<リプレイ>
●誓い果たすべく 澄み渡る空の下を4体のグランスティードが駆けていく。遮るものない平原に、残酷な屍の道を作る行進を止める為に。蹄が地を蹴るたびに土を跳ね、雑草を蹴散らした。もっと早く駆けろと逸る心を抑え、ひたすらに目的地を目指して行く。 (「助ける。冒険者となるその日に、誓ったのだから」) グランスティードの背中にしっかり捕まりながら、緑の風の魔女・フィルメイア(a67175)は強く想う。故郷にその身を埋めることさえ叶わなくなった者達、今尚、望まぬ行進を続けている人々を。民を救い護るこそが冒険者の誓い。必ず果たしてみせる。 「……! 止まって、居たよ!」 黄色の羽毛・ピヨピヨ(a57902)の声に、一斉に立ち止まる。耳を澄ませば、遠くから微かに聞こえ来る笛の音。緊張した空気が流れ、まずは手筈通りに身を潜めようと――ここで一つ目の誤算。 「遮蔽物、ありませんね……」 しまったという顔をして、黒白・セイン(a04603)が呟く。そう、ここは平原の只中だ。冒険者達全員が身を潜められるようなものなど、そう都合よくある訳も無い。こうなれば、正面から行って気を惹く他無いだろう。冒険者達は各々に自己強化を施しながら、行進が近付いて来るのを待つ事になった。やがて大地を踏み鳴らす音が、冒険者達を目指して近付いて来る。
●行進を止めろ 「そっちにゃ行かせないぜっ!」 真っ先に飛び出したのはコンフィデンシャルボーダー・ジィル(a39272)だった。陽光に煌く刀身に雷を纏わせ、横薙ぎの一閃。大男の体が僅かに揺れる。真正面から対峙する4人の冒険者と二体の異形。ここに二つ目の誤算。 「待て、そういえば合図って」 「決めてなかった、か?」 飛び出せたのは陽動班のみ。白鴉・シルヴァ(a13552)の声に焦りが混じる。南の星・エラセド(a74579)は眉根を寄せ、作戦開始を告げる合図を誰が、どうやってするのか確定していなかった事に気付いた。出足を挫かれる形となり、冒険者側に少なからず動揺が走る。 「ここは絶対通さない!」 笑顔のヒーロー・リュウ(a36407)は剣を握り気を高めた。自らを盾とすべく、その鎧に新たな力が加わる。そして、敵もまた動き始めた。道化師の握るのは漆黒のナイフ。放たれたそれを、ジィルは軽く回避してみせる。だが次の瞬間、奇妙に心を撫ぜる音色が響き渡り、冒険者達を捉える。 「ッ、させない、わ……!」 心を蕩けさせる甘い誘惑をなんとか振り払い、フィルメイアがヘブンズフィールドを展開した。そのお陰もあって魅了から回復した月下残影・トウヤ(a21971)が、アングリーナパームを用い、怒りを与えようとするがそれは叶わず。 「一般人達をお願いねー!」 「ここは任せて下さい」 ピヨピヨとセインが、敵と踊り続けている一般人の間に割り込んだ。その間にシルヴァらが一般人の確保に向う。 「悪ぃけど寝ててくれよ」 眠りを齎す歌が響いて、ぐたりと崩れ落ちる人々。素早く抱きあげ、グランスティードに乗せ後方へ運んでいく。まずは戦場から離せたことに安堵しながら、ジィルが再び前へ。電刃衝を叩き込めば、大男の動きが止まる。 「う、わわっ、もう!」 けれど続くはずのリュウやピヨピヨは攻撃に出られない。道化師のステップは自信を見る者全てを踊りに誘う。歪んだ体を震わせて奇妙な笑い声を立て、道化師は真紅の球を後方、エラセド達の方へ放り投げた。地に着くや否や破裂し、無数の刃が冒険者達を襲う。セインはそれを回避するが、エラセドは追撃を貰い、一気に半分近く体力を持っていかれた。 ここで予定通り、フィルメイアが道化師に大挑発をかけた。効果はあったようで、虚ろな眼窩をフィルメイアに向ける道化師。その隙にトウヤがブラッディエッジで道化師を狙うが、ひらりと軽い調子で回避される。エラセドが静謐の祈りを捧げ、仲間の全ての状態異常を回復させた。 「待たせた、こっちはもう大丈夫だ!」 「よし、それじゃ離れるぞ」 そこに、グランスティードで颯爽と仲間たちの下へ駆け戻るシルヴァ。代わり、エラセドが介抱の為に戦線を離脱する。戦いの本番は、ここから。
●それは、歪んだ 道化師が紅く禍々しいその玉を投げる。それを受けつつも果敢に前へ出、デストロイブレードを叩き込むシルヴァ。隙を見て、と考えてはいたが、間断なく攻撃を仕掛けてくる相手にそれを見極める暇も無い。 『〜ッ♪』 「くっ!」 大男が短く、鋭い音を吹く。衝撃波となったそれはピヨピヨへ。回避し損ね、身を穿つそれは想像以上に重い一撃。フィルメイアが癒しを広げ、傷を緩和していく。狙い澄まされたトウヤの黒槍が道化師の体を貫いた。更に、セインの放つ紋章の槍が大男を捉え、紋を刻み付ける。 「喰らっとけ!」 「打ち砕け! ダークソウル!」 ジィルの電刃衝、リュウのサンダークラッシュ。合わさった二つの雷が大男の体を強かに打った。魅了を扱う大男を集中して攻撃していく手だ。道化師の掲げる黒いナイフ。狙われたのはまたもピヨピヨで、その羽に黒が広がる。