≪密林の楽園Gパンポルナ≫うるおい環状線



<オープニング>


 巨大な蟻の巣の底には、巨大な琥珀が鎮座していた。
 余りの大きさと、余りの巣の深さ故に動かすこともままならず、琥珀はずっとそこに据え置かれている。
 琥珀のある場所を、護衛士達は『琥珀部屋』と呼んでいた。
 周囲は、みな土。
 琥珀の全容を知ろうと、護衛士らはその土を上下左右に掘り進み……やがて掘り過ぎて部屋がどでかくなってしまった。その為、琥珀部屋は現在『琥珀大部屋』と名を変え、変えた割にやることも状況もそんなに変わってなかったり。
 そして、部屋に異変が現れたのは、琥珀部屋が琥珀大部屋になったその頃であった……。

 最初の異変は、琥珀の妙な傾きだった。
「……モグラグドンがいそうな感じがしますが、遭遇は願い下げですね」
 全くです、といった様子で頷きを返す、小さき護りの楯・アドミニ(a27994)。
 下に何か……そのキーワードに、迷子の守護者・フィール(a09183)はふいに、地底に住む例の種族とその眷属を思い出す。
「このまま掘り下げていったら地獄に直結、アンデッドとご対面というのもごめんこうむりたいです」
 その言葉を皮切りに、地下帝国に地底ソルレオンが居て重騎士に救いの手を差し伸べてくれるとか、綺麗なトロウルが居るなど、夢広がる一幕も……
 だが、次に足元に起った異変は、地面を這う、ぞわぞわぞわ、とした感触だった。
 何か居る。
 黒いものが見えたとか見えないとか言われる中、妙にモグラグドンとの遭遇率が高い、神術数奇・リューシャ(a57430)は、既に気付いていた。
 これはモグラグドンではない!
 正体を探るべく地面を見遣って、人形遣い・トラス(a58973)は玉のような汗を額に一つ。
 リューシャはそれにはっとする。
「……いかん、オケラグドンとか出られたら事だ……!」
「グドンは哺乳類でござるよ!? だからミミズだって場! このカシオミニを賭けても良い!」
 言って、カシオミニを手にする、しっぽふわふわ・イツキ(a33018)。ちなみに藻類だ。おいしいよ!
「下に空洞があって琥珀と一緒に落ちていく……なんて落ちはないですよね?」
 砂上桜花・ファルク(a20791)の呟きも手伝って、揺れに伝う不安と緊張。
 その時、樹霊・シフィル(a64372)は。
 琥珀の動きと連動して、ぞわぞわの動きが活発化していることに気が付く。
「いずれにせよ、この琥珀が鍵でございましょうか?」
 理由は……考えても仕方ない。行動あるのみ、シフィルは下僕達と共に、琥珀を揺すり始めた。
 すると!
「……蚯蚓かー! おのれこの環形動物めー!」
 試しに殴るも、余りの硬さに打ちひしがれるリューシャ。恐るべし、静水力学的骨格。
「硬いなら鎧強度無視のアビリティで……誰かお願いします」
「キモォオオオオオ!!! 何処見てるんだかサッパリ解らない造形がキモォオオオオ!」
「ミミズはあの大きさだからミミズなんだよね。ここまで来ると何か地球外生命体みたいだね」
「ぬあああああ!?」
 他力本願から半狂乱まで、幅広い叫びが響き渡る!
 しかし、一握の良識・シェルディン(a49340)がみみずを食材と称した途端、皆の態度が駆逐から食材確保に急変するのだが、流石としか言いようがない。
 そんな様子を、毒林檎・ヘルガ(a00829)は何処となく楽しげに見つめ。
「シャーペンユーアップってか」
 笑いつつ繰り出すヴォイドスクラッチ。内部を掻き毟る痛みに、一層うねりを上げるみみず……同時に、揺れ動く琥珀。
「てか、琥珀に尻尾踏まれてるとかのオチじゃねーよな?」
「……琥珀持ち上げてみます?」
 尋ね返す、蒼い翼のサーチライト・フィード(a35267)。
 すると、狂気が乱舞の赤ペンギン・ヒナタ(a40516)から出される、いっそ琥珀を破壊しよう案!
 だが、三賞太夫・ツァド(a51649)が説得に琥珀の下に回り込んだ為、むしろ床を壊そうという話になり、ヒナタ、フィード、トラスの猛攻撃によって床は陥落、ツァドは琥珀と共に下層の穴へと落下。
 ある種予想通りの展開に、皆は次々穴へと飛び込み、フィードが潰され、イツキは吹き飛ばされてみみずに衝突するなどの出来事が相次いだ。

