マンモスファイヤー 風が運ぶ悪夢



<オープニング>


「あそこには行かない方がいいなぁ〜ん」
 偶然に立ち寄ったその村で、1人の老人が顔をしかめた。
「え、どうして?」
 スカンク・スージィ(a63178)が問い返したのも無理はない。ヒトノソリンの老人は、彼女達が冒険者であると知った上で引き留めたのだ。
 以前にこの村を訪れた冒険者から聞いた話だと前置きし、老人は語った。マン森には迷惑極まる巨大動物がいるらしいと。
 フサフサとした獣毛は白と黒にはっきりと分かれ、動きは敏捷。縄張り意識が強く、強烈な悪臭を放って敵を攻撃する――。
「……もしかして、スカンク?」
 特徴から推理した彼女の言葉に、老人は頷いた。
 少女の脳裏に蘇ったのは、過去の苦い想い出。臭いと共に染み付いたトラウマとイメージは、今も彼女に付いて回っている。
 老人との会話を早々に切り上げた少女は、急ぐ足取りで仲間のもとへと向かった。
 自分のイメージを払拭するチャンスかも知れない。
 例えば、格好良くスカンク怪獣を倒して見せるとか。
 ダメなら新たな犠牲者を出して、自分のイメージをなすり付けちゃうとか。
 思いを巡らすスージィの表情は、どう見ても悪戯っ子のそれであった。


「う〜ん、またスカンク怪獣ですかぁ……」
 森の中をてくてく歩きながら、紋章の申し子・メロディ(a55297)は首を傾げた。前に似たような依頼を受けてから、まだ半年しか経っていない。
「ワイルドファイアって、スカンク怪獣多いのかなぁ」
 動物マニア・ポポル(a51163)の歩調に合せ、灰色の髪の一房がゆらゆらと揺れる。『珍しい動物の図鑑』に書き込むべき内容が、またひとつ増えるかも知れない。
「でもきっと、また臭い攻撃をされるんですよね?」
 回復屋さん・ルシルク(a50996)が気にしているのはその点だった。服や髪に匂いが付くのは、乙女としては避けたいところ。
「大丈夫です! 今度は油断しませんから!」
 やけに気合いの入った様子で、思いを届ける弓使い・ラクト(a67219)が拳を握る。彼女もまた、スージィと共に至近から悪臭攻撃を受けた経験があったのだ。
「……いい風だな」
 サワサワと揺れる梢を見上げ、黒い追われ者・レムゥ(a21149)が呟いた。透かし見た木漏れ日に目を細めるも、微笑みは未発に終わる。風向きが変わったのだ。
「オゥオゥ、一体何だこの匂いは?」
 吐き気を堪える表情で、チキンレッグの牙狩人・オウオウ(a73949)は周囲を見回した。突如襲ってきた強烈な悪臭は、今までに経験した事もないものであった。腐ったタマネギを火に投げ込んだら、似たような臭気を発するのではないだろうか。鼻を突くというより、胸が悪くなるような匂い。
「匂いを辿れば、スカンク怪獣を発見出来る筈ですよぅ」
 悪夢のようなその匂いに、おねむな吟遊武人・ノノワール(a67723)は覚えがあった。嫌な事は早く終わらせたいとばかりに、彼女は風上に向かって歩き始めた。


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参加者
黒い追われ者・レムゥ(a21149)
白き衣の癒し手・ルシルク(a50996)
疾風の翔剣士・ポポル(a51163)
紋章の申し子・メロディ(a55297)
草を撫でる風・スージィ(a63178)
思いを届ける弓使い・ラクト(a67219)
おねむな吟遊武人・ノノワール(a67723)
数撃ちゃ当たるぜ・オウオウ(a73949)


