大海を渡るグリーンアイズ・フルーツタートル



<オープニング>


 穏やかな波の上を、すべるようにそれは泳ぎ行く………。ゆっくりと移動する姿は、まるで一つの動く小島の様であった。
 こんもりと茂る背の緑は、たわわな実りを揺らしていた。鈴なりの椰子の実。
 浮島の様に、青い海を漂い行くそれは……数体の巨大なカメであった……。

 薄暗い店内でほっと一息をつく。耳を澄ませば、微かにセミの鳴き声が聞こえてくる。彼らが煩いほどに歌い出す時期は、もうそろそろであった。
 窓から見えるネムの木の、儚げなうす桃色の花ももうそろそろ終わりを迎える……緑が濃くなってきた木々が、季節の移ろいを見せていた。
「お呼びですの〜?」
 此方は年がら年中騒々しさが変わらず、相も変わらずけたたましい。黒羽のチキンレッグ歌漢女・ラートリ(a90355)がバチッとウィンクを飛ばす。
 筋肉密度が高い彼がいるだけで室温が、ぐっとあがったそんな気がする。羽毛に包まれた体だからとか、そういう単純な理由からだけでなく……存在そのものが暑苦しい。
「お、今日も一段と綺麗だな」
「今回はお前さんと一緒か」
 良きかな良きかな。集まった面々が、親しげにチキンレッグの肩を叩く。
「そんな、ホントの事を!」
「うおっ!?」
 きゃー恥かしいっ。と、親愛の情を込めバンバンと冒険者達の背中にお返しをする。思いっきり痛そうだが……。そんなやり取りは、ユノの周りで見られる日常的な一コマとなっていた。
「仕事の話に入るぞ」
 行っても詮無い事なので、そっと目を伏せ気持ちを一つ切り替えると、ユノはじゃれ合う面々に向かって話を切り出した。
「今回のお前たちにやってもらいたいのは、漁港を封鎖している怪獣を港から追い出して欲しいということだ」
 体の巨大なカメの姿をした怪獣が、小さな漁村にたどり着き、港に居座っているのだと言う。
「怪獣の名はグリーンアイズ・フルーツタートル……英知すら感じる、深緑の瞳が特徴の巨大なカメの姿をした怪獣だ」
 緑の目をして果物を背負ったカメ型怪獣。略して……緑ガメ。
 荒海を渡るその甲羅に茂らせた、椰子の木の実が絶品らしい。まぁ、そんな事はどうでもいいのだが……。
「今回は無理に退治しなくても構わない」
 大きさは人が10人集まって、やっとその甲羅をぐるっと囲えるかどうかという、巨大な怪獣故……。
 港から御退場いただき、今後近づかない様にすることができれば、それで良い。
 それでは……。
「よろしく頼む」
 と、霊査士は冒険者達を送りだすのであった。


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参加者
絶対零度の剃刀・ヨイヤミ(a12048)
パタパタ中堅観察者・エリン(a18192)
黒焔の執行者・レグルス(a20725)
梢戦ぐ風樹・ピアース(a29111)
黎明を待つ夢・ユーセシル(a38825)
突撃鉄壁重戦車・モイモイ(a51948)
草花双調・エミロット(a59580)
在地願為連理枝・レミール(a64556)
NPC:歌漢女無双・ラートリ(a90355)



<リプレイ>

●緑の瞳の可愛いあいつ
 強くなってきた日差しは、海に砕ける波に当たってはキラキラと乱反射を繰り返す。
「セイレーンの移住のために来たマリキン……のおまけについてきた怪獣達もこれでボチボチ打ち止めってところかねぇ」
 黒焔の執行者・レグルス(a20725)がやれやれと片眉をあげてみせる。これで今年の夏の海も3度目。既に海を充分満喫といえるであろう。
「おっきいですわねー」
 近くに行ったらたぶん見上げるようではないだろうかと、歌漢女・ラートリ(a90355)が関心したように頷く。あれだけ巨大な3体が居座ってしまっていては、港が使えなくなってしまうのは道理。そばで見れば、おそらく見上げるようであろう。
「確かにワイルドファイアサイズに居座られると困るよね」
 漁港が一望できる岩場に立ち、黎明を待つ夢・ユーセシル(a38825)が海を見渡す。青みがかった緑色の甲羅が3つ、波間に揺れいてるのが確認できた。
「綺麗な瞳ですね……話せば解ってくれそうな、感じ。そして……美味しそう」
 先ほどちらりと見ただけであったが、霊査士の話にあった深い緑色の瞳は宝石ように煌めいていた。
 それよりも何よりも風に揺れる金鳳花・レミール(a64556)が、気になっているのはその背に生えたヤシの木にたわわに実るヤシの実のこと。
「仲良くなったら、椰子の木の実、分けてくれる……かなぁ」
 少し物欲しげな視線を、じーっと向ける。
「それには、お仕事を成功させないといけませんね」
 幼さを感じさせぬ草花双調・エミロット(a59580)が、ふふふっと微笑んだ。
 傍らの海面を滑るように泳ぎ通り過ぎていった、カメ達の瞳に少しだけ親近感が湧いていた。この季節の眩しいまでの草木の緑を思わせる色……。
「見ていると和むな……ウム」
 同じドリアッドの梢戦ぐ風樹・ピアース(a29111)も、小さな感動を胸に抱き、暫し見入る。
 できれば平和的に、カメにも港にも傷つける事無く、事を運びたいものであった。

