月に吠える夜



<オープニング>


 あなたはお化けを信じますか???
 世の中にはまだまだ人の力では解明できない不思議が転がっていたり…するかもしれませんよ?

「あのねぇ、皆お化けって信じる??」
 冒険者の酒場は相変わらずの賑わいを見せている。
「お化けって行ってもモンスターとか、アンデッドとかじゃない本当のお化け〜」
 言いつつ、手を顔の前に持ってきて身体をゆらゆらと揺らしてみせるルラル。
 同時に狐の尻尾もつられてゆらゆらと揺れる。
 彼女なりにお化けとやらを表現して見せたらしい。
「はぁ?なんだそりゃ……」
 一様に首をかしげる冒険者達。無理もない、モンスターでもアンデッドでもないお化けといわれてもぴんとは来ないのが現状だ。
「んっとね。依頼のあった洞窟にね。出るんだって〜……お化け〜……」
 村外れの森にあるとある洞窟。
 周りの見晴らしが良いこともあり、子供達の格好の遊び場になっていた……のだが。
 最近は訪れる子供もめっきり減ってしまった。
 原因は一つ。子供達曰く
「お化けが出るからやだ!」
 らしいのだが。
「月の綺麗な晩になると、決まって洞窟のほうからうめき声みたいなの聞こえるんだって〜」
 上目遣いでぼそぼそと話すルラル。最早怪談大会じみてきている。
「でね〜……そこ昼間調査しても何にもないんだって〜……」
「モンスターなどがいる形跡はない、ということか??」
「そう〜……で、雨の日とかは聞こえないんだって〜……」
 この話し方が妙にツボに入ったらしくやめようとしないルラルに苦笑しつつ、必要な情報は可能な限り集める冒険者達。
「洞窟の前、大きな広場になってるから今度その村のお祭で、そこで音楽祭が有るんだけど……」
 もう飽きたのか、めんどくさくなったのか通常の話し方に戻るルラル。
「歌とか、楽器とか一人づつ発表するの。皆楽しみにしてるの〜。でも、お化けがいると何かあったら困るからできないし……」
「要は原因究明して、何か危険がありそうならそれを排除すればいいんだな??」
 冒険者の言葉に元気に頷くルラル。
「解決できたら音楽得意な人はお祭に参加するのも歓迎だって。ルラルも覗きに行こうかな〜ララ〜♪♪♪」
 なにやら歌の練習を始めてしまったルラルを尻目に色々と推理を話し合う冒険者達であった。

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参加者
想いの歌い手・ラジスラヴァ(a00451)
白い仔猫の・ティオ(a08659)
風と踊り大地と歌う者・トトノモ(a08672)
白影の医術士・エスリス(a08853)
ヒトの紋章術士・カルシル(a08928)
黄昏の幸福論者・アーベント(a09066)
鎖状の蛇・ファランクス(a09313)
侍魂・トト(a09356)


<リプレイ>

●お化けってなーんだ
 村は、祭り前ということもあり、活気と喧騒に彩られていた。 
 一見したところ、正体不明の怪物におびえる様子は見受けられない。……最も、それは表面上の話で。
 喧騒の最たる原因は、遊ぶ場所が村の中に限定されてしまった子供達ということを考えれば、活気も一種の空元気であるのかもしれない。
 現に、件の洞窟につながる道の方は閑散としている。
 想いの歌い手・ラジスラヴァ(a00451)が村人たちに問題の調査をしに来た旨を伝えると、途端に広がる安堵の気配。最も子供たちの気のせいだという者あり、いや自分も聞いたという者ありとなかなかに反応はさまざまだ。
(「……とりあえず怪しい動きの方は今は見受けられませんね……」)
 にこやかな口調で説明をしつつしっかりと彼女の目は人々を観察していた。
「私も多少は楽器を嗜んでいますから、音楽祭を楽しみにしているのですよ。でもその前にお化けを何とかしなくてはいけませんね。頑張りましょう」
 エルフの医術士・エスリス(a08853)が自らに気合を入れるかの様に言う。
 優しげな風貌の青年が楽器を演奏できるらしいということで、そのそばにいた娘さん達からはかなり黄色い悲鳴と囁きあいが聞こえてきていた。
「それでは、無事に音楽祭が開けるように問題を解決しましょう♪」
 ラジスラヴァがにっこりと微笑んで周りを見渡すと、村人たち……主に若い男性……から熱烈な賛成があがる。
 大体何を考えているかは想像に難くない。図らずも心の中で賛同しかけた者がいたかどうか……はさておき。
 冒険者一行はそれぞれの分担を行動に移すべく動き出したのであった。