<リプレイ>


「うぅぅ……風に混じってるだけなのに臭いです……きゃあ!」
 地表に露出していた大樹の根に足を捕られ、紋章の申し子・メロディ(a55297)は小さな悲鳴を上げた。転びやすい自覚がある為に普段から十分な注意を払っている彼女だが、今回はどうしても匂いの方に意識が向いてしまう。
「気を付けないと危ないですよぅ〜?」
 支えてくれたのは、共に最後尾を歩いていたおねむな吟遊武人・ノノワール(a67723)。臭さを気にしていないのか、上機嫌な笑顔を向けてくる。
「ノノワールさん、なんだか嬉しそうです……?」
「だって、またまたスカンク怪獣なんですよぅ〜♪ ノノワールは前回あんましもふもふ出来なかったから楽しみなんですよぅ〜♪」
(「もふもふ……ワイルドファイアに潜む黒い……黒いもふもふッ……!」)
 はっ。
 背後で交わされる会話を聞くともなしに聞いていた黒い追われ者・レムゥ(a21149)は、いつの間にか緩んでいた表情を慌てて引き締めた。幸いな事に、彼女の表情の変化に気付いた者はいないらしい。小さく咳払いなどしてから、当たり障りのない台詞を口にする。
「綺麗な湖を独り占めする臭い動物なんて勘弁だよね。他の動物も使えるように退治しなくちゃ」
「大丈夫っ! ちゃんと秘策も考えたんだから、今回は楽勝だよっ」
 自信満々といった表情で、スカンク・スージィ(a63178)がびしっと親指を立てて見せた。他にも何か企んでいるのだろう、笑いを堪える口元が小さくひくついている。
(「イタズラする気みたいだけど……ボクにしたら返り討ちだよ♪」)
 平静を装いながら、動物マニア・ポポル(a51163)は心に呟く。目には目を、悪戯には悪戯を。2人の関係はなかなかにスリリングなものであるらしい。
「スージィさんのリベンジ……なんだか凄い嫌な予感が……」
 回復屋さん・ルシルク(a50996)に、同行者達の視線が集中した。独り言を聞かれてしまった事に気付き、ルシルクは慌てて言葉を続ける。
「い、いえ。そうならないように私も頑張りますから!」
「まったくだ。プーカの嬢ちゃんもその歳でトラウマ背負うたぁ可哀想にな。いっちょオレが! ……遠くから見守ってやるぜぃオゥオゥ」
 チキンレッグの牙狩人・オウオウ(a73949)の声は、尻すぼみに小さくなってしまった。黒い羽毛が逆立っているところを見ると、種族特性でもある臆病者の勘が働いたのかも知れない。
「スカンク怪獣は私にとっても因縁の相手ですからね……気合いを入れていきますよ!」
 木立の向こうに、キラキラと陽光を反射する湖面が見えた。今度こそは臭い匂いではなく良い想い出を持ち帰りたい。思いを届ける弓使い・ラクト(a67219)は固い決意を胸に、木陰から湖畔へと飛び出した。


