慈悲無き慈悲の手



<オープニング>


●慈悲無き慈悲の手
「……ぅ……ぐぅっ……」
 くぐもった声。猿轡を噛まされた女が、口の端から血反吐を垂らし、血塗れの床に倒れ伏している。窓はなく、部屋を照らす灯りは、そこかしこに立てられた蝋燭のみ。
 何者かが女の前に立っていた。まず目を惹くのは、風船のように膨らんだ頭部。そこには一本の髪の毛も生えておらず、不気味な程太い血管が幾筋も浮かび上がっている。頭部とは不釣り合いな程に小柄な体躯は、まるで十かそこらの子供のもの。しかし、人間にはあり得ぬ形状に発達した筋肉が、見た目の異様に拍車をかけている。端的に表現すれば、『怪物』であった。
 怪物が動いた。女の体を持ち上げ、殴る、蹴る、手にしたノコギリのような物を押し当て――引く。
 ただの拷問であれば、相手に情報を与えて終わりにする事も出来る。しかし、そのような楽な道は、そこには無かった。在るのは、愉悦、苦痛。快楽の為の暴力。
「やってますな」
 ふいに男が一人、部屋に入ってきた。年の頃で言えば50代半ば、薄めの髪を頭に撫でつけ、小枝のように細い体をした『人間』。目の前の惨劇に臆するどころか、その瞳には、むしろ怪物に近い狂気を孕ませている。
 数週間前、突如村に現れた怪物が要求したのは、暖かい食事と寝床、そして生け贄であった。
 数日に一度、誰かを差し出せば他の者は助かる。村を守る為、訪れた旅人や商人を差し出し、近くの村や街から浚ってきた人間を差し出し、そうして、村は今も偽りの平和を享受している。
 そんな中、自ら進んで怪物に付き従う者が現れた。それが先の男――この村の村長だ。
 男は、村人の前では『仕方なく従っている』というポーズを取りつつ、裏では怪物の許しを得て、喜々として拷問に参加する迄になっていた。
 ――と、白い光に覆われた怪物の拳が、凄まじい速度で女に叩き込まれる。肉、骨が砕ける音。壁まで吹き飛ばされた女は、それでもまだ生きていた。驚きの声を上げる村長に、怪物は大きな頭を揺らして笑いかける。
「面白いだろ? こいつで攻撃されるとな、死ねねーんだよ」
 しかし、瀕死の状態であるのは間違いない。何かするとすぐに死んでしまいそうで、村長は手を出し倦ねている。怪物はまたもいやらしい笑みを浮かべ、床で呻いている女の耳元に囁きかけた。
「おい、聞こえてるか? いい加減俺も疲れてきたし、ま……、ここらで終わりにしてやるよ。楽にしてろ。今、治してやる」
 怪物には、確かに傷を癒す力があった。この拷問が始まった当初に一度見せられた事がある。虚ろな意識で、女は体に流れ込む治癒の力に身を任せた。
「全快おめでとう!」
 怪物が叫ぶ。悪夢からの解放。動けぬまま安堵の涙を流す女に、怪物は事も無げに告げた。
「それじゃ俺はこれでやめとくが、次は村長さんが可愛がってくれるってよ。今度は死ぬ迄、な」
 
