烏賊〜cuttlefish



<オープニング>


「海はこれからが季節じゃというのに、全く面倒じゃ。そうは思わぬか?」
 酒場に入るなり、月空に唄う霊査士・フェリセス(a90374)は息を吐いた。背後の、陽光に語らう武人・フミトキ(a90383)に同意を求めつつ。中央まで来て2人は、と言うかフェリセスが足を止めた……後ろを歩いていたフミトキのことなど、さっぱり気にしていないよう。
「さぁて、今回は怪獣退治じゃ。皆、張り切って行ってくれの。もう既に幾つかの退治依頼が来ている故、前置きは略す。巨大化した烏賊……何故、これでイカと読むのかのう。まぁ良いが、体長5メートルほどの烏賊を倒してきておくれ」
 霊査の結果をまとめた紙を、フェリセスは示す。そしてその紙を、後ろのフミトキに渡して。
「残りは頼んだ、お主なら大丈夫じゃ」
 と勝手な言葉を発して、フミトキを前に押し出した。お気の毒にフミトキは、先程フェリセスの背中にぶつけた鼻をまださすっている。眉を軽く寄せてから、仕方ないと言わんばかりに読み始めた。
「烏賊、体長約5メートル。色、白い。攻撃その1、10本の足で敵を捕獲し叩き付ける。攻撃その2、真っ黒な墨をかける。攻撃その3、相手に被さって丸呑みする……可能性。備考、強力な吸盤」
 振り返ったフミトキに、フェリセスは笑顔を創る。労いを込めて叩く肩を、そのまま引いた。
「攻撃その3はの、あくまでも可能性じゃ。実際に呑まれた者はおらぬが、餌を食する際にはこの方法を取るようじゃからの。まぁ、そこそこに注意してくれれば良い。あと烏賊じゃから、呉々も烏賊じゃからの。足ではなく胴体を狙わねば、討つこと叶わぬぞえ。それから、今回はフミトキも連れて行ってくれの……邪魔かも知れぬが」
 そこそことは、これまた無責任な。とか考えながら、フミトキは一歩前に出た。
「冒険に出るのは久し振りだ、邪魔にならないよう頑張るよ」
 フェリセスの冗談を、笑って流して。そうしてフェリセスとフミトキは、共に頭を下げるのだった。


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参加者
月穿つ豹の爪牙・セリオス(a00623)
聖骸探索者・ルミリア(a18506)
暁月夜の幻影・ルシエル(a36207)
夢みる仔猫な誤爆魔法少女・クランベリィ(a56302)
綾なす火炎の小獅子・スゥベル(a64211)
樹霊・シフィル(a64372)
蒼雷閃・カナト(a65324)
神魚を追い求める釣り人・ミオ(a66501)
見上げる者・ラセリア(a67470)
焉風・シークヴェルク(a70007)
NPC:陽海に舞う武人・フミトキ(a90383)



