新天地への宴



   


<オープニング>


 酒場、という場所には多少不釣合いに。
 長身の子爵はやおら立ち上がると、かつりと音高く靴を鳴らし、かかとを合せ姿勢を正した。
「ご機嫌麗しく、同盟の諸君」
 淑女を導く動作さながらに。紺碧の子爵・ロラン(a90363)は、面食らう冒険者らに薄い笑みを返すと、そこに用意された席へと促す。
 十人分の椅子。そして、それと対になる卓のそれぞれに、温かな紅茶と……一通の封書が添えられていた。
「此度、新天地に居を移すにあたり、先達たる同盟諸氏よりのご教授を賜りたく。つきましては同書面にて記したる邸宅まで、御足労願いたく存知上げ、その旨を申し上げます」
 妙に事務的な口調ですらすらと言葉を紡ぐ。
 何事かと思わず顔を見合わせる皆へ、ロランは今一度、口元に薄い笑みを刻んだ。

「……と、いう訳でね。それはパーティの招待状だ。諸君宛ての。まあ、開けてみてくれたまえ」
 少し気障だったかな? と悪戯じみた語調で零すと、ロランは冒険者らがいつも見る雰囲気に戻って、元居た席へと腰を落ち着ける。
「諸君のやることは先ほど述べた通り。そこに同封された手紙にもあるが、引越し前に行く先のことを少しでも多く知っておきたいから、色々と教えて欲しいということだよ。パーティで親睦を深めながらね」
 冒険者らが手紙を読み内容を確認するその間、ロランは紅茶を軽く口に含んで喉を潤し、居並ぶ者達を一巡で見回す。
「新天地、というのがワイルドファイアなのは判るね?」
 言わずもがなであろう、そんな視線に冒険者らは誰からともなく頷く。昨今に至っては、マリンキングボスがランドアースに到着、それに伴ってやってきた海獣の退治が行なわれていることも、周知であろう。
「冒険者なら、先に自分の目で確かめることができるけれど、そうでない貴族達にとっては、移住の日をただ待っているだけではつまらないようでね」
 歌を作って楽しむ、などの方法もある。現に、随分前のバカンスを元にした歌が結構な頻度で広まっており、耳を澄ませば一つ二つはすぐに聞くことができるくらいだ。
 ただ、素材が限られてしまっては、歌の内容もマンネリ化するというもの。そろそろ新しい刺激が欲しい……そこで、直接、現地に詳しい者達から話を聞き、新しい刺激を得よう。貴族達はそのように考えたのだ。
「といっても、必ず出身でなければならないなんてこともない。彼らが欲しているのは『刺激』だからね。真新しい目線での経験も、彼らにとっては十分聞く価値のある話になるだろう」
 諸君しか知らないような事があれば、きっと喜んで貰えるだろう、ロランはカップから昇る湯気を嗅ぎながら、緩慢な動きで再び皆の顔を見回す。
「ただし、気を付けて貰いたい事がある」
 小さな音を立て、ソーサーに置かれるカップ。取っ手をつまんでいた手が離れると、その白い手袋をした指先は、一通の手紙――恐らくは、ロラン自身へ宛てられた、打診の手紙だろう――を摘み上げる。
「諸君宛の招待状を見ても判ると思うが、先方は諸君を他の来賓と同じようにパーティに招いている。仕事をこなす冒険者、ではなく、『同盟の紳士淑女』として、ね」
 つまり、パーティに参加する冒険者達は、そこに招かれているであろう貴族達に、彼らと同じ立場か、或いは、それに準ずる地位の者であると認識される訳だ。それ相応の立ち居振る舞いが当然あろうとも。多少の遊び心はあってもいいが、何をするにせよそこが『社交』の場であり、それに即した行動を常に心掛けるべきであろう。
「珍しさや奇をてらう余りに、諸君自身の『貴族』としての品格を落さないように、十分に気を付けてくれたまえ」

