漆黒の鳥と螢の村



<オープニング>


「皆様にお願いしたいのは、ある変異動物の駆逐ですわ」
 冒険者の酒場で桃のスィーツをいただきながら、エルフの霊査士・マデリン(a90181)は言った。
 ちなみに2つめのスィーツだ。どうやらもう1つ狙っているらしい。

 その村は山々に囲まれた風光明媚な場所にあった。山から流れる清水は豊かに村を潤し、毎年7月の終わりには沢山の螢が集まってくる。毎夜繰り広げられる幻想的な光景は本当に美しく、村人達はまた今年も螢が乱れ飛ぶ夜を心待ちにしていた。若い男女はこの夜に恋を告白したり、夫婦になる誓いを交わしたりと……とにかく螢の夕べは村にとってはなくてはならない祭にも似たものになっていたのだ。

 ところが、この村のすぐ近くの山に巨大な鳥が出現した。夜目の効く目と漆黒の羽根を持つ巨大な鳥はその巨大さの為か飛ぶことは出来ない。けれど、大きな翼と鋭いくちばしを持ち、山のあらゆる生き物を食べ尽し麓へと移動している。このままであれば、村も村が大事にしている清水流れる川も螢も、全てが鳥の餌になってしまうだろう。

「どうしてこのような鳥が生まれてしまったのかはわかりませんわ。けれど、この鳥の命を守れば他の多くの命が奪われてしまうのです。可哀相とは思いますけれど、この鳥を退治していただけませんか?」
 冒険者ならば鳥が村を襲う前に現場に到着する事が出来るのだ。
「鳥は鋭い鳴き声で獲物を硬直させて捕らえているようですわ。羽根にも毒があり、直接触ってしまうと痺れてしまうことがあります。皆様に限って滅多なことはないと思いますけれど、速やかに鳥を倒し、村や周囲の自然に被害が出ない様にしていただけると期待しております」
 無事に終われば季節外れの螢狩りも楽しめるだろう……マデリンはクスッと笑いながら言った。


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参加者
潮騒の養い子・リオン(a05794)
桎梏の代替者・シグルド(a22520)
愚者・アスタルテ(a28034)
緋閃・クレス(a35740)
笑顔のヒーロー・リュウ(a36407)
水天一碧・ロゼッタ(a39418)
蒼き厄札使い黒き黒炎遣い・ファサルト(a64858)
白銀の癒し手修業中・ギルバート(a64966)


<リプレイ>

●螢の村
 3人の冒険者達は村の近くまで来ると騎乗していたグランスティードから降りた。漆黒のグランスティードは見る間に小さくなり、同じ漆黒をまとう冒険者の傍らに寄り添う。
「気分悪くない? 急いだし、無理に3人で乗ったから疲れたよね。休憩する?」
 明るい午後の日差しが降りそそぐのどかな風景の中、そこだけ夜の様に黒一色を身につけ、けれど表情は明るく気さくに笑顔のヒーロー・リュウ(a36407)は言った。
「さすがにあたしもバテたっていうかー超疲れたって感じー? でも、無理してせっかく稼いだ時間じゃん?」
 屈託のない様子で大きく伸びをして身体をほぐしながら、水天一碧・ロゼッタ(a39418)は言った。正直に言えばこの無理めな行軍でかなり疲れてはいる。時々は1人が降りてはしたりもした。そうやって色々と豊かな曲線が形作る身体をしなやかに動かしていても、ロゼッタの動きはキッパリとしていてなまめかし様子にはならない。
「気に掛けてくれる事には感謝するが、時間が惜しい。行きましょう」
 硬質の眼鏡の奥に見える愚者・アスタルテ(a28034)の黒い瞳は昏く感情の見えない叡智の光を湛える。先に立って村へと歩くアスタルテの結わえた髪がゆらゆらと揺れる。
「そうだね。ロゼッタさんも大丈夫そうなら行こう」
「わかったわ。村で色々と情報収集しないとだよね」
 村人達に危険を知らせなくてはならないし、こちらの知りたいこともある。
「それはそうとさぁ、この天気にそのマント、暑くないわけ?」
「暑いよ、そりゃあもう」
 リュウとロゼッタは他愛もない話をしながら先行するアスタルテを追って村へと向かっていった。