●ききこみ?
「郷に入っては郷に従え、皆さんは地元のコトは当然詳しいハズデスヨネ?」
 全身黒づくめ、黒い覆面で顔全体を覆っている絶対零度の剃刀・ヨイヤミ(a12048)が村人を一人捕まえて話を聞きこもうとしていた。
「入り江なり離れ小島なり何なり、その辺をピンポイントに教えてクダサイマスカイ」
 ぽくぽくと『きりきり話さんかい』と、いった調子でヨイヤミが操る、からくり人形の手が男の弛んだ顎を叩く。
「いや……そ、それは………う、うぎゃー」
 おかーさーん。
「アラ?」
 少しヨイヤミが目を離した隙をついて、村人Aは逃亡した。相当怖かったに違いない。
「次……参ります」
 ホワイトガーデンからの刺客が、ランドアースの浜辺に降り立った。数人の男が向こうからあるいてくるのを確認して、作戦を発動させる。
「お帰りなさいアナタ。お風呂? 夕飯? それとも………わ・た・し?」
 水着の上に白い新妻風エプロンを身につけたパタパタ中堅観察者・エリン(a18192)が髪をかきあげせくしーなポーズをとった。吹き抜ける風が、軽く白いエプロンの裾を吹き上げた。
「ぐはぁっ」
「ぶぅぅぅっ」
「ぬほっ」
 次々に盛大に赤いものを吹きあげ、卒倒する。悩殺パンチの威力は絶大であった。
「どんな男性もイチコロ……の煽り文句に嘘はなかったようでランドアースは奥が深い……」
 これならば、本番もいけるかも………。手ごたえは上々。とりあえず、前後不覚な獲物の尋問をするところからが仕事であろう。
「そうじゃないなぁ〜〜〜〜ん!」
 遠くから駆けてきた突撃鉄壁重戦車・モイモイ(a51948)が、ごちんごちんと2人に拳骨を落とす。
「まずは事前に漁師さん達から、人気の無い広い浜や無人島が近くにないか情報収集なぁ〜ん」
「それは今やりまシタ」
 逃げられたけれど。
「なるべくたくさんの人に話を聞いて、複数の候補地をピックアップ、情報をメモしておくなぁ〜ん」
「ですから、それも今からやろうと……」
 ギっとモイモイは口ごもる2人を軽く睨んだ。
「怖がらせても、色仕掛けもだめなぁ〜ん」
 普通に普通に、情報収集をするのなぁ〜ん。
 それから暫く。努めて、冷静に、端的に……情報を集め、事実だけを照らし合わせた結果。丁度よい小島が近くにあることがわかった。カメが並んで甲羅干しする広々とした浜がある、程よい広さの無人島。島の周囲を流れる潮流が複雑になっているせいで、地元の漁師もあまり近寄らない場所。怪獣たちならば、行き着くこともさほど難しいことではないであろう。何よりも、そこからならマリンキングボスの姿が一望できるということが、決め手になった。
 カメ達の一時受け入れ先は決まった。後はカメ達の意向を聞くだけであった。

