黄金色と白銀色の仔猫



<オープニング>


 小さな仔猫がいた。母猫はどうしてしまったのか、傍にはいない。茶色の毛をした雄の仔猫と、白い毛の雌の猫。小さな小さな2匹は初夏の夜にも関わらず寄り添って震えていた。世界は何もかもが恐ろしくて、無条件で守ってくれるはずの母はなく、なすすべもなくただ震えているしかなかったのだ。

 それからどれほど時間が経ったのか……それでも2匹の仔猫はやはり仔猫のままであった。ただ、大きさは10倍以上になり身体を覆う毛皮は金と銀に変わっていた。もはや普通の猫ではない。仔猫は仔猫のまま、猫の則を越えてしまっていた。

「このまま放置していてはいずれ村に住む方々に被害が出ます。この里山を荒らす仔猫達はもう大人の猫になることはありません。何かが仔猫達を変えてしまったのですわ。彼等は兄弟猫で、いつも一緒に走り遊び眠っています。仔猫達に悪意はなく野原を駆け回りじゃれて遊んでいるだけなのですわ。けれど、無垢で残忍で彼等によって里山は遠からず荒れ果ててしまうでしょう。そうなっては近隣の人々の生活が脅かされ、仔猫たちは人々に憎まれ害獣として駆逐されなくてはなりませんわ」
 変異してしまった動物が元に戻ったためしはない。仔猫たちも被害が広がらないうちに駆除してしまうのが正しい道なのかもしれない。

「わたしくしは里山が荒れ果てて人々の暮らしが立ちゆかない……そんな未来は望みません。その様な事態い陥らないよう対処していただけないでしょうか? 方法は……問いませんわ」
 エルフの霊査士・マデリン(a90181)は探るような目をして冒険者達を見つめた。


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参加者
愛煙家・ビリー(a03028)
ほぇほぇ姫・サホ(a43941)
青碧の百合姫・ユリカ(a47596)
偽黒・エス(a73695)
リザードマンの重騎士・ファフニール(a74451)
陽炎稲妻水の月・フォンゼイ(a74521)
ハイドランジア・シルキー(a74872)
眼差しの先にある一本道・グリュオン(a75024)


<リプレイ>

●無垢な破壊者達
 夏の日差しが容赦なく大地を照りつけている。木陰はそれほどでもないが、遮蔽物のない場所では地面の近くがゆらゆらと揺れている様にさえ見える。乾いた街道は木々が多くなる辺りで途切れ、そこから先は豊かな里山となる。濃い緑の葉が茂る木の下で冒険者達は足を止めた。
「良いところだな」
 ゆらゆらと葉陰が地面で揺れている。清しい風に立派な獅子の髪をなびかせ、陽炎稲妻水の月・フォンゼイ(a74521)は心地よさ気に目を閉じた。道中の暑さもスッと退いていくようだ。
「けれどこちらはかなり地面が荒れておりますわ。きっと仔猫たちが駆け回って草を蹴散らしてしまったのですわね」
 少し先の方まで進み、しゃがんで調べていたほぇほぇ姫・サホ(a43941)はそう言うとスッと立ち上がった。調べるべき事柄はもう調べ尽くしたという風だ。
「元の大きさに戻してやればいいんだろうが、生憎そんな方法は俺達にもわからないし……悪いが退治されてもらおう」
 紫煙をふわっと吐き出し、愛煙家・ビリー(a03028)は素っ気なく言った。憐憫を感じないわけではないが、それは感傷だ。冷静にすべき事をするだけだ。
「これからどうしますか? 自分は皆の判断に従います」
 光を弾く美しい漆黒の鱗をまとうリザードマンの重騎士・ファフニール(a74451)は丁寧に言った。今回、里山を荒らす変異動物を退治しに来たことは重々承知しているが、実際に現地へ来ても何をどうすればいいのか自分では判断出来ない。まだ冒険者としては『駆け出し』であったが、それでも既に幾つかの依頼を無事に終えている。けれど同行している仲間達の指示に完全に従うつもりであった。その姿勢はグリモアに誓いをたてた冒険者としては消極的すぎる態度であったし、同じ任に就いた仲間達に対して依存しすぎていたかもしれない。胸襟を開いて助言を求めれば何か得るところがあったかもしれないが、状況はそんな僅かな猶予さえ与えてはくれなかった。

