潜入プラント大作戦【第3作戦】ぴちぴちピーチ!



<オープニング>


●潜入プラント大作戦
 その事を、長老達は突然思い出した。
 一斉に咲き乱れ実りを結ぶ、植物怪獣達の楽園の話を。

 長老の一人は言う。
「偶然だったんじゃなぁ〜ん。集落の者がいつも通りに狩った獲物が、実りの欠片を持っておったんじゃなぁ〜ん」
 実りの楽園は、ここからは遠い。
 けれども、実りを食べた怪獣を別の怪獣が追い立て襲い、それをまた別の怪獣がまた襲い……食物連鎖に沿って、逃げ延びたり襲われたりを繰り返した結果、最後の捕食者・ヒトノソリン達の元にまで運良く運ばれてきたのだろう。
「これは採りに行かぬ手はないと思うてなぁ〜ん」
 だが、楽園は存外に遠い。
「谷があると聞いておるなぁ〜ん」
「川もあるらしいなぁ〜ん」
「危険な怪獣も沢山おるじゃろうなぁ〜ん」
「集落の者だけでは危かろうなぁ〜ん」
「手伝って貰うのはどうじゃなぁ〜ん? 人手が増えれば、収穫も増えるなぁ〜ん」
「それはいい考えじゃなぁ〜ん」
「なぁ〜ん」
 かくして、長老達が居眠りしながら額を付き合わせ相談した結果、冒険者達の手を借り、皆で頑張って採りに行こう、という話になったのである。

 そして、現在。
 うつらうつらと舟を漕ぐ長老の前には、幾十人かの冒険者達。
 どうやら意外と大掛かりになりつつあるこの作戦の概要を、長老達は長い眉を扱きながらゆっくりと話す。
「どうにも場所が遠くてなぁ〜ん、皆には順を踏んでやって貰わねば成らぬことが幾つかあるんじゃなぁ〜ん」
 それらすべきことを大まかに分け、長老達は大きな三つの作戦を提示する。

「最初にするのは、皆が移動する道筋の確保なぁ〜ん」
 楽園に至るまでの道程は、何通りもある。
 谷もあれば山もあり、沼もあれば川もある。とにかく何もかもがワイルドスケールなワイルドファイア。小集団なら何なりと行って帰ることもできるだろうが、たくさんの人員が収穫を持ち帰るには、道の確保それだけの為に労力を費やす必要がある。
 また、どの道が一番効率が良いかなども判らない。様々な可能性を模索するため、それぞれの地形に対して小部隊を結成、各個アプローチしていく作戦だ。

「二つ目は怪獣達の対処じゃなぁ〜ん」
 これからゆく先は、怪獣達の住処の真っ只中。
 怪獣達は縄張りに入り込んだ生物を、獲物として当然のように狙ってくるだろう。或いは、縄張りを主張して追い出しに掛かるかも知れない。美味しい収穫を手にしていれば、それを襲われる可能性だってある。
 そんな怪獣達を惹きつけ、時には蹴散らして収穫部隊の安全を確保するのが、ここでの役目だ。

「最後に、実りの収穫なぁ〜ん。一番の楽しみじゃなぁ〜ん!」
 実際に実りの楽園へ足を踏み入れ、その収穫を持ち帰ること。
 言葉だけ聞けば実に容易いものだが。
 楽園で実りを齎す者達は、植物怪獣なのだ。皆、我が身を護るため、何らかの抵抗をしてくるのは想像に難くない。
 楽園には様々な種類が自生しているらしく、実りの形も抵抗の方法も多種多様だ。中には自走する者も居るかも知れない。
 それらから収穫を勝ち取り、持ち帰る。今回の作戦においての、最大の目的だ。