<リプレイ>

●砂浜の白き巨体
 青い空、蒼い海……眼を伏せたくなるほどの白。初夏に降り注ぐ朝の太陽は、砂浜に反射して後に烏賊を照らす。砂浜の最奥手に立つ敵を、冒険者達は最手前から見ていた。
「あの烏賊を狩ったら、暫く食料には困らないんだろうなぁ」
 暁月夜の幻影・ルシエル(a36207)が、何気なく呟く。何せ全長5メートルもの烏賊だ、この10人で頑張っても食べきるのは無理だろう。
「巨大烏賊を美味しく調理するなのー!! 絶対に烏賊はミーの腹に入るなのー!!」
 そんなルシエルの言葉に反応して、夢みる仔猫な誤爆魔法少女・クランベリィ(a56302)が叫んだ。握った拳を高く上げ、倒す前から食べる気満々。
(「巨大烏賊……美味しいかどうかよりも『体長5メートル、巨大烏賊焼き』って楽しそう」)
 クランベリィの傍らで、見上げる者・ラセリア(a67470)が笑う。両手を唇の前で合わせて、でも言葉には出さないように。頭の中でこっそりと、光景を思い浮かべた。
「足、触手、吸盤……昨今そういった海の怪獣が多うございますね」
 烏賊の動きを観察しながら、樹霊・シフィル(a64372)は言う。ウェットスーツに包んだ肩を、疲れたように軽く落とした。
「あぁ……だが、これは何だかマトモみたいだな。うん、安心。ともあれ海水浴の季節もすぐそこだし、海の治安を守りにいくとしますか」
 シフィルの台詞に、蒼雷閃・カナト(a65324)が頷いた。きっと烏賊は大丈夫だろうと、確たる根拠は無いけれども考える。そして気合いを入れ直し、カナトは走り出した。
「戦闘前に、予め伝えておきます」
 冒険者達が皆、同時に走り出す。その中でカナトは、陽光に語らう武人・フミトキ(a90383)の手を引いた。カナトからフミトキへと、指示が伝わる。真剣な眼差しを、フミトキは返した。
「そういえば、フミトキと一緒に冒険するのは初めてだよね。宜しくね」
 此方も走りながら、ルシエルが挨拶する。何時もの笑顔で、フミトキも宜しくと告げた。
「それでは行きますわよ!」
 後衛の位置で立ち止まり、シフィルは紋章を描く。放たれた光線が、烏賊の足を襲った。突然の攻撃に戸惑う烏賊に、今度は闇色の矢が突き刺さる。
「倒したらその足、食わせてもらうから安心して捌かれてろ!!」
 月穿つ豹の爪牙・セリオス(a00623)が生み出した矢は、次第に消滅。怒った……のであろう烏賊が、足をばたつかせた。巻き上がる砂に、前衛部隊の眼が眩む。そして伸びる足に、気付いたのは。
「焼き烏賊、と言ったところか……いや、烏賊焼きか?」
 ルシエルのエンブレムシャワーが、敵の足を直撃した。その全てを防ぎきるとともに、砂煙を晴らしていく光。味方は皆、無傷なようだ。
「とっとと倒して、海の平和を守るとしましょう!」
「はい、10本足なんかに負けませんとも!」
 頭上に掲げた紫扇「普天弑逆」を、綾なす火炎の小獅子・スゥベル(a64211)は威勢よく下ろした。呼応してラセリアも、宝剣【リィンティン】を前へと突き出す。音色の余韻から、打ち出された無数の針。七色に変わる針の中で、飛ぶはスゥベルの紅の炎。
「海の神がミーに食われろと烏賊に言ってるなのー。覚悟すると良いなのー♪♪♪」
 スゥベルとラセリアの攻撃に損害を受けた烏賊に、追い討ちをかけるクランベリィ。緑の縛撃で、烏賊を拘束する。涎を押さえながらも、離さないように集中。
「ゲソ、か……あ、いや、戦闘中に気を逸らすのはいけないですよね!」
 此処にも一人、蒼雷閃・カナト(a65324)も涎を抑える……押さえるのではなく、抑える。足を掻い潜り、カナトは高く高く跳んだ。烏賊の胴体へ、サンダークラッシュを打ち込む。
「本当……簡単に、焼きイカにでもなってくれると楽なんだがなっ!」
 焉風・シークヴェルク(a70007)の一言が、きっと皆の気持ちを代弁している。そのくらい、カナトの電撃が強烈だった。烏賊から離れるカナトと、シークヴェルクは空中で擦れ違う。覇者パイクに精一杯の力を込めて、カナトに負けない勢いの電撃を放った。そのすぐ後を、フミトキのサンダークラッシュが追う。三連電撃に追撃も喰らい、烏賊の動きが鈍り始めた。
「ボクも行くよっ、覚悟してよね!」
 釣具「翡翠碧」を素早く薙ぎ、神魚を追い求める釣り人・ミオ(a66501)はソニックウェーブを繰り出す。しかし、烏賊も黙ってやられてはくれない。対抗して出した足が、衝撃波を喰らいながらもミオを打った。何とか防御するも、太い足の直撃はなかなかの振動をミオへと伝える。
「まぁ、すぐに治療をいたしますわ!」
 耐えきり退がるミオの許へ、聖戦の・ルミリア(a18506)が駆け寄った。柔らかい光波は、ミオの傷を癒していく。もう一度、ミオが立ち上がる。ルミリアも、鋭い視線で烏賊を捉えた。
「ワイルドファイアから遠路はるばるやってきただけなのに、退治すると言うのもかわいそうな話ですが……ここでは受け入れられないのですよ、ごめんなさいね〜」
 口調の優しさとは裏腹に、ルミリアの瞳は真剣そのもの。Staff of the covenantの先に、輝く光槍を生み出した。杖を突き出すのと同時に、聖なる槍が烏賊を貫く。
 じりじり灼かれる感覚に、冒険者達は汗をぬぐった。太陽は天頂から、戦闘の行方を見守っている。