「来たぜ! でけー……マジ、でけーぜ、これでこいつら仔猫なのかよ」
 軽やかな複数の足音が柔らかい地面を蹴り、剥き出しの土を掻きあげる。眼差しの先にある一本道・グリュオン(a75024)は山の方角からじゃれ合いながら向かってくる金と銀の仔猫達にすっかり目を奪われていた。
「ああぁ……たとえちょっとぐらい大きくったって、やっぱり仔猫って愛くるしくて可愛いです〜」
 とっさに草むらの影に身を潜めたハイドランジア・シルキー(a74872)はそっと葉陰から仔猫たちと、仲間達の様子を見つめる。けれど、その視線はうっとりと仔猫たちへと注がれ、はぁっと切なげにも見える溜め息をつく。退治しなくてはならないと解っていても、可愛いと思う気持ちは止められない。
「なんて可愛らしいんでしょうか」
 うっとりとその場に立ち尽くしたまま、青碧の百合姫・ユリカ(a47596)は胸の前で両手を組み、そうつぶやいた。大きさは普通の仔猫のものではなく大型の成犬ほどもあり、それぞれ金と銀のまばゆい毛並みをしているが……それ以外は愛くるしい仔猫のままだ。思わず手を差し伸べ、撫でてやりたくなる。
「動物と遊んでやる趣味は俺にはないんだがな……柄にもない」
 シルキーやユリカとは違い小さくぼやきながら、真実に惑う・エス(a73695)は作戦通り大型犬ほどもありながら、じゃれ合って走り回る仔猫たちにボールを投げてやった。転がったボールに一瞬仔猫達の動きは止まる。けれどすぐに金色の毛並みの仔猫がそのボールを前肢で蹴り、転がるボールに一瞬身を低くして退き、けれどすぐにボールに飛びかかる。銀色の仔猫は首を傾げる様にして兄弟の遊ぶ様を大きな目で見つめていたが、すぐに一緒になって遊び始める。
「ほら、これもくれてやるぞ」
 フォンゼイはもう1つ用意していたボールを仔猫達へと放って投げる。機敏にボールを避けた金の猫は弾むボールに一緒になって跳躍する。仔猫達の注意はすっかり冒険者達が投げたボールへと向かっていた。それが意図した通りなのか否か……必要な事であったのか。けれど、もうボールは投げられてしまった。後は戦うしかない。

「やるしかないだろ。恨むなら俺でもなんでも恨むがいい」
 既に『鎧聖降臨』を使い、より防具を強化していたビリーが銀色の猫へと突進する。木の葉が舞い飛び、銀色の仔猫を撃ち絡め取る。悲しげな悲鳴をあげて仔猫の身体がうごけなくなった。
「大きな仔猫って思って程には可愛くありませんのね。容赦なくいきますわよ」
 サホからもまた幻影の木の葉が飛び、黄金色の毛並みの仔猫を打ち据え、拘束する。こちらは低い威嚇の鳴き声を放つが、やはり動けなくなる。
「すばしっこいから攻めきれないかと思いましたけどぉ、やりましたね!」
 とっさにシルキーは不吉なカードを呼び出そうとしていたのを止め、軽快に足を運び動けない銀色の仔猫の真っ正面へと出る。そしてごく短い矢を立て続けに射る。1の矢、そして2の矢、3の矢。続けて飛ぶ3本の矢がことごとく銀色の仔猫を射抜く。赤子の夜泣きの様な激しい鳴き声が里山に響く。
「仔猫達はどちらも動けないようですわね」
 特に戦場のどの位置にいようとも考えていないユリカは最前線であるビリーやエス、グリュオン達とほぼ変わらない場所にいた。敵は拘束されているし、怪我を負った仲間もいない。とはいえ武器を手に戦うとも決心出来ずユリカは何もせず、戦況を見守る。
 ユリカだけではない。やや退き気味の位置にいるサホ以外、牙狩人のフォンゼイやシルキーも自分と敵との距離には割と無頓着であった。
「しばらくの辛抱だ。なぁに、そんなに長いこと苦しませはしない」
 フォンゼイは長身の自分ほども長さのある長弓をキリキリと引き絞る。そして狙いを定めて放った。けれど、呻り続ける金の毛並みの仔猫はその矢を回避する。
「あんまり前に出てると危ないぜ」
 仲間達の盾となるべく前に出たエスは振り向きもせずにそう言うと、銀色の仔猫へと躍りかかった。幅広の長剣には稲妻の闘気が宿りビリビリと帯電しているかの様に輝く。
「最初っから全力で行くぜ!」
 グリュオンは己の身体の中にある力を剣に集め、一気にその巨大な刃を銀色の仔猫へと降り降ろした。この攻撃も命中し、銀色の仔猫は己の血に銀の毛を染め短く鳴くと、悲しげに呻り続ける金色の仔猫を見つめる。
「……」
 無言でファフニールは仔猫達の地面を削った。砂礫と衝撃が仔猫達を襲う。けれど、砂礫も衝撃も仔猫達の毛筋ほども傷つけることはない。攻撃を畳みかける好機であったのに、運に見放されたかの様に全く叩くことが出来ない。

 その時、仔猫達の拘束が解けた。復讐に燃える2対の眼が今まさに攻撃を終えたばかりのファフニールへと向かう。
「ギャワン!」
 血をまき散らしながらも銀の猫は獲物に襲いかかる時の様に身体を丸めて跳び、ほぼ同時に金の猫もファフニールへと飛びかかった。激しい2匹の攻撃を受け、ファフニールは持ちこたえることが出来なかった。あっと言う間に身体はなぎ倒され見えなくなる。仔猫達が跳び退くと、地面に倒れたファフニールは微動だにせず転がっていた。どこかから出血しているのか、じわじわと地面に血が広がっていく。同時に銀の仔猫もよろめき伏せる様に倒れ込む。その身体からも血が滴り続けている。
「まぁ……大変なのですわ」
 幸い退いていなかったユリカはすぐさまファフニールへと駆け寄り、癒しの力を持つ水を喚ぶ。けれど、その水でもファフニールの様子は好転しない。

