腐毒蚯蚓



<オープニング>


「ああみなさん、良くきてくださいました」
 招きに応じ、フォーナ神殿を訪れた冒険者たちに、穏やかな笑顔で歓迎の意を表すのは神殿の主、女神フォーナ。
「今回みなさんをお呼びしたのは、自然の摂理を乱す変異動物を退治し、本来の美しい自然を取り戻していただきたいためです」
 薄く瞼を閉じ、淀みなく語り始める女神フォーナ。冒険者たちは黙してその言葉に耳を傾ける――。
 
 ミミズはよく、土を肥やすと言われている。
 それは痩せた土地にあって土や微生物を噛み砕いて潜り回り、生育に適した養分を含んだ排泄物として土壌を入れ替える性質による。
 経験則としてそれを知り伝える農業従事者などは、集めたミミズを土地に放して土壌改良を行ったりするわけだ。

 だが、今回現れた変異ミミズの群れは、なんと土壌を汚染してしまうのだ。
 巨大化した体躯に硬質化した体表のせいで土中に潜ることは出来なくなっているが、口に当たる器官は大地を容易に削り掘る。
 土を岩を噛み砕き、体内に蓄えて勢いよく吐き出す。それに触れた動物草木は腐り枯れ果て、やがて命尽きるのだ。
 放っておけば、その範囲は変異ミミズが死を迎えるまでの間、どんどん広がってゆくだろう。
 体長約2m、体幅15cm前後となった変異ミミズが全部で10匹。それらを排除し、腐り果てた大地を蘇らせること。
 それが、今回冒険者たちに科せられた使命なのである。
 
「これを、お渡ししておきます」
 冒険者たちの一人に、ほんやりとした光で構成された種が手渡される。
 自然の摂理が乱れた原因を取り除いてから、この種を地に埋めて大地が力を取り戻すようにと祈りを捧げる――。
 そうすることで、土地の復活を助ける効果があるのです、とフォーナがゆっくりと説明する。
「みなさまの御武運と、一刻も早い自然の快復を願っております」
 そう締めて、両手を胸の前で組むフォーナの姿を後に、冒険者たちは教えられた現場へと向かうのであった。


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参加者
天紫蝶・リゼン(a01291)
狩人・ルスト(a10900)
碧風の翼・レン(a25007)
城壁の姫騎士・サクラコ(a32659)
光纏う白金の刃・プラチナ(a41265)
綾なす火炎の小獅子・スゥベル(a64211)
信念を貫きし剣・アーク(a74173)
白藤の御剣・セツカ(a74268)


<リプレイ>

●大気の粘毒
 足元が粘つく嫌な感触が、わざわざ用意した厚手ブーツの靴底越しにも感じられた。
 風すら止まってしまうかのような重く嫌な空気が漂い、朽ちて折れ転がった木片を踏めば、くちゃりと嫌な音を立てて潰れる。
 狩人・ルスト(a10900)が足場を確認しながら慎重に進む。土壌の腐敗が進行して、まるで落とし穴のようになっている場所もあるのだ。
 腐泥の中に小さな水溜まりがあるかと思えば、いつ頃から放置されているかも解らない命尽きた大猪の屍から染み出る得体の知れない汁であったりもした。
 木の葉の一枚すら見えず、生物の息吹の絶えた森。見ているだけで気分が悪くなる光景に、防毒対策にがっちりと着込んだ内側の肌にじっとりと珠の汗が浮かぶ。
 森を祖とするドリアッドである碧風の紡ぎ手・レン(a25007)と城壁の姫騎士・サクラコ(a32659)の表情が特に渋く、特にサクラコが痛ましそうな表情を見せる。
 彼女の隣では光纏う白金の刃・プラチナ(a41265)が心配そうにその様子を案じている。目が合い、大丈夫心配いりませんとばかりに親指を立てて笑顔を向けるサクラコ。
「大丈夫です。毒にも負けないナイスアーマーですから」
「うむ、ナイスアーマーじゃな」
 そんな様子や、変わり果てた森の風景を見やりつつ、白藤の御剣・セツカ(a74268)は女神フォーナの言葉を心の内で反芻して決意を新たにする。
「本来の美しい自然を取り戻して……うん、しっかりしないと」
 そこからほとんど無言で歩を進める冒険者たち。ただねちゃりねちゃりという足音だけが続く中、ばちゃりべちゃりといった音がかすかに耳に届いてきた。
 一斉に足を止める冒険者たち。自分たちの足音に紛れていた異音が、より明確に耳に届きはじめる。