●無慈悲の代償を
 数日後、冒険者の酒場の一角に、緑柱石の霊査士・モーディ(a90370)を中心とした人の輪が出来ていた。聞けば、居場所を特定したドラグナーの討伐隊を募る集まりだという。
 集まった冒険者達を前に、霊査士は羊皮紙に目を走らせ、自分が視た内容を伝えていく。
「無差別の大量殺戮ではなく、一人から数人を長時間かけていたぶるのが趣味のようだな。その為か、人数だけで見れば被害は小規模だ。今の内に何とかすれば、村への影響も少なくて済むだろう」
 とはいえ、懸念はある。村人は仕方なく言う通りにしているだけだが、村長は自らの意志でドラグナーの片棒を担いでしまっている。現時点では村人に死者は出ておらず、村長の裏の顔も知られていない。ドラグナーを倒せば、多少の影響こそあれ、村は平穏を取り戻すだろう。しかし、一度暴力の魅力に取り付かれた村長は、果たして平穏を受け入れられるだろうか。
「……村長をどうするかは君たちに任せる。実際にその目で確かめて、必要だと思う事をしてくれ」
 霊査士は、話を本題へと戻す。
「ドラグナーは村長の家を根城にして、一日の殆どを件の部屋で過ごしている。故に、村に立ち入った程度でこちらの存在に気付かれる事はあるまい」
 旅人を装って訪れる、姿を見られないように密かに潜入する等、考えられる手は幾つかある。やりようによっては、冒険者である事を大々的に明かすのも有効かもしれない。
「どんな方法を採るにしろポイントは村長だ。細心の注意を払って、事に臨んで欲しい」
 一区切りついた所で、話はドラグナーの特徴へと移る。
「姿形はさっき話した通り、能力的な傾向は医術士に近い印象を受けた。純粋な強さという観点で見れば、さほど突出したものは感じない……が、腐ってもドラグナーだ。なめてかかれば手痛いしっぺ返しを食らう事もある。どんな時でも、敵を軽んずる事なかれ、だ」
 その後、霊査士が提示した条件は、ドラグナーの撃破、村への被害を最小限に留める事の2点。
 たとえドラグナーを倒しても、この条件下で多数の死傷者が出るようでは成功とは言えまい。
 件の部屋での戦闘になれば、周りに村人が居る可能性は低い上に、逃げ道も限定される。反面、乱戦になり、前衛後衛などと言っていられない状況になる可能性が高い。かといって野外に誘い出せば、村人への被害が出る可能性、逃げられる可能性が飛躍的に上昇する。
「知性を持つドラグナーとの戦いは、作戦の穴をどれだけ埋められるかが鍵だ。君たちならやれると、私は信じているよ」
 眼鏡を押し上げる仕草と共にそう言い残し、霊査士は席を立った。


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参加者
狩人・シャモット(a00266)
銀蒼の癒し手・セリア(a28813)
言いくるめのペ天使・ヨウリ(a45541)
慈愛の聖母騎士・ニーナ(a48946)
砂の孤城の・リオン(a59027)
最近寝不足の・フォー(a60308)
春風駘蕩たる戦人・カショウ(a68562)
リザードマンの重騎士・ファフニール(a74451)


<リプレイ>


「あの……、もしや冒険者様でしょうか?」
 おずおずと近づいてきた女性からそんな言葉を投げかけられ、死神の友達・ニーナ(a48946)は内心酷く焦っていた。
(「な、何故ですの……?」)
 冒険者である事を隠して村長の家に潜り込む筈が、実際は、村に入って1分も経たないうちに村人に看破され取り囲まれてしまっている。
 春風駘蕩たる戦人・カショウ(a68562)が村人達の視線を追うと、それは自分達ではなく、むしろその後方――2人のグランスティードに集中していた。
 夕飯前の忙しい時間帯とはいえ、表にはまだ遊び足りずに走り回る子供達も居れば、井戸で水を汲む女性陣の姿もあった。村では、怪物に差し出す生け贄を確保する為、外から来る者への注意は普段以上に強められている。そこへ正面から入って行ったのであれば、目に止められるのは言わば必然。更に、見たことも無いような不思議な動物を引き連れて現れた2人に思い当たるところがあるとすれば、それは冒険者くらいのもの。
 「ついて来るな」と命じる2人の傍から召喚獣の姿が消え、村人達からどよめきが起こった。
 ニーナは覚悟を決め、少しでも早くこの場を解散させる算段をつけ始める。
「その通り、私達は冒険者ですわ。この村を占拠した怪物を倒しに来ましたの」
 その言葉に村人は手を握りあって喜んだ。罪無き者を自らの手で死地に叩き落とす苦悩の日々。それがやっと終わるのだと、涙する者さえ居た。
「村長の家を教えて貰えるだろうか?」
 村人達の声がぴたりと止まり、彼らの指が一軒の家を指し示す。2人は村人達に「家に入って静かにしているように」と言い残し、足早に村長の家へと向かって行った。