 ファフニールが戦力外となったけれど、仔猫達も銀の毛並みの方は手酷い傷を負っているようであった。美しかった白銀の毛は真っ赤に染まり、よろよろとしている。金色の輝く毛並みの仔猫が弱った同胞に寄り添う。
「解けたか……だが、もう一度楔に繋がれて貰う!」
 ビリーは再度銀色の仔猫を『緑の縛撃』で絡め取ろうとする。木の葉を嫌って仔猫が惑うが抗いきれずにまたもや動きを封じられる。
「こちらはお任せ下さい!」
 倒れたファフニールの姿に、反射的にサホは『ヒーリングウェーブ』を使っていた。水面の様にキラキラと輝く防具の更に内側から、暖かい癒しの光がサホを中心に広がっていく。それでもファフニールの様子は思わしくない。
「仔猫ちゃん、もう苦しませたくないのよ! お願い!」
 シルキーもまた再度『ガトリングアロー』を傷つき倒れそうな銀色の仔猫へと放った。けれど、矢は仔猫にかわされてしまう。
「えー!」
「ギャアアっ」
 金の猫が威嚇の声をシルキーへと立てる。
「金色のも大人しくしてくれ……」
 銀の仔猫が倒されるまで……とは言えず、フォンゼイは言葉を飲み込み『影縫いの矢』を放つ。矢は俊敏に動く金の仔猫をかろうじて捉え、背に赤い線が浮かぶ。けれど、麻痺させるまでには至らない。
「あちこち動かれると厄介なんだ。大人しくしてもらうぞ!」
 エスも再び『電刃衝』を使う。稲妻の闘気を帯びた攻撃は弱って瀕死に近い銀の仔猫を撃つがその後もよろよろと仔猫は後退する。
「麻痺っててもそうじゃなくても、やるしかないぜ! 覚悟しな!」
 ごわつく赤褐色へと色を変えた仔猫へとグリュオンは再び『パワーブレード』を放った。
「これで足止め出来たら……きっと皆さんのお役に立つと思うのですわ」
 何気なく放ったユリカの木の葉が今まさに戦場を逃げ出そうとしていたかのように耐性を低くしていた銀の仔猫を戒めた。そのままの体勢で血にまみれた銀の仔猫は動けなくなる。いつしかファフニールは戦場内から後退していた。
「フギャアアァァ!」
 動けない銀の猫は怒りの声を上げ、金の仔猫はそのユリカへと鋭い爪を繰り出す。
「きゃあああ!」
 甲高いユリカの悲鳴が里山に響く。爪の攻撃はユリカには痛打となったが、立っていられない程ではない。ビリーとサホが幻の木の葉をそれぞれの仔猫へと放ち2匹とも動けなくする。
「決めてやれ」
「そうですわね」
「……わかってる」
 シルキーの放った短い矢は2本、そして3本と続き……その全てに射抜かれて銀の仔猫は、倒れ傍らの金の仔猫に『ミギャア』と小さく鳴くと、絶命した。

 金の仔猫が倒れるのにそう時間は掛からなかった。銀の仔猫と同じように、自らの血に染まり2匹の仔猫は生まれた時も同じなら、死に行くその日も同じであった。
「……死にましたか」
 大きな傷を負ったファフニールは怒りも憎しみもない表情で倒れた敵の姿を見下ろす。
「この仔達……どうして……」
 手をあわせて祈りを捧げていたシルキーはつぶやく。淡く血の色を透かす瞳はゆらゆらと揺れて光っている。
「仕方がないのですわ。どうしてなのかわからないけれど、此処にいてはいけない命なのは明らかだったのですもの」
 素っ気なくサホは言う。その本心はわからない。
「運がなかったな……そういう命、だったのさ」
 新しい煙草に火をつけ、ビリーはちょっと辛そうな顔で紫煙を吐き出した。2人とも冷たい事を言っているが、それが現実であった。
「並べて墓でも作ってやるか」
 深く優しい眼差しで2匹を見ていたフォンゼイは急に思い立ったかの様に言う。
「手伝おう。オレもあまり後味の良いモンじゃなかったからな」
 衣服の汚れを払い、エスは道具を求めて歩き出す。
「俺も手伝うぜ。せめて花の1つも手向けてやりたいからな」
 座り込んでいたグリュオンもそうと決まれば身軽に立ち上る。
「花でしたら私が摘んで来ますから、どうか皆さんは仔猫達を……」
 里山の奥へとユリカは歩き出す。大きな2つの土饅頭が出来上がる頃、ユリカも両手一杯の花を摘んで戻ってきた。どれも素朴な野の花だ。感傷かもしれないが、冒険者達は己が倒した獣の亡骸に手を合わせ、花を手向けた。

 夏の里山には久しぶりに静けさが戻った。


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