「だ、大丈夫ですかなぁ〜ん」
 穴を覗き込み、高空の戦娘・エミルリィル(a52732)が結び目を作ったロープを投げ入れる。
「……はっ、そういえばミミズはどうなったかなぁ〜ん?」
 よくよく見れば、そこに残っているのは大きな穴だけ。みみずはどうやら、穴を掘り進んで遠ざかっているようだが……護衛士らの後ろからの追撃に耐えかねてか、姿が見えなくなっていく。
 だが!
 一難去ってまた一難!
 この後、救出を催促し、ロープを過剰に要求したが為に、ロープではなく矢鱈強靭な釣り糸が投げ入れられる。
「なぁ〜ん?」
 餌の如くに、暴れノソリン・タニア(a19371)を引っ掛けたその縄は、いかにも怪しい雰囲気を漂わせていた。
 故に、フィードはまるでネタ振りであるかのように、叫んでいたという。
「イツキさん引くなよ、絶対引くなよ!」
 そしてその期待に応えるかのように、イツキは縄を握ったまま、
「んぶぅぇ〜〜〜〜っくしょい!」
 くしゃみ一発、瓦礫惨状。
「くぁ! ちょっ!! 誰がコントなマネをしろとぉ〜」
「ぎゃあああああ!! ちょっと、上の部屋からいろいろ降ってきてるんじゃないのこれ!」
「撤収班が居ないから、降って来る一方だよ瓦礫ー!!」
「とりあえず崩落が落ち着くまでは……おぉミミズがいつの間にか逃げていった穴がありますよ!」
 土砂で埋まりそうな穴を大岩斬で切り崩しながら、ツァドが皆へ向け叫ぶ!
「ここはしばらく維持できますから穴に逃げられる方は急いで!」
「くぁ! 虎穴に入らずんばナントヤラ! 折角だから赤ペンはこのミミズ穴を選ぶぜーのオチ!」
「有り難うツァド殿! 君の献身は忘れない!」
「まあ毒を食らわば皿までと言いますし、徹底的に逝ってみましょうか」
「み、みんな置いてかないでー!!」
 様々な声が飛び交う中、かくして、天井の崩落は更に進み……落下した護衛士の一部は、みみず穴へ強制的に退避する羽目になるのであった。

 琥珀大部屋への未知が途絶えた穴の中、ヒナタがランプの明かりを灯す。
 飛び込んだせいでまた潰されたり潰したりしているのを、ファルクがレスキューレスキューと手際よく助けているのが見える。
「え〜と、とりあえず、いるか?」
 押し潰されて気分的にぺらぺらになっている二人へ向け、流れる白波と潮風に舞う・ハルト(a36576)がそっと差し出す空気入れ。
 一先ず全員無事であることを確かめると、ヒナタは改めて退路を見上げ。
「……くぁ、まぁ〜今更上に戻るのもだ〜し、救助は後続班に任〜し先に進むのオチ?」
「そうだな〜面倒だからこのまま地底まで掘り進むか〜」
「ナントカと煙は高い所が好きといいますし、自称知的なリザードマンとしては下へとミミズを追いかけるのを進言しますね」
 その穴の奥からは、今も不気味にみみずが穴を掘る音が響いている。
「……そういえば、この辺りは少し様子が違いますね?」
 ふと見上げ、壁を擦るトラス。
 よくよく見れば、それは土ではなく、岩の壁。いかに巨大とはいえ、掘ることは叶わなかったのだろう、みみずは岩壁沿いに下へ下へと掘り進んでいるようだ――
 ――が、その隙間から、じわじわ染み出しているのは、水?
「……この向こうって、ひょっとして地底湖でしょうか」
「え、じゃあ、うっかり割れたりしたら……」
 不意に浮かんだ考えに、突然あわわわわと右左前後左右に視線を彷徨わせ始めるイツキ。
 止めのようにツァドは。
「そうなると、逃げられませんね」
 その時。
 フィードの耳に、いや〜な音が……それこそ、岩伝いに聞こえてきていた。
「あのみみず、ひょっとして岩を削ってるんじゃ……」
「脆くなっている所を見つけたのかも知れません」
「ちょ、危ないジャン!?」
 俄に騒がしくなる穴の中。
 つまりこれは、みみずの進路を変えるか、いっそ倒してしまうかしなくては、琥珀大部屋ごと浸水してしまうかも知れないという……!
「くぁ〜……こ〜れはヤバイのオ〜チね」
 穴の奥からは、未だに不気味な音が響いていた。