「さて、そちらの調達は上手くいったのか?」
 近隣の村で先発した3人と合流すると、桎梏の代替者・シグルド(a22520)はすぐに首尾を聞いた。鳥の脅威は迫っているはずだ。一刻も早く状況を把握する必要がある。
「そうそう。情報って奴は仲間全員で共有しねーとヤバイんだぜ。なぁ、ファサルト」
 ニヤリと笑って緋閃・クレス(a35740)は傍らに立つ厄札遣いの蒼き忍者・ファサルト(a64858)の背を楽しげにバンバンと叩く。
「左様でござるか。それならばしかと承ろう……したがクレス殿、そのように叩かれては痛いでござるよ」
「親愛の情だろ!」
 尚も親しげ笑いながらに肩やら背やらをバンバン叩くクレスにファサルトは控えめに抗議をする。忍びたるもの、これしきの打撃に動じることはないが話に集中しきれない。
「それで……戦闘に適した『障害物のない開けた場所』の情報は得られましたか?」
 最も欲しい、どうしても必要だと思われる事柄を清吟霽月・ギルバート(a64966)が聞いた。
「結論からいえば……ない、わ」
 短くアスタルテが返答した。或いは螢狩りの場所が戦場に適しているかもしれないと想定していたのが、村人達は川沿いで思い思いに螢を楽しんでいるだけであった。また、山裾から村までの間にはどこも適度に木々があり、見晴らしの良い場所はない。ただ、アスタルテが知りたかった川の流れについては詳しい老人がいて、事細かく教えて貰うことが出来た。特別地図があるわけでもなかったので、この老人の話を書き留めたメモだけが唯一の地図と言えなくもない。
「鳥が居そうな場所とかぁ、誘き出す罠とかぁ、もう村人達ってばびっくりしちゃって、それどころじゃない? って感じ? やっぱ撒き餌でもするしかないんじゃないかーってか、その餌ってわたしたち?」
 少しだけ肩をすくめロゼッタも独特の口調で報告をした。
「鳥も水は必要だろうから、川をさかのぼりつつ探すしかないかな?」
「状況はわかったぜ。じゃあさっそく出発しようぜ」
「承知……したが、リオン殿はいずこにおられるのでござろう?」
 ファサルトは僅かに首を傾げた。仲間の1人の顔が見えない。そういえば村にまだ到着していない様だ。
「悪いがファサルト、リオンを探して貰えないか。その間に先発した3人は出発の準備をしてくれ。俺はひとまわり村を廻ってみる」
「俺も行くぜ」
 シグルドがファサルトに頼むとクレスも身軽に立ち上がる。
「私も村を廻ってみます」
 ギルバートも静かな口調で言った。
 村からほど近い山裾の林の中を潮騒の養い子・リオン(a05794)は1人で歩いていた。勿論、危険な黒い鳥を探索するのが目的だ。
「早く見つけないと……明るいうちにね」
 近くでせせらぎの音が聞こえてくる。螢が舞い飛ぶという川はすぐ近くを流れているのだろう。村人達の生活も楽しみも、どちらも少しも損なわれることなく守りたい。
「他の動物達が逃げてきた方角にいると思うんだけどね」
 リオンは山へと緩やかに傾斜していく大地と、そして雲一つ無い蒼い空を見上げる。日暮れまでにはまだもう少し猶予がありそうだが、単独行動にも限界がある。
「そろそろ村に行かなきゃ……かな? って、あれ?」
 名残惜しそうに山の方角を眺めていたリオンはその山の中腹辺りで木がなぎ倒されるのを見た。遠目にも大きくて沢山の緑の葉を茂らせた大木がゆっくりと倒れていく。明らかに不自然だ。
「もしかして、あそこに?」
「リオン殿!」
「見つけたぜ、リオン! んなところで何やってるんだ?」
「あれ! 見てよ!」
 村からやってきたファサルトとクレスにリオンは倒れる大木の方角を指さした。

