死魔の行進曲



<オープニング>


●死魔の行進曲
 大地を踏み鳴らし彼らは進む。笛を吹き鳴らし軽快に舞い踊りながら進む。どこか独特な旋律を持った行進曲を奏でながら、どこまでも進んでいく。
 その音楽を聴いたなら、人も動物も列に加わらずにはいられない。踊り歌って行列は続く。何処に向っている訳でもない気ままな行進。途中で村があれば一晩留まり、村を空っぽにしてまた進もう。
 あまりに楽しいから、その列に加わったなら外れることが出来ない。――死ぬまで。

●死ぬか、進むか。
「街道沿いの平原にモンスターが2体確認されました。これらの討伐をお願いします」
 端的に、エルフの霊査士・ユリシア(a90011)は告げた。集中する冒険者達の視線を受けながら、視えたものをひとつずつ説明し始める。
「まず、彼らはその音でもって一般人を魅了し、自らの行進に加えながら進んでいます」
 しかも、ただ進むだけでなく、何かの力で踊らせながらの行進である。既に、住民の消えた辺境の村がひとつ。道中で囚われた旅人達の数までは把握できないが、被害が増えつつあるのは間違いない。休むことも食事を摂ることも出来ず踊り歩いていればどうなるか、想像するのは容易いだろう。
 現在、この非情な行進に耐え続けている者は、5人。だが彼らの生死は今回、問わないとユリシアは言う。
「勿論、可能ならば助けるべきですが、既にかなりの疲労です。それに、保護したならば、戦闘中は誰かが付きっきりで監視しなければまた術中に嵌るでしょう」
 その度に攻撃を止めていては、殲滅が遅れる。そして今回の敵は、それを許せるほど弱く無いのだ、と。
 モンスターは、笛を吹く大男と、捩れた体の道化師の姿を取っている。どちらも明らかに人外と分かる風貌なので、間違える心配はない。
 まず、大男の能力。横笛――これは体の一部と思っていい――を吹き鳴らし、衝撃波で攻撃をしかけてくる。特筆すべきはやはり魅了の旋律だ。全周に効果が及び、当然、耳栓等は無意味。更に鋭く短い音を吹けば、音の塊となって襲い掛かる。捉え難い攻撃の上、その射程は牙狩人のそれにも匹敵するという。
 次いで道化師の能力だ。こちらは常に怪しげなステップを踏んでおり、見ているとつられて踊りだしてしまう。また、漆黒のナイフを構えたなら、それはダメージと同時に不幸を齎す。赤い玉を投げれば着地点で爆発して無数の刃が飛び出す追撃。
 一歩間違えば、熟練の冒険者といえど、重傷もその先も有り得るとユリシアは警告する。
「移動速度はゆっくりとしたものですが、行く先に町があります。冒険者が敗退すれば、遠からずこの町から人が消えるでしょう」
 そうなる前に。モンスターを掃滅し、終わらぬ死の行進を止めて下さい。ユリシアはそう締め括った。


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参加者
無限の旅人・セイン(a04603)
白鴉・シルヴァ(a13552)
残骸・トウヤ(a21971)
笑顔のヒーロー・リュウ(a36407)
変遷する紺青・ジィル(a39272)
黄色の羽毛・ピヨピヨ(a57902)
消え逝く緑・フィルメイア(a67175)
南の星・エラセド(a74579)


<リプレイ>

●誓い果たすべく
 澄み渡る空の下を4体のグランスティードが駆けていく。遮るものない平原に、残酷な屍の道を作る行進を止める為に。蹄が地を蹴るたびに土を跳ね、雑草を蹴散らした。もっと早く駆けろと逸る心を抑え、ひたすらに目的地を目指して行く。
(「助ける。冒険者となるその日に、誓ったのだから」)
 グランスティードの背中にしっかり捕まりながら、緑の風の魔女・フィルメイア(a67175)は強く想う。故郷にその身を埋めることさえ叶わなくなった者達、今尚、望まぬ行進を続けている人々を。民を救い護るこそが冒険者の誓い。必ず果たしてみせる。
「……! 止まって、居たよ!」
 黄色の羽毛・ピヨピヨ(a57902)の声に、一斉に立ち止まる。耳を澄ませば、遠くから微かに聞こえ来る笛の音。緊張した空気が流れ、まずは手筈通りに身を潜めようと――ここで一つ目の誤算。
「遮蔽物、ありませんね……」
 しまったという顔をして、黒白・セイン(a04603)が呟く。そう、ここは平原の只中だ。冒険者達全員が身を潜められるようなものなど、そう都合よくある訳も無い。こうなれば、正面から行って気を惹く他無いだろう。冒険者達は各々に自己強化を施しながら、行進が近付いて来るのを待つ事になった。やがて大地を踏み鳴らす音が、冒険者達を目指して近付いて来る。