 みみずの行方は。奴を今夜のおかずにするべきか否か。
 上からの救助を待つか、強引に登るのか。
 そしてなにより、間に合うのか!
 どうする護衛士!


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参加者
毒林檎・ヘルガ(a00829)
三ツ桜・ファルク(a20791)
しっぽふわふわ・イツキ(a33018)
輪廻の翼・フィード(a35267)
流れる白波と潮風に舞う・ハルト(a36576)
狂気が乱舞の赤ペンギン・ヒナタ(a40516)
若緑樹へ寄り添う紫眼竜・シェルディン(a49340)
三賞太夫・ツァド(a51649)
神術数奇・リューシャ(a57430)
樹霊・シフィル(a64372)


<リプレイ>

●発掘あるある
 琥珀部屋で崩落。
 琥珀ば無事だろうかと、若干薄情な事を考えたりしてみる、樹霊・シフィル(a64372)。
「あらあら、丁度良い所にロープがございましたわ」
 最近、そこかしこに縄が張り巡らされている。それら皆、迷子防止用ガイドロープだったりするのだが、そんなことを気に掛けるでもなく、シフィルは目に付く縄を全部回収しながら、現場へと向かっていくのだった……

 ぽつぽつと灯るカンテラの灯り。
 その一つを手に、毒林檎・ヘルガ(a00829)がいつものように笑っている。
「……こう、改めて状況を確認すると、愉快だな、パンポルナ」
「現状に対して動じなくなった点では成長したと思います」
 砂上桜花・ファルク(a20791)も灯りを手にしみじみと。
「しかし……今回も騒動は避けられないんでしょうね……」
「くぁ、何と言う危険フラグがビンビンの展開……」
 だがそれがいい。
 きりっ、とした顔で付け加える、狂気が乱舞の赤ペンギン・ヒナタ(a40516)。
 更には、危険フラグを飲み干してこそ真のツワモノ! なんて言っちゃってる。
「この依頼が終わったら真剣に泳ぎの練習をしたいですね」
 ……あぁ、何故死亡フラグがこうも頭に過るのか。
 一握の良識・シェルディン(a49340)はとにかく、溺れるという単語を脳裏から末梢しながら、浮袋代わりのウレタンを縫い付けたマントをいつもよりきっちりと身に纏う。
 そして、そこに現れるのは!
「みんなの期待に応えて『全てを重さで解決する漢』ツァド、只今参上!」
 ――沈黙。
 三賞太夫・ツァド(a51649)は目を瞬かせると。
「さっきから『割ーれ割ーれ……』という心の声が聞こえていたのですが……幻聴ですかね?」
「幻聴です」
 シェルディン早い。
「……とりあえず助けてくださぁい!」
 穴の中心で哀を叫ぶ、しっぽふわふわ・イツキ(a33018)の横では、蒼い翼のサーチライト・フィード(a35267)が何故こんな事になっているのかといった顔。
 元はといえば、換気口を通したかっただけなのに、やればやるほど地底深く潜っているのだから無理もない。
 これで浸水しようものなら、文字通り泥沼だ!
 とにかくはミミズの進路を変えなければ。
「ストップミミズ君!」
「誘導できればいいのですが……」
 先ずは説得を。フィードとファルクは取り急ぎ、穴倉の中に魅了の歌を響かせた。