 逆立ちした格好のまま、巨大なスカンクは静止していた。砂地に落ちた濃い影を、1本の矢が縫い止めている。ほっと安堵の息を吐いた後で、ラクトは顔をしかめた。息は吐いたら吸わねばならず、吸い込んだ空気はそれまで以上に臭かったのだ。
「出会い頭に動きを止めちまうなんざぁ、ラクトもいいウデしてんじゃねぇかオゥオゥ。にしても、なんでスカンクの奴ぁ逆立ちしてやがるんだ?」
「スカンクは敵を威嚇する時に逆立ちする事があるんだ。場合によっては、そのまま臭い液を飛ばしたりとかもね」
 オウオウの疑問に答えたのはポポルだった。動物マニアなだけあって、流石に詳しい。
 この機を逃さず、冒険者は全員でスカンク怪獣を包囲した。牙狩人達も、今回は敢えて相手の攻撃が届く範囲に身を置いている。スカンク怪獣の注意を分散させる為だ。
「皆に迷惑かけちゃダメなんですよぅ〜! オシオキなんですよぅ!」
 ローブの裾で鼻を押さえたルシルクが、ヘブンズフィールドを展開する。その隣で、ノノワールは歌を奏でていた。スカンク怪獣は敵意を含んだ視線を向けたのみで、縄張りに侵入してきた者の言葉など聞く気はないといった様子だ。
「先手必勝っ!」
 相手が動けないでいるうちにとレムゥが挑んだ。細い鋼糸の周囲を真紅の花弁が彩り、太い右前脚を深々と切り裂く。
 負傷によってバランスを崩したスカンクの巨体がぐらりと揺れた。体が動けば影も動く。この瞬間に影縫いの効力は途切れ、スカンク怪獣は後脚を下ろした。ふさふさとした黒い尻尾を立てたままで。
「秘技! ポポルシールドっ!」
 悪臭攻撃が来る! そう直感したスージィは、すぐ傍にいる少女を引き寄せようと腕を伸ばした。自分の身を守りつつ、忌まわしいイメージをなすり付けようというのだ。
 しかし。
「ボクを身代わりにしようなんて甘いよ♪」
 既にイリュージョンステップを発動させていたポポルは、仲間の攻撃(?)をひらりとかわした。ついでに、相手の背中を勢いよく怪獣の方に押してやる。
「みぎゃんっ!?」
「スージィさん、危ない!」
 盛大に転んだ仲間を救おうと、メロディは紋章の輝きを宿した杖を振るう。幼い少女が殴ったとは思えない、かなりゴツい音がした。ほぼ同時に、スカンク怪獣が分泌液を発射する。
「嫌ぁぁぁっ!?」
 エンブレムブロウの一撃はスカンク怪獣の体勢を崩し、分泌液の放たれる向きを強制的に変更させていた。自分に向かって飛んでくる飛沫を、ラクトは全力で回避する。ストライダーの敏捷性は伊達ではなかった。悪臭が滞留する領域から抜け出せるほどではないにせよ。
 混乱状態に陥りかけた少女の背後で、タイラントピラーの炎が燃え盛る。自分を取り戻したラクトは、涙の滲む目で巨大なスカンクを睨み据えた。もふもふ尻尾の誘惑も、悪臭によって魅力は半減。
 ホーミングアローは、迷う事なく放たれた。
 回避困難な一撃を受けて、スカンク怪獣が短い悲鳴を上げた。


 広範囲に広がった悪臭は、オウオウをもその影響下に飲み込んだ。麻痺した体がグラリと傾ぎ、そのまま砂地に倒れ伏す。
(「うぅぅ……鼻が……おかしくなっちゃいそう……です……」)
 風に乗って流れてくる匂いに耐えながら、ルシルクは声なき祈りを捧げ始めた。悪臭が漂っている間は、祈りを継続する必要があるだろう。戦いが終わるまで、こちらに分泌液が飛んで来なければ良いのだけれど。お気に入りの純白のローブに染みでも付いたら大変だから。
「た、助かったぜルシルク……オゥッ!?」
 立ち上がろうとしたオウオウが奇妙な声を発した。足を踏ん張った拍子に、オナラが漏れてしまったのだ。スカンク怪獣の悪臭で匂いは誤魔化せるだろうが、音は誰かに聞かれてしまったかも知れない。
 ――それならば。
(「えー、皆様にクソお知らせ致します。先程、スージィ怪獣ことスージィ・アリエッタがドサクサに紛れて屁をこきました」)
「してない! 私、オナラなんてしてないよ!?」
 タスクリーダーまで用いてのアナウンスに返ってきた反応は、濡れ衣を着せられた本人の叫びのみであった。他の者達も何か言いたかったに違いないが、暴れ回る怪獣を相手取った状態では軽口を叩く暇もないのだろう。両側からスカンクの脇腹にしがみついている、ポポルやノノワールなどは特に。
「スカンクめ〜! 直接恨みはないけど覚悟して貰うよ!」
 濡れ衣を着せられた少女の怒りは、何故かスカンク怪獣に向けられた。長い尻尾に飛び付いて、裏側に粘り蜘蛛糸を貼り付ける。
「メロディちゃん、お願いっ!」
「了解です〜!」
 声と目線の合図を受けて、メロディもまたふさふさの尻尾にしがみつく。小柄とはいえ、2人分の重みに尻尾が耐えられる筈もない。垂れ下がった尻尾はピッタリと尻に張り付き、スカンク怪獣最大の武器に蓋をしてしまった。これこそが、スージィの秘策であったのだ。
「お腹のもふもふも堪能したし、あとは攻撃あるのみなんですよぅ〜♪」
「スカンクの匂いの中で薔薇だなんて、ちょっと変な感じだけどねー」
 ようやく這い上がった怪獣の背中で、ノノワールとポポルはそれぞれの武器を構えた。ラッパの形を模した槌は怪獣の背骨を軋ませ、深々と突き立ったサーベルの周囲には赤い花弁と飛沫が飛び散る。
 背中に大きなダメージを受けて、スカンク怪獣は絶叫した。冒険者達を振り落とそうにも右前脚は使い物にならず、バランスを取る為の長い尻尾は封じられている。体勢を崩したスカンクは、地響きを立てて砂地に倒れた。今まさに攻撃を繰り出そうとしていたレムゥの前に、ふさふさの尻尾が投げ出される。
 ふらり。もふもふ〜。
 欲望に負けて抱きついた感触は期待以上のものだった。艶やかな長い毛はサラサラと手触りが良く、しかも最高に柔らかい。
 ぶしゅっ。
 ややくぐもった音は、尻尾の根本付近から聞こえた。途端に、とてつもない悪臭が炸裂する。
「はぅっ! ほ、放蕩の香り……!」
 パタリと倒れたレムゥを癒すべく、ルシルクは立ち位置を変更した。多少のアクシデントはあったものの、スカンク怪獣を仕留める大チャンスを逃す訳にはいかない。連射に適した短めの矢をつがえ、ラクトは標的に狙いを定める。
 悪臭に萎えそうな気力を振り絞り、冒険者達は攻撃を繰り出した。
 ――今度こそ、全力で。