●友情の歌
 主旋律を歌うエミロットの可愛らしい声を包み込むように、ラートリの高い声が重なる。二人の声の間をピアースが、弾ける日差しの様に澄んだ声を響かせた。その声を追いかけるようにユーセシルとレグルスの声が、やや低く伸びやかに合わさりハーモニーに深みを増ていく。
 甘くとける様な歌声が響く。高く低く……音のうねりはやがて大きな波となる。
「こんにちは、同色の瞳を持つ者よ。私はピアース。どうか私達の話を聞いてほしい」
「えー、そこの緑の瞳がきれーな亀さんや。ちょいと話があるんだが良いか? ……違うナンパじゃねぇよ」
 冒険者たちの呼びかけに応え、カメ達が次々に波打ち際に頭をのせて、リラックスした体制をとる。
 魅了の歌がかかっているのを確認するために、驚かせないようにそっと話しかけた。
『………はなし?』
 うっとりと歌声を聞き惚れていた、カメの1匹が片言の言葉を呟く。近くで見ると、その緑色の瞳は、吸い込まれそうに深く複雑な色合いをしていることがわかる。南国の海の青緑から、木々の緑。地中の宝石の翠……。
「ここにいるのは何か理由があるのかな?餌が豊富とか日当たりがいいとか?」
『……まよった。はいったら、ここすみやすい……』
『えさたくさんある』
 どうやら、迷いカメらしい。
「ここが使えなくて困っている方々がいるんです。どうか移動してもらえないでしょうか?」
『………?』
「もともとここに住んでる方が、あなた方のせいでここの場所が使えなくなってしまったのですわ」
 片言の言葉の主は訝しげに首をかしげる。
「故郷へ帰る気は無いか?」
『すみか……かえりたい……』
 あの暖かい海へ……。声ならぬ声で、唸るように望郷の思いを唄う。
「近々マリンキングボスは元の大陸に帰るみたいだね、その時を逃すとなかなか戻れないだろうし一緒についていくといいと思うよ」
『かえれる。かえりたい』
『きんぐとともにわれらはかえる』
 マリンキングボスが帰るのは8月の半ば。
「その間は、別の場所で過ごしていただけませんか?」
 先ほど移転先を探していたモイモイ達が、いい場所があったと伝えてきた。驚かさないように近づいたエミロットが、1匹のカメの鼻先にそっと小さな手のひらを乗せた。
 しっとりと濡れ、ひやりとした感触が心地よい。
「気に入らなければ、別な場所を用意する、どういう所か希望があれば言ってくれ。それなりの場所を探してみるぞ」
 希望のグリモアに誓って、約束は守る。
 レグルスはその知性を湛えた瞳の前で、力強く親指を突き立てて見せた。

●新天地へ
 それぞれがカメの背にのり海を行く。それは滅多にない体験であった。靴を脱ぎすて、裸足になって甲羅に駆け上がる。冷たい甲羅の感触がなんともいえず、心地よい。
「仮住居へ、しゅっぱーつ! ってね♪」
 ヤシの木が生い茂る天辺までは、濡れた甲羅で滑らないように気をつけながら、思い思いに安定する場所を探して落ち着く。
 レミールがふと横を見ると、海鳥たちがミャウミャウと、楽しげな鳴き声を上げ、並んで飛んでいた。海面すれすれを飛ぶように進む……何とも不思議な経験に頬を上気させ歓声を上げる。
「双子岬を右手に見て南南西の方角……もう少し先のようですね」
 カメの首にまたがり、エリンが進行方向を確認する。波しぶきを上げて泳ぐのは、爽快であった。落ちないように注意しながら、ぺたぺたと頭をや首元に手を伸ばす。こんな大きなカメなど、そうそうお目にかかれないから、この感触も是非記録に残しておかないと……。
「高くて気持の良い場所だ」
 ヌシ達の背はとても良い場所だ。ピアースは向日葵の花が咲く髪に、飛沫が掛かるのも気にせず身を乗り出し、カメ達に乗り心地を報告する。
「綺麗なカメさん……ですよね……♪」
 エミロットのその言葉が嬉しかったのか、カメ達は互いを追い越し、追い越され……遊ぶように、海面で交差し進む。
 急な潮流もカメ達は気にせず、大きなヒレをかきスイスイと泳いで行った。
「椰子の実ジュース欲しいなぁ〜ん♪ 」
 うずうずと、尻尾をゆらゆらさせながら。ちょっぴりおねだりをしてみる。
「是非とも背中のヤシの実を分けていただきたいところよネ。村人サンに分けてあげても喜ばれるでしょうし、何よりワタシが食べたいのデスっ!」
 それを追い越しくわっと何かが出てきそうな形相でヨイヤミが力説した。
「自分達は食べないそうだから、好きなだけもっていっていいそうだ」
 こぼれおちそうに大きなヤシの実を、かぶりつかん勢いで見上げていたモイモイ達に、ユーセシルが苦笑しながらカメ達の言葉を伝えてやる。
 その言葉を待ってましたとばかりに、食べたいのを我慢していたヨイヤミがさっそく落して、中に蓄えられた果汁に口をつける。
「んまぁーっ! おいしいですわ」
 採りたての清々しい香りがなんとも言えぬ。
「まるで口の中が、美味のヤシの実・疾風弾!」
 程よい甘みの果汁が、乾いたのどにしみわたる。
「……南国気分だなぁ……」
 一個くらい、土産に持って帰ってやるとするか。心に浮かぶ顔に、乾杯とヤシの木の根元に腰かけて天を振り仰ぎ、ぐっと飲み干す。
 眩しい太陽の光の間に、ヤシの葉がゆらゆらと揺れていた。穏やかな海のひと時。
「見えました!」
「島だー!!」
 あそこです。
「おぉー」
 広々とし白い砂浜が見えた。居心地がよさそうな小島が次第に大きく近づいてくる。
「無事に帰れると良いな」
 海辺で出会った友の航海が幸あらんことを……。広い空の下、青い海の上で、またいつか会えることを……。


マスター:青輝龍 紹介ページ
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参加者:8人
作成日:2008/07/28
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