●行進を止めろ
「そっちにゃ行かせないぜっ!」
 真っ先に飛び出したのはコンフィデンシャルボーダー・ジィル(a39272)だった。陽光に煌く刀身に雷を纏わせ、横薙ぎの一閃。大男の体が僅かに揺れる。真正面から対峙する4人の冒険者と二体の異形。ここに二つ目の誤算。
「待て、そういえば合図って」
「決めてなかった、か?」
 飛び出せたのは陽動班のみ。白鴉・シルヴァ(a13552)の声に焦りが混じる。南の星・エラセド(a74579)は眉根を寄せ、作戦開始を告げる合図を誰が、どうやってするのか確定していなかった事に気付いた。出足を挫かれる形となり、冒険者側に少なからず動揺が走る。
「ここは絶対通さない!」
 笑顔のヒーロー・リュウ(a36407)は剣を握り気を高めた。自らを盾とすべく、その鎧に新たな力が加わる。そして、敵もまた動き始めた。道化師の握るのは漆黒のナイフ。放たれたそれを、ジィルは軽く回避してみせる。だが次の瞬間、奇妙に心を撫ぜる音色が響き渡り、冒険者達を捉える。
「ッ、させない、わ……!」
 心を蕩けさせる甘い誘惑をなんとか振り払い、フィルメイアがヘブンズフィールドを展開した。そのお陰もあって魅了から回復した月下残影・トウヤ(a21971)が、アングリーナパームを用い、怒りを与えようとするがそれは叶わず。
「一般人達をお願いねー!」
「ここは任せて下さい」
 ピヨピヨとセインが、敵と踊り続けている一般人の間に割り込んだ。その間にシルヴァらが一般人の確保に向う。
「悪ぃけど寝ててくれよ」
 眠りを齎す歌が響いて、ぐたりと崩れ落ちる人々。素早く抱きあげ、グランスティードに乗せ後方へ運んでいく。まずは戦場から離せたことに安堵しながら、ジィルが再び前へ。電刃衝を叩き込めば、大男の動きが止まる。
「う、わわっ、もう!」
 けれど続くはずのリュウやピヨピヨは攻撃に出られない。道化師のステップは自信を見る者全てを踊りに誘う。歪んだ体を震わせて奇妙な笑い声を立て、道化師は真紅の球を後方、エラセド達の方へ放り投げた。地に着くや否や破裂し、無数の刃が冒険者達を襲う。セインはそれを回避するが、エラセドは追撃を貰い、一気に半分近く体力を持っていかれた。
 ここで予定通り、フィルメイアが道化師に大挑発をかけた。効果はあったようで、虚ろな眼窩をフィルメイアに向ける道化師。その隙にトウヤがブラッディエッジで道化師を狙うが、ひらりと軽い調子で回避される。エラセドが静謐の祈りを捧げ、仲間の全ての状態異常を回復させた。
「待たせた、こっちはもう大丈夫だ!」
「よし、それじゃ離れるぞ」
 そこに、グランスティードで颯爽と仲間たちの下へ駆け戻るシルヴァ。代わり、エラセドが介抱の為に戦線を離脱する。戦いの本番は、ここから。