「お〜い、みんなにちょっと聞きたいことが…ん? 何やってんだ?」
 ヒトの武人・トト(a09356)がやってきたのは村の中程にある小さな空き地。同じくらいの年頃の子供達が石を蹴って滑らせ点数を競って遊んでいる。
「おっ面白そうだな。オレもまぜてくれよ!」
 快く了承した子供たちに混ざって真剣に遊びだすトト。
 いや、彼も子供なので遊ぶこと自体はまったくかまわないのだが。
 ……何か目的があるんじゃなかったのか??いいのかそれで??
 内なるツッコミか誰かの呟きかは知れないが、すでに彼の脳裏には目的はなく遊ぶことでいっぱいになっているようだった。彼的に言うと、『侍たる者目の前の勝負を見過ごすわけにはいかない』そうなのだが。……今回は勝負は逃げないんじゃないかなぁなどと誰か思ったかどうかは定かではない。
「ねぇねぇっ! ちょっと聞きたいことがあるんだけど〜」
 トトが向かった方向とは逆に歩いた夏至南風・ティオ(a08659)は、道の平らなところで遊ぶ女の子達を見つけ声をかける。
 ティオより少し年長に見える彼女達は、最初のうちこそ硬かったがいつの間にやら打ち解けてキャーキャーと賑やかなおしゃべりになった。自分も楽しそうに混じりつつ、いろいろな情報を頭の中で整理していく。
(「頭が割れそうな音と、聞いたこともないような音……おっきな影……ゆらゆら動く影……これって、まさか本当にお化けとかなのかなぁ……よくわかんないや」)
 ある程度情報を集めたティオは洞窟へ向かおうかと思い始めたのだが、彼を気に入ってしまった小さなお姉さん達が開放してくれるわけもなく。
 結局トトと同じ運命を辿ってしまったのであった。

 ……子供のことは子供に任すに限る。
 そうは言いつつ自身も十分若いヒトの紋章術士・カルシル(a08928)は、自分の推理を頭で組み立てながら、村の大人達に話を聞いて回る。
「この世のものとは思えない音なんだよ。今まで聴いたこともないね」
「聞こえてきたのはここ最近でさ。昼間は普通なんだよねぇ…わたしゃあれを聞いて気分が悪くなったよ」
「なんだかぐにゃぐにゃと動く影と大きな影を見たよ、音はそっちからしてたと思う」
「天気が悪いと聞こえないね。お陰で天気のいい日に散歩も気味悪くてできやしないよ」
(「やはり、音楽祭の開催が間近という事が何かの鍵なのかもな……何にせよ人々を怖がらせる要因は早急に取り除かなくてはな」)
 時間が夕刻に近づいてきたのもあり、小さな村の大抵の人に話を聞いたこともあり。
 彼なりに十分に情報を吟味しいろいろ考えつつ、足早に洞窟のほうへと向かうことにする。

 一方、それぞれの目的で洞窟に向かった4人。 
 洞窟の前はルラルの話どおり広い広場になっており、あたりには人っ子一人おらず閑散としてはいるが何分変わったところも見受けられない様子である。
 ここに来る道すがら、それぞれの予想を話し合ったりして各々自分のやることは決めてきた。
 なかなか、皆の意見は想像力豊かなものもあり興味深い。
『何故か音楽祭を温野菜と勘違いした誰かが洞窟で温野菜の栽培をした。しかし子供にあらされ小心者のその人物は泣き寝入りをするしかなかった…そしてその嗚咽が(略』
(「ありえ無さすぎる……考えなかったことにしよう……」)
 黄昏に向かう追放者・アーベント(a09066)は、自分の考えついた突拍子も無い推測を頭を振って脳裏から追いやることにした。
 ふと落とした視線の先に明らかに野菜の一部らしきものをみつけ、一瞬考え直しそうになったのは秘密。
(「きっと動物か何かが食べた後だ……きっとそうだ……そうにちがいない」)
 その傍らでは鎖と束縛に惹かれし者・ファランクス(a09313)が、辺りの植物等を注意深く観察して回っている。
「変異植物とかは今のところいないみたいですね……これは、にんじんですし」
 アーベントの足元に落ちている野菜の一部をまじめに調べて、異常なしと判断したようだ。
 狼を伴いし宿屋の店員・トトノモ(a08672)が土塊の下僕を自分達に先行させ、注意深くあたりを伺いながら洞窟の中に足を踏み入れていく。
 エスリスが後に続き、アーベントは洞窟の入り口近辺を入念に調査することにした。
 なかなかに広い洞窟の内部には今は何もいない様子である。薄暗いとはいえ、外からの光も十分入る作りで、ところどころ岩肌が露出しているのがみうけられた。
 しゃべり声がかなり反響する事からいって、ここは天然のコンサートホールのような構造になっているらしい。
「誰かが来た痕跡が無いか……と思ったのですがこれではわかりませんね……」
 エスリスの言う様に、地面は濡れた岩盤のほうが多く、足跡なのか違うのかわからない微かな跡が残るばかりである。
 そして。しばらく進んだ奥まった場所に、ひときわ強く光が差し込む場所があった。
 子供の頭大の穴が外に貫通している……天然の天窓といったところだろうか。
(「穴があれば塞ぐつもりでいたが……これはあまり塞ぎたくないな……」)
 トトノモは心の中で考え、穴が原因でないことを少しだけ願った。
 なかなかに美しい光景にしばし一行は見とれた後。
 村で情報集めをしているラジスラヴァら4人と落ち合うべく一度帰還したのだった。

