温泉アヒル漂流記 アヒルちゃんを迎えに



<オープニング>


●温泉アヒル漂流記
 命の輝きに満ちた夏の陽射しを受けて、樹々は大きく広げた梢に艶やかな濃緑の葉を茂らせる。
 天蓋を織り成す梢の下には色濃い影。枝葉の合間からは強い陽射しが射し込んで、眩い光と鮮やかな影が揺れる夏特有の空間を生み出していた。辺りに満ちるのは意識の芯を蕩かすような太陽と緑の匂い。けれど流れる風には濃い潮の香りと水の気配が感じられる。ふと足元に瞳を向ければ、乾ききった枯葉色の土がいつの間にやら白い砂へと変わっていた。
 靴を脱ぎ素足でそっと触れてみれば、肌理細かな砂は冷たくさらりと心地好い。
 浮き立つ心のままに砂を蹴り、色濃い影と樹々の合間を抜ければ――。
 木立の先には、眩い光に満ちた世界が広がっていた。

 鮮やかに澄み渡る真っ青な空には真白に輝く雲が渡り、雲の影落ちる地には明るい青や碧に透きとおる硝子が溶け込んだような海が何処までも続いている。透きとおる波が打ち寄せるのは、美しい弧を描いて広がる白い砂浜だ。
 陽射しに輝く砂が足裏を灼くのにも構わず駆け出せば、波打ち際で白く砕けた冷たい波が優しく足を洗っていく。見遣れば真白な砂は透きとおる海の中まで続いていて、ところどころで明るい萌黄色に透きとおる小さな海草が揺れる様まで見えた。
 真白な砂地に青く透きとおる光を揺らめかせ、海は限りなく淡い水色から碧に浅葱、薄藍から青へと色を変え、紺碧への大海へと続いていく。そして遥か彼方で空と交わる水平線の彼方から――。

「数日後に、あるものが流れてきますの」

 居合わせた冒険者達を手招きし、鮮やかな薔薇色に咲くナスタチウムを飾ったマンゴーミルクを勧めながら、藍深き霊査士・テフィン(a90155)は何処か悪戯っぽく微笑んだ。

●アヒルちゃんを迎えに
 薔薇色のナスタチウムを揺らし、冷たいマンゴーミルクをひとくち。
 僅かな間を置いてテフィンが取り出して見せたのは、実に可愛らしいアヒルちゃんであった。
 黄色くて丸っこくて、つぶらな瞳をした、アヒルの人形。
 一部地域ではお風呂に浮かべて遊ぶ風習があるという――あのアヒルちゃんである。
 手のひらサイズのアヒルちゃんを実際に掌上に乗せ、テフィンは大層嬉しげに説明を開始した。
「実はこのアヒルちゃん、只のアヒルちゃんではありませんの。ある遠方の島に伝わる伝統の技法と、その島でしか採れない材料で作られた……最高級の、アヒルちゃん」
 成る程。よくよく見れてみれば、愛らしいフォルムの端々に計算しつくされた熟練職人の技が見て取れないこともない。丸っこい胸というかお腹は勇敢に水を掻き分け進むのに適しているし、平べったい底部は水上での安定性に秀でていそうな気がする。愛らしいお尻やつんと反り返った小さな尾羽は、背後から来る波の力をほぼ100%推進力に変換することが可能な優れものなのだろう。
 そして、見るからに耐水性に優れ、充分な耐久性かつ柔軟性を備えたその素材は、そんじょそこらではなかなか々お目にかかれる代物ではない――ような気がしてきた。
「ある日、大陸の温泉地からアヒルちゃんの大量注文が入ったのが、事の起こりでしたの」
 テフィンの説明は続く。
「島の職人様方が総出でアヒルちゃん作りに励むこと一ヶ月。ようやく完成した大量のアヒルちゃんを船に積み込んで、さあ翌朝に船出……というところで、島が嵐に襲われてしまって」
 幸い島の人々や家屋に被害は出なかったが、アヒルちゃんを積み込んだ船は大破。
 精魂込めて作り上げられたつやつやぴかぴか最高級のアヒルちゃんは、全て嵐の海に投げ出されてしまったのだという。哀れアヒルちゃんは皆海の藻屑となった、と思われていたのだが。
「そこは流石の最高級……。アヒルちゃん達は見事嵐を乗り越え、一羽たりとも欠けることなく、数日後にはある浜辺へと流れ着くことがわかりましたの。それが……最初にお話した、浜辺」
 件の島と浜辺は相当離れており、方向も見当違いなのだが、海流の関係でそうなるらしい。
 海は広大で、とても不思議ですのね、とテフィンは瞳を細めた。
「で、島の方々から、冒険者様にアヒルちゃんの回収をお願いできないかと相談を受けていますの。冒険者様方なら勝手にアヒルちゃんを持ち帰ったりしない、と御信頼頂いてますのね。お土産に一人一羽ずつアヒルちゃんを下さるということですし、もし良ければ、御一緒しません?」
 滅多に人の来ない場所だと言うから、当日の浜辺は冒険者だけ。
 流れて来るアヒルちゃんと波間で戯れるのも楽しいし、透きとおった海の中に潜ってみるのも素敵だろう。砂浜の木陰でのんびりトロピカルジュースを味わうのも幸せだろうし、黒眼鏡をかけたり麦藁帽子を被っているというレアアヒルちゃんを探してみるのも面白そうだ。勿論見つけることができたらそれをお土産に貰うこともできる。
 アヒルちゃん達を運んでくる、大いなる海の呼吸に思いを馳せるのも良いだろう。
「何よりも……水平線の彼方から、数え切れないほど大量のアヒルちゃんが流れて来る光景なんて、滅多にお目にかかれませんもの。だから」
 アヒルちゃんを迎えに……行きましょう?
 柔らかな声音で誘いを向けて、テフィンは幸せそうに笑みを綻ばせた。


