赤土の帝王



<オープニング>


 昨今のランドアース大陸では、ずいぶんとその姿を見なくなったモンスター。だが、それはまだ完全に大陸から駆逐されたわけではない。
 辺境にはまだ、人々を脅かすモンスターの影が、ポツリポツリと落ちているのである。

「依頼だ。辺境の荒野で発見されたモンスターを退治してもらいたい」
 夜も更けた酒場に、生真面目霊鎖士・ルーイ(a90238)の声が響きわたる。
 各々、酒の入ったジョッキやつまみを山積みにした皿の前で談笑していた冒険者達が、ルーイの方に視線を向ける。
「ターゲットは人型のモンスターだ。両手持ちの双頭剣を武器にしている。
 攻撃手段は遠距離一辺倒だ。双頭剣を振り回し、ソニックウェーブのような衝撃波を飛ばしてくる」
 ただし、この衝撃波はソニックウェーブと違い、射程が弓矢並にあるらしい。無論、防御無効の効果もある。
「一応、双頭剣で近距離戦闘も出来るようだが、原則ほとんどしない。可能な限り距離を取り、衝撃波での攻撃を繰り返してくる。
 衝撃波は威力、制度共に非常に高い。十分に注意してくれ。
 また、モンスター自体の特徴として、圧倒的に生命力が高く、ねばり強い闘いをしてくる。かなりの長期戦を覚悟しなければならないだろう」
「……」
 冒険者達は神妙に話を聞いた。決して勝てない相手ではないが、なかなかの強敵のようだ。
「俺の霊視ではこれが限界だ……すまないがよろしく頼む」
 ルーイは最後にそう締めくくると、いつも通り丁寧に頭を下げるのだった。


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参加者
語る者・タケマル(a00447)
風薫る桜の精・ケラソス(a21325)
天照月華・ルフィリア(a25334)
愚者・アスタルテ(a28034)
守護と慈愛の拳闘淑女・クレア(a37112)
樹霊・シフィル(a64372)
迷宮組曲・ロンウェ(a66705)
予備役少佐・カールグスタフ(a70382)


<リプレイ>


 そこは、見渡す限りの荒野だった。
 地平線の向こうまで続く赤土の大地に、冒険者達の足跡が刻まれる。
「今回の敵は、敵としてはとてもわかりやすいですね。それだけに強敵とも言える訳ですが」
 グランスティードの跨り先頭を進む、剛拳麗女・クレア(a37112)はそう呟いた。
 長距離から衝撃波を撃つというモンスター。確かに、搦め手が無い分やりやすいとも言えるし、正面から撃破するしかない分やっかいとも言える。
「こんな辺境まで来ないとモンスターにお目にかかれないとは、場所によっては随分平和になったように感じるものですが」
 そういいながら、迷宮組曲・ロンウェ(a66705)は、手に持つ遠眼鏡で辺りを索敵する。
「でも、逃がすと一般人に被害が出るので……逃がさないようにしないと」
 頷き返しながら、愚者・アスタルテ(a28034)も同様に、遠眼鏡を持ちロンウェとは別な方向に目をやる。
 この限りなく起伏のない地形で、奇襲を受ける恐れはゼロに等しいが、早期発見のメリットは計り知れない。
「こんな赤土がむき出しの平原に一人でいるというモンスター。寂しいと言う感情すら無いのでしょうか?」
 風薫る桜の精・ケラソス(a21325)は荒涼と吹き抜ける風に、緑色の長髪を吹かれながら思わずそう呟いた。
 見渡す限り草一本見あたらない赤土の荒野は、そこいる者の心を渇かせる。
 冒険者達がそうして、荒野を進むこと数刻、最初にそれに気づいたのは、偶然遠眼鏡でそちらの方を見ていたアスタルテだった。
 肉眼では地平線にうつる黒い点にしか見えないそれも、遠眼鏡でのぞけば辛うじて人型をしてることが見て取れる。
「あれは」
 とアスタルテが声を上げるとほぼ同時に、モンスターも冒険者達の存在に気づいたようだった。
 黒点が一直線に迫ってくる。だが、早期発見が功を奏し、交戦距離に入るにはまだ余裕がありそうだ。
「さてさて〜サボらない程度に気張りましょっと♪」
 ぐるりと首を回しながら、語る者・タケマル(a00447)が、黒炎覚醒を使用したのを皮切りに、冒険者達は次々の戦闘準備を整えて行くのだった。
 