 その頃、村から少し離れた場所では、
「そろそろカショウさん達が村長の家に入り込んだ頃カナ?」
 囮の2人が情報を得るまでの間に村長の家周辺の見回りをするべく、村に向かおうとする砂の孤城の・リオン(a59027)だったが、
「夕食が済む頃になるまでは、村には近付かない方が良いのではないでしょうか?」
 という、探求する銀蒼の癒し手・セリア(a28813)の主張につい足を止めていた。
 それを聞いた狩人・シャモット(a00266)は更に異を唱える。
「夕食が済む頃になるまではというか、合図があるまではここを動くべきではないでしょう。村人に私達のことを明かしてしまうと、何も知らない村人が村長に『冒険者が助けに来た』と教えに行ってしまうかもしれませんし、明かすにしても合図の後にするべきだと思います」
 そう言って、リオン達の前に立ちはだかるシャモット。彼らと村人との接触を阻止する構えだ。
 対象が『途中で出会った村人だけ』なのか、『家の中に居る人々まで』かの違いこそあれ、『自分達が冒険者である事』『ドラグナーの討伐に来た事』『危険なので家の中に居て欲しい事』等を、村人達に伝える、その事に関しては全員の意見が一致していた。しかし、『いつそれを行うか』の認識が、ここへ来て微妙なズレを見せ始めている。
「そうは言っても、あまりのんびりしておると囮班に何かあった時に拙いのではないかのう?」
 言いくるめのペ天使・ヨウリ(a45541)の言に、シャモットが押し黙る。
「自分は夕刻になったら行くつもりでしたし、そろそろ向かいたいのですが……」
 沈みゆく太陽を眺めていたリザードマンの重騎士・ファフニール(a74451)は、ニーナから預かったロングソードを持って立ち上がり、ふと、待機中の筈の冒険者が1人足らない事に気付いた。
「そういえばフォーさんの姿が見当たりませんね」
 周囲を見渡してみても、彼女の姿どころか荷物さえ忽然と姿を消している。
「……まさか」
 そのまさかである。シャモット達が意見を戦わせていた頃、バナナ大好き・フォー(a60308)は既に村の手前まで来ていた。
「行動は素早く、ってね」
 彷徨える悪戯者のプーカ。まさにその言葉通りの先行突入は、他の冒険者達が出発せざるを得ない状況を作り出し、結果として全員の行動を統一させる好手となっていた。


「おやおや、何やら騒がしいと思っていたらお客様でしたか。何かご用ですかな?」
 ドアの前に立つカショウ達を出迎えたのは、村長のにこやかな笑顔であった。先程の騒ぎを見られていれば此方が冒険者である事は知られている可能性が高い。しかし、村長の言動からはそのような雰囲気は感じられない。
「すいません、私達は旅の者ですが泊めてもらえないでしょうか?」
 当初の予定通り、ニーナは旅人として潜入を試みる。
「ほう、旅の方ですか。どうぞどうぞ、こんな所で良ければいくらでも泊まっていって下さい」
(「上手くいった――」)
 と、2人は思ったかもしれない。ところが、実際はそうではなかった。
 外での騒ぎに関係無く、村長は2人が姿を見せた瞬間、彼らが冒険者であろう事に目星を付けている。何故なら、ニーナのように小柄で細身の女性が、事も無げに全身を覆うフルプレートの甲冑を身に着けていたり、カショウのようにあえて体を拘束する服を着ているような人物が、2人も揃ってただの旅人であるとは考えにくいからだ。
 そんな素振りをおくびにも出さず、自らの裏の顔を村人達に隠し続けた時のように、村長は努めて冷静に振る舞っていた。
「お部屋はご一緒で構いませんかな?」
 別々にも出来ますがと言う村長に、カショウは一瞬の思案の後、「それで構わない」と答える。
 通された部屋は、2つのベッドが置いてある客間であった。
「枕や毛布はそこのタンスの中に。かみさんに先立たれた身でしてね、申し訳ないがベッドの用意はご自分でお願いしますよ。あとは……、夕食はどうされます?」
 計画では、村長を捕縛するのは夕食が済んでからだ。
「よろしく頼む」
「分かりました。男やもめなもので少々お時間を頂くかもしれませんが、出来たらお呼びしますよ。それまでこの部屋でおくつろぎ下さい」
 そう言って部屋を出た村長の顔から、ぽつり、ぽつりと汗が流れ出る。
 2人の目的が分からない。
 もし何らかの方法であの怪物の事を知り、倒しに来たのなら、自分にその話をする筈だ。
 だとすれば、何故何も言わなかった?
 まさか、自分の行いまで知られている?
 いや、それなら尚の事、自分が部屋に居る間に話を切り出さなかった理由が分からない。
 もしさっき何かされていたとしたら、自分に為す術はなかった。
 本当に旅の途中で寄っただけなのか……?
 考えがうまく纏まらない。
 ふらつく足取りの村長は、台所を通り過ぎ、廊下の奥へと進んでいった。