お返しとばかりに聖なる槍で道化師を撃てば、道化師の体が大きく揺らいだ。 「……!」 そこに、また魅了の旋律が響き、冒険者のおよそ半数が囚われる。抗い難い音色を振り払えず、トウヤはバッドラックシュートをセインへ放った。咄嗟のことに回避しきれず、その腕に漆黒の染みが現れる。その結果、次の行動時に踊りから逃れられず、攻撃の機会をひとつ減らしてしまった。 繰り返される攻防は互いを削る。幾度も癒しは広げられ、幸運が歌われるが、それでも囚われる者は常にあった。魅了により、貴重な回復アビリティを敵に使ってしまうことも幾度。そしてアビリティの残数に底が見え始めた頃―― 「〜〜〜!」 放たれた音塊に、不運にも攻撃を多く喰らっていたピヨピヨが倒れる。だが同時、ジィルの放った一閃により、大男もその場に崩れ落ちた。このまま押し切れれば、いける。気を引き締め直し、冒険者達は道化師に攻撃を集中させ始める。 しかし、今ひとつ決め手を欠く戦いは、長期戦の様相を呈し始める。 「あと、少し!」 「もう終いでいいだ、ろっ!」 リュウの剣から雷電が迸って道化師を撃ち貫き、シルヴァの掲げる闇色の巨大剣が、大上段から渾身の一撃を叩き込む。幾度も刃を受けた道化師にも、少し疲労が見え始めていた。だが、まだ終わらない。大男集中の作戦をとっていた為、道化師の体力を削れていなかったのだ。黒のナイフを掲げる道化師。狙いは 「っ、あ……」 「フィルメイア!?」 回復の中心を担っていたフィルメイアだった。深々と突き立つ黒刃。夥しい紅が流れ、糸が切れたように細い体が崩れる。元より体力が多くなかった彼女は、その一撃に耐え得る力を残していなかった。トウヤが倒れた仲間達を庇うように前に出、道化師に攻撃を繰り出す。 「そろそろ、倒れていただきます!」 「いい加減しつこいぜっ!」 そこに間髪居れず、セインが紋章から光球を撃ち出す。仰け反る道化師に、ジィルが更に追撃をかけた。麻痺を齎せる電刃衝も、ここで打ち止め。各々が主力としてきたアビリティは、他の皆も、既に残数僅かとなっていた。静謐の祈りも既に途切れて久しく、唯一、ピヨピヨが上書きし残したヘブンズフィールドが、状態異常から冒険者達を守っている。 だがそれも、いつまで持つか。凄絶な削り合いに、戦場は血色に染め抜かれていた。そして――
●戦いの爪痕 「あ、が……ッ!」 「ぐぅっ?!」 高く高く放り上げた真紅の球。バラ撒かれる無数の刃。朱に染まり血溜まりに伏す仲間。その瞬間だけ、時間が酷くゆっくり流れたように思えた。追撃に倒れたのはトウヤとリュウ。回復手段も、もう残り少なく。 「……撤退だ。これ以上やれば、誰かが」 自らも朱に染まりながら立ち続けていたシルヴァが、苦々しげに呟いた。このまま戦い続ける事は、仲間の犠牲を意味する。それで敵を討ち果たせるとしても。ジィルがサンダークラッシュを撃ち、道化師が気を惹かれた隙に、冒険者達は倒れた仲間を背負い駆け出した。介抱を続けていたエラセドは、血に染まった仲間達を見て事情を察す。一般人の状態は未だ芳しくないものの、どうにか手を借して共に走り出した。 『ギ、ギヂ、ギギっ!』 後方から道化師の奇妙な声が追いかけてくる。振り返る余裕も、立ち止まってまた牽制を撃つ余裕も無かった。只管に、脇目も振らず走り抜ける。安全だと思える場所に着く頃には、動ける者達も、疲労困憊だった。 「そういえ、ば、一般の皆さん、は?」 「え? あ、そういや」 連れて来た筈の一般人の姿が見えない事にセインが気付く。考えれば間も無く答えが出た。冒険者達の走りに着いて来れず、脱落してしまったのだろう。重傷者を抱えた撤退では、一般人までを完全にフォローすることは出来なかった。 何が間違っていたのだろう。一般人の保護に手間をかけ過ぎたことか。道化師の能力を正しく把握できなかったことか。或いは、小さな齟齬が積み重なった結果だろうか。何れにせよ、全ては過ぎ去り、後の祭り。 「……!」 声無き慟哭が、満ちた。
平原に一人残された道化師は、暫く動かなかった。やがてふと気付いたように、落とした腕を拾い上げる。それから生者の気配がする方へと、あの奇妙な足取りで進み始めた。 嗚呼。死魔の行進は、いつになれば終わるのだろうか――?

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参加者:8人
作成日:2008/07/04
得票数:戦闘6
ダーク12
コメディ3
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冒険結果:失敗…
重傷者:残骸・トウヤ(a21971)
笑顔のヒーロー・リュウ(a36407)
黄色の羽毛・ピヨピヨ(a57902)
消え逝く緑・フィルメイア(a67175)
死亡者:なし
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