「ハッ」
 術手袋に包まれた手を振るい、土塊の下僕を呼び出す、樹霊・シフィル(a64372)の隣で、ケラソスは頭上にホーリーライトの白い明かりを灯す。
「護りを」
 アスタルテも両手杖を掲げると、皆に護りの天使達の守護を施す。
「……長距離狙撃型のモンスターですか……」
 天照月華・ルフィリア(a25334)は一直線に迫り来るモンスターを見据えたまま、手の中のブーメランを握りなおした。
「敵の射程内で戦うのも、久しぶりじゃの」
 元リザードマン王国軍少佐・カールグスタフ(a70382)もそう呟き、愛用のボウガンの動作を確かめる。
 冒険者達が一通りの準備を終えても、まだ若干の余裕がある。その隙にケラソス、アスタルテ、シフィルの三名は、土塊の下僕を召還し足下に待機させた。先ほどシフィルが召還したものもあわせ、4体の土塊の下僕が命令通りじっとしている。
「手を叩いて合図したら敵に向かって突撃しなさい」
 アスタルテが自らが召還した土塊の下僕にそう命令する。ケラソスとシフィルも同様の命令を下したようだ。
 やがて冒険者達は四人ずつ二組に分かれ、それぞれ一列縦隊の陣形を取る。
 なかなか珍しい陣形だが、今回の敵が単体攻撃しかできない点を突いた作戦だ。こうすれば、理論上敵の攻撃は先頭の二人に集中することになる。
 これ以上、じっとしている理由はない。
「では皆様、突撃をかけましょう」
 シフィルはそういうと、アスタルテ、ケラソスと息をあわて、パンと手を鳴らす。その音を聞いた四体の土塊の下僕達は、命令通り一目散にモンスターめがけ駆け出す。
「はい、では」
 ケラソスの頭上を照らすホーリーライトが白から青に変色するのを合図に、冒険者達も縦列陣形を保ったまま突撃を敢行するのだった。


「来るっ!」
 先頭を走るクレアが警告を声を発した次の瞬間だった。
 モンスターが双頭剣を勢いよく振り抜く。生じた衝撃波は、暴風の勢いと疾風の速さをもって冒険者達の前を走る、土塊の下僕を直撃する。
 衝撃波が吹き抜けた後に、土人形の姿はなく、僅かな土塊がパラパラと落ちているだけだった。
 予想以上の破壊力だが、土塊の下僕も囮の役は果たしてくれたと言うことだ。その隙に、冒険者達は一気にモンスターとの距離を詰める。
「後詰めはワシが引き受けた! 貴様らは前進しろ! 走れ!」
 モンスターの射程内に入ったところで、二班の最後尾を走っていたカールグスタフは、その場に倒れ込むようにして伏せた。
 モンスターと同じ射程を有するカールグスタフは、これ無理をして近づく必要はない。
 そして、それはブーメランを持つルフィリアも同様だった。
「……動きを止めるです……」
 ルフィリアは、ブーメランに影縫いの矢を乗せ、手首を効かせ投擲する。
 召還獣ミレナリィドールの力もあり、ルフィリアの影縫いの矢は、高い精度でモンスターの影をとらえた。
「!!」
 双頭剣を振り上げた体勢で、モンスターはピタリと動きを止める。この機を逃す訳にはいかない。
「今だっ!」
 二班に分かれた冒険者達は一気に距離を詰め、モンスターを射程内にとらえた。

 麻痺状態のモンスターに、グランスティードに跨ったクレアが手を伸ばす。
「ハッ!」
 右手で頭を、左手で肩をつかみ、そのまま勢い上下逆さまにたたき落とす。
 モンスターは頭部から赤土の荒野に叩きつけられた。
 続いてその後ろから、ロンウェがヴォイドスクラッチを叩きつける。
「そこです」
 ロンウェの放った虚無の手は、モンスターの背中をゾブリと穿ち、その守りを丸裸にした。
「逃すか」
 さらに、後方から荒野に伏せたままのカールグスタフが、ボウガンのトリガーを引き絞る。
 放たれた太矢が、守りをはがされたモンスターの身体に突きさる。
 畳み込まれる攻撃に、モンスターは赤土の大地を鮮血で汚した。
 弱めのモンスターならばすでに絶命していてもおかしくないダメージだ。だが、赤い大地に伏したまま、此方をにらみつけるモンスターの双眼は、全く衰えない闘志の光が凛々と輝いている。
 その目を見た冒険者達は、この闘いが長いものになることを確信した。