 さて、そのパーティの会場であるが。
 使用されるのは、二階建ての屋敷にある、一階の大ホール。ホール奥の中央には大きな末広がりの階段があり、二階部にある廊下状の通路へと上がることができる。通路はホールをぐるりと取り囲み、各窓からテラスへ出ることもできるそうだ。
 立食形式になっており、飲食の準備は主催者側が全て執り行う。故に、こちらが手伝いなどの雑用をすることはまずない。
 また、ホールの端に設けられた舞台には楽隊が常駐し、たおやかな音楽と共にパーティを盛り上げてくれる。
 主催は女性で、歌や絵画などの芸術に特に興味があるのだとか。今回はそれに拘る必要はないが、一応は知っておくべきだろうと付け加える。
「送迎は先方がノソリン車でしてくれる。指定の宿で待っていれば、迎えが来るそうだよ」
 それ故に、あまりにも大きなお土産は持ち込めないだろう……ロランは補うようにそう言って、再びカップを手に取った。
「おっと」
 そこで、はたと思い出したように手を止める。
「来賓は皆貴族。会場での呼び名は、家名……つまり、『姓』で行なわれる。男性なら『卿』、女性なら『女史』の敬称付きでね。諸君も例外ではないよ」
 ロランならば『イケメン卿』、ルラルなら『エリンシャ女史』、といった具合だ。
 冒険者になってしまうと、あまり使われない呼び名。
「うっかり聞き逃さないよう、気をつけたまえ」
 言って、ロランはまた悪戯な笑みを浮かべるのであった。


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参加者
狩人・シャモット(a00266)
朽葉・エリファレット(a06546)
饗宴の思索者・アレクサンドラ(a08403)
虚構の造化者・ウェイ(a30657)
誓夜の騎士・レオンハルト(a32571)
美白の歌姫・シュチ(a42569)
楽園の小飛虎・リィザ(a49133)
亜麻色の髪の天使・アクラシエル(a53494)
白鱗奏恍・ラトレイア(a63887)
蒼焔・フォンティウス(a72821)


<リプレイ>

●石畳
 二頭立てのノソリン車が、舗装された煉瓦の道をゆく。
 その窓から、『アルベルジュ卿』終わりなき刻を行く蒼焔の翼・フォンティウス(a72821)が外を見遣る。
 内装は四人掛けだが、車は一人に一台ずつ、用意されていた。
 この普段と違う状況には、少々面映いものがある。
 『クビン卿』こと、虚構の造化者・ウェイ(a30657)は揺れに身を委ね、仲間の名をしっかりと思い出しながら、
「……今日の私は紳士ッ!」
 自己暗示気味に、幾度か唱えてみる。
 残る二台を前に、『ルース卿』こと、遠い弔鐘・エリファレット(a06546)は、白い手袋を填めた手で軽くハイタッチ。
「武運を、ブリタニク卿」
「……ここはドラゴン界ではなかろう?」
 しかしまあ、緊張度はある種、あの時以上かも知れぬと、『ブリタニク卿』饗宴の思索者・アレクサンドラ(a08403)は肩をすくめて応えるのだった。

 開く扉。
 『アスピラシオン女史』自分らしく輝いて・ラトレイア(a63887)は、判っていたのに思わずびくり。
 呼称やドレス姿に慣れていないのもある。だがそれ以上に……思う視界に、すっと差し出される手。
 それは、『エオス卿』こと、亜麻色の髪の天使・アクラシエル(a53494)からの、無言のエスコートの申し出。
 知った顔が居るだけで安堵できる。そんなことを考えながら、アスピラシオン女史はエオス卿の手を取った。
 受け付けには既に騎士服で正装した、『リーゲル卿』こと、誓夜の騎士・レオンハルト(a32571)の姿がああった。その腰には、いつものように一振りの剣。
 同じく帯剣するエオス卿も。
「こちら、ハーブソープです。主催の方にお届け下さい」
 お土産を託した後、リーゲル卿と共に理由を述べ、帯剣の是非を確かめる。
 その後ろではまた一つ、扉の開く音。
「リクソン女史、ご到着」
 御者の促す声に、社交界でそう呼ばれるのは随分と久しいと、『リクソン女史』美白の歌姫・シュチ(a42569)は思う。
 慣れた様子で進み出でる先。開け放たれたホールの扉からは、溢れる光と行き交う人々の影、そして談笑の声が零れ落ちる。
 ――あの影の中に、幾つ知った顔があるだろう。
 悠々と歩を進めるその背は、やがて光溢れるホールへ、吸い込まれていった。