マスター:藍鳶カナン 紹介ページ
こんにちは、藍鳶カナンです。
綺麗な海に面した白い砂浜へ遊びに行きましょう。
沖からは大量のアヒルちゃんが流れてきます。

【楽しみ方の例】
・海の彼方から流れて来るアヒルちゃんに感動する。
・流れて来るアヒルちゃんを集める。
・アヒルちゃん達と波間で戯れる。
・レアアヒルちゃんを探してみる。
・普通に海で水遊びをする。
・砂浜の木陰でトロピカルドリンクを楽しむ。
・雄大な大海原へ思いを馳せる。
・「嵐を乗り越えたアヒルちゃんはサメの大群と戦ってこれを撃退し、イルカの親子との間に熱い友情を〜」といった壮大なアヒルちゃん物語を捏造、もとい、想像してみる。

こんな感じで、色々な楽しみ方があると思います。
常識の範囲内でお好みのままにお過ごし下さいませ。
リプレイではお一人様につき一場面のみの描写となります。やりたいことを絞り込んだプレイングを推奨させて頂きますね。

【NPC】
テフィン、ボギー、アデイラがおります。
色々なトロピカルドリンクや軽食を用意させて頂きますね。何かありましたら、プレイングでお声をかけてやって下さい。

【お土産】
後日アヒルちゃんをお届け予定です。
レアアヒルちゃんを入手した、と判定された方へは、レアアヒルちゃんをお届けします。

★注意書き★
・未成年の方(外見年齢が未成年の方含む)の飲酒喫煙行為は描写しません。

・迷惑行為を行う、著しく雰囲気を損なう等のプレイングをかけられた場合、行動未遂で退去させられたと判定し、描写なしとさせて頂きます。

・一緒に行動する方がいる場合、【プレイングの最初】に相手のお名前(愛称・略称でない、正確なお名前をお願い致します)とIDを記載して下さい。


それでは、皆様のご参加をお待ちしております。

参加者
NPC:藍深き霊査士・テフィン(a90155)