●うねうね
 ……うっかりと殴ってみたあの痛みは忘れない。普通逆なんだけど。
 それよりも、壁に当たったら迂回する事も時には必要ですよ?
 しみじみ零しながら、神術数奇・リューシャ(a57430)は周囲の粘土質の土で土塊の下僕の量産を始めていた。
「……無駄に良質の土質になってる……流石は自然の耕耘機……」
 さすがワイルドファイア、知らないだけできっと今までもこんな営みが続けられてたんだなと、流れる白波と潮風に舞う・ハルト(a36576)も感心した様子。
 いやでもそれより、そのうち纏めて地盤沈下とかしそうなのが心配ではあるが。
 とにかく今の内に。イツキと手分けして鎧聖降臨をばら撒きながら、ツァドはふと。
「このミミズ怪獣が水棲のイトミミズやミズミミズで水辺を目指して穴を掘っている可能性があるんじゃ……」
 それよりも、ミミズに知性があるのか否か。いや、これはミミズでなくてミミズ怪獣という、カテゴリ的には怪獣に属する生物なので、それなりに会話は通じると思うが。
「まあ所詮は雌雄同体だよなー」
 それ、紐?
 としか思えない水着姿に変貌しながら、とりあえず傍観しておくヘルガ。しげきてき!!
「そんな岩場よりも、こちらの方が断然進み易いですよ。食糧になるものも、柔らかい土の方がきっと沢山見つかります」
「そうだよ。それにそっち行くと水が噴き出すよ! 君も溺れちゃうんだよ! そんな姿見たくない!」
 穏便に、時に情熱的に語り掛ける二人。
 しかし、どうにも頑固ちゃんなミミズは、つーんとした様子で岩をがりがりやっている。
 ……ひょっとして、遭遇してすぐに攻撃を仕掛けた事に怒っているのだろうか。
 これはどうにもならない。フィードとファルクは顔を見合わせ。
「ダメというなら仕方ない」
「……縦穴で水泳は避けたかったのですが」
 ならば俺の出番とばかり、ミミズへ向かうハルト。
 騎乗状態ではあるが、召喚獣は魂の片鱗。手足の延長の如く自在に動くグランスティードの四足が、徐々にステップを踏み始め……
「酒場でならした舞のきれ、とくと見るがいい!」
 力強く繰り出される踊りが、フールダンス♪の力を得て、ミミズの身体を支配、ハルトの動きに合わせてミミズらしからぬ動作を始める。
「よし、効いてるぞ」
 このまま上へ連れてって、その後美味しくいただこう。沸き上がる思いゆえか、更に踊りに熱が入る。
 そして、クライマックスといわんばかりに、震脚の如きステップで大地を踏み締めた時!
「……今、揺れませんでした?」
「私じゃないですよ」
「あ、また」
「……水漏れてる、水!」
 ノリノリで踊る余りか、振動が岩を伝い亀裂から細やかな水が噴き出る光景に、危機を感じた皆が一斉に動き出す!
 血の覚醒も鎧聖降臨も準備万端、ヒナタは真っ先に駆けつけ、放蕩の香り!
「くぁ、喰らえ! 伝統と信頼を誇る癒しのアロマ〜」
 立ち込める香りと紫煙。注目効果を気にしてか、踊らされながらもミミズが一瞬振り返る。
 その隙を突いて、岩の亀裂を死守するべく、ミミズとの隙間へ身体を滑り込ませるイツキ。
「とにかく岩から離すぞ! って拙者吹き飛ばし持ってないでござる!?」
「さり気無く誰も持ってねーんじゃ」
 静水力学的骨格でもへっちゃらなヴォイドスクラッチを生成、ミミズの尻の辺りを何となくえろちっくに引っ掻きながら、ヘルガはふと。
「良く見ると是はコレでナンか勿体ねーっつーか」
 何を想像したかは皆の良識にお任せ!
 とにかく水漏れだけは阻止。リューシャもミミズが隙間を作った瞬間を狙い、量産済みの土塊の下僕達へ号令一過。
「……さあ体を張って塞ぐのです……って待て、体当たりしろとは言っとらん!」
 大慌てで身振り手振りを交え、挟まれ挟まれと指示を飛ばす。
 その直後。
 フールダンス♪の影響から抜け出たミミズが、鋭い剛毛を出し入れして激しく身をくねらせる。
 ヒナタを狙っているのかも知れないが……
「くぁ、方〜向転換が、遅〜いのオチ」
 ならば光にはどう反応するだろう?
 思うフィードの頭部が眩い光を放ったのはその瞬間。振り向いたミミズは一瞬目を回したように硬直したが……やがて、同じように蠢きを続け、段々と此方に向かおうとしている。どうやら、発光を嫌うのは一瞬のみで、スーパースポットライト自身の持つ注目効果の方が、影響力が勝っているようだ。
 しかし、注目効果はバッドステータスではない。意志を曲げてしまうほどの威力はなく、急に心変わりして逃げてしまう可能性は常に付きまとう。
「ならば」
 言って地を蹴るシェルディン。手にしたオクスタン(突撃槍)をより強く握り締め……デュエルアタック!
「はっ!!」
 短く、それでいて、骨身を振るわせるような裂帛の一喝と共に、ミミズの表皮へと突き立てられる切っ先。
 途端に、怒りに支配されたミミズは狭い穴の中で身体を折り返すと、猛烈な勢いでシェルディンに向かって進撃を始めた。