●それは、歪んだ
 道化師が紅く禍々しいその玉を投げる。それを受けつつも果敢に前へ出、デストロイブレードを叩き込むシルヴァ。隙を見て、と考えてはいたが、間断なく攻撃を仕掛けてくる相手にそれを見極める暇も無い。
『〜ッ♪』
「くっ!」
 大男が短く、鋭い音を吹く。衝撃波となったそれはピヨピヨへ。回避し損ね、身を穿つそれは想像以上に重い一撃。フィルメイアが癒しを広げ、傷を緩和していく。狙い澄まされたトウヤの黒槍が道化師の体を貫いた。更に、セインの放つ紋章の槍が大男を捉え、紋を刻み付ける。
「喰らっとけ!」
「打ち砕け! ダークソウル!」
 ジィルの電刃衝、リュウのサンダークラッシュ。合わさった二つの雷が大男の体を強かに打った。魅了を扱う大男を集中して攻撃していく手だ。道化師の掲げる黒いナイフ。狙われたのはまたもピヨピヨで、その羽に黒が広がる。お返しとばかりに聖なる槍で道化師を撃てば、道化師の体が大きく揺らいだ。
「……!」
 そこに、また魅了の旋律が響き、冒険者のおよそ半数が囚われる。抗い難い音色を振り払えず、トウヤはバッドラックシュートをセインへ放った。咄嗟のことに回避しきれず、その腕に漆黒の染みが現れる。その結果、次の行動時に踊りから逃れられず、攻撃の機会をひとつ減らしてしまった。
 繰り返される攻防は互いを削る。幾度も癒しは広げられ、幸運が歌われるが、それでも囚われる者は常にあった。魅了により、貴重な回復アビリティを敵に使ってしまうことも幾度。そしてアビリティの残数に底が見え始めた頃――
「〜〜〜!」
 放たれた音塊に、不運にも攻撃を多く喰らっていたピヨピヨが倒れる。だが同時、ジィルの放った一閃により、大男もその場に崩れ落ちた。このまま押し切れれば、いける。気を引き締め直し、冒険者達は道化師に攻撃を集中させ始める。
 しかし、今ひとつ決め手を欠く戦いは、長期戦の様相を呈し始める。
「あと、少し!」
「もう終いでいいだ、ろっ!」
 リュウの剣から雷電が迸って道化師を撃ち貫き、シルヴァの掲げる闇色の巨大剣が、大上段から渾身の一撃を叩き込む。幾度も刃を受けた道化師にも、少し疲労が見え始めていた。だが、まだ終わらない。大男集中の作戦をとっていた為、道化師の体力を削れていなかったのだ。黒のナイフを掲げる道化師。狙いは
「っ、あ……」
「フィルメイア!?」
 回復の中心を担っていたフィルメイアだった。深々と突き立つ黒刃。夥しい紅が流れ、糸が切れたように細い体が崩れる。元より体力が多くなかった彼女は、その一撃に耐え得る力を残していなかった。トウヤが倒れた仲間達を庇うように前に出、道化師に攻撃を繰り出す。
「そろそろ、倒れていただきます!」
「いい加減しつこいぜっ!」
 そこに間髪居れず、セインが紋章から光球を撃ち出す。仰け反る道化師に、ジィルが更に追撃をかけた。麻痺を齎せる電刃衝も、ここで打ち止め。各々が主力としてきたアビリティは、他の皆も、既に残数僅かとなっていた。静謐の祈りも既に途切れて久しく、唯一、ピヨピヨが上書きし残したヘブンズフィールドが、状態異常から冒険者達を守っている。
 だがそれも、いつまで持つか。凄絶な削り合いに、戦場は血色に染め抜かれていた。そして――

●戦いの爪痕
「あ、が……ッ!」
「ぐぅっ?!」
 高く高く放り上げた真紅の球。バラ撒かれる無数の刃。朱に染まり血溜まりに伏す仲間。その瞬間だけ、時間が酷くゆっくり流れたように思えた。追撃に倒れたのはトウヤとリュウ。回復手段も、もう残り少なく。
「……撤退だ。これ以上やれば、誰かが」
 自らも朱に染まりながら立ち続けていたシルヴァが、苦々しげに呟いた。このまま戦い続ける事は、仲間の犠牲を意味する。それで敵を討ち果たせるとしても。ジィルがサンダークラッシュを撃ち、道化師が気を惹かれた隙に、冒険者達は倒れた仲間を背負い駆け出した。介抱を続けていたエラセドは、血に染まった仲間達を見て事情を察す。一般人の状態は未だ芳しくないものの、どうにか手を借して共に走り出した。
『ギ、ギヂ、ギギっ!』
 後方から道化師の奇妙な声が追いかけてくる。振り返る余裕も、立ち止まってまた牽制を撃つ余裕も無かった。只管に、脇目も振らず走り抜ける。安全だと思える場所に着く頃には、動ける者達も、疲労困憊だった。
「そういえ、ば、一般の皆さん、は?」
「え? あ、そういや」
 連れて来た筈の一般人の姿が見えない事にセインが気付く。考えれば間も無く答えが出た。冒険者達の走りに着いて来れず、脱落してしまったのだろう。重傷者を抱えた撤退では、一般人までを完全にフォローすることは出来なかった。
 何が間違っていたのだろう。一般人の保護に手間をかけ過ぎたことか。道化師の能力を正しく把握できなかったことか。或いは、小さな齟齬が積み重なった結果だろうか。何れにせよ、全ては過ぎ去り、後の祭り。
「……!」
 声無き慟哭が、満ちた。

 平原に一人残された道化師は、暫く動かなかった。やがてふと気付いたように、落とした腕を拾い上げる。それから生者の気配がする方へと、あの奇妙な足取りで進み始めた。
 嗚呼。死魔の行進は、いつになれば終わるのだろうか――?


マスター:河流ロッカー 紹介ページ
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死亡者:なし
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