●回廊
 ホール中央にある大階段。
 最上段に主催の女性が現れるや、ざわめいていた会場は、水を打ったように静まり返った。
 今宵の出会いを祝し、杯を掲げる主催。
 倣い、来賓の皆が杯を掲げれば、開場は再び談笑に満たされる。
 階段を下りてくるその姿に、ルース卿は礼装の裾を靡かせ歩み寄る。
「覚えておられるでしょうか? 私の女神」
「まあ、ルース卿」
 微笑む主催に、ルース卿は持参したワイルドワインを差し出す。
「ワイルドファイアで作られた酒です。集落によって風味の違いがあるとか。あちらに行かれたら、他の物も飲み比べてみるのも良いかも知れません」
 早速頂きましょうと召使に申し付ける主催。
 面識があったのだな。遣り取りに心中で零し、ブリタニク卿もその側へ。
「今宵、かように素晴らしき宴の時をご一緒することが出来、光栄至極に思っております」
「こちらこそ、ご足労頂き光栄です」
 ……こうして並ぶと、結構浮いてるような。
 そんな気がしてならない、『シュトラウス女史』こと、楽園の小飛虎・リィザ(a49133)は、『躾の出来たお嬢様』風を意識して……
 ……もっとも、実際はそうでもない。本人の気遣いもさること、ゴージャスオーラによって溢れ出る優雅さと威厳が、淑女らしさをしっかりと後押ししてくれている。
 花びらを重ね合わせたようなドレスの裾をひらりと持ち上げ、感謝と礼を述べるシュトラウス女史。すると。
「頂いた絵、拝見致しましたわ!」
「素人の絵などお見せするのもお恥ずかしいのですが、あの雄大な景色の雰囲気だけでも一足先にお伝え出来ればと思いまして……」
「謙遜なさらずに」
 そんな様子に、『ニューディー卿』、狩人・シャモット(a00266)の心中に、もしかして参加して失敗だったかな……と、若干の後悔が過ぎる。無論、受けた以上はやり切るが。
「初めまして、シャモット・ニューディーです。本日はお招きいただき大変光栄です」
 万が一も考えてか、事前にリクソン女史がレッグランブランドの正装を準備していた為、ニューディー卿本人が当初予定していた服装とは似ても似付かぬ高級感。それでも目立たないのは、周囲が煌びやか過ぎるからか。
 だが、目立つというなら。
 ……やっぱり、リザードマンは一人だった。
 凄く興味を持たれてる気がする!
 ……しっかり練習したんだから、きっと大丈夫。うん。
 恐れず、優雅に。アスピラシオン女史は月色のドレスの裾を、ふわりと広げる。
「ワイルドファイアより参りました、ラトレイア・アスピラシオンです。このような場に招待頂き、大変光栄ですわ」
 どうぞ、楽しんでいって下さいねとの労いに、自らも笑みを返し、頷く。
 その側に、今度はエオス卿とリーゲル卿が。
「本日はお招きに預かり恐悦にございます」
「帯剣をお許し頂き有難う御座います。どうか非礼と無粋をお許しください」
「いいえ。騎士の意志たる剣を削ぐことこそ無礼。どうぞお気になさらないで」
 重ねて礼を述べる二人。
 そこに今度は、姿勢を正して帽子を脱ぎ、主催の前に立ち止まるクビン卿。
「クビン卿、楽しんでおられますか?」
「はい、今宵、この場で貴女と、そして皆様に巡り合えた事を、光栄に存知ます」
 それからもう一度、今度はシルクハットの鍔をちょいと持ち上げ会釈すると、会話弾む人波の中に、紛れ込んで行った。