●一方その頃
 琥珀部屋に空いた大穴と、その下にある土砂。
 ……土塊の下僕60体分持ってきてよかった!
 そう思わずにいられない埋まりっぷり。シフィルは早速下僕を三体召喚、掘る、バケツに入れる、バケツをロープで引き上げる、の流れ作業を申しつける。
「何と申しましょうか……黄色のヘルメットが欲しゅうなりますわね」
 下僕が土を掻き出している間、自分は大量に集めてきた縄をつなげたり編んだり。途中、そっと覗き込むと。
「琥珀も見事に埋まっておりますわね……」
 一緒に落っこちた琥珀の天辺が、きらきら光って見えていた。

●おかず
 体構造によって驚異的な強靭さを持つ胴が、容赦なく土を削り迫り来る。
「確かに武人に鎧強度無視のアビリティはありません。ならば鎧砕きでアーマーブレイク状態にしてしまえば!」
 ミミズの頭部が眼前を行過ぎる寸前、僅かに身を逸らして側面に滑り込むと、ファルクは突撃の力を全て載せ、鎧砕きを打ち下ろす!
 ぶつり、と潜り込む切っ先。
 そしてもう一人。
 前面に位置取ってミミズを待ち構えていたツァドもまた、進むミミズの側面で、鮫の歯を集め作られた骨刀を振り上げる。
「手伝ってやろうか? ただし真っ二つだがなぁ!」
 言うが早いか、叩き付けられる兜割り。切っ先は、兜ならぬミミズの節の一つにぱっくりと割れ目を穿つ。
 そのミミズの体が、何かに突き当たったかのようにどーんと揺れる。
「大丈夫、まだまだ、こんな物では倒れません」
 吹き飛ばされ、しかし、受身を取って立ち上がるシェルディン。回復を待つその間、ツァドが進路上に割り込み、その脇でヒナタが注目効果を見せびらかすようにしながら……どう見てもフリッパー(ペンギンの翼)にしか見えない両手の篭手に、燃え上がる闘気を凝縮する。
「くぁ! 荒ぶる赤ペン炎の舞!」
 ごぉん! と音を立て、穴倉を一瞬眩く照らす噴炎。チョップ宜しく、騎上から叩き付けられたフレイムブレードの魔炎が、ミミズの頭から尻までを包み込んでいく。
 そしてその尻側でも、ヘルガが黒い炎を練り上げる。
 動く度に紐から色々漏れそうになるものは、とぐろを巻く赤い蛇のお陰で見えない。グッジョブペインヴァイパー。
 そして、召喚獣は三つ首の獣を模す炎へ、赤い息を吐き零す。
「皮膚呼吸するミミズが表面魔炎やらで覆われたらダメージキツかろ」
 炎の発する光を嫌って遠ざかることも期待しつつ、尻の穴目掛けスキュラフレイム!
 二倍になって燃え盛る魔炎に、ミミズから、なんか、こう……
「……焼きミミズ……匂いがそれなりに良い辺り、うーむ……」
 蛋白質として良質なのではないかと分析するリューシャ。
 その手にある重い魔道書から立ち上る魔力が紋章に換わり、召喚獣の髪が銀から虹色へと光り輝く。
 突如吹き荒れる、緑の縛撃。葉の大群は虹色に明滅しながら螺旋を描いてミミズに絡みつき、収束と共に動きを強引に封じ込めた。
 追い立てるように、イツキも騎上から斧を振り落とす。
「壁天井への振動は最小限に……」
 突撃の力を与えられた兜割りが、ミミズの尻を引っ叩き、押し出すようにして食い込む。少しでも攻撃の振動をミミズ自体に吸収させ、崩落や水没の危険性を減らさねば。
 そして、正面では……口に目掛け、ハルトが武骨な棍棒を振り上げていた。
「大丈夫、一部ミンチになっても後で集めて洗ってハンバーグに出来る!」
 食す気満々、パワーブレード!
 めりっ、と裂けるミミズの口元。ちょっとだけぐろい。
 更に続けて、今度は表皮をものともせぬ一撃。
「……慣れれば何かハムみたいに見えなくも……ない!」
 細く、それでいて強靭で、優雅。宙を凪ぐフィードの鋼糸がミミズを焦がす魔炎を浴びて煌いたかと思うと、その軌跡から衝撃波が解き放たれた。
 真正面よりやや曲がった位置にある胴へと、吸い込まれるように消えていくソニックウェーブ。
 緑と炎に塗れたまま、ミミズはびくっ、と身体を振るわせ……その側面で、ファルクが抜いた刀を一度鞘へと納めて直す。
 一呼吸。
 その間に刃に生まれ、鞘をも覆い尽くす雷撃の闘気!
 閃光が、穴を照らす。
 最初にぷつりとした感触を得たあとは、まるで空気でも切るように、刀は振りぬかれていた。
 そして、破れた口腔から一直線に、頭部と思しき部位の半ばまでを、電刃居合い斬りは上下に分断していたのだった。

