となっていた。
「ギィ?」
 四段目に陣取るグドン達は、まだ上の異変に気づいていない。この機を逃す理由はなかった。
「今じゃ!」
 冒険者達は一気に、四段目へと飛び上がった。

「ハッ!」
 ナナの流水撃が複数のグドンの首をまとめて刈り取り、
「セイッ!」
 辛うじて生き残ったグドンの頭蓋を、アドニスのメイスが粉砕する。
「ハア」
 同様にクレハも大斧で流水撃を繰り出し、
「フッ」
 アリュナスも蛮刀を振るい、残ったグドンを屠り去る。
 やはり、同じ段に乗れば、力量の差は一目瞭然だ。
 最上段も味方の回復アビリティの射程内だと見て取ったソルトムーンは、四段目の乱戦を仲間に任せ、アリュナス一人が奮戦する最上段へと駆け上がる。
「此処が画竜点睛」
 裂帛の気合いを込めたソルトムーンの叫び声は、狙撃グドンを麻痺させた。
 その背後からグランスルグが鋼糸を振るう。
「ギッ!」
 身動きのできない狙撃グドンの喉が深々と切り裂かれた。
 狙撃グドンと魔炎魔氷グドン。どちらも強敵ではあるが、あくまでその力は距離をある程度とって発揮される。
 こうして接近を許せば、意外なほどもろい。

 一方、四段目のグドン達も、残りの冒険者達の手で、順調に駆逐されていた。
 冒険者達が武器を一振りする度、グドンの命が一つずつ消えていく。通常グドンの殲滅は時間の問題だった。
 それを悟ったアルーンは、最上段のピルグリムグドンに攻撃対象を移す。
「そこじゃ」
「ギャッ」
 何とか恐慌状態から抜け出した魔炎魔氷グドンに、影縫いの矢を撃ち放つ。
 再び動きを封じられた魔炎魔氷グドンと、まだ紅蓮の雄叫びの影響下にある狙撃グドンに、さらなる攻撃を加えたのは、ナトリアスだった。
「まとめて、屠る」
 無数の闇色の鎖が、最上段のピルグリムグドン二匹と、四段目の通常グドンの生き残りをまとめて捕縛する。
 ピルグリムグドンはまだ、辛うじて息をしているが、通常グドンはこれで完全に殲滅された。
 そして、それに呼応するように、ソルトムーンのハルバードが、目映い雷光を纏い、狙撃グドンの胸板に吸い込まれ、魔炎魔氷グドンの首に巻かれた、グランスルグの鋼糸が、ピンと音を立てたとき、この戦闘は終結を向かえたのであった。


 戦闘を終えた段々畑には、至る所にグドンの死体が転がり、辺りには血臭が充満している。
「ピルグドンは焼き払って置いた方が良いやもしれぬな」
 ソルトムーンは自らがトドメを刺したピルグリムグドンを見下ろし、呟いた。
 賛同の意を示した冒険者達は、ピルグリムグドンだけでなく、すべてのグドンの死体をかき集め、まとめて荼毘に付した。
 畑から離れたところで遺骸の山が耐え難い周期を放っている間に、冒険者達は可能な限り段々畑を修復する。
 幸い、石垣にはほとんど被害がないようだ。
 アドニスは、血で汚れた葡萄の木を洗浄しながら呟く。
「考えてみれば、この村の住人達が何代もかけてこの葡萄畑を築き上げてきた……いろいろな困難と戦い、それに打ち勝った結果がこの畑なのだろうな」
 手入れをするだけでもこれほど大変なのだ。この規模の段々畑を完成させるのに、果たしてどれだけの労力と時間を有したか。一見しただけでは想像もつかない。
「これで美味しい葡萄酒やジュースが飲めるわね、うふふ、できるのが楽しみだわ」
 クレハは、守りきった葡萄畑を見渡し、嬉しそうに笑った。


マスター:赤津詩乃 紹介ページ
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参加者:8人
作成日:2008/06/22
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