 拘束は唐突に解かれた。
「ッ!」
 気をつけろ、と警告を発するまもなく、モンスターは一瞬にして立ち上がる。
「くっ」
 アスタルテが体を張るようにしてモンスターの動きを阻害しようとするが、モンスターの動きの方が早かった。
 大きく後方に一歩バックステップを踏むと、次の瞬間今度は前に跳びはねる。
「えっ?」
「あっ?」
「ヘグッ!」
 一足飛びに、クレア、ロンウェの頭上を飛び越え、さらにその後ろのシフィルの頭を踏み台にして飛び上がる。
「させぬ」
 後方からカールグスタフがモンスターの着地ポイントを狙うが、その矢がモンスターの身体をとらえることはなかった。
 包囲を飛び越えられた冒険者達は。体勢を立て直し、モンスターに向き直る。
 だが、冒険者達の行動よりも、モンスターの反撃のほうが速い。
「グアッ」
 野太い雄叫びと共に放たれた衝撃波が、向き直ったばかりのアスタルテを襲う。
「く」
 衝撃波を食らったアスタルテは、その場でがくりと片膝を落とした。
 紋章術士の割には体力に自信のあるアスタルテであったが、今の攻撃をもう一度受ければ、間違いなく戦闘不能になる。
 モンスターの攻撃力に、改めて冒険者達の間にも、緊張感が走った。
「大丈夫ですか、アスタルテさん」
 すぐさま、後ろに控えていたタケマルが、癒しの水滴でその傷を癒す。無論、それだけでは全快にはほど遠い。
「♪♪♪」
 続けざまにルフィリアがガッツソングを歌い、何とかアスタルテの傷はほぼ全快した。
 今度は、此方が反撃をする番だ。
「行けますわね。もう一度、仕掛けましょう」
 頭を踏まれたシフィルがそう皆を鼓舞すると、仕返しとばかりに気高き銀狼を放つ。
 放たれた銀狼は、モンスターの喉笛にかみつき、見事に組み伏せる。
 再び動きの止まったモンスターにすかさず追撃を加えたのは、ケラソスだった。
「そこです」
 両手杖を振るい、中空に描き出した紋章陣から、巨大な火球が放たれる。
 モンスターの外皮を焼く焦げ臭い匂いが、赤土の荒野に漂う。
 冒険者達は一気に距離を詰めた。
「はっ」
 小さく気を吐き、アスタルテが両手杖から衝撃波を放ち、モンスターを痛打する。
「はいっ」
 さらに、タイミングを合わせクレアが破鎧掌を放つ。クレアの掌底から放たれた気の爆発を受け、モンスターの身体が真横に吹き飛ぶ。
 そこに追撃を入れたのはタケマルだった。
「もう一つっ」
 吹き飛んだ先に先回りするように、ブラックフレイムをたたき込む。漆黒の炎蛇の牙を受けたモンスターは、がっくりとその場で膝を落とした。
「やったか?」一瞬冒険者達の間にそんな考えがよぎるが、それはすぐに撤回された。
 全身は麻痺し、表皮の八割を鮮血で染めながら、それでもその眼は全く戦意を失ってない。
「ハアア!」
 大きく気合いの息を吐くとバッドステータスから回復したモンスターは、ゆっくりと立ち上がった。


 戦闘は長時間にわたっていた。
「ふう」
 タケマルは額の汗を拭いながら、効果時間の過ぎた黒炎覚醒をかけ直す。
 他の者達も大半が、メインの攻撃アビリティを使い果たしていた。
 幸い、ルフィリアの影縫いの矢と、アスタルテ、ケラソス、シフィルの気高き銀狼が非常によく効いたため、全体的はまだ余裕がある。
「ゴォッ!」
 モンスターの放った衝撃波がクレアを襲う。
 その鋭い攻撃は、同盟トップクラスの冒険者であるクレアでも回避は難しい。
「あっ?」
 まともに衝撃波を受けたクレアだったが、その足は止まらず、モンスターに隣接し、剛鬼投げを仕掛ける。
「ハッ」
 続いて、駆け寄ったのはルフィリアだった。
「もう一度……です……」
 倒れたモンスターを無造作に持ち上げると、勢いよく大地に叩きつける。
「ガッ……」
 剛鬼投げの二連発に、モンスターの口から鮮血が漏れた。さしものモンスターも立ち上がることが出来ない。
 その隙にタケマルは、癒しの水滴を使いクレアの傷をいやした。長期にわたればわたるほど、負傷をそのままに戦う危険度は増大する。
 ぼろぼろになりながら、それでもモンスターはまだ立ち上がろうとしている。
 それを無情にも押しとどめたのは、銀色に輝く狼だった。
「だめです」
 シフィルが放った気高き銀狼が、モンスターを大地につなぎ止める。
「グオッ!」
 うつぶせに倒れたまま、必死にもたげるモンスターの頭部に、ケラソスがエンブレムノヴァをたたき込む。
「とどめです」
 火炎が収まったとき、そこには完全に事切れたモンスターの姿があったのだった。


 長時間にわたる死闘を制し、モンスターを退治した冒険者達は、赤土の荒野を掘り、そこにモンスターを埋葬した。
 長きにわたる戦闘は、冒険者達の心身を深刻にむしばんでいたが、同じ冒険者であったモンスターの死体を、野ざらしにしておくのは寝覚めが悪い。
 ロンウェは赤土をもっただけの、簡素な墓の前で呟く。
「赤土の荒野で一人、何を思ったのでしょうねぇ」
 その呟きに答える者はない。
 乾いた風の吹き抜ける荒野に、ケラソスの謡う、鎮魂の歌だけが流れていた。


マスター:赤津詩乃 紹介ページ
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作成日:2008/07/18
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