「これら三つの作戦を、小部隊に分けて別個に実行して貰いたいと思っておるなぁ〜ん」
 言い終えると、集まった面々を何処かしら眠そうな眼差しで見回し、ゆっくりと髭を撫でる長老達。
「詳しい状況や内容は、別個説明するなぁ〜ん」
「是非名乗りを上げてくれると、嬉しいんじゃなぁ〜ん」
「どうか宜しく頼むなぁ〜ん」

●【第三作戦】〜ぴちぴちピーチ
「ってことでさ、キミ達に担当してもらいたいのは桃の収穫かな」
 ワイルドファイアの霊査士・キャロットが収穫班の一団に向けてこっちこっち、と手招きをした。
「桃、ね……割ったら中から何か攻撃する動物が出てくるとかか?」
 いやアンタそれ食えないから。
 何処かで聞いたようなネタを呟いた銀雷閃光の蒼き守護者・レキサナートに方々からツッコミが飛んだ。
「さすがに中から出てこないけど、この桃は普通のとちょっと違ってさ……種と実が逆になってるんだよね」
「外側がとにかく硬いんだよ。後はその硬い物の延長みたいにして枝にくっついてるからなかなか外れない。まずはそれを収穫のために落としてもらうのと……」
 ちなみに硬い外殻の中にもう一回柔らかな普通の皮があり、落とす時に外殻を割ってしまっても粉砕しない限りは大丈夫、とキャロットは笑う。
 ちなみにワイルドファイア産なのでとにかくでかいようだ。頭に当たったりした日には命の危険もあるかもしれない。
「これが最大の難点なんだけど、葉っぱがすごくぎざぎざしててね?」
 こう、と簡単に指で空中に絵を書いて見せつつ彼女は続けた。
「実を奪われそうになると一斉に葉を飛ばしたり近くだと絡ませたりして抵抗するんだよ。しかもぎざぎざが鋸みたいになってさ」
 それが結構な威力を誇るのだと言いつつ、さらりと嫌なことを口にする。
「あ、あとね、乾燥してない葉っぱの汁とか蒸発すると何か危ないガスとか出るので気をつけてね」
「……地味に厄介な相手だな……」
 レクスのツッコミにそうだねぇ、と頷いた後キャロットは笑って言った。
「一定以上近づかないと攻撃してこないのと、一応植物だから葉っぱは燃えるよ。流石に丸ごと燃やしちゃうと桃も燃えちゃうけどね」
 冒険者であれば飛んできたり千切れた葉の汁がどうにかなる前に何とかすることは出来そうである。
「あ、そうそう。葉っぱ飛ばしまくってる時はあんまり根元とかには攻撃行かないみたい。一応怪獣だから動けるけど、樹だから高速回転とかしないから。そのあたり、上手く利用すればいけるんじゃないかな?」
 持ち帰る数量は冒険者の裁量に任されているようだが、一個が赤ん坊の頭ぐらいはあるようなので考慮が必要だろう。
「桃、とろけるように甘くてすっごく美味しいらしいよ。食べたら若返るぐらいの幸せを味わえるんだって!」
 最後にちょっとだけ耳寄り情報を教えて、キャロットは頑張ってね、と手を振った。 


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参加者
想いの歌い手・ラジスラヴァ(a00451)
迅なる風・ニイネ(a26127)
空仰鵬程・ヴィカル(a27792)
白き金剛石のヒト・ミヤクサ(a33619)
奏光の白兎・リセルシア(a43963)
黒き咆哮・ルージ(a46739)
夢みる仔猫な誤爆魔法少女・クランベリィ(a56302)
月夜に咲く灯り花・ロイナ(a71554)
NPC:銀雷閃光の蒼き守護者・レキサナート(a90113)



<リプレイ>

 桃は色々な幸せの詰まった果実だ。
 古来から「桃のような」と賞賛される言葉が数多くあるように、桃の瑞々しさ、甘さ、そしてあの何ともいえない色彩は人々の心を捉えて離さない。
 そう、たとえそれがどんなに巨大で些か収穫に難があったとしても。