 その頃、村の中にはただ一つの人影――フォーの姿があった。
「みんな晩ご飯なのかな、誰もいない……」
 それは、先行した2人が行った村人への忠告の結果だったが、その事を知らないフォーにとっては、少々違和感を感じる様子でもあった。多くの人の気配は感じるものの、皆、家の中で何かを待つようにジッとしている。
 ふいに幾つかの気配が現れた。気配の正体はすぐに知れた。5人の仲間。彼らはフォーに気付くと、足早に駆け寄り、村の様子について問い質す。既に彼らもこの人気の無さには気付いていた。しかし、作戦の遂行に支障が無い事、ウェポン・オーバードライブによるニーナからの連絡が無い事により、作戦は未だ継続中であると結論付ける他なかった。


「冒険者だと?」
 村長からの報告を受け、ドラグナーが呻きにも似た声を上げる。
「ええ、おそらく……ですが、ただの旅人とも思えぬ格好でして」
「村の連中が呼んだんじゃねーだろうなぁ? それとも、お前か?」
「そんな……、滅相もない!」
 慌ててかぶりを振る村長。村の者の動向は出来るだけ把握するようにしている。誰かが冒険者を呼びに、長期外出したような事は無かった筈だ。
「人数は?」
「ふ、2人です」
「……本当にたった2人で来たんなら、この場でぶち殺してやりたい所だが」
 ドラグナーは扉を少しだけ開け、隙間から廊下の様子を確かめる。そこに冒険者達の姿は無く、いきなり突入されるという最悪の展開が、とりあえずは無い事が分かった。
 村長を連れ、窓のある部屋へと場所を移す。
「ちっ、やっぱり仲間がいやがる……」
 窓から外を伺うと、村の中を明らかに冒険者然とした連中が彷徨いているのが見えた。正確な数は分からないが、動きから見て、連中が此処に来たのは偶然ではない。であれば、自分を倒す為に十分な戦力を整えてきていると考えた方が良いだろう。
「あの……、私はどうすれば……」
 不安げに問うてくる村長の声に、ドラグナーは素早く考えを巡らせた。
 いざとなったら人質にも出来る。村長を連れて逃げるか?
 否。自分の体格でヒト一人抱えていては咄嗟の動きに支障が出る。そちらの方が痛い。
 かといって自分の足で走らせるなど論外だ。ついてこれる筈がない。
 今なら自分一人で逃げる方が断然マシか。ならば――、
「とりあえず、此処に居る2人の様子を見てこい。俺も一度奥の部屋に戻る」
「は、はい」
 言われて、扉に手を掛けようと後ろを向いた村長に、ドラグナーが素早く忍び寄る。軽くジャンプしたかと思えば、背後から村長の口を塞ぎ、そのまま頭部を180度回転させた。
「なんてな、行かせるわけねーだろ」
 そのまま更に180度回転させ、村長の体が動かなくなるのを確認したドラグナーは、死体を部屋の入り口から死角になる箇所まで静かに運び、その後一人で部屋を出た。今の状況で接触させれば、この男はまず間違いなく自分を裏切ってあちら側につく。ドラグナーが持つ疑り深さが、冒険者達が犯したミスを繰り返す事を許さなかった。

「合図、遅いですね……」
 未だ自分の手の中に残る剣を、ファフニールは不安そうに見つめている。
 村に入ってから、既に随分時間が経っている。家々を回り、外に出ないよう念を押していたセリアや、村長の家の周りを見回っていたリオンも、一旦戻ってきていた。シャモットも、村長の家の玄関を見張る事の出来る場所で、彼らと共に待機している。
 武器を持たぬ方の手で顎髭を撫でながら、ヨウリはぼそりと呟いた。
「もしや、囮は不首尾に終わりましたかのう」