<リプレイ>

●アヒルちゃんを迎えに
 世界を鮮やかに満たす色は決して単調な物ではない。
 磨いた硝子よりも透きとおる青や碧が溶け合い揺らめく海には眩い陽射しと雲の影が落ちて、渚に不思議な色合いの変化を齎している。白い砂浜に波寄せる海の色はただのひとときも定まらなくて、その揺らぎと煌きにメロスは眩しげに瞳を細めた。
 涼やかな風が心地好い木陰は真白な砂を限りなく淡い藍白に染める。濃緑の梢から降る木漏れ日は透明な水滴を纏ったグラスに触れて、硝子の中に揺れる果実水を桜真珠の色に煌かせた。
「ピンクグレープフルーツとライチを搾った、自信作。綺麗でしょう?」
「……うん、綺麗」
 深くて綺麗なメロス様に、と曇りのない笑顔で藍深き霊査士・テフィン(a90155)が差し出す杯を受け取って、乾杯と透きとおる音を響かせ笑う。綺麗だと思う心こそが、きっと綺麗。
 光は透きとおるものだから、全ての光を纏って輝く色はやっぱり貴女そのものの色。迷いなく紡がれるそんな言葉が擽ったくて、照れを誤魔化すように冷たい果実水を呷れば、遥かな海の彼方から明るい黄色の何かが見えてきた。行きましょうと声を弾ませるテフィンにくすりと笑んで、行きますかと涼しい木陰から腰を上げる。彼女には何時だって、世界が新しく鮮やかに感じられるのだろう。
 深い紺碧に煌く海の涯て、空と交わり光の条を成す水平線に覗いた黄色は、たちまち膨れ上がって巨大な黄のかたまりとなった。海面に広げた大きな黄色の旗を思わせるそれは波のうねりに乗って、徐々に徐々に砂浜へと近づいてくる。紺碧に透きとおる大波がざんと音を立てて砕ければ、きらきらと空に散る水飛沫の中で――数え切れないほどのアヒルちゃんが宙に舞った。
「残らずお迎えしなくては!」
 勇敢なるアヒルちゃん大艦隊の到着に瞳を輝かせ、防水マントを引っつかんだロティオンが波間へと駆けていく。陽に輝く熱い砂が裸の足の裏を灼いたけれど、透きとおる波に洗われればそれすらも心地好い。打ち寄せる波に乗って華麗にくるくる回りながらやってきたアヒルちゃん達を拾い、波打ち際に広げたマントの上に集めていった。
 小山のように積み上げたアヒルちゃん達に埋もれたロティオンが至福の表情でアヒルちゃん達を抱きしめる。その様をちょっぴり羨ましく思いつつ、負けないなのよ〜とシャノは思いっきり波の中へ飛び込んだ。透きとおる水色の波は眩い光と共に揺れ、自身もゆらゆら揺れながら、周りのアヒルちゃん達を両腕いっぱいに集めていく。
 見つけたなの〜と少女が朱のメッシュ入りのレアアヒルちゃんを嬉しげに掲げる様を微笑ましく見遣り、強い陽射しに瞳を細めたエステルは大きな傘を差したまま波打ち際に屈みこんだ。足元にころんと転がってきたアヒルちゃんは、萌黄色の海草をマフラーのように巻きつけている。これじゃ暑いだろと海草を取ってやり、エステルは口元を綻ばせた。
「……良くここまで来たね」
 虹色に煌く水着を纏って渚に突撃すれば、淡い碧に透きとおった大波に襲いかかられる。
 何羽ものアヒルちゃんと一緒に柔らかな光の揺らめく海の中に沈んだグリュエルは、明るい水色の世界でやはり波に呑まれたらしい霊査士の姿を見た。
「テフィンもこういうの好きなのか?」
「ええ。とても……とても好き」
 水面に顔を出して訊けばそう答えられ、顔を見合わせ笑い合う。その拍子に再び波に呑まれて、海水とアヒルちゃんに揉みくちゃにされつつ弾けるような笑みを交わした。
 麦藁アヒルちゃんだ! と聴こえてきた声にシュウは対抗意識を掻き立てられて、燦然と降りそそぐ夏の陽射しの下で気合と共に己の麦藁帽子を被り直す。
「アヒルちゃんカーネルがあたいの事を待っているに違いないね!」
「違いないのですよ!」
 飴ちゃん三つでお手軽に買収したボギーを従えて、無数のアヒルちゃん軍団漂う波間へざぶざぶ分け入った。彼らが荒れ狂う大海の波濤を乗り越えここまで辿り着けたのは、名指揮官として名を馳せたアヒルちゃんカーネルの導きがあったからに違いない!
 とか何とか思いを馳せていると、薄藍の波に揺れる不思議なアヒルちゃんが目についた。
 偉そうな軍帽に、立派な金モールの肩章をつけた威風堂々たるアヒルちゃん。
「それだ!」
「いえっさー!」
 保護命令を受けたボギーがアヒルちゃんカーネルに手を伸ばす。すると――
『諸君、出迎えご苦労!』
「ぎゃー!? シュウさんシュウさんアヒルちゃんカーネルがタスクリーダーをー!!」
「もじゃー!?」
 仰天した二人がアヒルちゃんカーネルの能力に慄いていると、こぽりと泡立った海面が突如ざばあと盛り上がり、波の下からテルミエールが顔を出した。
「どう? なかなか名演技だったでしょ」
 名演技すぎた。