●採れるかな?
「いっぱい採って桃パーティだ〜♪」
 担いでいた運搬用の巨大な籠をとりあえず、と言ったように地面に下ろしながら、迅なる風・ニイネ(a26127)がうきうきと言った。
 ちなみに籠は帰路時には彼女ではなくヒトノソの皆様が中身入りを担当することになっている。
「ちょっと変わってますけども……きっとすごく美味しいんでしょうね、楽しみです」
 そのためにも仕事をきっちり片付けないと、と同じく運搬用の籠を手に、不思議の卵・ロイナ(a71554)はおっとりと微笑んだ。
 多少形状が変であろうが、美味とあればやはり期待に胸は高鳴る。
「おっきい上にぴちぴち……楽しみなぁ〜ん!!」
 ぶんぶん、と音を立てる勢いで尻尾を楽しそうに揺らしている、空仰鵬程・ヴィカル(a27792)。
 桃は彼女の大好物の一つだった。
「でっかい桃を収穫して食べるなぁ〜ん♪」
 嬉しそうな白い尻尾の横で同じくはねるように動く黒い尻尾。
 ボクも桃大好きなぁ〜ん、と黒き咆哮・ルージ(a46739)が力いっぱい同意した。
 白黒のノソ尻尾がぴょこぴょこ動く様はたいそう和むもので、どこぞの銀狐がこっそり目を細めて嬉しそうに観察していたりする。
「ぴっちぴっちピーチ♪ ミーの腹に収まってあー幸せぇと叫ぶなのー♪♪♪」
 えらくテンションが高いのは、夢みる仔猫な誤爆魔法少女・クランベリィ(a56302)だ。
 早く桃が食べたいなのー!!と今にも走り出しそうな勢いであるが、流石にいきなり単独突入をかける訳にも行かず、自重しているらしい。……多分。
「ノソリン長老様は相変わらず唐突に思い出しますね」
「……まぁ、それが老人と言うものらしいからな」
 まったく仕方がありませんねぇと言わんばかりに苦笑する、芽吹き咲かせる・ミヤクサ(a33619)に銀雷閃光の蒼き守護者・レキサナート(a90113)が笑いながら返した。
 今回は別に思い出してくれて困る事柄でも何でもないので、藪から棒な記憶蘇生も歓迎すべきところであろう。
「甘そうですしね……」
(「たくさん採れればお土産に持って帰ったり出来るでしょうか?」)
 できれば大好きな姉にも食べさせてあげたいと、奏光の白兎・リセルシア(a43963)は、まだ見ぬ桃に思いを馳せる。
「……あれ、かしら?」
 教えられた通りに進んでいるか地図を改めてチェックしていた、想いの歌い手・ラジスラヴァ(a00451)の指す方向には確かになんとなくそれっぽいものがいた。
「……でっかー!」
「おっきいなぁ〜ん!!」
「すごいなのー!!」
 少年少女組が思わずはしゃいだりするのも無理はなく、確かにやたらめったらでかい実がほとんど目立たない程度に本体もでかい。
 植物怪獣であるからか、遠くからにぎやかに騒いでいてもテリトリーを犯さない限り無関心のようだ。
「それじゃぼちぼち始めるかね?」
 若者達のパワーに何となく押され気味だった最年長者が愛用の剣を手にかきこきと首を回しながら、ニコニコ笑いながら元気いっぱい組を見やる。……何やらやたら爺臭いが、本人は全く気にしていない模様だ。
 レクスの声に頷き、ミヤクサが黒い炎をその身に纏い、土の小人達を次々に作り出す。
 続いてロイナがふわふわした羽毛の固まり達を一斉に呼び出した。
「よぉし!」
 ニイネが回りに術のリングをふよふよ浮遊させながら軽い足取りで桃の樹に近づいていく。
 とりあえず、といった感じでレクスが警戒しつつ後に続き、多少離れた場所からラジスラヴァが用心深く歩き出した。
「ミー、一刻も早く桃食べたいなのー!!」
 いち早く根元に向かって駆け出したクランベリィを察知したのか、それとも実に近づいてきた術のリングや小人、人影を感知したのか。
 がさがさがさ、と言う音を立てて先程まで静かに立っていた桃の樹が動き始めた。
 取りあえずは葉が不気味にうねりながらリングを迎え撃とうとしているのか広がったり伸びたりを繰り返している。
「行くなぁ〜ん!……なぁ!?」
 ヴィカルが狙いをつけて振り絞った矢を飛ばすと、ちょうど当たり所が悪かったのか矢は付け根ではなく実をばしっと枝ごと吹っ飛ばした。
「うわ!」
 粉砕まではされなかったようだがすごい勢いで飛んでいったそれを、丁度その方向にいたレクスが必死で避けたのが見える。
 報復とばかりにぶわっと飛んできた葉を流石に回避しきれず、ニイネのリングが次々にはじけ飛んだ。
 彼女自身は素早く動き、葉を叩き落しながらさらにリングを補充していく。
 ようやく体勢を立て直したレクスは舌打ちと共に問答無用で飛来してきた葉達を眼前で容赦なく切り払った。
 流石に叩き落すだけの余力がなかったらしい。
「ガスは大丈夫みたいですが、一応」
 切り裂かれたそれの汁が変なガスを出していてもいいようにミヤクサが素早く爽やかな風で周囲を洗った。
 最も、切り離されたばかりのそれを観察したところまだまだ蒸発などしている様子でもなかったのだが、一応念には念を入れるに越したことはない。