●漆黒の翼
 一度村に戻ったファサルトとクレス、そしてリオンは準備の完了していた仲間達と合流し、先ほど目撃した場所へと目指す。先頭をクレスとファサルトが進み、最後尾はシグルドとアスタルテが歩く。
「村の人々は黒い鳥が退治されるのなら被害は問わないそうです」
 隊列の中央、外側を歩くギルバーとが低い声で言う。まだ鳥に感づかれる程の距離ではない筈だが気取られないよう気をつけているのだろう。
「村は騒然としていたね。荷をまとめている人もいたよ」
 リオンはお日様の様な笑顔の似合う顔に愁眉の色をにじませる。村の人々にとっては本当に青天の霹靂だったのだろう。何かを聞いても答えられない人の方が多かった。
「無理もない」
 短くシグルドが言った。冒険者達の来訪で村の危機を知った人々から被害状況を聞くことなど無理であった。中には山へ入ってみようとする者もいたらしいが、危険だからと村長に止められたらしい。
「村長さん、村が無事なら螢も諦めるっーてなんかわかるけど……」
「来た!」
 わずかに口をとがらせたロゼッタの脇をアスタルテが駆け抜ける。
「動物達が逃げてくるよ」
 小さな生き物たちが空を地を駆け抜けて来る。リオンの表情がサッと引き締まった。
「前方の木が揺れてる!」
 グランスティードに乗ったまま遠めがねをかざしていたリュウが叫んだ。その場で『鎧進化』の力を使う。
「マジ本物の鳥みたいだぜ!」
 逃げる動物達の甲高い警戒の叫び声がもう木々の向こう、あちこちから響いている。
「前に出る。アスタルテ!」
「わかっている、わ」
 シグルドの声にもうアスタルテは革袋を掴んで更に前へと走っている。
「近いでござる」
 前方の視界を遮る木々の葉や下生え、その緑の遮蔽が強風にあおられているかのようにざわざわと鳴っている。その範囲は広く、敵の大きさが伺える。
「ここか……それとも」
 ギルバートは咄嗟に考える。今まで歩いてきた行程に戦場となるに相応しい場所はなかった。ここでも此処ではない別の場所でもさほど状況に変わりはない。
「来たよ!」
 ロゼッタの声とほぼ同時に黒い鳥の顔が高い木々の合間からのぞいた。その姿は思いがけなく近くで、そして高い位置にある。

「クゥケーケーーーー」
 耳障りで不快な鳥の雄叫びが響く。それは獲物を硬直させる必殺の声音だ。逃げ遅れた動物達がぱたりと倒れた。シグルド、アスタルテ、リュウ、ロゼッタ、ギルバートが同様に動きを止める。しかしアスタルテはすぐに行動の自由を取り戻した。
(「どうする」)
 アスタルテは自問する。敵は目の前にあり、仲間の多くは動けない。
「やるしか、ない」
 アスタルテは手にした革袋を思いっきり鳥へと投げつけ、その場で深く清らかな祈りに入った。鳥はアスタルテの投げた革袋の中に入っていた干し肉をむさぼっているが、アスタルテにはもうそれは見えない。ただ、仲間達を思い心の底から深く真摯な祈りを捧げる。
「助かる」
「ありがとう」
「やったね、動ける」
 シグルド、リュウ、ロゼッタが短く謝辞を伝えるが、ギルバートはまだ動けない。
「もう、ここで戦うよ!」
 リオンは細かい刃を仕込んだ剛糸を鋭く素早く振るう。手にしっくりと馴染んだ糸が生き物の様に動き、残像と共にリオンの攻撃が大きな黒い鳥を襲う。ザックリと剛糸に切り裂かれ、鳥は大きな悲鳴をあげたがこの声に麻痺の力はない。ただ黒い羽根が飛び散り、攻撃をしたリオンはその場に留まり動かなくなる。
「戦闘中にもグランスティードに誰かを乗せることが出来たら別の場所に引っ張る事も出来たかもしれないけど、どこでも同じならここでいいよね」
 普通の移動の時の様にクレスをグランスティードの背に乗せ鳥に突撃出来たら……この召喚獣を持つ者ならば誰しも1度ぐらいは夢想してみたことがあるだろう。けれど現実には戦場においてグランスティードに別の誰かを乗せて戦うことは出来ない。リュウは漆黒の剣に稲妻の闘気を乗せ、召喚獣と共に鳥へと躍りかかった。黒い羽根が舞い、柄から両手へと強い手応えが響いてくる。鳥は再び悲鳴をあげ、あげたままで動けなくなった。同時にリュウも動けなくなる。
「ったぁくよぉ! この辺りだって草や背の低い頑張ってる木があるんだぜ!」
 クレスは漆黒の刃を構える。だが、まだ攻撃はしない。
「リュウの攻撃で動きを封じられたか」
 鳥の様子にシグルドは頭上に守護の天使を喚ぶ。そしてその守護の力と共に光を弾くことのない深い黒の剣を振るった。動けない鳥は剣に斬られ、漆黒の羽根と血をしぶかせる。ボタボタと夕立の時の様な音が響いた。けれどシグルドも動けなくなる。
「間近での攻撃ではなんともあの羽根の乱舞から逃れられぬのでござろうか」
 ファサルトは距離を保ったまま不吉な絵柄のカードを手の中に喚ぶ。そしてそれを動けない鳥に向かって投げつけた。けれどカードは命中せず黒い染みも出来ない。
「ようやく……やってくれますね」
 他の者達よりもやや運のなかったギルバートであったが、動けるようになるとすぐに清々しい森林の風を戦場に喚んだ。黒い羽根で動けなくなっていたリオン、リュウ、シグルドが行動の自由を回復し、幾分敵との間合いを取る。その間も、先ほど構えただけで攻撃をしていなかったクレスが攻勢に転じていた。
「間断なく攻めるぜ」
 素早い動きで振るった刃から生まれた力が真っ直ぐに黒い鳥へと走る。
「ここじゃ吹き飛ばしぃなんてしちゃったら、森の木とかに被害が出ちゃう!」
 ロゼッタはためらわなかった。近接の攻撃は羽根を触りたくないと思っていたも、触ってしまうだろう。けれど前に出なければ攻撃は出来ないし、鳥の脅威から村を救えない。村で泣いていた子供の顔、困惑していた人々の顔が浮かんでくる。
「やるったらやる!」
 羽根を避けて鳥を掴むと、ロゼッタは力任せに敵の身体を引き寄せ投げ落とした。端から見たら大きな鳥が自分で転がったかのように見えたかもしれない。倒れた鳥のくちばしから悲しげな悲鳴が響く。大量の黒い羽根が舞い飛び、くるくると舞い降りてくる。その全てを回避しきれる筈もなく、ロゼッタは動きを止める。けれどすぐに動けるようになった。
「アスタルテ、ありがとう」
 祈り続けるアスタルテの小さな姿にロゼッタは礼を言う。先ほどよりは少し後退しているが、アスタルテは依然祈り続けている。
 リオンとリュウ、そしてシグルドは先ほどと同じ攻撃を行い、黒い鳥は血まみれの姿へと変わる。
「これでいかがでござるか」
 回り込んだファサルトが鳥の死角から鋭く激しい攻撃を仕掛け、ギルバートは羽根で動けなくなった仲間へと『毒消しの風』を送る。
「森の清らかな風よ」
 ギルバートの求めるままに清浄な風が吹く。更にロゼッタがもう一度鳥を投げ飛ばした。倒れた鳥は動かない。
「絶命……している、わ」
 祈りの姿勢を解いたアスタルテは地面に散った羽根を避け、鳥に近寄る。退治したことを確認すると、アスタルテは先ほど投げた革袋を拾い上げた。