●アヒルちゃんを掬いに
 真っ青な空から降る夏の陽射しに、燦然と輝く鼻眼鏡とほっかむり。
「どうしようユユたん……」
「どうしようカルアちゃん……」
 二人が調えた格式高い掬い行事の正礼装は、青い海と真白な砂浜では思いっきり浮いていた。
 だが何故か霊査士には大ウケで、彼女の声援を受けつつアヒルちゃんを掬いまくった二人は、木陰でアヒルちゃん達に埋もれながらひとときの休憩に入る。日陰の冷たい砂に寝そべり、波の音に耳を傾けて、ユユは幾度も外海へ冒険に出たカルアの顔を見上げてみた。
「ねぇカルアちゃん、東や北の海にもアヒルちゃんは居たのかな?」
「ああ、東にも北にも居たともさ」
 霧覆われた東の魔海でも、雪閉ざされた北の氷海でも、世界に羽ばたくアヒルちゃん達は過酷な試練を潜り抜けてきた。波頭逆巻く大海を幾度彼らと共に併走してきたことか……!
 かつてサンダース号に乗り込み、そしてコルドフリード探索隊の一員として氷の大陸に足跡を記してきた彼の口から、今、秘められた真実が語られる――ということにしておこう。
 彼の言葉にそっかぁと呟いて、お日様色のアヒルちゃんを夏の陽に透かし見る。
「ユユもカルアちゃんが戦っている場所に駆け付けたかったなぁ……」
 波を掻き分け嵐をも越えてきた、このアヒルちゃん達のように。
 鮮やかな夏空の下には何処までも透きとおる海が広がって、明るい青と碧に揺らめく波間に無数のアヒルちゃんがぷかぷかと浮かぶ。空の色も海の色もアヒルちゃんの色も、何もかもが鮮やかで、「わ、わ、壮観だね!」とレフィは声を弾ませた。波に乗り打ち寄せてくるアヒルちゃん達を麦藁帽子で掬い、誰かのクマに挨拶させたら面白いかなとくすくす笑う。
「お、ちょっとそこのキミ、そのお尻ぷりぷりでイかしてるねえ。ぼくんちの子にならないかな?」
 いるかさん浮き輪に掴まったキオが黄色いお尻をつんつんつついてみれば、くるりと回ったアヒルちゃんは大きな波ごと彼に向かって突撃してくる。うわあという叫びと共に波に呑まれ、浮き上がってみればキオの頭の上に確りアヒルちゃんが収まっていた。
 つぶらな瞳に、可憐にして無駄のない美しい身体の曲線。
 そして眩いほどに健康的な黄色に、極めて優れた柔軟性と耐久性。
「確かにこれは素晴らしい逸品だ……!」
 最高級アヒルちゃんの姿に感極まったように全身を震わせて、クィンクラウドは波間のアヒルちゃん達の中へ思いっきりダイブする。右を向いても左を向いてもアヒル、アヒル、アヒル。今までずっとアヒルちゃんを買わずにいたのはここで運命のアヒルちゃんに出会う為だったに違いない!