 樹から離れた葉はどうも一回限りの使い捨てらしく、流石にもう一度動き回ることはない様子で、冒険者達をほっとさせる。
「こっちよ?」
 くす、とかすかに妖艶な笑みを浮かべたラジスラヴァが紫煙を生み出した。
 なんともいえない香りがあたりに漂い、気のせいか桃の樹の動きが彼女に惹かれてフラフラと近づいているような気がする。
「ご、ごめんなぁ〜ん!?」
「気にするな、それより収穫を頼むぞ?」
 大慌てで走り寄ってきたヴィカルは、大きく頷き返すと色々な囮に気を取られているらしい樹に向かって走り出した。
「なぁ〜ん!!!!」
 ルージが雄叫びを上げ、一瞬樹の動きが止まった隙を突いて自らも根元に走り出す。
 リセルシアがその後方に回り込むようにしながら蜘蛛の糸を射出した。
 ロイナの生んだ土の小人達がちょろちょろと、葉が届きそうで届かない絶妙な場所を走り回っている。
 ばさり、ばさり、と蠢く葉を避け、リセルシアとヴィカルがもう一度樹に蜘蛛の糸を射出し、からめとられた樹にルージが素早く取り付いた。
「ななな〜ん♪」
 軽やかに枝を伝い、機嫌よく桃の枝にがっつんがっつん攻撃を加えだしたルージの下ではクランベリィが涎をたらさんばかりの顔で待機している。
「あー、でも植物が歩く動く反応するってなんてシュールな光景なんざんしょ?」
 確かに。しかしそこは危ないんじゃないか、と誰かが注意するより前に、ゴリッと言う音がしたかと思うと彼女の鼻のほんの数ミリ先を桃が落下して行った。
「きゃー!?」
「実の真下に立つと危ないなぁ〜んよ?」
 おっしゃることはごもっともだがちょっと遅いだろう。当の本人はそんなことは気にもせずに続きに取り掛かっているが。
「結構しぶとい、ですね……」
 リセルシアは要領よく桃のすぐ下を避けながら根元の比較的何も来ない位置から続けて蜘蛛糸を射出した。
 絡めとっても結構すぐにみちみちと引き千切って動き出そうとするのでなかなか油断がならない。
「落とすなぁ〜んよ!」
 自らも蜘蛛糸を駆使し、とりあえず手近な枝に登っていたヴィカルの言葉に、ロイナが素早く近寄ってきた。
 最も、頭を直撃に警戒しているのか一定以上は寄らずに替わりに土の小人達が協力して安全圏に持ち上げ運んできた果実を素早く籠に回収しているのは流石である。
「う、結構重いですね……」
 よろよろと実の詰まった籠を移動させようとするロイナの傍に、仲間を励ます歌を歌っていたラジスラヴァがやって来た。
「殻、割ったほうがいいんじゃない? 重さが楽になるわ」
 そうかも、ということで一応安全圏くさい樹の根元で地道な作業が開始される。
「てやー!」
 とりあえずリングは維持しながらも拘束されている樹に近づく余裕が出来たニイネが低めの枝に手刀を一閃し、付け根を切り離すといった器用なことをしていた。
「せーの」
 ミヤクサは慎重に回収した桃の殻を割っている。
「えんやこーら、どっこいしょなぁ〜ん」
 ルージが妙な掛け声を掛けながら作業を進めていた。
 樹が動き出せば素早くリセルシア、ラジスラヴァの手から蜘蛛糸が飛ぶ。
「と、ととととと」
 拘束から逃れてばらばらと飛来する葉を一手に引き受け、あるものは叩き落し、あるものは切り払って対処していたレクスが何かに足を取られ、転んだ拍子に上から実が落下してきた。
「!」
 ごすん。
 非常にいい音をして銀髪青年の脳天を直撃したそれが、てんてん、と地面を転がる。
 声にならない悲鳴と共に昏倒する被害者。
「このたくましいミーが助けてあげるから安心するなのー」
 クランベリィの明るい声と共に、編み出された癒しの波が悶絶するレクスを包み込んだ。
「えいえいなぁ〜ん」
 ざわざわ、とやはり拘束を逃れた葉に巻きつかれたヴィカルが鏃で葉を攻撃している。
 ちくちく突付かれて嫌々するように蠢く葉を近くにいたニイネが素早く切り落とし、ミヤクサがさっと周囲の空気を爽やかな風で洗ってガスに備えた。
 その瞬間にすぐ傍で落下する桃が一つ。
 危機一髪!? ……二人は顔を見合わせ、思わず噴出した。
「結構、採れた、か?」
「もうちょっとだけなぁ〜ん!」
「後三つぐらい欲しいなぁ〜ん!」
「もう少しなのー!」
 涙目で頭を擦ってはいるが、とりあえず黄泉というか昏倒からは蘇って来たらしいレクスの呼びかけに、一斉に元気な声が返ってきて周囲の笑いを誘う。
「丁度いいところで戻りましょう?」
 暫く作業を繰り返し、皆の蜘蛛糸の残り回数が覚束なくなった辺りでラジスラヴァが眠りを誘う歌をゆったりと歌いだした。
 拘束にも限りがあるし、流石に切られたり粉砕されたりした葉の汁もそろそろ蒸発というか揮発など始めてしまうかもしれない。
 結構素早く作業しているが、葉を全部隔離するわけにも行かない以上はここいらが潮時だった。
 大人しくなった樹からそれぞれが素早く離れ、回収した桃の入った大きな籠や袋をとりあえず協力し合って、引きずったり担ぎ上げたりしながら樹の攻撃が届かない場所まで運んでいく。
 その様子を見送り、いつでももう一度拘束できるように警戒しながらラジスラヴァも仲間の後を追った。