「遅いな……」
 夕食の呼び出しを待っていたカショウも、流石に不審に思い始めていた。『少々時間を頂く』とは言っていたが、いくらなんでも遅すぎる。様子を見に行くべきかどうか。
 その時、何者かが玄関の扉をノックする音が、彼の耳に届いた。
 何度か続いたノックの音に、村長が出る気配は無い。カショウとニーナはお互いに顔を見合わせ、頷く。部屋を出て玄関のドアを開くと、そこには先程までノックしていたヨウリを始め、待機中の筈の仲間達が一堂に会していた。
「何かあったのかい?」
 2人は素早く外へ出て、静かに扉を閉めた。
「こちらは何もないのじゃが、あまりにも連絡が無い故、そちらこそ何かあったのかと思ってのう」
「いえ、こちらは何も――」
 そこまで言って、ニーナはハッと息を呑む。そう、『何も無さすぎる』のだ。村長はまるで何処かに行ってしまったかのように、夕食が出来たと呼びにも来なければ、新たな客への対応にも出て来ない。最初、自分達がドアを叩いた時はすぐに出てきたというのに。
 カショウは、仲間と共に再び家の中へと入っていった。一つ一つの部屋を静かに、慎重に調べていく。台所はすぐに見つかったが、誰も居ないどころか、そこには人数分の食事の準備をしていた形跡も無かった。
 更に奥へと進んだ彼らは、とある一室の隅で、首を捻り折られて事切れている村長を発見する。
「くっ……」
 皆の前で真実を吐き出させ、反省させるつもりでいたフォーが悔しげに呻く。
 警戒態勢に入り、次々に部屋のドアを開けてはドラグナーを探す冒険者達。しかし、彼の者の姿は何処にも見えない。
(「逃げられた……?」)
 全員がその可能性を思い浮かべ、必死に打ち消しながら捜索を続けていく。そうして、ついに件の拷問部屋に辿り着いた彼らが見たものは、散乱する人間の腕や足、頭。血みどろの床。元の顔が分からぬ程に晴れ上がった顔の死体。生存者など望むべくもない、思わず吐き気が込み上げてくる程の、悪夢のような光景であった。
 全ての部屋の捜索を終えても、ドラグナーは見つからなかった。家には裏口があり、おそらくはそこから逃げたのだろう。逃亡の可能性にもっと気を配っていれば、こっそりと逃げ出すドラグナーの姿を捉える事が出来たかも知れない。しかし、村長の家周辺の見回りをしていたのがリオン一人では、それも適わなかった。
 ドラグナーは村から去り、懸念材料であった村長も死亡した。他の村人には怪我一つ無い。
 今回の結果は、ある意味でとても平和的な結果と言えた。村長死亡の報に村人達は悲しげな顔をしたが、ドラグナーの脅威が去った事に、皆心の底から安心した様子を見せている。
 その後、冒険者からの要望で、大人達を集めての説明の場が儲けられた。まずリオンが、事件の発覚から解決までの状況を、村長の所業も交えて事細かに話していく。信じられないといった顔で眉を顰める者も居たが、多くの村人は冒険者の言葉を粛々と受け止めていた。
 リオンとしては、他の人間を巻き込んだ事を悔いて欲しいという気持ちもあった。しかし、彼がそれを口に出す事は無い。反省とは、他人から強要されるものではないという思いが、そこにあった。
 シャモットも、黙ってその様子を見つめている。
(「この世界の誰もが私達の様に強い力と意志を持っているわけではありません。逆らえば簡単に殺されてしまう様な状況に逆らえない事を責めるのはあまりに酷というものです……」)
 説明会の終、ファフニールは村人と共に村長や犠牲者の遺体を埋葬し、犠牲者の遺品については、身元の分かる範囲でセリア達が請け負う事となった。
 事実は、あまりにも残酷で、あまりにも悲しい。遺族には、冒険のさなか偶然見つかったものだと伝えられる事になるだろう。それが、セリアなりの気遣いであった。

 夜の浸食を許した闇の中、ドラグナーはひた走りに走り続けている。そして、このような辺境の地ですら見つかってしまうという事実は、彼により強い警戒心を抱かせる事となった。彼は、冒険者達の目の届かぬ場所で長い長い時を過ごし、危険をやり過ごすだろう。
 百年か、二百年か――。彼には、それが可能なのだから。


マスター:東川岳人 紹介ページ
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