●謎はすべて解けた!?
 夕刻。
 そろそろ日も暮れる、という時間に一行は洞窟の前に集合した。
「……問題の奇妙なうめき声は聞こえるようになったのがここ一ヶ月ぐらいで、それ以前にはこんなことは無かったそうです」
 ラジスラヴァが偵察組の話をかいつまんで話す。
 とりあえず、洞窟の中にいたのでは肝心のお化けが出ないかも知れない、ということで何かあったらすぐ駆けつけられる場所にそれぞれ身を潜めて待機することにした。
 なお、時間になっても異変が起こらなければ再度洞窟を探査することになっている。

 ……月が闇を照らす夜。
 どこかで聞いたかのように伝説でも始まりそうな感じだ。
 今日は空気もよく澄んで、月明かりであたりは昼間と変わらないほどである。風が時折吹き抜けるが、妙だ、といわれる謎の音はしない。
 ……一人路傍の草陰で安堵するトトノモ。
 いつも音が聞こえてくる、という時間になったが、異変が起こらない。
 打ち合わせどおり一行は洞窟の前に再集合し、足音を潜めゆっくりと潜入を開始する。
 青白い光が岩肌を照らし、昼間とはまた、違った雰囲気だ。
「や、やっぱ夜はちょっと違うな…。な、な〜にオレに任せとけ……」
 先を行くエスリスの服の裾を握り締めながらほとんど聞き取れないような小声で強がるトト。
 その時。月が雲に隠れたらしく光が翳り、真っ暗になった。
 固唾を呑んで立ち止まる一行。
 その瞬間、トトのすぐそばを何かが通り過ぎた気配があった。
「で、でででで出やがったたたな!く、くくくらえ!ひ、必殺!居合い斬べっ!!……」
 大慌てで一も二もなく攻撃をしようとしたトトが、派手に舌を噛んで痛みのあまりうずくまる。
 カルシルがカンテラで奥を照らしてみると、浮かび上がる影。
 それは、一匹の黒猫だった。
「てぃ、てぃくひょ〜う…。は、はれ?はれかおはけ?」
『ち、ちくしょう……あ、あれ?あれがお化け?』と喋ったらしいトトが目を見張る。
 早とちりにちょっと落ち込む彼にエスリスが苦笑しながら癒しを行った。
 それと時を同じくして。
「*@:+¥#=?!〜〜」
 なんとも形容しがたい音が、洞窟中に響き渡った。
「「「「!!!!!!」」」」
 一同は顔を見合わせて、入り口方面へと駆け戻る。
 入り口付近、ホールのようになっている場所で彼らが見たものは。
 突然の闖入者に驚いて固まっている筋骨隆々とした壮年の男と、踊り子のような衣装に身を包んだ中年の女性であった。

「ここで、何をされているんですか??」
 何かあったら即取り押さえられるようにと緊縛用(違)の縄を後ろ手に気のせいか嬉しそうに隠し持ち、ファランクスが尋ねる。
 一行が見守る中、しばらく黙って顔を見合わせていた男女はやがてポツリ、ポツリと語りだしたのだった。
 曰く、もうすぐこの村で音楽祭がある事。
 自分達は夫婦で、この村に今年越してきて、肉屋を営んでいるという事。
 音楽祭は商店街は全員参加らしいと聞き、二人共楽器は演奏できないのでせめて歌と踊りでと思ったが、あまりにも自信がないのでここでこっそり練習していたという事。
 今日、いつもの時間に遅れたのはたまたま出かけていて帰りが遅くなったからだという事だった。
 ちなみに先程の黒猫は彼らの飼い猫らしい。
「……話はわかった。しかし、洞窟に音が反響して大きな音となり、かなり目立っている。子供達がその音を怖がっている。代わりの場所を探すなら最大限の協力を行おう」
 トトノモが夫婦に申し出た。
 そんなことになっているとは露知らず、大変驚き恐縮する夫婦。
「ねぇねぇ、ちょっとボクらに見せてよ〜」 
「私はこの依頼が解決したら音楽祭に参加させていただこうと思っていました。もし、よろしかったら一緒に練習をしませんか?」
 ティオが元気いっぱいに頼み、ラジスラヴァがにっこりと微笑んで言う。
 とりあえずどんなものかを見せてもらう事になり、一行は外の広場へと移動したのであった。