●さぁ届けよう……その前にちょっとだけ。
「桃の実には傷がつかないようにしなきゃなのー♪」
 持参のテントと棒でえらく器用に大量の桃を包み込んでよろよろと何とか運んでいたクランベリィが安全な場所になった、と判断しフワリンを呼び出して運ばせている。
「10分経つ前に一度降ろしてもらわないと桃が降ってくるぞ?」
 レクスが笑いながら忠告した。
「それは困るなのー。半分ぐらいミーのお腹にも入れてこーかな?」
 食べる気満々の少女に周りの空気が何やら和む。
「お疲れ様〜♪ せっかくだからお茶しよ! お茶♪」
 ニイネが笑って休憩兼収穫のお祝いを提案した。
 持ち帰る分以外に、少しここで楽しんでも大丈夫なぐらいには収穫してきてある。
 ノソリン姿になって籠や樽を運んでいたルージらヒトノソ二人が、背中の荷物を降ろしてくれ、と要求し協力して皆が下ろしてやると物陰に消えた。
 流石に人間形になって参加しようと思ったらしい。
「食べるなのー!!!」
 すでに皮ごとむしゃぶりついているクランベリィが顔を汁でべとべとにしながらも幸せそうな声を出した。
 それに笑いながら皆が皮を剥くと、瑞々しい果肉とえもいわれぬ甘い香り。
「コンフィチュールなどにしても美味しそうですね」
 切り分けたそれを口に運びながらミヤクサがニコニコという。
「なぁ〜ん♪♪」
 戻ってきて嬉しそうに噛り付くルージの尻尾がぴょこんぴょこん撥ねていた。
「旅団の皆さんにも食べさせてあげたいですね〜」
 桃の甘さをかみ締めながらロイナが笑う。
「少しいただけたら、すごく姉さん喜びそうです」
 リセルシアがはにかんで言う。
「沢山あるようだから、届けた後で少しもらうのはかまわないんじゃないか? キャロットも数は任せると言ってたしな」
 レクスが笑って言うと、二人はそうですよね、と微笑んだ。
「苦労した甲斐はあったわね」
 桃をゆっくり味わいながらラジスラヴァが呟いた言葉に、全員が同意する。
 確かにこの桃は極上品だった。味も香りも申し分なく、食べた人は若返る気分になれるというのにも頷ける。
「すんごく幸せなぁ〜ん、楽園にありがとうなぁ〜ん!」
 ヴィカルが幸せいっぱいの顔で、後方にかすかに見える楽園のほうに向かって叫んだ。
 恵みに感謝する心。これを忘れないのは重要だ、と彼らは思う。
 それぞれが様々な形態で、楽園に感謝の意を伝え、そしてまたにぎやかに帰途に着いた。