●螢の夕べ
「綺麗だね……」
 海の中で見える光とは違う螢の恋の炎にリオンは素直に見とれている。
「ホント、綺麗だよね」
 リュウも村の子供達と一緒に螢を見つめていた。そのマントには沢山の小さな手が伸びていて、ギュッと握っている。
「リュウってば子供にモテモテじゃん」
 川の水で冷やした桃を手にしたロゼッタがからかうように言う。川岸のもっと人が少ない辺りでは灯りを手にした恋人達がそぞろ歩いているようだ。もしかしたら、愛の誓いを交わし合っているのかもしれない。

「螢や清流が守れてなによりでした。森や川はそのままが一番美しいですから」
 ギルバートの口調に感情はないが、やはりどことなく嬉しそうだ。
「よかった……本当に」
 戦場としてしまった辺りは木々や地面に傷跡が残ったけれど、幸い川岸からは郷里があり、螢達にはなんの影響もないらしい。
「来年はわからないが、今は……言葉は要らないな」
 目の前で繰り広げられる光の円舞にシグルドはほんの少しだけ頬に微笑を刻んだ。

「去年は……だったな。それは今も変わらないが……な」
 懐かしい思いが蘇る。クレスにとってそれは幸せな夏の思い出であった。大切な人と見たからこそ、その思い出は戦いで疲弊した心を暖かく包み込んでくれる。
「村の人たちからの差し入れでござる。拙者1人では食べ切れぬ故、助太刀を願うでござるよ」
 ファサルトは村の大人達と川で冷やした大量の桃を大きなザルに乗せやってくる。

 山間の村に訪れた災厄は解消し、幸せな夏の宵は少しずつ更けてゆくのであった。


マスター:蒼紅深 紹介ページ
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参加者:8人
作成日:2008/07/27
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