「ここまで来れば、流石に大丈夫みたいですね」
 足を止めたラクトが、胸一杯に新鮮な空気を吸い込んだ。ここは湖の対岸、スカンク怪獣と戦った場所から一番遠い水辺である。
 暑い夏の1日。綺麗な湖が目の前にあれば、遊びたくなるのが人情だ。しかし悪臭漂う場所で水遊びを楽しむ趣味はない。故に、彼女達は対岸までぐるりと移動したのだ。
「シャンプーの木なんていうのがあればいいのに……」
 木陰を提供してくれる大樹を見上げ、レムゥが大きなため息をつく。分泌液の直撃を受けた訳ではなかったが、至近で嗅いだあの悪臭は激烈であった。思い出すだけでも全身の羽毛が逆立ってくる。
 文字通りの、鳥肌。
「一番乗りです〜♪」
 茂みの中で水着に着替え、メロディが水辺へ駆けてゆく。片手に服を抱えているのは、水遊びのついでに洗濯するつもりなのだろう。
「匂いが染み付いていたりしたら、嫌ですものね」
 苦笑を浮かべながら、ルシルクはローブの袖に鼻を寄せた。自分も洗濯した方がいいのだろうか。嗅覚が完全に回復しきっていない為、匂うかどうかが判らないのだ。
「だーっ! 匂い抜けねぇっ!?」
「そんなに抜いたら尾羽がなくなっちゃいますよぅ〜?」
 自分の羽を抜きまくるオウオウを、ちょっぴり距離を置いてノノワールが眺めている。理由は単純、臭いから。戦闘が終わって気が緩んだ彼に足払いを掛けたのは、濡れ衣を着せられたプーカの少女。報復は予想以上の効果を生んで、彼は分泌液で濡れた砂に尻餅をついてしまったのである。
「で、結局リベンジは成功だったのかな?」
 心地良い水の冷たさを満喫しながら、ポポルはスージィに尋ねてみた。死体のように浮いている少女の姿に、思わず笑いがこみ上げてくる。
「リベンジは出来たけど……人間不信になったかも……」
 ぐったりしたまま呟いて、スージィは水の中に沈んでいった。


マスター:夕霧 紹介ページ
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作成日:2008/07/20
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