●まさかそんな
 全てが終わった瞬間、皆は一斉に岩へと視線を走らせる!
 ……じょろじょろじょろじょろ。
「い、今のうちなら大丈夫だよね!?」
「くぁ、無い、無い筈のオチ……」
 不吉な水音に身震いしつつ、既にミミズを食材として認知しているハルトが解体作業しているのを見遣るイツキとヒナタ。
 シェルディンは大急ぎで切り分けられたミミズを大袋に詰め。
「まぁ見た目はブラストワームの親戚そのもの。食べられるとは思いますよ」
 ファルクも詰められた袋や、ミミズそのものの牽引を手伝って、段々と元来た穴の方へと移動していく。
「それはそうと、出る方法も考えないと……」
 見上げた穴は……少しは傾斜があるのだろうか。楔を打ち込んで少しずつ登れば帰れなくもないだろうと、早速作業を開始するフィード。
 ……誰かが岩をぶち割ったら?
 ないと信じる。
 信じてるよ仲間だもん!
 そんな心を見透かしたかのように、というか、きっと全員考えてたせいだとは思うが、ヘルガはからからと笑いながら、
「この世には不慮の事故と言う便利な言葉が有ってな」
 本人曰く、大人の余裕らしい。
 その間、ツァドは水漏れする亀裂をじーっと見上げ……あれ、なんだか埋め込まれているような気がしますよ?
「いやしかし、凄まじい掘削力だったんですね……おや、シェルディンさん、一体何を」
「泳げない人間にそんな余裕は有りません」
 めっちゃぐいぐい押し込んでる。
「俺を中栓に……」
 そうして、ツァドが地味に漏水をせき止めてる間、皆は脱出作業に専念。ハルトだけは、万が一に備えて何故か裏拳の用意をしつつ見張っていたりしたが。
 ……と、その時。
 ぼこり、と出口を塞ぐ土が取り除かれ、薄明かりと共に長い縄が垂れ下がってきたではないか。
「あらあら、皆様。ご機嫌宜しゅう」
「おおっ、シフィル殿!」
 穴から覗く見覚えのある顔に、一転、明るくなる皆の表情。
「よかった、無事に出られる!」
「絶対泳ぐ羽目になると思ってました。ええ」
 がっつりと浮輪を抱きしめて言うリューシャ。
「油断は禁物です。早く上がりましょう」
 そうして皆はシフィルの垂らした縄を伝い、無事に琥珀部屋の位置にまで、這い上がることができた。
 皆を引き上げながら……シフィルは何処か名残惜しそうに、縦穴の底で光る褐色を見下ろす。
「ここから琥珀を引き揚げるには、如何様にすれば宜しいので御座いましょう……」
「あえて浸水させて浮かせるってのはどーよ」
 琥珀は水に浮く。ましてやあんな大きさなら間違いなく浮くはずだと、ヘルガは言う。
「とりあえず一旦戻ってから考えよう」
「それにしても、何も起こらなかったのが逆に不思議なのは、私の価値観が変わってきたせいなのでしょうか」
 そんなファルクの呟きと共に、皆は戦利品のミミズを持って、本部へと帰還するのであった。


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