●宴
 本当は、参加者の名簿を予め見ておくつもりだったが、来賓の一人であるリクソン女史にそんな権限はない。イケメン卿も招待状を渡し依頼を託す以上の事には応じず。
 予習が出来なかったのは残念だが、止むを得まい。
 少し前に手に入れた真珠色のマーメイドラインのドレス。施された刺繍は会場の明りを受けて、リクソン女史が歩くたびに七色に淡く揺らめく。
 一見すれば、他の来賓と変わらない。
 なにしろ、リクソン女史自身が、かつては社交界に慣れ親しんだ、セイレーンの一人であるのだから。
 一方のシュトラウス女史は『七大怪獣の眷属と殴り合った時の話』を聞かせていたりした。
 ……ある意味、お嬢様台無しである。
「かの大怪獣は、まさに威風堂々と、そこにおわしました」
 が、そこは溢れる優雅さと、物語調の語りが、セイレーン達の歌のように起伏を生む。
「その眷属と、私は拳を交えたのです」
 七大怪獣のあらましに始まり、時に、大振りにならぬ程度に身振りを交えてみたりと、シュトラウス女史の大冒険はクライマックス!
 別所ではルース卿による怪獣退治の顛末にも、熱い視線が集まっていた。
 余り熱を入れすぎるのは些か子供っぽいかとも思うのだが、やはり、巨大な怪獣、自然の脅威は男の浪漫。
 秘境の冒険に一度も憧れたことのない男など、存在するだろうか?
 ……高貴な身の上の方々にとっては、違ったかも知れない。
 けれども今、彼を見る来賓の視線はどうだ。先を早くと促しているではないか。
 勿論、全員が、ではない。
 けれど、聴く者があれば、語らねばなるまい!
 そんな躍動感溢れる話題に心奪われる者もあれば、現地の厳かな文化に静々と聞き入る者もある。
 アスピラシオン女史は生まれ育ったリザードマンの国・ムムティルや、そこで信仰される神アプカルル様について、穏やかに語る。
「そのお話、もっと詳しくお聞きしたいな」
 一曲いかがでしょう、差し出された手にちょぴりどぎまぎしながら、楽隊の前で踊る男女の中に、導かれてゆく。
「……そうそう、最近プーカの子供達が遊びに来たこともありましたわね」
 あの時は洗濯物に悪戯されて大変でしたわ、と、さも当事者のように告げ微笑するアスピラシオン女史に、紳士は踊りながら楽しげな声を漏らす。
 しかしなにしろ、ワイルドファイアで特筆すべきは、そのスケール。
「……ランドアースでは早々見られないサイズでしょう。これは、私が実際に遭遇した魚から水難避けの護符として得たものなのです」
 持参の『赤い魚鱗』をすっと胸元から取り出すクビン卿。現物にお目に掛かれるとは思わなかったのか、来賓達は一様に声を漏らして手元を覗き込む。
 まるで手品でもするように、エレガントにクビン卿が話を続ける一方。
「――彼の地を一言で表すならば、『生命の大地』と言えましょう」
 ブリタニク卿は身振り手振りを交え、生命力に溢れた大地を全身で表現していた。
「存在する具象のスケールは、実に壮大、巨大、かつ雄大! 広がる大地も、生けるもの達も……」
 その語り口は、まるで講談。
 声の抑揚、楽隊の奏でる楽曲も時に利用して、あたかもそこに小さな劇場が出来たかのよう。
「――初夏の今には季節外れな話題かもしれませんが、春の花、あの儚げな『桜』ですら、かの地では雄々しく咲き誇るのです」
 その手が、表情が動くたび、来賓達の視線がそれを追う。
「すなわち、巨大なる枝垂れ桜!」
 かつて体験した花見を、この語りで同じように感じて貰えたならば。
「天蓋の如く視界を覆う薄桃色の花、なんと花びら1枚の大きさが、この手のひらを広げたほどもあるのです!」
 これが実物、と。
 大事な想い出の品であるとはっきりした口調で付け加え、ブリタニク卿の取り出した『巨大桜の押し花』に、一際大きなざわめきが湧いた。
 皆ほどの現実味は、ないやも知れぬ。
 けれども、ニューディー卿は人づてに聞いた冒険譚を、できるだけ判り易く、知り合った紳士淑女へと話し聞かせる。
「過去に運動会があった事は、ご存知ですか?」
「ありましたね、我々が同盟入りした折に一度」
「ワイルドファイアで行なうものは、土地柄も相まって、こちらでやるとはまた違った楽しさがあります」
 広大な魅力を伝えるのは、エオス卿もまた然り。
 少しクビン卿と話題が被ってしまうかな、なんて思ったが何の何の。語り口の違いは雰囲気の差を呼び、経験の違いは興味の差も呼ぶ。無論、容姿の違いにも。
 皆とは少し違う装い――エオス卿の出で立ちは、民族的な趣を持つ長袍だ。白地に金糸の鳳凰が、揺れる光に美しい。
「バカンスに行かれた方は既にご存知かと思いますが、ワイルドファイアでは他の土地よりもそのどちらもがとても大変です」
 凄く大きいと聞いた事がある、と頷く紳士に、想像して頂けますかと言葉を継いで笑顔を返す。
「ちょっとした東屋ほどの大きさの獣。このテーブル程の直径の蕪」
 時に人々の視線を集め、その指先で身近にある例えへと導く。
 物質的な物もさること、住民も実におおらかな気風であると、リーゲル卿は食事を手に談笑する。
 かつて採った巨大な薩摩芋と、皆で食した牡丹鍋。その美味しさもさること、リーゲル卿が伝えたいと思うのは。
「住民の皆さんは、それを快く分けてくれたのです」
 拘るでもなく、取り合うでもなく。一緒に採ったら、一緒に食べよう。そんな場所なのだ、と。
 無論、楽しいばかりではない。常に厳しい野生と隣り合わせの場所でもある。
 義弟から贈って貰った、『女王の銀青果』……アラハースの片鱗たるその実を前に、リーゲル卿は不安や期待があれば遠慮無くと、紳士淑女達に言葉を掛ける。
 語りの口が一旦途切れると、他の場所でもちょっとした質問が生まれる。
「大味だったりはしませんの?」
「ええ。どれも野趣に溢れ、ものによってはそのままでも、調理方法によっても極上の食事に仕上がるのは、他の土地と同じです」
 どこかで手に入らないものかしら。そんな呟きに微笑むエオス卿。
 ルース卿も食事を手に、現地で御馳走になったまんもー肉の話題に。あの時は豪快な味付けで、それはそれでとても美味だったが。
「こんな洗練された料理を作るセイレーンの料理人ならば、あれらの食材をどう調理するのか、とても興味深い」
「確かに」
 美食家の楽しみが増えますわと、若い婦人は楽しげに杯を合わせた。
 と、俄に、召使いが新しい食材を運んでくる。
 それは、かまどの内側に張りつけて焼いた平焼きのパン。その名も、『なぁ〜ん』。
 なんだろうかな、と首を傾げる来賓に、アスピラシオン女史は術扇で口元を覆いながら、わたくしからのお土産ですと告げる。
「この場には少々似つかわしくないものですが、現地の味、楽しんでいただけると幸いですわ」
 素朴な味わいに舌鼓を打つ一方で、クビン卿が巨大キノコの森に迷い込んだ折の話をしている。
「現地出身の方に言わせればランドアースの物が小さすぎるだけ、だそうですが」
 絵のモチーフとしても、怪獣達は迫力があってよいのではと思います。その言葉に、初老の紳士は先ほど二階席の壁に飾られたシュトラウス女史の風景画を思い出す。
 シュトラウス女史当人はというと、二回戦目の語りに突入しようかというところ。
 その耳に、たおやかな音色が響く。
 楽隊の演奏が一区切りついたのを見計らい、リクソン女史は自前のハープを奏で、その音色に乗せて詩を唄う。
 時は常夏、場はワイルドサイクル。そこにおわすは、『幸せを呼ぶ水晶怪獣』……その音色でダンスを始める男女の姿を、そっと見守りながら。