 そして。
 間違いなく謎の奇妙な音はご主人の歌声だと発覚する。
 巨大な影も彼で。ゆらゆら動く影というのはどうやら奥さんのこれもまた本当に何ともいえない踊り(らしき物)であったことが判明した。
 特にご主人の歌声……と呼んでいいものか……は中々強烈な破壊力を秘めており、これは由々しき問題……そばで聞いている冒険者達ですら何か頭痛がしたり体力が奪われるような錯覚を起こす……であった。
 早速全員が緊急対策会議に乗り出す。
『担当を一度逆にしてみると言うのはどうか??』
 誰からともなく出た提案を夫婦に伝え、早速実践に移してみることにした。
 まずは、奥さんの歌声。
「〜〜〜〜♪♪」
 これには全員が驚いた。なんと、中々の腕前なのである。
「いえその……やはり踊りは女である私がするものだと思って……」
 まったく歌う事は考えなかったという彼女。問題の踊り(?)が正直言ってまったく見れないものである以上は絶対に歌を歌うほうがいいということで、満場一致。
 問題はご主人である。
 筋肉隆々のそれはそれはすばらしい肉体をしていらっしゃるので、発想の転換でダンスというよりは筋肉ポージングを曲に合わせてやってみると。
「かっこいい〜!!!」
 子供達(主に二人)に大うけ。
 ほかの面子から見ても中々面白い出し物になると思われたので、この路線で練習を行うことになった。
 当日は香油でも体に塗って見るのも面白いかもしれない……と考えた者数名。
 問題は解決し、夜も更けてきたことだしと一行は一度村に戻ることになった。
「練習の成果は音楽祭当日に聞かせていただきますから、楽しみにしていますね」
 とは、エスリスの弁。
 全員が同感といった感じでそれぞれに励ましの言葉をかけ、宿にて床に就いたのであった。

●運命の日?
 事件解決から数日後。
 やはりあの夫婦が原因だったらしく、以後は異変もない様子である。
 人っ子一人いなかった洞窟の前も以前のように子供達の遊び場と動物達の遊び場に戻った。
 音楽祭は滞りなく行われ、各地から見物に訪れる人も多く大変な盛況振りである。
 特別ゲストとして、招かれた冒険者一行は参加している者も観客に徹している者も祭りを十分に楽しんでいた。
 ラジスラヴァは相変わらず村の若者達に大人気である……もちろん、その美しい踊りと歌は観客すべてに喝采を持って迎えられていた。
 ティオは可愛らしい踊りと得意の笛でご婦人方の心をがっちりつかんだ様子。
 皆があっと驚いたのはアーベント。高く澄んだ美しいソプラノが奏でる悲恋の歌は会場の涙を誘った。
 トトがようやく完治したらしい舌に念の為に怪しげな薬を塗りつつ、『ニポーンノコ・コロ』とかいう物を披露しようとした瞬間、何ともいえない情けない声を上げた。
 見れば薬が合わなかったのかはたまた違う物だったのか舌が腫れ上がってしまっている。
 ……おそらく暫く喋ることもできないであろう彼に寄せられる同情の視線。
 そして。問題の夫婦の演目は変わった趣向であることも手伝って、やんやの喝采を浴びたのであった。

 すべての祭りが終わった後、トトノモは一人、件の洞窟を訪れた。
「騒がせて悪かった。祭りだ、許してくれ」
 そういって、祭りの様子を誰かに報告するかのように話しながら適当に飲食し、彼が去った後には手がつけられていない一人分ほどの食料が残された。
(「本当に、何かいたんだったら迷惑をかけてしまったわけだしな。詫びさ」)
 彼の残していった食物は次の日、子供達が遊びに来た時には跡形もなく綺麗に消え去っており、動物の足跡等も発見できなかった事から村では多少の話題を提供したという。
 本当に、『何か』がいたとしても、以後その洞窟で怪奇騒ぎが起こることはなかったので、村人の記憶からは段々と薄れていった。
 ……あなたは、お化けを信じますか??


マスター:神條玲 紹介ページ
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