 ばちゃり、ずるずる。べちゃり、ずるずる。

 腐り果てているといっても森の中。視界は遮られて敵の姿は見えないが、冒険者たちは一斉に油断なく戦闘準備を整える。
 土も毒なら水も毒、視界内全て毒にまみれていないものはないこの森で生きて動くものがいるということ。毒によって容易に力尽きないだけの生命力を持っている冒険者でなければ、残る答えはただ一つだ。
 この森の惨状を作り出した張本人。腐毒を持つ巨大なミミズが鎌首をもたげ、冒険者たちの様子を窺っているような様子が見えた。
 右に3匹です、とルストが仲間たちに伝えながら後方に下がる。
 左には2匹見えます、と言いながら両手に剣を構えてセツカは前に出る。
 サクラコとプラチナが仲間の鎧を強化して、さらなる増援や奇襲を警戒しながら前衛後衛に陣形を構える冒険者たち。
「貴様等も必死に生きているだけだというのは理解しているが、自然の摂理を乱す存在を見過ごす訳にはいかないのでな」
「ええ。速やかに……退治するとしましょう」
 信念を貫きし剣・アーク(a74173)と綾なす火炎の小獅子・スゥベル(a64211)がそれぞれ前後に分かれながら臨戦態勢を取る。
 逃げる様子もなく徐々に近づいてくるミミズたち。こちらから仕掛けるにはやや遠く、どこもかしこも足場は悪い。プラチナが己に黒炎をまとわせ、いよいよ万全の体勢で敵を待ち受ける。
「左右、ともに1匹増えました」
 後方から周囲を俯瞰するように観察するルストの警戒の声。ぬちゃりでろりと泥にまみれたその姿は、巨大に変異しているとはいえやはりミミズ以外のなにものでもない。
 うええ、と涙目になるサクラコ。せめて色が違っていてくれれば。黒とか! と心の中で涙するも、見た目が見た目なのできっと嫌悪感はあまり変わらないのだが。
 吸う空気の不味さ、肌に感じる蒸し暑さも合わせた不快感を、いまだに全容を見せない敵を前にした一触即発の緊張感で塗りつぶす。
 視界の中で、唯一毒に侵されていない自然であるところの薄曇りの空は、どんよりとした姿で変わらずに空にあるのだった。

●灼熱の痛毒
 冒険者たちとミミズ7匹、彼我の距離が充分に縮まったところで冒険者たちが一斉に前に詰めてゆく。
「ミミズは大人しく土に還りなさーい!」
 天紫蝶・リゼン(a01291)が先陣を切ってミミズに対して勢いよく斬りかかる。
 合わせて後方からルストの放った矢の雨が、ぐにゅりとうねるミミズたちに向けて一斉に降り注いだ。
 それらを受けながらも、ミミズたちの攻撃は一時的に突出した形のリゼンに集中する形となる。躍りかかり巻きつき噛みつこうとするミミズに、毒泥を吐きかけようとするミミズ。
 刹那、この腐り朽ちた森に似つかわしくない白銀の狼が空を駆けた。スゥベルの放ったその一撃が、それらのミミズのうち一匹を大地に組み伏せる。
「させるかぁ!」
「おおーっ!」
 続いて、リゼンのあとに続いたレンとサクラコが、左右から揃って不浄の大地に向けて一撃を叩きつける。
 巻き起こる衝撃波、噴き上がる毒土。それがうっかり口の中に入ったりしないようにだけ気をつけながら、目前のミミズをまとめて吹き飛ばす。
 その難を逃れたミミズから吐き出された泥が飛んでくる。リゼンが巨大剣で、レンが身を翻してそれを避けるも、弾けたあとの雫が着衣を融かして肌を焼いた。じくりとした痛みが襲ってくる。
 大地に残っているものとは濃度がはるかに異なるその毒は、泥の這い流れ落ちた跡に沿ってまで続く痛みによってその驚異を伝えてくる。歯を食いしばって痛みと洗い落としたい衝動に耐える。
「我が一刀は雷の煌き……奥義、雷光一閃!」
「一閃っ!」
 砂礫衝によって間合いが離れたミミズに向けて、アークとセツカの二人が並んで稲妻を放つ。
 毒で肌から浸透させて肉を灼くのとは違う、電撃による直接的な一撃がミミズを打ち、その場にのたうち回らせた。うち一匹が、さらに追撃で放たれたプラチナの黒炎によって完全に焼き尽くされる。