●間隙
 宴を楽しんだ人影は、思い思いの時間に、まばらに会場を去ってゆく。
「本日は大変楽しいひとときをありがとうございました」
「こちらこそ、本当に楽しく過ごせました」
 退席前、礼を述べるニューディー卿に、主催が満面の笑みを返す。
 カラコロと小気味よく鳴る車。
「……たまには面白いものだが、やはり堅苦しいのは性に合わんな」
 宿へ帰る車の中、思わず苦笑するクビン卿。けれども、別れ際の主催の笑顔には、喜んで貰えた事を確信できる。
 一足先に宿に着いていたアスピラシオン女史は、ソファに倒れこんで休憩中。
「つ、疲れた……楽しかったけど、一気に疲れが……」
 ……この依頼、精神的には『やや難』以上だよね……
 ぼそりと零した言葉に、誰かが頷く気配がしたとか、しないとか。

「うーむ、面白かったが……少し気疲れがするな」
 どうにも、賑やかな方が性に合うようだと、ブリタニク卿は軽く首を回し……
「……いやしかし、この料理は、なかなか……♪」
 語りの分を取り返すように、美味しい料理を頂きます。
 テラスに出たリーゲル卿は、人々がノソリン車へ向かうその背をそっと見送る。
「この夜空の向こうの遥かな大陸に、新たな交流と喜びが生まれたら素敵ですよね」

 後日。
 ニューディー卿がお礼状を認め、送り出した頃。
 同じようにして、皆の元へ感謝を示す主催からの手紙が、届けられるのであった。


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