 蕩けるように笑み崩れた金髪の青年が、波間から現れた王冠つきアヒルちゃんにひれ伏した。
 やけにテンション高いそんな光景は見なかったことにして、ワスプはすちゃりと構えた遠眼鏡を沖へ向ける。紺碧の波間でひときわ深い瑠璃色の流れに乗ってやってくる黄色の一団に目を留めて、鮮烈な陽射しと強烈な照り返しを凌ぐための黒眼鏡をかけた。
 狙いはやはり黒眼鏡をかけたクールなアヒルちゃん!
 真面目に回収作業に励めばきっとお天道様が味方してくれるはず、とワスプはアヒルちゃんの一団目指して泳ぎ始めた。
 こいつぁクールだ! と感嘆の声を上げた青年が黒眼鏡アヒルちゃんと見詰め合っている様を目にして、フワリン浮輪で波間に漂っていたエルスは小さな拳をぐっと握る。頑張りますのと意気込む義妹の頭を麦藁帽子ごしに撫でてやり、ラナンは人の少ない方を探してみるかと辺りを見回した。
 だが少しじっとしているだけでもあっと言う間に、波に乗って流れて来るアヒルちゃん達に囲まれてしまう。アヒルちゃんに埋もれたエルスは両腕いっぱいに彼らを抱きしめて、冷たくてぷにぷにですの〜と幸せそうに顔を綻ばせた。
「夏の大嵐を乗り越えてくるくらいだから、きっと歴戦の猛者なんだよ!」
「確り保護しなきゃいけないなぁ〜ん!」
 太くて凛々しい真直ぐな眉毛をしたアヒルちゃんがいるはず、おなかを押したら「がぁ〜ん」って重々しい声で鳴くはずなぁ〜ん、と意気込みたっぷりに語り合いながら、ミルッヒとヴィカルも明るい碧に透きとおる波間へと飛び込んだ。きっと仲間を庇った名誉の負傷があるんだよとミルッヒが振り返れば、一羽のアヒルちゃんを手にしたヴィカルが驚愕の声を上げる。
「血が付いてるアヒルちゃんなぁ〜ん!」
「ええっ!?」
 洗ってくるなぁ〜んと波の下に潜ってみれば、赤い物は血でなく海草だった。
 明るい青玉と翠玉を溶かした光が揺れる水中を、深い紅に透きとおる海草がゆらゆらと漂っていく。
 透明な硝子や宝石がそのまま水になったような波が揺らめく中を、眩い黄色に照り映えるアヒルちゃん達が水面に浮かんだり沈んだりしながら流れて来る。
 ぷりてぃなのなぁ〜んとうきうき尻尾を揺らしたジョージィは、大きな籠にたっぷり集めたアヒルちゃん達を丁寧に洗って砂浜に並べてみた。真白に輝く砂の上にずらりと並ぶ彼らも可愛らしい。
 乾杯なぁ〜んと冷たい麦酒を呷り、穏やかな潮風の吹く木陰に寝そべった。
 世界の波に揉まれ続ける冒険者にも、偶にはのんびり過ごす時間が必要だ。