 絶えずどれかしらが毒を吐き出すミミズに向けて幾度目かの矢の雨を降り注がせた瞬間、ルストがそれに気づき、叫んだ。
「正面、物陰から2匹出て来ています!」
 腐り倒れた木を裏から食い破り飛びだしてきたミミズが、それぞれアークとサクラコに襲いかかろうとする。
 瞬時に反応して防御態勢に移ろうとしたアークの前に、すでに防御態勢を取っていたプラチナが割り込んだ。視線が交わされ、反撃は任せたという意思が無言で伝わる。
 盾で弾き返そうとした腕にミミズが絡みついた。その状態で吐きかけられた泥が頬に跳ね、そして鎧の隙間から染み込んで彼女の色白の肌を赤く灼き染める。
 頬から首筋、鎖骨を経て脇腹まで肌に沿って走る鋭い痛みに耐えながら、落ち着いて絡みついたミミズを振り払うプラチナ。そこにアークによる横薙ぎの一撃が、周囲に近寄ってきた他のミミズとまとめて叩き込まれた。
「我が太刀筋は流れる水が如く……」
「はいはい、皆さん歌っちゃうよーん」
 視界内の敵を薙ぎ払ったアークが残心を取っているところに、リゼンの力強い歌声が響いた。
 ミミズの体当たりを受けた痣た、毒によって灼けた肌の傷が癒えてゆく。いまだに残っている毒の痛みは続いていたが、これもルストが解毒の意思を込めた風によって浄化する。
 ほぅ、と息を吐いてから、奇襲を受けたもう一方、サクラコの様子を案じてそちらを見やるプラチナ。
「ぜーっ、ぜーっ、ぜーっ、ぜーっ」
 そこには、涙目で息を荒げ、半分になったミミズに深々と突き刺さっている槍の穂先をなんとか抜き取ろうとするサクラコの姿があった。
 トゲトゲに変化している彼女の鎧のトゲのあちこちに、ミミズの体液と思しき汚れが見えた。妾も似たような様子なのじゃろうなあ、と思いつつ、帰ったら真っ先に鎧のクリーニングをする決意を固めるのであった。

●大地の解毒
「焼き尽くす!」
「はい、合わせますっ!」
 スゥベルの放った幾筋もの光条に合わせ、セツカの横薙ぎの一閃が、ミミズの身体を焦がした火傷跡を深々と抉り裂いた。
 視界内に残り斃れていると思しきミミズの残骸や半身が、光の雨を受けた衝撃でびくんと跳ねては地に落ちる。落ちた後もまで悶え蠢いていた一匹を、リゼンが丸ごと叩き潰した。
「残りは?」
「4匹――いえ、2匹です!」
 たった今ミミズの1匹にとどめを刺したリゼンによる確認の声に、ルストが答える。
 戦闘開始時に5匹から7匹、ほどなく2匹が奇襲を仕掛けて来て9匹となったミミズも立て続けに数が減り、残るはアークが真正面でやりあっている1匹と、いまだに姿を見せない1匹を残すのみ。
「とどめだっ!」
 零距離から放たれた雷撃が、ミミズの全身を余さず焼き尽くす。黒焦げとなったミミズの全身が、泥中に力なくべちゃりと落ちる。
 その瞬間、戦場の傍らで半分に折れていた木の幹から、一つの影が躍り上がった。最後の一匹となったミミズが、ここにきて初めて姿を現したのである。
 知能があるかどうかもわからない変異ミミズではあったが、あるいは敵を全滅させたと思って気を抜いた瞬間を狙ったのかも知れない。だが、事前に総数を把握していた冒険者たちに隙はなかった。
 充分な心構えと共に、迎え撃つ冒険者たちの集中攻撃。
 躍り上がり宙にあったミミズは、避ける事も出来ずにサンドバッグ状態となってしまう。
「斬り裂けぇ!」
 そして最期に、レンの鋭い蹴りによってその身体を真っ二つに断たれたのであった。

 残ったミミズの屍を焼いて地に返したあと、森の中心部に近いひときわ荒れた地に穴を掘り、女神から受け取った光の種を埋める冒険者たち。
 森が腐った原因となる存在を滅ぼしたところで、すでに活力を失った自然がすぐに帰ってくるわけではない。
 種を埋めたところに、この腐った土地が再び元の豊かな大地となって還ってくるように、大地が緑を、美しい自然を取り戻しますようにと、とにかく頑張れ! と、それぞれの祈りを捧げる。
 それでも、女神の力、光の種をもってしてもすぐさま自然が元通りと言うわけにはいかない。
 冒険者たちは、その成果を確認することなくこの腐った森を後にする。

 後日。
 すべてを洗い流す夏の風雨が過ぎ去り、強烈な陽光がさんさんと降り注ぐ中。
 かつて全ての命が失われたこの腐毒の地に、わずかながらに草木の芽が顔を出すのであった。


マスター:磯山公樹 紹介ページ
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参加者:8人
作成日:2008/07/27
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