「おお、これは素晴らしい量なぁ〜ん」
「たくさんご苦労様じゃなぁ〜ん」
「少しぐらいもって帰るのは全然かまわないなぁ〜ん。でも宴会にも参加していくといいなぁ〜ん」
 長老達は口々に冒険者達を労った。
 無事に任務を達成したので、他の恵みも集めて大宴会が開かれるらしい。
「この桃の種、村から離れた外にも蒔いていいですかなぁ〜ん?」
 ヴィカルがわくわく、といった体で長老達にお伺いを立てた。
「種を蒔くのはかまわないが、おそらく育たないと思うのじゃなぁ〜ん」
 植物怪獣の桃だからなのか、それとも何かあの楽園が特殊なのか。
「実り」は楽園の外では栽培に成功した例がないらしかった。
「そっか〜……なら仕方ないですなぁ〜ん」
 彼女は残念そうな顔はしたが、素直に納得した様子である。
「また実りの時季に行くといいなぁ〜ん」
 そう慰められ、そうだよね、と周りの仲間達と微笑んだ。
「しかし、蒔く場合はどうなるんだ?」
 レクスが首をかしげて手にした桃をしげしげと覗き込んでいる。
 種らしき種が内部にない以上はやはり殻つきのままで埋めたりするのだろうか。
「……実は我々にもよくわからんのじゃなぁ〜ん」
 長老の一人がしれっといった言葉に、皆が吹き出した。
 まぁ、また来年もあの楽園に収穫に行けば良いだろう。
 そんな事を言いつつ、冒険者達は宴の準備を手伝ったり見物したりするべく、村の会場の方へと足を向けた。


マスター:神條玲 紹介ページ
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