●アヒルちゃんと遊びに
 夏の眩さをぎゅっと凝縮したような青空は何処までも鮮烈だけど、天頂の青よりも遥か彼方で水平線に触れる青の方が幾らか穏やかだ。流れる雲は真白に輝くけれど、淡くたなびく薄雲は空に透けてほんのり明るい水の色を滲ませている。
 遥か水平線を眺めていたレーダは、こつりと足にぶつかってきたアヒルちゃんを拾い上げた。
 彼こそはきっと、勇者アヒルちゃん。
 巡りあった海月と種を越えた愛を育みながらも、運命の(というか文字通り)波に翻弄され、異なる海流に引き裂かれてしまったりもしたのだろう。もしかすると、旅疲れによる些細な意見の食い違いからアヒル艦隊分裂という危機が訪れたこともあったかも。
「数々の苦難を乗り越え、旅を全うした勇者アヒルちゃんは……本当に凄いな……!」
 読みかけの書物片手に、レーダは感動に打ち震えた。
 透きとおる波の下は明るい青と碧を帯びた光の世界。
 海底の白砂に揺らめく光の波紋の中を行き交う影はアヒルちゃんの物。
 見上げてみれば光眩い水面に愛らしいアヒルちゃんヒップがたくさん揺れていて、思わずわあと声を洩らしたアーケィはそのまま肺の空気を吐き出してしまう。気がつけば浜辺に打ち上げられていて、冷たい何かを頬にくっつけられていた。
「オレンジとパイナップル果汁を、ヨーグルトソーダで割ってみましたの」
 楽しげに微笑んだテフィンが、水滴纏う硝子杯を揺らしてみせた。
 露先の硝子が虹色に煌く日傘をくるりと回せば、零れた光がソーダの気泡をきらりと輝かせる。
 弾ける甘酸っぱい香りに誘われ杯を呷れば、オレンジとパイナップルにヨーグルトの爽やかな甘味と酸味が口の中いっぱいに広がった。おいしーと破顔するニッチに、こちらのマンゴーアイスティーも美味しゅうございますよと穏やかに瞳を緩めたエディンムが己の杯を掲げてみせる。
 鮮やかな夏の日に冷たい杯を呷る贅沢を満喫していると、目の前にアヒルちゃんが転がってきた。二人は顔を見合わせて、はぐれアヒルちゃんの救出へと向かう。
 明るく光を反射する澄んだ波打ち際に、鮮やかな黄色のアヒルちゃんが群れ集う。
「……なかなか見れない光景だな、これは」
 透きとおる波に足を浸しながら辺りを見回して、ヒルトは微かに口元を綻ばせた。
 見ればロイナは大はしゃぎで波間に揉まれている。アヒルちゃんを集めているのかアヒルちゃんと遊んでいるのか解らない義理の娘の様子に小さく苦笑が洩れた。
 可愛い〜と歓喜に満ちた声を上げながら、ロイナは心弾ませながら黄色くて丸っこいアヒルちゃん達をたくさん腕に抱えていく。レアアヒルちゃんが見つかれば素敵だとは思うけれど、レアでなくてもどれもこれも素晴らしく可愛らしかった。
 軽やかな白のスカートの裾をきゅっと括り、ハナが薄藍の波間へと飛び込んでいく。
 御一緒にと弾んだ声で呼ばれたシエスタも裸足で砂を踏みつつ波の中へと分け入って、穏やかに寄せる波が足を洗う感覚に小さな笑みを零した。
 漂うアヒルちゃんをそっと掬い上げれば、傍らでは十羽ほどを一纏めにしたハナがえいと勢いよくアヒルちゃん達を抱き上げる。零れた水滴が潮風にきらきらと輝いて、ふわりと流れる風に純白レースのリボンが柔らかに踊った。
 何だか胸の奥が擽ったくて「ふふ」と笑えば、釣られたようにハナも満面の笑みを見せる。
 頑張ったあとは冷たい物を頂きましょうと優しくシエスタが髪を撫でてやれば、確り頑張りますよっとハナが元気よく頷いた。
 見たこともなく、名前すらも聞いたことのない遠い島。
 遥か彼方の島からこのアヒルちゃん達が流れて来たのだと思えば何だか不思議で、フェアは浪漫ですわねぇとうっとり吐息を洩らした。
 ほのかに冷たく、けれど優しい波に手を浸し、流れ寄るアヒルちゃんを一羽ずつ掬い上げていく。
 島の職人が一羽一羽手作りしたものなのだから、どのアヒルちゃんだって世界にただ一羽だけのアヒルちゃんだ。
 皆とても可愛いと笑みを零せば、片目を瞑った愛嬌のあるアヒルちゃんと目が合った。
 帰ったらすぐにお風呂を沸かして、このアヒルちゃんを浮かべてみよう。

 足元に寄せる波は殆ど無色透明だ。
 けれど瞳を移せば、淡い水色から碧に浅葱に薄藍から青、そして紺碧へと色を変えていく。
 涯てなき海は彼方で空と交わっていて、これまで海に縁のなかったソウェルは感嘆の息をついた。
 透きとおる波が足を洗い、足の下の細かな砂が浚われていく。
 不思議な感触に瞳を瞬かせれば、足元に一羽のアヒルちゃんが流れてきた。
 艶々した丸い胸をそっと撫で、お疲れ様と藍玉の飾りがついたリボンを首に巻いてやる。
 このアヒルちゃんは水のお守りだ。

 いつか貴方みたいに、この大海原を泳いでみせるから。


マスター:藍鳶カナン 紹介ページ
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参加者:31人
作成日:2008/08/03
得票数:ほのぼの22 
冒険結果:成功!
重傷者:なし
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