●海辺の白き御馳走
 長い戦闘の末、烏賊は倒れた。砂浜だった領域が、先程よりも広くなっている。海水の蒼はますます濃く、むしろ黒く染まってしまった。烏賊の身体も、冒険者の数人も、ちょっと黒がかかっている。
「ちょっと、墨まみれは御免でございますので」
 そう言いつつシフィルは、烏賊の足許に攻撃を集中させていた。連なる光線が、ついには足を撃ち落とす。動きのやまない足を躱し、セリオスは鮫牙の矢をその手に握った。切断しかかっていた足を、鋭い逆棘で削り落とす。此処で問題の、黒き液体……すぐ近くの敵から身を護ろうと、烏賊が思い切り墨を吐いたのだ。漆黒のアイマスクでもって、セリオスは自らの視界を確保する。しかし身体は……そして、仲間も。少なくとも前衛は、身体の何処かしらにはかかってしまったようだった。心配していた状態異常の効果は無いようで、それだけが救いだった……かも知れない。
「んのやろ、こんがりと焼いてやるよッ!」
 足に僅かかかった墨が、スゥベルの表情に朱をそそぐ。本日最大級の火球を、スゥベルは烏賊の胴体へと叩き込んだ。見事命中し、烏賊は大きく均衡を崩す。何とか踏ん張るも、そろそろ限界か。
「巨大烏賊、ココロ踊るなのー!! 気分ウキウキなのねー!!」
 両腕を大きく開いて、クランベリィは業火を撃ち出した。気のせいか最初よりも、元気が増しているような……烏賊を食す時が近付いてきているからだろうか、クランベリィ。
「大人しく……料理されていろ!」
 冥境礼賛・ケイオスを振り翳し、ルシエルは銀狼を放った。身動きの取れない烏賊など、冒険者達の敵ではない。残る力を出し切って、一気に畳み掛ける。
「流石にイカに負けると、恰好が付かんからなっ!」
 高く跳躍してシークヴェルクは、重槍から鎖を射出する。苦しむ烏賊に、今度はカナトが稲妻の闘気を込めた‐Vajranda‐で斬り付けた。ミオのソニックウェーブで、烏賊の動きがやむ。最期、ラセリアのニードルスピアとフミトキのサンダークラッシュとのコンビネーション。特有の生命反応が消え、烏賊は波打ち際に倒れるのだった。
「この烏賊、食べられるのかな……食べられるんだったら、皆で料理して食べない?」
 ミオの呼び掛けに、冒険者達は速攻で頷く。食する行為が、皆の想定する処理方法だったようだ。
「すごい口していますよね〜目もすごいですね〜。そもそも、烏賊って何を食べているのでしょうね。この烏賊、さすがに丸ごと焼いたりはしませんよね? 切って調理しますよね……巨大烏賊焼き……」
 くるくる、ラセリアは烏賊の身体の周りを廻る。巨大烏賊焼きは見てみたかった、食べる気は無いのだけれども。残念がるラセリアに、冒険者達は優しく微笑んだ。
「うーん……物は試しですよね」
 戦闘で切り落とした足を見ながら、カナトは思案する。刺身を作ることに決めて、携帯鍋セットを取り出した。手際よく、カナトは足を捌いていく。
「あら? ふふふ、良い波が参りましたわ」
 その間に、シフィルは波乗りを楽しんだ。多少の経験もあるため、安心していたのだが。
「わたくしの腕前も中々……あ、あら? きゃっ!」
 少し寒いが海に漬かるのも、また波乗りの醍醐味だろう。シフィルの様子を、砂浜からルミリアが眺める。そのまま海の向こうへと視線を移動して、遙か遠くの大陸を思った。
「ワイルドファイアの『大』自然も面白くて良いのですが、やっぱり普通サイズの自然が一番ですわ」
 美味しそうな匂いが、砂浜に漂う。ルシエルが、ルミリアの隣に位置取った。両手には、2本の焼き烏賊。ルシエルが自分で食べる分と、ルミリアに渡す分。料理は出来ないからと加わらなかったルミリアに、折角だからとルシエルが勧める。礼を言い、ルミリアもルシエルと一緒に烏賊を頬張った。
「んむ、フミトキさんもひとつワイルドにどーですか?」
 がっつり烏賊にかぶりつきながら、スゥベルはフミトキに訊ねる。無表情に海を眺めていたが、スゥベルの言葉にすっかり笑顔を取り戻して。傍らに座ってから、フミトキも烏賊にかじりついた。スゥベルが選んでくれた、こんがり焼き色の付いた1本……のうちの部分。スゥベルのように1本まるまる食べるのは、フミトキには難しかったので。
「烏賊でどうしてイカと読むのかというと、イカは水面に死んでるように浮いていて、それをカラスが啄ばもうとするのを逆に捕らえた、烏にとって賊というべきものという古い言い伝えからきてるらしいな」
 もそもそと烏賊を食べ始めたフミトキに、セリオスが教える。酒場で霊査士が言っていた疑問だが、フミトキにもその答えは判らなかった。フミトキは興味深く、セリオスの話を聴いていた。そのセリオスも、烏賊の丸焼きを手にしている。だが早々に食べ終えて、魚を獲りに浅瀬へと行ってしまった。
「ぃよーっし!! ミーも烏賊を探すなのー。烏賊、まっとれよー♪ 勿! タコでも大歓迎なのー♪」
 セリオスの行動を見て、クランベリィも走り出した。もう既に大量の烏賊焼きを消費していて、でもまださらに食糧を求めている。あ、冷たいよ……海に潜って行ってしまった。
「あははは……さて、味の保障は出来ませんけど皆さん如何ですか?」
 クランベリィに苦笑を漏らしつつ、カナトが皿を運んでくる。美味しそうな白の刺身が、冒険者達の食欲を誘う。カナトは勿論、大部分の者は普通に食べ始めたのだが。シークヴェルクだけは、恐る恐る一切れを口に入れた。
「おわー、イカは食っても食われるな……とはよく言ったもんだな」
 烏賊の味を感じながら、改めて巨体を見上げるシークヴェルク。何言ってんだと、幾つかの声が飛んでくる。真剣に考え込む者の姿も、ちらほらと。
「若いってのは良いなー様々な意味で。うん」
 海で遊ぶ仲間に、何を感じたのか。シークヴェルクはしみじみと、感想を述べるのだった。


マスター:穿音春都 紹介ページ
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作成日:2008/06/22
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重傷者:なし
死亡者:なし
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